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第五話 雨上がりの秘密

****


 さっきまで()っていた(あめ)()んで、あちこちに出来(でき)(みず)たまりにお日様(ひさま)(うつ)って(ひか)っている土曜日(どようび)午前(ごぜん)十一(じゅういち)()


「ターカーヤー!」


 (おお)きなリュックを背負(せお)って、ショースケはタカヤの(いえ)のピンポンを()らしました。


 (おく)からパタパタと足音(あしおと)(ちか)づいてきて、ドアが(ひら)いてタカヤがぴょこっと(かお)()します。


「ショースケいらっしゃい。(はや)かったな、てっきり昼過(ひるす)ぎに()ると(おも)ってたよ」


「だってお()まりだよ! (ぼく)友達(ともだち)(いえ)にお()まりなんて(はじ)めてだから、(たの)しみでめちゃめちゃ早起(はやお)きしちゃったよ!」


 ショースケはニコニコで背中(せなか)のリュックをぶんぶん()らして()せました。


「そっか、そう()ってもらえると(おれ)(うれ)しいよ。ほら、荷物(にもつ)(おも)いだろ? (はい)って」


「わーい! おじゃましまーす」


 タカヤに(まね)かれてショースケが(なか)(はい)ると、玄関(げんかん)までなにやら(あま)(にお)いが充満(じゅうまん)していました。


 よく()るとタカヤは(あか)いエプロンをしています。


「タカヤ(なに)(つく)ってたの?」


「うん、ショースケに()べてもらおうと(おも)ってクッキーを()いてたんだ。まだ()けてないからちょっと()ってくれよな」


「クッキー! やったぁ(ぼく)クッキー大好(だいす)き!」


 ショースケは(はな)をくんかくんかさせながら手洗(てあら)いうがいを()ませて、リビングに荷物(にもつ)()ろしました。


「そういえばショースケ、(ひる)(はん)()べてきたのか?」


「うん、ルルさんが(ぼく)(ぶん)だけ(はや)くオムライスを(つく)ってくれたの。あっ、もしかしてタカヤまだだった……? ごめん」


 ショースケは不安(ふあん)そうに表情(ひょうじょう)(くも)らせます。


「ううん。(おれ)(いま)()べたところだから大丈夫(だいじょうぶ)だよ」


「そうなんだ、よかったぁ」


 本当(ほんとう)()べていませんが、タカヤはコスモピースのエネルギーでご(はん)()べなくても大丈夫(だいじょうぶ)なので(ちい)さな(うそ)をつきました。


 タカヤは背中(せなか)のエプロンの(むす)()()らしながらキッチンへ()かうと、冷蔵庫(れいぞうこ)(ひら)いてショースケに(たず)ねます。


「ショースケ、(つめ)たい牛乳(ぎゅうにゅう)麦茶(むぎちゃ)どっちがいい?」


牛乳(ぎゅうにゅう)がいい! やっぱり(あま)いクッキーには牛乳(ぎゅうにゅう)一番(いちばん)だよ」


「じゃあ(おれ)牛乳(ぎゅうにゅう)にしようかな」


 キッチンでタカヤが(ふた)つのグラスに牛乳(ぎゅうにゅう)(そそ)いでいるのを()っている(あいだ)、ショースケは(たな)(うえ)(なら)べてある()(にん)(うつ)った家族(かぞく)写真(じゃしん)()ていました。


「へー、この(ひと)たちがタカヤの家族(かぞく)か。(たし)かみんな宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)なんだっけ」


 写真(しゃしん)にはタカヤの(ちち)(はは)(あに)(うつ)っています。


 ショースケもライトに()いた程度(ていど)(くわ)しくは()りませんが、タカヤの(あに)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)で、両親(りょうしん)はもっと(とお)くの宇宙(うちゅう)でそれぞれ(せわ)しなく(はたら)いているらしく、めったにこの(いえ)には(かえ)って()られないそうです。


「こういうの()てると(ぼく)もマムとダッドに()いたくなるね。今度(こんど)(なが)いお(やす)みのときに飛行機(ひこうき)()って()いに()こうかな」


 ショースケがそんなことを(かんが)えていると、階段(かいだん)(ほう)からガタリと(おと)がしました。


「カイダン ノ オソウジ オワッタヨ タカヤ ホメテー」


 ()()隙間(すきま)から、ロボットのツバサがリビングへと(はい)ってきます。


「ゲ、ショースケ モウ キテル。ボク ト タカヤ ノ ラブラブ セイカツ ガ」


 ツバサは表情(ひょうじょう)()えることは出来(でき)ませんが、露骨(ろこつ)(いや)そうに三本(さんぼん)触覚(しょっかく)()らしました。


「お、ツバサじゃん(ひさ)しぶり。どう? 今日(きょう)こそ分解(ぶんかい)させてくれる()になった?」


 ショースケはツバサの(おお)きさに()わせて()(せん)()とすと、(わる)笑顔(えがお)()かべます。


「ショースケ イツモ ソウイウ。コワイ」


 ツバサは(あき)れたようにウロウロと(あた)りを(うご)(まわ)ります。


心配(しんぱい)しなくても分解(ぶんかい)()わったらちゃんと(もと)(もど)してあげるよ。(ぼく)はじーちゃんの(つく)ったロボットの中身(なかみ)()たいだけだから」


 ショースケが(ゆび)をワキワキしていると、ツバサはちらりとキッチンの(ほう)()(なに)かを(おも)いついたのか触覚(しょっかく)をまっすぐピーンと()ばしました。


「ソウダ ショースケ。ブンカイ シタカッタラ ボクヲ ツカマエテ ミナ」


 ツバサはそう()うと(よん)(ほん)(あし)でバタバタとキッチンの(ほう)()げていきます。


「え、(つか)まえたら分解(ぶんかい)させてくれるの⁉」


 ショースケはそんなツバサを()いかけると、あっけなく()らえて両手(りょうて)()()げました。


「キャー ツカマッター」


自分(じぶん)から()ったくせに簡単(かんたん)(つか)まり()ぎじゃない?」


 ショースケはツバサをひっくり(かえ)して、まじまじと()つめながら(しろ)いボディを(さわ)ります。


「へー、つなぎ()とか全然(ぜんぜん)()いんだ。ロボットなのにやわらかくてあったかいし、これは中身(なかみ)がますます()になるね」


「ヤメテー オナカ サワラナイデー タスケテ タカヤー!」


 ツバサがわざとらしい(おお)きな(こえ)()したところに、ちょうどタカヤがお(ぼん)にグラスとちょっとしたお菓子(かし)をのせて(もど)って()ました。


「あ! ショースケまたツバサが(いや)がることしてるのか!」


 (いそ)いでお(ぼん)をテーブルの(うえ)()いて、タカヤはショースケからツバサを()(かえ)して()()げます。


(まった)くショースケは……。ツバサ、(へん)なことされてないか?」


「オナカ サワラレタ カラ タカヤ ガ ナデナデ シテ ウワガキ シテー」


 ツバサはすりすりとこれ()よがしにタカヤに(あま)えます。


 ショースケはやっと()()きました、自分(じぶん)はツバサがタカヤに(あま)えるためのダシにされたのだと。


「ツバサ……(ぼく)利用(りよう)したね……?」


 ロボットに()いように使(つか)われてしまったという(くや)しさでブルブル(ふる)えるショースケを、ツバサはタカヤにお(なか)()でてもらいながら一瞥(いちべつ)しました。


「エー ボク ワカンナーイ」


「タカヤ! (だま)されちゃだめだよ、このロボット策士(さくし)なんだから!」


挿絵(By みてみん)


 ショースケとツバサがやいやい()めているとオーブンレンジから(おと)がしました。


「お、クッキーが()けたみたいだ。二人(ふたり)ともとりあえず()めるのは(あと)にしておやつにしよう、な?」


 タカヤは()っこしていたツバサを()ろして、キッチンの(ほう)()かいました。


 (のこ)されたショースケとツバサはお(たが)()()わせずにソファに(すこ)(はな)れて(すわ)ります。


「……(あと)絶対(ぜったい)仕返(しかえ)ししてやるから。覚悟(かくご)してよねツバサ」


「デキルモンナラ ヤッテミナ」


 表情(ひょうじょう)()わらなくても嘲笑(あざわら)われていることはなんとなくわかるので、ショースケは(くや)しくて(かみ)()をぐしゃぐしゃと()きむしりました。



****



「おいしーい!」


 さっきまでの苛立(いらだ)ちはどこへやら、ショースケはもりもりと()きたてのクッキーを頬張(ほおば)ります。


「そんなに(よろこ)んでもらえて(うれ)しいよ。いっぱいあるからたくさん()べてくれよな」


 タカヤは(うれ)しそうに牛乳(ぎゅうにゅう)のおかわりをショースケのグラスに(そそ)ぎました。


「わー(うれ)しいなあ! (いえ)ではもうやめとけってライトさんに()められちゃうから、お(なか)いっぱいクッキー()べてみたかったんだよ!」


 友達(ともだち)(いえ)にお(とま)りして、あたたかな日差(ひざ)しが(ひら)いた(まど)から()()んで、()(まえ)には()放題(ほうだい)のクッキーが(なら)べられて……まさに()()いたような(しあわ)せな休日(きゅうじつ)です。


「んー……それにしてもさ」


 クッキーを両手(りょうて)()ったまま、ショースケは(つくえ)(うえ)()いてある自分(じぶん)のエッグロケットに()をやりました


最近(さいきん)本当(ほんとう)にお仕事(しごと)()いよねー。いや、何事(なにごと)()(ほう)がいいのはわかってるんだけどさ」


 (たし)かにここ(いっ)週間(しゅうかん)ほど、ショースケのエッグロケットは()っていません。


「もしかして(ぼく)のエッグロケット故障(こしょう)してたりして! タカヤのは()ってたり……って、それならタカヤが(おし)えてくれるか。(ぼく)たちコンビだもん、一人(ひとり)()くわけないもんね」


 タカヤは牛乳(ぎゅうにゅう)(はい)ったグラスを両手(りょうて)(にぎ)ったまま一瞬(いっしゅん)(かた)(ふる)わせました。


 その(となり)でショースケは(くち)(なか)にクッキーを(ふた)()れたまま、牛乳(ぎゅうにゅう)(くち)(ふく)みます。


「んー! やっぱり牛乳(ぎゅうにゅう)とクッキーは相性(あいしょう)抜群(ばつぐん)だね! ほら、タカヤもやってみなよ……タカヤ? ()いてる?」


「あ、ごめん! ぼーっとしてた。あはは……心配(しんぱい)しなくてもショースケのエッグロケットは(こわ)れてないよ。(おれ)のも……ずっと()ってないから」


 タカヤはクッキーを(ちい)さくかじって(くち)()れると、(すこ)(つよ)()(くだ)きました。


「やっぱりそうだよねー。平和(へいわ)一番(いちばん)だけどたまにはお仕事(しごと)したいなぁ、(はや)特級(とっきゅう)になりたいし」


 (くち)(とが)らせるショースケに、タカヤはいつものように(まゆ)()げて(こま)ったように(わら)って()せました。




「ふぁー……美味(おい)しかったお(なか)いっぱい……」


 ショースケは満足(まんぞく)げにソファに(よこ)になり、(うで)()げて(からだ)をぐーっと()ばしました。。


「ショースケ、クッキー()べたら宿題(しゅくだい)するんじゃなかったのか?」


 タカヤは食器(しょっき)片付(かたづ)けながら(こえ)をかけます。


「うーん……(たし)かにそう()ったけどぉ……お昼寝(ひるね)してからにするぅ……」


 ショースケはそのままうとうと()()じて、(ゆめ)世界(せかい)旅立(たびだ)ってしまいました。


 ツバサが(まる)触覚(しょっかく)でショースケのほっぺたをプニプニつつきますが、()きる気配(けはい)はありません。


「ウーム、ヒトノ イエデ ココマデ ノンキニ イラレル ノハ サイノウ ダネ」


「あはは、それだけ安心(あんしん)してくれてるってことだろ? (おれ)(うれ)しいよ」


 タカヤが(かさ)ねた食器(しょっき)をお(ぼん)にのせて、キッチンへと(はこ)んでいると……



 タカヤの(あたま)(なか)でピリピリと(おと)()(ひび)きました。


 早足(はやあし)でキッチンへと()かいテーブルの(うえ)にお(ぼん)()いて、タカヤはすぐにポケットの(なか)のキーホルダー(がた)のエッグロケットを(にぎ)りました。


「タカヤ隊員(たいいん)、こんにちは。今回(こんかい)特級(とっきゅう)のあなたへの依頼(いらい)です。コンビのショースケ隊員(たいいん)同行(どうこう)すると危険(きけん)(ともな)可能(かのう)(せい)がありますので、タカヤ隊員(たいいん)一人(ひとり)行動(こうどう)してください」


 ショースケは金色(きんいろ)(かみ)(まど)からの(すこ)湿(しめ)った(かぜ)()らしながらすやすやと(ねむ)っています。


 タカヤはショースケを()こさないように(ちい)さな(こえ)返事(へんじ)をしました。


「ありがとうございます。では、(とき)()()(ちょう)鹿(しか)原山(はらやま)山頂(さんちょう)付近(ふきん)でなにやら()くない(うご)きをしていET(いーてぃー)がるいるようなので早急(そうきゅう)現場(げんば)()かってください。くれぐれも()()けて」


「……了解(りょうかい)しました」


 通信(つうしん)()れて、タカヤはポケットの(なか)のエッグロケットから()(はな)します。


「タカヤ ダイジョウブ? モシカシテ マタ タカヤ ダケノ オシゴト?」


 心配(しんぱい)そうに見上(みあ)げているツバサを、タカヤは(やさ)しく()()げます。


「うん、ちょっと()かなきゃいけなくなった。ツバサ、ショースケとお留守番(るすばん)(たの)めるか?」


「アイアイサー」


 ツバサは三本(さんぼん)触覚(しょっかく)両手(りょうて)両足(りょうあし)をブイブイ()らしました。


「ありがとう、じゃあいってくる。ショースケがもし()きたら(おれ)夕飯(ゆうはん)()(もの)()ったって()っておいてくれ」


 ソファでぐっすりと(ねむ)るショースケの(よこ)をこっそり(とお)()けようとすると、ショースケがうむうむと(なに)やら寝言(ねごと)(つぶや)きました。


 その()にはいつ()ってもいいように、エッグロケットがしっかりと(にぎ)られています。


「……ごめんな、ショースケ」


 タカヤは(しず)かに(くつ)()いて、ドアを()けて(そと)()かいました。



****



「さてと……()くか」


 エッグロケットを操作(そうさ)して自分(じぶん)にキラキラ()をかけると、タカヤは鹿(しか)原山(はらやま)()かって(はし)(はじ)めました。


 いつもはショースケを()ちながらゆっくり(はし)っていますが、今日(きょう)はその必要(ひつよう)はないので全速力(ぜんそくりょく)()かいます。


 タカヤは運動(うんどう)がすこぶるよく出来(でき)(ほう)ですし、コスモピースのおかげで(つか)れるということも()いので、(つね)最高(さいこう)のスピードで(はし)(つづ)けることができます。


 しかしそれでも(やま)頂上(ちょうじょう)となると結構(けっこう)距離(きょり)があり、時間(じかん)がかかってしまいます。


「うーん……最近(さいきん)一人(ひとり)依頼(いらい)(おお)いし、近距離(きんきょり)(よう)のワープ装置(そうち)でも()おうかな……」


 そんなことを(かんが)えながら、タカヤは山道(やまみち)をぐんぐん(のぼ)っていきました。


 さっきまでの(あめ)をいっぱい()()んだ(やま)(つち)(おも)く、草木(くさき)からは(しずく)(したた)っています。


 足元(あしもと)()ていたタカヤがふと(かお)()げると、(しげ)みの(おく)(ほう)になにやら紫色(むらさきいろ)()(たか)植物(しょくぶつ)()えているのが()(はい)りました。


「あれ、これって……アコリブニ⁉」


 タカヤはすぐにその植物(しょくぶつ)根元(ねもと)から()っこ()きました。


「このまん(まる)()っこ、間違(まちが)いない。なんでこんなところに……」


 アコリブニは本来(ほんらい)ポポミル(せい)()えている植物(しょくぶつ)です。


 (おお)きな(はな)()くとそこから毒性(どくせい)のある花粉(かふん)をまき()らし、現生(げんせい)植物(しょくぶつ)()らして(すべ)てを(つち)栄養(えいよう)()えてしまうため、宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)によって(ほか)(ほし)への()()しが禁止(きんし)されています。


 (さいわ)いまだ(はな)()いていないようですが、(あた)りを見渡(みわた)すとどうやら点々(てんてん)とアコリブニが()えられているようです。


「とにかく位置(いち)把握(はあく)して、全部(ぜんぶ)()()っておかないと」


 タカヤは()()じてコスモピースの(ちから)発動(はつどう)させると、町中(まちじゅう)のアコリブニの気配(けはい)(さぐ)りました。


 どうやら()えられているのはこの(やま)周辺(しゅうへん)だけのようです。


全部(ぜんぶ)三十四(さんじゅうよん)(ほん)か……ごめんね、ここに根付(ねづ)かせるわけにはいかないんだ」


 タカヤは次々(つぎつぎ)()えているアコリブニを()っこ()いて(すべ)てを(いっ)(しょ)(あつ)めると、エッグロケットのダイヤルを()()って本部(ほんぶ)へと転送(てんそう)しました。


「……この(うえ)か。(いそ)がないと」



****



「はっくしょ!」


 タカヤが仕事(しごと)()かってから数十(すうじゅっ)分後(ぷんご)


 (かぜ)でなびいた自分(じぶん)(かみ)鼻先(はなさき)()たって、ショースケはくすぐったくて()()ましました。


 ()ぼけ(まなこ)(あた)りをキョロキョロ見回(みまわ)していると、ツバサがそれに()()いて(ちか)づいてきます。


「ア ショースケ オキチャッタ」


「んー……あれ、タカヤはぁ……?」


「タカヤ ハ ユウハン ノ カイモノ ニ イッタヨ」


「え! ()(もの)⁉」


 ショースケはガバッと()()がりました。


「なんで(さそ)ってくれなかったの⁉ (ぼく)()きたかった! (いま)から()いかけても()()うかな?」


 カバンを(かた)からかけて()()そうとするショースケをツバサは必死(ひっし)()めます。


 (いま)タカヤの(もと)()かわれるわけにはいきません。


「マアマア、モウスグ カエッテ クルト オモウカラ。ソレヨリ ボクト アソバナイ?」


「ツバサと(あそ)ぶって……(なに)して?」


「エート」


 (なに)(かんが)えてなかったツバサは触覚(しょっかく)使(つか)って(ちか)くの()()しを(ひら)いてみました。


「ア トランプ ガ アル。ショースケ ババヌキ シヨ」


「えー、ババ()きー?」


 (あき)らかに()()ではありませんが、ショースケをその()にさせるくらいツバサにはお(ちゃ)()さいさいです。


「フーン、ショースケ ババヌキ ヨワインダー」


「……(だれ)(よわ)いって?」


挿絵(By みてみん)


 ショースケはじろりとツバサの(ほう)()ました。


「フフン。モシ ボクニ カテタラ ボクノコト ブンカイ シテ イイノニナー」


()ったね⁉ よし、さっきの仕返(しかえ)ししてやるんだから。後悔(こうかい)しても()らないよ、(ぼく)ババ()(ちょう)(つよ)いんだから!」


 あまりにも(あつか)いやすいのでツバサはさすがに心配(しんぱい)になってきました。


 そんな(ふう)(おも)われているとはつゆ()らず、ショースケはとてつもなく自信(じしん)満々(まんまん)にトランプを(よこ)からパラパラこぼしながらシャッフルし(はじ)めます。


 ツバサは触覚(しょっかく)でショースケのこぼしたトランプを(ひろ)って(あつ)めていきました。


 さて、ババ()きだけではさすがに時間(じかん)(つぶ)せないでしょう。


 (つぎ)(なに)提案(ていあん)してショースケの(あし)()めをしようかと、ツバサは(あたま)(なか)のデータベースをこれでもかと(さぐ)りました。



****



 鹿(しか)原山(はらやま)山頂(さんちょう)付近(ふきん)辿(たど)()いたタカヤが(あた)りを捜索(そうさく)していると、そこには(ひと)一人(ひとり)がやっと()れるくらいの(ちい)さなUFOが(ひと)つありました。


 タカヤがUFOの(とびら)をノックしようとしたのと同時(どうじ)に、その(なか)から体長(たいちょう)三十(さんじゅう)センチくらいの深緑(ふかみどり)(いろ)ET(いーてぃー)がそろりと()てきました。


 (いつ)つある(ひとみ)()っすぐタカヤを()つめながら(からだ)(ふる)わせていて、ひどく(おび)えているようです。


「あ、あの……もしかして宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)さん、ですか……?」


「はい、そうです」


「ああ、すみません! もしかしなくてもアコリブニのことですよね……」


 深緑(ふかみどり)(いろ)ET(いーてぃー)はオロオロと()次々(つぎつぎ)(おお)きくしました。


「アコリブニはボクの故郷(こきょう)植物(しょくぶつ)でして……。最近(さいきん)(かず)()ってしまっていてどうにか(べつ)(ほし)でも(そだ)てられないかと(ため)したくなってしまったんです。ごめんなさい」


故郷(こきょう)植物(しょくぶつ)ということは……あなたはポポミル星人(せいじん)ですね」


「はい、そうです。あの……(あやま)っても(ゆる)してもらえませんよね。どうぞボクを宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)(おく)ってください」


 ポポミル星人(せいじん)抵抗(ていこう)する様子(ようす)()く、(かな)しそうに(からだ)()()します。


「いえ、そうでは()くて……」


 タカヤはコスモピースの(ちから)宿(やど)した(ひとみ)で、ポポミル星人(せいじん)()っている地面(じめん)()つめました。


「そこ、(なに)()めてますよね。おそらく……ポポミル(せい)生息(せいそく)する巨大(きょだい)怪獣(かいじゅう)、サークリスプの(たまご)じゃないですか?」


 ……ポポミル星人(せいじん)(いつ)つの目玉(めだま)(おお)きく見開(みひら)いてギロリとタカヤをにらみつけます。


「サークリスプの(たまご)植物(しょくぶつ)のように(つち)(なか)栄養(えいよう)吸収(きゅうしゅう)して(そだ)ちますから、アコリブニを周囲(しゅうい)()えてここに()えている植物(しょくぶつ)()らして栄養(えいよう)にしようとしていたんですよね?」


 地面(じめん)がグラグラと()(はじ)めます。


「あなたの……いえ、あなたたちの目的(もくてき)はここでサークリスプをふ()させてこの土地(とち)生物(せいぶつ)危害(きがい)(くわ)えて侵略(しんりゃく)(はか)ること。(ちが)いますか?」


正解(せいかい)です、なので」


 突然(とつぜん)タカヤを(かこ)むように十数(じゅうすう)(にん)のポポミル星人(せいじん)(しげ)みの(なか)から(あらわ)れたと(おも)うと、同時(どうじ)無数(むすう)のとげの()いたツルが地面(じめん)から()()しタカヤに(せま)ってきました。


宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)さんにはここで()えてもらいます」


 タカヤは(いそ)いで(まわ)りに被害(ひがい)()ないようシールドを()り、その(なか)にキラキラ()散布(さんぷ)しました。


「そんな悠長(ゆうちょう)なことをしていていいんですか?」


 ツルはぐるぐるとタカヤの(からだ)()()げながら()()き、手足(てあし)(から)めとって(うご)きを(ふう)じます。


 ポポミル星人(せいじん)たちは(うご)けないタカヤに()かって(なに)かの噴射(ふんしゃ)(こう)であろうノズルをまっすぐ()きつけました。


 ノズルの(うし)ろには(くろ)いチューブが()びて、それはポポミル星人(せいじん)たちが背負(せお)ったピンク(いろ)のガスが充満(じゅうまん)したボトルに(つな)がっています。


「このガスはプニプヨ(せい)植物(しょくぶつ)、モジェリの(はな)から(つく)りました。(わたし)たちには無害(むがい)ですが、あなたのような地球(ちきゅう)生物(せいぶつ)には猛毒(もうどく)なそうで……」


 ポポミル星人(せいじん)(いつ)つの()をバラバラにまばたきさせながら(つづ)けます。


「……ポポミル(せい)大気(たいき)汚染(おせん)深刻(しんこく)で、(わたし)たちが()めなくなるのも時間(じかん)問題(もんだい)なのです。ですからどうしても、(ほし)()仲間(なかま)たちのために気候(きこう)()(あたら)しい()(ほし)必要(ひつよう)なのです……(わる)(おも)わないでくださいね」


 そう()って()()せると


発射(はっしゃ)!」


 ピンク(いろ)のガスが一斉(いっせい)にタカヤに()けて()()けられました。




 ……タカヤは周囲(しゅうい)がピンクの(きり)()まる(なか)(ひと)(おお)きく深呼吸(しんこきゅう)をしてガスを()()むと、(ちい)さな(こえ)(つぶや)きました。


「ほんと、ショースケを()れてこなくてよかったよ……()()はあんまり()られたくないから」




 タカヤは(あか)(あお)(ほし)無数(むすう)()かぶ(ひとみ)(おも)()見開(みひら)くと、周囲(しゅうい)充満(じゅうまん)する(どく)ガスを(すべ)(からだ)()()せて()()んでしまいました。


 そしてその背中(せなか)から(なん)(ぼん)もの(くろ)触手(しょくしゅ)()()して、まるで(おお)きな(つばさ)のように対称(たいしょう)(てき)(ひろ)がります。


挿絵(By みてみん)


 触手(しょくしゅ)にはタカヤの(ひとみ)(おな)じように、おぞましいほどの(ふか)(くろ)(なか)にたくさんの(あか)(あお)(ひかり)()かんでいます。


 タカヤはその触手(しょくしゅ)自由(じゆう)自在(じざい)(あやつ)って、(なに)()こっているのかわからずうろたえているポポミル星人(せいじん)たちを次々(つぎつぎ)()らえていきます。


「ひ……っ、(たす)けて!」


 ()(まど)(すき)すら(あた)えず(すべ)てのポポミル星人(せいじん)触手(しょくしゅ)一本(いっぽん)ずつ()()けて()()げると、タカヤは体中(からだじゅう)にエネルギーをまとわせて、手足(てあし)(から)みついていたツルを(すべ)()かして地面(じめん)にゆっくりと()()ちました。


 (くる)しそうにもがくポポミル星人(せいじん)たちを触手(しょくしゅ)()らえたまま、タカヤは(すう)()(すす)んで地面(じめん)()をかざし、(つよ)衝撃(しょうげき)()発生(はっせい)させます。


 ボコンと(おと)()てて(つち)()ねて()(まえ)地面(じめん)(ふか)くえぐられると、その(なか)から(おお)きな水玉(みずたま)模様(もよう)(たまご)()てきました。


 タカヤは(あな)(そと)から触手(しょくしゅ)()ばして(たまご)にぐるぐる()()けて()()げると、()いている両手(りょうて)でエッグロケットを操作(そうさ)して本部(ほんぶ)強制(きょうせい)転送(てんそう)する準備(じゅんび)(はじ)めました。


「あなたたちが仲間(なかま)のためにこの(ほし)必要(ひつよう)なように、(おれ)にも(まも)りたいものがあるんです。……(わる)(おも)わないでくださいね」


 そう()うタカヤを()るポポミル星人(せいじん)たちは、()(もの)()るような(おび)えきった()をしています。


「あなたは……一体(いったい)(なん)ですか……あなたみたいな生物(せいぶつ)()たことが()い……」


 ポポミル星人(せいじん)一人(ひとり)が、ガタガタ(からだ)(ふる)わせながら(くち)(ひら)きました。


「……そうですね、(おれ)にもよくわかりません。でも」


 タカヤは数多(あまた)触手(しょくしゅ)(すべ)(いっ)(しょ)(あつ)めて(からだ)(まえ)()ってくると、転送(てんそう)準備(じゅんび)完了(かんりょう)して(うず)発生(はっせい)しているエッグロケットの銃口(じゅうこう)をポポミル星人(せいじん)たちに()けました。


「あなたたちの()っている地球(ちきゅう)人間(にんげん)でないことは(たし)かでしょうね」


 そう()って(すこ)(さみ)しそうに口角(こうかく)()げると、タカヤはエッグロケットのスイッチを(つよ)(にぎ)りました。



****



「ただいま」


 (そと)(くつ)(うら)についた(つち)をパンパン(はら)ってから、(おお)きな()(もの)(ぶくろ)()げたタカヤが(とびら)(ひら)くと……


 そこではショースケがトランプのジョーカーを(まえ)にして号泣(ごうきゅう)していました。


「うぇええええええん! なんで()てないのぉおおおお」


「ショースケ アマリニモ ワカリヤス スギル。モウ オワリニ サセテ」


 一体(いったい)(なに)連続(れんぞく)ババ()きをしていたのでしょう、ツバサはロボットなのに(つか)()って(よこ)たわっています。


「やだやだ! だってまだ()ってない! (ぼく)、ダッドには()けたことないんだよぉお……」


「ソレハ ショースケノ オトウサンガ ショースケニ アマイ ダケ ダヨ」


 そう()ったツバサはやっとタカヤに()()くと、触覚(しょっかく)をピーンと()ばして()()ってきました。


「タカヤタカヤタカヤ オカエリー! ヤット カエッテキタ。 モウ タイヘン ダッタンダヨ」


「ただいまツバサ、ショースケ。……どうもそうみたいだな」


 タカヤは(まゆ)()げてへにょりと(わら)います。


「あ、タカヤおかえり……(ぼく)のこと()いていったでしょ」


 ショースケはババ()きで()けまくったことも(あい)まってむすっとしています。


「ごめんごめん、気持(きも)ちよさそうに()てたから。ほら、お菓子(かし)()ってきたから一緒(いっしょ)()べよう」


「お菓子(かし)くらいで(ぼく)機嫌(きげん)()れると(おも)ったら……ってわぁシュークリーム(ぼく)これ大好(だいす)きタカヤありがとー!」


 ショースケはシュークリームを()()るとぴょんぴょん()ねて大喜(おおよろこ)びです。


「ショースケ アマリニモ カンタン スギル。ウチュウケイサツ トシテ スゴク シンパイ」


「う、宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)(いま)関係(かんけい)ないでしょ! (べつ)(わる)ET(いーてぃー)にお菓子(かし)もらったってついて()ったりしないんだから!」


「ホントカナー」


 ツバサは(うたが)いの()()けます。


「ほんとだよ! ねえタカヤ、(ぼく)いたって真面目(まじめ)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)だよね?」


「あはは……ショースケはいつも頑張(がんば)ってるよ」


 タカヤは冷蔵庫(れいぞうこ)()ってきた食材(しょくざい)()れるためキッチンへ()かいます。


 ……ふと、(はん)ズボンのすそが(つち)でべっとり(よご)れているのに()()きました。


 きっとポポミル星人(せいじん)相手(あいて)をしているときに()いたのでしょう。


 ショースケに気付(きづ)かれる(まえ)でよかったと、タカヤは水気(みずけ)(しぼ)った布巾(ふきん)(よご)れを(ぬぐ)いました。


「ねぇねぇタカヤー」


 (よご)れを(ぬぐ)()わったのと同時(どうじ)にショースケがキッチンへやって()ました。


夕飯(ゆうはん)材料(ざいりょう)()って()たんでしょ? (なに)()ったのー」


「えーっと、にんじんとたまねぎとじゃがいもとお(にく)と……今日(きょう)はカレーにしようと(おも)って。ショースケも一緒(いっしょ)(つく)らないか?」


「え、いいの? (つく)(つく)る! (ぼく)にんじんの(かわ)むき上手(じょうず)だねーってルルさんに()められたことあるんだよ」


挿絵(By みてみん)


 ショースケはにっこり(わら)って(あし)をその()でパタパタと()らします。


「そっか。じゃあにんじんはショースケに(まか)せようかな」


「やったあ! とびきり(おお)きめに()っちゃおうっと!」


 冷蔵庫(れいぞうこ)食材(しょくざい)()れて、テーブルの(うえ)甘口(あまくち)のカレールーを()いて、二人(ふたり)はキッチンを(あと)にしました。


「ねぇこの(あと)どうする? あ、ババ()きする⁉ タカヤになら()てるかも!」


「タカヤ ババヌキ チョウ ツヨイカラ ヤメトキナ ショースケ」


「う……ツバサがそう()うならやめとこうかな」


 さすがにもう()けを(かさ)ねたくないショースケは尻込(しりご)みします。


「それよりショースケ、(いま)のうちに宿題(しゅくだい)()ませとかないか? ほら、さっき(あと)でするって()ったろ」


「げ。そんなのあったね……ええっと……そうだ、シュークリーム! シュークリーム()べたらするよ!」


 ショースケは一足(ひとあし)(はや)くソファに(すわ)り、シュークリームの(ふくろ)()けます。


 (おお)きな(くち)(ひら)いて頬張(ほおば)り、(くち)(まわ)りにひげのようにクリームをつけたショースケを()て、タカヤは(こえ)()して(たの)しそうに(わら)いました。




 玄関(げんかん)()いてあるタカヤの(あか)(くつ)(うら)には、湿(しめ)った(やま)(つち)がまだべっとりとこびりついていました。


挿絵(By みてみん)

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