世界樹
世界樹とは魔法生物や空魔に影響を与える、世界一大きな木だ。それは西大陸に存在しており、強力な認識阻害と強力な防御結果により守られている。
世界樹の正確な位置や姿を認知できるのは守護者と精霊、竜と言った強い魔法生物のみで人間族などは見えない。
世界樹が少しだけ汚染してしまった場合は付近に瘴気が漏れ、魔物が少しだけ増える程度だ。それに気づいた西の守護者が浄化し対処する。
少量の汚染はごく稀にある事だった。
全大陸の瘴気を抑えている世界樹がもし完全に汚染されてしまえば、全ての大陸は瘴気に呑まれ、魔物が大量に現れる。そして魔法生物達は瘴気に当てられ、暴れたり、弱ったりするだろう。
それほどまでに世界樹とは大きな役割を果たしているのだ。
そこまでの役割が世界樹にあると知っている者はもう極小数しか残っていないのだが。
ウルに頼まれ聖域を目指していたアロンは、全力疾走で聖域を目指し、無事聖域に到着し入ることができた。
だが聖域が広く、どこに行けばいいか分からず魔力探知で聖域全体を探り始めた瞬間、急に自身の後ろに魔力反応が現れ後ろを向く。
「見慣れない気配だと思ったら、精霊か?その首に着けているものはいつも龍神が腕に着けている物だな。ウルの契約精霊といったところか」
「素晴らしい観察眼、その通りでございます。私は我が主、龍神に頼まれ獣神様を探しにここに来たのです」
聖域に居るということは守護者様の内の誰かでは間違いないだろうが、獣神様かどうかは分からないので要件を簡潔に伝える。
「俺がその獣神だが、何故本人でなく契約精霊がここに?」
「我が主は今西大陸に訪れた厄災の対処をしており手が離せずにいます。故に私が代理で送られました」
「厄災?」
厄災という単語に獣神様が怪訝そうな顔をする。
西大陸での厄災となんの関係があって私がここに来たのかがまだ掴めていないせいだろう。
一呼吸置き、獣神様の目を真っ直ぐ見てここに来た理由を言う。
「単刀直入に言います、世界樹が汚染されました。他の守護者様達と連絡を取り、伝えてくれと主様からの伝言です」
「なっ!?……分かった、事の経緯は全てが終わってからウルに直接聞く。後の事は任せろ。君も早く戻りたいだろう、ウルのいる場が安全とは限らんからな転移先はフォッツでいいか?」
「はい、ありがとうございます」
「気をつけろよ」
任せろなんて言ったが、こっちだって世界樹の汚染なんて今まで経験した事がない。
ウルが俺を契約精霊に探させたのは俺がここに居る確率が高かったからだろう。
とりあえず他の守護者達にも伝達しなければならない。南は大丈夫だろうが心配なのは東だ。
いや、一番心配なのはもちろん西なのだが。
ウルもシアも守護者になってからまだ数年しか経っていない、それに二人ともまだ一度もまともに神核の力を使ったことが無いはずだ。
東はシアへの連絡と先代への連絡もしようと思いながら、自分も北大陸へ転移する。
転移後神核の力を引き出し、身体の一部が神獣化する。そして他の守護者にも世界樹が汚染されたことを伝え、どう行動するかを考える。
世界樹が汚染され、瘴気によって一番混乱を招くのは恐らく北大陸だ。
なんてったって、北大陸に住む八割が魔族なのだから。
瘴気にあてられ、暴れ始めたら何が起こるか分かったもんじゃない。
正直魔族同士で殴りあったり殺しあったり、地形を一部破壊したりならまだマシだ。だが、北大陸に住む人間族の国を襲い始めたらまずい。
なんとしてでもそれだけは阻止しなければならない。
今の所そこまで瘴気が広がっておらず、魔族達もいつも通りのため、大陸全土に拡声魔法をかけ事態を伝える。
「北大陸に住む者よ聞け、我が名は獣神。現在、大陸全土に瘴気が出始めている。それによって魔族達が瘴気にあてられ理性を失う可能性がある、悪いが事態が収まるまで魔族には魔法封じの枷をつけてもらう。理性を失い暴れても大丈夫にする為だ。今から各国の王達に配りに行く、王達は自分の国民にそれを配ってくれ。ちなみに反抗して付けずに理性を失い暴れた場合は、消す。なので死にたくないやつは大人しく指示に従うように、俺は瘴気をどうにか抑える。落ち着いて行動するように」
通達後、俺は枷を各国へ配りに行く。
人口がそこまで多くないのが救いかもしれない。
これで魔族達への心配は無くなったが、北大陸は魔物も魔獣も多い。それにそいつらの力も他大陸にいるやつらよりも強い。
そいつらが外へ出ていかないように北大陸全体を囲うように結界を張る。
残る問題は瘴気のみ。
「初めての挑戦だ。上手くいくといいんだが」
そう言いながら神獣化しない程度に神核の力を最大限引き出す。
龍神が空を制し、空間を操るように他の守護者達にもそういった能力がある。
獣神は木を制し、時間を操る。
今使おうとしているのは時間を操る力だ。流石に大陸全土の時間を止めることは出来ない。出来るなら始めからそうしている。
だが操る対象を瘴気に限定し、広がるのを遅めることならできる。時間の完全停止は出来ない、それができるのは神だけだ。俺は神じゃない、ただそれに近しい力を借りているだけの凡人なのだ。
だから俺が出来るのは遅延だけだ。
「クッソ、実態の無いものを限定対象にすんのクソむじぃ。はっ、まだまだ俺も力を使いこなせてねぇってこった」
愚痴を吐きながら瘴気だけを遅延させる。
一気には無理なので範囲を分けながら少しずつ。
その作業を二十分程続け、北大陸に広がる全ての瘴気を手中に収めることができた。
これで自由自在に操ることができる。
「はぁーーーーっ。つっかれた。これで暫くは大陸を離れても大丈夫だろ。さて、ウルの加勢に行くとするか」
今一番大変なのは西大陸だ。きっと手がいくらでも欲しいはず。西に行くために北を見張ってなくても大丈夫な状態にしたのだから。
「でもその前に、少し休憩」




