表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帰る場所~光の指す方へ  作者: リンダ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/51

臭いって言うな

第二十四話


「臭いって言うな」


 テレビの中では、子役タレントが笑っていた。


 明るいスタジオ。

 拍手。

 司会者の笑い声。

 きれいな服。

 整えられた髪。


 和正はそれをぼんやり見ていた。


 そして、ふと美香を見た。


「お前も、ああいう子役タレントみたいに稼いでこいや」


 美香は顔を上げた。


「え……」


「ほんと役に立たんな。金食い虫が」


 香織は台所に立ったまま、何も言わなかった。


 何も言ってくれなかった。


 その沈黙が、美香には一番痛かった。


「父ちゃん……」


「なんや」


「私、そんな……」


「口答えするな」


 美香の目に涙が浮かんだ。


 その瞬間、和正の顔がさらに歪んだ。


「役立たずが泣くな」


 美香は息を止めた。


「役に立たんのなら、消えたらええやろ」


 部屋が凍った。


 香織は振り向いたが、何も言わなかった。


 美香はもう、わかってしまった。


 父は助けてくれない。

 母も助けてくれない。

 自分は、この家では守られない。


 翌日、学校でも地獄は続いた。


 教室に入った瞬間、誰かが鼻を押さえた。


「また臭い」


「近く来んで」


「制服も汚いし」


 美香は黙って席についた。


 言い返す力は、もう残っていなかった。


 家では金食い虫。

 学校では臭い子。


 どこにも、美香という名前で呼んでくれる場所がなかった。


 給食の時間、美香は箸を持ったまま動けなかった。


 食べたい。

 でも、食べるとまた言われる。


「黒木さん、食べるのだけは早いよね」


 笑い声。


 美香は、ゆっくりご飯を口に入れた。


 味がしなかった。


 放課後、担任の先生が美香の机に近づいた。


「黒木さん、少し話せる?」


 美香はすぐに首を振った。


「大丈夫です」


「でも、今日……」


「大丈夫です」


 その声は、ひどく小さかった。


 先生はそれ以上、その場では聞かなかった。


 けれど、美香の目が完全に光を失い始めていることに気づいていた。


 その夜、美香は布団の中で声を殺して泣いた。


 泣いても、誰も来ない。


 来ても、怒られるだけ。


 だから、枕に顔を押しつけた。


 私は、いない方がいいのかな。


 そう思った瞬間、美香は自分で自分が怖くなった。


 でも、その考えは消えなかった。


 和正の言葉が、耳に残っていた。


 金食い虫。

 役立たず。

 消えたらいい。


 美香は震えながら、布団を頭までかぶった。


 外では、車が通り過ぎる音がした。


 かつて父のトラックの助手席で聞いた音に、少し似ていた。


 あの頃、父は言った。


 安全第一。


 事故したら、大事なものが壊れる。


 でも今、美香は思った。


 もう、大事なものは壊れている。


 そう思ってしまうほど、彼女の心は追い詰められていた。



次回予告


 父から投げつけられた「金食い虫」という言葉。


 母の沈黙。


 学校での「臭い」という嘲笑。


 美香の中で、自分の存在そのものへの疑いが膨らんでいく。


 だが、担任は美香の異変を見逃していなかった。


 次回、第二十五話

 「給食だけが楽しみ」


 温かい食事だけが、かろうじて美香を今日につなぎ止めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ