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第五話 雨上がりの秘密

****


 さっきまで降(ふ)っていた雨(あめ)が止(や)んで、あちこちに出来(でき)た水(みず)たまりにお日様(ひさま)が映(うつ)って光(ひか)っている土曜日(どようび)の午前(ごぜん)十一(じゅういち)時(じ)。


「ターカーヤー!」


 大(おお)きなリュックを背負(せお)って、ショースケはタカヤの家(いえ)のピンポンを鳴(な)らしました。


 奥(おく)からパタパタと足音(あしおと)が近(ちか)づいてきて、ドアが開(ひら)いてタカヤがぴょこっと顔(かお)を出(だ)します。


「ショースケいらっしゃい。早(はや)かったな、てっきり昼過(ひるす)ぎに来(く)ると思(おも)ってたよ」


「だってお泊(と)まりだよ! 僕(ぼく)友達(ともだち)の家(いえ)にお泊(と)まりなんて初(はじ)めてだから、楽(たの)しみでめちゃめちゃ早起(はやお)きしちゃったよ!」


 ショースケはニコニコで背中(せなか)のリュックをぶんぶん揺(ゆ)らして見(み)せました。


「そっか、そう言(い)ってもらえると俺(おれ)も嬉(うれ)しいよ。ほら、荷物(にもつ)重(おも)いだろ? 入(はい)って」


「わーい! おじゃましまーす」


 タカヤに招(まね)かれてショースケが中(なか)に入(はい)ると、玄関(げんかん)までなにやら甘(あま)い匂(にお)いが充満(じゅうまん)していました。


 よく見(み)るとタカヤは赤(あか)いエプロンをしています。


「タカヤ何(なに)か作(つく)ってたの?」


「うん、ショースケに食(た)べてもらおうと思(おも)ってクッキーを焼(や)いてたんだ。まだ焼(や)けてないからちょっと待(ま)ってくれよな」


「クッキー! やったぁ僕(ぼく)クッキー大好(だいす)き!」


 ショースケは鼻(はな)をくんかくんかさせながら手洗(てあら)いうがいを済(す)ませて、リビングに荷物(にもつ)を降(お)ろしました。


「そういえばショースケ、昼(ひる)ご飯(はん)は食(た)べてきたのか?」


「うん、ルルさんが僕(ぼく)の分(ぶん)だけ早(はや)くオムライスを作(つく)ってくれたの。あっ、もしかしてタカヤまだだった…? ごめん」


 ショースケは不安(ふあん)そうに表情(ひょうじょう)を曇(くも)らせます。


「ううん。俺(おれ)も今(いま)食(た)べたところだから大丈夫(だいじょうぶ)だよ」


「そうなんだ、よかったぁ」


 本当(ほんとう)は食(た)べていませんが、タカヤはコスモピースのエネルギーでご飯(はん)を食(た)べなくても大丈夫(だいじょうぶ)なので小(ちい)さな嘘(うそ)をつきました。


 タカヤは背中(せなか)のエプロンの結(むす)び目(め)を揺(ゆ)らしながらキッチンへ向(む)かうと、冷蔵庫(れいぞうこ)を開(ひら)いてショースケに尋(たず)ねます。


「ショースケ、冷(つめ)たい牛乳(ぎゅうにゅう)と麦茶(むぎちゃ)どっちがいい?」


「牛乳(ぎゅうにゅう)がいい! やっぱり甘(あま)いクッキーには牛乳(ぎゅうにゅう)が一番(いちばん)だよ」


「じゃあ俺(おれ)も牛乳(ぎゅうにゅう)にしようかな」


 キッチンでタカヤが二(ふた)つのグラスに牛乳(ぎゅうにゅう)を注(そそ)いでいるのを待(ま)っている間(あいだ)、ショースケは棚(たな)の上(うえ)に並(なら)べてある四(よ)人(にん)写(うつ)った家族(かぞく)写真(しゃしん)を見(み)ていました。


「へー、この人(ひと)たちがタカヤの家族(かぞく)か。確(たし)かみんな宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)なんだっけ」


 写真(しゃしん)にはタカヤの父(ちち)と母(はは)と兄(あに)が写(うつ)っています。


 ショースケもライトに聞(き)いた程度(ていど)で詳(くわ)しくは知(し)りませんが、タカヤの兄(あに)は宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)で、両親(りょうしん)はもっと遠(とお)くの宇宙(うちゅう)でそれぞれ忙(せわ)しなく働(はたら)いているらしく、めったにこの家(いえ)には帰(かえ)って来(こ)られないそうです。


「こういうの見(み)てると僕(ぼく)もマムとダッドに会(あ)いたくなるね。今度(こんど)の長(なが)いお休(やす)みのときに飛行機(ひこうき)に乗(の)って会(あ)いに行(い)こうかな」


 ショースケがそんなことを考(かんが)えていると、階段(かいだん)の方(ほう)からガタリと音(おと)がしました。


「カイダン ノ オソウジ オワッタヨ タカヤ ホメテー」


 引(ひ)き戸(ど)の隙間(すきま)から、ロボットのツバサがリビングへと入(はい)ってきます。


「ゲ、ショースケ モウ キテル。ボク ト タカヤ ノ ラブラブ セイカツ ガ」


 ツバサは表情(ひょうじょう)を変(か)えることは出来(でき)ませんが、露骨(ろこつ)に嫌(いや)そうに三本(さんぼん)の触覚(しょっかく)を揺(ゆ)らしました。


「お、ツバサじゃん久(ひさ)しぶり。どう? 今日(きょう)こそ分解(ぶんかい)させてくれる気(き)になった?」


 ショースケはツバサの大(おお)きさに合(あ)わせて目(め)線(せん)を落(お)とすと、悪(わる)い笑顔(えがお)を浮(う)かべます。


「ショースケ イツモ ソウイウ。コワイ」


 ツバサは呆(あき)れたようにウロウロと辺(あた)りを動(うご)き回(まわ)ります。


「心配(しんぱい)しなくても分解(ぶんかい)し終(お)わったらちゃんと元(もと)に戻(もど)してあげるよ。僕(ぼく)はじーちゃんの作(つく)ったロボットの中身(なかみ)が見(み)たいだけだから」


 ショースケが指(ゆび)をワキワキしていると、ツバサはちらりとキッチンの方(ほう)を見(み)て何(なに)かを思(おも)いついたのか触覚(しょっかく)をまっすぐピーンと伸(の)ばしました。


「ソウダ ショースケ。ブンカイ シタカッタラ ボクヲ ツカマエテ ミナ」


 ツバサはそう言(い)うと四(よん)本(ほん)の足(あし)でバタバタとキッチンの方(ほう)へ逃(に)げていきます。


「え、捕(つか)まえたら分解(ぶんかい)させてくれるの⁉」


 ショースケはそんなツバサを追(お)いかけると、あっけなく捕(と)らえて両手(りょうて)で持(も)ち上(あ)げました。


「キャー ツカマッター」


「自分(じぶん)から言(い)ったくせに簡単(かんたん)に捕(つか)まり過(す)ぎじゃない?」


 ショースケはツバサをひっくり返(かえ)して、まじまじと見(み)つめながら白(しろ)いボディを触(さわ)ります。


「へー、つなぎ目(め)とか全然(ぜんぜん)無(な)いんだ。ロボットなのにやわらかくてあったかいし、これは中身(なかみ)がますます気(き)になるね」


「ヤメテー オナカ サワラナイデー タスケテ タカヤー!」


 ツバサがわざとらしい大(おお)きな声(こえ)を出(だ)したところに、ちょうどタカヤがお盆(ぼん)にグラスとちょっとしたお菓子(かし)をのせて戻(もど)って来(き)ました。


「あ! ショースケまたツバサが嫌(いや)がることしてるのか!」


 急(いそ)いでお盆(ぼん)をテーブルの上(うえ)に置(お)いて、タカヤはショースケからツバサを取(と)り返(かえ)して抱(だ)き上(あ)げます。


「全(まった)くショースケは…。ツバサ、変(へん)なことされてないか?」


「オナカ サワラレタ カラ タカヤ ガ ナデナデ シテ ウワガキ シテー」


 ツバサはすりすりとこれ見(み)よがしにタカヤに甘(あま)えます。


 ショースケはやっと気(き)が付(つ)きました、自分(じぶん)はツバサがタカヤに甘(あま)えるためのダシにされたのだと。


「ツバサ…僕(ぼく)を利用(りよう)したね…?」


 ロボットに良(い)いように使(つか)われてしまったという悔(くや)しさでブルブル震(ふる)えるショースケを、ツバサはタカヤにお腹(なか)を撫(な)でてもらいながら一瞥(いちべつ)しました。


「エー ボク ワカンナーイ」


「タカヤ! 騙(だま)されちゃだめだよ、このロボット策士(さくし)なんだから!」


挿絵(By みてみん)


 ショースケとツバサがやいやい揉(も)めているとオーブンレンジから音(おと)がしました。


「お、クッキーが焼(や)けたみたいだ。二人(ふたり)ともとりあえず揉(も)めるのは後(あと)にしておやつにしよう、な?」


 タカヤは抱(だ)っこしていたツバサを降(お)ろして、キッチンの方(ほう)へ向(む)かいました。


 残(のこ)されたショースケとツバサはお互(たが)い目(め)を合(あ)わせずにソファに少(すこ)し離(はな)れて座(すわ)ります。


「…後(あと)で絶対(ぜったい)仕返(しかえ)ししてやるから。覚悟(かくご)してよねツバサ」


「デキルモンナラ ヤッテミナ」


 表情(ひょうじょう)が変(か)わらなくても嘲笑(あざわら)われていることはなんとなくわかるので、ショースケは悔(くや)しくて髪(かみ)の毛(け)をぐしゃぐしゃと掻(か)きむしりました。



****



「おいしーい!」


 さっきまでの苛立(いらだ)ちはどこへやら、ショースケはもりもりと焼(や)きたてのクッキーを頬張(ほおば)ります。


「そんなに喜(よろこ)んでもらえて嬉(うれ)しいよ。いっぱいあるからたくさん食(た)べてくれよな」


 タカヤは嬉(うれ)しそうに牛乳(ぎゅうにゅう)のおかわりをショースケのグラスに注(そそ)ぎました。


「わー嬉(うれ)しいなあ! 家(いえ)ではもうやめとけってライトさんに止(と)められちゃうから、お腹(なか)いっぱいクッキー食(た)べてみたかったんだよ!」


 友達(ともだち)の家(いえ)にお泊(とま)りして、あたたかな日差(ひざ)しが開(ひら)いた窓(まど)から差(さ)し込(こ)んで、目(め)の前(まえ)には食(た)べ放題(ほうだい)のクッキーが並(なら)べられて…まさに絵(え)に描(か)いたような幸(しあわ)せな休日(きゅうじつ)です。


「んー…それにしてもさ」


 クッキーを両手(りょうて)に持(も)ったまま、ショースケは机(つくえ)の上(うえ)に置(お)いてある自分(じぶん)のエッグロケットに目(め)をやりました


「最近(さいきん)本当(ほんとう)にお仕事(しごと)無(な)いよねー。いや、何事(なにごと)も無(な)い方(ほう)がいいのはわかってるんだけどさ」


 確(たし)かにここ一(いっ)週間(しゅうかん)ほど、ショースケのエッグロケットは鳴(な)っていません。


「もしかして僕(ぼく)のエッグロケット故障(こしょう)してたりして! タカヤのは鳴(な)ってたり…って、それならタカヤが教(おし)えてくれるか。僕(ぼく)たちコンビだもん、一人(ひとり)で行(い)くわけないもんね」


 タカヤは牛乳(ぎゅうにゅう)の入(はい)ったグラスを両手(りょうて)に握(にぎ)ったまま一瞬(いっしゅん)肩(かた)を震(ふる)わせました。


 その隣(となり)でショースケは口(くち)の中(なか)にクッキーを二(ふた)つ入(い)れたまま、牛乳(ぎゅうにゅう)を口(くち)に含(ふく)みます。


「んー! やっぱり牛乳(ぎゅうにゅう)とクッキーは相性(あいしょう)抜群(ばつぐん)だね! ほら、タカヤもやってみなよ…タカヤ? 聞(き)いてる?」


「あ、ごめん! ぼーっとしてた。あはは…心配(しんぱい)しなくてもショースケのエッグロケットは壊(こわ)れてないよ。俺(おれ)のも…ずっと鳴(な)ってないから」


 タカヤはクッキーを小(ちい)さくかじって口(くち)に入(い)れると、少(すこ)し強(つよ)く噛(か)み砕(くだ)きました。


「やっぱりそうだよねー。平和(へいわ)が一番(いちばん)だけどたまにはお仕事(しごと)したいなぁ、早(はや)く特級(とっきゅう)になりたいし」


 口(くち)を尖(とが)らせるショースケに、タカヤはいつものように眉(まゆ)を下(さ)げて困(こま)ったように笑(わら)って見(み)せました。




「ふぁー…美味(おい)しかったお腹(なか)いっぱい…」


 ショースケは満足(まんぞく)げにソファに横(よこ)になり、腕(うで)を上(あ)げて体(からだ)をぐーっと伸(の)ばしました。。


「ショースケ、クッキー食(た)べたら宿題(しゅくだい)するんじゃなかったのか?」


 タカヤは食器(しょっき)を片付(かたづ)けながら声(こえ)をかけます。


「うーん…確(たし)かにそう言(い)ったけどぉ…お昼寝(ひるね)してからにするぅ…」


 ショースケはそのままうとうと目(め)を閉(と)じて、夢(ゆめ)の世界(せかい)に旅立(たびだ)ってしまいました。


 ツバサが丸(まる)い触覚(しょっかく)でショースケのほっぺたをプニプニつつきますが、起(お)きる気配(けはい)はありません。


「ウーム、ヒトノ イエデ ココマデ ノンキニ イラレル ノハ サイノウ ダネ」


「あはは、それだけ安心(あんしん)してくれてるってことだろ? 俺(おれ)は嬉(うれ)しいよ」


 タカヤが重(かさ)ねた食器(しょっき)をお盆(ぼん)にのせて、キッチンへと運(はこ)んでいると…



 タカヤの頭(あたま)の中(なか)でピリピリと音(おと)が鳴(な)り響(ひび)きました。


 早足(はやあし)でキッチンへと向(む)かいテーブルの上(うえ)にお盆(ぼん)を置(お)いて、タカヤはすぐにポケットの中(なか)のキーホルダー型(がた)のエッグロケットを握(にぎ)りました。


「タカヤ隊員(たいいん)、こんにちは。今回(こんかい)は特級(とっきゅう)のあなたへの依頼(いらい)です。コンビのショースケ隊員(たいいん)が同行(どうこう)すると危険(きけん)を伴(ともな)う可能(かのう)性(せい)がありますので、タカヤ隊員(たいいん)一人(ひとり)で行動(こうどう)してください」


 ショースケは金色(きんいろ)の髪(かみ)を窓(まど)からの少(すこ)し湿(しめ)った風(かぜ)で揺(ゆ)らしながらすやすやと眠(ねむ)っています。


 タカヤはショースケを起(お)こさないように小(ちい)さな声(こえ)で返事(へんじ)をしました。


「ありがとうございます。では、時(とき)目(め)木(き)町(ちょう)の鹿(しか)原山(はらやま)の山頂(さんちょう)付近(ふきん)でなにやら良(よ)くない動(うご)きをしているET(いーてぃー)がいるようなので早急(そうきゅう)に現場(げんば)へ向(む)かってください。くれぐれも気(き)を付(つ)けて」


「…了解(りょうかい)しました」


 通信(つうしん)が切(き)れて、タカヤはポケットの中(なか)のエッグロケットから手(て)を離(はな)します。


「タカヤ ダイジョウブ? モシカシテ マタ タカヤ ダケノ オシゴト?」


 心配(しんぱい)そうに見上(みあ)げているツバサを、タカヤは優(やさ)しく抱(だ)き上(あ)げます。


「うん、ちょっと行(い)かなきゃいけなくなった。ツバサ、ショースケとお留守番(るすばん)頼(たの)めるか?」


「アイアイサー」


 ツバサは三本(さんぼん)の触覚(しょっかく)と両手(りょうて)両足(りょうあし)をブイブイ揺(ゆ)らしました。


「ありがとう、じゃあいってくる。ショースケがもし起(お)きたら俺(おれ)は夕飯(ゆうはん)の買(か)い物(もの)に行(い)ったって言(い)っておいてくれ」


 ソファでぐっすりと眠(ねむ)るショースケの横(よこ)をこっそり通(とお)り抜(ぬ)けようとすると、ショースケがうむうむと何(なに)やら寝言(ねごと)を呟(つぶや)きました。


 その手(て)にはいつ鳴(な)ってもいいように、エッグロケットがしっかりと握(にぎ)られています。


「…ごめんな、ショースケ」


 タカヤは静(しず)かに靴(くつ)を履(は)いて、ドアを開(あ)けて外(そと)へ向(む)かいました。



****



「さてと…行(い)くか」


 エッグロケットを操作(そうさ)して自分(じぶん)にキラキラ粉(こ)をかけると、タカヤは鹿(しか)原山(はらやま)へ向(む)かって走(はし)り始(はじ)めました。


 いつもはショースケを待(ま)ちながらゆっくり走(はし)っていますが、今日(きょう)はその必要(ひつよう)はないので全速力(ぜんそくりょく)で向(む)かいます。


 タカヤは運動(うんどう)がすこぶるよく出来(でき)る方(ほう)ですし、コスモピースのおかげで疲(つか)れるということも無(な)いので、常(つね)に最高(さいこう)のスピードで走(はし)り続(つづ)けることができます。


 しかしそれでも山(やま)の頂上(ちょうじょう)となると結構(けっこう)距離(きょり)があり、時間(じかん)がかかってしまいます。


「うーん…最近(さいきん)一人(ひとり)の依頼(いらい)も多(おお)いし、近距離(きんきょり)用(よう)のワープ装置(そうち)でも買(か)おうかな…」


 そんなことを考(かんが)えながら、タカヤは山道(やまみち)をぐんぐん上(のぼ)っていきました。


 さっきまでの雨(あめ)をいっぱい吸(す)い込(こ)んだ山(やま)の土(つち)は重(おも)く、草木(くさき)からは雫(しずく)が滴(したた)っています。


 足元(あしもと)を見(み)ていたタカヤがふと顔(かお)を上(あ)げると、茂(しげ)みの奥(おく)の方(ほう)になにやら紫色(むらさきいろ)の背(せ)の高(たか)い植物(しょくぶつ)が生(は)えているのが目(め)に入(はい)りました。


「あれ、これって…アコリブニ⁉」


 タカヤはすぐにその植物(しょくぶつ)を根元(ねもと)から引(ひ)っこ抜(ぬ)きました。


「このまん丸(まる)の根(ね)っこ、間違(まちが)いない。なんでこんなところに…」


 アコリブニは本来(ほんらい)ポポミル星(せい)に生(は)えている植物(しょくぶつ)です。


 大(おお)きな花(はな)が咲(さ)くとそこから毒性(どくせい)のある花粉(かふん)をまき散(ち)らし、現生(げんせい)の植物(しょくぶつ)を枯(か)らして全(すべ)てを土(つち)の栄養(えいよう)に変(か)えてしまうため、宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)によって他(ほか)の星(ほし)への持(も)ち出(だ)しが禁止(きんし)されています。


 幸(さいわ)いまだ花(はな)は咲(さ)いていないようですが、辺(あた)りを見渡(みわた)すとどうやら点々(てんてん)とアコリブニが植(う)えられているようです。


「とにかく位置(いち)を把握(はあく)して、全部(ぜんぶ)抜(ぬ)き取(と)っておかないと」


 タカヤは目(め)を閉(と)じてコスモピースの力(ちから)を発動(はつどう)させると、町中(まちじゅう)のアコリブニの気配(けはい)を探(さぐ)りました。


 どうやら植(う)えられているのはこの山(やま)の周辺(しゅうへん)だけのようです。


「全部(ぜんぶ)で三十四(さんじゅうよん)本(ほん)か…ごめんね、ここに根付(ねづ)かせるわけにはいかないんだ」


 タカヤは次々(つぎつぎ)と生(は)えているアコリブニを引(ひ)っこ抜(ぬ)いて全(すべ)てを一(いっ)か所(しょ)に集(あつ)めると、エッグロケットのダイヤルを引(ひ)っ張(ぱ)って本部(ほんぶ)へと転送(てんそう)しました。


「…この上(うえ)か。急(いそ)がないと」



****



「はっくしょ!」


 タカヤが仕事(しごと)へ向(む)かってから数十(すうじゅっ)分後(ぷんご)。


 風(かぜ)でなびいた自分(じぶん)の髪(かみ)が鼻先(はなさき)に当(あ)たって、ショースケはくすぐったくて目(め)を覚(さ)ましました。


 寝(ね)ぼけ眼(まなこ)で辺(あた)りをキョロキョロ見回(みまわ)していると、ツバサがそれに気(き)が付(つ)いて近(ちか)づいてきます。


「ア ショースケ オキチャッタ」


「んー…あれ、タカヤはぁ…?」


「タカヤ ハ ユウハン ノ カイモノ ニ イッタヨ」


「え! 買(か)い物(もの)⁉」


 ショースケはガバッと起(お)き上(あ)がりました。


「なんで誘(さそ)ってくれなかったの⁉ 僕(ぼく)も行(い)きたかった! 今(いま)から追(お)いかけても間(ま)に合(あ)うかな?」


 カバンを肩(かた)からかけて飛(と)び出(だ)そうとするショースケをツバサは必死(ひっし)に止(と)めます。


 今(いま)タカヤの元(もと)へ向(む)かわれるわけにはいきません。


「マアマア、モウスグ カエッテ クルト オモウカラ。ソレヨリ ボクト アソバナイ?」


「ツバサと遊(あそ)ぶって…何(なに)して?」


「エート」


 何(なに)も考(かんが)えてなかったツバサは触覚(しょっかく)を使(つか)って近(ちか)くの引(ひ)き出(だ)しを開(ひら)いてみました。


「ア トランプ ガ アル。ショースケ ババヌキ シヨ」


「えー、ババ抜(ぬ)きー?」


 明(あき)らかに乗(の)り気(き)ではありませんが、ショースケをその気(き)にさせるくらいツバサにはお茶(ちゃ)の子(こ)さいさいです。


「フーン、ショースケ ババヌキ ヨワインダー」


「…誰(だれ)が弱(よわ)いって?」


挿絵(By みてみん)


 ショースケはじろりとツバサの方(ほう)を見(み)ました。


「フフン。モシ ボクニ カテタラ ボクノコト ブンカイ シテ イイノニナー」


「言(い)ったね⁉ よし、さっきの仕返(しかえ)ししてやるんだから。後悔(こうかい)しても知(し)らないよ、僕(ぼく)ババ抜(ぬ)き超(ちょう)強(つよ)いんだから!」


 あまりにも扱(あつか)いやすいのでツバサはさすがに心配(しんぱい)になってきました。


 そんな風(ふう)に思(おも)われているとはつゆ知(し)らず、ショースケはとてつもなく自信(じしん)満々(まんまん)にトランプを横(よこ)からパラパラこぼしながらシャッフルし始(はじ)めます。


 ツバサは触覚(しょっかく)でショースケのこぼしたトランプを拾(ひろ)って集(あつ)めていきました。


 さて、ババ抜(ぬ)きだけではさすがに時間(じかん)は潰(つぶ)せないでしょう。


 次(つぎ)は何(なに)を提案(ていあん)してショースケの足(あし)止(ど)めをしようかと、ツバサは頭(あたま)の中(なか)のデータベースをこれでもかと探(さぐ)りました。



****



 鹿(しか)原山(はらやま)の山頂(さんちょう)付近(ふきん)に辿(たど)り着(つ)いたタカヤが辺(あた)りを捜索(そうさく)していると、そこには人(ひと)一人(ひとり)がやっと乗(の)れるくらいの小(ちい)さなUFOが一(ひと)つありました。


 タカヤがUFOの扉(とびら)をノックしようとしたのと同時(どうじ)に、その中(なか)から体長(たいちょう)三十(さんじゅう)センチくらいの深緑(ふかみどり)色(いろ)のET(いーてぃー)がそろりと出(で)てきました。


 五(いつ)つある瞳(ひとみ)で真(ま)っすぐタカヤを見(み)つめながら体(からだ)を震(ふる)わせていて、ひどく怯(おび)えているようです。


「あ、あの…もしかして宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)さん、ですか…?」


「はい、そうです」


「ああ、すみません! もしかしなくてもアコリブニのことですよね…」


 深緑(ふかみどり)色(いろ)のET(いーてぃー)はオロオロと目(め)を次々(つぎつぎ)に大(おお)きくしました。


「アコリブニはボクの故郷(こきょう)の植物(しょくぶつ)でして…。最近(さいきん)数(かず)が減(へ)ってしまっていてどうにか別(べつ)の星(ほし)でも育(そだ)てられないかと試(ため)したくなってしまったんです。ごめんなさい」


「故郷(こきょう)の植物(しょくぶつ)ということは…あなたはポポミル星人(せいじん)ですね」


「はい、そうです。あの…謝(あやま)っても許(ゆる)してもらえませんよね。どうぞボクを宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)へ送(おく)ってください」


 ポポミル星人(せいじん)は抵抗(ていこう)する様子(ようす)も無(な)く、悲(かな)しそうに体(からだ)を差(さ)し出(だ)します。


「いえ、そうでは無(な)くて…」


 タカヤはコスモピースの力(ちから)を宿(やど)した瞳(ひとみ)で、ポポミル星人(せいじん)が立(た)っている地面(じめん)を見(み)つめました。


「そこ、何(なに)か埋(う)めてますよね。おそらく…ポポミル星(せい)に生息(せいそく)する巨大(きょだい)怪獣(かいじゅう)、サークリスプの卵(たまご)じゃないですか?」


 …ポポミル星人(せいじん)の五(いつ)つの目玉(めだま)が大(おお)きく見開(みひら)いてギロリとタカヤをにらみつけます。


「サークリスプの卵(たまご)は植物(しょくぶつ)のように土(つち)の中(なか)の栄養(えいよう)を吸収(きゅうしゅう)して育(そだ)ちますから、アコリブニを周囲(しゅうい)に植(う)えてここに生(は)えている植物(しょくぶつ)を枯(か)らして栄養(えいよう)にしようとしていたんですよね?」


 地面(じめん)がグラグラと揺(ゆ)れ始(はじ)めます。


「あなたの…いえ、あなたたちの目的(もくてき)はここでサークリスプをふ化(か)させてこの土地(とち)や生物(せいぶつ)に危害(きがい)を加(くわ)えて侵略(しんりゃく)を謀(はか)ること。違(ちが)いますか?」


「正解(せいかい)です、なので」


 突然(とつぜん)タカヤを囲(かこ)むように十数(じゅうすう)人(にん)のポポミル星人(せいじん)が茂(しげ)みの中(なか)から現(あらわ)れたと思(おも)うと、同時(どうじ)に無数(むすう)のとげの付(つ)いたツルが地面(じめん)から飛(と)び出(だ)しタカヤに迫(せま)ってきました。


「宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)さんにはここで消(き)えてもらいます」


 タカヤは急(いそ)いで周(まわ)りに被害(ひがい)が出(で)ないようシールドを張(は)り、その中(なか)にキラキラ粉(こ)を散布(さんぷ)しました。


「そんな悠長(ゆうちょう)なことをしていていいんですか?」


 ツルはぐるぐるとタカヤの体(からだ)を持(も)ち上(あ)げながら巻(ま)き付(つ)き、手足(てあし)を絡(から)めとって動(うご)きを封(ふう)じます。


 ポポミル星人(せいじん)たちは動(うご)けないタカヤに向(む)かって何(なに)かの噴射(ふんしゃ)口(こう)であろうノズルをまっすぐ突(つ)きつけました。


 ノズルの後(うし)ろには黒(くろ)いチューブが伸(の)びて、それはポポミル星人(せいじん)たちが背負(せお)ったピンク色(いろ)のガスが充満(じゅうまん)したボトルに繋(つな)がっています。


「このガスはプニプヨ星(せい)の植物(しょくぶつ)、モジェリの花(はな)から作(つく)りました。私(わたし)たちには無害(むがい)ですが、あなたのような地球(ちきゅう)生物(せいぶつ)には猛毒(もうどく)なそうで…」


 ポポミル星人(せいじん)は五(いつ)つの目(め)をバラバラにまばたきさせながら続(つづ)けます。


「…ポポミル星(せい)は大気(たいき)汚染(おせん)が深刻(しんこく)で、私(わたし)たちが住(す)めなくなるのも時間(じかん)の問題(もんだい)なのです。ですからどうしても、星(ほし)で待(ま)つ仲間(なかま)たちのために気候(きこう)の似(に)た新(あたら)しい住(す)む星(ほし)が必要(ひつよう)なのです…悪(わる)く思(おも)わないでくださいね」


 そう言(い)って目(め)を伏(ふ)せると


「発射(はっしゃ)!」


 ピンク色(いろ)のガスが一斉(いっせい)にタカヤに向(む)けて吹(ふ)き付(つ)けられました。




 …タカヤは周囲(しゅうい)がピンクの霧(きり)に染(そ)まる中(なか)で一(ひと)つ大(おお)きく深呼吸(しんこきゅう)をしてガスを吸(す)い込(こ)むと、小(ちい)さな声(こえ)で呟(つぶや)きました。


「ほんと、ショースケを連(つ)れてこなくてよかったよ…こ(・)れ(・)はあんまり見(み)られたくないから」




 タカヤは赤(あか)と青(あお)の星(ほし)が無数(むすう)に浮(う)かぶ瞳(ひとみ)を思(おも)い切(き)り見開(みひら)くと、周囲(しゅうい)に充満(じゅうまん)する毒(どく)ガスを全(すべ)て体(からだ)に引(ひ)き寄(よ)せて吸(す)い込(こ)んでしまいました。


 そしてその背中(せなか)から何(なん)本(ぼん)もの黒(くろ)い触手(しょくしゅ)が飛(と)び出(だ)して、まるで大(おお)きな翼(つばさ)のように対称(たいしょう)的(てき)に広(ひろ)がります。


挿絵(By みてみん)


 触手(しょくしゅ)にはタカヤの瞳(ひとみ)と同(おな)じように、おぞましいほどの深(ふか)い黒(くろ)の中(なか)にたくさんの赤(あか)と青(あお)の光(ひかり)が浮(う)かんでいます。


 タカヤはその触手(しょくしゅ)を自由(じゆう)自在(じざい)に操(あやつ)って、何(なに)が起(お)こっているのかわからずうろたえているポポミル星人(せいじん)たちを次々(つぎつぎ)に捕(と)らえていきます。


「ひ…っ、助(たす)けて!」


 逃(に)げ惑(まど)う隙(すき)すら与(あた)えず全(すべ)てのポポミル星人(せいじん)に触手(しょくしゅ)を一本(いっぽん)ずつ巻(ま)き付(つ)けて持(も)ち上(あ)げると、タカヤは体中(からだじゅう)にエネルギーをまとわせて、手足(てあし)に絡(から)みついていたツルを全(すべ)て溶(と)かして地面(じめん)にゆっくりと降(お)り立(た)ちました。


 苦(くる)しそうにもがくポポミル星人(せいじん)たちを触手(しょくしゅ)で捕(と)らえたまま、タカヤは数(すう)歩(ほ)進(すす)んで地面(じめん)に手(て)をかざし、強(つよ)い衝撃(しょうげき)波(は)を発生(はっせい)させます。


 ボコンと音(おと)を立(た)てて土(つち)が跳(は)ねて目(め)の前(まえ)の地面(じめん)が深(ふか)くえぐられると、その中(なか)から大(おお)きな水玉(みずたま)模様(もよう)の卵(たまご)が出(で)てきました。


 タカヤは穴(あな)の外(そと)から触手(しょくしゅ)を伸(の)ばして卵(たまご)にぐるぐる巻(ま)き付(つ)けて持(も)ち上(あ)げると、空(あ)いている両手(りょうて)でエッグロケットを操作(そうさ)して本部(ほんぶ)へ強制(きょうせい)転送(てんそう)する準備(じゅんび)を始(はじ)めました。


「あなたたちが仲間(なかま)のためにこの星(ほし)が必要(ひつよう)なように、俺(おれ)にも守(まも)りたいものがあるんです。…悪(わる)く思(おも)わないでくださいね」


 そう言(い)うタカヤを見(み)るポポミル星人(せいじん)たちは、化(ば)け物(もの)を見(み)るような怯(おび)えきった目(め)をしています。


「あなたは…一体(いったい)何(なん)ですか…あなたみたいな生物(せいぶつ)は見(み)たことが無(な)い…」


 ポポミル星人(せいじん)の一人(ひとり)が、ガタガタ体(からだ)を震(ふる)わせながら口(くち)を開(ひら)きました。


「…そうですね、俺(おれ)にもよくわかりません。でも」


 タカヤは数多(あまた)の触手(しょくしゅ)を全(すべ)て一(いっ)か所(しょ)に集(あつ)めて体(からだ)の前(まえ)に持(も)ってくると、転送(てんそう)の準備(じゅんび)が完了(かんりょう)して渦(うず)が発生(はっせい)しているエッグロケットの銃口(じゅうこう)をポポミル星人(せいじん)たちに向(む)けました。


「あなたたちの知(し)っている地球(ちきゅう)の人間(にんげん)でないことは確(たし)かでしょうね」


 そう言(い)って少(すこ)し寂(さみ)しそうに口角(こうかく)を上(あ)げると、タカヤはエッグロケットのスイッチを強(つよ)く握(にぎ)りました。



****



「ただいま」


 外(そと)で靴(くつ)裏(うら)についた土(つち)をパンパン払(はら)ってから、大(おお)きな買(か)い物(もの)袋(ぶくろ)を下(さ)げたタカヤが扉(とびら)を開(ひら)くと…


 そこではショースケがトランプのジョーカーを前(まえ)にして号泣(ごうきゅう)していました。


「うぇええええええん! なんで勝(か)てないのぉおおおお」


「ショースケ アマリニモ ワカリヤス スギル。モウ オワリニ サセテ」


 一体(いったい)何(なに)連続(れんぞく)ババ抜(ぬ)きをしていたのでしょう、ツバサはロボットなのに疲(つか)れ切(き)って横(よこ)たわっています。


「やだやだ! だってまだ勝(か)ってない! 僕(ぼく)、ダッドには負(ま)けたことないんだよぉお…」


「ソレハ ショースケノ オトウサンガ ショースケニ アマイ ダケ ダヨ」


 そう言(い)ったツバサはやっとタカヤに気(き)が付(つ)くと、触覚(しょっかく)をピーンと伸(の)ばして駆(か)け寄(よ)ってきました。


「タカヤタカヤタカヤ オカエリー! ヤット カエッテキタ。 モウ タイヘン ダッタンダヨ」


「ただいまツバサ、ショースケ。…どうもそうみたいだな」


 タカヤは眉(まゆ)を下(さ)げてへにょりと笑(わら)います。


「あ、タカヤおかえり…僕(ぼく)のこと置(お)いていったでしょ」


 ショースケはババ抜(ぬ)きで負(ま)けまくったことも相(あい)まってむすっとしています。


「ごめんごめん、気持(きも)ちよさそうに寝(ね)てたから。ほら、お菓子(かし)も買(か)ってきたから一緒(いっしょ)に食(た)べよう」


「お菓子(かし)くらいで僕(ぼく)の機嫌(きげん)が取(と)れると思(おも)ったら…ってわぁシュークリーム僕(ぼく)これ大好(だいす)きタカヤありがとー!」


 ショースケはシュークリームを受(う)け取(と)るとぴょんぴょん跳(は)ねて大喜(おおよろこ)びです。


「ショースケ アマリニモ カンタン スギル。ウチュウケイサツ トシテ スゴク シンパイ」


「う、宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)は今(いま)関係(かんけい)ないでしょ! 別(べつ)に悪(わる)いET(いーてぃー)にお菓子(かし)もらったってついて行(い)ったりしないんだから!」


「ホントカナー」


 ツバサは疑(うたが)いの目(め)を向(む)けます。


「ほんとだよ! ねえタカヤ、僕(ぼく)いたって真面目(まじめ)な宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)だよね?」


「あはは…ショースケはいつも頑張(がんば)ってるよ」


 タカヤは冷蔵庫(れいぞうこ)に買(か)ってきた食材(しょくざい)を入(い)れるためキッチンへ向(む)かいます。


 …ふと、半(はん)ズボンのすそが土(つち)でべっとり汚(よご)れているのに気(き)が付(つ)きました。


 きっとポポミル星人(せいじん)の相手(あいて)をしているときに付(つ)いたのでしょう。


 ショースケに気付(きづ)かれる前(まえ)でよかったと、タカヤは水気(みずけ)を絞(しぼ)った布巾(ふきん)で汚(よご)れを拭(ぬぐ)いました。


「ねぇねぇタカヤー」


 汚(よご)れを拭(ぬぐ)い終(お)わったのと同時(どうじ)にショースケがキッチンへやって来(き)ました。


「夕飯(ゆうはん)の材料(ざいりょう)買(か)って来(き)たんでしょ? 何(なに)買(か)ったのー」


「えーっと、にんじんとたまねぎとじゃがいもとお肉(にく)と…今日(きょう)はカレーにしようと思(おも)って。ショースケも一緒(いっしょ)に作(つく)らないか?」


「え、いいの? 作(つく)る作(つく)る! 僕(ぼく)にんじんの皮(かわ)むき上手(じょうず)だねーってルルさんに褒(ほ)められたことあるんだよ」


挿絵(By みてみん)


 ショースケはにっこり笑(わら)って足(あし)をその場(ば)でパタパタと鳴(な)らします。


「そっか。じゃあにんじんはショースケに任(まか)せようかな」


「やったあ! とびきり大(おお)きめに切(き)っちゃおうっと!」


 冷蔵庫(れいぞうこ)に食材(しょくざい)を入(い)れて、テーブルの上(うえ)に甘口(あまくち)のカレールーを置(お)いて、二人(ふたり)はキッチンを後(あと)にしました。


「ねぇこの後(あと)どうする? あ、ババ抜(ぬ)きする⁉ タカヤになら勝(か)てるかも!」


「タカヤ ババヌキ チョウ ツヨイカラ ヤメトキナ ショースケ」


「う…ツバサがそう言(い)うならやめとこうかな」


 さすがにもう負(ま)けを重(かさ)ねたくないショースケは尻込(しりご)みします。


「それよりショースケ、今(いま)のうちに宿題(しゅくだい)済(す)ませとかないか? ほら、さっき後(あと)でするって言(い)ったろ」


「げ。そんなのあったね…ええっと…そうだ、シュークリーム! シュークリーム食(た)べたらするよ!」


 ショースケは一足(ひとあし)早(はや)くソファに座(すわ)り、シュークリームの袋(ふくろ)を開(あ)けます。


 大(おお)きな口(くち)を開(ひら)いて頬張(ほおば)り、口(くち)の周(まわ)りにひげのようにクリームをつけたショースケを見(み)て、タカヤは声(こえ)を出(だ)して楽(たの)しそうに笑(わら)いました。




 玄関(げんかん)に置(お)いてあるタカヤの赤(あか)い靴(くつ)の裏(うら)には、湿(しめ)った山(やま)の土(つち)がまだべっとりとこびりついていました。


挿絵(By みてみん)

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