異変
雲一つない快晴、涼やかな風、なんていい天気だろう。
守護者になってから早数年、特に何事もなくいつも通りの日々を過ごしていた。
守護者の仕事はほぼやってない。
ていうかそんなぽんぽん守護者が動くような事態が起きたら大惨事である。
守護者が表立って動くのは大陸全体に被害が及びそうな時、及んだ時。あとは裏で誰に見られる訳もなく細々としたことをしている。
数十年に一回くらいしか仕事をしないのだ。
管理人としての仕事も最近は部下を貰い減っている。なんと素晴らしい堕落生活、このまま何も起こるな。
そう思いながら家の近くの湖にぷかぷか浮いていると上空にセズが現れた。
「主様、お手紙が届いております」
「手紙?誰から?」
「それが差出人不明で」
「じゃあどうやって持ってきたんだよ」
「それが……」
セズは浮いている私のお腹の上に止まると、口に咥えていた手紙を見せてきた。
「巡回中に急に目の前に現れまして、驚いてとりあえずキャッチしてみたところ主様宛でしたので」
「……不審物じゃね?」
「特に魔法などの気配は感じ取れなかったので……」
「「………」」
「とりあえず見てみるよ」
そう言って私は湖からあがり、身体の水気を取って手紙を開けた。
いつか貴方に会いに行きます。その時は素晴らしいサプライズがあるので、どうか楽しんでくださいね。今は直接貴方に会えませんので、別のものをご用意いたしましたよ。と言っても少し手を貸したくらいですけど。
手紙にはそう書いてあった。
その他に書いてあることはなく、もちろん差出人の名前も無かった。
「何この手紙気持ち悪。不審物じゃねーかよ」
「サプライズと別のものってなんですかね?」
「ほっとけ、悪戯だろ」
「ですが一応調べてみては?過去を見れば書いたものの顔くらいなら分かるかと」
「うーん、まぁ、やるだけやるか」
セズに言われた通り過去を見るために、左手だけ呪刻の封印を解く。
そして手紙に触れてみるが
「いって!」
「主様!?」
「……弾かれた。対策されてる」
「ということは、主様の呪刻を知っている者の仕業ですか?」
「いや、念の為そういう術式を組み込んでただけかもしれねぇから断言は出来ん。だけど、少しは警戒しといた方が良さそうだ。ただの悪戯じゃねぇってことだ」
弾かれた左手が凄く痺れている。
対策で術式を組み込んだということは顔を知られたくないということ。
セズにはああ言ったが恐らく顔見知りからの手紙だろう。目的が分からんが暫くは油断しない方が良さそうだ。
手紙が届いてから数日経ったが特に何も無かった。
ただの考えすぎならそれでいいのだが、そうじゃなかった時の為にここ最近はずっと警戒態勢を崩していない。
アロンとセズにも念の為警戒を強めるよう言ってある。
今日は大陸の西側に行き、竜の谷とリアリルの様子を見に来た。
「リリー久しぶりだな。元気してたか?」
「ウル!えぇ、変わりないですよ」
「そうか、ガルグも変わりないか?」
「あぁ、安心せよ何も無いぞ」
「そりゃ何よりだ」
ガルグというのは竜の谷の長だ。
私が十くらいの時に師匠に合わせてもらい、それから仲良くしてもらっている。
(竜の谷の方にも特に異変は無いか…)
西大陸で何かが起こるとしたら、竜の谷と精霊の里が一番狙われる。
なのでそこの二箇所は重点的に警戒をする必要があるのだ。
それに竜の谷には私と関わりが深いリアリルも居る、もしあの手紙が私を狙っての物なら余計に竜の谷は危ない。
「ウル?どうかしましたか?」
「…なんでもないさ」
「何か悩んでいるように見えますが」
「気のせいだろ」
「我にもそう見えたが」
「……」
「白狼と竜の目を誤魔化せるとでも?」
「別に家の鍵閉めてきたっけなって考えてただけだ」
「なんですか、それ」
二人に話してもいいが、確定していない情報で二人を不安にさせる訳には行かない。
ここは誤魔化しておくのがいいだろう。
二人は少しだけ不信そうな顔をしたが、深くは探ってこなかった。
「まぁ、なんかあったらすぐに呼んでくれ。飛んでくるから。それじゃ、他にも予定あるからもう行くわ」
「あ、ウル!」
「なんだ、忙しないやつだな」
竜の谷を離れた私は他の場所も少し見回ってから家に帰った。
家に帰り、ベッドに倒れ込んで自分の右手を見る。
「見えるのは確定した未来だけ……」
何も無ければいつも通りの景色が流れる。それが見えれば警戒も解いて大丈夫だろう。
だけど、大陸の未来を見るのは人やその辺の壺の未来を知るのとは別物だ。
理に反した力を使う時は代償を払わなければ罰が下る。
いくら前世が創造者でも、今はただの森人族。
神獣の力を借りた守護者という立場があったとしても、大陸の確定した未来を見るのには代償が必要だ。
不確定な未来と確定した未来では全くの別物なのだ。
あんな手紙一つのせいで代償を払うなんて馬鹿げている、だけど、それでも、少しでも何かがわかるなら。
そう思ってベッドから起き上がった時アロンから念話が来た、そしてそれとほぼ同時に家の扉がバァンと勢いよく開けられる。
『主様!森の魔獣達が!』
「ウル!森が大変なことになった!」
「姉上!?しょ、少々お待ちください、今別の者から念話が」
『様々な魔獣達が凶暴化しています!』
「森が凶暴化した魔獣によって荒らされている!」
「は、はぁぁぁぁぁぁぁ!?」




