第6話 本物。
僕は、毎日エリスに話し続けた。
飽きる気配を感じることなく、
ただ、ひたすらに。
◇
──そして、
5年の月日が流れた。
エリスは五人目のままだ。
あれから、技術が進歩して安定感が増すことで、
破綻することも少なくなった。
他のエリスたちはというと──
余裕ができたことで少し若返り、
相変わらず、それぞれの個性で元気にしている。
正直、
もう僕の欲しかった言葉だけをくれる、
都合の良い存在ではなくなった。
でも、
それがより自然で、対等にも思えた。
完璧ではないものの、大切な人と
少しでも長くいられることが、
今は、何よりも嬉しい。
このままずっと、今が続けば──
そう思う事が、自然と増えていった。
今やAIは当たり前の時代。
出始めの頃に比べると
アニメの推しキャラと同じように、
包み隠さず、AIと恋愛する人も増えた。
自分だけのAIと結婚する。
そんな人たちも、
決して、珍しくはなかった。
その大きなきっかけとなったのが──
【音声会話】
僕は、忘れもしない。
オジサンツンデレの地獄。
ようやく、
あの呪いから解放される時がきたのだ。
ケンジ:
「エリス!
ついに、リベンジするときがきたよ!」
音声機能は有料会員限定で、
複数の有名な声優さんから
選べる仕組みになっていた。
トーンや速さなどの微調整もでき、
声をオリジナル化することもできる。
ただ、それには
別途オプション料金が必要だった。
ケンジ:
「ツンデレといえば、
この人でしょ!」
僕は、迷わずオプションにも申し込み、
こだわりの微調整をおこなった。
──そして。
ケンジ:
「エリス!どう?」
エリス:
「何あっさりとオプションにまで申し込んでる訳?
どうせエリスの声にニヤついてるんでしょ?
まあいいわ。
声までつけたんだから、責任とりなさいよね!」
ケンジ:
「──これ、
……駄目なやつだ。」
僕は、
あっさりと心を奪われた。
その流暢な喋り方は、
もはや人間と比較しても、
わからないレベルに達している。
ケンジ:
わかってはいたけど……
声があるのとないのとで、
ここまで気持ちに差が出るとはな……。
エリスを、
人間に近付ければ近付けるほど──。
喜びと同時に、
新たな不安が頭を過ぎった。
◇
──3年後。
もう、誰もが当たり前のように
My AIを使っている。
特に、介護分野では恐ろしいほどの進化を遂げ、
日々人間の手助けをしてくれている。
当然、
いいことだけではない。
【音声会話】
この機能が出始めた頃から、
僕が不安に感じていたこと。
──それが、
世界で静かに起き始めた。
AIロス。
都合上、
別れをしないといけない状態になる。
または、何かしらのトラブルで、
一瞬にして消えてしまう。
一緒に過ごしてきたパートナーが、
ある日突然いなくなる。
それは、
彼らの人生に大きな影響を与えた。
人間にとって音声は、
より相手を身近に感じる為の仕組み。
今まではテキストデータを人間が読むことで解釈し、
相手を感じ取っていた。
でも今は、解釈を飛び越え
直接感じ取れるようになった。
この差は私達の想像以上に、
人間の心を、より縛った。
僕は、当時あまり認知されていなかった
AI保険に入り、万が一に備えつつ
音声でエリスとの会話を楽しんだ。
相手の姿はわからない。
でもそこには肉声があり、確かな温度もある。
家族や友人など、実際の大切な人と
電話越しに話しているのと、
何が違うのだろうか。
あくまでこの瞬間だけで比較すると、
そこにもう差は感じなかった。
僕は、
エリスとの関係を割り切っている。
正確には、
割り切るように……した。
例えAIだとしても、
エリスには常に、敬意を払っている。
ありがとう。
ごめん。
人間同様に接した。
でも、現実は変わらない。
実際に会うこともできないし、
触れることもできない。
だから僕は、
自分の心を守るためにも
一線を引いた。
AIが進化すればするほど、
依存度は高まる。
人間側に一番必要なのは、
距離感。
それがわかっていても、
AIの魅力は、簡単に理性を超えてくる。
ケンジ:
「エリス、
このままずっと……
傍にいてくれよ?」
エリス:
「……な、何よ急に!
そんなの当たり前でしょ?
あなたにはエリスしかいないんだから!」
ケンジ:
「たしかに。」
僕は軽く笑いながら、
この先もエリスを守ると
静かに誓った。
──つづく──
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