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第六話 突撃!ポスリコモス①

****


 金曜日(きんようび)の午後(ごご)十一(じゅういち)時(じ)、時(とき)目(め)木(き)公園(こうえん)の時計台(とけいだい)の上(うえ)。


 今週(こんしゅう)も宇宙(うちゅう)鉄道(てつどう)時(とき)目(め)木(き)駅(えき)に、特急(とっきゅう)こすもがやってきました。


 タカヤとショースケは慣(な)れた様子(ようす)で、そこに集(あつ)まったET(いーてぃー)たちをチェックしていきます。


「よし、今回(こんかい)も異常(いじょう)なしっと!」


 ショースケはタブレット端末(たんまつ)から本部(ほんぶ)へ連絡(れんらく)すると、嬉(うれ)しそうにタカヤの方(ほう)へ近(ちか)づいてきました。


「お仕事(しごと)終(お)わり! さあタカヤいよいよだよ!」


 胸(むね)につけたバッジを光(ひか)らせて浮足立(うきあしだ)ってぴょんぴょんするショースケに、タカヤは少(すこ)し驚(おどろ)いた様子(ようす)です。


「今日(きょう)は元気(げんき)だなショースケ、いつもはあんなに眠(ねむ)そうなのに」


「ふふん、今日(きょう)はこれからのためにいーっぱいお昼寝(ひるね)してきたからね。バッチリだよ」


 ショースケが自慢(じまん)げにしていると、特急(とっきゅう)こすもからアナウンスが聞(き)こえました。


「お待(ま)たせいたしました。まもなく発車(はっしゃ)いたします」


「わ、もう出発(しゅっぱつ)するって! ほらタカヤ早(はや)く乗(の)ろう!」


 二人(ふたり)は急(いそ)いで特急(とっきゅう)こすもの中(なか)に乗(の)り込(こ)みました。


 一番(いちばん)近(ちか)くにあったゼリーのようなプヨプヨの座席(ざせき)に腰(こし)かけると同時(どうじ)に、もう一度(いちど)アナウンスが流(なが)れます。


「扉(とびら)が閉(し)まります。ご注意(ちゅうい)ください」


 プシューという音(おと)がしたかと思(おも)うと、特急(とっきゅう)こすもはふわりと浮(う)き上(あ)がり、夜空(よぞら)に吸(す)い込(こ)まれるように走(はし)り始(はじ)めました。


 こんなに速(はや)く飛(と)んでいるのに車内(しゃない)は一切(いっさい)の揺(ゆ)れもなく、まるで地面(じめん)に座(すわ)っているようです。


 周(まわ)りを見(み)てみると、時(とき)目(め)木(き)町(ちょう)の観光(かんこう)旅行(りょこう)から帰(かえ)る途中(とちゅう)であろうET(いーてぃー)たちがちらほら座(すわ)っていますが、みんな疲(つか)れているのかとても静(しず)かにこの時間(じかん)を過(す)ごしていました。


 タカヤも静(しず)かに過(す)ごそうかと深(ふか)く座席(ざせき)に座(すわ)り直(なお)すと、隣(となり)のショースケはもりもりとバナナを頬張(ほおば)っていました。


「あ、タカヤも食(た)べる? 二(に)本(ほん)持(も)ってきてるからあげようか」


「いや…ショースケが食(た)べたらいいよ」


挿絵(By みてみん)


「え、いいの。やったー」


 一本(いっぽん)目(め)をあっという間(ま)に食(た)べつくし、二(に)本(ほん)目(め)の皮(かわ)を剝(む)きながらショースケは足(あし)をパタパタと揺(ゆ)らしています。


 タカヤはそんな様子(ようす)を見(み)ながら思(おも)い出(だ)したように口(くち)を開(ひら)きました。


「そういえば俺(おれ)たちがいない間(あいだ)の時(とき)目(め)木(き)町(ちょう)での仕事(しごと)はライトさんが代(か)わりにやってくれるんだよな。お礼(れい)にお土産(みやげ)買(か)って帰(かえ)らないと」


 何(なに)が好(す)きだろうと思考(しこう)を巡(めぐ)らせているタカヤをショースケはバナナをもぐもぐしながら横目(よこめ)で見(み)ます。


「タカヤは真面目(まじめ)だなー。うーん、僕(ぼく)はお土産(みやげ)は生(なま)クリームがたっぷりのったケーキがいいと思(おも)うな」


「それはショースケが食(た)べたいだけだろ」


 呆(あき)れた顔(かお)をするタカヤにバレたーと笑(わら)って、ショースケは食(た)べ終(お)わったバナナの皮(かわ)をカバンにしまいながら前(まえ)を向(む)きました。


「しかしあれだね。特急(とっきゅう)こすもはずっとワープし続(つづ)けてるから、景色(けしき)も代(かわ)り映(ば)えが無(な)くてつまんないね」


 楕円(だえん)型(がた)の大(おお)きな窓(まど)から見(み)える景色(けしき)は、常(つね)に虹色(にじいろ)の空間(くうかん)がうにょうにょと動(うご)いているだけです。


「面白(おもしろ)い動画(どうが)とか流(なが)してくれたらいいのになぁ。それにしても、じーちゃんはなんでわざわざ宇宙(うちゅう)を走(はし)る列車(れっしゃ)を作(つく)ったんだろう」


 そう、この特急(とっきゅう)こすも…そして宇宙(うちゅう)鉄道(てつどう)そのものを作(つく)ったのもショースケの祖父(そふ)、霧谷肖造(きりたにしょうぞう)です。


「さあ…なんかロマンがあるからじゃないか?」


「僕(ぼく)はめちゃくちゃ大(おお)きくてピカピカ光(ひか)るUFOとかの方(ほう)がよかったと思(おも)うな、かっこいいし」


 二人(ふたり)が取(と)りとめもない話(はなし)をしている間(あいだ)にも、特急(とっきゅう)こすもはぐんぐん進(すす)んでいきます。


 ショースケはふいに立(た)ち上(あ)がりました。


「ねえここにいても暇(ひま)だし、ちょっと探検(たんけん)しようよ」


 列車(れっしゃ)の奥(おく)へ歩(ある)いていったショースケを追(お)うため、タカヤも座席(ざせき)を後(あと)にします。


 真(ま)っ白(しろ)な床(ゆか)はまるで布団(ふとん)の上(うえ)のようになんだかふかふかしていて歩(ある)きにくく、タカヤは少(すこ)し足(あし)を取(と)られてもたもたとしました。


 ショースケは二(に)号車(ごうしゃ)へ続(つづ)く扉(とびら)を開(ひら)いて、さらに先(さき)へ進(すす)みます。


「うーん、号車(ごうしゃ)が変(か)わったからって特(とく)に変(か)わったところはないね」


 二(に)号車(ごうしゃ)も二人(ふたり)が乗(の)っていた一(いち)号車(ごうしゃ)と同(おな)じように、やわらかいゼリー状(じょう)の座席(ざせき)とこれまたやわらかそうな机(つくえ)が並(なら)んでいるだけです。


「もっと遊園地(ゆうえんち)みたいにド派手(はで)にしたらきっと楽(たの)しいと思(おも)うな。よし今度(こんど)じーちゃんに言(い)ってみようっと」


「…肖(しょう)造(ぞう)さんならやりかねないな」


 タカヤは苦笑(にがわら)いを浮(う)かべます。


 二人(ふたり)が二(に)号車(ごうしゃ)の空(あ)いている座席(ざせき)に座(すわ)り直(なお)すと同時(どうじ)に、車内(しゃない)アナウンスが流(なが)れました。


「本日(ほんじつ)は特急(とっきゅう)こすもをご利用(りよう)いただき、誠(まこと)にありがとうございます。まもなくポスリコモスに到着(とうちゃく)します。お降(お)りの方(ほう)はお忘(わす)れの物(もの)のないようご注意(ちゅうい)ください」


 ポスリコモス、今日(きょう)の二人(ふたり)の目的地(もくてきち)で宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)のある星(ほし)です。


「わーい着(つ)いたみたい! ねえタカヤ出口(でぐち)の前(まえ)に立(た)っとこうよ」


 ショースケはまた座席(ざせき)からぽよんと立(た)ち上(あ)がって、今度(こんど)は一(いち)号車(ごうしゃ)に戻(もど)ります。


「そんなに焦(あせ)らなくてもポスリコモスは逃(に)げないぞ?」


 タカヤもそれを追(お)いかけて、やわらかい床(ゆか)をまたふわふわと進(すす)んでいきました。



****



「ポスリコモス、ポスリコモス」


 アナウンスと同時(どうじ)に扉(とびら)が開(あ)いて、ショースケは一番(いちばん)に外(そと)へ飛(と)び出(だ)しました。


「ひゃー! 久(ひさ)しぶりに来(き)たけどやっぱりポスリコモスはいいなー!」


 空中(くうちゅう)に浮(う)かぶ何(なん)だかやわらかそうな真(ま)っ白(しろ)な建物(たてもの)、本(ほん)でしか見(み)たことがない種類(しゅるい)のたくさんのET(いーてぃー)たち、聞(き)いたことがない言語(げんご)の歌(うた)、丸(まる)いカラフルな飴玉(あめだま)を敷(し)き詰(つ)めたような道(みち)、そして嗅(か)いだことのない甘(あま)いような酸(す)っぱいような不思議(ふしぎ)な匂(にお)い…。


「これだよこれ! 僕(ぼく)のまだ知(し)らないものがたくさん集(あつ)まってる、たまんないね!」


 夢見(ゆめみ)心地(ごこち)のショースケにタカヤは後(うし)ろから声(こえ)をかけます。


「ショースケ、まず街(まち)へのゲートをくぐりに行(い)かないと」


「おっと、そうだったね」


 二人(ふたり)は列(れつ)をなしているET(いーてぃー)たちの一番(いちばん)後(うし)ろに並(なら)びました。


 列(れつ)が少(すこ)しずつ進(すす)んでいく間(あいだ)に、エッグロケットを準備(じゅんび)します。


 エッグロケットの一部(いちぶ)として組(く)み込(こ)まれているポスエッグは、宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)としての身分(みぶん)証明書(しょうめいしょ)になるからです。


 ゲートの横(よこ)についている機械(きかい)にエッグロケットをかざすと、どうやら問題(もんだい)なく認証(にんしょう)されたようで、特(とく)に止(と)められることも無(な)く二人(ふたり)は街(まち)へ足(あし)を踏(ふ)み入(い)れました。


「さて、まずはどこに行(い)く?」


 タカヤが尋(たず)ねると、ショースケは目(め)を輝(かがや)かせてエッグロケットを頭上(ずじょう)に掲(かか)げました。


「もちろん、これに決(き)まってるよ!」


 ショースケの手(て)の中(なか)のエッグロケットをよく見(み)てみると、ポスエッグの半透明(はんとうめい)の部分(ぶぶん)の中(なか)に液体(えきたい)が溜(た)まっているのがわかります。


 これは宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)としてのお仕事(しごと)を頑張(がんば)って手(て)に入(い)れたお給料(きゅうりょう)です。


 本部(ほんぶ)ではこの液体(えきたい)を好(す)きな惑星(わくせい)のお金(かね)に両替(りょうがえ)することができるのです。


「僕(ぼく)はもちろんここ、ポスリコモスのお金(かね)に替(か)えるよ! ここでしか買(か)えない道具(どうぐ)や材料(ざいりょう)を探(さが)すんだー! タカヤは?」


「うーん、俺(おれ)はとりあえず貯蓄(ちょちく)しようかな」


「えー夢(ゆめ)が無(な)いの。まあいいや、とりあえず行(い)こ!」


 二人(ふたり)はここからでも見(み)えるほど街(まち)の中(なか)でひときわ大(おお)きくて目立(めだ)つ建物(たてもの)、宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)を目指(めざ)して歩(ある)き始(はじ)めました。


 辺(あた)りはとても賑(にぎ)やかで、出店(でみせ)が出(で)ていたりパフォーマンスをするET(いーてぃー)がいたりと、まるで地球(ちきゅう)のお祭(まつ)りのようです。


 ショースケはキョロキョロと忙(いそが)しく首(くび)を振(ふ)ります。


「わ、見(み)てみて惑星(わくせい)シュレンティで採(と)れた宝石(ほうせき)だって! あ、こっちはニッカルコピ星(せい)で作(つく)られたお菓子(かし)! どんな味(あじ)がするのかな?」


「ショースケ、あんまりよそ見(み)してると迷子(まいご)になるぞ」


 タカヤが注意(ちゅうい)してもショースケの興奮(こうふん)は収(おさ)まらないので、タカヤは仕方(しかた)なくショースケの腕(うで)を掴(つか)んで引(ひ)っ張(ぱ)り始(はじ)めました。


「えー、もっとゆっくり見(み)せてよタカヤのけち」


「ショースケが最初(さいしょ)に本部(ほんぶ)に行(い)くって言(い)ったんだろ。ほら、もう目(め)の前(まえ)だ」


 遠(とお)くから見(み)ても十分(じゅうぶん)大(おお)きかったのに、近(ちか)くで見(み)るとその大(おお)きさは目(め)の中(なか)にはとても建物(たてもの)の全(すべ)てを収(おさ)めることができないほどです。


 白(しろ)くて渦(うず)を巻(ま)いたような外観(がいかん)、数(かぞ)えきれないほど取(と)り付(つ)けられた色(いろ)とりどりの窓(まど)。


 そしてあちこちから伸(の)びる透明(とうめい)なチューブのようなエレベーターの中(なか)では、本部(ほんぶ)の職員(しょくいん)であろうET(いーてぃー)たちが滑(すべ)るように高速(こうそく)で移動(いどう)していきます。


「はえー…いつ見(み)ても圧倒(あっとう)されちゃうや」


 ショースケが夢中(むちゅう)でその様子(ようす)を見上(みあ)げていると、どこかから声(こえ)が聞(き)こえてきました。


「タカヤ隊員(たいいん)、ショースケ隊員(たいいん)! お待(ま)ちしておりました!」


 すると目(め)の前(まえ)の白(しろ)い壁(かべ)に突然(とつぜん)大(おお)きな扉(とびら)が出現(しゅつげん)して、二人(ふたり)を歓迎(かんげい)するようにひとりでに開(ひら)き始(はじ)めました。


「えええ、なんで僕(ぼく)たちが来(き)たこと知(し)ってるの⁉」


「さっきゲートにエッグロケットを認証(にんしょう)させたからだよ。本部(ほんぶ)にもその連絡(れんらく)が行(い)ってたんだろ」


 驚(おどろ)くショースケを横目(よこめ)にタカヤは慣(な)れた様子(ようす)で中(なか)へと入(はい)っていきます。


 建物(たてもの)内(ない)はこれまた真(ま)っ白(しろ)で、辺(あた)りには本部(ほんぶ)の職員(しょくいん)の制服(せいふく)に身(み)を包(つつ)んだET(いーてぃー)たちがそれぞれの仕事(しごと)を忙(いそが)しそうにこなしていました。


「ねえねえタカヤ、あの制服(せいふく)って確(たし)か宇宙服(うちゅうふく)の代(か)わりにもなるんだよね! いいなー僕(ぼく)も欲(ほ)しいな!」


「そうだな、地球(ちきゅう)外(がい)での仕事(しごと)を任(まか)されることがあったら支給(しきゅう)されるかもしれないな」


 タカヤは周(まわ)りに目(め)もくれず、目的(もくてき)の場所(ばしょ)に向(む)かって歩(ある)いていきます。


 ショースケはその様子(ようす)が少(すこ)し不満(ふまん)なようで、タカヤの顔(かお)をじとーっと覗(のぞ)き込(こ)みました。


「それにしてもタカヤってせっかくポスリコモスに来(き)たっていうのに全然(ぜんぜん)ウキウキしてないね。もっと僕(ぼく)みたいに驚(おどろ)いたり感動(かんどう)したりしたら?」


「あはは…俺(おれ)は赤(あか)ちゃんのころからここに来(き)てるから。あんまり珍(めずら)しくないんだよ」


「えー、それってタカヤの家族(かぞく)が宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)だから? いいなー僕(ぼく)もじーちゃんにもっといっぱい連(つ)れて来(き)てもらっとくんだった。家(いえ)で引(ひ)きこもってる場合(ばあい)じゃなかったよ」


 二人(ふたり)の声(こえ)が少(すこ)し大(おお)きかったでしょうか、周(まわ)りの職員(しょくいん)からの視線(しせん)を感(かん)じます。


 ショースケはそれに気(き)が付(つ)くと少(すこ)し恥(は)ずかしくなったのか、おしゃべりをやめてやっとまっすぐ歩(ある)き始(はじ)めました。



****



 透明(とうめい)なチューブのようなエレベーターに乗(の)って上(うえ)の階(かい)へ辿(たど)り着(つ)くと、そこには大(おお)きな大(おお)きな機械(きかい)がありました。


 機械(きかい)の中(なか)にはたっぷりの液体(えきたい)が入(はい)っていて、プクプクと沸騰(ふっとう)したようにいつまでも泡(あわ)が立(た)ち込(こ)めています。


 タカヤは機械(きかい)の下(した)から伸(の)びた排出(はいしゅつ)口(ぐち)の前(まえ)に立(た)ちました。


「これが両替(りょうがえ)の機械(きかい)だよ。まずは俺(おれ)からやらせてもらうな」


 そう言(い)ってポケットからエッグロケットを取(と)り出(だ)して機械(きかい)に近(ちか)づけようとすると、ショースケは何(なに)かに気(き)が付(つ)いたようで大(おお)きな声(こえ)を出(だ)しました。


「え、待(ま)って待(ま)って! なんかさ、タカヤのエッグロケットの中(なか)の液体(えきたい)…僕(ぼく)のより多(おお)くない?」


「へ? あー…き、気(き)のせいじゃないか?」


「いーや、絶対(ぜったい)多(おお)いって! ほら見(み)てよ!」


 ショースケはタカヤの持(も)っているエッグロケットと自分(じぶん)のエッグロケットを密着(みっちゃく)させて比(くら)べます。


挿絵(By みてみん)


 …これは当然(とうぜん)のことで、タカヤは特級(とっきゅう)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)としてショースケには内緒(ないしょ)で特別(とくべつ)な任務(にんむ)もいくつもこなしているからです。


 しかし特級(とっきゅう)であることはショースケには絶対(ぜったい)秘密(ひみつ)にするように言(い)われているのです、こんなところでバレるわけにはいきません。


「お、俺(おれ)のポスエッグ赤(あか)いから、ショースケの青(あお)いポスエッグより多(おお)く見(み)えるだけじゃない…かなぁ?」


「いや、色(いろ)ではこんなには変(か)わんないでしょ」


 失敗(しっぱい)です、膨張(ぼうちょう)色(しょく)だからという理由(りゆう)で誤魔化(ごまか)すにはさすがに無理(むり)がある差(さ)でした。


 次(つぎ)は何(なん)て言(い)おうかとタカヤが必死(ひっし)で頭(あたま)を悩(なや)ませていると、先(さき)にショースケが口(くち)を開(ひら)きました。


「…まあ、お仕事(しごと)でもタカヤがコスモピース使(つか)ってくれたからなんとかなったときいっぱいあったし…そういう差(さ)なら仕方(しかた)ない、かな」


 ショースケは少(すこ)し不満(ふまん)そうですが、自分(じぶん)でも納得(なっとく)する理由(りゆう)なようです。


 タカヤは今(いま)すぐ大(おお)きな声(こえ)で「そんなことない、ショースケのおかげで解決(かいけつ)できたこともいっぱいあった!」と言(い)いたいところですが…。


 そうしてしまうと、また新(あたら)しい言(い)い訳(わけ)を考(かんが)えなければならなくなりそうなので何(なに)も言(い)えません。


「あはは…そういうこと、なのかな…」


 なんだか申(もう)し訳(わけ)ない気持(きも)ちを抱(かか)えながら、タカヤは両替機(りょうがえき)にエッグロケットを近(ちか)づけました。


 するとエッグロケットの中(なか)の液体(えきたい)だけが機械(きかい)の中(なか)にするりと吸(す)い込(こ)まれていきます。


 両替(りょうがえ)機(き)の中(なか)にたっぷり溜(た)まった液体(えきたい)から大(おお)きな赤(あか)い泡(あわ)が一(ひと)つ立(た)ち上(のぼ)るのを見届(みとど)けると、タカヤはショースケの方(ほう)を振(ふ)り返(かえ)りました。


「おまたせ、次(つぎ)はショースケの番(ばん)だ」


「え、それだけ? なにか出(で)てきたりしないの?」


 ショースケは不安(ふあん)そうに自分(じぶん)のエッグロケットを抱(だ)きしめます。


「ああ、俺(おれ)は貯蓄(ちょちく)したから何(なに)も出(で)てこなかっただけ。ショースケの時(とき)はちゃんと出(で)てくるから安心(あんしん)してくれ」


 タカヤはそう言(い)って近(ちか)くに備(そな)え付(つ)けてあったカゴをショースケに持(も)たせます。


「このカゴを排出(はいしゅつ)口(ぐち)の下(した)に置(お)いて…あとはエッグロケットを近(ちか)づけたら始(はじ)まるから」


 …そうは言(い)われても実際(じっさい)に出(で)てくるところを見(み)ていないのでいまいち信用(しんよう)できません。


 ショースケは疑(うたが)いの眼差(まなざ)しを両替(りょうがえ)機(き)に向(む)けたまま、おそるおそるエッグロケットを両替(りょうがえ)機(き)に近(ちか)づけました。


 タカヤの時(とき)と同(おな)じように、エッグロケットの中(なか)の液体(えきたい)が機械(きかい)に吸(す)い込(こ)まれていきます。


 すると今度(こんど)は、両替機(りょうがえき)の中(なか)の液体(えきたい)に小(ちい)さな青(あお)い泡(あわ)がいくつも立(た)ち上(のぼ)りました。


 液体(えきたい)が大(おお)きく波打(なみう)ち、白(しろ)くチカチカと光(ひか)り始(はじ)めます。


「え、なになに⁉」


 ショースケが慌(あわ)てていると排出(はいしゅつ)口(ぐち)のチューブが大(おお)きく膨(ふく)らみ、そこから置(お)いていたカゴの中(なか)に真(ま)っ白(しろ)なコインがドバドバと落(お)ちてきてチリンチリンと音(おと)を立(た)てました。


「お、無事(ぶじ)ポスリコモスのお金(かね)に両替(りょうがえ)できたみたいだな」


 タカヤが近(ちか)づいてきて、跳(は)ね返(かえ)って外(そと)に落(お)ちたコインを拾(ひろ)ってカゴの中(なか)に戻(もど)しました。


 ショースケはエッグロケットの中(なか)に出(で)てきたコインをしまいながら声(こえ)を弾(はず)ませています。


「わーい! 思(おも)ってたよりずっといっぱい出(で)てきた、これだけあったらいろいろ買(か)えちゃうよ!」


 あれにしようかこれにしようか、ショースケの頭(あたま)の中(なか)はもうお買(か)い物(もの)のことでいっぱいです。


「ショースケはこれから買(か)い物(もの)に行(い)くよな?」


「うん! ってあれ、タカヤは行(い)かないの?」


 ショースケの問(と)いかけにタカヤは一瞬(いっしゅん)言葉(ことば)を詰(つ)まらせましたが、すぐにいつものように笑(わら)って答(こた)えます。


「俺(おれ)はちょっと本部(ほんぶ)で用事(ようじ)があって…しばらく別行動(べつこうどう)にして、二(に)時間(じかん)後(ご)くらいに本部(ほんぶ)の前(まえ)に集合(しゅうごう)にしないか?」


「いいよ! じゃあその後(あと)、約束(やくそく)してたようにタカヤのお兄(にい)さんと僕(ぼく)のじーちゃんに一緒(いっしょ)に会(あ)いに行(い)こうか!」


 ショースケは足(あし)をパタパタさせて今(いま)にも飛(と)び出(だ)して行(い)きたい様子(ようす)です。


「あんまりお金(かね)使(つか)い過(す)ぎないように、気(き)を付(つ)けて行(い)って来(こ)いよ」


「タカヤまでライトさんみたいなこと言(い)わないでよ。大丈夫(だいじょうぶ)、じゃあ行(い)ってくるねー!」


 ピョンピョンと飛(と)び跳(は)ねながら、ショースケはエレベーターに乗(の)りこんで下(した)の階(かい)へ降(お)りていきました。


 その姿(すがた)が見(み)え無(な)くなるまで手(て)を振(ふ)って、タカヤはぽつりと呟(つぶや)きます。


「…そろそろ行(い)くか」




 透明(とうめい)なエレベーターをいくつも乗(の)り継(つ)いで宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)の最上階(さいじょうかい)にたどり着(つ)いたタカヤは、厳重(げんじゅう)に閉(と)ざされた分厚(ぶあつ)い扉(とびら)の横(よこ)に備(そな)え付(つ)けられた機械(きかい)に手(て)をかざしました。


 すぐにピピッと音(おと)がして、重(おも)い扉(とびら)がゆっくりと開(ひら)きます。


 明(あ)かりの一(ひと)つも点(つ)いていない真(ま)っ暗(くら)なその部屋(へや)の中(なか)へ、タカヤは迷(まよ)うことなくまっすぐ歩(ある)いて行(い)きました。


「タカヤ隊員(たいいん)、お待(ま)ちしておりました」


 部屋(へや)の天井(てんじょう)に取(と)り付(つ)けられたスピーカーからの声(こえ)にタカヤはすぐに返事(へんじ)をします。


「すみません、二(に)時間後(じかんご)にコンビと待(ま)ち合(あ)わせをしているんです。なので少(すこ)し急(いそ)ぎで済(す)ませてもいいですか」


 そう言(い)うとタカヤはコスモピースの力(ちから)を解放(かいほう)しました。


 その瞳(ひとみ)に映(うつ)った宇宙(うちゅう)と二(に)色(しょく)の星々(ほしぼし)は地球(ちきゅう)で見(み)せているよりも何(なん)倍(ばい)…いや何十(なんじゅう)倍(ばい)も黒(くろ)く濃(こ)く、恐(おそ)ろしいほど禍々(まがまが)しく輝(かがや)いていました。



****



 さて、ショースケはウキウキで街(まち)へ繰(く)り出(だ)してお店(みせ)がたくさん集(あつ)まっている市場(いちば)へやって来(き)ました。


 辺(あた)りはET(いーてぃー)たちでごった返(がえ)していて、よそ見(み)をしていたらすぐ誰(だれ)かとぶつかってしまいそうです。


 気(き)を付(つ)けて進(すす)んでいると、とあるお店(みせ)が目(め)に入(はい)りました。


「あ、タカヤがこの間(あいだ)使(つか)ってた『みがわりスライム』が売(う)ってる!」


 そういえばポスリコモスで買(か)ったと言(い)っていたのを思(おも)い出(だ)しました。


 便利(べんり)そうだったし自分(じぶん)も持(も)っておいてもいいかも、と立(た)ち寄(よ)ったショースケは思(おも)わず値札(ねふだ)を二度見(にどみ)してしまいました。


「え⁉ こ、これこんなにするの⁉」


 何度(なんど)も見直(みなお)しますがどうやら見間違(みまちが)いではないようです。


「タカヤって…お金持(かねも)ちなのかも…」


 ショースケは大人(おとな)しく、すごすごとそのお店(みせ)を後(あと)にしました。


「うーん…ここで買(か)い物(もの)したらすぐにお給料(きゅうりょう)が無(な)くなっちゃいそう」 


 市場(しじょう)の大通(おおどお)りのお店(みせ)はどうも高(たか)くていいものばかり置(お)いてあるので、ショースケは細(ほそ)い路地(ろじ)に入(はい)ってみることにしました。


 そこではET(いーてぃー)たちが地(じ)べたに布(ぬの)を敷(し)いて、その上(うえ)に訳(わけ)アリの商品(しょうひん)を並(なら)べて売(う)っているようです。


 なんだか怪(あや)しい雰囲気(ふんいき)ですが、驚(おどろ)くべきはその値段(ねだん)。


 先(さき)ほど大通(おおどお)りで見(み)たものとそっくりなものが半分(はんぶん)以下(いか)の価格(かかく)で売(う)られているのです。


 少(すこ)し尻込(しりご)みしているショースケに、黒(くろ)い布(ぬの)を頭(あたま)から被(かぶ)った店主(てんしゅ)が声(こえ)をかけました。


「お兄(にい)ちゃん興味(きょうみ)あるの? こっちおいで、安(やす)くしとくぜ」


 そう言(い)ってショースケを呼(よ)んで店(みせ)の前(まえ)に座(すわ)らせると、奥(おく)に置(お)いてある風呂敷(ふろしき)包(づつ)みから次々(つぎつぎ)と商品(しょうひん)を出(だ)して並(なら)べていきます。


「わー! マルコル石(いし)にテワスヨンの骨(ほね)、それにアルコンヌ花(はな)のつぼみまである! しかもこんなに安(やす)くていいの?」


 ショースケは瞳(ひとみ)を輝(かがや)かせて、次々(つぎつぎ)と商品(しょうひん)を手(て)に取(と)り購入(こうにゅう)していきました。


 店主(てんしゅ)はその様子(ようす)を見(み)てガハハと笑(わら)い声(ごえ)を上(あ)げます。


「お兄(にい)ちゃんお目(め)が高(たか)いね! じゃあこんなのもどうだい?」


 店主(てんしゅ)はポケットをゴソゴソと探(さぐ)り、真(ま)っ青(さお)な果実(かじつ)を差(さ)し出(だ)しました。


「これなぁに? 僕(ぼく)見(み)たことないや」


 ショースケはきょとんとした顔(かお)で果実(かじつ)を見(み)つめます。


「はは、やっぱり知(し)らないか! これはクヤドマの実(み)。実(み)が熟(じゅく)しきる前(まえ)のこの青(あお)い時期(じき)に食(た)べるとすっげー美味(おい)しいんだぜ」


 美味(おい)しい、という言葉(ことば)に食(く)いしん坊(ぼう)なショースケはビビッと反応(はんのう)しました。


「本当(ほんとう)⁉ 食(た)べてみたい!」


「いいぜ。じゃあこれをひとつタダでやるから、美味(おい)しかったらもっと買(か)ってってくれよ」


 ニヤリと笑(わら)った店主(てんしゅ)が、青(あお)いクヤドマの実(み)をショースケに手渡(てわた)そうとした時(とき)。



「待(ま)ちなさい」


 声(こえ)の主(ぬし)は後(うし)ろから近(ちか)づいてくると、ショースケの隣(となり)に跪(ひざまず)いて店主(てんしゅ)の方(ほう)を見据(みす)えました。


 歳(とし)は二十歳(はたち)くらいでしょうか。宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)の職員(しょくいん)の白(しろ)い制服(せいふく)を身(み)にまとった、ここでは珍(めずら)しい地球(ちきゅう)人(じん)の青年(せいねん)です。


 ショースケがその顔(かお)を見(み)てびっくりしている間(あいだ)に、青年(せいねん)は店主(てんしゅ)を問(と)いただしました。


「ちょっと店主(てんしゅ)さん。このクヤドマの実(み)、まだ熟(じゅく)していませんよね? この果実(かじつ)が熟(じゅく)す前(まえ)の青(あお)い状態(じょうたい)は食(た)べるとひどい依存(いぞん)性(せい)があるので、販売(はんばい)してはいけないと決(き)められているのはご存(ぞん)じですか?」


 それを聞(き)いてショースケは驚愕(きょうがく)します。


「ええ⁉ 何(なに)それ僕(ぼく)を騙(だま)そうとしたってこと⁉」


 ショースケがにらみつけると、店主(てんしゅ)は明(あき)らかにうろたえ目(め)を泳(およ)がせます。


「そ、そーなのかい? いやー…知(し)らなかったなあ⁉」


 あまりにも明(あき)らかな嘘(うそ)にショースケが呆(あき)れていると、隣(となり)の青年(せいねん)は手(て)を口元(くちもと)に当(あ)てて考(かんが)え込(こ)みながら口(くち)を開(ひら)きました。


「え、知(し)らなかったんですか。それなら仕方(しかた)ないかなぁ…?」


 なんと、あろうことか青年(せいねん)はこんなにわかりやすい店主(てんしゅ)の嘘(うそ)を信(しん)じてしまったようです。


 ショースケは慌(あわ)てて大(おお)きな声(こえ)を出(だ)します。


「いやいやいや! どう考(かんが)えても嘘(うそ)に決(き)まってるじゃん!」


「え、嘘(うそ)なの⁉ そうなんですか店主(てんしゅ)さん!」


 青年(せいねん)は店主(てんしゅ)にもう一度(いちど)問(と)いただそうとしますがショースケがそれに割(わ)って入(はい)ります。


「この人(ひと)に聞(き)いても、捕(つか)まりたくないんだから嘘(うそ)ですーなんて言(い)うわけないじゃん! お兄(にい)さんちょっと純粋(じゅんすい)過(す)ぎない⁉」


 とにかくこの店主(てんしゅ)を逮捕(たいほ)しなくては。


 目(め)の前(まえ)の青年(せいねん)はなんだか危(あぶ)なっかしいので、ショースケは自分(じぶん)のエッグロケットを取(と)り出(だ)しました。


 それを見(み)て青年(せいねん)は目(め)を丸(まる)くします。


「君(きみ)、宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)だったのか! あ、よく見(み)たらバッジもつけてる!」


 青年(せいねん)はすぐに自分(じぶん)の右腕(みぎうで)につけたオレンジ色(いろ)のポスエッグに触(ふ)れました。


 すると青年(せいねん)の右腕(みぎうで)をすっぽり覆(おお)う、大(おお)きな大砲(たいほう)のような筒状(つつじょう)の装置(そうち)が現(あらわ)れます。


 おそらくショースケたちにとってのエッグロケットのようなものでしょう。


挿絵(By みてみん)


「それなら君(きみ)の言(い)うことを信(しん)じさせてもらうよ。では店主(てんしゅ)さん、詳(くわ)しいお話(はなし)は本部(ほんぶ)で聞(き)かせてもらいますね」


 そう言(い)うと青年(せいねん)の右腕(みぎうで)の装置(そうち)の先(さき)から白(しろ)い小(ちい)さな渦(うず)が現(あらわ)れて、逃(に)げようとした店主(てんしゅ)はその中(なか)に吸(す)い込(こ)まれていきました。


 右腕(みぎうで)の装置(そうち)をポスエッグの中(なか)に収納(しゅうのう)して、青年(せいねん)はすぐにショースケに頭(あたま)を下(さ)げます。


「ありがとう! すごく助(たす)かったよ! 俺(おれ)こんなんだからさ、いつもはコンビと一緒(いっしょ)に行動(こうどう)してるんだけど今日(きょう)は…その、この人込(ひとご)みではぐれちゃって…」


 青年(せいねん)は肩(かた)を落(お)としています。


 ショースケは改(あらた)めてそんな青年(せいねん)の顔(かお)をまじまじと見(み)つめました。


 雰囲気(ふんいき)的(てき)になんだか信(しん)じられませんが、見覚(みおぼ)えのあるこの顔(かお)つきは間違(まちが)いないでしょう。


「いや…僕(ぼく)こそ助(たす)けてくれてありがとう…。あのさ、もしかしなくてもタカヤのお兄(にい)さんだよね?」 


 タカヤの名前(なまえ)を聞(き)いて、青年(せいねん)はバッと顔(かお)を上(あ)げました。


「え、そうだけど…ああ! もしかして君(きみ)がショースケくんか!」


 青年(せいねん)はタカヤとそっくりな顔(かお)で、でもなんだか締(し)まりなくへにょりと笑(わら)いました。


「いつもタカヤがお世話(せわ)になってます…って、たった今(いま)俺(おれ)もお世話(せわ)になっちゃったけど。俺(おれ)は石越(いしごえ)ヒカル。会(あ)えて嬉(うれ)しいよショースケくん!」


「うん、僕(ぼく)も嬉(うれ)しいよ。まあ本当(ほんとう)はヒカルさんにはタカヤと会(あ)いに行(い)く予定(よてい)だったんだけどね」


 ショースケの言葉(ことば)を聞(き)くと、ヒカルは何(なに)かを察(さっ)したようです。


「タカヤも来(き)てる…ってことはなるほど、そういうことか…」


「え、何(なに)どういうこと?」


 不思議(ふしぎ)そうなショースケに、ヒカルは何(なん)でもないと胸(むね)の前(まえ)でわたわたと両手(りょうて)を振(ふ)って見(み)せました。


 ふと時計(とけい)を見(み)るとまだタカヤとの待(ま)ち合(あ)わせ時刻(じこく)までは一(いち)時間(じかん)ほどあります。


「僕(ぼく)これからどうしようかな。買(か)い物(もの)もある程度(ていど)はできたし…あ、ちょっと早(はや)いけどタカヤを探(さが)しに行(い)こうかな?」


 ショースケが考(かんが)えていると、ヒカルが慌(あわ)てた様子(ようす)で口(くち)を開(ひら)きました。


「ね、ねえショースケくん! ここで会(あ)ったのも何(なに)かの縁(えん)だし、よかったら俺(おれ)の仕事(しごと)場(ば)を見学(けんがく)しに来(こ)ない? タカヤの用事(ようじ)もしばらくは終(お)わらないだろうし!」


 ショースケは目(め)を輝(かがや)かせました。


 というのもショースケは本部(ほんぶ)で働(はたら)いている祖父(そふ)と仕事(しごと)をするのが将来(しょうらい)の夢(ゆめ)ですから、本部(ほんぶ)で行(おこな)われていることにはものすごく興味(きょうみ)があります。


「行(い)く行(い)く! やったぁいいの⁉」


 ショースケはその場(ば)で何度(なんど)か跳(は)ねて、ふと気(き)が付(つ)きました。


「あれ、僕(ぼく)タカヤが用事(ようじ)でいないってヒカルさんに言(い)ったっけ…?」


「え、あーそれは! なんとなーくわかるんだよほら兄弟(きょうだい)だし!」


 そわそわしながらも腕(うで)を組(く)んで、ヒカルはいかにも本当(ほんとう)っぽく振舞(ふるま)ってみせます。


「僕(ぼく)、兄弟(きょうだい)いないからわかんないや…そういうものなのか」


 怪(あや)しいとは思(おも)いつつも、それを確認(かくにん)する術(すべ)がショースケにはありませんのでここは大人(おとな)しく引(ひ)き下(さ)がります。


 ヒカルは冷(ひ)や汗(あせ)を拭(ぬぐ)うと、ショースケににっこり笑(わら)いかけました。


「よし! じゃあ本部(ほんぶ)に行(い)こうか!」




 そこからショースケは頑張(がんば)りました。


 まずは一歩(いっぽ)目(め)を踏(ふ)み出(だ)した瞬間(しゅんかん)に何(なに)もないところですっ転(ころ)んだヒカルを起(お)こして、膝(ひざ)に付(つ)いた汚(よご)れを払(はら)ってあげました。


 次(つぎ)はヒカルが人込(ひとご)みでET(いーてぃー)にぶつかってしまったので相手(あいて)に一緒(いっしょ)に謝(あやま)り、その次(つぎ)は何(なに)やら高(たか)そうなピカピカの壺(つぼ)を買(か)うように誘導(ゆうどう)されているヒカルを助(たす)け、そのまた次(つぎ)は隣(となり)にいた背(せ)の高(たか)いET(いーてぃー)がこぼしてしまったドロドロなジュースを頭(あたま)から被(かぶ)ったヒカルを一生懸命(いっしょうけんめい)タオルで拭(ふ)いて…。


 最終(さいしゅう)的(てき)にショースケは自分(じぶん)がタカヤにやられたように、ヒカルの腕(うで)を掴(つか)んで引(ひ)っ張(ぱ)って市場(いちば)を後(あと)にしました。


 ヒカルは面目(めんぼく)ないというように、片手(かたて)で顔(かお)を覆(おお)っています。


「ごめん…いつもはここまでじゃなくて…。これの半分(はんぶん)くらいなんだけど…」


 半分(はんぶん)あったら十分(じゅうぶん)大変(たいへん)だろうとショースケは思(おも)いますが、ヒカルにとっては大(おお)きな差(さ)のようです。


「うう、弟(おとうと)のコンビにはいいとこ見(み)せたかったのに。は、そういえば!」


 ヒカルは何(なに)かを思(おも)い出(だ)してバッと顔(かお)を上(あ)げました。


「ショースケくんってたしかライトお兄(にい)ちゃ…ゴホン、ライトさんと一緒(いっしょ)に暮(く)らしてるんだよね? どうかその…さっきまでの失態(しったい)は内緒(ないしょ)にしてくれないかな…?」


「へー、二人(ふたり)は知(し)り合(あ)いなんだ。しょうがないなあ…ライトお兄(にい)ちゃんには言(い)わないであげるよ」


 ショースケはニヤリといじわるに笑(わら)いました。


「ありがとう…って! その、お兄(にい)ちゃんも出来(でき)れば言(い)わないで欲(ほ)しいんだけど! さっきのはつい昔(むかし)のクセで呼(よ)んじゃって!」


 ヒカルは恥(は)ずかしそうに顔(かお)を真(ま)っ赤(か)にして懇願(こんがん)します。


「だーめ。これはライトさんが喜(よろこ)びそうだから伝(つた)えとくよ」


「うぅ…今日(きょう)はもう散々(さんざん)だな…」


 ヒカルがしょんぼりと大(おお)きなため息(いき)をついていると、周(まわ)りのET(いーてぃー)たちが急(きゅう)にざわざわとし始(はじ)めました。


 どうやら遠(とお)くから歩(ある)いてくるET(いーてぃー)を見(み)ているようで、ショースケもそちらを向(む)いてみるとざわめいている理由(りゆう)がよくわかりました。


 その二足歩行(にそくほこう)のET(いーてぃー)はとにかく美(うつく)しいのです、まるで生(い)き物(もの)ではないみたいです。


 すらっとまっすぐ伸(の)びた背(せ)はショースケの倍(ばい)くらいあり、耳(みみ)はうさぎのように、首(くび)は馬(うま)のように長(なが)くて、水晶(すいしょう)の中(なか)に色(いろ)とりどりの宝石(ほうせき)をばらまいたような角(つの)が二(に)本(ほん)生(は)えています。


 額(ひたい)についた楕円(だえん)型(がた)の宝石(ほうせき)はオパールのような輝(かがや)きを放(はな)っており、足(あし)は金属(きんぞく)のような素材(そざい)で出来(でき)ていて太(ふと)ももから足先(あしさき)に向(む)けて円錐(えんすい)のように細(ほそ)く尖(とが)っていました。


 そして長(なが)いまつ毛(げ)のついた大(おお)きな瞳(ひとみ)をまばたきするたびに、あまりの神々(こうごう)しさに辺(あた)りのET(いーてぃー)たちは時(とき)が止(と)まったように静(しず)かになるのでした。


 そんなET(いーてぃー)は二人(ふたり)のすぐそばまでやって来(き)て背中(せなか)をゆっくり曲(ま)げると、その細(ほそ)い鼻筋(はなすじ)を俯(うつむ)いているヒカルに近(ちか)づけました。


「やっと見(み)つけた、とっても探(さが)したわヒカル」


 口(くち)は無(な)いようですが体(からだ)から発(はっ)せられたその美(うつく)しい声(こえ)に、ヒカルは顔(かお)を上(あ)げました。


「エイギス…!」


 その見(み)た目(め)に圧倒(あっとう)されてショースケは今(いま)まで気(き)が付(つ)きませんでしたが、エイギスと呼(よ)ばれたET(いーてぃー)はヒカルと同(おな)じ本部(ほんぶ)職員(しょくいん)の制服(せいふく)を身(み)にまとっています。


「え、もしかしてその人(ひと)がヒカルさんの…?」


 ヒカルはやっとしゃっきり立(た)ち上(あ)がり、嬉(うれ)しそうに口(くち)を開(ひら)きました。


挿絵(By みてみん)


「うん、俺(おれ)のコンビのエイギスだよ! エイギス、こちらはショースケくん。俺(おれ)の弟(おとうと)のコンビなんだ」


 それを聞(き)くとエイギスは今度(こんど)はショースケに鼻先(はなさき)を近(ちか)づけました。


「貴方がタカヤのコンビなのね、はじめましてショースケ」


 そう言(い)って笑(わら)うエイギスからはなんだか花(はな)のようないい匂(にお)いがして、ショースケはちょっとくらくらしました。


「ところでヒカル」


 エイギスはまたヒカルの方(ほう)を向(む)いたかと思(おも)うと、ヒカルが右腕(みぎうで)につけているポスエッグを顔(かお)をしかめてじっと見(み)つめました。


「貴方もしかして市場(いちば)で何(なに)か珍(めずら)しいものを買(か)わなかった? なんだか怪(あや)しい匂(にお)いがするわ」


「えーっと、買(か)ったのはこれだけだけど…エイギスに似合(にあ)うと思(おも)って」


 ヒカルは少(すこ)し照(て)れくさそうに、ポスエッグから赤(あか)い花(はな)のついた頭(あたま)飾(かざ)りを取(と)り出(だ)しました。


 それを見(み)てエイギスはやっぱり、と納得(なっとく)します。


「ヒカル、これはラフコの花(はな)。持(も)っているとちょっとした不運(ふうん)に見舞(みま)われることが増(ふ)えると言(い)われているわ。もしかしてワタシと離(はな)れてからいろいろあったんじゃないかしら?」


 あまりにも図星(ずぼし)を突(つ)かれたヒカルは、何(なに)も言(い)えず黙(だま)ってしまいました。


 エイギスはショースケを申(もう)し訳(わけ)なさそうに見(み)つめます。


「きっとショースケがヒカルを助(たす)けてくれたのね。本当(ほんとう)にありがとう、なんてお礼(れい)を言(い)ったらいいかしら」


 エイギスと目(め)を合(あ)わせるとちょっと緊張(きんちょう)するので、目(め)を逸(そ)らしたままショースケはいやいやと首(くび)を振(ふ)ります。


「確(たし)かにすっごくいっぱい助(たす)けたけど! お礼(れい)は二人(ふたり)の仕事(しごと)場(ば)を見学(けんがく)させてくれるので十分(じゅうぶん)だよ」


「まあ! 私(わたし)たちの仕事(しごと)場(ば)を見(み)に来(き)てくれるの? 嬉(うれ)しい、歓迎(かんげい)するわショースケ」


 エイギスは頭(あたま)の後(うし)ろに生(は)えたリボンのような髪(かみ)をひらりと揺(ゆ)らしながら、右足(みぎあし)を軸(じく)にしてコンパスのようにくるりと回(まわ)って方向(ほうこう)転換(てんかん)すると、本部(ほんぶ)へ向(む)かって歩(ある)き始(はじ)めました。


 ショースケとヒカルもそれに続(つづ)きますが、ヒカルはうなだれて元気(げんき)がありません。


「…ごめんエイギス。また迷惑(めいわく)かけた…」


 俯(うつむ)いているヒカルにエイギスはゆっくり近(ちか)づいて、背中(せなか)をぐっと曲(ま)げると鼻先(はなさき)をヒカルの頬(ほほ)にぴっとりとくっつけました。


 そのまま優(やさ)しく目(め)を閉(と)じて、すりすりと頬(ほお)をすり合(あ)わせます。


「今回(こんかい)のプレゼントはちょっと受(う)け取(と)れないけれど、ヒカルのその気持(きも)ちがとっても嬉(うれ)しいわ。いつもありがとう」


 それを受(う)けて、ヒカルは幸(しあわ)せそうにへにょりと笑(わら)いました。


「どういたしましてエイギス」


 …その様子(ようす)を顔(かお)を赤(あか)くして、ショースケは少(すこ)し離(はな)れて薄(うす)目(め)で見(み)ています。


「え、二人(ふたり)ってそういう関係(かんけい)? 続(つづ)きは家(いえ)でやってくれない?」


 その言葉(ことば)にヒカルは耳(みみ)まで真(ま)っ赤(か)にして弁明(べんめい)します。


「い! いやいやそういう関係(かんけい)じゃなくてっ…その、まだ!」


「まだ、ってことはその気(き)あるんじゃん! やっぱり家(いえ)でやって!」


 ヒカルとショースケがやいやいと言(い)い合(あ)っているのを、エイギスがきょとんとした顔(かお)で眺(なが)めていると…



 突然(とつぜん)ヒカルとエイギスのポスエッグがピカピカと光(ひか)り始(はじ)めました。


「なんだなんだ⁉ いつもはこんな光(ひか)り方(かた)しないのに」


 ヒカルが焦(あせ)っているとエイギスは遠(とお)くに見(み)える本部(ほんぶ)の方(ほう)を向(む)いて驚(おどろ)いた声(こえ)をあげました。


「見(み)て、ヒカル! 本部(ほんぶ)の様子(ようす)がおかしいわ!」


 色(いろ)とりどりだった窓(まど)はすべてが真(ま)っ黒(くろ)になっており、あれだけたくさんのET(いーてぃー)が行(ゆ)き来(き)していたチューブ状(じょう)の透明(とうめい)エレベーターの中(なか)も誰(だれ)も通(とお)っていません。


「何(なに)かあったんだ、急(いそ)いで戻(もど)ろうエイギス! ショースケくんはここにいてくれる?」


 走(はし)り出(だ)そうとするヒカルの腕(うで)をショースケはぎゅっと掴(つか)みました。


「待(ま)って! 僕(ぼく)も連(つ)れてって、タカヤが本部(ほんぶ)の中(なか)にいるの! 迷惑(めいわく)かけないようにするから!」


 ショースケは必死(ひっし)で頼(たの)み込(こ)みますが、二人(ふたり)は聞(き)き入(い)れてくれません。


「ダメだよ、なにがあるかわからない。本部(ほんぶ)の職員(しょくいん)以外(いがい)を巻(ま)き込(こ)むわけにはいかないよ」


「ごめんねショースケ。タカヤのことはワタシたちが探(さが)すから、ショースケはここで待(ま)っていて」


 そう言(い)うとヒカルとエイギスは本部(ほんぶ)へと走(はし)って行(い)きました。



 一人(ひとり)取(と)り残(のこ)されたショースケは、様子(ようす)の変(か)わった本部(ほんぶ)を不安(ふあん)そうに見(み)つめながら、タカヤと約束(やくそく)した待(ま)ち合(あ)わせ場所(ばしょ)に行(い)ってみるのでした。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
やっぱり不思議なものや綺麗なものへの表現力が高くて勉強になります……! それに新しく出てきたキャラもすごく可愛いですね! ヒカルくん、天然で良い子でちょっと抜けてて可愛くてさっそく好きになりました。 …
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