魔法と感情
あれは、まだ生まれたばかりの頃。
「いいか、ノア。感情が昂っている時に強い魔法を使うと制御しきれ無くなる時がある。今回がそうだ。感情の起伏が激しい時に強い魔法を使ってはいけないよ。今回は止められたけど、次もそうとは限らないからね」
「はい、一番」
初めて一番にまともに怒られた時に言われた言葉。感情は魔法にも影響を及ぼす。
それ以来、感情が昂っている時に魔法を使うことは無くなった。そもそも感情をそこまで出さなくなった。
ハッと我に返る。こんなに強く雨を降らせていただろうか。
腰には傷だらけのリアリルがしがみついて何かを発しており、目の前には仰向けに寝転がっている者がいる。
私は何をしていたんだっけ。確かリアリルの所へ行き、それから一
「ウル、もうやめて下さい。それ以上は死んでしまう」
「リリー?お前、怪我が…」
「ウル。正気に、戻り、ました、か、」
「リリー!」
私と目が合うとリアリルは安心したように気絶してしまった。
リアリルもガルグ程では無いが負傷していたので魔力を供給し回復させる。
目の前のこれは敵だ。盤面操作に黒丸で写っている。
寝そべっているというより気絶しているのだろう。
そして状況的に私が気絶させたのだ。多分こいつをぶっ飛ばしたんだ。
(思い出せ、リリーの所へ着いた時の事を)
落ち着いて自分の記憶を辿り、徐々に思い出す。
ここに着いた時にはもうリアリルは気絶しており、身体の色んな箇所から多量の血を流していた。
「リリー!」
「チッ、また増援か。次から次へと鬱陶しい!竜の谷の警備がこんなに厳重だなんて聞いてねぇぞ」
「貴様、何者だ」
「何者かだって?お前が知るよしはねぇよ!お前もこいつや小竜同様、捉えて売ってやる。ま、あの上位精霊や小竜程の価値は付かんだろうが、少しは稼げるだろ」
「……上位精霊だと?」
この辺りに野良の上位精霊が居るとは思えない。ましてやこんな時に。
ということはこいつが言う上位精霊とはセズの事だ。
だがこいつから強い魔力は感じない。セズやリリーが負けるとは思えない。一体何をしたんだ。
「あの鳥もこの獣人もお優しいよなぁ。ちょっと逃げ遅れたチビをチラつかせただけでこの有様だ!残りはこいつだけだったのに、また変な奴が出てきて大変だよ。でも、お前もこいつが大切なんだろ?ならそれ以上近づくなよ。こいつがどうなってもいいのか?」
そう言ってそいつがチラつかせたのは呪具だ。
呪具とは魔道具の呪術版だ。発動すると何らかの呪いが出てくる。
それが装備者を呪い苦しめるものなのか、操るものなのかは一目では分からない。
恐らくこの呪具を見た時なのだろう、私が怒りに染まったのは。
「近づいて欲しくねぇなら隙与えんなよ」
やつの真隣に転移し私はそう発言した。
それと同時に宙を舞う程の威力の蹴りを胴体にいれ、もう一発入れようとした時に目を覚ましたリアリルが私にしがみついた。
という経緯だったらしい。思い出した。
怒りのあまり少し記憶が飛びかけたが、何とか取り戻したので良しとしよう。
それより、やつを蹴り飛ばした拍子に手から離れ地面に転がった呪具を回収する。
そしてリアリルを防護結界で保護し、ついでに幻影魔法で背景と同化させ見えなくしておく。
(なんの効果があるか分かんねぇな。まぁいい、どうせこの騒動で何度か守護者会議が開かれるだろ。そん時にシアに聞くか)
大事な証拠品として収納空間に入れようとした途端一パキン!
「は?」
呪具がバラバラに砕けてしまった。
魔道具や呪具の本体と言える魔鉱石、別名核石が完全に砕けてしまった。
これではもうなんの意味も価値もない。
「チッ!」
嘆いている暇は無い。まだ世界樹を汚染した者は見つけてないし、竜も暴れたまま。他にも小竜やセズの居場所も突き止めなければならない。
「だぁーーー!イライラする!」
地団駄を踏みたいがそんな時間すら今はない。
ともかくこののびているやつを拘束して叩き起さねば。今ヒントはこいつしか居ない。
ザァーっとまた雨の勢いが強くなる。当たると少し痛い程度の強さになってしまった。
「てかこの雨今どこまで広がってんだ?途中意識飛んだせいで制御が一瞬途切れちまったけど、魔力が馬鹿みたいに吸われてる気がする」
範囲を調べようと少し空に集中した時。
「ばぁぁぁか弟子がぁぁぁぁぁぁぁ!」
「いってぇ!」
突如叫びながら現れた者に横から思い切り蹴りをいれられ突き飛ばされる。
「ウル!何だこの雨は!今すぐ止めろ!」
「えぇ?師匠!?止めろったって瘴気を抑えるための浄化魔法が一応付与してあるんですけど」
「そんなこと分かっておるわ!勢いを弱めろ!自分で引き出した力も御せんほど未熟者だったとは!恥を知れ!」
「うるさいですね。今やろうとしてたんですよ。色々同時に起こってこっちだって大変なんですよ。何もしてない隠居老害が急にしゃしゃり出てこないで下さい」
「誰が隠居老害だって?」
私がそっぽ向きながら反抗をすると、師匠はこちらをギロリと思い切り睨んできた。
「貴方の事ですが」
「力もまともに使えんガキがよく言うわ。力も使えずスキルも役に立たない、お前に何が出来るというのだ」
ただでさえイライラしていたがこの発言でカチンとくる。師匠を睨み返してまた反抗する
「はぁ?今色々やってますけど。そんなこと言うなら貴方だけ勝手に瘴気に毒されてあの世に行けばいいじゃないですか!」
「師に向かってなんて事言うんだこのクソ弟子が!」
「私今忙しいんです!邪魔しないでください!」
「邪魔だとぉ?お前一」
「辞めんか!」
ゴチン!と頭に拳を落とされる。
上空から勢いをつけて拳を落としてきたのはキファ様だ。
「「キファ!?」様!?」
「お前ら二人はこの緊急事態に何呑気に喧嘩してんだ」
私と師匠を交互に睨み、怒りの滲む低音で私達を咎める。
「だって師匠が」「ウルが」
「はぁ、もういい」
キファ様は深い溜息をつく。呆れられたらしい。
「ウル、お前はスキルを俺とこいつに共有してくれ。後現在の最優先事項も教えてくれ。その後お前は一度落ち着いて雨を制御しろ。他大陸は分からんが、北大陸まで範囲が広がっている。このままじゃ魔力がすぐ尽きるぞ」
「はい」
「スヴィン、出てきたと言うことは手伝ってくれるんだろう?ウルから最優先事項とスキルが共有されたら動いてくれ」
「はいはい」
キファ様はその場を収めて指示をテキパキ出してくれる。正直今の自分は頭に血が上っていたので指示を出されるのはありがたい。
それはそうと師匠は年下に諫められ恥じと言うものはないのだろうか。
「それじゃウル、頼む」
「あ、はい」
私は二人にスキルを共有し、最優先事項をまとめ伝えた。




