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特別短編1 タカヤの朝

****


 時刻(じこく)は朝(あさ)六(ろく)時(じ)。


 空(そら)はうっすらと明(あ)けてきて少(すこ)し開(ひら)いた窓(まど)から小鳥(ことり)たちの声(こえ)が聞(き)こえます。


 キッチンにだけ点(つ)いた明(あ)かりの下(もと)では、包丁(ほうちょう)がまな板(いた)に当(あ)たるトントンという小気味(こきみ)よい音(おと)が響(ひび)いていました。


 コンロにかけてある片手(かたて)鍋(なべ)からフツフツと泡(あわ)が立(た)ち上(のぼ)ると、タカヤは火(ひ)を消(け)して冷蔵庫(れいぞうこ)から味噌(みそ)を取(と)り出(だ)します。


 スプーンですくった味噌(みそ)を鍋(なべ)の中(なか)に溶(と)かし、そのスプーンのまま汁(しる)をすくってふーふーと少(すこ)し冷(さ)ましてから口(くち)に入(い)れると、タカヤは満足(まんぞく)そうに口角(こうかく)を上(あ)げました。


「うん、おいしい」


 一人(ひとり)分(ぶん)の味噌汁(みそしる)をお椀(わん)によそいテーブルへ運(はこ)ぶと、向(む)かいの席(せき)にはロボットのツバサが座(すわ)ろうと白(しろ)い体(からだ)を伸(の)ばしていました。


「タカヤ オハヨー ネエネエ モチアゲテー」


 どうやら体(からだ)が小(ちい)さくて椅子(いす)に届(とど)かないようです。


「はいはい、ちょっと待(ま)ってね」


 タカヤは布巾(ふきん)で手(て)を拭(ふ)くと、ツバサ専用(せんよう)のクッションを持(も)ってきてテーブルの上(うえ)に置(お)きました。


「椅子(いす)の上(うえ)じゃツバサの顔(かお)が見(み)えないだろ? だからこっちに座(すわ)って」


 ツバサを両手(りょうて)で優(やさ)しく持(も)ち上(あ)げてクッションに置(お)くと、タカヤは用意(ようい)した朝食(ちょうしょく)の前(まえ)に座(すわ)ります。


「いただきます」


「ハイ オアガリー」


 しっかり手(て)を合(あ)わせて、タカヤは綺麗(きれい)に巻(ま)けた卵焼(たまごや)きを口(くち)に運(はこ)びました。


「ボクモ タカヤ ノ ツクッタ ゴハン タベテミタイナー」


 ツバサは頭(あたま)の三本(さんぼん)の触覚(しょっかく)をゆらゆら揺(ゆ)らします。


「うん、俺(おれ)もツバサに食(た)べてほしいな」


 タカヤは小(ちい)さなお皿(さら)を食器(しょっき)棚(だな)から取(と)って来(く)ると自分(じぶん)の卵焼(たまごや)きを一(ひと)つその上(うえ)にのせてツバサの前(まえ)に置(お)きました。


「これで気持(きも)ちだけでも食(た)べられる?」


「ワーイ タカヤ アリガトウ」


 ツバサは表情(ひょうじょう)こそ変(か)わらないものの、嬉(うれ)しそうにじっくりと卵焼(たまごや)きを眺(なが)めています。


「ソウイエバ タカヤッテ コスモピース アルカラ ゴハン タベナクテモ ダイジョウブ ナンダヨネ?」


「うん、そうなんだけどさ」


 一口(ひとくち)味噌汁(みそしる)を啜(すす)ってから、タカヤが口(くち)を開(ひら)きます。


「俺(おれ)、料理(りょうり)するの好(す)きだから。それに…」


「ソレニ?」


「父(とう)さんと母(かあ)さんと兄(にい)ちゃんが帰(かえ)って来(き)たときに美味(おい)しいごはん食(た)べさせてあげられるように練習(れんしゅう)したいんだ」


 少(すこ)し寂(さみ)しそうに笑(わら)って、タカヤは誤魔化(ごまか)すようにツバサの頭(あたま)を撫(な)でました。


 ツバサはそんなタカヤの目(め)をじーっと見(み)つめます。


 そして触覚(しょっかく)を突然(とつぜん)にょーんと長(なが)く伸(の)ばして、タカヤの頭(あたま)をわしゃわしゃと撫(な)で返(かえ)しました。


「わ、わわっ! どうしたのツバサ」


 くすぐったそうに笑(わら)うタカヤを見(み)て満足(まんぞく)したのか、ツバサは触覚(しょっかく)を元(もと)の長(なが)さに戻(もど)してまたゆらゆらと揺(ゆ)らし始(はじ)めました。


「ヨカッタ タカヤ ワラッタ」


「えー、ずっと笑(わら)ってただろ?」


 漬物(つけもの)をポリポリ噛(か)みながら、タカヤは不思議(ふしぎ)そうです。


「ミンナ ハヤク カエッテキタラ イイノニネ」


「…俺(おれ)はお仕事(しごと)頑張(がんば)ってるみんなのことが好(す)きだから。ツバサは俺(おれ)と二人(ふたり)だと寂(さび)しい?」


「マサカ! ボク タカヤ ト イルノ タノシイ スキ」


「ふふ、俺(おれ)もツバサといるの楽(たの)しくて大好(だいす)きだよ」




 ツバサの前(まえ)に置(お)いておいた卵焼(たまごや)きを最後(さいご)に口(くち)に入(い)れて、タカヤはもう一度(いちど)手(て)を合(あ)わせました。


「ごちそうさまでした」


 テーブルからツバサを降(お)ろし、鍋(なべ)に残(のこ)った冷(さ)めた味噌汁(みそしる)に蓋(ふた)をして冷蔵庫(れいぞうこ)にしまうと、タカヤはすぐに使(つか)い終(お)わった食器(しょっき)を洗(あら)い始(はじ)めます。


 キッチンには眩(まぶ)しい朝日(あさひ)がいっぱいに差(さ)し込(こ)んで、テーブルと同(おな)じデザインの四(よっ)つの椅子(いす)を照(て)らしました。

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