↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帰る場所~光の指す方へ  作者: リンダ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
114/135

小さな寝息

第百十六話


「小さな寝息」


 春介と春海が生まれてから、赤嶺家の朝は一変した。


 泣き声。


 ミルク。


 おむつ。


 洗濯物。


 哺乳瓶。


 沐浴。


 寝かしつけ。


 そして、やっと眠ったと思ったら、またどちらかが泣く。


 美香は、春介を抱きながら苦笑した。


「双子って……想像以上やね」


 アキラは春海のおむつを替えながら言う。


「一人が寝たら一人が起きる。完全な交互演奏たい」


 美香が笑う。


「デュエットやなくて、時間差攻撃やね」


 そこへ、助っ人部隊が次々とやって来た。


 優馬と美鈴。


 赤嶺安三郎と静子。


 黒崎正一と佳代。


 小倉家の祖父母。


 そして、中学二年生になった光子と優子。


 光子は腕まくりをして宣言した。


「春介、春海、光子おばちゃんが来たたい!」


 優子がすぐに言う。


「まず手洗い」


「はい」


 優子はもう完全に戦力だった。


 料理の下ごしらえ。


 掃除。


 洗濯物たたみ。


 おむつ替えの補助。


 赤ちゃん用品の整理。


 光子も最初こそボケ倒していたが、春介を抱っこすると急に真剣な顔になった。


「小さか……」


 美鈴が微笑む。


「命やけんね」


 優馬は春海を抱いて、すでに涙目だった。


「かわいか……かわいすぎる……」


 美香は笑った。


「お父さん、まだ朝よ。今日何回泣く気?」


「数えんでよか」


 安三郎と静子は、台所で栄養のある煮物を作ってくれた。


 正一と佳代は、洗濯と買い出しを担当。


 小倉家の祖父母は、赤ちゃんを交代で抱っこしながら、静かに見守ってくれた。


 家の中には、人の気配があった。


 誰かがご飯を作り。


 誰かが洗濯物を干し。


 誰かが赤ちゃんを抱き。


 誰かが美香に「少し寝り」と声をかける。


 美香は、そのたびに胸が熱くなった。


 昔の自分には、こんな手はなかった。


 泣いても抱かれなかった。


 お腹が空いても、満たされなかった。


 怖くても、守られなかった。


 だからこそ、美香は春介と春海の寝顔を見ながら、強く思った。


「この子たちには、うちが味わった苦しみや悲しみを、絶対に味わわせたくない」


 それは、復讐ではなかった。


 決意だった。


 過去を断ち切るための、母としての誓いだった。


 夜。


 春介と春海が、ようやく並んで眠った。


 小さな寝息が二つ。


 すう、すう。


 美香はベッドの横に座り、ずっと見つめていた。


 アキラが隣に座る。


「眠らんで大丈夫?」


「うん……もう少し見ときたい」


 美香はそっと言った。


「この寝息、守りたい」


 アキラは頷いた。


「一緒に守ろう」


 その時、襖の隙間から光子と優子が覗いていた。


 光子が小声で言う。


「寝とるね」


 優子も小声で返す。


「やっと寝たね」


 美香が振り返る。


「二人とも、ありがとう。今日は本当に助かった」


 光子は照れたように笑った。


「お姉ちゃんの子やけん」


 優子も頷いた。


「うちらの大事な甥っ子と姪っ子たい」


 美香の目に涙が浮かぶ。


 光子が慌てる。


「泣かんで! 春介と春海起きる!」


 優子がすぐに突っ込む。


「そこ心配するとこ?」


 美香は声を殺して笑った。


 その笑い声は、小さな寝息を壊さないくらい優しかった。


 赤嶺家の新しい日々は、こうして始まった。


 大変で。


 眠れなくて。


 泣きたくなる日もあって。


 それでも、あたたかい手がたくさんあった。


 春介と春海は、その手の中で眠っていた。


 そして美香は、母としての第一歩を踏み出していた。


⸻


次回予告


 春介と春海との生活が始まった。


 夜泣き、寝不足、初めての育児。


 だが、赤嶺家には多くの助っ人がいた。


 優馬と美鈴。

 赤嶺安三郎と静子。

 黒崎正一と佳代。

 小倉家の祖父母。

 そして光子と優子。


 支えられながら、美香は母として歩き始める。


 次回、第百十七話

 「受け継がれる笑い」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。