受け継がれる笑い
第百十七話
「受け継がれる笑い」
春介と春海が生まれてから一年半。
二人は元気いっぱいに成長していた。
よく食べる。
よく寝る。
そして――
よく笑う。
それは、美香にとって何より嬉しいことだった。
ある休日。
赤嶺家には、いつものように小倉家の面々が集まっていた。
リビングでは春介と春海が、よちよち歩きながら遊んでいる。
光子と優子は中学二年生。
学校帰りに寄るのが、すっかり習慣になっていた。
光子が床に寝転がる。
「春介〜!」
春介が嬉しそうに近づいてくる。
優子も手を広げる。
「春海〜!」
春海もにこにこしながら歩いてくる。
美香は微笑んだ。
「今日は機嫌よかね」
アキラも頷く。
「うん」
その時だった。
春介が光子を見上げる。
「おばちゃーん」
部屋が静まり返った。
光子が固まる。
「……え?」
春海が優子を指差す。
「おばちゃん!」
優子も固まる。
「え?」
再び。
春介。
「おばちゃん!」
春海。
「おばちゃん!」
優馬が吹き出した。
「ぶはっ!」
美鈴も肩を震わせる。
アキラが壁を向く。
美香は口を押さえている。
光子が慌ててしゃがみ込んだ。
「いやいやいやいや!」
春介がきょとん。
光子は真剣な顔で言う。
「うちらまだ花の中学生よ?」
春介。
「おばちゃん!」
光子。
「聞いて!」
優子も参戦する。
「今が一番可愛い盛りたい!」
春海。
「おばちゃん!」
優子。
「だから違うって!」
安三郎が大笑いする。
「はっはっは!」
静子は涙を流している。
「可愛か〜!」
光子は必死だった。
「春介、お姉ちゃん!」
春介。
「おばちゃん!」
優子。
「春海、お姉ちゃん!」
春海。
「おばちゃん!」
優子は天井を見上げた。
「終わった……」
優馬が腹を抱える。
「認定されたな」
美鈴も笑いながら言う。
「正式に」
光子が反論する。
「不当判決たい!」
春海は満面の笑顔で追い打ち。
「おばちゃん!」
部屋中が爆笑に包まれた。
数日後。
ファイブピーチ★のリハーサル。
光子が愚痴っていた。
「納得いかん」
奏太が苦笑する。
「まだ言ってる」
小春も笑う。
「ショックだったんですね」
優子が腕を組む。
「うちら、中学生よ?」
由梨奈が真顔で言う。
「でも立場的には叔母ですよね」
二人同時。
「それはそう!」
由梨奈。
「じゃあ、おばちゃんで合ってる」
光子と優子。
「ぐぬぬ……」
その頃。
赤嶺家。
春介と春海は絵本を読んでいた。
美香が聞く。
「春介、光子は?」
春介。
「おばちゃん!」
春海。
「おばちゃん!」
美香は吹き出した。
アキラも笑う。
「完全に定着したね」
その夜。
小倉家にビデオ通話。
春介と春海が画面を見る。
光子。
「お姉ちゃんって言ってみ?」
春介。
「おばちゃん!」
優子。
「春海は?」
春海。
「おばちゃん!」
通話終了。
光子と優子、撃沈。
だが。
その様子を見ていた美香は、ふと気づいた。
春介も春海も、光子と優子が来ると必ず笑う。
抱っこをせがむ。
一緒に遊びたがる。
帰る時は泣く。
呼び方は「おばちゃん」でも、
二人にとって大好きな存在であることは間違いなかった。
美香はそっと呟いた。
「受け継がれとるね」
アキラが聞く。
「何が?」
美香は笑った。
「笑い」
昔。
光子と優子が、自分を笑わせてくれた。
今。
春介と春海も、二人に笑わされている。
そして二人もまた、光子と優子を笑わせている。
その光景が、とても幸せだった。
次回予告
「おばちゃん」問題は解決しないまま数年が経過。
春介と春海はますます元気に成長していく。
そして光子と優子は、二人に人生初の音楽レッスンを開始。
ところが、そこで思わぬ才能が顔を出す。
次回、第百十八話
「最初の音」




