会議
世界会議、エルディアによって開かれ国や魔塔の長が集い話し合う場。
世界樹大規模汚染から五日後。
「テイラー居るかい?」
「どうした?エスタ」
「少しの間魔塔を離れるから留守を頼んだよ」
「はぁ?この忙しい時に離れるって何でだよ?」
テイラーが不機嫌そうな顔でこちらを見てくる。
それも仕方ない。世界樹大規模汚染から五日、この五日間魔物によって破壊された建物の修復や怪我人の治療など、あらゆる依頼が魔塔に舞い込んでいる。
魔塔は今、五日間フル稼働しっぱなしなのだ。
普段こんな量の依頼は来ないし、そもそもこんな内容の依頼自体来ない。
だけれど今はどこも人手が足りておらず、魔塔にまでSOSが来ているのだ。
(正直僕だってこんな状況で魔塔を離れたくはないけど、と言うか休憩したいし)
「世界会議が開かれるんだよ。それに出席してくる」
「あーそういうことか、なら仕方ねぇ。にしてもこんな時に開かなくたっていいだろうに」
「それは僕も思うが、緊急性の高い事案なんだろう。とにかく、行ってくるよ」
「おう、気をつけて」
弟に見送られ、魔塔主は先日届いた招集状に魔力を込める。
世界会議の招集状は宛名の人物が魔力を込めると会議場に転移するというものだ。ちなみに魔力を込めずとも時間になれば強制的に転移する。
(日時と宛名以外書かれていないただの紙だというのに、一体どういう仕組みなのか)
転移先の会議場は円形で、東西南北と守護者用に五分割されており大陸ごとに席が別れている。
各席には所属と名前が貼られており、この席は魔法で決められた範囲内の好きな場所に動かすことが出来る。
魔塔の席は少し特殊で、魔塔は位置的には東大陸にあるがどこの大陸にも所属いていないので、東大陸と守護者用の席の間に魔塔主の席がある。
(時間まであと少し、空席もだんだん埋まってきているが)
チラリと守護者用の席を見るが誰一人として守護者は席に着いていない。
エスタが世界会議に参加したのは過去一度だけだ。
その際、守護者達は早めに着席していたので勝手にそういうものだと思っていた。
(二回しか参加していないからどちらが通常なのか分からないけれど、ザワついているのを見るに今回が珍しいケースのようだね)
時間になり守護者以外の者が全員集まる。
しばらく経っても守護者が現れずに会議場はざわめき始めた。
「何故、エルディア様は来ないのだ?」
「いつもならもうとっくに会議が始まっていると言うのに……」
「何かあったのだろうか」
各々が不満を口に出し始める。
そんなざわめきの中ある者が声をはる。
「静かに待てんのか、若造共め。守護者様達にも何か事情があるのだろう。それを我ら如きが憶測するなど無礼であろう」
その言葉に会場は静まった。
(あれは、竜の谷の長か。今回の騒動でかなり被害にあったと報告が上がってきていたけど、見る限りは平気そうだ)
「ふん、確かに守護者様達の考えを我らが読もうなど無礼な話だ。だがそれとこれとは別だろう。各国の体制の立て直しも不完全な状態で、招集がかかった。この忙しい時にだ!招集しておいて会議に遅れるなどあってはならないだろう!」
声をあげて意義を唱えたのは東大陸の人間だ。
どうやらかなり頭に血が上っているらしい。
こんなに人が集まっている場で堂々と守護者達への文句を言うとは、なんと愚かな者なのだろう。
「確かに、君の怒りは正しいね。こんな時に招集しておきながら、会議に来るのが遅れてしまってすまない。少々こちらの話し合いが長引いてしまったよ」
どこからもなく会議場に声が響く。恐らく声的に南の守護者様だろう。
守護者達の席の方を見れば四人が一斉に姿を現す。
「不満は後で聞こう。時間を無駄にはしたくない」
その発言をしたのは西の守護者様だ。
エスタが世界会議に参加したのは一度だけだ。そしてその時はまだ西と東の守護者の代変わり前である。
故に代変わり後の守護者の事は一切知らないのだが、エスタは確かに西の守護者の魔力を以前感じた事があるのだ。
(ま、まさか…ね……)
そんなエスタの動揺など知る由もなく、会議が始まる。
会議は龍神の説明から始まった。
世界樹汚染の前後に起きた出来事、それによる被害、対処にかかった時間等。
「犯人の欲に漬け込んだ黒幕が居ると我々は見ている。黒幕の狙いが定かではない今、みなには警戒態勢を緩めないで欲しい」
黒幕という言葉に各々が騒つく。
そんな騒つきをかき消すように龍神が言葉を続ける。
「それと、今回の実行犯の動機は先程も言ったが金だ。金欲しさに闇市に奴隷として小竜や獣人を売ろうとした。さて、この世界はどの国も例外なく奴隷取引が禁じられているが、実行犯は東大陸の出身らしい。どういう事か説明してもらえるだろうか?東の統治者達よ」
鋭い龍の眼が東の席に向けられる。
「今一度よくよく考えるのだな。己の統治している国が潰されたくなければ。お前らの取締が甘い事は知ってるんだ。その甘さ故に起きた事態だと言うことを忘れるなよ?」
「その辺にしておけ」
獣神によって龍神の威圧が無くなる。
東大陸の統治者達は冷や汗をたらしながら震える者ばかりだ。
これは龍神からの警告なのだ。
東大陸は未だに種族差別の考えが根強く残っている。故に闇市は無くならないし、それを見て見ぬふりする統治者も多い。
守護者の仕事に希少生物の監視があるのは密猟者から守るためで、密猟者の九割は東大陸の者である。
(ずっと問題視はされていたが、今回の事で東の統治者はしっかり向き合わないといけなくなったな)
「次に実行犯の処遇についてだが、奴らは今蛇神に身柄をあずけている。本来罪人の処遇は罪人の所属国に任せるものだが、今回はそういう訳にもいかないため奴らの身柄はこのままエルディアがあずかる。そして蛇神よ、罪人を罰する権利を渡してもらおうか」
「それは、僕を信用していないということかい?」
「そういう訳では無い。ただ、そちらの大陸は死を最も重い罰とするだろう。こちらではそうじゃない。こちらとしては罪人を死などという軽い罰で済ます気はないのだ」
「……そういう事なら最終的な身柄は君に渡すよ」
その後は、各国の立て直しがどこまで進んでいるか、人手が欲しいところはあるか等早急に各地を元に戻す為の話し合いとなった。




