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第七話 突撃!ポスリコモス②

****


 ヒカルとエイギスが宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)に合鍵(あいかぎ)を使(つか)って入(はい)ると、その中(なか)では職員(しょくいん)たちが大忙(おおいそが)しで走(はし)り回(まわ)っています。


 ヒカルは近(ちか)くにいた職員(しょくいん)に声(こえ)をかけました。


「一体(いったい)何(なに)があったんですか?」


 職員(しょくいん)は紫色(むらさきいろ)のガス状(じょう)の体(からだ)をかすませて、困惑(こんわく)している様子(ようす)で答(こた)えます。


「どうにも最上階(さいじょうかい)のエネルギー室(しつ)で大量(たいりょう)のエネルギーが一度(いちど)に作(つく)り出(だ)されてしまったようで…。エネルギー貯蔵庫(ちょぞうこ)の一部(いちぶ)が壊(こわ)れてしまったみたいです。その影響(えいきょう)でそこにあるエネルギーを使用(しよう)していた本部(ほんぶ)の設備(せつび)が全(すべ)てストップしています」


「エネルギー室(しつ)…」


 ヒカルはぽそりと呟(つぶや)き、エイギスの方(ほう)を向(む)きました。


「エイギス、俺(おれ)ちょっと行(い)くところがあるからエイギスは…タカヤを探(さが)してくれないか? 多分(たぶん)…図書室(としょしつ)あたりにいるんじゃないかと思(おも)うから!」


 少(すこ)し目(め)を逸(そ)らしながらそう言(い)うと、ヒカルは走(はし)り始(はじ)めました。


「ちょっとヒカルどこへ行(い)くの⁉」


 エイギスの呼(よ)びかけを遠(とお)くに聞(き)きながら、忙(せわ)しなく動(うご)いている職員(しょくいん)の間(あいだ)をすり抜(ぬ)けていきます。


 エレベーターは全(すべ)て貯蔵庫(ちょぞうこ)のエネルギーを使(つか)っていたので動(うご)きません。


「…無事(ぶじ)でいてくれよ、タカヤ」


 ヒカルは最上階(さいじょうかい)へ向(む)かうため、途方(とほう)もない数(かず)の階段(かいだん)を上(のぼ)り始(はじ)めました。



****



「うーん…やっぱり来(こ)ないなぁ…」


 ショースケは一人(ひとり)、本部(ほんぶ)の前(まえ)に座(すわ)り込(こ)んでいました。


 待(ま)ち合(あ)わせ時刻(じこく)を過(す)ぎても、タカヤはやって来(き)ません。


「何(なに)かあったのかな…テレパシーも応答(おうとう)が無(な)いし…」


 じーっとしているとどんどん不安(ふあん)になっていきます。


 本部(ほんぶ)の中(なか)に入(はい)ろうと何度(なんど)もチャレンジしてみましたが、さっきは自動(じどう)で現(あらわ)れた扉(とびら)がどうやっても現(あらわ)れないためどうすることもできません。


「はあ…何(なに)か裏口(うらぐち)とかないかなぁ…」


 そう口(くち)に出(だ)した時(とき)、ショースケの頭(あたま)の中(なか)にふと浮(う)かぶものがありました。




 あれは何(なん)年前(ねんまえ)でしょうか。


 ショースケがまだ部屋(へや)に籠(こも)っていた頃(ころ)です。


 ショースケの祖父(そふ)、肖造(しょうぞう)が突然(とつぜん)薄暗(うすぐら)い部屋(へや)の扉(とびら)をバーンと開(あ)けて入(はい)ってきました。


「ショースケ聞(き)いてくれ! ワシはまたとんでもない発明(はつめい)をしてしまった!」


「じーちゃん急(きゅう)にどうしたの! びっくりしたじゃんか!」


 ショースケは読(よ)んでいた本(ほん)を閉(と)じて立(た)ち上(あ)がりました。


 肖(しょう)造(ぞう)は口(くち)を尖(とが)らせて眉(まゆ)をしかめます。


「これぐらいでびっくりするとは修行(しゅぎょう)が足(た)りんぞショースケ。ところでワシの発明(はつめい)、気(き)になるじゃろ聞(き)きたいじゃろ?」


 肖(しょう)造(ぞう)はぐいぐいと体(からだ)を近(ちか)づけてきます。


「まあちょっとは聞(き)きたいけどさ…。それで? 今度(こんど)は何(なに)を作(つく)ったの」


 ショースケは両手(りょうて)で肖(しょう)造(ぞう)の体(からだ)を押(お)し返(かえ)しながら尋(たず)ねました。


「よくぞ聞(き)いてくれた! まず話(はなし)の前提(ぜんてい)として…自慢(じまん)じゃないがワシは宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)の裏口(うらぐち)の鍵(かぎ)をいつも忘(わす)れる!」


「うん、本当(ほんとう)に全然(ぜんぜん)自慢(じまん)じゃないね」


 目(め)を輝(かがや)かせて宣言(せんげん)する肖(しょう)造(ぞう)にショースケは少(すこ)し呆(あき)れ気味(ぎみ)ですが、肖(しょう)造(ぞう)はそんなことは一(いち)ミリも気(き)にせず話(はなし)を続(つづ)けます。


「表(おもて)の出(で)入(い)り口(ぐち)からは入(い)れるんじゃが…あそこから入(はい)ると目立(めだ)つからのう。と、いうことで! ワシは鍵(かぎ)が無(な)くても本部(ほんぶ)の中(なか)に入(い)れる仕掛(しか)けを作(つく)ったんじゃ! ショースケにもその手順(てじゅん)を教(おし)えてやろう、まずは…」


 肖(しょう)造(ぞう)は一(ひと)つ一(ひと)つ、その方法(ほうほう)について詳(くわ)しくショースケに語(かた)りました。


 ショースケはそれを大人(おとな)しくうんうんと聞(き)いた後(あと)、口(くち)を開(ひら)きます。


「うん、よくわかったけど…。なんでそれを宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)に何(なに)も関係(かんけい)ない僕(ぼく)に教(おし)えたの? 全(まった)くその情報(じょうほう)の使(つか)い道(みち)が無(な)いんだけど」


「だって関係(かんけい)ある奴(やつ)に喋(しゃべ)ったら絶対(ぜったい)怒(おこ)られるじゃろ。特(とく)にライトになんか知(し)られてみろ、この上(うえ)ないほど面倒(めんどう)なことになるわい」


 肖(しょう)造(ぞう)はぎゅっと眉(まゆ)をゆがめて苦(にが)い顔(かお)をしました。


「なるほど…誰(だれ)かになんとなく話(はな)したかったってことね…」


 ショースケはそう納得(なっとく)してまた視線(しせん)を本(ほん)に戻(もど)そうとしました。


「それだけじゃないぞ?」


 肖(しょう)造(ぞう)はその本(ほん)を奪(うば)い取(と)ってショースケの目(め)をまっすぐ見(み)つめて笑(わら)います。


「お前(まえ)には絶対(ぜったい)後(あと)で必要(ひつよう)になると思(おも)って教(おし)えておいたんじゃ」


 ショースケはその言葉(ことば)に大(おお)きなため息(いき)をつきます。


「またそんなこと言(い)う…何度(なんど)も言(い)うけど、僕(ぼく)は宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)になんてなる気(き)ないよ」


「いーや、お前(まえ)は数年後(すうねんご)には絶対(ぜったい)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)になっとるわい! このワシが言(い)うんじゃから間違(まちが)いない! じゃから」


 肖(しょう)造(ぞう)は大(おお)きな手(て)でショースケの頭(あたま)を優(やさ)しく撫(な)でました。


「気(き)が済(す)んだらいつでもこの部屋(へや)から出(で)てこい」




「…まさか本当(ほんとう)に必要(ひつよう)なときが来(く)るとはね。じーちゃんには適(かな)わないよ」


 ショースケはニヤリと笑(わら)って本部(ほんぶ)の裏口(うらぐち)へと向(む)かいました。


 裏口(うらぐち)も正面(しょうめん)と同(おな)じく、扉(とびら)や鍵穴(かぎあな)の一(ひと)つもない真(ま)っ白(しろ)な壁(かべ)が続(つづ)いているだけです。


 肖(しょう)造(ぞう)は裏口(うらぐち)の鍵(かぎ)を持(も)っているらしいですが、宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)のことですから普通(ふつう)の差(さ)し込(こ)むような鍵(かぎ)ではないのでしょう。


 ショースケがキョロキョロと少(すこ)し辺(あた)りを見回(みまわ)すと、この本部(ほんぶ)の景観(けいかん)にはどう考(かんが)えても似(に)つかわしくない大(おお)きなたぬきの信楽焼(しがらきやき)が嫌(いや)でも目(め)に入(はい)ります。


「じーちゃんこれ地球(ちきゅう)から持(も)ってきたのかな…とりあえず、これを…引(ひ)っ張(ぱ)る!」


 もちろんショースケの力(ちから)で持(も)ち上(あ)がるような重(おも)さではありませんが、何(なん)かの装置(そうち)が作動(さどう)したようなカチリという音(おと)がしました。


「ええと次(つぎ)は…」


 ショースケは近(ちか)くに生(は)えていた、何(なん)ともカラフルでメタリックにギラギラしている木(き)に触(ふ)れます。


「この枝(えだ)を三(さん)回(かい)上下(じょうげ)に揺(ゆ)すって、四(よん)回(かい)横(よこ)に揺(ゆ)らす」


 枝(えだ)がさらにギラギラに輝(かがや)いたのを見届(みとど)けて、今度(こんど)は本部(ほんぶ)の壁(かべ)の方(ほう)へ向(む)かいます。


「それで壁(かべ)をトントントトトンのリズムで叩(たた)いて…最後(さいご)に合言葉(あいことば)、じーちゃんの好(す)きな食(た)べ物(もの)」


 ショースケは大(おお)きく息(いき)を吸(す)いました。


「アジのなめろう‼」


 すると突然(とつぜん)、ショースケの立(た)っていた地面(じめん)に穴(あな)が開(あ)きました。


 穴(あな)の中(なか)には真(ま)っ白(しろ)な綿(わた)のようなものが敷(し)き詰(つ)められています。


「え、なになに失敗(しっぱい)した⁉」


 落(お)ちてきたショースケの体(からだ)がずっぽりとその綿(わた)の中(なか)にめり込(こ)むと、穴(あな)の中(なか)から音(おと)がします。


 何(なに)かが下(した)から立(た)ち上(のぼ)ってくるような…そして次(つぎ)の瞬間(しゅんかん)。


 ショースケの体(からだ)は綿(わた)ごと空(そら)高(たか)くぶっ飛(と)ばされました!


「ぎゃぁあああああああ⁉」


 叫(さけ)び声(ごえ)とともに、ショースケは本部(ほんぶ)の最上階(さいじょうかい)に開(ひら)いた小(ちい)さな扉(とびら)の中(なか)へ落(お)ちていきました。



****



 真(ま)っ暗(くら)なままの本部(ほんぶ)のエネルギー室(しつ)では、タカヤが肩(かた)を落(お)として立(た)ち尽(つ)くしていました。


 そこへ、重(おも)い扉(とびら)を合鍵(あいかぎ)で開(あ)けて肖(しょう)造(ぞう)が入(はい)ってきます。


「おーおー、タカヤ今回(こんかい)は派手(はで)にやったのお!」


 肖(しょう)造(ぞう)はカカカと高(たか)らかに笑(わら)って、タカヤの肩(かた)をバンバン叩(たた)きました。


 タカヤは申(もう)し訳(わけ)なさそうに目(め)を伏(ふ)せます。


「…ごめんなさい。ちょっと急(いそ)いでやったらエネルギーを放出(ほうしゅつ)し過(す)ぎてしまって…今頃(いまごろ)職員(しょくいん)さんたち困(こま)ってますよね」


「なぁに気(き)にするな、ワシらが研究(けんきゅう)のために使(つか)うエネルギーを分(わ)けて欲(ほ)しいと頼(たの)んどるんじゃから。それにうちの職員(しょくいん)は優秀(ゆうしゅう)じゃからな、こんなの直(なお)すくらいちょちょいのちょいじゃ。ところでタカヤ」


 肖(しょう)造(ぞう)はタカヤの目(め)をまっすぐ見(み)つめました。


「また、コスモピースの力(ちから)が強(つよ)くなったんじゃないか?」


 全(すべ)てを見透(みす)かすような視線(しせん)に、タカヤは一瞬(いっしゅん)ひるみます。


「…肖(しょう)造(ぞう)さんには隠(かく)し事(ごと)はできませんね。確(たし)かに前(まえ)よりもずっと強(つよ)くなってます。でも大丈夫(だいじょうぶ)ですよ、制御(せいぎょ)できないほどじゃありません」


 そう言(い)ってタカヤが笑顔(えがお)を見(み)せると、肖(しょう)造(ぞう)は眉(まゆ)をしかめて大(おお)きく息(いき)を吐(は)きました。


「相変(あいか)わらずいい子(こ)ちゃんじゃのうタカヤ。それだけ強(つよ)くなっとったら力(ちから)を使(つか)ってないときでも抑(おさ)えるのは大変(たいへん)じゃろう。しんどいーって言(い)って泣(な)いたって誰(だれ)も怒(おこ)りゃせんのに」


「だってしんどくなんてないですから。ほら、コスモピースのおかげでエネルギーは無限(むげん)にありますし」


 もう一度(いちど)笑(わら)ってみせるタカヤに、肖(しょう)造(ぞう)は心底(しんそこ)困(こま)ったという顔(かお)で自分(じぶん)の頬(ほお)をポリポリと搔(か)きます。


「そういうことじゃないんじゃがのお…。ところでタカヤ、時(とき)目(め)木(き)町(ちょう)の仕事(しごと)の方(ほう)は順調(じゅんちょう)か? ただでさえ他(ほか)の仕事(しごと)が多(おお)かったお前(まえ)がそっちの仕事(しごと)もやりたいと言(い)ってきたときはワシはおったまげたぞ」


 肖(しょう)造(ぞう)は疲(つか)れたのか、床(ゆか)にどっかりと腰(こし)を落(お)として続(つづ)けます。


「ライトの奴(やつ)はワシら本部(ほんぶ)がタカヤの仕事(しごと)を無理(むり)やり増(ふ)やしたんじゃと思(おも)い込(こ)んどるし…全(まった)く、タカヤの仕事(しごと)好(ず)きっぷりにも困(こま)ったもんじゃよ」


 ごめんなさい、と眉(まゆ)を下(さ)げて、タカヤも肖(しょう)造(ぞう)の隣(となり)に座(すわ)り込(こ)みました。


「…ライトさんは俺(おれ)のことすごく心配(しんぱい)してくれてますから、自分(じぶん)で増(ふ)やしたなんて言(い)ったらもっと困(こま)らせそうで言(い)えなくて」


 膝(ひざ)を抱(かか)えて、タカヤは真(ま)っ暗(くら)な部屋(へや)の奥(おく)を見据(みす)えます。


「…でも俺(おれ)できるだけたくさん、この力(ちから)でみんなの役(やく)に立(た)ちたいんです。俺(おれ)がまだ、使(つか)えるうちに」


 まるで自分(じぶん)にしか見(み)えない何(なに)かを見(み)ているような目(め)でそう話(はな)すタカヤの頭(あたま)を、肖(しょう)造(ぞう)は雑(ざつ)にわしゃわしゃと撫(な)でました。


「わ、しょ、肖(しょう)造(ぞう)さん?」


「辛気臭(しんきくさ)い話(はなし)は終(お)わりじゃ。そうじゃタカヤ、ショースケとのコンビはどうだ! あの子(こ)は面白(おもしろ)いじゃろ? さすがワシの孫(まご)じゃな!」


 肩(かた)を組(く)んできた肖(しょう)造(ぞう)に戸惑(とまど)いながら、タカヤはショースケと待(ま)ち合(あ)わせをしていたことを思(おも)い出(だ)しました。


「そうだショースケ! ああもう待(ま)ち合(あ)わせの時間(じかん)過(す)ぎてる!」


 タカヤはオロオロと立(た)ち上(あ)がりました。


「でも直(なお)るまでここを動(うご)かないように言(い)われてるし…エッグロケットはこの部屋(へや)には持(も)ち込(こ)み禁止(きんし)で置(お)いてきちゃったからテレパシーも使(つか)えない…」


 動揺(どうよう)で視線(しせん)を右往左往(うおうさおう)させた後(あと)、タカヤは深(ふか)いため息(いき)をつきます。


「ショースケ怒(おこ)ってるかな…」


 その様子(ようす)を見(み)た肖(しょう)造(ぞう)はニンマリと口角(こうかく)を上(あ)げると、嬉(うれ)しそうにタカヤの太(ふと)ももをペチンと軽(かる)く叩(たた)きました。


「そんなもん後(あと)からいくらでも謝(あやま)ったらええわい! のうタカヤ、ショースケと宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)やるの楽(たの)しいか?」


 その質問(しつもん)にタカヤは少(すこ)し頭(あたま)をひねります。


「そうですね…楽(たの)しい、けど慣(な)れないことも大変(たいへん)なことも多(おお)いです。ショースケって結構(けっこう)強情(ごうじょう)でこの間(あいだ)だってやめとけって言(い)ったのに無理(むり)にスカイボードの速度(そくど)を上(あ)げて二人(ふたり)で海(うみ)に落(お)ちたりするし…て、こんなこと肖造(しょうぞう)さんにする話(はなし)じゃないですね」


 ハッと気(き)が付(つ)いて恥(は)ずかしそうにするタカヤに、肖(しょう)造(ぞう)はいたく上機嫌(じょうきげん)です。


「そーかそーか! やっぱりあの子(こ)とコンビを組(く)ませたのは大(だい)正解(せいかい)だったわい!」


「そ、そうですかね…ショースケといるとどうも調子(ちょうし)が狂(くる)っちゃって」


 タカヤはいまいち腑(ふ)に落(お)ちません。


「…ワシはなタカヤ、ずっとお前(まえ)の調子(ちょうし)を狂(くる)わせたかったんじゃよ」


 肖(しょう)造(ぞう)はニヤリと笑(わら)ってそう言(い)うと、どっこいしょと重(おも)い腰(こし)を上(あ)げてエネルギー室(しつ)を後(あと)にしました。



****



「ふぅ…ひどい目(め)にあったよ」


 ショースケは自分(じぶん)が落(お)ちてきた、今(いま)はもう閉(と)じてしまった天井(てんじょう)の扉(とびら)を見上(みあ)げながら立(た)ち上(あ)がりました。


 一緒(いっしょ)にふっ飛(と)ばされた大量(たいりょう)の綿(わた)が下敷(したじ)きになってくれたおかげで怪我(けが)は一(ひと)つもありません。


「全(まった)く、じーちゃんももっと安全(あんぜん)に入(い)れる仕掛(しか)けにしてくれればよかったのに。それにしてもここどこだろ?」


 ぼんやりと光(ひか)る丸(まる)い灯(あか)りがふわふわ浮(う)かんだこの部屋(へや)には、たくさんの書類(しょるい)が散乱(さんらん)しています。


 壁(かべ)にも一面(いちめん)に資料(しりょう)が貼(は)り付(つ)けられており、どうやら誰(だれ)かの研究室(けんきゅうしつ)のようです。


「何(なに)が書(か)いてあるんだろ…あ、これ宇宙(うちゅう)公用語(こうようご)で書(か)いてある! 僕(ぼく)でも読(よ)めるじゃん!」


 ショースケはさっぱり整理(せいり)されていない机(つくえ)の上(うえ)に置(お)いてある二(に)枚(まい)の紙(かみ)を手(て)に取(と)りました。


「なになに…一(いち)枚目(まいめ)はポポミル星(せい)の深刻(しんこく)な大気(たいき)汚染(おせん)への援助(えんじょ)について。二(に)枚目(まいめ)は、惑星(わくせい)トリスタルについて…わ、もしかしてトリスタル伝説(でんせつ)かな!」


 ショースケは目(め)をきらきら輝(かがや)かせました。


 トリスタル伝説(でんせつ)、ショースケも聞(き)いたことがあるウワサ話(はなし)です。


 惑星(わくせい)トリスタルには無限(むげん)の命(いのち)を持(も)った生物(せいぶつ)が住(す)んでいて、この宇宙(うちゅう)が今(いま)から千(せん)年(ねん)経(た)ったとしても追(お)いつけないほどの超(ちょう)高度(こうど)な文明(ぶんめい)が栄(さか)えていたと。


 そしてその文明(ぶんめい)と生物(せいぶつ)はある日(ひ)突然(とつぜん)、跡形(あとかた)もなく消(き)えてしまったと。


「へー! ちゃんと宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)で調(しら)べられてるなんて、あの伝説(でんせつ)本当(ほんとう)なのかも!」


 嬉(うれ)しそうに続(つづ)きの資料(しりょう)を探(さが)そうとして、ショースケはここに来(き)た目的(もくてき)を思(おも)い出(だ)しました。


「そうだタカヤ! 探(さが)しに行(い)かなきゃ!」


 出口(でぐち)を探(さが)してキョロキョロしていると、後(うし)ろからジャキリと音(おと)がしました。


「動(うご)くな」


 聞(き)きなじみのある声(こえ)にゆっくり振(ふ)り返(かえ)ると、そこにはとにかく物騒(ぶっそう)な銃器(じゅうき)をかき集(あつ)めたような謎(なぞ)の大(おお)きな塊(かたまり)をショースケに向(む)けた肖(しょう)造(ぞう)が立(た)っていました。


「え、じーちゃん⁉ 何(なに)その危(あぶ)なそうなの! しまってしまって!」


 ショースケが慌(あわ)ててそう叫(さけ)ぶと、肖(しょう)造(ぞう)は塊(かたまり)の隙間(すきま)から前(まえ)を見(み)て目(め)が飛(と)び出(で)るほど驚(おどろ)きました。


「ショースケ⁉ 何(なん)でお前(まえ)がワシの研究室(けんきゅうしつ)におるんじゃ! どうやって侵入(しんにゅう)したんじゃワシの孫(まご)じゃとしても才能(さいのう)あり過(す)ぎんか⁉ 怖(こわ)っ!」


 肖(しょう)造(ぞう)は震(ふる)えてドン引(び)きしています。


「いやいや! じーちゃんが何年(なんねん)か前(まえ)に、僕(ぼく)にこの部屋(へや)への入(はい)り方(かた)を喋(しゃべ)ったんでしょ! それの通(とお)りに入(はい)って来(き)たの!」


「え」


 ショースケの言葉(ことば)に肖(しょう)造(ぞう)は唖然(あぜん)として手(て)で口(くち)を押(おさ)えました。


「なんも覚(おぼ)えとらん…。ワシそんな機密(きみつ)情報(じょうほう)を孫(まご)に漏(も)らしたんか…宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)として大丈夫(だいじょうぶ)かワシ…」


 今度(こんど)は自分(じぶん)自身(じしん)にドン引(び)きして震(ふる)えている肖(しょう)造(ぞう)を、ショースケは呆(あき)れ切(き)った目(め)で冷(つめ)たく見(み)つめました。


「…本当(ほんとう)、じーちゃんにはいろんな意味(いみ)で適(かな)わないよ。まあそれはいいとして、じーちゃんタカヤ知(し)らない? 本部(ほんぶ)の中(なか)にいるはずなんだけど」


「ああ、タカヤか。タカヤならさっき…」


 そう言(い)いかけて、肖(しょう)造(ぞう)は大(おお)きく咳(せき)ばらいをしました。


「いや、やっぱり知(し)らん。びっくりするほど見(み)ておらんわ!」


 ショースケの目(め)をじっと見(み)つめて、肖(しょう)造(ぞう)は堂々(どうどう)と嘘(うそ)をつきます。


「じーちゃん嘘(うそ)ついてるでしょ! さっきなんか言(い)おうとした!」


「ついとらんもーん! ワシ何(なん)も知(し)らんもーん!」


 子(こ)どものように誤魔化(ごまか)そうとする肖(しょう)造(ぞう)の肩(かた)をショースケは両手(りょうて)で掴(つか)んで激(はげ)しく揺(ゆ)すりますが、肖(しょう)造(ぞう)は主張(しゅちょう)を曲(ま)げません。


 ショースケは頬(ほお)を大(おお)きく膨(ふく)らませました。


「むー! 教(おし)えてくれないならいい、自分(じぶん)で探(さが)しに行(い)く!」


「おー行(い)け行(い)け。出口(でぐち)はそこじゃよ」


 肖(しょう)造(ぞう)は奥(おく)にある扉(とびら)を指差(ゆびさ)しました。


 ぷりぷり怒(おこ)って扉(とびら)の方(ほう)へ向(む)かいながら、ショースケはくるりに肖(しょう)造(ぞう)の方(ほう)を振(ふ)り返(かえ)ります。


「…じーちゃん久(ひさ)しぶりに会(あ)えて嬉(うれ)しかったよ…また遊(あそ)ぼうね」


 鋭(するど)くにらみながらもぽそりと呟(つぶや)いて、ショースケは扉(とびら)をくぐり乱暴(らんぼう)に閉(し)めました。


「…ワシの孫(まご)は本当(ほんとう)にかわいいのぉ、じゃが」


 肖(しょう)造(ぞう)は顔(かお)をほころばせながら机(つくえ)の下(した)に設置(せっち)されたボタンに手(て)を伸(の)ばしました。


「今(いま)エネルギー室(しつ)に行(い)かれるのはちと困(こま)るのでな…。すまんのショースケ、しばらく迷(まよ)っててくれ」


 そのままボタンを押(お)すと、どこかでガチャリと音(おと)がしました。


『対(たい)侵入者(しんにゅうしゃ)用(よう)最上階(さいじょうかい)迷路(めいろ)システム、作動(さどう)します』


「さて、この部屋(へや)に入(はい)る方法(ほうほう)も変(か)えておかなければならんな。今(いま)のこの部屋(へや)はあまり見(み)られたいものではないからの…」



****



「あれー、また行(い)き止(ど)まりだ」


 肖(しょう)造(ぞう)の研究室(けんきゅうしつ)を出(で)て十五(じゅうご)分(ふん)。ショースケは真(ま)っ白(しろ)な廊下(ろうか)をただただ歩(ある)き続(つづ)けていました。


 さっきの部屋(へや)に戻(もど)ろうにも右(みぎ)も左(ひだり)も前(まえ)にも後(うし)ろにも、真(ま)っ白(しろ)な天井(てんじょう)まである高(たか)い壁(かべ)が続(つづ)くばかりでどっちが戻(もど)る道(みち)なのかすらわかりません。


「どうなってるんだろう、本部(ほんぶ)ってこんなに広(ひろ)かったっけ?」


 ショースケは疲(つか)れ切(き)ってその場(ば)に座(すわ)り込(こ)んでしまいました。


 地球(ちきゅう)から持(も)ってきたジュースをカバンから取(と)り出(だ)して一息(ひといき)ついていると、なにやら苦(くる)しそうな声(こえ)が聞(き)こえます。


 ショースケが恐(おそ)る恐(おそ)る声(こえ)のする方(ほう)の道(みち)を覗(のぞ)き込(こ)んでみると…


 そこには汗(あせ)だくでゼーゼー言(い)いながら横(よこ)たわるヒカルがいました。


「…ヒカルさんこんなとこで何(なに)やってんの?」


 傍(そば)でしゃがみこんでショースケは尋(たず)ねます。


「お、俺(おれ)だって聞(き)きたいよ…。一(いっ)階(かい)からこの最上階(さいじょうかい)まで…やっと階段(かいだん)で上(あ)がって来(き)たと思(おも)ったら…なんでこんな迷路(めいろ)みたいになってるんだ…。ショースケくんがどうしてここにいるのかも訳(わけ)わかんないし…」


 呼吸(こきゅう)を整(ととの)えながらヒカルは頭(あたま)を抱(かか)えます。


「僕(ぼく)がここにいる理由(りゆう)はまあいいとして…ここって普段(ふだん)はこんな廊下(ろうか)じゃないの?」


「当然(とうぜん)だろ! こんなのだったら俺(おれ)は毎日(まいにち)迷子(まいご)じゃないか!」


 ヒカルならそうだろうなとショースケは妙(みょう)に納得(なっとく)がいきます。


「まあ確(たし)かに…ところでエイギスさんは? 一緒(いっしょ)じゃないの?」


「ああ…エイギスとはちょっと別行動(べつこうどう)してて。ショースケくんは俺(おれ)だけじゃ不安(ふあん)?」


「え、うん」


 間髪(かんぱつ)入(い)れずにそう答(こた)えるショースケに、ヒカルはうんうんと大(おお)きく頷(うなづ)きました。


「だろうね、俺(おれ)も俺(おれ)だけじゃすごく不安(ふあん)だよ!」


 ヒカルは残念(ざんねん)なほど自信(じしん)たっぷりに言(い)いました。


「でも大丈夫(だいじょうぶ)、俺(おれ)だって一応(いちおう)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)としてはショースケくんの一(ひと)年(ねん)先輩(せんぱい)なんだから。ちゃんとここから二人(ふたり)で脱出(だっしゅつ)してみせるよ!」


 まるで自分(じぶん)を鼓舞(こぶ)するように胸(むね)を張(は)ってみせるヒカルに、ショースケは意外(いがい)そうに目(め)を見開(みひら)きます。


「え、ヒカルさん宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)になったの僕(ぼく)より一(ひと)年(ねん)早(はや)いだけなの?」


「俺(おれ)は高校(こうこう)卒業(そつぎょう)してから宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)になったからね。ていうか、試験(しけん)めちゃくちゃ難(むずか)しいのにその歳(とし)で合格(ごうかく)したショースケくんとタカヤが異例(いれい)中(ちゅう)の異例(いれい)なんだよ」


 信(しん)じられないという表情(ひょうじょう)をショースケへ向(む)けながら、ヒカルは右腕(みぎうで)に付(つ)けているポスエッグの中(なか)から小(ちい)さな種(たね)を取(と)り出(だ)しました。


 透(す)き通(とお)った薄(うす)いオレンジ色(いろ)をしたその種(たね)を、ショースケは興味深(きょうみぶか)そうに覗(のぞ)き込(こ)みます。


「なぁにこれ、綺麗(きれい)だね」


「ケリヌスの種(たね)だよ。これはすごいよ、なんと壁(かべ)に貼(は)り付(つ)けるとそこに抜(ぬ)け穴(あな)を作(つく)ってくれるんだ。この迷路(めいろ)の壁(かべ)に貼(は)り付(つ)けながらまっすぐ進(すす)んでいけば、きっとすぐに出口(でぐち)に辿(たど)り着(つ)けるさ!」


 ヒカルがすぐ横(よこ)にあった壁(かべ)にケリヌスの種(たね)を貼(は)り付(つ)けると、壁(かべ)は丸(まる)い形(かたち)にするすると溶(と)けてすぐに隣(となり)の通路(つうろ)へ続(つづ)く穴(あな)が開(あ)きました。


「すごい! 確(たし)かにこれならすぐ出(で)られるかも!」


 ショースケが意気揚々(いきようよう)とその穴(あな)をくぐろうとした時(とき)。


 大(おお)きな警報音(けいほうおん)と共(とも)に、機械(きかい)の声(こえ)のアナウンスが迷路(めいろ)中(じゅう)に響(ひび)きました。


『迷路(めいろ)システムに異常(いじょう)を感知(かんち)。侵入者(しんにゅうしゃ)の脱出(だっしゅつ)を妨害(ぼうがい)します』


 どこかでゴトリと音(おと)がして、何(なに)かが近(ちか)づいてくる気配(けはい)がします。


「ちょっとヒカルさんどうなってるの⁉」


 ショースケはパニックになってヒカルに縋(すが)りますが、ヒカルはそれ以上(いじょう)に大(だい)パニックです。


「俺(おれ)にもわかんないよ! 迷路(めいろ)システムなんてそんなの聞(き)いたことないし…壁(かべ)に穴(あな)を開(あ)けたのがまずかったのかな⁉ わーどうしよう助(たす)けてエイギス‼」


 あんまりにも慌(あわ)てて半泣(はんな)きになっているヒカルを見(み)てショースケは逆(ぎゃく)に冷静(れいせい)になってきました。


「メソメソしないの! とにかく急(いそ)いでここを離(はな)れよう、なにが来(く)るかわかんないし」


 ショースケがヒカルの腕(うで)を掴(つか)むと同時(どうじ)に…


 目(め)の前(まえ)から道(みち)を埋(う)め尽(つ)くすほどのどでかい鉄球(てっきゅう)が転(ころ)がってきました。


「ぎゃぁああああああああ⁉」


 猛(もう)スピードでゴロゴロと迫(せま)って来(く)る鉄球(てっきゅう)から二人(ふたり)は必死(ひっし)で逃(に)げだしますが、無情(むじょう)にもその先(さき)は行(い)き止(ど)まりです。


「どうしようどうしよう!」


 ブルブルと震(ふる)えるショースケを背(せ)に、ヒカルは近(ちか)づいてくる鉄球(てっきゅう)と向(む)かい合(あ)いました。


「ショースケくんそこでじっとしてて!」


 ヒカルがポスエッグに触(ふ)れると、その右腕(みぎうで)を市場(いちば)でも見(み)せた大砲(たいほう)のような装置(そうち)が覆(おお)いました。


 腕(うで)ごと大砲(たいほう)を迫(せま)りくる鉄球(てっきゅう)へ向(む)けると、砲口(ほうこう)にエネルギーが集(あつ)まり始(はじ)めます。


「一回(いっかい)も使(つか)ったことないけど…どうにかなれ!」


 ヒカルは集(あつ)まったエネルギーの弾(たま)を鉄球(てっきゅう)に向(む)かって放(はな)ちました。


 弾(たま)が当(あ)たった鉄球(てっきゅう)は音(おと)を立(た)てて粉々(こなごな)に砕(くだ)け散(ち)ります。


「よ、よかった…なんとかなった…」


 へろへろと座(すわ)り込(こ)むヒカルに、ショースケは興奮(こうふん)状態(じょうたい)で抱(だ)き着(つ)きました。


「すごいすごい! ヒカルさんありがとう、かっこよかった!」


「か、かっこよかった⁉ 本当(ほんとう)⁉」


 ヒカルは嬉(うれ)しそうに目(め)を輝(かがや)かせます。


「うん! 僕(ぼく)初(はじ)めてヒカルさんのことかっこいいと思(おも)ったよ!」


「あ、初(はじ)めて…」


 ちょっと切(せつ)なそうなヒカルのことは特(とく)に気(き)にせず、ショースケは元気(げんき)に前(まえ)を向(む)いてヒカルの腕(うで)を引(ひ)っ張(ぱ)ります。


「さ! 早(はや)くここから移動(いどう)するよ。またさっきみたいなのが転(ころ)がって来(く)るかもしれないし」




 …そこから数十(すうじゅっ)分(ぷん)。


 真(ま)っ白(しろ)な迷路(めいろ)の中(なか)を右(みぎ)に曲(ま)がってまっすぐ進(すす)んで左(ひだり)に曲(ま)がって…。


 たくさん歩(ある)き回(まわ)りますが一向(いっこう)に景色(けしき)は変(か)わらず出口(でぐち)も見当(みあ)たりません。


「うう…本当(ほんとう)に出口(でぐち)なんかあるのかな…?」


 くたびれたショースケがヒカルの背中(せなか)にもたれかかると、ヒカルはそのままその場(ば)にうずくまってしまいました。


「一体(いったい)どうなってるんだ…俺(おれ)ここで迷(まよ)って死(し)ぬのかな。遺書(いしょ)書(か)いてないのに…父(とう)さん母(かあ)さんタカヤエイギスごめんなさい…」


 下(した)を向(む)いてブツブツ呟(つぶや)くヒカルがあまりにもネガティブなので、ショースケは元気(げんき)に振舞(ふるま)うしかありません。


「縁起(えんぎ)でもないこと言(い)わないの! ほら立(た)って立(た)って!」


 ショースケがヒカルの肩(かた)をバンバン叩(たた)いていると…


 後(うし)ろから先(さき)ほどと同(おな)じようなどでかい鉄球(てっきゅう)が転(ころ)がってきました。


「わ! また来(き)たヒカルさん逃(に)げるよ!」


 二人(ふたり)は近(ちか)づいてくる鉄球(てっきゅう)から逃(のが)れようとしますがこんな時(とき)に限(かぎ)って分(わ)かれ道(みち)が無(な)く、まっすぐに続(つづ)く道(みち)を鉄球(てっきゅう)がどこまでも追(お)ってきます。


「ねえヒカルさんさっきみたいに攻撃(こうげき)して壊(こわ)してよ!」


 体力(たいりょく)があまり残(のこ)っていないショースケは息(いき)を切(き)らしながら頼(たの)みますが、ヒカルは申(もう)し訳(わけ)なさそうに叫(さけ)びました。


「ごめん! あのエネルギー砲(ほう)一発(いっぱつ)分(ぶん)しか持(も)ってなくてもう撃(う)てないんだ!」


「えぇ⁉ そんな!」


 そう声(こえ)を出(だ)したと同時(どうじ)に、ショースケは疲(つか)れ切(き)った足(あし)がもつれて転(ころ)んでしまいました。


「ショースケくん‼」


 ヒカルもそれに気(き)が付(つ)いてショースケを助(たす)けに戻(もど)りますが、鉄球(てっきゅう)はすぐそこまで迫(せま)っています。


 逃(に)げられない、そう覚悟(かくご)してヒカルがショースケをかばおうと抱(だ)きしめたその時(とき)。



「ヒカル!」


 遠(とお)くから輝(かがや)くエネルギー弾(だん)が飛(と)んできて、鉄球(てっきゅう)は二人(ふたり)の目(め)の前(まえ)で粉々(こなごな)に砕(くだ)け散(ち)りました。


 なにが起(お)こったのかわからず困惑(こんわく)する二人(ふたり)の後(うし)ろで声(こえ)がします。


「大丈夫(だいじょうぶ)?」


 聞(き)き覚(おぼ)えのある優(やさ)しくて美(うつく)しい声(こえ)に、ヒカルはショースケを抱(だ)きしめたままボロボロ泣(な)き出(だ)してしまいました。


「えいぎすぅう…」


 エイギスは左足(ひだりあし)にエメラルドグリーンのポスエッグが付(つ)いた、ヒカルの右腕(みぎうで)とお揃(そろ)いの大砲(たいほう)を装着(そうちゃく)していました。


「驚(おどろ)いたわヒカル、まさか最上階(さいじょうかい)にいるなんて。貴方(あなた)が言(い)ってた図書室(としょしつ)にタカヤはいなかったし…何(なに)かまた無理(むり)をしようとしてるんじゃないかと思(おも)って追(お)って来(き)たの」


 エイギスは紐(ひも)のような細(ほそ)い腕(うで)でヒカルを撫(な)でながら、ショースケに顔(かお)を近(ちか)づけます。


「まさかショースケまでこんなところにいるなんて…怪我(けが)はない?」


「うん、大丈夫(だいじょうぶ)だよ。助(たす)けてくれてありがとうエイギスさん、あと少(すこ)しで鉄球(てっきゅう)に潰(つぶ)されるところだったよ」


 ショースケはヒカルの腕(うで)の中(なか)から抜(ぬ)け出(だ)して息(いき)を吐(つ)きます。


「鉄球(てっきゅう)…? ああ、さっき攻撃(こうげき)してわかったんだけどあれは…」


 エイギスが何(なに)かを言(い)いかけると、奥(おく)の道(みち)からまた大(おお)きな鉄球(てっきゅう)が転(ころ)がってきました。


 ヒカルとショースケは大慌(おおあわ)てで逃(に)げようとしますが、エイギスはゆっくりと鉄球(てっきゅう)に向(む)かって歩(ある)いていきます。


「危(あぶ)ないエイギス!」


「大丈夫(だいじょうぶ)よヒカル。だってこれ…」


 猛(もう)スピードで転(ころ)がって来(き)た鉄球(てっきゅう)はエイギスに当(あ)たって…


 ぽよん、と力(ちから)なく跳(は)ね返(かえ)っていきました。


「鉄球(てっきゅう)に見(み)えるように作(つく)られた、やわらかいおもちゃだもの」


「へ…? おもちゃ…?」


 ヒカルは目(め)が点(てん)になっています。


「おそらく侵入者(しんにゅうしゃ)を驚(おどろ)かせるための仕掛(しか)けね。危害(きがい)を加(くわ)えるような攻撃(こうげき)をするなんて宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)らしくないと思(おも)ったの」


 エイギスの言葉(ことば)にヒカルとショースケは体中(からだじゅう)の力(ちから)がどっと抜(ぬ)けて、折(お)り重(かさ)なるようにその場(ば)に倒(たお)れ込(こ)みました。


 それと同時(どうじ)に迷路(めいろ)中(じゅう)に機械(きかい)の声(こえ)のアナウンスが響(ひび)きます。


「エネルギー貯蔵庫(ちょぞうこ)の修理(しゅうり)が完了(かんりょう)しました。最上階(さいじょうかい)迷路(めいろ)システムを解除(かいじょ)します」


 周囲(しゅうい)を覆(おお)っていた白(しろ)い高(たか)い壁(かべ)はボロボロと崩(くず)れ落(お)ちながら消(き)えていき、いつもの最上階(さいじょうかい)の景色(けしき)へと戻(もど)っていきます。


「や、やったー! やっと出(で)られたみたい!」


「本当(ほんとう)だ…うう…俺(おれ)死(し)んでない…!」


 ショースケとヒカルが手(て)を取(と)り合(あ)って喜(よろこ)んでいると…



「えっと…みんなここで何(なに)してるの…?」


 その様子(ようす)をタカヤが遠(とお)くから不思議(ふしぎ)そうに見(み)つめていました。


「タカ…「タカヤ‼」


 駆(か)け寄(よ)ろうとしたショースケを押(お)しのけて、ヒカルがタカヤに抱(だ)きつきました。


「タカヤ! ああ無事(ぶじ)でよかった! 大丈夫(だいじょうぶ)かどこも痛(いた)くないか?」


「兄(にい)ちゃん! お、俺(おれ)なら全然(ぜんぜん)何(なん)ともないけど…」


「よかった…タカヤに何(なに)かあったら、俺(おれ)は父(とう)さんと母(かあ)さんに何(なん)て言(い)えば…!」


 しがみついたまま離(はな)れないヒカルに、タカヤは少(すこ)し困(こま)りながらも嬉(うれ)しそうです。


「ありがとう兄(にい)ちゃん、心配(しんぱい)かけてごめん」


 そんな二人(ふたり)にエイギスが近(ちか)づいて、ヒカルをタカヤから優(やさ)しく離(はな)します。


「こらヒカル、嬉(うれ)しいのはわかるけどショースケともお話(はなし)させてあげないと」


「うぅエイギス…だってだって…」


 涙声(なみだごえ)で今度(こんど)はエイギスに抱(だ)きつくヒカルのことを気(き)にしながらも、タカヤはショースケの方(ほう)へ急(いそ)いで駆(か)け寄(よ)りました。


 そしてすぐに深(ふか)く頭(あたま)を下(さ)げます。


「ショースケごめん! 待(ま)ち合(あ)わせすっぽかした!」


 …ショースケはしばらく呆気(あっけ)にとられました。


 というのもいろいろありすぎて、そういえば待(ま)ち合(あ)わせをしていたというのを今(いま)思(おも)い出(だ)したからです。


「ああ、そういえばそんな約束(やくそく)してたね…」


「そんなって…ショースケ怒(おこ)ってないのか?」


 不安(ふあん)そうな目(め)を向(む)けるタカヤのおでこに、ショースケは右手(みぎて)で一発(いっぱつ)デコピンしました。


挿絵(By みてみん)


 おでこを押(お)さえて驚(おどろ)くタカヤに、ショースケ小(ちい)さなため息(いき)をつきます。


「僕(ぼく)がそれぐらいで怒(おこ)ってると思(おも)ってたなら、タカヤは僕(ぼく)のことまだまだわかってないね」


「え、ええと…ごめん」


「…心配(しんぱい)した、すっごく」


 震(ふる)える小(ちい)さな声(こえ)でそう呟(つぶや)いて、ショースケはタカヤに背(せ)を向(む)けてエレベーターの方(ほう)へと歩(ある)き始(はじ)めました。


 タカヤは焦(あせ)ってそれを追(お)いかけます。


「ショースケ、その…心配(しんぱい)かけてごめん! 迎(むか)えに来(き)てくれてありがとう!」



****



「おお、お前(まえ)らここにおったんか探(さが)したぞい」


 本部(ほんぶ)の一(いっ)階(かい)にあるカフェで休(やす)んでいる四(よ)人(にん)のもとに肖(しょう)造(ぞう)がやってきました。


「お、ショースケいいもん食(く)っとるな、どれワシにも一口(ひとくち)くれ」


「やだ、じーちゃん一口(ひとくち)大(おお)きいんだもん」


 ショースケは手(て)の中(なか)の紫色(むらさきいろ)のクレープのようなものを見(み)せびらかすように頬張(ほおば)ります。


「かーっ、けちくさいのお。いいもん、ヒカルのもらうから」


「え、何(なん)で俺(おれ)の…? ううん仕方(しかた)ないな…」


 ヒカルは二(ふた)つある緑色(みどりいろ)のドーナツのようなものの一(ひと)つを、肖(しょう)造(ぞう)の口(くち)の中(なか)に突(つ)っ込(こ)みました。


「肖(しょう)造(ぞう)さん、俺(おれ)のもよかったらどうぞ」


 タカヤも自分(じぶん)の赤(あか)いグミのようなものが入(はい)った箱(はこ)を差(さ)し出(だ)します。


「お、ありがとう。そんな優(やさ)しいヒカルとタカヤにいい知(し)らせがあるぞ」


 肖(しょう)造(ぞう)はもぐもぐと口(くち)の中(なか)のドーナツを飲(の)み込(こ)んでから口(くち)を開(ひら)きました。


「お前(まえ)らの両親(りょうしん)から久(ひさ)しぶりにメッセージが届(とど)いたんじゃ。今(いま)はセラパス星(せい)…ここからはワープを使(つか)ってでも数週間(すうしゅうかん)はかかるほど遠(とお)い星(ほし)におるようじゃな」


 肖(しょう)造(ぞう)は送(おく)られてきたメッセージを書(か)き写(うつ)した紙(かみ)をヒカルに手渡(てわた)しました。


 タカヤもそれを横(よこ)から一緒(いっしょ)に読(よ)みます。


「…俺(おれ)たちに早(はや)く会(あ)いたいってさ。俺(おれ)たちも早(はや)く父(とう)さんと母(かあ)さんに会(あ)いたいよ、なあタカヤ」


「…うん。父(とう)さんと母(かあ)さん、元気(げんき)そうでよかった」


 そう言(い)って寂(さび)しそうに笑(わら)いあう二人(ふたり)の肩(かた)を、エイギスは細(ほそ)い腕(うで)で優(やさ)しく抱(だ)きしめました。


「えーと…エイギスどうしたの?」


 ヒカルは顔(かお)を真(ま)っ赤(か)にしながら尋(たず)ねます。


「こうやってしてもらうと悲(かな)しい気持(きも)ちが少(すこ)し楽(らく)になるのよって、貴方(あなた)たちのお母(かあ)さんの春子(はるこ)がワタシにもよくやってくれたの。どうかしら、少(すこ)しは楽(らく)になった?」


「エイギスさん、ありがとうございます」


「ううん、楽(らく)になったっていうか余計(よけい)にドキドキするっていうか…」


 お礼(れい)を言(い)うタカヤの隣(となり)でヒカルは落(お)ち着(つ)かないのか、もぞもぞと体(からだ)を動(うご)かしました。


 その様子(ようす)を見(み)ていたショースケは、隣(となり)で青(あお)いジュースをぐびぐび飲(の)み始(はじ)めた肖(しょう)造(ぞう)に声(こえ)をかけます。


「エイギスさんもタカヤの両親(りょうしん)のこと知(し)ってるんだね」


「そりゃそうじゃ。エイギスは荒廃(こうはい)した星(ほし)に一人(ひとり)でいるところをタカヤとヒカルの両親(りょうしん)に助(たす)けられてここに来(き)たんじゃからの。エイギスにとって二人(ふたり)は恩人(おんじん)じゃよ」


 ジュースを飲(の)み干(ほ)してピンク色(いろ)の氷(こおり)をボリボリ噛(か)みながら肖(しょう)造(ぞう)は答(こた)えます。


「へー…じゃあタカヤの両親(りょうしん)に会(あ)ったことがないのは僕(ぼく)だけなんだ」


 話(はなし)に入(はい)れずつまらなそうな顔(かお)をするショースケの肩(かた)を、肖(しょう)造(ぞう)はカカカと笑(わら)いながらバンバン叩(たた)きました。


「なんじゃ寂(さび)しいのかショースケ! 全(まった)く仕方(しかた)がないのう、そんなお前(まえ)には他(ほか)の奴(やつ)が知(し)らんワシのプライベートな秘密(ひみつ)でも教(おし)えてやろう! ワシの背中(せなか)のほくろの数(かず)は…」


「いや、全然(ぜんぜん)知(し)りたくないからいいや」


 いじける肖(しょう)造(ぞう)は無視(むし)してショースケがクレープの最後(さいご)のひとかけらを口(くち)に放(ほう)り込(こ)むと、天井(てんじょう)に取(と)り付(つ)けられたスピーカーから大(だい)音量(おんりょう)でアナウンスが流(なが)れます。


「ヒカル隊員(たいいん)ヒカル隊員(たいいん)! 大(だい)至急(しきゅう)第三(だいさん)研究室(けんきゅうしつ)へ来(き)てください!」


「えっと…兄(にい)ちゃん呼(よ)ばれてるよ…?」


 タカヤが隣(となり)を見(み)ると、ヒカルは顔面(がんめん)を真(ま)っ青(さお)にして固(かた)まっています。


 エイギスがいつもより低(ひく)い声(こえ)でヒカルの名前(なまえ)を呼(よ)びました。


「貴方(あなた)もしかして…今日(きょう)が提出(ていしゅつ)期限(きげん)の資料(しりょう)忘(わす)れてたんじゃないかしら?」


「そ…その通(とお)りです…」


 小(ちい)さな声(こえ)で答(こた)えると、ヒカルは急(いそ)いで椅子(いす)から立(た)ち上(あ)がりました。


「ごめんみんな俺(おれ)行(い)かないと! タカヤいつも寂(さび)しい思(おも)いさせてごめん! 今度(こんど)休(やす)み取(と)れたら絶対(ぜったい)会(あ)いに行(い)くからぁあああ!」


 そう叫(さけ)んで走(はし)りながら、ヒカルはおそらく第三(だいさん)資料室(しりょうしつ)の方(ほう)へ消(き)えていきました。


「ワタシも行(い)くわ、ヒカルの資料(しりょう)は丁寧(ていねい)なんだけど不備(ふび)が多(おお)いから確認(かくにん)しないと。ごめんなさいショースケ、見学(けんがく)はまた今度(こんど)ね」


「うんわかった、約束(やくそく)ね」


 エイギスはにこりと笑(わら)うと、足早(あしばや)にヒカルを追(お)いかけていきました。



「じゃあタカヤ、僕(ぼく)たちも行(い)こうか」


 ショースケはくるりとタカヤの方(ほう)へ向(む)き直(なお)ります。


「行(い)くってどこに?」


「決(き)まってるじゃん、待(ま)ち合(あ)わせの続(つづ)きだよ! タカヤと一緒(いっしょ)に行(い)こうと思(おも)って後回(あとまわ)しにしたところがたくさんあるんだから、約束(やくそく)すっぽかした分(ぶん)全部(ぜんぶ)付(つ)き合(あ)ってよね!」


 にっこり笑(わら)ったショースケはタカヤの腕(うで)をがっしりと掴(つか)みました。


「それじゃ、じーちゃんいってきまーす!」


 ショースケに腕(うで)をぐいぐい引(ひ)かれながら、タカヤも肖(しょう)造(ぞう)に小(ちい)さく手(て)を振(ふ)ります。


「えっと、肖(しょう)造(ぞう)さんいってきます!」


「おう、行(い)ってこい。嫌(いや)と言(い)うほど遊(あそ)んで来(こ)いよー」


 大(おお)きなあくびをしながら二人(ふたり)を見送(みおく)った肖(しょう)造(ぞう)は青(あお)いジュースをもう一杯(いっぱい)買(か)って、鼻歌(はなうた)を歌(うた)いながら自分(じぶん)の研究室(けんきゅうしつ)へ戻(もど)って行(い)きました。


挿絵(By みてみん)

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