卒業
部屋で休んでいるうちに少し寝てしまったらしい。扉がノックされる音で起きた。外を見ればすっかり夜だ。
「ふぁい、」
「失礼します。グレーズ様の準備の手伝いをしに来ました」
「てつだい?だれから、」
「我が主、第二王子殿下からです」
「でんかが?なんで」
「どうせまともに身なりも整えず来るだろうから手伝ってきて、と言われました」
「なるほど、それであなたは」
「卒業パーティの為に殿下に呼ばれた侍従です」
「ほぇー」
まだ寝ぼけていてあまり内容は頭に入ってこなかったが要は、どうせ隣に居るんだからちょっとはちゃんとした格好してきてね、みたいな話だろう
よく分かったな、ちゃんと準備をする気がないことが。
「時間がありませんので、少し乱暴になるかもしれませんが、失礼します」
やってもらえると言うなら大人しく任せた方がいいだろう。彼女は爆速で私の身なりを整えた。自分でやらなくていいのがものすごく楽だ。
「それでは、案内します」
彼女の後について行く。まだ頭が完全に覚醒していないというのに、起きて直ぐに準備が整えられた。手練だ。
パーティ会場に入る前に殿下とアスの所に案内される。会場の中で合流するかと思っていたので少しびっくり。
「やぁ、ウル。ちゃんとした身なりで来てくれて安心したよ」
「殿下がそうしたんでしょう」
「そうだったね」
「すげぇ、ウルがちゃんとしてる……新年の式典の時ですら普段着で来るようなやつが……」
「新年の式典は国内だからいいでしょ。ていうかなんで外で合流?」
「それはもちろん、ウルをエスコートするためだよ」
「らしい」
「………結構です」
「振られちゃったや」
「はぁ、行きますよ」
三人で普通に中に入る。我々は結構遅かったようで、中はもうワイワイと賑わっていた。数人からチラチラと視線を感じ、ウルは内心またか……と思っている。
「だから中で合流したかったのに」
「あ?どうした?」
「まぁいい、それよりお腹空いたし。肉だ肉」
「お前はそればっかだな」
「私は気づいたんだよ、肉の素晴らしさに。魚派だったが肉派に変わった」
「そうかよ」
話しながらテーブルに近ずき、料理を皿に取る。夜のパーティな為、夜ご飯がテーブルの上に盛り付けてあるのだ。
「てか、いつまで付いてくるの?離れてよ」
「はぁ?なんでだよ」
「僕らが居たら何かまずい事でもあるのかい?」
「本当に気づいてないの?この三年間私が二人のせいでどれだけ……」
「なんだ?なんかあったのか?」
「大ありですけど?女子生徒にそれはもうものすごく恨まれてるんだから」
「どうしてだい?」
「あんたあのお二方とずっと居て邪魔なのよって何度言われたことか!」
「なんだお前、そんな事言われてたのか」
「会場入った時だって睨まれてたし」
「まじか。まぁでももう関わる機会もないだろうし大丈夫だろ」
「まぁね。でもクラスメイトに挨拶くらいしてきたら?私はずっとここで食べてるから」
「そうか?なら行くか、アル」
「そうだね」
二人の背中を眺めながらご飯を食べ続ける。二人を遠ざけたのは静かにご飯が食べたかったからだ。やっかまれたのは本当だが、気にしちゃいない。
でもあの二人が近くにいると視線をチラチラ感じて鬱陶しいのだ。だから遠ざけた。特に二人も気にしていないだろう。
パーティというのは疲れる。人の気配が多いので常に探知魔法で、危険がないかを見ないといけないし、護衛対象を見失わないようにしなければならない。
その上人前だから自分の所作も気をつけねばならない。まぁこれからもこんな場面、いくらでもあるだろう。慣れねば。
「まさかウルがあんな事言われてるとは思わなかったよな。確かに?俺もお前も美形だけどな!」
「すごい自信だね」
「まぁな。でも俺らが傍に居ない時に文句言ったってことだろ?そいつもすげぇな」
「どうしてだい?」
「だってウルのやつ、俺らといない時は超真顔だぜ?ウルも普通に美人だからあいつの真顔、ちょっと怖ぇんだよな」
「まぁたしかに、ウルはちょっと圧もあるしね。なかなか度胸が必要かも。でも、僕は目立つとしても、アスも人気だったんだね。黒髪碧眼だからあまり容姿は目立たないと思うけど」
「それ程イケメンってことだ」
「…………」
「おい、黙るなよアル」
「さて、一通り回ったし、そろそろウルの所に戻るか」
「そうだね、思ったより時間かかっちゃったし」
「途中で囲まれたからな。ありゃ焦った」
「ウルという防波堤のありがたさを最後の最後で実感したね」
「ほんとにな」
「ウル、お待たせ」
「別に待ってはないけど」
「いい時間だし、俺らも飯食ったら帰るか」
「早く食べてくれ」
「早く帰りたそうだな、なんかあったか?」
「……お前らという防波堤のありがたさを最後の最後に実感しただけだ」
「……そうか」
「口調がくだけきってるね」
アスと殿下が食べ終わるのを待ち。二人が食べ終わり、会場を出た。
「明日は本当の帰国だなー」
「三年間猫を被り続けた私偉い、偉すぎる」
「たまに化けの皮剥がれてたけどな」
「あれは誰も居なかったからいいんだよ」
「二人と三年間過ごせて良かったよ。アスはともかく、ウルは関わる機会が無かったからね。素のウルも見られたことだし、それに魔法も」
「見せたんじゃない、諦めただけだ」
「そっか」
「明日の昼遅れんなよ、ウル」
「分かってるよ」
「思い出話は明日の帰りに取っとかないとね。おやすみウル」
「おやすみ」
そう言って二人と別れ寮に戻る。この部屋も今晩で最後だ。忘れ物がないかチェックしてから寝よう。
荷物の再確認をして、眠りについた。
ちなみに話には出てきてませんでしたが、エドフォード殿下とはめちゃくちゃ手紙でやり取りをしていました。どれくらいの頻度かと言うと週一。




