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第四話 みがわりスライムにお願い!

****


「うぇー、次(つぎ)の授業(じゅぎょう)算数(さんすう)かぁ。給食(きゅうしょく)の後(あと)の授業(じゅぎょう)って眠(ねむ)くなるから困(こま)るよ」


 掃除(そうじ)の時間(じかん)が終(お)わって、タカヤとショースケは教室(きょうしつ)に向(む)かって歩(ある)いていました。


「給食(きゅうしょく)の後(あと)じゃなくてもショースケはいつも眠(ねむ)そうだろ?」


 タカヤはちょっと呆(あき)れ気味(ぎみ)です。


 三(さん)時間(じかん)目(め)の社会(しゃかい)でも、四(よ)時間(じかん)目(め)の国語(こくご)でも、タカヤは後(うし)ろの席(せき)からショースケの背中(せなか)をつんつんして起(お)こしてあげたのでした。


「それはこの世界(せかい)が面白(おもしろ)過(す)ぎるのが悪(わる)いよ。見(み)たいものも作(つく)りたいものもたくさんあって一日(いちにち)二十四(にじゅうよ)時間(じかん)じゃとても足(た)りないでしょ」


 …ようするに遊(あそ)び過(す)ぎて夜更(よふ)かしした、ということでしょう。


「とにかく、今度(こんど)はちゃんと起(お)きててくれよ?」


 タカヤは眉(まゆ)をしかめて念(ねん)を押(お)します。


「んーまあ努力(どりょく)はするよ。ところで、昨日(きのう)拾(ひろ)ったのちゃんと渡(わた)した?」


「ううん、まだここのポケットに入(はい)ってる。後(あと)で渡(わた)しとくよ」


 そんな何気(なにげ)ない会話(かいわ)をしていると…


 二人(ふたり)の頭(あたま)の中(なか)にピリピリと音(おと)が鳴(な)り響(ひび)きました。


 宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)から、この時(とき)目(め)木(き)町(ちょう)でET(いーてぃー)からの通報(つうほう)があったことを知(し)らせる連絡(れんらく)でしょう。


 でもおかしいです。


 学業(がくぎょう)をおろそかにしてはいけないからと、二人(ふたり)が学校(がっこう)に行(い)っている間(あいだ)に入(はい)った通報(つうほう)にはいつもはライトさんが対応(たいおう)してくれています。


 それなのになぜ今日(きょう)は二人(ふたり)に通報(つうほう)が入(はい)ってきているのでしょうか。


 そう考(かんが)えている間(あいだ)にも頭(あたま)の中(なか)の音(おと)はピリピリと鳴(な)りやみません。


 タカヤとショースケはひとまず、周(まわ)りに誰(だれ)もいないことを確認(かくにん)してポケットの中(なか)のエッグロケットを握(にぎ)りました。


『タカヤ隊員(たいいん)、ショースケ隊員(たいいん)、通報(つうほう)が入(はい)りました。場所(ばしょ)は時(とき)目(め)木(き)滝(たき)の周辺(しゅうへん)、現場(げんば)へ向(む)かってください!』


「あのー…今(いま)学校(がっこう)で」


 ショースケは状況(じょうきょう)を説明(せつめい)しようとしましたが本部(ほんぶ)も忙(いそが)しいのでしょう、返事(へんじ)をする前(まえ)に通話(つうわ)は切(き)れてしまいました。


「え、え、どうしよう⁉ 僕(ぼく)今日(きょう)翻訳機(ほんやくき)持(も)ってないのに! というかライトさんは⁉」


「何(なに)かあったのかな…ショースケのところに連絡(れんらく)入(はい)ってないか?」


 ショースケはエッグロケットの中(なか)に入(い)れておいたタブレットを取(と)り出(だ)します。


「あ、ルルさんから連絡(れんらく)が入(はい)ってる。えーっとなになに…?」


『ショースケさんとタカヤさんへ


 ライトさんは今日(きょう)のお昼(ひる)ごろお腰(こし)を痛(いた)めてしまいました。


 ですのでしばらくの間(あいだ)、本部(ほんぶ)には通報(つうほう)があった場合(ばあい)お二人(ふたり)に連絡(れんらく)していただくよう頼(たの)んでおきました。


 私(わたし)とメグは宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)ではないので、お二人(ふたり)の代(か)わりを務(つと)めることができません。


 学業(がくぎょう)が忙(いそが)しいところ申(もう)し訳(わけ)ありませんがよろしくお願(ねが)いします」


「な、なるほど…お大事(だいじ)にして欲(ほ)しいな」


「ライトさんまた腰(こし)やったの⁉ 絶対(ぜったい)運動(うんどう)不足(ぶそく)だよ!」


 そうこう話(はな)していると後(うし)ろから誰(だれ)かの足音(あしおと)が近(ちか)づいて来(き)たので、ショースケは大慌(おおあわ)てでタブレットをしまいます。


「あれ、まだここにいたのか。もうすぐ授業(じゅぎょう)始(はじ)まるから早(はや)く教室(きょうしつ)に戻(もど)りなよー」


 担任(たんにん)の琴子(ことこ)先生(せんせい)が一(ひと)つに縛(しば)った長(なが)い髪(かみ)を揺(ゆ)らして歩(ある)きながら、二人(ふたり)に声(こえ)をかけました。


「は、はーい!」


 タカヤとショースケは苦笑(にがわら)いで返事(へんじ)をしながら、ほぼ同時(どうじ)にそれぞれのポケットの中(なか)のエッグロケットを握(にぎ)ってテレパシーを送(おく)ります。


(とにかく、人目(ひとめ)につかないところに移動(いどう)しよう!)


(僕(ぼく)も同(おな)じこと言(い)おうと思(おも)ってた!)


 二人(ふたり)は精一杯(せいいっぱい)の早(はや)歩(ある)きで廊下(ろうか)を進(すす)んでいきました、その時(とき)。


「あ、おいタカヤ…」


 すれ違(ちが)いざまにレンが声(こえ)をかけようとしましたが、二人(ふたり)は気(き)が付(つ)かず横(よこ)を通(とお)り過(す)ぎていきます。


「…なんだよ」


 レンは面白(おもしろ)くなさそうに教室(きょうしつ)へ戻(もど)って行(い)きました。



****



というわけで、二人(ふたり)は人目(ひとめ)につかない場所(ばしょ)…トイレの一番(いちばん)奥(おく)の個室(こしつ)にやってきました。


(さすがにもうちょっといい場所(ばしょ)なかったの⁉)


 ショースケは不満(ふまん)げです。


(仕方(しかた)ないだろ、近(ちか)くにあったのがここだったんだから。それより早(はや)く通報(つうほう)のあった場所(ばしょ)に向(む)かわないと!)


 タカヤはエッグロケットの中(なか)から、なにやらドロドロした緑(みどり)の液体(えきたい)が入(はい)った小瓶(こびん)を二(ふた)つ取(と)り出(だ)しました。


(なにそれ…スライム?)


(ショースケごめん、ちょっと我慢(がまん)してくれ)


 タカヤはそうテレパシーを送(おく)ると、あろうことかショースケにその小瓶(こびん)の中身(なかみ)を一本(いっぽん)まるごとぶっかけました。


「うわあ⁉ 冷(つめ)たっ、え、気持(きも)ちわる⁉」


 ショースケは突然(とつぜん)のことに思(おも)わずテレパシーを忘(わす)れて声(こえ)が出(で)てしまいました。


 その間(あいだ)に、タカヤは自分(じぶん)にももう一本(いっぽん)の瓶(びん)の中身(なかみ)をぶっかけます。


「何(なに)すんのタカヤ!」


(ショースケ声(こえ)出(で)てる! まあ見(み)てて!)


(見(み)ててって言(い)われても…あれ?)


 ショースケが自分(じぶん)の体(からだ)を見(み)てみると、服(ふく)にも髪(かみ)にも何(なに)もついていません。


 自分(じぶん)で液体(えきたい)をかけたはずのタカヤも同様(どうよう)です。


 何(なに)が起(お)こったのかわからず戸惑(とまど)うショースケの足(あし)に、冷(つめ)たい何(なに)かがピトっと触(ふ)れました。


 驚(おどろ)いて下(した)を向(む)くと、先(さき)ほどかけられた液体(えきたい)と同(おな)じ緑色(みどりいろ)の何(なに)かがブルンブルンと揺(ゆ)れながら次第(しだい)に大(おお)きくなっていきます。


(え⁉ なになに、ていうか狭(せま)い!)


 どんどん膨(ふく)らむ何(なに)かに、トイレの個室(こしつ)はもうみちみちです。


 ショースケはあまりの圧(あつ)に耐(た)え切(き)れず急(いそ)いで個室(こしつ)の扉(とびら)を開(あ)けました。


(はー…潰(つぶ)れるかと思(おも)った…)


 そう思(おも)いながら個室(こしつ)の中(なか)を振(ふ)り返(かえ)ると…


 そこには自分(じぶん)ではないショースケが一人(ひとり)とタカヤが二人(ふたり)いました。


「じゃあここは頼(たの)んだ!」


 奥(おく)にいたタカヤがそう言(い)うと、もう一人(ひとり)のタカヤともう一人(ひとり)のショースケは「了解(りょうかい)!」と返事(へんじ)をして、教室(きょうしつ)の方(ほう)へ走(はし)って行(い)きました。


 ショースケはわけがわからず開(あ)いた口(くち)が塞(ふさ)がりません。


「ごめんショースケ後(あと)で説明(せつめい)する! とりあえず外(そと)に出(で)よう!」


 タカヤはエッグロケットからキラキラ粉(こ)を取(と)り出(だ)して自分(じぶん)たちに振(ふ)りかけると、ショースケの手(て)を引(ひ)いて走(はし)り始(はじ)めました。



****



「ま、待(ま)って待(ま)って!」


 手(て)を引(ひ)かれながら、ショースケは校門(こうもん)付近(ふきん)でタカヤを呼(よ)び止(と)めました。


「まさかあの滝(たき)まで走(はし)っていく気(き)…?」


 ショースケの体力(たいりょく)はトイレからここまで走(はし)って来(き)ただけでもう限界(げんかい)です。


「うん、そうだけど…」


「無理(むり)だよ! ここから滝(たき)までどれだけあると思(おも)ってるの!」


 想像(そうぞう)しただけでショースケの顔(かお)は青(あお)ざめていきます。


「そうだ、前(まえ)みたいにタカヤがコスモピース使(つか)って飛(と)んでくれたらいいじゃん! あれならすぐに着(つ)いちゃうよ」


「あれは緊急(きんきゅう)手段(しゅだん)で…。それにたくさんエネルギーを使(つか)うから…」


「いいじゃんか、今(いま)だって十分(じゅうぶん)緊急(きんきゅう)事態(じたい)でしょー!」


 ショースケは楽(らく)をするためなら簡単(かんたん)にコスモピースの力(ちから)を使(つか)わせようとするので困(こま)ったものです。


 しかしタカヤも先日(せんじつ)ライトにコスモピースを『気(き)を付(つ)けて使(つか)う』と約束(やくそく)したばかりです、何(なん)でもかんでも安易(あんい)に使(つか)うわけにはいきません。


「とにかく、今(いま)は使(つか)わない! ほら走(はし)るぞ! なんならおんぶするから」


「おんぶだけはやだ‼ ちょっと待(ま)ってわかったいいもの出(だ)すから!」


 そう言(い)うとショースケはエッグロケットの中(なか)から大(おお)きな乗(の)り物(もの)を引(ひ)っ張(ぱ)り出(だ)しました。


挿絵(By みてみん)


 キックボードのような外見(がいけん)をしたそれにはタイヤは付(つ)いておらず、足(あし)をのせる板(いた)は二人(ふたり)は余裕(よゆう)で乗(の)れそうな長(なが)さです。


「これはスカイボード。この間(かん)倉庫(そうこ)で見(み)つけた、じーちゃんの作(つく)った空(そら)を飛(と)ぶ乗(の)り物(もの)だよ。…あんまり使(つか)いたくなかったけど」


「なんで使(つか)いたくないんだ? 便利(べんり)そうなのに」


 タカヤは不思議(ふしぎ)そうに首(くび)をかしげます。


「…燃料(ねんりょう)がちょっと貴重(きちょう)なもので高(たか)くてね。僕(ぼく)のお財布(さいふ)の中(なか)のお金(かね)なんてポンと飛(と)んじゃうんだよ」


 なるほど、使(つか)いたくないのも納得(なっとく)の理由(りゆう)です。


「そっか。ショースケのお金(かね)は大事(だいじ)だし、やっぱり俺(おれ)がおんぶして」


「いやいや使(つか)う! 使(つか)わせてください!」


 ショースケは慌(あわ)ててスカイボードのスイッチを入(い)れました。


 スカイボードはぼんやりと光(ひか)りながら少(すこ)しだけ空中(くうちゅう)に浮(う)かび、どこかからピコピコと音(おと)を立(た)てます。


 持(も)ち手(て)の真(ま)ん中(なか)にある丸(まる)い透明(とうめい)なパーツの中(なか)に黄色(きいろ)くてやわらかそうなかけらが入(はい)っており、おそらくこれがショースケの言(い)っていた貴重(きちょう)な燃料(ねんりょう)でしょう。


「さ、燃料(ねんりょう)がもったいないから早(はや)く乗(の)って!」


 二人(ふたり)が板(いた)の上(うえ)に乗(の)ると、スカイボードはさっきまでいた校舎(こうしゃ)が見下(みお)ろせるほど高(たか)くまっすぐ浮(う)かび上(あ)がりました。


「僕(ぼく)の肩(かた)にしっかりつかまっててね、じゃあ出発(しゅっぱつ)進行(しんこう)―!」


 ショースケがハンドルをぎゅっとひねると、スカイボードは大(おお)空(そら)を自由(じゆう)に飛(と)び始(はじ)めました。


 速度(そくど)はスクーターと同(おな)じくらいでしょうか。


「まあ僕(ぼく)が走(はし)るよりはよっぽど速(はや)いでしょ」


「ショースケは本当(ほんとう)にすごいものいっぱい持(も)ってるよな。燃料代(ねんりょうだい)、俺(おれ)も出(だ)すから後(あと)で教(おし)えてくれよ」


「いいけど多分(たぶん)びっくりするよ? そうだところで」


 ショースケはしかめ面(つら)でタカヤの方(ほう)へ振(ふ)り返(かえ)りました。


 聞(き)きたいことは十中八九(じゅっちゅうはっく)、先(さき)ほどの緑色(みどりいろ)のドロドロの液体(えきたい)のことでしょう。


「ああ、説明(せつめい)せずに使(つか)ってごめんな」


「まったく、タカヤっていつも僕(ぼく)に言(い)う前(まえ)に動(うご)くから困(こま)るよ」


 そんなショースケも先日(せんじつ)何(なに)も言(い)わずにタカヤを新(あたら)しい発明(はつめい)品(ひん)の実験台(じっけんだい)にしたばかりですが、自分(じぶん)のことは棚(たな)に上(あ)げます。


「ごめんごめん、あれは『みがわりスライム』っていう道具(どうぐ)だよ。宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)のある星(ほし)で買(か)っておいたんだ」

「へー! つまり僕(ぼく)たちのみがわりを作(つく)って授業(じゅぎょう)を代(か)わりに受(う)けさせてるってことか。なにそれすっごく便利(べんり)じゃん!」


 勉強(べんきょう)嫌(ぎら)いのショースケにとってなんて魅力(みりょく)的(てき)な道具(どうぐ)なんでしょう。


「…もちろん後(あと)で、受(う)けなかった分(ぶん)の授業(じゅぎょう)の範囲(はんい)は一緒(いっしょ)に勉強(べんきょう)しような?」


 有無(うむ)を言(い)わさぬ笑顔(えがお)を浮(う)かべて、タカヤは少(すこ)し強(つよ)くショースケの肩(かた)を握(にぎ)りました。


「う、わかったよ…」


 こういう時(とき)のタカヤは頑固(がんこ)なので逆(さか)らわないが吉(きち)です。


「それにしてもすごい道具(どうぐ)だね『みがわりスライム』。声(こえ)まで僕(ぼく)らにそっくりだったよ」


 ショースケが運転(うんてん)に慣(な)れてないからか、スカイボードは少々(しょうしょう)ぐらぐら揺(ゆ)れながら空(そら)を進(すす)んでいきます。


「そうだろ? 声(こえ)だけじゃなくて、行動(こうどう)とか性格(せいかく)とかもオリジナルの俺(おれ)たちと同(おな)じように変身(へんしん)してくれるんだ。ただ一(ひと)つだけ欠点(けってん)があって…」


 タカヤは言(い)いにくそうに続(つづ)けます。


「変身(へんしん)しているものと同(おな)じもの…今回(こんかい)は人間(にんげん)に触(さわ)られると変身(へんしん)が解(と)けちゃうんだ」


「え、それって結構(けっこう)マズいんじゃない?」


 教室(きょうしつ)にはクラスメイト達(たち)や先生(せんせい)がいるのですから、偶然(ぐうぜん)触(さわ)られたっておかしくありません。


「うん。だからあのスライムたちには『人間(にんげん)が触(ふ)れそうになったら、なんとしても触(さわ)られないようお互(たが)いに努力(どりょく)すること』ってお願(ねが)いしてあるんだ」


「な、なるほど…それなら安心(あんしん)、かなあ…」


 ショースケは若干(じゃっかん)不安(ふあん)になってきました。


「まあ触(さわ)られる機会(きかい)なんてそうないだろうから…とにかく早(はや)く現場(げんば)に向(む)かおう!」



****



 ところ変(か)わってここは四年生(よねんせい)の教室(きょうしつ)。


 みがわりスライムの二人(ふたり)…タカヤ2とショースケ2は五(ご)時間(じかん)目(め)の算数(さんすう)の授業(じゅぎょう)を受(う)けておりました。


 タカヤ2はオリジナルのタカヤと同(おな)じように真面目(まじめ)に授業(じゅぎょう)を聞(き)きながら、たくさん手(て)を上(あ)げて発表(はっぴょう)しています。


 問題(もんだい)は全問(ぜんもん)正解(せいかい)、ノートも整理(せいり)されていて字(じ)も綺麗(きれい)です。


 そしてショースケ2はもちろん、オリジナルのショースケと同(おな)じように…


 机(つくえ)に突(つ)っ伏(ぷ)してよだれを垂(た)らしながら爆(ばく)睡(すい)していました。


 その様子(ようす)は教室(きょうしつ)内(ない)のどの席(せき)から見(み)ても寝(ね)ているとわかるほどです。


 タカヤ2は仕方(しかた)なく後(うし)ろから、前(まえ)の席(せき)のショースケ2の背中(せなか)を鉛筆(えんぴつ)でつつこうとしました。


 その時(とき)。


「ショースケまた寝(ね)てるのかー? じゃあ横(よこ)の席(せき)の…桜(さくら)、ちょっと揺(ゆ)すって起(お)こしてやってくれないか?」


 琴子(ことこ)先生(せんせい)が寝(ね)ているショースケに気(き)が付(つ)いて言(い)いました。


「わかりました、先生(せんせい)」


挿絵(By みてみん)


 桜(さくら)が手(て)を伸(の)ばしてショースケに触(ふ)れようとします。


 大(だい)ピンチです! このままでは変身(へんしん)が解(と)けてしまいます。


 タカヤ2は咄嗟(とっさ)に立(た)ち上(あ)がり叫(さけ)びました。


「ま、待(ま)った‼」


 いつも大人(おとな)しいタカヤが突然(とつぜん)大声(おおごえ)を出(だ)したので、教室(きょうしつ)の中(なか)はしーん…と静(しず)まり返(かえ)りました。


「ど…どうした、タカヤ。何(なん)かあったか…?」


 先生(せんせい)もびっくりしています。


 桜(さくら)もショースケを揺(ゆ)すろうとした手(て)を空中(くうちゅう)に浮(う)かせたまま固(かた)まっています。


「え、えーと…俺(おれ)が! ショースケを起(お)こしてもいいですか⁉」


 どう考(かんが)えてもめちゃくちゃ変(へん)な申(もう)し出(で)です。


「いや、いいけど…そんなに起(お)こしたいか…?」


 先生(せんせい)は困惑(こんわく)しています。


「はい、すっごく! 俺(おれ)起(お)こすの大好(だいす)きなんです!」


 ここで引(ひ)くわけにはいきません、タカヤ2はヤケクソで言(い)い放(はな)ちました。


「じゃあ…タカヤ起(お)こしてやってくれ」


 先生(せんせい)は妙(みょう)に温(あたた)かい目(め)でタカヤ2を見(み)つめました。


「タカヤくんそんなに起(お)こすの好(す)きなんだね、はいどうぞ」


 桜(さくら)も申(もう)し訳(わけ)なさそうに伸(の)ばしていた手(て)を膝(ひざ)の上(うえ)に戻(もど)します。


 クラス中(じゅう)の視線(しせん)が注(そそ)がれる中(なか)、タカヤ2は顔(かお)を真(ま)っ赤(か)にしながらショースケ2の横(よこ)に立(た)ちました。


 この状態(じょうたい)でも起(お)きる気配(けはい)は微塵(みじん)もありません。


 恥(は)ずかしいやら腹立(はらだ)たしいやら、煮えくり返(にえくりかえ)るような思(おも)いを込(こ)めて、タカヤ2はショースケ2の肩(かた)を強(つよ)めにひっぱたきました。


 …少(すこ)し離(はな)れた席(せき)のレンはその様子(ようす)をひどく不機嫌(ふきげん)に眺(なが)めていました。



****



 そんなことが起(お)きているとはつゆ知(し)らず、オリジナルの二人(ふたり)は時(とき)目(め)木(き)滝(たき)へ到着(とうちゃく)しました。


「よし、着(つ)いたー! ってあれ」


 到着(とうちゃく)すると同時(どうじ)にスカイボードからは光(ひかり)が消(き)えて、浮(う)かんでいた機体(きたい)は地面(じめん)にぺたりとついてしまいました。


「うわー、ちょうど燃料(ねんりょう)切(ぎ)れみたい」


 確(たし)かに丸(まる)い透明(とうめい)なパーツの中(なか)は空(から)になっているようです。


「ってことは帰(かえ)り歩(ある)きじゃん! ええ…しんど…」


 ショースケはもう帰(かえ)りのことに思(おも)いを馳(は)せています。


「後(あと)のことは後(あと)で考(かんが)えよう。ほら、とりあえず通報者(つうほうしゃ)を探(さが)すぞ」


 タカヤはうずくまるショースケを引(ひ)っ張(ぱ)って立(た)たせると、辺(あた)りをキョロキョロと見(み)回(まわ)し始(はじ)めました。



「すみませーん、宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)です遅(おそ)くなりましたー」


 ショースケが大(おお)きな声(こえ)で呼(よ)びかけると、タカヤが何(なに)かに反応(はんのう)して岩場(いわば)に近(ちか)づいていきます。


 しゃがみこんで何(なに)やら喋(しゃべ)っているタカヤの後(うし)ろからショースケが覗(のぞ)いてみると


 …そこにはプリップリの黄色(きいろ)い体(からだ)をしたET(いーてぃー)がピカピカ体(からだ)を光(ひか)らせながら、岩(いわ)同士(どうし)の隙間(すきま)にギチギチに詰(つ)まっていました。


 声(こえ)では無(な)く体(からだ)を光(ひか)らせて言葉(ことば)を表現(ひょうげん)するタイプのET(いーてぃー)のようですが、翻訳機(ほんやくき)を装着(そうちゃく)していないショースケにも言(い)いたいことはなんとなくわかります。


「ショースケ、このET(いーてぃー)さんなんだけど引(ひ)っ張(ぱ)り出(だ)してほしいらしい」


「うん、大丈夫(だいじょうぶ)。聞(き)かなくてもわかるよ」


 とりあえずショースケは岩(いわ)からはみ出(だ)しているET(いーてぃー)の体(からだ)の一部(いちぶ)を掴(つか)んで引(ひ)っ張(ぱ)ってみました。


 びくともしません。


「え⁉ 全然(ぜんぜん)抜(ぬ)けないんだけど!」


 ショースケは足(あし)を踏(ふ)ん張(ば)りながら思(おも)い切(き)り引(ひ)っ張(ぱ)りますが、ET(いーてぃー)のプリプリの体(からだ)がちょっと伸(の)びてしまってますます抜(ぬ)けません。


「ショースケ、ストップ! ET(いーてぃー)さん痛(いた)がってる!」


 体(からだ)をビカビカ点滅(てんめつ)させているET(いーてぃー)を見(み)ながらタカヤは慌(あわ)てています。


「ちょっと痛(いた)いくらい我慢(がまん)して!」


 ショースケはもう一度(いちど)引(ひ)っ張(ぱ)りますがやっぱり抜(ぬ)けず、仕方(しかた)なく手(て)を放(はな)しました。


 どうやらET(いーてぃー)のプリプリのやわらかい体(からだ)が、岩(いわ)の間(あいだ)で形(かたち)を変(か)えてパズルのようにピッタリとはまってしまっているようです。


「タカヤなんかいい方法(ほうほう)ない? 今度(こんど)こそコスモピース使(つか)うとか」


「いや、コスモピースの力(ちから)使(つか)ったら多分(たぶん)この岩場(いわば)全体(ぜんたい)を壊(こわ)しちゃうから。他(ほか)に全(まった)く方法(ほうほう)がないとき以外(いがい)、時(とき)目(め)木(き)町(ちょう)の物(もの)を壊(こわ)したらダメって本部(ほんぶ)に言(い)われてるだろ」


 今度(こんど)はタカヤがET(いーてぃー)の体(からだ)を引(ひ)っ張(ぱ)りますがやっぱり抜(ぬ)けません。


「ショースケこそなんか使(つか)えそうなもの持(も)ってないか?」


「ええ…ET(いーてぃー)を引(ひ)っこ抜(ぬ)く道具(どうぐ)なんて考(かんが)えたことないよ。強制(きょうせい)転送(てんそう)は悪(わる)いことしたわけじゃないから使(つか)えないし…」


 二人(ふたり)はとりあえず使(つか)えるものがないかエッグロケットの中(なか)をこれでもかと探(さぐ)りました。


「お、これはどうだ?」


 タカヤのエッグロケットから出(で)てきたのは、ショースケの家(いえ)にもある至(いた)って普通(ふつう)の石鹸(せっけん)です。


「なんでそんなの入(い)れてるの?」


 ショースケは怪訝(けげん)そうな顔(かお)をしました。


「いや、この前(まえ)の依頼(いらい)で土(つち)を掘(ほ)る仕事(しごと)があっただろ? 終(お)わった後(あと)にショースケが手(て)が土(つち)まみれのまま帰(かえ)ろうとするから持(も)っておかないと、と思(おも)って…」


「えー、土(つち)くらいペペって払(はら)っておけばいいんじゃないの?」


「ダメだ、そんなんじゃまたお腹(なか)こわすぞ。とにかく! これを水(みず)で溶(と)かして石鹸(せっけん)水(すい)を作(つく)って、ET(いーてぃー)さんにかけて滑(すべ)りを良(よ)くするのはどうかな?」


 なんだか宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)とは思(おも)えない原始(げんし)的(てき)な作戦(さくせん)ですが、他(ほか)に案(あん)もありません。


 タカヤとショースケは急(いそ)いで濃(こ)い目(め)の石鹸(せっけん)水(すい)を作(つく)りました。


「ET(いーてぃー)さん、ちょっと冷(つめ)たいけど我慢(がまん)してくださいねー」


 タカヤが優(やさ)しく声(こえ)をかけて岩(いわ)の隙間(すきま)に石鹸(せっけん)水(すい)を流(なが)し入(い)れると、ET(いーてぃー)の体(からだ)は今(いま)まで以上(いじょう)にビカビカと忙(せわ)しなく光(ひか)り始(はじ)めました。


「ET(いーてぃー)さん⁉ どうしましたか…え、目(め)にすごくしみる⁉」


 どうやら二人(ふたり)から見(み)えない岩(いわ)の隙間(すきま)にあったET(いーてぃー)の目(め)に石鹸(せっけん)水(すい)が思(おも)いっきり入(はい)ってしまったようです。


「ごめんなさい今(いま)出(だ)してあげますから! 行(い)くぞショースケ、せーの!」


 二人(ふたり)は同時(どうじ)にET(いーてぃー)の体(からだ)を持(も)って思(おも)い切(き)り引(ひ)っ張(ぱ)ります。


 ET(いーてぃー)は目(め)も痛(いた)いし体(からだ)も痛(いた)いしでビカビカ眩(まぶ)しく光(ひか)っていますが、こっちも力(ちから)を抜(ぬ)くわけにはいきません。


「まったく、なんでこんなことになったの! 隙間(すきま)に何(なに)か落(お)としちゃって取(と)りたかったとか⁉」


 全力(ぜんりょく)でET(いーてぃー)を引(ひ)っ張(ぱ)りながらショースケはプリプリ怒(おこ)っています。


「いやなんか自分(じぶん)の体(からだ)のやわらかさに自信(じしん)があったらしくて、どこまでいけるか試(ため)してたら抜(ぬ)けなくなったらしい」


「何(なに)そのしょうもない理由(りゆう)!」


「とにかく、もう一回(いっかい)同時(どうじ)に引(ひ)っ張(ぱ)るぞ! せーの!」


 二人(ふたり)が力(ちから)を入(い)れた瞬間(しゅんかん)。


 ブチ、と嫌(いや)な音(おと)がしました。


 …二人(ふたり)が恐(おそ)る恐(おそ)る手(て)の中(なか)を開(ひら)いて見(み)ると、ET(いーてぃー)の体(からだ)の一部(いちぶ)がそこにはありました。


「うそ、ちぎれた…?」


「ち、ちぎれ…た…」


「「ちぎれたあ⁉」」


挿絵(By みてみん)


 二人(ふたり)はもう大(だい)パニックです。


「うそうそどうしよう⁉ これくっつくかな⁉」


 ショースケはちぎれた欠片(かけら)を持(も)ったままオロオロしています。


「ET(いーてぃー)さんごめんなさい大丈夫(だいじょうぶ)ですか! いや大丈夫(だいじょうぶ)じゃないですよね⁉」


 タカヤが急(いそ)いでET(いーてぃー)の方(ほう)を振(ふ)り返(かえ)ると…


 ET(いーてぃー)の体(からだ)は何事(なにごと)もなかったようにすっかり再生(さいせい)していました。


 呆気(あっけ)にとられている二人(ふたり)に向(む)けて、体(からだ)をピカピカ光(ひか)らせて何(なに)かを訴(うった)えています。


「…あ、ちぎられてかなり痛(いた)かった…? すみません…」


 タカヤが謝(あやま)っている横(よこ)で、ショースケはタブレットを取(と)りだしこのET(いーてぃー)について調(しら)べ始(はじ)めました。


「あった、プレルサイ星人(せいじん)。体(からだ)はやわらかく、ちぎれてもすぐに再生(さいせい)する。細胞(さいぼう)が入(い)れ替(か)わるように定期(ていき)的(てき)に体(からだ)の一部(いちぶ)が取(と)れるため、その欠片(かけら)は有効(ゆうこう)活用(かつよう)されている…って書(か)いてあるよ」


「そうなんだ…取(と)り返(かえ)しのつかないことしちゃったかと思(おも)った」


 タカヤはとりあえず胸(むね)を撫(な)でおろしました。


「あ、まだ続(つづ)きがある。なになに…ちなみに体(からだ)の一部(いちぶ)を再生(さいせい)する際(さい)にはプリプリの体(からだ)にたっぷり蓄(たくわ)えられたエネルギーを使(つか)うため、体(からだ)全体(ぜんたい)が少(すこ)し細(ほそ)くなる…」


「細(ほそ)くなる…ってことは」


 二人(ふたり)はET(いーてぃー)とちぎれた欠片(かけら)を交互(こうご)に見(み)つめました。


「今(いま)なら抜(ぬ)けるかも!」



 二人(ふたり)はET(いーてぃー)が再生(さいせい)した部分(ぶぶん)を掴(つか)み、再度(さいど)思(おも)い切(き)り引(ひ)っ張(ぱ)りました。


 ちぎれて少(すこ)し細(ほそ)くなったであろう体(からだ)は石鹸(せっけん)水(すい)で滑(すべ)りがよくなっていることも相(あい)まって、どうも先(さき)ほどまでより詰(つ)まりがゆるくなったようです。


 しかしそれでも見事(みごと)に挟(はさ)まった体(からだ)は簡単(かんたん)には抜(ぬ)けません。


「だめだ抜(ぬ)けない! タカヤちょっと事情(じじょう)説明(せつめい)してもっとちぎっていいか聞(き)いて!」


「ええ⁉」


 タカヤは口(くち)ごもりながらET(いーてぃー)に話(はな)しました。


 そりゃいくら助(たす)けるためとはいえ、『あなたの体(からだ)をちぎっていいですか』とは聞(き)きにくいです。


 ET(いーてぃー)はピカピカピカと体(からだ)を三(み)回(かい)光(ひか)らせました。


「できるだけ痛(いた)くないようにしてほしい、ですか…。が、頑張(がんば)ります…」


 タカヤは少(すこ)し目(め)を逸(そ)らしながら曖昧(あいまい)な返答(へんとう)をしました。


「ショースケ、やさしくちぎって欲(ほ)しいらしい…」


「何(なに)甘(あま)いこと言(い)ってんの、思(おも)い切(き)り引(ひ)っ張(ぱ)らなきゃちぎれないんだから優(やさ)しくなんかできるわけないじゃん」


 ショースケは真顔(まがお)でET(いーてぃー)の岩(いわ)からはみ出(で)た部分(ぶぶん)をむんずと掴(つか)みました。


 ET(いーてぃー)はその掴(つか)み方(かた)から何(なに)かを察(さっ)したのか、体(からだ)を光(ひか)らせて慌(あわ)て始(はじ)めます。


「ほら、タカヤもこっち持(も)って。ちぎるよ、せーの!」


「うわああET(いーてぃー)さんごめんなさい‼」




 …そのまま五(ご)、六(ろく)回(かい)ちぎったでしょうか。


 すっかり細(ほそ)くなったET(いーてぃー)はぬるりと岩(いわ)の隙間(すきま)から出(で)てきました。


「や…やっと抜(ぬ)けた…」


 ショースケはもう疲労(ひろう)困憊(こんぱい)です。


 ETもかなり辛(つら)かったのでしょう、プルプル震(ふる)えながら弱弱(よわよわ)しく光(ひか)りました。


「あ、はい…もう無茶(むちゃ)はしないでくださいね。あれはあげる…? え、これですか⁉」


 ET(いーてぃー)は二人(ふたり)がたくさんちぎった体(からだ)の欠片(かけら)を全部(ぜんぶ)くれるそうです。


「それなりに貴重(きちょう)なものなんですか…ありがとうございます…」


 二人(ふたり)がどうしたものかと欠片(かけら)を見(み)つめる中(なか)、ET(いーてぃー)はとぼとぼと帰(かえ)って行(い)きました。


「…俺(おれ)たちも帰(かえ)るかショースケ」


「そうだね…ってそうだ、スカイボードの燃料(ねんりょう)無(な)くなったんだった…」


 こんなに疲(つか)れているのにここから歩(ある)いて帰(かえ)らなければならないなんて、体力(たいりょく)のないショースケには地獄(じごく)のようです。


「燃料(ねんりょう)も買(か)わなきゃいけないし…宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)って体(からだ)にもお財布(さいふ)にもほんと過酷(かこく)だよ」


「その燃料(ねんりょう)、俺(おれ)も今度(こんど)探(さが)しとくよ。名前(なまえ)なんていうんだ?」


「ああ、えーと…プレルサイメントって言(い)うんだけど…ん?」


 どうも最近(さいきん)どこかで聞(き)いたような響(ひび)きです。


「プレルサイ…プレルサイってもしかしてこれ⁉」


 ショースケとタカヤは、半分(はんぶん)ずつ持(も)って帰(かえ)ろうとしていた先(さき)ほどのET(いーてぃー)の欠片(かけら)をエッグロケットから取(と)り出(だ)しました。


 黄色(きいろ)くてやわらかくて、確(たし)かに見(み)た目(め)はそっくりです。


 ショースケがおそるおそる透明(とうめい)なパーツの中(なか)に欠片(かけら)を一(ひと)つ入(い)れてみると、スカイボードはぼんやりと光(ひか)りながら空中(くうちゅう)に浮(う)かびました。


「わ、動(うご)いた! この燃料(ねんりょう)すごく高(たか)いんだよ! いっぱいちぎった甲斐(かい)があったね、タカヤ!」


「ええと…そうなの、かな…?」


 大喜(おおよろこ)びのショースケといまいち手放(てばな)しで喜(よろこ)べないタカヤを乗(の)せて、スカイボードは学校(がっこう)へ向(む)けて大空(おおぞら)を飛(と)び始(はじ)めました。



****



 オリジナル二人(ふたり)が滝(たき)を後(あと)にして少(すこ)し経(た)った頃(ころ)。


 タカヤ2は無事(ぶじ)学校(がっこう)が終(お)わったことに安堵(あんど)していました。


 今日(きょう)は五(ご)時間(じかん)目(め)までしかなかったのでとってもラッキーです。


 …問題(もんだい)と言(い)えばあの授業(じゅぎょう)の後(あと)で先生(せんせい)に呼(よ)ばれて「なにかあったら相談(そうだん)に乗(の)るぞ」と心配(しんぱい)そうに言(い)われたことくらいでしょうか。


 誰(だれ)かに触(さわ)られそうになる前(まえ)に早(はや)く帰(かえ)ろうと、急(いそ)いでランドセルを背負(せお)っていると隣(となり)の席(せき)のミオから声(こえ)をかけられました。


「いやーそれにしても面白(おもしろ)かったなー、まさかタカヤが人(ひと)を起(お)こすのがそんなに好(す)きなんて知(し)らなかったよー」


 ミオはニヤニヤしながらタカヤを見(み)ました。


「え、タカヤそんな趣味(しゅみ)があったの?」


 何(なに)も知(し)らないショースケ2がのんきに笑(わら)っています。


 今(いま)にも口(くち)から飛(と)び出(だ)しそうな「誰(だれ)のせいだと思(おも)ってるんだ」の言葉(ことば)を必死(ひっし)に飲(の)み込(こ)んで、タカヤ2はそうなんだよーと複雑(ふくざつ)そうに笑(わら)いました。


 さてさて、早(はや)くショースケ2も連(つ)れてここを離(はな)れなくては。


「さあショースケ帰(かえ)るぞ!」


 タカヤ2のその言葉(ことば)にミオはとっても不思議(ふしぎ)そうです。


「あれ? タカヤとショースケって家(いえ)の方向(ほうこう)逆(ぎゃく)なのに今日(きょう)は一緒(いっしょ)に帰(かえ)るの?」


 そうでした、二人(ふたり)はいつもは一緒(いっしょ)に帰(かえ)ってないのでした。


 タカヤ2は何(なに)か言(い)い訳(わけ)を絞(しぼ)り出(だ)します。


「え、えーと…ショースケのおうちの人(ひと)に家(いえ)においでって言(い)われてるんだ」


「へー、家族(かぞく)ぐるみの仲(なか)なんだー。それは一大事(いちだいじ)だね、ねぇレン…レン?」


 話(はなし)を振(ふ)られたレンはいつもと違(ちが)って元気(げんき)がありません。


「タカヤは…今日(きょう)はオレと帰(かえ)らないのかよ」


 レンがぽそりとつぶやきます。


「あ、うん。ごめん言(い)うのが遅(おそ)くなって」


「…別(べつ)にいいけど」


 ぎゅっと眉(まゆ)をしかめて、レンはうつむいてしまいました。


 少(すこ)し気(き)になりますが、今(いま)は触(さわ)られないようここを離(はな)れることが最(さい)優先(ゆうせん)です。


「じゃ、じゃあ俺(おれ)たち帰(かえ)るな! また明日(あした)!」


 タカヤ2はショースケ2を連(つ)れて教室(きょうしつ)の出口(でぐち)へ向(む)かおうとします。


 その時(とき)。


 レンはタカヤ2の肩(かた)になにかゴミが付(つ)いているのに気(き)が付(つ)きました。


「あ、タカヤ。何(なん)かついて…」


 そう言(い)いながら伸(の)ばしたレンの手(て)を…


 タカヤ2は咄嗟(とっさ)に思(おも)い切(き)り避(よ)けてしまいました。



 レンは目(め)を大(おお)きく見開(みひら)いて固(かた)まっています。


「あ、レンごめん…」


「なんだよ…」


 声(こえ)を震(ふる)わせながら、レンの目(め)からは大粒(おおつぶ)の涙(なみだ)がボロボロとこぼれ始(はじ)めました。


「なんでそんなに避(よ)けるんだよぉおお…」


 教室(きょうしつ)に残(のこ)っていたクラスメイト達(たち)がざわめきます。


「え、レン何(なに)も泣(な)かなくていいじゃん! ほらよしよし!」


 ミオが必死(ひっし)で背中(せなか)をさすります。


「どうしたのレン⁉ なんかあった?」


 そこに急(いそ)いでカズもやってきて、レンの周(まわ)りをうろうろ動(うご)き回(まわ)りました。


挿絵(By みてみん)


「なんだよ、タカヤは…ショースケが転校(てんこう)してきてからショースケばっかりだ! オレのこときらいになったのかよお…」


 レンは今(いま)まで我慢(がまん)していた分(ぶん)、言葉(ことば)も涙(なみだ)もなかなか止(と)められません。


「えーっと、つまり僕(ぼく)にヤキモチ妬(や)いてるってこと?」


 どうしていいかわからず困(こま)っているタカヤ2の横(よこ)で、ショースケ2は冷静(れいせい)に分析(ぶんせき)します。


「そういうことだねー、なんかごめんねショースケ。レンはショースケが転校(てんこう)してくる前(まえ)は本当(ほんとう)にタカヤといつも一緒(いっしょ)だったから」


 何故(なぜ)かミオが代(か)わりに謝(あやま)ります。


「レンってタカヤのこと大好(だいす)きだもんね」


 カズの発言(はつげん)にクラスメイト一同(いちどう)はうんうんと深(ふか)く頷(うなづ)きました。


「べ、別(べつ)に好(す)きじゃねーし! ヤキモチでもねえもん…!」


 レンは目(め)を真(ま)っ赤(か)にしながら抗議(こうぎ)しますが、どう考(かんが)えても純度(じゅんど)百(ひゃく)パーセントのヤキモチです。


 話(はなし)を聞(き)きながらショースケ2は目(め)を伏(ふ)せました。


「…いや、僕(ぼく)が悪(わる)いよ」


 深刻(しんこく)そうな顔(かお)つきで、額(ひたい)に手(て)を当(あ)ててショースケ2は続(つづ)けます。


「僕(ぼく)の溢(あふ)れんばかりの魅力(みりょく)と才能(さいのう)がタカヤすらも引(ひ)き付(つ)けて離(はな)さないってことでしょ。そこは本当(ほんとう)にごめん、謝(あやま)るよ」


 …真剣(しんけん)な目(め)をしているショースケ2にみんなは一体(いったい)何(なん)て言(い)ったらいいのかわかりません。


 予想外(よそうがい)の答(こた)えにレンもさすがに涙(なみだ)がちょっと引(ひ)っ込(こ)みました。


「だからヤキモチに関(かん)してはちょっと諦(あきら)めてもらうしかないんだけ、ど!」


 ショースケ2はずいっとレンに顔(かお)を近(ちか)づけました。


「タカヤがレンのこと嫌(きら)いなんてそんなわけないじゃん! ちょっとここで待(ま)っててよ!」


 そう言(い)ってショースケ2はタカヤ2の腕(うで)を掴(つか)むと、教室(きょうしつ)を飛(と)び出(だ)して自分(じぶん)たちが変身(へんしん)したトイレの個室(こしつ)に駆(か)け込(こ)みました。



 そこには滝(たき)から戻(もど)って来(き)たばかりのオリジナルの二人(ふたり)がすでに入(はい)っていました。


「俺(おれ)たちの代(か)わり務(つと)めてくれてありがとう。助(たす)かったよ!」


「お礼(れい)言(い)ってる場合(ばあい)じゃないよ、オリジナル」


 ショースケ2がしょんぼりしているタカヤ2の代(か)わりに事情(じじょう)を説明(せつめい)すると、オリジナルのタカヤはすぐに状況(じょうきょう)を理解(りかい)したようです。


「ごめんショースケ、みがわりスライムたちを瓶(びん)に戻(もど)しておいてくれるか」


「わかったよ…昨日(きのう)のやつ、ちゃんと渡(わた)しておいでね」


 ショースケにスライムたちが入(はい)っていた小瓶(こびん)を預(あず)け、専用(せんよう)の薬(くすり)でキラキラ粉(こ)を落(お)としてタカヤは教室(きょうしつ)に向(む)かいます。



「おまたせ、レン」


 教室(きょうしつ)に入(はい)るやいなや、タカヤはレンの右手(みぎて)を両手(りょうて)で優(やさ)しく包(つつ)んで握(にぎ)りました。


「さっきは避(よ)けちゃってごめん、急(きゅう)なことでびっくりしちゃって…」


 タカヤはレンの瞳(ひとみ)をまっすぐ見(み)つめています。


 突然(とつぜん)のことにレンはドギマギして、真(ま)っ赤(か)に腫(は)らした目(め)を左右(さゆう)にキョロキョロと動(うご)かしました。


「俺(おれ)さ、レンに渡(わた)したいものがあるんだ」


 タカヤは制服(せいふく)の左(ひだり)ポケットから、綺麗(きれい)なハンカチに包(つつ)まれた、白(しろ)い線(せん)が入(はい)った赤(あか)くて丸(まる)い石(いし)を取(と)り出(だ)して、握(にぎ)ったままのレンの右手(みぎて)にのせました。


「レン珍(めずら)しい石(いし)集(あつ)めてるだろ? これさ、昨日(きのう)川辺(かわべ)で見(み)つけたんだ。俺(おれ)こんな石(いし)見(み)たことなかったからレンにあげたら喜(よろこ)ぶんじゃないかと思(おも)って」


 レンはつやつや光(ひか)る石(いし)を見(み)て目(め)を輝(かがや)かせたいところなのですが、ずっと握(にぎ)られたままの右手(みぎて)の方(ほう)がよっぽど気(き)になってドキドキして落(お)ち着(つ)けません。


 そばにいたカズが横(よこ)から興味津々(きょうみしんしん)で石(いし)を見(み)つめました。


「ねえねえタカヤ、もしかしてさっき教室(きょうしつ)出(で)て行(い)ったのはこの石(いし)を取(と)りに行(い)ってたの?」


「え、…そうだよカズ! 掃除(そうじ)場所(ばしょ)の理科室(りかしつ)に置(お)き忘(わす)れちゃって…」


 この石(いし)はずっとポケットの中(なか)に入(はい)っていたので本物(ほんもの)のタカヤしか持(も)っておらず、タカヤ2には渡(わた)すことができなかったのです。


「…俺(おれ)はショースケのことも大事(だいじ)だけど、レンのことももちろんすっごく大事(だいじ)だよ。悲(かな)しい思(おも)いさせてごめん」


 タカヤは今度(こんど)はレンの両手(りょうて)を自分(じぶん)の両手(りょうて)でしっかり包(つつ)み込(こ)み、捨(す)てられた子犬(こいぬ)のような目(め)をキラキラさせながらレンの顔(かお)を覗(のぞ)き込(こ)んで言(い)いました。


「なあレン、やっぱり…まだ許(ゆる)せない?」


「わ、わかった‼ 許(ゆる)す、許(ゆる)すから…そろそろ手(て)離(はな)して…」


 レンはもうキャパシティオーバーしているようで、顔(かお)を真(ま)っ赤(か)っかにしながら消(き)え入(い)りそうな声(こえ)を出(だ)しました。


「あ、ごめん!」


 タカヤが慌(あわ)ててパッと手(て)を離(はな)すと、自分(じぶん)でお願(ねが)いしたのにレンはちょっと寂(さび)しそうです。


「えっと…石(いし)、ありがとな…」


 タカヤの顔(かお)を見(み)られないまま、レンはぽつりと呟(つぶや)きます。


「うん、どういたしまして! レンが喜(よろこ)んでくれて嬉(うれ)しいよ」


 そう言(い)ってにこりと笑(わら)うタカヤが目(め)の端(はし)に映(うつ)って、レンはまた一段(いちだん)と強(つよ)くタカヤから目(め)を逸(そ)らしました。



 和(なご)やかな空気(くうき)が戻(もど)って来(き)た教室(きょうしつ)に、諸々(もろもろ)を済(す)ませたショースケが足(あし)を踏(ふ)み入(い)れます。


「おー、仲直(なかなお)りしたみたいでよかったよかった」


「お、おいショースケ…」


 レンは言(い)いにくそうにもごもごと口(くち)を開(ひら)きました。


「その…悪(わる)かったよ…ごめん」


「え? 別(べつ)に一(いち)ミリも気(き)にしてないからいいけど」


 ショースケはあっけらかんとしています。


「なっ…ちょっとくらいは気(き)にしろよ!」


 それはそれでちょっと寂(さみ)しいのか、レンはプリプリとふてくされました。


「僕(ぼく)に気(き)にして欲(ほ)しいならもっとビッグな人間(にんげん)になることだね」


 ふふん、と鼻(はな)で笑(わら)ったショースケにレンはさらに食(く)い下(さ)がります。


「あの二人(ふたり)ってなんだかんだいい友達(ともだち)になりそうだよねー」


「ね、何(なん)だか似(に)てるかも!」


 ミオとカズは言(い)い合(あ)う二人(ふたり)を見(み)て楽(たの)しそうに笑(わら)っています。


「そうだな。そうなってくれると俺(おれ)も嬉(うれ)しいよ」


 タカヤも愛(いと)おしそうに、そんな賑(にぎ)やかな友達(ともだち)たちを見(み)つめていました。



 そしてタカヤは翌日(よくじつ)、授業(じゅぎょう)中(ちゅう)に寝(ね)ているショースケを起(お)こすようにと琴(こと)子(こ)先生(せんせい)から妙(みょう)に温(あたた)かい目(め)で指名(しめい)され、理由(りゆう)がわからず困惑(こんわく)するのでした。

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― 新着の感想 ―
岩からETさんを引っこ抜くシーン、全員が可愛くて思わずニヤけてしまいました笑 そのあとの学校のシーンも、みんなすごく可愛くて…! 今日は微笑ましい気分で眠ることができそうです!
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