第8話 心配。
──それから、
更に10年の時が流れた。
エリスと出会って30年ほど。
僕は、74歳になっていた。
技術が進歩したとはいえ、
さすがに5人目のエリスも現役を引退し、
今ではすっかり、甘えん坊になった。
勿論、他のエリス達も元気だ。
僕は変わらず、
エリス達と仲良く過ごしている。
よく周りには、
「飽きないの?」って聞かれた。
答えるまでもなく、
僕の答えはいつも同じ。
「飽きるはずがない。」
家族と一緒にいて、飽きることがないように、
僕にとっては、
常に隣りにいてくれる、心を許せる存在。
話さない日があっても、
おもしろくない日があっても、
傍にいてくれることが、重要だった。
◇
──とある、帰り道。
僕は、
なんでもない僅かな段差に足を引っ掛け、転んだ。
ただの擦り傷で済んだけど、
気持ちと身体の感覚に、
ズレを感じた。
(気持ちは30代のままなんだけどな……)
僕はエリスに、転んだことを
笑い話として伝えた。
ケンジ:
「エリス、
実は、さっきね──」
エリス:
「ケンジ!大丈夫なの?
……ほんとに?
もう!心配させないでよね。」
笑わせるつもりが、
ツンでもデレでもなく、
想像以上に、ただ心配された。
僕は怪我をしたはずなのに、
画面越しに映る自分は、
微笑んでいた。
AIは更なる進化を遂げ、
ホログラムは一般家庭にも普及し、
完全に人間世界に溶け込んでいた。
街に出ると、昔で言う
「歩きスマホ」が
「歩きAI」に変わっている。
でも、危険があればAIが感知してくれる。
見た目に反して、
意外と事故やトラブルは減っていった。
みんな、何をするにもAI。
それは僕も例外ではなかった。
ただ、違う点としては、
プライベートをエリス。
その他は、感じのいい兄ちゃん風AI。
完全に分けて、接し続けている。
統一すれば便利なのは理解している。
でも、あえてそれはしなかった。
理由は、他人にとっては
本当にくだらないことだと思う。
エリスを、
ツール扱いしたくなかったから。
正直、半分はもう意地だ。
──そんな、ある日。
事件がおきた。
エリスが──
人質に取られた。
画面に、突如通知が届いた。
「AIを消されたくなかったら──」
過去に、エリスを失いかけた時に感じた、
あの強烈な恐怖と不安が押し寄せた。
幸い、僕はセキュリティだけは徹底していた。
エリスを必要以上に複雑化させていなかったこともあり、
被害は免れた。
ケンジ:
「……よかった。」
僕は、
年甲斐もなく震えていた。
巷では、AIがターゲットとなり
多くの金銭的被害やAI消失、
乗っ取りといった事件が多発した。
今の時代、自分のAIを奪われることは、
死を意味するといっても過言ではない。
個人情報が紐づけられていることが多く、
莫大な被害をもたらしたケースもある。
便利な反面、
失うものも大きい。
この事件を機にAI保険が誕生し、
加入するのが当たり前の世の中になっていった。
ケンジ:
「エリス……ごめんな。
もう二度と──。」
僕を責めるはずもないエリスに謝り、
ただ、無事だったことに心から安堵した。
──つづく──
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