婚約報告
第百二話
「婚約報告」
東京でのプロポーズから数日後。
美香とアキラは福岡へ戻っていた。
今日は、小倉家への正式な婚約報告の日。
アキラは朝から落ち着かなかった。
「大丈夫?」
美香が聞く。
「だ、大丈夫」
「全然大丈夫そうに見えん」
「だ、大丈夫やって」
すでに声が裏返っていた。
美香は思わず笑う。
「アキラ、受験の時より緊張しとらん?」
「受験より緊張しとる」
即答だった。
小倉家。
居間にはすでに全員集合していた。
優馬。
美鈴。
光子。
優子。
奏太。
小春。
なぜか赤嶺安三郎と静子まで来ている。
優馬
「そんなに改まらんでもよかろうに」
美鈴
「いや、今日は大事な日やけん」
光子
「婚約発表会たい!」
優子
「記者会見じゃなか」
アキラが座る。
緊張。
尋常じゃない。
顔が真っ赤だった。
美香が横を見る。
完全に茹で上がっていた。
美香
「アキラ」
アキラ
「は、はい」
美香
「顔」
アキラ
「顔?」
光子
「トマト超えた」
優子
「茹蛸たい」
全員吹き出す。
アキラ
「まだ何も話しとらん!」
優馬まで笑い始める。
美香はもう耐えられなかった。
「ふふっ……」
「ご、ごめん……」
肩を震わせる。
アキラはさらに真っ赤。
安三郎
「章、真っ赤かのぉ」
静子
「収穫直前のトマトより赤い」
奏太
「祖父ちゃんまで言うんかい」
ようやくアキラが立ち上がった。
「お、おぐ、おぐ、おぐら……」
光子
「鳩になった」
優子
「小倉家の前で伝書鳩化」
美香がまた吹き出す。
アキラ
「笑わんで!」
美香
「無理!」
全員爆笑。
数分後。
ようやく落ち着く。
アキラは深呼吸した。
「優馬さん」
「美鈴さん」
「僕は……」
今度はしっかり言えた。
「美香さんを幸せにしたいと思っています」
居間が静かになる。
「まだ学生です」
「まだ未熟です」
「でも、これから先も一緒に歩きたいです」
「結婚を前提にお付き合いさせてください」
頭を深く下げる。
美香も隣で頭を下げた。
優馬は黙っていた。
しばらく。
本当にしばらく。
沈黙。
光子も優子も黙っていた。
そして。
優馬の肩が震え始めた。
美鈴
「優馬?」
優馬
「うぅ……」
光子
「あ」
優子
「来た」
優馬
「美香がぁぁぁぁ!」
号泣。
全員ずっこける。
優馬
「ついこの前まで高校生やったやん!」
「トロンボーン吹いとったやん!」
「うちの娘やん!」
アキラが慌てる。
「す、すみません!」
優馬
「謝らんで!」
「ありがとう!」
どっちなんだ。
全員爆笑。
美鈴は涙を拭きながら微笑んだ。
「アキラ」
「はい」
「美香をお願いします」
アキラは真っ直ぐ頷いた。
「はい」
美香の目に涙が浮かぶ。
事故。
虐待。
孤独。
絶望。
たくさんの苦しみがあった。
でも今。
この家で。
家族に囲まれている。
未来を語っている。
それが信じられなかった。
すると。
光子が立ち上がった。
「それでは!」
嫌な予感。
優子
「始まった」
光子
「美香お姉ちゃん婚約記念!」
「完熟トマト卒業式!」
美香
「何それ!?」
光子
「本日より」
「人妻候補トマト!」
優子
「名称変えるな」
奏太と小春は笑い転げる。
安三郎まで机を叩いて笑う。
静子も涙を流している。
アキラは顔を覆った。
美香は真っ赤になった。
そして。
その顔を見た全員が。
さらに笑った。
こうして。
小倉家らしい婚約報告は。
涙と。
笑いと。
腹筋崩壊で終わった。
次回予告
婚約が決まった美香とアキラ。
だが、小倉家は平穏では終わらない。
光子と優子は早速「結婚式プロジェクト」を発足。
衣装、音楽、余興。
そしてなぜか優馬が花嫁役候補に。
次回、第百三話
「結婚式大作戦」




