汚染
その詠唱は前世でたまに使っていた、他の創造者の力を一部借りるための言葉。
創造者は一人一人他の者より、ずば抜けている能力があった。その得意魔法の一部を少しの間借りるということをしていた。
前世では距離に制限はなかったが、今はノアの魂が弱まっているので距離制限がある。
だから頼む、今この瞬間だけでもこの星の近くにいてくれ、十八番!
十八番は誰よりも治癒と浄化能力が長けていた。
そして十八番は私の拒絶体質を上回る力で前世の怪我を治してくれた一人。私が治癒魔法を使えるかもしれない可能性。
どうか上手くいきますように。
「第四世代、十八番、アヴィーに願う力をお貸しください、我が名はユトゥール、代償は我が視力」
前世とは少し違う詠唱だが、創造者の魂が入っただけの身体で現役創造者の力を借りようとしているのだ。一応礼儀正しく、そして代償も捧げておく。
詠唱を周りにいる者達に聞かれないよう防音結界を張っていたが解除し、周りにいる者達に言う。
「これから見ることは他言無用でお願いします。もちろん姉上、騎士団長殿にも」
私の手に美しい白銀の光が纏う。どうやら力を借りるのに成功したらしい。
私は手に集まるその力を慎重に姉上の身体へ流す。
それと同時に私の左目にも白銀の光が纏い、その光は手の光とは違い上へ流れていく。
徐々に姉上の腹の傷は塞がっていく。そして失われた右腕も再生し始めた。
このままいけば右腕も完全再生するだろう。
姉上を治す度徐々に左目の視力が悪くなっていく。だんだん見えなくなってきた。
時間が経ち、姉上の傷は完全に塞がり右腕も完全再生した。そして私の左目は光を完全に失った。
「フォアリア卿、これは…」
「内緒でお願いします。少し、ツテをあたっただけです」
「は、はぁ…」
よく分からないと言った顔だ。当たり前だ目の前で信じられない事が起こったのだから、頭も混乱するだろう。
まだ少し手に残る十八番の力を使い、辺り一帯に浄化魔法を使う。これでファルフ達も落ち着くだろう。
(それにしても、両目とも光を失う覚悟をしていたんだがな。十八番の奴、俺に気づいたな)
治療している内に雨は止んでおり、空には星が光っていた。森に広がっていた炎も鎮火したようだ。
凶暴化していた魔獣達も少しずつ落ち着いているようで一安心だ。
なれない、というか初めて治癒魔法を使った事によりかなり疲れた。
私はその場にバタンと倒れる。先程まで居た者達は姉上を運び撤退した。今この場にはアロンと私だけだ。
「大丈夫ですか?主様」
「疲れたよぉ〜アロ〜ン。もふもふさせてぇ」
「それはもちろんいいのですが先に帰りませんか?」
「うぅ、もう動きたくない」
アロンに腕を伸ばしもふもふを堪能しているとぞわりと悪寒が走る。
「っ!!!」
「どうかされましたか?主様」
「分からない、だけど凄く嫌な感じがした。なんだろう、ものすごくヤバい気がする。何か見落としている?」
疲労と安心によりスキルを解いてしまい、今は森の様子が分からない。
もう一度スキルを発動し、森の様子を探る。全体を軽く見る限り怪しい場所は無い。
「グルルルル」
「アロン?どうした?」
「精霊の里の付近に変な魔力を感じます」
「分かるのか?この距離で」
「なんとなくです。ですが、世界樹や里付近に妙な感じがするのです」
「分かった、今見る」
私はスキルを操作し世界樹と精霊の里付近を探る。
「…世界樹の近くに誰かいる」
盤面操作の生物の写り方は、こちらに敵意を持つものが黒丸、こちらの味方が白丸、何も無い者が枠丸で表示される。
今世界樹付近に写るものは枠丸が三つ。
その枠丸が急に黒丸に変わる。
「敵だ」
「グルルル」
アロンの唸り声が低くなる。それと同時にまたぞわりと悪寒が走る。それも先程よりも強く。
「アロン、とりあえず奴らの元へ行くぞ!」
アロンと共に転移しようとした時、地面から薄黒い霧のようなものがでる。
「瘴気!?」
ぞわぁっと全身が震える。
「まさか……世界樹が、汚染されたのか!?」
『主様!竜の谷で竜達が暴れています』
『なんだと!?チッ、セズ!君は竜の谷に行ってリリーを手伝え!』
「アロン、私達はとりあえずあの三人を捕まえに行くぞ!」
「承知しました」
私はアロンと共に世界樹へ転移し、世界樹の様子を目の当たりにする。
いつもはなんだか神々しかった世界樹は今は幹も葉も黒く染まっている。
世界樹付近の空気も淀んでおり、空魔が乱れている。
「なんて事だ…このままじゃまずい」
私は応急処置として世界樹を囲うように魔力遮断結界を張る。これでこれ以上汚染される事はないが、もう既に遅かったかもしれない。
「アロン、君は聖域に行って獣神に世界樹が汚染された事を伝えてくれ。他の守護者にも伝えるよう獣神に言うんだ」
そう言いながら私は自分の腕にはめていたブレスレットをアロンの首輪サイズに変えはめる。
これがあれば聖域への道も見えるし聖域へ入る事も出来る。
「頼む」
「ですが、怪しい三人は」
「それが、消えてしまったんだ。反応が一切ない」
「そんな馬鹿な!」
「世界樹を一気にここまで汚染できる輩だ。普通じゃない、私は奴らを探す。だからアロン、君が伝えに行ってくれ。これは西大陸だけじゃない、他大陸も巻き込む大惨事なんだ」
アロンは少し顔を歪めたが、直ぐに聖域へ向かってくれた。
私は世界樹に継続的に浄化を打つため、固定浄化魔術式を組み魔力を流し続けながら、怪しい三人を探す。
「次から次へとふざけんなよ。こっちは戦力が削られた後だってのに、このままじゃ魔物が出続けちまう」
移動しながらもう一度神核の力を引き出し、雨を降らせる。その雨にも少しだけ浄化魔法を含ませ少しでも瘴気を薄くしようとする。
「くっそ、浄化が得意なら、それより治癒拒絶体質なんかじゃなければこんな魔法完璧に使ってやるってのに!何故同じ属性と言うだけで!」
唇を噛み、力こぶしを作って自分の体質に対して憎しみを抱く。
こんな悔しい思いをした事があっただろうか。
そんな思いを胸に、ウルは土砂降りの中三人を探す。
天気はどんどん悪くなっていく、まるでウルの心を表しているように。
それでもその雨の中にはしっかり浄化魔法が含まれていた。




