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第六話 突撃!ポスリコモス①

****


 金曜日(きんようび)午後(ごご)十一(じゅういち)()(とき)()()公園(こうえん)時計台(とけいだい)(うえ)


 今週(こんしゅう)宇宙(うちゅう)鉄道(てつどう)(とき)()()(えき)に、特急(とっきゅう)こすもがやってきました。


 タカヤとショースケは()れた様子(ようす)で、そこに(あつ)まったET(いーてぃー)たちをチェックしていきます。


「よし、今回(こんかい)異常(いじょう)なしっと!」


 ショースケはタブレット端末(たんまつ)から本部(ほんぶ)連絡(れんらく)すると、(うれ)しそうにタカヤの(ほう)(ちか)づいてきました。


「お仕事(しごと)()わり! さあタカヤいよいよだよ!」


 (むね)につけたバッジを(ひか)らせて浮足立(うきあしだ)ってぴょんぴょんするショースケに、タカヤは(すこ)(おどろ)いた様子(ようす)です。


今日(きょう)元気(げんき)だなショースケ、いつもはあんなに(ねむ)そうなのに」


「ふふん、今日(きょう)はこれからのためにいーっぱいお昼寝(ひるね)してきたからね。バッチリだよ」


 ショースケが自慢(じまん)げにしていると、特急(とっきゅう)こすもからアナウンスが()こえました。


「お()たせいたしました。まもなく発車(はっしゃ)いたします」


「わ、もう出発(しゅっぱつ)するって! ほらタカヤ(はや)()ろう!」


 二人(ふたり)(いそ)いで特急(とっきゅう)こすもの(なか)()()みました。


 一番(いちばん)(ちか)くにあったゼリーのようなプヨプヨの座席(ざせき)(こし)かけると同時(どうじ)に、もう一度(いちど)アナウンスが(なが)れます。


(とびら)()まります。ご注意(ちゅうい)ください」


 プシューという(おと)がしたかと(おも)うと、特急(とっきゅう)こすもはふわりと()()がり、夜空(よぞら)()()まれるように(はし)(はじ)めました。


 こんなに(はや)()んでいるのに車内(しゃない)一切(いっさい)()れもなく、まるで地面(じめん)(すわ)っているようです。


 (まわ)りを()てみると、(とき)()()(ちょう)観光(かんこう)旅行(りょこう)から(かえ)途中(とちゅう)であろうET(いーてぃー)たちがちらほら(すわ)っていますが、みんな(つか)れているのかとても(しず)かにこの時間(じかん)()ごしていました。


 タカヤも(しず)かに()ごそうかと(ふか)座席(ざせき)(すわ)(なお)すと、(となり)のショースケはもりもりとバナナを頬張(ほおば)っていました。


「あ、タカヤも()べる? ()(ほん)()ってきてるからあげようか」


「いや……ショースケが()べたらいいよ」


挿絵(By みてみん)


「え、いいの。やったー」


 一本(いっぽん)()をあっという()()べつくし、()(ほん)()(かわ)()きながらショースケは(あし)をパタパタと()らしています。


 タカヤはそんな様子(ようす)()ながら(おも)()したように(くち)(ひら)きました。


「そういえば(おれ)たちがいない(あいだ)(とき)()()(ちょう)での仕事(しごと)はライトさんが()わりにやってくれるんだよな。お(れい)にお土産(みやげ)()って(かえ)らないと」


 (なに)()きだろうと思考(しこう)(めぐ)らせているタカヤをショースケはバナナをもぐもぐしながら横目(よこめ)()ます。


「タカヤは真面目(まじめ)だなー。うーん、(ぼく)はお土産(みやげ)(なま)クリームがたっぷりのったケーキがいいと(おも)うな」


「それはショースケが()べたいだけだろ」


 (あき)れた(かお)をするタカヤにバレたーと(わら)って、ショースケは()()わったバナナの(かわ)をカバンにしまいながら(まえ)()きました。


「しかしあれだね。特急(とっきゅう)こすもはずっとワープし(つづ)けてるから、景色(けしき)(かわ)()えが()くてつまんないね」


 楕円(だえん)(がた)(おお)きな(まど)から()える景色(けしき)は、(つね)虹色(にじいろ)空間(くうかん)がうにょうにょと(うご)いているだけです。


面白(おもしろ)動画(どうが)とか(なが)してくれたらいいのになぁ。それにしても、じーちゃんはなんでわざわざ宇宙(うちゅう)(はし)列車(れっしゃ)(つく)ったんだろう」


 そう、この特急(とっきゅう)こすも……そして宇宙(うちゅう)鉄道(てつどう)そのものを(つく)ったのもショースケの祖父(そふ)霧谷肖造(きりたにしょうぞう)です。


「さあ……なんかロマンがあるからじゃないか?」


(ぼく)はめちゃくちゃ(おお)きくてピカピカ(ひか)るUFOとかの(ほう)がよかったと(おも)うな、かっこいいし」


 二人(ふたり)()りとめもない(はなし)をしている(あいだ)にも、特急(とっきゅう)こすもはぐんぐん(すす)んでいきます。


 ショースケはふいに()()がりました。


「ねえここにいても(ひま)だし、ちょっと探検(たんけん)しようよ」


 列車(れっしゃ)(おく)(ある)いていったショースケを()うため、タカヤも座席(ざせき)(あと)にします。


 ()(しろ)(ゆか)はまるで布団(ふとん)(うえ)のようになんだかふかふかしていて(ある)きにくく、タカヤは(すこ)(あし)()られてもたもたとしました。


 ショースケは()号車(ごうしゃ)(つづ)(とびら)(ひら)いて、さらに(さき)(すす)みます。


「うーん、号車(ごうしゃ)()わったからって(とく)()わったところはないね」


 ()号車(ごうしゃ)二人(ふたり)()っていた(いち)号車(ごうしゃ)(おな)じように、やわらかいゼリー(じょう)座席(ざせき)とこれまたやわらかそうな(つくえ)(なら)んでいるだけです。


「もっと遊園地(ゆうえんち)みたいにド派手(はで)にしたらきっと(たの)しいと(おも)うな。よし今度(こんど)じーちゃんに()ってみようっと」


「……(しょう)(ぞう)さんならやりかねないな」


 タカヤは苦笑(にがわら)いを()かべます。


 二人(ふたり)()号車(ごうしゃ)()いている座席(ざせき)(すわ)(なお)すと同時(どうじ)に、車内(しゃない)アナウンスが(なが)れました。


本日(ほんじつ)特急(とっきゅう)こすもをご利用(りよう)いただき、(まこと)にありがとうございます。まもなくポスリコモスに到着(とうちゃく)します。お()りの(ほう)はお(わす)れの(もの)のないようご注意(ちゅうい)ください」


 ポスリコモス、今日(きょう)二人(ふたり)目的地(もくてきち)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)のある(ほし)です。


「わーい()いたみたい! ねえタカヤ出口(でぐち)(まえ)()っとこうよ」


 ショースケはまた座席(ざせき)からぽよんと()()がって、今度(こんど)(いち)号車(ごうしゃ)(もど)ります。


「そんなに(あせ)らなくてもポスリコモスは()げないぞ?」


 タカヤもそれを()いかけて、やわらかい(ゆか)をまたふわふわと(すす)んでいきました。



****



「ポスリコモス、ポスリコモス」


 アナウンスと同時(どうじ)(とびら)()いて、ショースケは一番(いちばん)(そと)()()しました。


「ひゃー! (ひさ)しぶりに()たけどやっぱりポスリコモスはいいなー!」


 空中(くうちゅう)()かぶ(なん)だかやわらかそうな()(しろ)建物(たてもの)(ほん)でしか()たことがない種類(しゅるい)のたくさんのET(いーてぃー)たち、()いたことがない言語(げんご)(うた)(まる)いカラフルな飴玉(あめだま)()()めたような(みち)、そして()いだことのない(あま)いような()っぱいような不思議(ふしぎ)(にお)い……。


「これだよこれ! (ぼく)のまだ()らないものがたくさん(あつ)まってる、たまんないね!」


 夢見(ゆめみ)心地(ごこち)のショースケにタカヤは(うし)ろから(こえ)をかけます。


「ショースケ、まず(まち)へのゲートをくぐりに()かないと」


「おっと、そうだったね」


 二人(ふたり)(れつ)をなしているET(いーてぃー)たちの一番(いちばん)(うし)ろに(なら)びました。


 (れつ)(すこ)しずつ(すす)んでいく(あいだ)に、エッグロケットを準備(じゅんび)します。


 エッグロケットの一部(いちぶ)として()()まれているポスエッグは、宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)としての身分(みぶん)証明書(しょうめいしょ)になるからです。


 ゲートの(よこ)についている機械(きかい)にエッグロケットをかざすと、どうやら問題(もんだい)なく認証(にんしょう)されたようで、(とく)()められることも()二人(ふたり)(まち)(あし)()()れました。


「さて、まずはどこに()く?」


 タカヤが(たず)ねると、ショースケは()(かがや)かせてエッグロケットを頭上(ずじょう)(かか)げました。


「もちろん、これに()まってるよ!」


 ショースケの()(なか)のエッグロケットをよく()てみると、ポスエッグの半透明(はんとうめい)部分(ぶぶん)(なか)液体(えきたい)()まっているのがわかります。


 これは宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)としてのお仕事(しごと)頑張(がんば)って()()れたお給料(きゅうりょう)です。


 本部(ほんぶ)ではこの液体(えきたい)()きな惑星(わくせい)のお(かね)両替(りょうがえ)することができるのです。


(ぼく)はもちろんここ、ポスリコモスのお(かね)()えるよ! ここでしか()えない道具(どうぐ)材料(ざいりょう)(さが)すんだー! タカヤは?」


「うーん、(おれ)はとりあえず貯蓄(ちょちく)しようかな」


「えー(ゆめ)()いの。まあいいや、とりあえず()こ!」


 二人(ふたり)はここからでも()えるほど(まち)(なか)でひときわ(おお)きくて目立(めだ)建物(たてもの)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)目指(めざ)して(ある)(はじ)めました。


 (あた)りはとても(にぎ)やかで、出店(でみせ)()ていたりパフォーマンスをするET(いーてぃー)がいたりと、まるで地球(ちきゅう)のお(まつ)りのようです。


 ショースケはキョロキョロと(いそが)しく(くび)()ります。


「わ、()てみて惑星(わくせい)シュレンティで()れた宝石(ほうせき)だって! あ、こっちはニッカルコピ(せい)(つく)られたお菓子(かし)! どんな(あじ)がするのかな?」


「ショースケ、あんまりよそ()してると迷子(まいご)になるぞ」


 タカヤが注意(ちゅうい)してもショースケの興奮(こうふん)(おさ)まらないので、タカヤは仕方(しかた)なくショースケの(うで)(つか)んで()()(はじ)めました。


「えー、もっとゆっくり()せてよタカヤのけち」


「ショースケが最初(さいしょ)本部(ほんぶ)()くって()ったんだろ。ほら、もう()(まえ)だ」


 (とお)くから()ても十分(じゅうぶん)(おお)きかったのに、(ちか)くで()るとその(おお)きさは()(なか)にはとても建物(たてもの)(すべ)てを(おさ)めることができないほどです。


 (しろ)くて(うず)()いたような外観(がいかん)(かぞ)えきれないほど()()けられた(いろ)とりどりの(まど)


 そしてあちこちから()びる透明(とうめい)なチューブのようなエレベーターの(なか)では、本部(ほんぶ)職員(しょくいん)であろうET(いーてぃー)たちが(すべ)るように高速(こうそく)移動(いどう)していきます。


「はえー……いつ()ても圧倒(あっとう)されちゃうや」


 ショースケが夢中(むちゅう)でその様子(ようす)見上(みあ)げていると、どこかから(こえ)()こえてきました。


「タカヤ隊員(たいいん)、ショースケ隊員(たいいん)! お()ちしておりました!」


 すると()(まえ)(しろ)(かべ)突然(とつぜん)(おお)きな(とびら)出現(しゅつげん)して、二人(ふたり)歓迎(かんげい)するようにひとりでに(ひら)(はじ)めました。


「えええ、なんで(ぼく)たちが()たこと()ってるの⁉」


「さっきゲートにエッグロケットを認証(にんしょう)させたからだよ。本部(ほんぶ)にもその連絡(れんらく)()ってたんだろ」


 (おどろ)くショースケを横目(よこめ)にタカヤは()れた様子(ようす)(なか)へと(はい)っていきます。


 建物(たてもの)(ない)はこれまた()(しろ)で、(あた)りには本部(ほんぶ)職員(しょくいん)制服(せいふく)()(つつ)んだET(いーてぃー)たちがそれぞれの仕事(しごと)(いそが)しそうにこなしていました。


「ねえねえタカヤ、あの制服(せいふく)って(たし)宇宙服(うちゅうふく)()わりにもなるんだよね! いいなー(ぼく)()しいな!」


「そうだな、地球(ちきゅう)(がい)での仕事(しごと)(まか)されることがあったら支給(しきゅう)されるかもしれないな」


 タカヤは(まわ)りに()もくれず、目的(もくてき)場所(ばしょ)()かって(ある)いていきます。


 ショースケはその様子(ようす)(すこ)不満(ふまん)なようで、タカヤの(かお)をじとーっと(のぞ)()みました。


「それにしてもタカヤってせっかくポスリコモスに()たっていうのに全然(ぜんぜん)ウキウキしてないね。もっと(ぼく)みたいに(おどろ)いたり感動(かんどう)したりしたら?」


「あはは……(おれ)(あか)ちゃんのころからここに()てるから。あんまり(めずら)しくないんだよ」


「えー、それってタカヤの家族(かぞく)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)だから? いいなー(ぼく)もじーちゃんにもっといっぱい()れて()てもらっとくんだった。(いえ)()きこもってる場合(ばあい)じゃなかったよ」


 二人(ふたり)(こえ)(すこ)(おお)きかったでしょうか、(まわ)りの職員(しょくいん)からの視線(しせん)(かん)じます。


 ショースケはそれに()()くと(すこ)()ずかしくなったのか、おしゃべりをやめてやっとまっすぐ(ある)(はじ)めました。



****



 透明(とうめい)なチューブのようなエレベーターに()って(うえ)(かい)辿(たど)()くと、そこには(おお)きな(おお)きな機械(きかい)がありました。


 機械(きかい)(なか)にはたっぷりの液体(えきたい)(はい)っていて、プクプクと沸騰(ふっとう)したようにいつまでも(あわ)()()めています。


 タカヤは機械(きかい)(した)から()びた排出(はいしゅつ)(ぐち)(まえ)()ちました。


「これが両替(りょうがえ)機械(きかい)だよ。まずは(おれ)からやらせてもらうな」


 そう()ってポケットからエッグロケットを()()して機械(きかい)(ちか)づけようとすると、ショースケは(なに)かに()()いたようで(おお)きな(こえ)()しました。


「え、()って()って! なんかさ、タカヤのエッグロケットの(なか)液体(えきたい)……(ぼく)のより(おお)くない?」


「へ? あー……き、()のせいじゃないか?」


「いーや、絶対(ぜったい)(おお)いって! ほら()てよ!」


 ショースケはタカヤの()っているエッグロケットと自分(じぶん)のエッグロケットを密着(みっちゃく)させて(くら)べます。


挿絵(By みてみん)


 ……これは当然(とうぜん)のことで、タカヤは特級(とっきゅう)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)としてショースケには内緒(ないしょ)特別(とくべつ)任務(にんむ)もいくつもこなしているからです。


 しかし特級(とっきゅう)であることはショースケには絶対(ぜったい)秘密(ひみつ)にするように()われているのです、こんなところでバレるわけにはいきません。


「お、(おれ)のポスエッグ(あか)いから、ショースケの(あお)いポスエッグより(おお)()えるだけじゃない……かなぁ?」


「いや、(いろ)ではこんなには()わんないでしょ」


 失敗(しっぱい)です、膨張(ぼうちょう)(しょく)だからという理由(りゆう)誤魔化(ごまか)すにはさすがに無理(むり)がある()でした。


 (つぎ)(なん)()おうかとタカヤが必死(ひっし)(あたま)(なや)ませていると、(さき)にショースケが(くち)(ひら)きました。


「……まあ、お仕事(しごと)でもタカヤがコスモピース使(つか)ってくれたからなんとかなったときいっぱいあったし……そういう()なら仕方(しかた)ない、かな」


 ショースケは(すこ)不満(ふまん)そうですが、自分(じぶん)でも納得(なっとく)する理由(りゆう)なようです。


 タカヤは(いま)すぐ(おお)きな(こえ)で「そんなことない、ショースケのおかげで解決(かいけつ)できたこともいっぱいあった!」と()いたいところですが……。


 そうしてしまうと、また(あたら)しい()(わけ)(かんが)えなければならなくなりそうなので(なに)()えません。


「あはは……そういうこと、なのかな……」


 なんだか(もう)(わけ)ない気持(きも)ちを(かか)えながら、タカヤは両替機(りょうがえき)にエッグロケットを(ちか)づけました。


 するとエッグロケットの(なか)液体(えきたい)だけが機械(きかい)(なか)にするりと()()まれていきます。


 両替(りょうがえ)()(なか)にたっぷり()まった液体(えきたい)から(おお)きな(あか)(あわ)(ひと)()(のぼ)るのを見届(みとど)けると、タカヤはショースケの(ほう)()(かえ)りました。


「おまたせ、(つぎ)はショースケの(ばん)だ」


「え、それだけ? なにか()てきたりしないの?」


 ショースケは不安(ふあん)そうに自分(じぶん)のエッグロケットを()きしめます。


「ああ、(おれ)貯蓄(ちょちく)したから(なに)()てこなかっただけ。ショースケの(とき)はちゃんと()てくるから安心(あんしん)してくれ」


 タカヤはそう()って(ちか)くに(そな)()けてあったカゴをショースケに()たせます。


「このカゴを排出(はいしゅつ)(ぐち)(した)()いて……あとはエッグロケットを(ちか)づけたら(はじ)まるから」


 ……そうは()われても実際(じっさい)()てくるところを()ていないのでいまいち信用(しんよう)できません。


 ショースケは(うたが)いの眼差(まなざ)しを両替(りょうがえ)()()けたまま、おそるおそるエッグロケットを両替(りょうがえ)()(ちか)づけました。


 タカヤの(とき)(おな)じように、エッグロケットの(なか)液体(えきたい)機械(きかい)()()まれていきます。


 すると今度(こんど)は、両替機(りょうがえき)(なか)液体(えきたい)(ちい)さな(あお)(あわ)がいくつも()(のぼ)りました。


 液体(えきたい)(おお)きく波打(なみう)ち、(しろ)くチカチカと(ひか)(はじ)めます。


「え、なになに⁉」


 ショースケが(あわ)てていると排出(はいしゅつ)(ぐち)のチューブが(おお)きく(ふく)らみ、そこから()いていたカゴの(なか)()(しろ)なコインがドバドバと()ちてきてチリンチリンと(おと)()てました。


「お、無事(ぶじ)ポスリコモスのお(かね)両替(りょうがえ)できたみたいだな」


 タカヤが(ちか)づいてきて、()(かえ)って(そと)()ちたコインを(ひろ)ってカゴの(なか)(もど)しました。


 ショースケはエッグロケットの(なか)()てきたコインをしまいながら(こえ)(はず)ませています。


「わーい! (おも)ってたよりずっといっぱい()てきた、これだけあったらいろいろ()えちゃうよ!」


 あれにしようかこれにしようか、ショースケの(あたま)(なか)はもうお()(もの)のことでいっぱいです。


「ショースケはこれから()(もの)()くよな?」


「うん! ってあれ、タカヤは()かないの?」


 ショースケの()いかけにタカヤは一瞬(いっしゅん)言葉(ことば)()まらせましたが、すぐにいつものように(わら)って(こた)えます。


(おれ)はちょっと本部(ほんぶ)用事(ようじ)があって……しばらく別行動(べつこうどう)にして、()時間(じかん)()くらいに本部(ほんぶ)(まえ)集合(しゅうごう)にしないか?」


「いいよ! じゃあその(あと)約束(やくそく)してたようにタカヤのお(にい)さんと(ぼく)のじーちゃんに一緒(いっしょ)()いに()こうか!」


 ショースケは(あし)をパタパタさせて(いま)にも()()して()きたい様子(ようす)です。


「あんまりお(かね)使(つか)()ぎないように、()()けて()って()いよ」


「タカヤまでライトさんみたいなこと()わないでよ。大丈夫(だいじょうぶ)、じゃあ()ってくるねー!」


 ピョンピョンと()()ねながら、ショースケはエレベーターに()りこんで(した)(かい)()りていきました。


 その姿(すがた)()()くなるまで()()って、タカヤはぽつりと(つぶや)きます。


「……そろそろ()くか」




 透明(とうめい)なエレベーターをいくつも()()いで宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)最上階(さいじょうかい)にたどり()いたタカヤは、厳重(げんじゅう)()ざされた分厚(ぶあつ)(とびら)(よこ)(そな)()けられた機械(きかい)()をかざしました。


 すぐにピピッと(おと)がして、(おも)(とびら)がゆっくりと(ひら)きます。


 ()かりの(ひと)つも()いていない()(くら)なその部屋(へや)(なか)へ、タカヤは(まよ)うことなくまっすぐ(ある)いて()きました。


「タカヤ隊員(たいいん)、お()ちしておりました」


 部屋(へや)天井(てんじょう)()()けられたスピーカーからの(こえ)にタカヤはすぐに返事(へんじ)をします。


「すみません、()時間後(じかんご)にコンビと()()わせをしているんです。なので(すこ)(いそ)ぎで()ませてもいいですか」


 そう()うとタカヤはコスモピースの(ちから)解放(かいほう)しました。


 その(ひとみ)(うつ)った宇宙(うちゅう)()(しょく)星々(ほしぼし)地球(ちきゅう)()せているよりも(なん)(ばい)……いや何十(なんじゅう)(ばい)(くろ)()く、(おそ)ろしいほど禍々(まがまが)しく(かがや)いていました。



****



 さて、ショースケはウキウキで(まち)()()してお(みせ)がたくさん(あつ)まっている市場(いちば)へやって()ました。


 (あた)りはET(いーてぃー)たちでごった(がえ)していて、よそ()をしていたらすぐ(だれ)かとぶつかってしまいそうです。


 ()()けて(すす)んでいると、とあるお(みせ)()(はい)りました。


「あ、タカヤがこの(あいだ)使(つか)ってた『みがわりスライム』が()ってる!」


 そういえばポスリコモスで()ったと()っていたのを(おも)()しました。


 便利(べんり)そうだったし自分(じぶん)()っておいてもいいかも、と()()ったショースケは(おも)わず値札(ねふだ)二度見(にどみ)してしまいました。


「え⁉ こ、これこんなにするの⁉」


 何度(なんど)見直(みなお)しますがどうやら見間違(みまちが)いではないようです。


「タカヤって……お金持(かねも)ちなのかも……」


 ショースケは大人(おとな)しく、すごすごとそのお(みせ)(あと)にしました。


「うーん……ここで()(もの)したらすぐにお給料(きゅうりょう)()くなっちゃいそう」 


 市場(しじょう)大通(おおどお)りのお(みせ)はどうも(たか)くていいものばかり()いてあるので、ショースケは(ほそ)路地(ろじ)(はい)ってみることにしました。


 そこではET(いーてぃー)たちが()べたに(ぬの)()いて、その(うえ)(わけ)アリの商品(しょうひん)(なら)べて()っているようです。


 なんだか(あや)しい雰囲気(ふんいき)ですが、(おどろ)くべきはその値段(ねだん)


 (さき)ほど大通(おおどお)りで()たものとそっくりなものが半分(はんぶん)以下(いか)価格(かかく)()られているのです。


 (すこ)尻込(しりご)みしているショースケに、(くろ)(ぬの)(あたま)から(かぶ)った店主(てんしゅ)(こえ)をかけました。


「お(にい)ちゃん興味(きょうみ)あるの? こっちおいで、(やす)くしとくぜ」


 そう()ってショースケを()んで(みせ)(まえ)(すわ)らせると、(おく)()いてある風呂敷(ふろしき)(づつ)みから次々(つぎつぎ)商品(しょうひん)()して(なら)べていきます。


「わー! マルコル(いし)にテワスヨンの(ほね)、それにアルコンヌ(はな)のつぼみまである! しかもこんなに(やす)くていいの?」


 ショースケは(ひとみ)(かがや)かせて、次々(つぎつぎ)商品(しょうひん)()()購入(こうにゅう)していきました。


 店主(てんしゅ)はその様子(ようす)()てガハハと(わら)(ごえ)()げます。


「お(にい)ちゃんお()(たか)いね! じゃあこんなのもどうだい?」


 店主(てんしゅ)はポケットをゴソゴソと(さぐ)り、()(さお)果実(かじつ)()()しました。


「これなぁに? (ぼく)()たことないや」


 ショースケはきょとんとした(かお)果実(かじつ)()つめます。


「はは、やっぱり()らないか! これはクヤドマの()()(じゅく)しきる(まえ)のこの(あお)時期(じき)()べるとすっげー美味(おい)しいんだぜ」


 美味(おい)しい、という言葉(ことば)()いしん(ぼう)なショースケはビビッと反応(はんのう)しました。


本当(ほんとう)⁉ ()べてみたい!」


「いいぜ。じゃあこれをひとつタダでやるから、美味(おい)しかったらもっと()ってってくれよ」


 ニヤリと(わら)った店主(てんしゅ)が、(あお)いクヤドマの()をショースケに手渡(てわた)そうとした(とき)



()ちなさい」


 (こえ)(ぬし)(うし)ろから(ちか)づいてくると、ショースケの(となり)(ひざまず)いて店主(てんしゅ)(ほう)見据(みす)えました。


 (とし)二十歳(はたち)くらいでしょうか。宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)職員(しょくいん)(しろ)制服(せいふく)()にまとった、ここでは(めずら)しい地球(ちきゅう)(じん)青年(せいねん)です。


 ショースケがその(かお)()てびっくりしている(あいだ)に、青年(せいねん)店主(てんしゅ)()いただしました。


「ちょっと店主(てんしゅ)さん。このクヤドマの()、まだ(じゅく)していませんよね? この果実(かじつ)(じゅく)(まえ)(あお)状態(じょうたい)()べるとひどい依存(いぞん)(せい)があるので、販売(はんばい)してはいけないと()められているのはご(ぞん)じですか?」


 それを()いてショースケは驚愕(きょうがく)します。


「ええ⁉ (なに)それ(ぼく)(だま)そうとしたってこと⁉」


 ショースケがにらみつけると、店主(てんしゅ)(あき)らかにうろたえ()(およ)がせます。


「そ、そーなのかい? いやー……()らなかったなあ⁉」


 あまりにも(あき)らかな(うそ)にショースケが(あき)れていると、(となり)青年(せいねん)()口元(くちもと)()てて(かんが)()みながら(くち)(ひら)きました。


「え、()らなかったんですか。それなら仕方(しかた)ないかなぁ……?」


 なんと、あろうことか青年(せいねん)はこんなにわかりやすい店主(てんしゅ)(うそ)(しん)じてしまったようです。


 ショースケは(あわ)てて(おお)きな(こえ)()します。


「いやいやいや! どう(かんが)えても(うそ)()まってるじゃん!」


「え、(うそ)なの⁉ そうなんですか店主(てんしゅ)さん!」


 青年(せいねん)店主(てんしゅ)にもう一度(いちど)()いただそうとしますがショースケがそれに()って(はい)ります。


「この(ひと)()いても、(つか)まりたくないんだから(うそ)ですーなんて()うわけないじゃん! お(にい)さんちょっと純粋(じゅんすい)()ぎない⁉」


 とにかくこの店主(てんしゅ)逮捕(たいほ)しなくては。


 ()(まえ)青年(せいねん)はなんだか(あぶ)なっかしいので、ショースケは自分(じぶん)のエッグロケットを()()しました。


 それを()青年(せいねん)()(まる)くします。


(きみ)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)だったのか! あ、よく()たらバッジもつけてる!」


 青年(せいねん)はすぐに自分(じぶん)右腕(みぎうで)につけたオレンジ(いろ)のポスエッグに()れました。


 すると青年(せいねん)右腕(みぎうで)をすっぽり(おお)う、(おお)きな大砲(たいほう)のような筒状(つつじょう)装置(そうち)(あらわ)れます。


 おそらくショースケたちにとってのエッグロケットのようなものでしょう。


挿絵(By みてみん)


「それなら(きみ)()うことを(しん)じさせてもらうよ。では店主(てんしゅ)さん、(くわ)しいお(はなし)本部(ほんぶ)()かせてもらいますね」


 そう()うと青年(せいねん)右腕(みぎうで)装置(そうち)(さき)から(しろ)(ちい)さな(うず)(あらわ)れて、()げようとした店主(てんしゅ)はその(なか)()()まれていきました。


 右腕(みぎうで)装置(そうち)をポスエッグの(なか)収納(しゅうのう)して、青年(せいねん)はすぐにショースケに(あたま)()げます。


「ありがとう! すごく(たす)かったよ! (おれ)こんなんだからさ、いつもはコンビと一緒(いっしょ)行動(こうどう)してるんだけど今日(きょう)は……その、この人込(ひとご)みではぐれちゃって……」


 青年(せいねん)(かた)()としています。


 ショースケは(あらた)めてそんな青年(せいねん)(かお)をまじまじと()つめました。


 雰囲気(ふんいき)(てき)になんだか(しん)じられませんが、見覚(みおぼ)えのあるこの(かお)つきは間違(まちが)いないでしょう。


「いや……(ぼく)こそ(たす)けてくれてありがとう……。あのさ、もしかしなくてもタカヤのお(にい)さんだよね?」 


 タカヤの名前(なまえ)()いて、青年(せいねん)はバッと(かお)()げました。


「え、そうだけど……ああ! もしかして(きみ)がショースケくんか!」


 青年(せいねん)はタカヤとそっくりな(かお)で、でもなんだか()まりなくへにょりと(わら)いました。


「いつもタカヤがお世話(せわ)になってます……って、たった(いま)(おれ)もお世話(せわ)になっちゃったけど。(おれ)石越(いしごえ)ヒカル。()えて(うれ)しいよショースケくん!」


「うん、(ぼく)(うれ)しいよ。まあ本当(ほんとう)はヒカルさんにはタカヤと()いに()予定(よてい)だったんだけどね」


 ショースケの言葉(ことば)()くと、ヒカルは(なに)かを(さっ)したようです。


「タカヤも()てる……ってことはなるほど、そういうことか……」


「え、(なに)どういうこと?」


 不思議(ふしぎ)そうなショースケに、ヒカルは(なん)でもないと(むね)(まえ)でわたわたと両手(りょうて)()って()せました。


 ふと時計(とけい)()るとまだタカヤとの()()わせ時刻(じこく)までは(いち)時間(じかん)ほどあります。


(ぼく)これからどうしようかな。()(もの)もある程度(ていど)はできたし……あ、ちょっと(はや)いけどタカヤを(さが)しに()こうかな?」


 ショースケが(かんが)えていると、ヒカルが(あわ)てた様子(ようす)(くち)(ひら)きました。


「ね、ねえショースケくん! ここで()ったのも(なに)かの(えん)だし、よかったら(おれ)仕事(しごと)()見学(けんがく)しに()ない? タカヤの用事(ようじ)もしばらくは()わらないだろうし!」


 ショースケは()(かがや)かせました。


 というのもショースケは本部(ほんぶ)(はたら)いている祖父(そふ)仕事(しごと)をするのが将来(しょうらい)(ゆめ)ですから、本部(ほんぶ)(おこな)われていることにはものすごく興味(きょうみ)があります。


()()く! やったぁいいの⁉」


 ショースケはその()何度(なんど)()ねて、ふと()()きました。


「あれ、(ぼく)タカヤが用事(ようじ)でいないってヒカルさんに()ったっけ……?」


「え、あーそれは! なんとなーくわかるんだよほら兄弟(きょうだい)だし!」


 そわそわしながらも(うで)()んで、ヒカルはいかにも本当(ほんとう)っぽく振舞(ふるま)ってみせます。


(ぼく)兄弟(きょうだい)いないからわかんないや……そういうものなのか」


 (あや)しいとは(おも)いつつも、それを確認(かくにん)する(すべ)がショースケにはありませんのでここは大人(おとな)しく()()がります。


 ヒカルは()(あせ)(ぬぐ)うと、ショースケににっこり(わら)いかけました。


「よし! じゃあ本部(ほんぶ)()こうか!」




 そこからショースケは頑張(がんば)りました。


 まずは一歩(いっぽ)()()()した瞬間(しゅんかん)(なに)もないところですっ(ころ)んだヒカルを()こして、(ひざ)()いた(よご)れを(はら)ってあげました。


 (つぎ)はヒカルが人込(ひとご)みでET(いーてぃー)にぶつかってしまったので相手(あいて)一緒(いっしょ)(あやま)り、その(つぎ)(なに)やら(たか)そうなピカピカの(つぼ)()うように誘導(ゆうどう)されているヒカルを(たす)け、そのまた(つぎ)(となり)にいた()(たか)ET(いーてぃー)がこぼしてしまったドロドロなジュースを(あたま)から(かぶ)ったヒカルを一生懸命(いっしょうけんめい)タオルで()いて……。


 最終(さいしゅう)(てき)にショースケは自分(じぶん)がタカヤにやられたように、ヒカルの(うで)(つか)んで()()って市場(いちば)(あと)にしました。


 ヒカルは面目(めんぼく)ないというように、片手(かたて)(かお)(おお)っています。


「ごめん……いつもはここまでじゃなくて……。これの半分(はんぶん)くらいなんだけど……」


 半分(はんぶん)あったら十分(じゅうぶん)大変(たいへん)だろうとショースケは(おも)いますが、ヒカルにとっては(おお)きな()のようです。


「うう、(おとうと)のコンビにはいいとこ()せたかったのに。は、そういえば!」


 ヒカルは(なに)かを(おも)()してバッと(かお)()げました。


「ショースケくんってたしかライトお(にい)ちゃ……ゴホン、ライトさんと一緒(いっしょ)()らしてるんだよね? どうかその……さっきまでの失態(しったい)内緒(ないしょ)にしてくれないかな……?」


「へー、二人(ふたり)()()いなんだ。しょうがないなあ…ライトお(にい)ちゃんには()わないであげるよ」


 ショースケはニヤリといじわるに(わら)いました。


「ありがとう……って! その、お(にい)ちゃんも出来(でき)れば()わないで()しいんだけど! さっきのはつい(むかし)のクセで()んじゃって!」


 ヒカルは()ずかしそうに(かお)()()にして懇願(こんがん)します。


「だーめ。これはライトさんが(よろこ)びそうだから(つた)えとくよ」


「うぅ……今日(きょう)はもう散々(さんざん)だな……」


 ヒカルがしょんぼりと(おお)きなため(いき)をついていると、(まわ)りのET(いーてぃー)たちが(きゅう)にざわざわとし(はじ)めました。


 どうやら(とお)くから(ある)いてくるET(いーてぃー)()ているようで、ショースケもそちらを()いてみるとざわめいている理由(りゆう)がよくわかりました。


 そのET(いーてぃー)はとにかく(うつく)しいのです、まるで()(もの)ではないみたいです。


 すらっとまっすぐ()びた()はショースケの(ばい)くらいあり、(みみ)はうさぎのように、(くび)(うま)のように(なが)くて、水晶(すいしょう)(なか)(いろ)とりどりの宝石(ほうせき)をばらまいたような(つの)()(ほん)()えています。


 (ひたい)についた楕円(だえん)(がた)宝石(ほうせき)はオパールのような(かがや)きを(はな)っており、(あし)金属(きんぞく)のような素材(そざい)出来(でき)ていて(ふと)ももから足先(あしさき)()けて円錐(えんすい)のように(ほそ)(とが)っていました。


 そして(なが)いまつ()のついた(おお)きな(ひとみ)をまばたきするたびに、あまりの神々(こうごう)しさに(あた)りのET(いーてぃー)たちは(とき)()まったように(しず)かになるのでした。


 そんなET(いーてぃー)二人(ふたり)のすぐそばまでやって()背中(せなか)をゆっくり()げると、その(ほそ)鼻筋(はなすじ)(うつむ)いているヒカルに(ちか)づけました。


「やっと()つけた、とっても(さが)したわヒカル」


 (くち)()いようですが(からだ)から(はっ)せられたその(うつく)しい(こえ)に、ヒカルは(かお)()げました。


「エイギス……!」


 その()()圧倒(あっとう)されてショースケは(いま)まで()()きませんでしたが、エイギスと()ばれたET(いーてぃー)はヒカルと(おな)本部(ほんぶ)職員(しょくいん)制服(せいふく)()にまとっています。


「え、もしかしてその(ひと)がヒカルさんの……?」


 ヒカルはやっとしゃっきり()()がり、(うれ)しそうに(くち)(ひら)きました。


挿絵(By みてみん)


「うん、(おれ)のコンビのエイギスだよ! エイギス、こちらはショースケくん。(おれ)(おとうと)のコンビなんだ」


 それを()くとエイギスは今度(こんど)はショースケに鼻先(はなさき)(ちか)づけました。


「あなたがタカヤのコンビなのね、はじめましてショースケ」


 そう()って(わら)うエイギスからはなんだか(はな)のようないい(にお)いがして、ショースケはちょっとくらくらしました。


「ところでヒカル」


 エイギスはまたヒカルの(ほう)()いたかと(おも)うと、ヒカルが右腕(みぎうで)につけているポスエッグを(かお)をしかめてじっと()つめました。


「あなたもしかして市場(いちば)(なに)(めずら)しいものを()わなかった? なんだか(あや)しい(にお)いがするわ」


「えーっと、()ったのはこれだけだけど……エイギスに似合(にあ)うと(おも)って」


 ヒカルは(すこ)()れくさそうに、ポスエッグから(あか)(はな)のついた(あたま)(かざ)りを()()しました。


 それを()てエイギスはやっぱり、と納得(なっとく)します。


「ヒカル、これはラフコの(はな)()っているとちょっとした不運(ふうん)見舞(みま)われることが()えると()われているわ。もしかしてワタシと(はな)れてからいろいろあったんじゃないかしら?」


 あまりにも図星(ずぼし)()かれたヒカルは、(なに)()えず(だま)ってしまいました。


 エイギスはショースケを(もう)(わけ)なさそうに()つめます。


「きっとショースケがヒカルを(たす)けてくれたのね。本当(ほんとう)にありがとう、なんてお(れい)()ったらいいかしら」


 エイギスと()()わせるとちょっと緊張(きんちょう)するので、()()らしたままショースケはいやいやと(くび)()ります。


(たし)かにすっごくいっぱい(たす)けたけど! お(れい)二人(ふたり)仕事(しごと)()見学(けんがく)させてくれるので十分(じゅうぶん)だよ」


「まあ! (わたし)たちの仕事(しごと)()()()てくれるの? (うれ)しい、歓迎(かんげい)するわショースケ」


 エイギスは(あたま)(うし)ろに()えたリボンのような(かみ)をひらりと()らしながら、右足(みぎあし)(じく)にしてコンパスのようにくるりと(まわ)って方向(ほうこう)転換(てんかん)すると、本部(ほんぶ)()かって(ある)(はじ)めました。


 ショースケとヒカルもそれに(つづ)きますが、ヒカルはうなだれて元気(げんき)がありません。


「……ごめんエイギス。また迷惑(めいわく)かけた……」


 (うつむ)いているヒカルにエイギスはゆっくり(ちか)づいて、背中(せなか)をぐっと()げると鼻先(はなさき)をヒカルの(ほほ)にぴっとりとくっつけました。


 そのまま(やさ)しく()()じて、すりすりと(ほお)をすり()わせます。


今回(こんかい)のプレゼントはちょっと()()れないけれど、ヒカルのその気持(きも)ちがとっても(うれ)しいわ。いつもありがとう」


 それを()けて、ヒカルは(しあわ)せそうにへにょりと(わら)いました。


「どういたしましてエイギス」


 ……その様子(ようす)(かお)(あか)くして、ショースケは(すこ)(はな)れて(うす)()()ています。


「え、二人(ふたり)ってそういう関係(かんけい)? (つづ)きは(いえ)でやってくれない?」


 その言葉(ことば)にヒカルは(みみ)まで()()にして弁明(べんめい)します。


「い! いやいやそういう関係(かんけい)じゃなくてっ……その、まだ!」


「まだ、ってことはその()あるんじゃん! やっぱり(いえ)でやって!」


 ヒカルとショースケがやいやいと()()っているのを、エイギスがきょとんとした(かお)(なが)めていると……



 突然(とつぜん)ヒカルとエイギスのポスエッグがピカピカと(ひか)(はじ)めました。


「なんだなんだ⁉ いつもはこんな(ひか)(かた)しないのに」


 ヒカルが(あせ)っているとエイギスは(とお)くに()える本部(ほんぶ)(ほう)()いて(おどろ)いた(こえ)をあげました。


()て、ヒカル! 本部(ほんぶ)様子(ようす)がおかしいわ!」


 (いろ)とりどりだった(まど)はすべてが()(くろ)になっており、あれだけたくさんのET(いーてぃー)()()していたチューブ(じょう)透明(とうめい)エレベーターの(なか)(だれ)(とお)っていません。


(なに)かあったんだ、(いそ)いで(もど)ろうエイギス! ショースケくんはここにいてくれる?」


 (はし)()そうとするヒカルの(うで)をショースケはぎゅっと(つか)みました。


()って! (ぼく)()れてって、タカヤが本部(ほんぶ)(なか)にいるの! 迷惑(めいわく)かけないようにするから!」


 ショースケは必死(ひっし)(たの)()みますが、二人(ふたり)()()れてくれません。


「ダメだよ、なにがあるかわからない。本部(ほんぶ)職員(しょくいん)以外(いがい)()()むわけにはいかないよ」


「ごめんねショースケ。タカヤのことはワタシたちが(さが)すから、ショースケはここで()っていて」


 そう()うとヒカルとエイギスは本部(ほんぶ)へと(はし)って()きました。



 一人(ひとり)()(のこ)されたショースケは、様子(ようす)()わった本部(ほんぶ)不安(ふあん)そうに()つめながら、タカヤと約束(やくそく)した()()わせ場所(ばしょ)()ってみるのでした。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
やっぱり不思議なものや綺麗なものへの表現力が高くて勉強になります……! それに新しく出てきたキャラもすごく可愛いですね! ヒカルくん、天然で良い子でちょっと抜けてて可愛くてさっそく好きになりました。 …
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