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第四話 みがわりスライムにお願い!

****


「うぇー、(つぎ)授業(じゅぎょう)算数(さんすう)かぁ。給食(きゅうしょく)(あと)授業(じゅぎょう)って(ねむ)くなるから(こま)るよ」


 掃除(そうじ)時間(じかん)()わって、タカヤとショースケは教室(きょうしつ)()かって(ある)いていました。


給食(きゅうしょく)(あと)じゃなくてもショースケはいつも(ねむ)そうだろ?」


 タカヤはちょっと(あき)気味(ぎみ)です。


 (さん)時間(じかん)()社会(しゃかい)でも、()時間(じかん)()国語(こくご)でも、タカヤは(うし)ろの(せき)からショースケの背中(せなか)をつんつんして()こしてあげたのでした。


「それはこの世界(せかい)面白(おもしろ)()ぎるのが(わる)いよ。()たいものも(つく)りたいものもたくさんあって一日(いちにち)二十四(にじゅうよ)時間(じかん)じゃとても()りないでしょ」


 ……ようするに(あそ)()ぎて夜更(よふ)かしした、ということでしょう。


「とにかく、今度(こんど)はちゃんと()きててくれよ?」


 タカヤは(まゆ)をしかめて(ねん)()します。


「んーまあ努力(どりょく)はするよ。ところで、昨日(きのう)(ひろ)ったのちゃんと(わた)した?」


「ううん、まだここのポケットに(はい)ってる。(あと)(わた)しとくよ」


 そんな何気(なにげ)ない会話(かいわ)をしていると……


 二人(ふたり)(あたま)(なか)にピリピリと(おと)()(ひび)きました。


 宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)から、この(とき)()()(ちょう)ET(いーてぃー)からの通報(つうほう)があったことを()らせる連絡(れんらく)でしょう。


 でもおかしいです。


 学業(がくぎょう)をおろそかにしてはいけないからと、二人(ふたり)学校(がっこう)()っている(あいだ)(はい)った通報(つうほう)にはいつもはライトさんが対応(たいおう)してくれています。


 それなのになぜ今日(きょう)二人(ふたり)通報(つうほう)(はい)ってきているのでしょうか。


 そう(かんが)えている(あいだ)にも(あたま)(なか)(おと)はピリピリと()りやみません。


 タカヤとショースケはひとまず、(まわ)りに(だれ)もいないことを確認(かくにん)してポケットの(なか)のエッグロケットを(にぎ)りました。


『タカヤ隊員(たいいん)、ショースケ隊員(たいいん)通報(つうほう)(はい)りました。場所(ばしょ)(とき)()()(たき)周辺(しゅうへん)現場(げんば)()かってください!』


「あのー……(いま)学校(がっこう)で」


 ショースケは状況(じょうきょう)説明(せつめい)しようとしましたが本部(ほんぶ)(いそが)しいのでしょう、返事(へんじ)をする(まえ)通話(つうわ)()れてしまいました。


「え、え、どうしよう⁉ (ぼく)今日(きょう)翻訳機(ほんやくき)()ってないのに! というかライトさんは⁉」


(なに)かあったのかな……ショースケのところに連絡(れんらく)(はい)ってないか?」


 ショースケはエッグロケットの(なか)()れておいたタブレットを()()します。


「あ、ルルさんから連絡(れんらく)(はい)ってる。えーっとなになに……?」


『ショースケさんとタカヤさんへ


 ライトさんは今日(きょう)のお(ひる)ごろお(こし)(いた)めてしまいました。


 ですのでしばらくの(あいだ)本部(ほんぶ)には通報(つうほう)があった場合(ばあい)二人(ふたり)連絡(れんらく)していただくよう(たの)んでおきました。


 (わたし)とメグは宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)ではないので、お二人(ふたり)()わりを(つと)めることができません。


 学業(がくぎょう)(いそが)しいところ(もう)(わけ)ありませんがよろしくお(ねが)いします」


「な、なるほど……お大事(だいじ)にして()しいな」


「ライトさんまた(こし)やったの⁉ 絶対(ぜったい)運動(うんどう)不足(ぶそく)だよ!」


 そうこう(はな)していると(うし)ろから(だれ)かの足音(あしおと)(ちか)づいて()たので、ショースケは大慌(おおあわ)てでタブレットをしまいます。


「あれ、まだここにいたのか。もうすぐ授業(じゅぎょう)(はじ)まるから(はや)教室(きょうしつ)(もど)りなよー」


 担任(たんにん)琴子(ことこ)先生(せんせい)(ひと)つに(しば)った(なが)(かみ)()らして(ある)きながら、二人(ふたり)(こえ)をかけました。


「は、はーい!」


 タカヤとショースケは苦笑(にがわら)いで返事(へんじ)をしながら、ほぼ同時(どうじ)にそれぞれのポケットの(なか)のエッグロケットを(にぎ)ってテレパシーを(おく)ります。


(とにかく、人目(ひとめ)につかないところに移動(いどう)しよう!)


(ぼく)(おな)じこと()おうと(おも)ってた!)


 二人(ふたり)精一杯(せいいっぱい)(はや)(ある)きで廊下(ろうか)(すす)んでいきました、その(とき)


「あ、おいタカヤ……」


 すれ(ちが)いざまにレンが(こえ)をかけようとしましたが、二人(ふたり)()()かず(よこ)(とお)()ぎていきます。


「……なんだよ」


 レンは面白(おもしろ)くなさそうに教室(きょうしつ)(もど)って()きました。



****



というわけで、二人(ふたり)人目(ひとめ)につかない場所(ばしょ)……トイレの一番(いちばん)(おく)個室(こしつ)にやってきました。


(さすがにもうちょっといい場所(ばしょ)なかったの⁉)


 ショースケは不満(ふまん)げです。


仕方(しかた)ないだろ、(ちか)くにあったのがここだったんだから。それより(はや)通報(つうほう)のあった場所(ばしょ)()かわないと!)


 タカヤはエッグロケットの(なか)から、なにやらドロドロした(みどり)液体(えきたい)(はい)った小瓶(こびん)(ふた)()()しました。


(なにそれ……スライム?)


(ショースケごめん、ちょっと我慢(がまん)してくれ)


 タカヤはそうテレパシーを(おく)ると、あろうことかショースケにその小瓶(こびん)中身(なかみ)一本(いっぽん)まるごとぶっかけました。


「うわあ⁉ (つめ)たっ、え、気持(きも)ちわる⁉」


 ショースケは突然(とつぜん)のことに(おも)わずテレパシーを(わす)れて(こえ)()てしまいました。


 その(あいだ)に、タカヤは自分(じぶん)にももう一本(いっぽん)(びん)中身(なかみ)をぶっかけます。


(なに)すんのタカヤ!」


(ショースケ(こえ)()てる! まあ()てて!)


()ててって()われても……あれ?)


 ショースケが自分(じぶん)(からだ)()てみると、(ふく)にも(かみ)にも(なに)もついていません。


 自分(じぶん)液体(えきたい)をかけたはずのタカヤも同様(どうよう)です。


 (なに)()こったのかわからず戸惑(とまど)うショースケの(あし)に、(つめ)たい(なに)かがピトっと()れました。


 (おどろ)いて(した)()くと、(さき)ほどかけられた液体(えきたい)(おな)緑色(みどりいろ)(なに)かがブルンブルンと()れながら次第(しだい)(おお)きくなっていきます。


(え⁉ なになに、ていうか(せま)い!)


 どんどん(ふく)らむ(なに)かに、トイレの個室(こしつ)はもうみちみちです。


 ショースケはあまりの(あつ)()()れず(いそ)いで個室(こしつ)(とびら)()けました。


(はー……(つぶ)れるかと(おも)った……)


 そう(おも)いながら個室(こしつ)(なか)()(かえ)ると……


 そこには自分(じぶん)ではないショースケが一人(ひとり)とタカヤが二人(ふたり)いました。


「じゃあここは(たの)んだ!」


 (おく)にいたタカヤがそう()うと、もう一人(ひとり)のタカヤともう一人(ひとり)のショースケは「了解(りょうかい)!」と返事(へんじ)をして、教室(きょうしつ)(ほう)(はし)って()きました。


 ショースケはわけがわからず()いた(くち)(ふさ)がりません。


「ごめんショースケ(あと)説明(せつめい)する! とりあえず(そと)()よう!」


 タカヤはエッグロケットからキラキラ()()()して自分(じぶん)たちに()りかけると、ショースケの()()いて(はし)(はじ)めました。



****



「ま、()って()って!」


 ()()かれながら、ショースケは校門(こうもん)付近(ふきん)でタカヤを()()めました。


「まさかあの(たき)まで(はし)っていく()……?」


 ショースケの体力(たいりょく)はトイレからここまで(はし)って()ただけでもう限界(げんかい)です。


「うん、そうだけど……」


無理(むり)だよ! ここから(たき)までどれだけあると(おも)ってるの!」


 想像(そうぞう)しただけでショースケの(かお)(あお)ざめていきます。


「そうだ、(まえ)みたいにタカヤがコスモピース使(つか)って()んでくれたらいいじゃん! あれならすぐに()いちゃうよ」


「あれは緊急(きんきゅう)手段(しゅだん)で……。それにたくさんエネルギーを使(つか)うから……」


「いいじゃんか、(いま)だって十分(じゅうぶん)緊急(きんきゅう)事態(じたい)でしょー!」


 ショースケは(らく)をするためなら簡単(かんたん)にコスモピースの(ちから)使(つか)わせようとするので(こま)ったものです。


 しかしタカヤも先日(せんじつ)ライトにコスモピースを『()()けて使(つか)う』と約束(やくそく)したばかりです、(なん)でもかんでも安易(あんい)使(つか)うわけにはいきません。


「とにかく、(いま)使(つか)わない! ほら(はし)るぞ! なんならおんぶするから」


「おんぶだけはやだ‼ ちょっと()ってわかったいいもの()すから!」


 そう()うとショースケはエッグロケットの(なか)から(おお)きな()(もの)()()()しました。


挿絵(By みてみん)


 キックボードのような外見(がいけん)をしたそれにはタイヤは()いておらず、(あし)をのせる(いた)二人(ふたり)余裕(よゆう)()れそうな(なが)さです。


「これはスカイボード。この(かん)倉庫(そうこ)()つけた、じーちゃんの(つく)った(そら)()()(もの)だよ。……あんまり使(つか)いたくなかったけど」


「なんで使(つか)いたくないんだ? 便利(べんり)そうなのに」


 タカヤは不思議(ふしぎ)そうに(くび)をかしげます。


「……燃料(ねんりょう)がちょっと貴重(きちょう)なもので(たか)くてね。(ぼく)のお財布(さいふ)(なか)のお(かね)なんてポンと()んじゃうんだよ」


 なるほど、使(つか)いたくないのも納得(なっとく)理由(りゆう)です。


「そっか。ショースケのお(かね)大事(だいじ)だし、やっぱり(おれ)がおんぶして」


「いやいや使(つか)う! 使(つか)わせてください!」


 ショースケは(あわ)ててスカイボードのスイッチを()れました。


 スカイボードはぼんやりと(ひか)りながら(すこ)しだけ空中(くうちゅう)()かび、どこかからピコピコと(おと)()てます。


 ()()()(なか)にある(まる)透明(とうめい)なパーツの(なか)黄色(きいろ)くてやわらかそうなかけらが(はい)っており、おそらくこれがショースケの()っていた貴重(きちょう)燃料(ねんりょう)でしょう。


「さ、燃料(ねんりょう)がもったいないから(はや)()って!」


 二人(ふたり)(いた)(うえ)()ると、スカイボードはさっきまでいた校舎(こうしゃ)見下(みお)ろせるほど(たか)くまっすぐ()かび()がりました。


(ぼく)(かた)にしっかりつかまっててね、じゃあ出発(しゅっぱつ)進行(しんこう)―!」


 ショースケがハンドルをぎゅっとひねると、スカイボードは(おお)(そら)自由(じゆう)()(はじ)めました。


 速度(そくど)はスクーターと(おな)じくらいでしょうか。


「まあ(ぼく)(はし)るよりはよっぽど(はや)いでしょ」


「ショースケは本当(ほんとう)にすごいものいっぱい()ってるよな。燃料代(ねんりょうだい)(おれ)()すから(あと)(おし)えてくれよ」


「いいけど多分(たぶん)びっくりするよ? そうだところで」


 ショースケはしかめ(つら)でタカヤの(ほう)()(かえ)りました。


 ()きたいことは十中八九(じゅっちゅうはっく)(さき)ほどの緑色(みどりいろ)のドロドロの液体(えきたい)のことでしょう。


「ああ、説明(せつめい)せずに使(つか)ってごめんな」


「まったく、タカヤっていつも(ぼく)()(まえ)(うご)くから(こま)るよ」


 そんなショースケも先日(せんじつ)(なに)()わずにタカヤを(あたら)しい発明(はつめい)(ひん)実験台(じっけんだい)にしたばかりですが、自分(じぶん)のことは(たな)()げます。


「ごめんごめん、あれは『みがわりスライム』っていう道具(どうぐ)だよ。宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)のある(ほし)()っておいたんだ」

「へー! つまり(ぼく)たちのみがわりを(つく)って授業(じゅぎょう)()わりに()けさせてるってことか。なにそれすっごく便利(べんり)じゃん!」


 勉強(べんきょう)(ぎら)いのショースケにとってなんて魅力(みりょく)(てき)道具(どうぐ)なんでしょう。


「……もちろん(あと)で、()けなかった(ぶん)授業(じゅぎょう)範囲(はんい)一緒(いっしょ)勉強(べんきょう)しような?」


 有無(うむ)()わさぬ笑顔(えがお)()かべて、タカヤは(すこ)(つよ)くショースケの(かた)(にぎ)りました。


「う、わかったよ……」


 こういう(とき)のタカヤは頑固(がんこ)なので(さか)らわないが(きち)です。


「それにしてもすごい道具(どうぐ)だね『みがわりスライム』。(こえ)まで(ぼく)らにそっくりだったよ」


 ショースケが運転(うんてん)()れてないからか、スカイボードは少々(しょうしょう)ぐらぐら()れながら(そら)(すす)んでいきます。


「そうだろ? (こえ)だけじゃなくて、行動(こうどう)とか性格(せいかく)とかもオリジナルの(おれ)たちと(おな)じように変身(へんしん)してくれるんだ。ただ(ひと)つだけ欠点(けってん)があって……」


 タカヤは()いにくそうに(つづ)けます。


変身(へんしん)しているものと(おな)じもの……今回(こんかい)人間(にんげん)(さわ)られると変身(へんしん)()けちゃうんだ」


「え、それって結構(けっこう)マズいんじゃない?」


 教室(きょうしつ)にはクラスメイト(たち)先生(せんせい)がいるのですから、偶然(ぐうぜん)(さわ)られたっておかしくありません。


「うん。だからあのスライムたちには『人間(にんげん)()れそうになったら、なんとしても(さわ)られないようお(たが)いに努力(どりょく)すること』ってお(ねが)いしてあるんだ」


「な、なるほど……それなら安心(あんしん)、かなあ……」


 ショースケは若干(じゃっかん)不安(ふあん)になってきました。


「まあ(さわ)られる機会(きかい)なんてそうないだろうから……とにかく(はや)現場(げんば)()かおう!」



****



 ところ()わってここは四年生(よねんせい)教室(きょうしつ)


 みがわりスライムの二人(ふたり)……タカヤ2とショースケ2は()時間(じかん)()算数(さんすう)授業(じゅぎょう)()けておりました。


 タカヤ2はオリジナルのタカヤと(おな)じように真面目(まじめ)授業(じゅぎょう)()きながら、たくさん()()げて発表(はっぴょう)しています。


 問題(もんだい)全問(ぜんもん)正解(せいかい)、ノートも整理(せいり)されていて()綺麗(きれい)です。


 そしてショースケ2はもちろん、オリジナルのショースケと(おな)じように……


 (つくえ)()()してよだれを()らしながら(ばく)(すい)していました。


 その様子(ようす)教室(きょうしつ)(ない)のどの(せき)から()ても()ているとわかるほどです。


 タカヤ2は仕方(しかた)なく(うし)ろから、(まえ)(せき)のショースケ2の背中(せなか)鉛筆(えんぴつ)でつつこうとしました。


 その(とき)


「ショースケまた()てるのかー? じゃあ(よこ)(せき)の……(さくら)、ちょっと()すって()こしてやってくれないか?」


 琴子(ことこ)先生(せんせい)()ているショースケに()()いて()いました。


「わかりました、先生(せんせい)


挿絵(By みてみん)


 (さくら)()()ばしてショースケに()れようとします。


 (だい)ピンチです! このままでは変身(へんしん)()けてしまいます。


 タカヤ2は咄嗟(とっさ)()()がり(さけ)びました。


「ま、()った‼」


 いつも大人(おとな)しいタカヤが突然(とつぜん)大声(おおごえ)()したので、教室(きょうしつ)(なか)はしーん……と(しず)まり(かえ)りました。


「ど……どうした、タカヤ。(なん)かあったか……?」


 先生(せんせい)もびっくりしています。


 (さくら)もショースケを()すろうとした()空中(くうちゅう)()かせたまま(かた)まっています。


「え、えーと……(おれ)が! ショースケを()こしてもいいですか⁉」


 どう(かんが)えてもめちゃくちゃ(へん)(もう)()です。


「いや、いいけど……そんなに()こしたいか……?」


 先生(せんせい)困惑(こんわく)しています。


「はい、すっごく! (おれ)()こすの大好(だいす)きなんです!」


 ここで()くわけにはいきません、タカヤ2はヤケクソで()(はな)ちました。


「じゃあ……タカヤ()こしてやってくれ」


 先生(せんせい)(みょう)(あたた)かい()でタカヤ2を()つめました。


「タカヤくんそんなに()こすの()きなんだね、はいどうぞ」


 (さくら)(もう)(わけ)なさそうに()ばしていた()(ひざ)(うえ)(もど)します。


 クラス(じゅう)視線(しせん)(そそ)がれる(なか)、タカヤ2は(かお)()()にしながらショースケ2の(よこ)()ちました。


 この状態(じょうたい)でも()きる気配(けはい)微塵(みじん)もありません。


 ()ずかしいやら腹立(はらだ)たしいやら、煮えくり(にえくりかえ)るような(おも)いを()めて、タカヤ2はショースケ2の(かた)(つよ)めにひっぱたきました。


 ……(すこ)(はな)れた(せき)のレンはその様子(ようす)をひどく不機嫌(ふきげん)(なが)めていました。



****



 そんなことが()きているとはつゆ()らず、オリジナルの二人(ふたり)(とき)()()(たき)到着(とうちゃく)しました。


「よし、()いたー! ってあれ」


 到着(とうちゃく)すると同時(どうじ)にスカイボードからは(ひかり)()えて、()かんでいた機体(きたい)地面(じめん)にぺたりとついてしまいました。


「うわー、ちょうど燃料(ねんりょう)()れみたい」


 (たし)かに(まる)透明(とうめい)なパーツの(なか)(から)になっているようです。


「ってことは(かえ)(ある)きじゃん! ええ……しんど……」


 ショースケはもう(かえ)りのことに(おも)いを()せています。


(あと)のことは(あと)(かんが)えよう。ほら、とりあえず通報者(つうほうしゃ)(さが)すぞ」


 タカヤはうずくまるショースケを()()って()たせると、(あた)りをキョロキョロと()(まわ)(はじ)めました。



「すみませーん、宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)です(おそ)くなりましたー」


 ショースケが(おお)きな(こえ)()びかけると、タカヤが(なに)かに反応(はんのう)して岩場(いわば)(ちか)づいていきます。


 しゃがみこんで(なに)やら(しゃべ)っているタカヤの(うし)ろからショースケが(のぞ)いてみると


 ……そこにはプリップリの黄色(きいろ)(からだ)をしたET(いーてぃー)がピカピカ(からだ)(ひか)らせながら、(いわ)同士(どうし)隙間(すきま)にギチギチに()まっていました。


 (こえ)では()(からだ)(ひか)らせて言葉(ことば)表現(ひょうげん)するタイプのET(いーてぃー)のようですが、翻訳機(ほんやくき)装着(そうちゃく)していないショースケにも()いたいことはなんとなくわかります。


「ショースケ、このET(いーてぃー)さんなんだけど()()()してほしいらしい」


「うん、大丈夫(だいじょうぶ)()かなくてもわかるよ」


 とりあえずショースケは(いわ)からはみ()しているET(いーてぃー)(からだ)一部(いちぶ)(つか)んで()()ってみました。


 びくともしません。


「え⁉ 全然(ぜんぜん)()けないんだけど!」


 ショースケは(あし)()()りながら(おも)()()()りますが、ET(いーてぃー)のプリプリの(からだ)がちょっと()びてしまってますます()けません。


「ショースケ、ストップ! ET(いーてぃー)さん(いた)がってる!」


 (からだ)をビカビカ点滅(てんめつ)させているET(いーてぃー)()ながらタカヤは(あわ)てています。


「ちょっと(いた)いくらい我慢(がまん)して!」


 ショースケはもう一度(いちど)()()りますがやっぱり()けず、仕方(しかた)なく()(はな)しました。


 どうやらET(いーてぃー)のプリプリのやわらかい(からだ)が、(いわ)(あいだ)(かたち)()えてパズルのようにピッタリとはまってしまっているようです。


「タカヤなんかいい方法(ほうほう)ない? 今度(こんど)こそコスモピース使(つか)うとか」


「いや、コスモピースの(ちから)使(つか)ったら多分(たぶん)この岩場(いわば)全体(ぜんたい)(こわ)しちゃうから。(ほか)(まった)方法(ほうほう)がないとき以外(いがい)(とき)()()(ちょう)(もの)(こわ)したらダメって本部(ほんぶ)()われてるだろ」


 今度(こんど)はタカヤがET(いーてぃー)(からだ)()()りますがやっぱり()けません。


「ショースケこそなんか使(つか)えそうなもの()ってないか?」


「ええ……ET(いーてぃー)()っこ()道具(どうぐ)なんて(かんが)えたことないよ。強制(きょうせい)転送(てんそう)(わる)いことしたわけじゃないから使(つか)えないし……」


 二人(ふたり)はとりあえず使(つか)えるものがないかエッグロケットの(なか)をこれでもかと(さぐ)りました。


「お、これはどうだ?」


 タカヤのエッグロケットから()てきたのは、ショースケの(いえ)にもある(いた)って普通(ふつう)石鹸(せっけん)です。


「なんでそんなの()れてるの?」


 ショースケは怪訝(けげん)そうな(かお)をしました。


「いや、この(まえ)依頼(いらい)(つち)()仕事(しごと)があっただろ? ()わった(あと)にショースケが()(つち)まみれのまま(かえ)ろうとするから()っておかないと、と(おも)って……」


「えー、(つち)くらいペペって(はら)っておけばいいんじゃないの?」


「ダメだ、そんなんじゃまたお(なか)こわすぞ。とにかく! これを(みず)()かして石鹸(せっけん)(すい)(つく)って、ET(いーてぃー)さんにかけて(すべ)りを()くするのはどうかな?」


 なんだか宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)とは(おも)えない原始(げんし)(てき)作戦(さくせん)ですが、(ほか)(あん)もありません。


 タカヤとショースケは(いそ)いで()()石鹸(せっけん)(すい)(つく)りました。


ET(いーてぃー)さん、ちょっと(つめ)たいけど我慢(がまん)してくださいねー」


 タカヤが(やさ)しく(こえ)をかけて(いわ)隙間(すきま)石鹸(せっけん)(すい)(なが)()れると、ET(いーてぃー)(からだ)(いま)まで以上(いじょう)にビカビカと(せわ)しなく(ひか)(はじ)めました。


ET(いーてぃー)さん⁉ どうしましたか……え、()にすごくしみる⁉」


 どうやら二人(ふたり)から()えない(いわ)隙間(すきま)にあったET(いーてぃー)()石鹸(せっけん)(すい)(おも)いっきり(はい)ってしまったようです。


「ごめんなさい(いま)()してあげますから! ()くぞショースケ、せーの!」


 二人(ふたり)同時(どうじ)ET(いーてぃー)(からだ)()って(おも)()()()ります。


 ET(いーてぃー)()(いた)いし(からだ)(いた)いしでビカビカ(まぶ)しく(ひか)っていますが、こっちも(ちから)()くわけにはいきません。


「まったく、なんでこんなことになったの! 隙間(すきま)(なに)()としちゃって()りたかったとか⁉」


 全力(ぜんりょく)ET(いーてぃー)()()りながらショースケはプリプリ(おこ)っています。


「いやなんか自分(じぶん)(からだ)のやわらかさに自信(じしん)があったらしくて、どこまでいけるか(ため)してたら()けなくなったらしい」


(なに)そのしょうもない理由(りゆう)!」


「とにかく、もう一回(いっかい)同時(どうじ)()()るぞ! せーの!」


 二人(ふたり)(ちから)()れた瞬間(しゅんかん)


 ブチ、と(いや)(おと)がしました。


 ……二人(ふたり)(おそ)(おそ)()(なか)(ひら)いて()ると、ET(いーてぃー)(からだ)一部(いちぶ)がそこにはありました。


「うそ、ちぎれた……?」


「ち、ちぎれ……た……」


「「ちぎれたあ⁉」」


挿絵(By みてみん)


 二人(ふたり)はもう(だい)パニックです。


「うそうそどうしよう⁉ これくっつくかな⁉」


 ショースケはちぎれた欠片(かけら)()ったままオロオロしています。


ET(いーてぃー)さんごめんなさい大丈夫(だいじょうぶ)ですか! いや大丈夫(だいじょうぶ)じゃないですよね⁉」


 タカヤが(いそ)いでET(いーてぃー)(ほう)()(かえ)ると……


 ET(いーてぃー)(からだ)何事(なにごと)もなかったようにすっかり再生(さいせい)していました。


 呆気(あっけ)にとられている二人(ふたり)()けて、(からだ)をピカピカ(ひか)らせて(なに)かを(うった)えています。


「……あ、ちぎられてかなり(いた)かった……? すみません……」


 タカヤが(あやま)っている(よこ)で、ショースケはタブレットを()りだしこのET(いーてぃー)について調(しら)(はじ)めました。


「あった、プレルサイ星人(せいじん)(からだ)はやわらかく、ちぎれてもすぐに再生(さいせい)する。細胞(さいぼう)()()わるように定期(ていき)(てき)(からだ)一部(いちぶ)()れるため、その欠片(かけら)有効(ゆうこう)活用(かつよう)されている……って()いてあるよ」


「そうなんだ……()(かえ)しのつかないことしちゃったかと(おも)った」


 タカヤはとりあえず(むね)()でおろしました。


「あ、まだ(つづ)きがある。なになに……ちなみに(からだ)一部(いちぶ)再生(さいせい)する(さい)にはプリプリの(からだ)にたっぷり(たくわ)えられたエネルギーを使(つか)うため、(からだ)全体(ぜんたい)(すこ)(ほそ)くなる……」


(ほそ)くなる……ってことは」


 二人(ふたり)ET(いーてぃー)とちぎれた欠片(かけら)交互(こうご)()つめました。


(いま)なら()けるかも!」



 二人(ふたり)ET(いーてぃー)再生(さいせい)した部分(ぶぶん)(つか)み、再度(さいど)(おも)()()()りました。


 ちぎれて(すこ)(ほそ)くなったであろう(からだ)石鹸(せっけん)(すい)(すべ)りがよくなっていることも(あい)まって、どうも(さき)ほどまでより()まりがゆるくなったようです。


 しかしそれでも見事(みごと)(はさ)まった(からだ)簡単(かんたん)には()けません。


「だめだ()けない! タカヤちょっと事情(じじょう)説明(せつめい)してもっとちぎっていいか()いて!」


「ええ⁉」


 タカヤは(くち)ごもりながらET(いーてぃー)(はな)しました。


 そりゃいくら(たす)けるためとはいえ、『あなたの(からだ)をちぎっていいですか』とは()きにくいです。


 ET(いーてぃー)はピカピカピカと(からだ)()(かい)(ひか)らせました。


「できるだけ(いた)くないようにしてほしい、ですか……。が、頑張(がんば)ります……」


 タカヤは(すこ)()()らしながら曖昧(あいまい)返答(へんとう)をしました。


「ショースケ、やさしくちぎって()しいらしい……」


(なに)(あま)いこと()ってんの、(おも)()()()らなきゃちぎれないんだから(やさ)しくなんかできるわけないじゃん」


 ショースケは真顔(まがお)ET(いーてぃー)(いわ)からはみ()部分(ぶぶん)をむんずと(つか)みました。


 ET(いーてぃー)はその(つか)(かた)から(なに)かを(さっ)したのか、(からだ)(ひか)らせて(あわ)(はじ)めます。


「ほら、タカヤもこっち()って。ちぎるよ、せーの!」


「うわああET(いーてぃー)さんごめんなさい‼」




 ……そのまま()(ろく)(かい)ちぎったでしょうか。


 すっかり(ほそ)くなったET(いーてぃー)はぬるりと(いわ)隙間(すきま)から()てきました。


「や……やっと()けた……」


 ショースケはもう疲労(ひろう)困憊(こんぱい)です。


 ETもかなり(つら)かったのでしょう、プルプル(ふる)えながら弱弱(よわよわ)しく(ひか)りました。


「あ、はい……もう無茶(むちゃ)はしないでくださいね。あれはあげる……? え、これですか⁉」


 ET(いーてぃー)二人(ふたり)がたくさんちぎった(からだ)欠片(かけら)全部(ぜんぶ)くれるそうです。


「それなりに貴重(きちょう)なものなんですか……ありがとうございます……」


 二人(ふたり)がどうしたものかと欠片(かけら)()つめる(なか)ET(いーてぃー)はとぼとぼと(かえ)って()きました。


「……(おれ)たちも(かえ)るかショースケ」


「そうだね……ってそうだ、スカイボードの燃料(ねんりょう)()くなったんだった……」


 こんなに(つか)れているのにここから(ある)いて(かえ)らなければならないなんて、体力(たいりょく)のないショースケには地獄(じごく)のようです。


燃料(ねんりょう)()わなきゃいけないし……宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)って(からだ)にもお財布(さいふ)にもほんと過酷(かこく)だよ」


「その燃料(ねんりょう)(おれ)今度(こんど)(さが)しとくよ。名前(なまえ)なんていうんだ?」


「ああ、えーと……プレルサイメントって()うんだけど……ん?」


 どうも最近(さいきん)どこかで()いたような(ひび)きです。


「プレルサイ……プレルサイってもしかしてこれ⁉」


 ショースケとタカヤは、半分(はんぶん)ずつ()って(かえ)ろうとしていた(さき)ほどのET(いーてぃー)欠片(かけら)をエッグロケットから()()しました。


 黄色(きいろ)くてやわらかくて、(たし)かに()()はそっくりです。


 ショースケがおそるおそる透明(とうめい)なパーツの(なか)欠片(かけら)(ひと)()れてみると、スカイボードはぼんやりと(ひか)りながら空中(くうちゅう)()かびました。


「わ、(うご)いた! この燃料(ねんりょう)すごく(たか)いんだよ! いっぱいちぎった甲斐(かい)があったね、タカヤ!」


「ええと……そうなの、かな……?」


 大喜(おおよろこ)びのショースケといまいち手放(てばな)しで(よろこ)べないタカヤを()せて、スカイボードは学校(がっこう)()けて大空(おおぞら)()(はじ)めました。



****



 オリジナル二人(ふたり)(たき)(あと)にして(すこ)()った(ころ)


 タカヤ2は無事(ぶじ)学校(がっこう)()わったことに安堵(あんど)していました。


 今日(きょう)()時間(じかん)()までしかなかったのでとってもラッキーです。


 ……問題(もんだい)()えばあの授業(じゅぎょう)(あと)先生(せんせい)()ばれて「なにかあったら相談(そうだん)()るぞ」と心配(しんぱい)そうに()われたことくらいでしょうか。


 (だれ)かに(さわ)られそうになる(まえ)(はや)(かえ)ろうと、(いそ)いでランドセルを背負(せお)っていると(となり)(せき)のミオから(こえ)をかけられました。


「いやーそれにしても面白(おもしろ)かったなー、まさかタカヤが(ひと)()こすのがそんなに()きなんて()らなかったよー」


 ミオはニヤニヤしながらタカヤを()ました。


「え、タカヤそんな趣味(しゅみ)があったの?」


 (なに)()らないショースケ2がのんきに(わら)っています。


 (いま)にも(くち)から()()しそうな「(だれ)のせいだと(おも)ってるんだ」の言葉(ことば)必死(ひっし)()()んで、タカヤ2はそうなんだよーと複雑(ふくざつ)そうに(わら)いました。


 さてさて、(はや)くショースケ2も()れてここを(はな)れなくては。


「さあショースケ(かえ)るぞ!」


 タカヤ2のその言葉(ことば)にミオはとっても不思議(ふしぎ)そうです。


「あれ? タカヤとショースケって(いえ)方向(ほうこう)(ぎゃく)なのに今日(きょう)一緒(いっしょ)(かえ)るの?」


 そうでした、二人(ふたり)はいつもは一緒(いっしょ)(かえ)ってないのでした。


 タカヤ2は(なに)()(わけ)(しぼ)()します。


「え、えーと……ショースケのおうちの(ひと)(いえ)においでって()われてるんだ」


「へー、家族(かぞく)ぐるみの(なか)なんだー。それは一大事(いちだいじ)だね、ねぇレン……レン?」


 (はなし)()られたレンはいつもと(ちが)って元気(げんき)がありません。


「タカヤは……今日(きょう)はおれと(かえ)らないのかよ」


 レンがぽそりとつぶやきます。


「あ、うん。ごめん()うのが(おそ)くなって」


「……(べつ)にいいけど」


 ぎゅっと(まゆ)をしかめて、レンはうつむいてしまいました。


 (すこ)()になりますが、(いま)(さわ)られないようここを(はな)れることが(さい)優先(ゆうせん)です。


「じゃ、じゃあ(おれ)たち(かえ)るな! また明日(あした)!」


 タカヤ2はショースケ2を()れて教室(きょうしつ)出口(でぐち)()かおうとします。


 その(とき)


 レンはタカヤ2の(かた)になにかゴミが()いているのに()()きました。


「あ、タカヤ。(なん)かついて……」


 そう()いながら()ばしたレンの()を……


 タカヤ2は咄嗟(とっさ)(おも)()()けてしまいました。



 レンは()(おお)きく見開(みひら)いて(かた)まっています。


「あ、レンごめん……」


「なんだよ……」


 (こえ)(ふる)わせながら、レンの()からは大粒(おおつぶ)(なみだ)がボロボロとこぼれ(はじ)めました。


「なんでそんなに()けるんだよぉおお……」


 教室(きょうしつ)(のこ)っていたクラスメイト(たち)がざわめきます。


「え、レン(なに)()かなくていいじゃん! ほらよしよし!」


 ミオが必死(ひっし)背中(せなか)をさすります。


「どうしたのレン⁉ なんかあった?」


 そこに(いそ)いでカズもやってきて、レンの(まわ)りをうろうろ(うご)(まわ)りました。


挿絵(By みてみん)


「なんだよ、タカヤは……ショースケが転校(てんこう)してきてからショースケばっかりだ! おれのこときらいになったのかよお……」


 レンは(いま)まで我慢(がまん)していた(ぶん)言葉(ことば)(なみだ)もなかなか()められません。


「えーっと、つまり(ぼく)にヤキモチ()いてるってこと?」


 どうしていいかわからず(こま)っているタカヤ2の(よこ)で、ショースケ2は冷静(れいせい)分析(ぶんせき)します。


「そういうことだねー、なんかごめんねショースケ。レンはショースケが転校(てんこう)してくる(まえ)本当(ほんとう)にタカヤといつも一緒(いっしょ)だったから」


 何故(なぜ)かミオが()わりに(あやま)ります。


「レンってタカヤのこと大好(だいす)きだもんね」


 カズの発言(はつげん)にクラスメイト一同(いちどう)はうんうんと(ふか)(うなづ)きました。


「べ、(べつ)()きじゃねーし! ヤキモチでもねえもん……!」


 レンは()()()にしながら抗議(こうぎ)しますが、どう(かんが)えても純度(じゅんど)(ひゃく)パーセントのヤキモチです。


 (はなし)()きながらショースケ2は()()せました。


「…いや、(ぼく)(わる)いよ」


 深刻(しんこく)そうな(かお)つきで、(ひたい)()()ててショースケ2は(つづ)けます。


(ぼく)(あふ)れんばかりの魅力(みりょく)才能(さいのう)がタカヤすらも()()けて(はな)さないってことでしょ。そこは本当(ほんとう)にごめん、(あやま)るよ」


 ……真剣(しんけん)()をしているショースケ2にみんなは一体(いったい)(なん)()ったらいいのかわかりません。


 予想外(よそうがい)(こた)えにレンもさすがに(なみだ)がちょっと()()みました。


「だからヤキモチに(かん)してはちょっと(あきら)めてもらうしかないんだけ、ど!」


 ショースケ2はずいっとレンに(かお)(ちか)づけました。


「タカヤがレンのこと(きら)いなんてそんなわけないじゃん! ちょっとここで()っててよ!」


 そう()ってショースケ2はタカヤ2の(うで)(つか)むと、教室(きょうしつ)()()して自分(じぶん)たちが変身(へんしん)したトイレの個室(こしつ)()()みました。



 そこには(たき)から(もど)って()たばかりのオリジナルの二人(ふたり)がすでに(はい)っていました。


(おれ)たちの()わり(つと)めてくれてありがとう。(たす)かったよ!」


「お(れい)()ってる場合(ばあい)じゃないよ、オリジナル」


 ショースケ2がしょんぼりしているタカヤ2の()わりに事情(じじょう)説明(せつめい)すると、オリジナルのタカヤはすぐに状況(じょうきょう)理解(りかい)したようです。


「ごめんショースケ、みがわりスライムたちを(びん)(もど)しておいてくれるか」


「わかったよ……昨日(きのう)のやつ、ちゃんと(わた)しておいでね」


 ショースケにスライムたちが(はい)っていた小瓶(こびん)(あず)け、専用(せんよう)(くすり)でキラキラ()()としてタカヤは教室(きょうしつ)()かいます。



「おまたせ、レン」


 教室(きょうしつ)(はい)るやいなや、タカヤはレンの右手(みぎて)両手(りょうて)(やさ)しく(つつ)んで(にぎ)りました。


「さっきは()けちゃってごめん、(きゅう)なことでびっくりしちゃって……」


 タカヤはレンの(ひとみ)をまっすぐ()つめています。


 突然(とつぜん)のことにレンはドギマギして、()()()らした()左右(さゆう)にキョロキョロと(うご)かしました。


(おれ)さ、レンに(わた)したいものがあるんだ」


 タカヤは制服(せいふく)(ひだり)ポケットから、綺麗(きれい)なハンカチに(つつ)まれた、(しろ)(せん)(はい)った(あか)くて(まる)(いし)()()して、(にぎ)ったままのレンの右手(みぎて)にのせました。


「レン(めずら)しい(いし)(あつ)めてるだろ? これさ、昨日(きのう)川辺(かわべ)()つけたんだ。(おれ)こんな(いし)()たことなかったからレンにあげたら(よろこ)ぶんじゃないかと(おも)って」


 レンはつやつや(ひか)(いし)()()(かがや)かせたいところなのですが、ずっと(にぎ)られたままの右手(みぎて)(ほう)がよっぽど()になってドキドキして()()けません。


 そばにいたカズが(よこ)から興味津々(きょうみしんしん)(いし)()つめました。


「ねえねえタカヤ、もしかしてさっき教室(きょうしつ)()()ったのはこの(いし)()りに()ってたの?」


「え、……そうだよカズ! 掃除(そうじ)場所(ばしょ)理科室(りかしつ)()(わす)れちゃって……」


 この(いし)はずっとポケットの(なか)(はい)っていたので本物(ほんもの)のタカヤしか()っておらず、タカヤ2には(わた)すことができなかったのです。


「……(おれ)はショースケのことも大事(だいじ)だけど、レンのことももちろんすっごく大事(だいじ)だよ。(かな)しい(おも)いさせてごめん」


 タカヤは今度(こんど)はレンの両手(りょうて)自分(じぶん)両手(りょうて)でしっかり(つつ)()み、()てられた子犬(こいぬ)のような()をキラキラさせながらレンの(かお)(のぞ)()んで()いました。


「なあレン、やっぱり……まだ(ゆる)せない?」


「わ、わかった‼ (ゆる)す、(ゆる)すから……そろそろ()(はな)して……」


 レンはもうキャパシティオーバーしているようで、(かお)()()っかにしながら()()りそうな(こえ)()しました。


「あ、ごめん!」


 タカヤが(あわ)ててパッと()(はな)すと、自分(じぶん)でお(ねが)いしたのにレンはちょっと(さび)しそうです。


「えっと……(いし)、ありがとな……」


 タカヤの(かお)()られないまま、レンはぽつりと(つぶや)きます。


「うん、どういたしまして! レンが(よろこ)んでくれて(うれ)しいよ」


 そう()ってにこりと(わら)うタカヤが()(はし)(うつ)って、レンはまた一段(いちだん)(つよ)くタカヤから()()らしました。



 (なご)やかな空気(くうき)(もど)って()教室(きょうしつ)に、諸々(もろもろ)()ませたショースケが(あし)()()れます。


「おー、仲直(なかなお)りしたみたいでよかったよかった」


「お、おいショースケ……」


 レンは()いにくそうにもごもごと(くち)(ひら)きました。


「その……(わる)かったよ……ごめん」


「え? (べつ)(いち)ミリも()にしてないからいいけど」


 ショースケはあっけらかんとしています。


「なっ……ちょっとくらいは()にしろよ!」


 それはそれでちょっと(さみ)しいのか、レンはプリプリとふてくされました。


(ぼく)()にして()しいならもっとビッグな人間(にんげん)にになることだね」


 ふふん、と(はな)(わら)ったショースケにレンはさらに()()がります。


「あの二人(ふたり)ってなんだかんだいい友達(ともだち)になりそうだよねー」


「ね、(なん)だか()てるかも!」


 ミオとカズは()()二人(ふたり)()(たの)しそうに(わら)っています。


「そうだな。そうなってくれると(おれ)(うれ)しいよ」


 タカヤも(いと)おしそうに、そんな(にぎ)やかな友達(ともだち)たちを()つめていました。



 そしてタカヤは翌日(よくじつ)授業(じゅぎょう)(ちゅう)()ているショースケを()こすようにと(こと)()先生(せんせい)から(みょう)(あたた)かい()指名(しめい)され、理由(りゆう)がわからず困惑(こんわく)するのでした。

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― 新着の感想 ―
岩からETさんを引っこ抜くシーン、全員が可愛くて思わずニヤけてしまいました笑 そのあとの学校のシーンも、みんなすごく可愛くて…! 今日は微笑ましい気分で眠ることができそうです!
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