大おばちゃんとは呼ばせない
第6話「大おばちゃんとは呼ばせない」
2062年10月。
わずか四日の間に誕生した、綾菜と慶太郎。
美香とアキラは、じいじとばあばになった。
優馬と美鈴は、ひいじいちゃんとひいばあちゃんになった。
そして、このニュースが小倉家周辺だけで静かに収まるはずがない。
何しろ親戚が多い。
しかも、その親戚がことごとく騒がしい。
まず情報が伝わったのは、光子の子どもたち。
青柳陽翔。
青柳燈真。
青柳彩羽。
そして優子の子どもたち。
柳川結音。
柳川灯乃。
柳川悠翔。
グループ通話が始まった瞬間から、すでに収拾がつかなかった。
「ちょっと待って!」
結音の声が響く。
「春介お兄ちゃんと春海お姉ちゃん、二人とも赤ちゃん生まれたと!?」
光子が答える。
「そうたい。四日違い」
陽翔が目を丸くする。
「四日!?」
燈真。
「近っ!」
灯乃。
「ほぼ同時やん!」
悠翔が指折り数える。
「10月1日が綾菜ちゃんで、10月5日が慶太郎君?」
「そう」
彩羽が笑顔になる。
「めっちゃかわいいやろうね」
美香がスマートフォン越しに言った。
「かわいいよ」
その声。
完全にばあばだった。
結音がニヤリとする。
「美香お姉ちゃん」
「何?」
「もう完全にばあばの声になっとる」
「ばあばの声って何よ!」
灯乃。
「孫の写真見せながら『かわいいやろ〜』って言う声」
「だってかわいいんやもん!」
陽翔が笑う。
「認めた」
「何を!」
アキラが隣から写真を出す。
「これが綾菜」
「うわぁ!」
一斉に歓声。
「ちっちゃ!」
「かわいい!」
「春介お兄ちゃんに似とる?」
「穂乃果さんにも似とる!」
次の写真。
「こっちが慶太郎」
再び大歓声。
「かわいい!」
「春海お姉ちゃんの赤ちゃん!」
「水湊お兄ちゃんにも似とる!」
美香は満足そうに頷く。
「やろ?」
結音。
「ばあば全開」
「結音!」
笑い声が広がった。
だが。
ここで陽翔が重要な問題に気づいた。
「待って」
「何?」
「俺たちから見たら、綾菜ちゃんと慶太郎君って……」
全員が考える。
燈真。
「親戚」
彩羽。
「それは分かる」
悠翔。
「かなり近い親戚」
灯乃。
「説明が雑」
結音がスマートフォンで調べ始める。
「ちょっと待って……」
数秒。
「なるほど」
「何?」
結音が顔を上げた。
「うちら、綾菜ちゃんと慶太郎君から見たら、おじさんとかおばさん側になるやん」
六人。
「…………」
沈黙。
光子が吹き出した。
「ようこそ」
優子も笑う。
「こちら側へ」
彩羽。
「嫌ぁぁぁ!」
燈真。
「まだ若い!」
陽翔。
「俺、おじさんって呼ばれると!?」
悠翔。
「俺も!?」
灯乃。
「待って、うちもおばちゃん!?」
結音。
「年齢じゃなくて続柄の問題!」
美香は腹を抱えて笑っている。
「歴史は繰り返すねぇ」
陽翔。
「美香お姉ちゃん、楽しんどるやろ!」
「めっちゃ楽しい」
そこへ光子が割り込む。
「でも最大の問題はそこじゃなか」
優子も真顔になる。
「そう」
六人。
「?」
光子。
「うちら」
優子。
「綾菜ちゃんと慶太郎君から見たら……」
二人は顔を見合わせた。
「大おばちゃん」
沈黙。
五秒。
光子。
「絶対嫌ぁぁぁぁ!」
優子。
「認めん!」
美香、大爆笑。
「続柄やけん仕方ないやろ!」
光子は画面に向かって訴える。
「綾菜ちゃん! 聞こえる!?」
美香。
「まだ赤ちゃんよ!」
「光子お姉ちゃんって呼んでね!」
優子も続く。
「優子お姉ちゃんよ!」
美香。
「無理がある!」
光子。
「何が!」
「大おばちゃんがお姉ちゃん要求するところ!」
「美香お姉ちゃん!」
優子。
「自分がばあばになったからって急に強気!」
「うちは受け入れたもん!」
美香は胸を張る。
「ばあばです!」
アキラが拍手する。
「素晴らしい」
美香。
「じいじもです!」
「はい」
光子。
「潔すぎる!」
優子。
「うちらだけ取り残された!」
その時。
陽翔がニヤリとする。
「じゃあ、俺らも先に教育しとこうか」
燈真。
「賛成」
彩羽。
「何を?」
陽翔。
「綾菜ちゃんと慶太郎君がしゃべれるようになったら」
一拍置いて。
「光子大おばちゃん」
燈真。
「優子大おばちゃん」
光子と優子。
「やめろぉぉぉ!」
大爆笑。
結音も乗る。
「練習用音声作っとく?」
灯乃。
「毎日聞かせる?」
悠翔。
「英才教育」
優子。
「何の英才教育よ!」
彩羽。
「大おばちゃん認識教育」
光子。
「彩羽まで!」
アキラは完全に笑い崩れていた。
美香も涙を拭いている。
「お腹痛い……」
結音。
「美香お姉ちゃん、整骨院行き?」
「原因あんたらやろ!」
もはや妊娠報告でも出産報告でもない。
親族総出のお笑いライブだった。
しかし、ひとしきり笑ったあと。
陽翔が写真をもう一度見る。
「でもさ」
「ん?」
「ほんと、すごいよね」
美香が聞く。
「何が?」
「春介お兄ちゃんと春海お姉ちゃんが親になったこと」
空気が少し変わった。
結音も頷く。
「うちら、小さい頃から二人のこと知っとるもんね」
彩羽。
「双春でずっとふざけとったのに」
灯乃。
「それは今も変わらんと思う」
「確かに」
また小さな笑いが起こる。
悠翔が言った。
「でも今度は、自分たちが子どもを守る側になるんやね」
美香は静かに頷いた。
「そうやね」
美香は綾菜を抱いた時のことを思い出した。
慶太郎を抱いた時のことも。
「春介と春海が生まれた時ね」
六人が美香を見る。
「うちは、この子たちには自分が味わった苦しみを絶対味わわせたくないって思った」
誰も茶化さなかった。
「それだけはずっと思って育ててきた」
アキラが隣で聞いている。
「でも今度は、春介と春海が自分の子どもに帰る場所を作る番になったんやね」
結音が小さく頷いた。
「なんか、いいね」
「うん」
美香は笑った。
「だから、うちはもう十分幸せ」
その言葉に光子と優子も微笑んだ。
しかし。
数秒後。
燈真。
「で、大おばちゃん問題は?」
光子。
「蒸し返すな!」
優子。
「感動返して!」
陽翔。
「綾菜ちゃん、練習しようね。み・つ・こ・お・お・お・ば・ちゃーん」
光子。
「陽翔ぉぉぉ!」
結音。
「慶太郎君はこっち。ゆ・う・こ・お・お・お・ば・ちゃーん」
優子。
「結音んんん!」
再び大爆笑。
こうして綾菜と慶太郎の誕生は、青柳家と柳川家まで巻き込み、完全なお祭り騒ぎとなった。
そして誰もまだ知らない。
数年後。
綾菜と慶太郎が本当に言葉を覚えた時。
光子と優子にとって、かつて春介と春海から「おばちゃん」と呼ばれ続けた悪夢を超える、新たな戦いが始まることを。
第6話 終
次回予告
綾菜と慶太郎が生まれて数か月。
美香とアキラの自宅には、二人の孫が遊びに来るようになる。
ミルク。
おむつ。
抱っこ。
昼寝。
久しぶりの赤ちゃん育児に、美香とアキラの記憶が次々と蘇る。
そして美香がピアノを弾くと、綾菜がじっと鍵盤を見つめる。
一方、慶太郎はアキラのトランペットの音に驚くどころか、なぜか大喜び。
音楽家一家の血は、早くも騒ぎ始めていた。
次回、第7話
「ばあばのピアノ、じいじのラッパ」




