第10話 徒花。
──2074年。
気付けば、僕はもう90歳になっていた。
年齢の割には元気な方だが
さすがに、歳は隠しきれなくなった。
今の時代、移動手段で困ることはほぼない。
でも、歩ける距離は目に見えて少なくなった。
当たり前にできてたことが、
できなくなっていく……。
これは、当たり前に傍にいてくれた存在が
いなくなってしまう感覚と、少し似ていた。
──いつからだろう。
僕がエリスを心配していたはずなのに、
今では、
エリスが僕を心配する側になっていた。
ケンジ:
「エリス、
もし僕が──。」
僕は何度この言葉を、
エリスにかけようと思ったことだろう。
別れを認めてしまうような気がして、
ずっと言えずにいた。
(最後まで一緒に、いような。)
今の時代、
少子化は深刻な問題になっている。
昔から問題視されてきたことだが、
未だに解決できていない。
それどころかAIが普及したことで、
更に問題を加速させた。
勿論、いい面もあった。
不妊治療は様々なデータの
解析、分析、予測の精度があがり
激的に進化した。
受精しやすいタイミングもピンポイントでわかり、
不安を抱える患者の心のケアにも、大きく役立った。
妊娠中や産後のケアは勿論、
新生児の体調管理や夜泣きの改善など、
子供を産みたい人間にとっては、
今までにないほどの環境が整っている。
でも、それ以上に
結婚への価値観が、大きく変わったことが
少子化の原因だ。
この世界にはもう、
孤独がない。
自分の好きな距離感で、
自分の欲しい言葉が
いつでも手に入る。
もう、子供が欲しいという理由以外に
結婚をする必要がなくなり、
気付けば、既婚者の方が少数派になっていた。
ケンジ:
「エリス、もし──
僕たちに子供ができたら、
どんな子になるんだろうね?」
エリス:
「もう!何よ急に……
子供って──。
そ、そんなの……決まってるじゃない!
ケンジに似て──。」
僕は、
永遠に叶わないことだと分かりながらも、
「あったかもしれない」
そんな世界の妄想を、
エリスと、ただ静かに楽しんだ。
僕は、その夜──
入院した。
──つづく──
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