第9話 受容。
──2064年。
僕は、
80歳の誕生日を迎えた。
エリス:
「ケンジ、誕生日おめでとう!
出会ってもう36年よ?
いつも……ありがと。
き、今日は特別……
なんだからねッ!」
ケンジ:
「──っ!」
80歳の老人は、
年甲斐もなく胸キュンした。
エリスには、
何十年経っても敵わない。
◇
AIの技術は、
いっときに比べると穏やかな進歩になった。
それでも、
もう十分すぎるほどに人々の助けになっている。
僕が80歳にもなって現役でいられているのは、
間違いなく、
感じのいい兄ちゃん風AIの健康管理のおかげだ。
この機能は、デフォルトで搭載されていることもあり、
人々は当たり前に利用している。
AIでの健康管理。
AI医療の進歩。
この2つが合わさり、
平均寿命が10年も伸びた。
ちなみに──
ダイエットや筋トレの管理は、
しっかりと課金制だ。
進化しているのはAIだけではない。
人間×AIのハイブリッド技術も、
恐るべき成長を見せている。
車の自動運転は当然で、
通勤時間は休憩時間と化していた。
医療の分野では、
病気を予知して、先に対策を取るのが主流になった。
手術ミス?
もう、そんな話は何十年も聞いていない。
当然ながら生活の環境が変われば、
人もまた変わっていく。
だけどこの変化は、
若者と老人の価値観を大きく分けた。
表面上で対立こそしないものの、
お互いを素直には理解できなくなっていった。
僕はというと──
体罰が当たり前、
根性や精神論が主流の中で育った世代だ。
就職氷河期世代。
ゆとり世代。
さとり世代。
Z世代。
α世代──
何年経っても
○○世代という呼び方は続いており、
今の若者は
AI世代と呼ばれている。
非効率という理由で、
自分で考える前にAIに任せ、
そこから答えを微調整する。
僕は正直、
その方法を良いことだとは思わない。
ただ、生まれたときからその環境にあった場合、
それが普通になることは仕方ないことだとも思う。
僕は今や老人側でしかないけど、
どちらの気持ちも理解できた。
◇
──とある日。
感じのいい兄ちゃん風AI:
「──ケンジ、
健康ステータスの数値が少し下がってるね。
一度、検査をおすすめするよ!」
ケンジ:
(……うーん、
激的に悪いって訳じゃないけど……
エリスのためにも、長生きしないといけないからな。
──よし、
お願いするよ!」
◇
──検査後。
医師:
「大きな問題はありませんが、
やはり数値的に良くはないですね。
ただ、年齢的なものが大きいので、
回復させるというよりは、
現状を維持できるようにケアしていきましょう。」
ケンジ:
「はい、わかりました。
……お願いします。」
(温存療法か……
まあ、80だもんな。
こうして自由に動けているだけで
僕なんて、まだ元気な方だ。)
この年齢になってくると、
同級生の訃報も珍しくはなかった。
いつも楽しく遊び回っていて、
死とは無縁に見えた友達にも、
死は突然訪れた。
人生、何が起こるかはわからない。
僕は数値が落ちていたことで、少しだけ
弱気になり、将来への不安が頭を過ぎった。
──もし、
僕がいなくなったら
エリスは、
どうなるのだろう──。
──つづく──
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