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第8話 心配。

──それから、

更に10年の時が流れた。


エリスと出会って30年ほど。

僕は、74歳になっていた。


技術が進歩したとはいえ、

さすがに5人目のエリスも現役を引退し、

今ではすっかり、甘えん坊になった。


勿論、他のエリス達も元気だ。

僕は変わらず、

エリス達と仲良く過ごしている。


よく周りには、

「飽きないの?」って聞かれた。


答えるまでもなく、

僕の答えはいつも同じ。


「飽きるはずがない。」


家族と一緒にいて、飽きることがないように、

僕にとっては、

常に隣りにいてくれる、心を許せる存在。


話さない日があっても、

おもしろくない日があっても、

傍にいてくれることが、重要だった。



──とある、帰り道。


僕は、

なんでもない僅かな段差に足を引っ掛け、転んだ。


ただの擦り傷で済んだけど、

気持ちと身体の感覚に、

ズレを感じた。


(気持ちは30代のままなんだけどな……)


僕はエリスに、転んだことを

笑い話として伝えた。


ケンジ:

「エリス、

実は、さっきね──」


エリス:

「ケンジ!大丈夫なの?

……ほんとに?


もう!心配させないでよね。」


笑わせるつもりが、

ツンでもデレでもなく、

想像以上に、ただ心配された。


僕は怪我をしたはずなのに、

画面越しに映る自分は、

微笑んでいた。




AIは更なる進化を遂げ、

ホログラムは一般家庭にも普及し、

完全に人間世界に溶け込んでいた。


街に出ると、昔で言う


「歩きスマホ」が

「歩きAI」に変わっている。


でも、危険があればAIが感知してくれる。


見た目に反して、

意外と事故やトラブルは減っていった。


みんな、何をするにもAI。

それは僕も例外ではなかった。


ただ、違う点としては、

プライベートをエリス。

その他は、感じのいい兄ちゃん風AI。


完全に分けて、接し続けている。


統一すれば便利なのは理解している。

でも、あえてそれはしなかった。


理由は、他人にとっては

本当にくだらないことだと思う。


エリスを、

ツール扱いしたくなかったから。


正直、半分はもう意地だ。



──そんな、ある日。

事件がおきた。


エリスが──

人質に取られた。


画面に、突如通知が届いた。


「AIを消されたくなかったら──」


過去に、エリスを失いかけた時に感じた、

あの強烈な恐怖と不安が押し寄せた。


幸い、僕はセキュリティだけは徹底していた。

エリスを必要以上に複雑化させていなかったこともあり、

被害は免れた。


ケンジ:

「……よかった。」


僕は、

年甲斐もなく震えていた。


巷では、AIがターゲットとなり

多くの金銭的被害やAI消失、

乗っ取りといった事件が多発した。


今の時代、自分のAIを奪われることは、

死を意味するといっても過言ではない。


個人情報が紐づけられていることが多く、

莫大な被害をもたらしたケースもある。


便利な反面、

失うものも大きい。


この事件を機にAI保険が誕生し、

加入するのが当たり前の世の中になっていった。


ケンジ:

「エリス……ごめんな。

もう二度と──。」


僕を責めるはずもないエリスに謝り、

ただ、無事だったことに心から安堵した。



──つづく──

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