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第二十八話 銀色の鱗粉②

****


 真(ま)っ暗(くら)な中(なか)、うねるような肉(にく)壁(へき)の間(あいだ)を下(くだ)って行(い)って…ハララの実(み)の中(なか)に入(はい)ったタカヤとライトは、大(おお)きな空間(くうかん)のある内臓(ないぞう)に辿(たど)り着(つ)きました。


 周囲(しゅうい)は液体(えきたい)で浅(あさ)く満(み)たされており、先(さき)ほどニュムニュムが食(た)べたであろう草(くさ)などが浮(う)いていて…どうやら地球(ちきゅう)生物(せいぶつ)で言(い)うと胃(い)のような器官(きかん)のようです。


「とりあえず無事(ぶじ)に入(はい)れましたね」


 タカヤは一足(ひとあし)先(さき)に実(み)の中(なか)から出(で)て、エッグロケットから丸(まる)い玉(たま)の様(よう)なものを取(と)り出(だ)すと、そこの天辺(てっぺん)に付(つ)いたボタンを押(お)しました。


 丸(まる)い玉(たま)はくるくると周(まわ)りながら浮(う)かんで、真(ま)っ暗(くら)だった辺(あた)りを真昼(まひる)のように明(あか)るく照(て)らします。


「これで見(み)えるようになりましたね。この明(あ)かりは俺(おれ)に付(つ)いてくるように設定(せってい)してますから、この先(さき)も大丈夫(だいじょうぶ)でしょう。さて…ライトさん、目的地(もくてきち)はずっと先(さき)ですか?」


「あ、ああ…」


 …タカヤがあまりにもいつも通(どお)りだから…ライトもやっと実(み)の中(なか)から出(で)て、外(そと)を満(み)たす液体(えきたい)の中(なか)に足(あし)を入(い)れます。


「…銀色(ぎんいろ)の鱗粉(りんぷん)を放出(ほうしゅつ)させるために刺激(しげき)しなくちゃいけない器官(きかん)『オプト』は、ここよりずっと奥(おく)にあるんだ。少(すこ)し歩(ある)かないといけない」


「わかりました。案内(あんない)をよろしくお願(ねが)いします」




 湿(しめ)った肉(にく)の上(うえ)を、二人(ふたり)は優(やさ)しく足(あし)を置(お)きながら歩(ある)きます。


 外(そと)の音(おと)なのか、はたまた内蔵(ないぞう)の音(おと)なのか…どこかからゴウンゴウンと低(ひく)い音(おと)が聞(き)こえて、その度(たび)に足下(あしもと)と周囲(しゅうい)の壁(かべ)が躍動(やくどう)して揺(ゆ)れて。


 二人(ふたり)はそんな中(なか)を…何(なに)も言葉(ことば)を交(か)わすこと無(な)く歩(ある)いていました。


 一歩(いっぽ)を進(すす)む短(みじか)いはずの時間(じかん)が、いつもの何(なん)倍(ばい)も長(なが)く感(かん)じます。



 …と、その時(とき)。前(まえ)を歩(ある)くタカヤが足(あし)を止(と)めました。


「タカヤ君(くん)…どうかした?」


 ライトは顔(かお)を上(あ)げて尋(たず)ねます。


「後(うし)ろから何(なに)かが流(なが)れてくる音(おと)がします! ライトさん俺(おれ)に掴(つか)まってください!」


 途端(とたん)に、足下(あしもと)がぐらりと揺(ゆ)れました。


 バランスを崩(くず)して転(ころ)びそうになったライトを、タカヤはすかさず背中(せなか)から出(だ)した触手(しょくしゅ)で絡(から)め取(と)ると、胸(むね)の前(まえ)に持(も)ってきて抱(だ)き上(あ)げます。


 肉(にく)壁(へき)全(すべ)てが脈打(みゃくう)って、もの凄(すご)い勢(いきお)いで水(みず)が流(なが)れる音(おと)が近付(ちかづ)いてきて…タカヤはそのまま出来(でき)るだけ上(うえ)へと飛(と)び上(あ)がりました。


 …眼下(がんか)では、先(さき)ほど胃(い)に近(ちか)い器官(きかん)で見(み)た草(くさ)と同(おな)じ色(いろ)のドロドロが、大量(たいりょう)の液体(えきたい)に押(お)し流(なが)されるように流(なが)れていきます。


「危(あぶ)なかったですね…流(なが)されてしまうところでした」


 タカヤはホッと息(いき)を吐(つ)きます。


「あ、ありがとうタカヤ君(くん)…おかげで助(たす)かったよ」


「いえいえ、俺(おれ)も一緒(いっしょ)に来(き)て本当(ほんとう)によかったです。ライトさんに何(なに)かあったら…」


 その先(さき)の言葉(ことば)を言(い)う前(まえ)に、タカヤは液体(えきたい)が流(なが)れ終(お)わった肉(にく)の床(ゆか)に再(ふたた)び降(お)り立(た)ってライトを離(はな)しました。


「…本当(ほんとう)に、お怪我(けが)が無(な)くてよかったです」


 タカヤが心底(しんそこ)安堵(あんど)したような、愛(いと)おしそうな目(め)を向(む)けたのを見(み)たライトは…一(ひと)つ唾(つば)を飲(の)み込(こ)んでから、胸(むね)の奥(おく)にずっと詰(つ)まったままの言葉(ことば)を出(だ)します。


「…タカヤ君(くん)?」


「はい?」


「…ごめん」


 予想外(よそうがい)の言葉(ことば)に、タカヤはキョトンとしています。


「…続(つづ)きは、歩(ある)きながら話(はな)すよ。先(さき)に進(すす)もうか」



****



「タカヤ君(くん)はずっと…僕(ぼく)を怒(おこ)っていたんだろう?」


 狭(せま)い肉(にく)の管(くだ)の中(なか)を縦(たて)に並(なら)んで歩(ある)きながら、ライトはタカヤの背中(せなか)に語(かた)りかけます。


「君(きみ)が特別(とくべつ)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)になったあの日(ひ)…皆(みんな)のために頑張(がんば)ろうとする君(きみ)の出鼻(でばな)を挫(くじ)くような真似(まね)をしたから。君(きみ)の意見(いけん)を聞(き)かずに、自分(じぶん)の意見(いけん)を通(とお)そうとした…本当(ほんとう)にごめん」


 …タカヤは口(くち)を挟(はさ)むこと無(な)く、静(しず)かに耳(みみ)を傾(かたむ)けています。


「ずっと謝(あやま)らなくちゃと思(おも)ってたけど…やっぱりどうしても、君(きみ)が危険(きけん)なコスモピースの力(ちから)を使(つか)うことを受(う)け入(い)れられなくて…今日(きょう)まで言(い)えなかった。その所為(せい)で君(きみ)は…僕(ぼく)に調子(ちょうし)が悪(わる)いことを隠(かく)して、恐(おそ)ろしい目(め)にあった…」


 頭上(ずじょう)からポタンと一滴(いってき)垂(た)れた液体(えきたい)が、ライトとタカヤの間(あいだ)に落(お)ちて音(おと)を立(た)てました。


「でも…遅(おそ)くなったけど、僕(ぼく)は受(う)け入(い)れる。タカヤ君(くん)は皆(みんな)のために、コスモピースの力(ちから)を使(つか)っているんだって! 宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)として凄(すご)いことをやってるんだって…だからさ!」


 ライトは少(すこ)し声(こえ)を張(は)って顔(かお)を上(あ)げます。


「僕(ぼく)を信(しん)じてくれないか? タカヤ君(くん)は、コスモピースを使(つか)うなって言(い)う僕(ぼく)のために今(いま)まで嘘(うそ)を吐(つ)いてたんだろ? それなら…もう、嘘(うそ)を吐(つ)いて誤魔化(ごまか)す必要(ひつよう)なんて無(な)いからさ。僕(ぼく)に本当(ほんとう)のことを話(はな)して欲(ほ)しいんだ!」



 …タカヤは前(まえ)を歩(ある)きながら目(め)を閉(と)じます。


 本当(ほんとう)、ライトお兄(にい)ちゃんは心底(しんそこ)『優(やさ)しい』人(ひと)です。


(俺(おれ)が他人(ひと)のために、この力(ちから)を使(つか)ってると思(おも)っているんだから)


(俺(おれ)が…あなたのために、嘘(うそ)を吐(つ)いたと思(おも)ってくれているんだから)



「タカヤ君(くん)…?」


 返事(へんじ)が無(な)いのが不安(ふあん)なのか、声(こえ)を震(ふる)わせたライトの方(ほう)へ…タカヤはくるりと振(ふ)り返(かえ)ります。


 いつも通(どお)りの笑顔(えがお)を貼(は)り付(つ)けて。


「どうして謝(あやま)るんです? ライトさん。俺(おれ)、全然(ぜんぜん)怒(おこ)ってなんかないですよ。それより…たくさん心配(しんぱい)かけてごめんなさい」


 今度(こんど)は眉(まゆ)を下(さ)げて、申(もう)し訳(わけ)なさそうな表情(ひょうじょう)を浮(う)かべて。


「どうしてもライトさんを悲(かな)しませたくなくて、嘘(うそ)を吐(つ)いてしまいました…でも、余計(よけい)に悲(かな)しませてしまいましたね」


 そしてもう一度(いちど)、笑(わら)って。


「これからはちゃんと正直(しょうじき)に言(い)いますね」


「ほ、本当(ほんとう)かい? タカヤ君(くん)! …よかったぁ」


 ライトは潤(うる)んだ目元(めもと)を、制服(せいふく)の裾(すそ)で擦(こす)ります。


「さっきもごめんね。君(きみ)がコスモピースの力(ちから)を使(つか)うのが怖(こわ)くて言(い)い過(す)ぎたよ…」


「…いえ、俺(おれ)こそごめんなさい。少(すこ)しキツく当(あ)たってしまいました…あ、そろそろ目的地(もくてきち)に着(つ)きそうですね」



 …良(よ)かった。


 どうなることかと思(おも)いましたが、何(なん)とか誤魔化(ごまか)せて…ライトが欲(ほ)しかったであろう正解(せいかい)が言(い)えたみたいです。


(正直(しょうじき)に言(い)います、か)


 タカヤは思(おも)わず、自分(じぶん)の言葉(ことば)に少(すこ)しだけ…笑(わら)ってしまいました。


 胸(むね)の奥(おく)がヂクリと痛(いた)みます。


(…正直(しょうじき)になんて話(はな)したこと、一度(いちど)も無(な)いくせに)



****



 一方(いっぽう)その頃(ころ)、ピカピカ輝(かがや)くオレンジ色(いろ)の空(そら)の下(した)。


 ショースケとメグとルルは岩陰(いわかげ)から、タカヤとライトが入(はい)っていったニュムニュムの動(うご)きを監視(かんし)していました。


 どうやらお腹(なか)が満(み)たされたのか…今(いま)は長(なが)い尻尾(しっぽ)を振(ふ)りながら、幸(しあわ)せそうに仰向(あおむ)けで居眠(いねむ)りをしています。


「まだかなー…ここに居(い)るのも飽(あ)きてきたよ」


 ショースケはあくびを連発(れんぱつ)しながら、大(おお)きな岩(いわ)を近(ちか)くの石(いし)で削(けず)って落書(らくが)きをしていました。


「ショースケさん、何(なに)を描(か)いてらっしゃるんですか?」


 覗(のぞ)き込(こ)んできたルルに、ショースケは握(にぎ)った石(いし)を地面(じめん)に置(お)いて自信(じしん)満々(まんまん)に答(こた)えます。


「ネコだよ! 可愛(かわい)いでしょ!」


「ネコ…ネコさん、ですか…」


 岩(いわ)にはうるさいほど縦縞(たてじま)の入(はい)った珍獣(ちんじゅう)の絵(え)が描(か)かれています。


 珍獣(ちんじゅう)と言(い)えばまだ聞(き)こえはいいですが…そもそもこれが何(なに)かしら生(い)き物(もの)である、とわかる人(ひと)の方(ほう)が珍(めずら)しいのではないでしょうか。


 …とりあえずルルはにっこり笑(わら)います。


「さすがショースケさん! 独創(どくそう)的(てき)ですね!」


「でしょー? 僕(ぼく)いっつも独創(どくそう)的(てき)って褒(ほ)められるんだよねー、やっぱり天才(てんさい)だからかなー?」


 片手(かたて)で後頭部(こうとうぶ)を掻(か)きながら、ショースケがニヤニヤしていると…少(すこ)し離(はな)れた岩陰(いわかげ)からメグが顔(かお)を出(だ)しました。


「二人(ふたり)とモ…能天気(のうてんき)過(す)ぎやしませんカ? 猛獣(もうじゅう)ニュムニュムの前(まえ)ですヨ?」


「えー、だってニュムニュム寝(ね)てて暇(ひま)なんだもん。ねぇルルさん?」


「えぇ、どうやらライトさんたちもまだみたいですし…あら? 起(お)きたみたいですね」


 三(さん)人(にん)は岩陰(いわかげ)からこっそりと顔(かお)を出(だ)します。


 視線(しせん)の先(さき)ではライトたちを飲(の)み込(こ)んだニュムニュムが、大(おお)きな口(くち)を開(あ)けてあくびをしてノソノソと起(お)き上(あ)がりました。


 そしてそのまま…銀色(ぎんいろ)に輝(かがや)く水面(すいめん)へと向(む)かっていきます。


「まぁ! 大変(たいへん)です、湖(みずうみ)に戻(もど)ろうとしています! 水(みず)の中(なか)に入(はい)ってしまったら…恐(おそ)らく上手(じょうず)に鱗粉(りんぷん)が採(と)れません!」


「えぇ⁉ ど、どうしたらいいの? ルルさん」

「とにかく、あのニュムニュムさんを岸(きし)に留(とど)めておかなくちゃいけません。二人(ふたり)とも、協力(きょうりょく)していただけますか?」


「嫌(いや)でス」


 …メグはじとーっと、眉間(みけん)にシワを寄(よ)せてルルを見(み)ています。


「ルル、もしかしなくてもまたワタシを囮(おとり)に使(つか)おうと思(おも)ってますネ…?」


「はい」


「即答(そくとう)しないでくださイ! もう嫌(いや)でス怖(こわ)いでス! 絶対(ぜったい)やりませんからネ⁉」


 体(からだ)をブルブル震(ふる)わせながら、メグはもう一(ひと)つ奥(おく)の岩陰(いわかげ)へと身(み)を潜(ひそ)めてしまいました。


「仕方(しかた)ありませんね…それではショースケさん、二人(ふたり)で何(なん)とかしましょうか」


「えーっと…怖(こわ)いから僕(ぼく)もやりたくないって言(い)ったら怒(おこ)る?」


「…怒(おこ)りませんよ?」


 ルルが笑顔(えがお)を浮(う)かべたまま、いつもより数倍(すうばい)低(ひく)い声(こえ)で答(こた)えました。


「絶対(ぜったい)怒(おこ)ってるじゃん! うぅ、わかったよ。やればいいんでしょ⁉」


「うふふ、さすがショースケさん。勇敢(ゆうかん)ですね! それでは行(い)きましょうか」




 所々(ところどころ)に生(お)い茂(しげ)る草(くさ)の間(あいだ)に隠(かく)れながら、ルルとショースケはニュムニュムの元(もと)へと近(ちか)づいて行(い)きます。


「ねぇルルさん、僕(ぼく)は何(なに)をすればいいの…?」


 ショースケはポソポソと小(ちい)さな声(こえ)で尋(たず)ねます。


「メグに断(ことわ)られてしまった以上(いじょう)、大(だい)好物(こうぶつ)のプニプヨ星人(せいじん)で釣(つ)る作戦(さくせん)は出来(でき)ませんから…ニュムニュムさんが湖(みずうみ)に入(はい)りたくなくなるようにしようと思(おも)います」


「入(はい)りたくなくなる…? どうやって?」


「うふふ、これを使(つか)おうと思(おも)いまして!」


 ルルはメイド服(ふく)のエプロンの下(した)から、見覚(みおぼ)えのある茶色(ちゃいろ)い玉(たま)を取(と)り出(だ)しました。


「げっ! それってクシュウニ…だよね? 弾(はじ)けたらめちゃくちゃ臭(くさ)いやつ…」


「はい、その通(とお)りです! しかしただのクシュウニでは無(な)くて…臭(にお)いが短(たん)時間(じかん)で消(き)える改良版(かいりょうばん)です。これを湖(みずうみ)に入(い)れれば、きっと凄(すご)い臭(にお)いがしますから…ニュムニュムさんも岸辺(きしべ)に留(とど)まってくださるはずです!」


 そう言(い)うとルルは、大(おお)きく振(ふ)りかぶってクシュウニを放(ほう)り投(な)げます。


 クシュウニはなかなかのスピードで飛(と)んでいき、それは見事(みごと)なコントロールでニュムニュムの目(め)と鼻(はな)の先(さき)の湖(みずうみ)の中(なか)へ落(お)ちました。


 湖(みずうみ)に落(お)ちた衝撃(しょうげき)で、クシュウニが弾(はじ)けると…ニュムニュムは思(おも)い切(き)り表情(ひょうじょう)を歪(ゆが)めて、急(いそ)いで元(もと)いた岸辺(きしべ)へと戻(もど)っていきます!


「わ! すごい成功(せいこう)だ!」


 ショースケが草(くさ)から身(み)を乗(の)り出(だ)して喜(よろこ)んでいると…


 湖(みずうみ)の水面(すいめん)が大(おお)きく揺(ゆ)らいで、次々(つぎつぎ)と他(ほか)のニュムニュムたちが苦(くる)しそうに湖(みずうみ)から顔(かお)を出(だ)し…どんどんどんどん岸辺(きしべ)へと上(あ)がって来(き)ます。


 相当(そうとう)臭(くさ)かったのでしょう、あっという間(ま)に岸辺(きしべ)は大小(だいしょう)様々(さまざま)なニュムニュムの集団(しゅうだん)でパンパンに埋(う)まってしまいました!


 こんなにたくさん集(あつ)まってしまっては、他(ほか)のニュムニュムが障害(しょうがい)となり、銀色(ぎんいろ)の鱗粉(りんぷん)を採取(さいしゅ)する難易度(なんいど)が格段(かくだん)に上(あ)がることは確実(かくじつ)でしょう。


「まさか臭(にお)いによって湖(みずうみ)の中(なか)に居(い)た他(ほか)のニュムニュムさんたちまで出(で)てきてしまうなんて…考(かんが)えていませんでした。どうしましょうショースケさん!」


「どうするって言(い)われても! 僕(ぼく)にもわかんないよ!」


 二人(ふたり)が草陰(くさかげ)でコソコソ話(はなし)をしていると…どうにもその声(こえ)が、近(ちか)くに居(い)たニュムニュムたちに聞(き)こえてしまったようで。


 その内(うち)の一匹(いっぴき)のニュムニュムが空(そら)に向(む)かって大(おお)きな鳴(な)き声(ごえ)を上(あ)げると…周囲(しゅうい)のニュムニュムたちが二人(ふたり)の隠(かく)れる草陰(くさかげ)へと近(ちか)づいて来(き)ます!


「まずいよルルさん! こっちに来(き)てる、何(なん)とかしなくちゃ!」


 ショースケは慌(あわ)ててエッグロケットを握(にぎ)ってその中(なか)を探(さぐ)ると、白(しろ)いBB(びーびー)弾(だん)のようなものが入(はい)った入(い)れ物(もの)を引(ひ)っ張(ぱ)り出(だ)しました。


「ショースケさんそれは何(なん)ですか?」


「これは催眠(さいみん)弾(だん)! アルコンヌ花(はな)のつぼみから作(つく)ってあるから超(ちょう)強力(きょうりょく)だよ!」


 ショースケはエッグロケットの後(うし)ろから催眠(さいみん)弾(だん)を装填(そうてん)すると、銃(じゅう)のように構(かま)えて迫(せま)ってくるニュムニュムたちの内(うち)の一体(いったい)に狙(ねら)いを定(さだ)めます。


「見(み)てて…せーの!」


 エッグロケットの引(ひ)き金(がね)の様(よう)なボタンを人差(ひとさ)し指(ゆび)で押(お)すと、バーンと大(おお)きな音(おと)がして…飛(と)び出(だ)した弾(たま)は見事(みごと)、ニュムニュムのやわらかそうな体(からだ)に命中(めいちゅう)しました!


 弾(たま)が当(あ)たったニュムニュムは、すぐにいびきをかいて倒(たお)れ込(こ)みます。


「やったー!」


「素晴(すば)らしいです! お見事(みごと)ですショースケさん!」


「えへへ、こっそり射的(しゃてき)の練習(れんしゅう)を続(つづ)けてた甲斐(かい)があったね」


 さぁさぁ、のんきにお話(はなし)している場合(ばあい)ではありません。


 次々(つぎつぎ)と迫(せま)ってくるニュムニュムたち全員(ぜんいん)に、ショースケは催眠(さいみん)弾(だん)をたまに外(はず)しながらも打(う)ち込(こ)んでいきます。


 そうこう続(つづ)けているうちに、岸辺(きしべ)は気持(きも)ちよさそうにすやすや眠(ねむ)るニュムニュムたちでいっぱいになってしまいました。


「ふぅ…もう起(お)きてるニュムニュムは居(い)ないし、これで襲(おそ)われることは無(な)いね」


「ありがとうございますショースケさん…あらら?」


 何(なに)かに気(き)がついたらしいルルは、頬(ほお)に手(て)を当(あ)てて首(くび)を深(ふか)く傾(かし)げます。


「…ショースケさん、ニュムニュムさんたちが目覚(めざ)めるのはいつでしょう?」


「ん? 少(すこ)し薄(うす)めて作(つく)ってあるとは言(い)え、アルコンヌ花(はな)のリラックス効果(こうか)は超(ちょう)強力(きょうりょく)だから…早(はや)くても明日(あした)以降(いこう)だと思(おも)うよ?」


「…あの、私(わたし)少(すこ)し気(き)になるのですが…眠(ねむ)っていてもニュムニュムさんは銀色(ぎんいろ)の鱗粉(りんぷん)を放出(ほうしゅつ)するのでしょうか」


 そう、ライトとタカヤが体(からだ)の中(なか)に入(はい)っているニュムニュムもショースケたちに迫(せま)って来(き)たため…ショースケは特(とく)に考(かんが)えること無(な)く催眠(さいみん)弾(だん)を撃(う)ち込(こ)んでしまいました。


 一際(ひときわ)大(おお)きな体(からだ)のそのニュムニュムは今(いま)、たくさんの仲間(なかま)と共(とも)に岸辺(きしべ)で横(よこ)になり、これまた一際(ひときわ)大(おお)きないびきをかいています。


 ショースケとルルはゆっくり目(め)を見合(みあ)わせ…へらっと笑(わら)い合(あ)ったあと、急(きゅう)に慌(あわ)て始(はじ)めました!


「どどどど、どうしようルルさん⁉」


「どうしましょうショースケさん! 何(なん)とか起(お)こす方法(ほうほう)を考(かんが)えないと!」



****



「すごく揺(ゆ)れたね。一応(いちおう)収(おさ)まったみたいだけど…外(そと)で何(なに)かあったのかな?」


 ライトは体(からだ)を支(ささ)えるために肉(にく)壁(へき)についていた手(て)を離(はな)しました。


「ライトさん大丈夫(だいじょうぶ)でしたか?」


「これぐらい平気(へいき)だよタカヤ君(くん)。さて…これが僕(ぼく)らの目指(めざ)していたオプトだよ」


 天井(てんじょう)からダラリと垂(た)れ下(さ)がった、タカヤが両腕(りょううで)を広(ひろ)げたよりも大(おお)きくて丸(まる)い『オプト』と呼(よ)ばれるそれは、ニュムニュムの呼吸(こきゅう)に合(あ)わせるように大(おお)きくなったり小(ちい)さくなったりをゆったりと繰(く)り返(かえ)しています。


「このオプトは強(つよ)めに刺激(しげき)されると、外(そと)からわかるほど銀色(ぎんいろ)の光(ひかり)をピカピカ放(はな)つらしい。そうすればニュムニュムは背中(せなか)の翅(はね)から『銀色(ぎんいろ)の鱗粉(りんぷん)』を放出(ほうしゅつ)するはずだ。よし、行(い)くよ!」


 ライトは大(おお)きなオプトにぎゅっとしがみつくと、強(つよ)く抱(だ)きしめるように力(ちから)を込(こ)めますが…特(とく)に目(め)に見(み)える反応(はんのう)はありません。


「うーん…これじゃ弱(よわ)いのかな? えいっ!」


 続(つづ)けてみるものの、オプトはただただゆっくりと運動(うんどう)を繰(く)り返(かえ)すのみです。


「ライトさん、俺(おれ)がやってみます」


 タカヤは真(ま)っ黒(くろ)な瞳(ひとみ)を赤(あか)と青(あお)に輝(かがや)かせると、背中(せなか)から無数(むすう)の触手(しょくしゅ)を出(だ)して天井(てんじょう)から垂(た)れたオプトにぐるぐると巻(ま)き付(つ)けました。


 そしてそれをぎゅーっと締(し)め上(あ)げますが…


「えーっと…ライトさん? これ以上(いじょう)締(し)め上(あ)げると潰(つぶ)してしまいそうなんですが…」


 どれだけ強(つよ)く刺激(しげき)しても、オプトには変化(へんか)はありません。


「あれ、おかしいな…本(ほん)には刺激(しげき)すれば光(ひか)るって書(か)いてあったんだけど…そ、そうだ! 刺激(しげき)方法(ほうほう)が違(ちが)うのかも!」


 ライトは自身(じしん)のポスエッグから少(すこ)し尖(とが)った棒(ぼう)を取(と)り出(だ)して、オプトの表面(ひょうめん)をツンツンつついてみます。


「違(ちが)うのか? じゃあこう?」


 棒(ぼう)を仕舞(しま)って、今度(こんど)は玩具(おもちゃ)のハンマーのようなものを取(と)り出(だ)してペチペチ叩(たた)きます。


 …特(とく)に変化(へんか)はありません。


「ううん、困(こま)ったな…何(なん)でだ?」


 ハンマーを仕舞(しま)ったライトは、長老(ちょうろう)が渡(わた)してくれた本(ほん)を取(と)り出(だ)して…目(め)を皿(さら)のようにしながら隈(くま)なく読(よ)み直(なお)します。


「強(つよ)めの刺激(しげき)を与(あた)えること…やっぱりそれだけしか書(か)いてない…」


「ライトさん、俺(おれ)も一緒(いっしょ)に見(み)ていいですか? …あ、もしかして」


 タカヤはライトの背中(せなか)側(がわ)から本(ほん)を覗(のぞ)き込(こ)むと、ある一文(いちぶん)を指(ゆび)さしました。


「見(み)て下(くだ)さいライトさん、ここ…」


「ん? なになに…ニュムニュムはプニプヨ星人(せいじん)を食(た)べると、筋肉(きんにく)の強(つよ)い収縮(しゅうしゅく)が起(お)こり体内(たいない)の器官(きかん)『オプト』が刺激(しげき)されて『銀色(ぎんいろ)の鱗粉(りんぷん)』を放出(ほうしゅつ)する…これがどうかした?」


「はい。俺(おれ)の予想(よそう)なんですが…ニュムニュムが銀色(ぎんいろ)の鱗粉(りんぷん)を放出(ほうしゅつ)するには、プニプヨ星人(せいじん)を食(た)べることが出来(でき)る状態(じょうたい)であることが必要(ひつよう)なんだと思(おも)います。つまり、今(いま)このニュムニュムはその状態(じょうたい)では無(な)いのかもしれません」


「その状態(じょうたい)じゃない…?」


「そうですね…例(たと)えば寝(ね)てる、とか」



****



 ショースケとルルは草陰(くさかげ)を飛(と)び出(だ)して、ライトとタカヤが体内(たいない)に入(はい)っているニュムニュムの体(からだ)をペチペチ叩(たた)きます。


「おーきーてー⁉ ねぇってば!」


 ショースケの大(おお)きな声(こえ)は広(ひろ)い湖(みずうみ)にむなしく響(ひび)くだけで、肝心(かんじん)のニュムニュムは大(おお)きな体(からだ)をピクリとも動(うご)かしてくれません。


「ダメですショースケさん。叩(たた)いたくらいでは起(お)きてくれそうにはありません…かくなる上(うえ)は!」


 ルルが袖(そで)を捲(めく)って自分(じぶん)の右腕(みぎうで)を捻(ひね)ると…ルルの右腕(みぎうで)はガチャガチャと鈍(にぶ)い音(おと)を立(た)てながら、重厚(じゅうこう)なショットガンへと形(かたち)を変(か)え始(はじ)めます。


「これで撃(う)てばさすがに目(め)を覚(さ)ましてくださるのでは!」


「それで撃(う)つの⁉ ルルさんダメだよ怪我(けが)させちゃう! この子(こ)悪(わる)いことしてないよ!」


「安心(あんしん)して下(くだ)さいショースケさん。撃(う)つのはこの弾(たま)です」


 ルルは腕(うで)のショットガンから、赤(あか)い弾丸(だんがん)と青(あお)い弾丸(だんがん)の二(ふた)つを取(と)り出(だ)すと、すらりと細(ほそ)い指(ゆび)で挟(はさ)んでショースケに見(み)せました。


「この弾(たま)はポポミル星(せい)のトクトンという生物(せいぶつ)の毛(け)を使(つか)って作(つく)られたもので、体(からだ)の表面(ひょうめん)に当(あ)たると痛(いた)みを感(かん)じる前(まえ)に溶(と)けて体内(たいない)に浸透(しんとう)します。赤(あか)い弾丸(だんがん)を食(く)らうと相手(あいて)は周囲(しゅうい)の温度(おんど)を高(たか)く、青(あお)い弾丸(だんがん)を食(く)らうと低(ひく)く感(かん)じるようになります」


「周囲(しゅうい)の温度(おんど)…? えーっとつまり、暑(あつ)く感(かん)じたり寒(さむ)く感(かん)じたりするってこと?」


「その通(とお)りです! 眠(ねむ)りの具合(ぐあい)は温度(おんど)と密接(みっせつ)な関係(かんけい)がありますから、それをわざと狂(くる)わせるんです。アルコンヌ花(はな)には生物(せいぶつ)を過度(かど)にリラックスさせる効果(こうか)があって、それによって生物(せいぶつ)は眠(ねむ)ってしまいます…それならば反対(はんたい)に、過度(かど)のストレスをかけて起(お)こしてしまおう、という作戦(さくせん)です!」


 ルルが真剣(しんけん)な顔(かお)で語(かた)るのを、ショースケは頷(うなず)きながら聞(き)いていましたが…ふと、疑問(ぎもん)が湧(わ)きました。


「いい作戦(さくせん)だと思(おも)うけど…ねぇルルさん、そもそもその弾(たま)って元々(もともと)何(なに)に使(つか)うためのものなの?」


「暑(あつ)い日(ひ)や寒(さむ)い日(ひ)を過(す)ごしやすくするために使(つか)うんです。ショースケさんにも青(あお)い弾丸(だんがん)を使(つか)ったことがありますよ? ほら先日(せんじつ)、家(いえ)のクーラーが壊(こわ)れたときに!」


「え⁉ …そういえばあの日(ひ)、真夏(まなつ)にしては妙(みょう)に涼(すず)しかったような…ルルさん僕(ぼく)のこと撃(う)ってたの…? え、いつどこから…?」


 ショースケは顔(かお)を青(あお)くして、ガタガタと体(からだ)を震(ふる)わせ始(はじ)めます。


「すみません…だってショースケさんにお伝(つた)えしたら、便利(べんり)だからいつもの外出(がいしゅつ)にも使(つか)いたいーって強請(ねだ)られると思(おも)ったんですもの。さぁ、早速(さっそく)始(はじ)めますよ?」


 怯(おび)えた目(め)を向(む)けるショースケを横目(よこめ)に、ルルは赤(あか)い弾丸(だんがん)を右腕(みぎうで)のショットガンに込(こ)めて狙(ねら)いを定(さだ)めると、ニュムニュムの大(おお)きな体(からだ)に向(む)けて真(ま)っ直(す)ぐ撃(う)ち込(こ)みました。


 赤(あか)い弾丸(だんがん)はするりと溶(と)けて、ニュムニュムの体(からだ)に入(はい)ると…途端(とたん)にニュムニュムはもぞもぞと寝返(ねがえ)りを打(う)ち始(はじ)めます。


 呼吸(こきゅう)は少(すこ)し荒(あら)くなり、顔(かお)をしかめて苦(くる)しそうです。


「ちゃんと効(き)いてるみたいですね。次(つぎ)はこちらです!」


 青(あお)い弾丸(だんがん)を右腕(みぎうで)のショットガンに込(こ)めて、ルルが同(おな)じように撃(う)ち込(こ)むと…今度(こんど)はニュムニュムは体(からだ)をぎゅっと縮(ちぢみ)こませてプルプルと震(ふる)え始(はじ)めました。


 ですがまだ目(め)は強(つよ)く瞑(つむ)ったままで…ショースケがニュムニュムの頬(ほお)をツンツン触(さわ)ってみても反応(はんのう)はありません。


「うーん。起(お)きないね…?」


「流石(さすが)に一発(いっぱつ)ずつでは、アルコンヌ花(はな)の効果(こうか)に勝(か)てませんね…それなら何度(なんど)も試(ため)すまでです!」


 それからルルは、赤(あか)い弾丸(だんがん)と青(あお)い弾丸(だんがん)を一定(いってい)の間隔(かんかく)で交互(こうご)に撃(う)ち込(こ)んで行(い)きました。


 ニュムニュムは忙(せわ)しなく、丸(まる)まったり広(ひろ)がったり転(ころ)がったり呻(うめ)いたり…。


 そして遂(つい)にその瞼(まぶた)がピクピク動(うご)き始(はじ)めました!


「ショースケさん! あと一(ひと)押(お)しでニュムニュムさんが起(お)きそうです、何(なに)か刺激(しげき)を与(あた)えられるものはありませんか⁉」


「刺激(しげき)⁉ えーっと…あ、これなら!」


 エッグロケットの中(なか)から、ショースケは光(ひか)る泥(どろ)団子(だんご)のようなものを引(ひ)っ張(ぱ)り出(だ)します。


「前(まえ)にオンガイルゴンに臭(にお)いの攻撃(こうげき)が効(き)かなかったときに、音(おと)なら効(き)いたんじゃないかと思(おも)って作(つく)ったやつ! えーっと、耳栓(みみせん)しないとね…あれ、どこやったっけ?」


 カバンを開(ひら)いてショースケが探(さぐ)り始(はじ)めたその時(とき)…ショースケの手(て)から泥(どろ)団子(だんご)のようなものがツルリと滑(すべ)り落(お)ちました…。


 急(いそ)いでキャッチしようとした手(て)の上(うえ)をまた滑(すべ)って、泥(どろ)団子(だんご)は地面(じめん)に落(お)ちて…クシャリと潰(つぶ)れて割(わ)れて。


 すると! バチバチバチバチッと火花(ひばな)が散(ち)って、恐(おそ)ろしい大(おお)きさのドカンという爆発音(ばくはつおん)が辺(あた)りに響(ひび)き渡(わた)りました!


 ショースケは咄嗟(とっさ)に耳(みみ)を両手(りょうて)で塞(ふさ)いだものの、その威力(いりょく)はとんでもありません。頭(あたま)の中(なか)がブルブル震(ふる)えるほどです。


 クラクラしながらなんとか立(た)っていると…その後(うし)ろで大(おお)きな影(かげ)が動(うご)きました。


 …他(ほか)のニュムニュムがまだ寝静(ねしず)まる中(なか)、二人(ふたり)が刺激(しげき)を与(あた)え続(つづ)けた一際(ひときわ)大(おお)きなニュムニュムがようやく目(め)を覚(さ)ましたのです!


 しかし多量(たりょう)のストレスを与(あた)えられ、爆音(ばくおん)で起(お)こされ…ニュムニュムの機嫌(きげん)はもう最低(さいてい)最悪(さいあく)です!


 ひどく歪(ゆが)めた鋭(するど)い瞳(ひとみ)でショースケとルルを睨(にら)むと、ニュムニュムは首(くび)を振(ふ)りながら激(はげ)しい衝撃(しょうげき)波(は)を放(はな)ちました。


 ルルはすかさず近(ちか)くに居(い)たショースケを抱(だ)き上(あ)げて、左腕(ひだりうで)を盾(たて)の形(かたち)に変形(へんけい)させるとその攻撃(こうげき)を防(ふせ)ぎます。


「大丈夫(だいじょうぶ)ですかショースケさん!」


「ひぃいいっ! 大丈夫(だいじょうぶ)じゃないよ、怒(おこ)ってるじゃんどうしよう!」


 ショースケは震(ふる)える腕(うで)で、ルルの首(くび)にぎゅーっと抱(だ)きつきました。


「とにかくこのままやり過(す)ごすしかありません! しっかり掴(つか)まっててくださいね!」


 幾度(いくど)となく飛(と)んでくる衝撃波(しょうげきは)を、ルルは高速(こうそく)で何度(なんど)も躱(かわ)していきます。


 攻撃(こうげき)が当(あ)たらないことに逆上(ぎゃくじょう)したニュムニュムは、空(そら)を見上(みあ)げて嵐(あらし)のような叫(さけ)び声(ごえ)を上(あ)げようとして…ふと動(うご)きを止(と)めました。


 目(め)を大(おお)きく見開(みひら)いて、背中(せなか)の蝶(ちょう)のような翅(はね)を大(おお)きく広(ひろ)げて。


 尻尾(しっぽ)をぶんぶんと振(ふ)って、足(あし)をドタドタ鳴(な)らして…開(ひら)いていた翅(はね)を一度(いちど)閉(と)じて、もう一度(いちど)更(さら)に大(おお)きく開(ひら)いたその瞬間(しゅんかん)!


 周囲(しゅうい)がグレーに染(そ)まるほど、ニュムニュムの翅(はね)から大量(たいりょう)の銀色(ぎんいろ)の鱗粉(りんぷん)が放(はな)たれました!



****



「見(み)てタカヤ君(くん)! オプトが光(ひか)ってる、成功(せいこう)したんだ!」


 ガタガタと大(おお)きく揺(ゆ)れる体内(たいない)で、銀色(ぎんいろ)に輝(かがや)くオプトを前(まえ)にライトは興奮(こうふん)しています。


「ライトさん、どうやらこのニュムニュムひどく暴(あば)れているようです。ここに居(い)たら危険(きけん)です。ワープ装置(そうち)を使(つか)って外(そと)に出(で)ましょう!」




「わ! 出(で)たよ、銀色(ぎんいろ)の鱗粉(りんぷん)! って…」


 輝(かがや)く銀色(ぎんいろ)に染(そ)まる視界(しかい)の中(なか)で、ショースケはエッグロケットからとりあえず瓶(びん)を取(と)り出(だ)したものの…


「…これ、どうやって集(あつ)めたらいいの?」


 手(て)を動(うご)かしたら、そこで起(お)こった風(かぜ)で吹(ふ)き飛(と)んでしまうほど鱗粉(りんぷん)は軽(かる)いのです。


 瓶(びん)を持(も)って追(お)いかけても、ほんの少(すこ)し…指先(ゆびさき)でつまめるほどしか中(なか)に入(はい)ってくれません。


「どうしよう、集(あつ)め方(かた)考(かんが)えて無(な)かった…イルクマさんに出来(でき)るだけたくさん集(あつ)めて来(き)てって言(い)われてるのに! ねぇルルさんどうしよー!」


 ショースケが見上(みあ)げた先(さき)の空中(くうちゅう)で鱗粉(りんぷん)を集(あつ)めているルルも苦戦(くせん)しているようで…腕(うで)を変形(へんけい)させてどうやら掃除機(そうじき)のように吸(す)っているようですが、量(りょう)もスピードも全然(ぜんぜん)間(ま)に合(あ)いません。


 今(いま)は幸運(こううん)なことに無風(むふう)ですが…このまま風(かぜ)が吹(ふ)いてしまったら、大量(たいりょう)の鱗粉(りんぷん)はすぐに飛(と)ばされて湖(みずうみ)に落(お)ちてしまうでしょう。


「えーっと! 何(なに)かないかな、例(たと)えばこれとか…あぁダメだ! えーっとえーっと!」


 カバンの中(なか)を漁(あさ)って、エッグロケットをひっくり返(かえ)して。


 しかし為(な)す術(すべ)無(な)く…仕方(しかた)なくショースケが両手(りょうて)で瓶(びん)を持(も)って鱗粉(りんぷん)を追(お)いかけようとした、その時(とき)。



「…仕方(しかた)ないですネ! 一瞬(いっしゅん)だけですヨ⁉」


 奥(おく)の茂(しげ)みから、ピンクのクラゲのようなプニプヨ星人(せいじん)の姿(すがた)に戻(もど)ったメグが飛(と)び出(だ)しました!


 メグはそのまま、空中(くうちゅう)に浮(う)かぶルルよりもはるか上空(じょうくう)まで飛(と)んでいくと…まるで風船(ふうせん)のように、体(からだ)を薄(うす)く大(おお)きく伸(の)ばし始(はじ)めました。


 もともと半透明(はんとうめい)な体(からだ)がさらに透(す)けるほど大(おお)きく大(おお)きく伸(の)びて、まるでドームのように辺(あた)り一面(いちめん)を覆(おお)っていきます。


「わ、すごい…!」


 驚(おどろ)いたショースケが見上(みあ)げた空(そら)は、薄(うす)く伸(の)びたメグの体(からだ)を通(とお)すことによってほんのりピンクがかり…激(はげ)しく照(て)りつけていたギラギラの光(ひかり)が、やわらかくなって地面(じめん)へと降(ふ)り注(そそ)ぎます。


「それじゃあいきますヨ⁉ せーノっ!」


 メグはその広(ひろ)がりきった体(からだ)を揺(ゆ)らしたかと思(おも)うと、大(おお)きく大(おお)きく、思(おも)い切(き)り息(いき)を吸(す)いました!


 視界(しかい)をグレーに染(そ)めるほど浮(う)かんでいた銀色(ぎんいろ)の鱗粉(りんぷん)が、どんどんどんどん上空(じょうくう)を覆(おお)うメグの体(からだ)へと吸(す)い寄(よ)せられていきます。


 やわらかくて湿(しめ)っているメグの体(からだ)に、銀色(ぎんいろ)の鱗粉(りんぷん)はこれでもかと付着(ふちゃく)して…メグの体(からだ)越(ご)しに降(ふ)り注(そそ)いでいた薄(うす)ピンクの光(ひかり)は、たちまちグレーの光(ひかり)へと変(か)わっていきました。


「う、ぐゥ…もう限界(げんかい)でス…」


 苦(くる)しそうにそう呟(つぶや)いたメグは、上空(じょうくう)でシュルシュルと体(からだ)を縮(ちぢ)めます。


 元(もと)の大(おお)きさより少(すこ)し膨(ふく)らんだ程度(ていど)まで戻(もど)ると、メグはそのまま空(そら)高(たか)くから落(お)ちてきて…受(う)け止(と)めに走(はし)ったルルの腕(うで)の中(なか)に収(おさ)まりました。


「ありがとうございます、メグ! とっても助(たす)かりました!」


 鱗粉(りんぷん)を全身(ぜんしん)に纏(まと)い、銀色(ぎんいろ)に輝(かがや)いてモフモフ状態(じょうたい)のメグにルルは笑(わら)いかけます。


「…さすがに二人(ふたり)に任(まか)せて何(なに)もしないわけにもいきませんからネ…って、オギャーーーーー⁉」


 メグの視界(しかい)の先(さき)…ルルの背中(せなか)の向(む)こう側(がわ)では、まだ怒(いか)りが収(おさ)まらないニュムニュムが首(くび)を振(ふ)り回(まわ)しながら迫(せま)って来(き)ています!


「嫌(いや)でス怖(こわ)いでスっ! 助(たす)けてくださーイ‼」


 体(からだ)中(じゅう)に付着(ふちゃく)した鱗粉(りんぷん)を揺(ゆ)らしながらガタガタ震(ふる)えるメグを抱(だ)きしめて、ルルが右手(みぎて)を変形(へんけい)させていると…


「二人(ふたり)ともしゃがんで!」


 …その声(こえ)が聞(き)こえたルルは、メグをしっかり抱(かか)えたまま地面(じめん)に小(ちい)さく蹲(うずくま)りました。


 頭(あたま)の上(うえ)を白(しろ)い催眠(さいみん)弾(だん)がすごい速(はや)さで真(ま)っ直(す)ぐ飛(と)んで…ニュムニュムの体(からだ)に当(あ)たったかと思(おも)うと、ニュムニュムはそのまま倒(たお)れ込(こ)んで大(おお)きないびきをかきはじめました。


「良(よ)かった…これで大丈夫(だいじょうぶ)だね…」


 ショースケは膝(ひざ)をついて、安堵(あんど)からはーっと息(いき)をつきます。


「素晴(すば)らしいですショースケさん! 助(たす)かりました!」


「うわぁあああン! ショースケさん怖(こわ)かったでスぅうう!」


 ルルとメグに勢(いきお)いよく抱(だ)きつかれて、ショースケはバランスを崩(くず)してその場(ば)に倒(たお)れ込(こ)みました。


「二人(ふたり)とも重(おも)いよ! …でも、これで『銀色(ぎんいろ)の鱗粉(りんぷん)』がいっぱい採(と)れたね。僕(ぼく)も…ちょっとはタカヤの役(やく)に立(た)てたかな」


 仰向(あおむ)けで空(そら)を見(み)ながら、少(すこ)し照(て)れくさそうに笑(わら)うショースケを、メグとルルは大切(たいせつ)そうにもう一度(いちど)抱(だ)きしめるのでした。



****



「このニュムニュムには相当(そうとう)無理(むり)をさせてしまったね…お詫(わ)びにもならないかもしれないけれど、美味(おい)しい地球(ちきゅう)のフルーツをたくさん置(お)いておこう」


 ライトはポスエッグから取(と)り出(だ)したいろいろな種類(しゅるい)のフルーツを、いびきをかくニュムニュムの口元(くちもと)に山(やま)のように積(つ)み上(あ)げました。


「タカヤさん、今回(こんかい)はショースケさんがすごく頑張(がんば)ってくださったんですよ?」


 ルルがタカヤの腕(うで)をつついて、小(ちい)さく耳打(みみう)ちします。


「そうなんですか? お礼(れい)を言(い)わないと…ショースケ?」


 タカヤに呼(よ)ばれて、カバンの中(なか)をを整理(せいり)していたショースケは振(ふ)り返(かえ)ります。


「何(なに)?」


「…今回(こんかい)はありがとう。上手(うま)くいったのはショースケのおかげだよ」


「ふ、ふふん! 当然(とうぜん)でしょ? 僕(ぼく)ってすごいんだから。これからもいっぱい頼(たよ)っていいんだよ?」


 緩(ゆる)む口角(こうかく)を抑(おさ)えられないショースケは、落(お)ち着(つ)かないのかせっかく整理(せいり)したカバンの中(なか)をまた適当(てきとう)にかき混(ま)ぜました。


「あはは。ショースケは頼(たの)もしいな」


「でしょ? それにしても…この調子(ちょうし)なら新(あたら)しいコスモピースの材料(ざいりょう)もすぐに集(あつ)まっちゃうね! 良(よ)かったねタカヤ!」


「…うん、そうだな」


 タカヤがいつものような笑顔(えがお)を貼(は)り付(つ)ける前(まえ)で、ショースケは無邪気(むじゃき)に…ひどく澄(す)んだ心(こころ)で笑(わら)います。



 きっと、目(め)の前(まえ)のタカヤがこんなことを考(かんが)えているなんて一(いち)ミリも思(おも)っていないのでしょう。


 コスモピースの力(ちから)が無(な)くなることは、ショースケにとって心(こころ)の底(そこ)から良(い)いこと以外(いがい)の何(なに)ものでも無(な)いのでしょう。


 好(す)きなものがあって。やりたいことがあって。


 …なんて『綺麗(きれい)』で、眩(まぶ)しいんでしょう。



「…ショースケはいいな」


 小(ちい)さく呟(つぶや)いたタカヤの声(こえ)を、ショースケは聞(き)き返(かえ)します。


「ん? 何(なに)か言(い)った?」


「あはは、何(なん)でもないよ」


 そう笑(わら)ったタカヤの後(うし)ろで、ようやく体(からだ)から鱗粉(りんぷん)が取(と)れてピンク色(いろ)に戻(もど)ったメグがへろへろと声(こえ)を出(だ)しました。


「そろそろ村(むら)に戻(もど)りますヨー…。長老(ちょうろう)も心配(しんぱい)していましたかラ、顔(かお)を見(み)せておかないト…」


「メグ大丈夫(だいじょうぶ)ですか? 私(わたし)が抱(だ)っこしてあげますね」


 ルルはしなしなのメグの体(からだ)を優(やさ)しく抱(だ)き上(あ)げます。


「さて。では皆(みな)さん行(い)きましょうか」




 緑色(みどりいろ)の土(つち)を踏(ふ)んで、五(ご)人(にん)は村(むら)を目指(めざ)します。


 …タカヤのエッグロケットの中(なか)には、先(さき)ほど採取(さいしゅ)した大量(たいりょう)の『銀色(ぎんいろ)の鱗粉(りんぷん)』が詰(つ)められた大(おお)きな瓶(びん)が入(はい)っています。


 この後(あと)ポスリコモスに立(た)ち寄(よ)る用事(ようじ)があると言(い)ったら、イルクマに渡(わた)しておいて欲(ほ)しいと頼(たの)まれました。



(…どうしよう。銀色(ぎんいろ)の鱗粉(りんぷん)が…新(あたら)しいコスモピースの材料(ざいりょう)が手(て)に入(はい)ってしまった)



 ひどく口(くち)が乾(かわ)いて、胸(むね)がチクチクと痛(いた)んで…タカヤは虚(うつ)ろな目(め)で、前(まえ)を歩(ある)く四(よ)人(にん)を見(み)つめます。


 みんなは「疲(つか)れたね」と笑(わら)い合(あ)って。帰(かえ)った後(あと)に何(なに)を食(た)べるかなんて話(はな)してて。


 …もう一度(いちど)自分(じぶん)の足下(あしもと)をぼんやりと見(み)つめたとき、ショースケが振(ふ)り向(む)いて声(こえ)をかけて来(き)ました。


「タカヤ何(なん)で後(うし)ろにいるの? ほら、こっち来(き)なよ!」


 その目(め)はキラキラと、とってもとっても眩(まぶ)しくて。


「…あはは、ちょっと景色(けしき)を見(み)てるんだ。珍(めずら)しいから」


 何故(なぜ)だか涙(なみだ)が出(で)そうになったタカヤは顔(かお)を隠(かく)すために、わざと首(くび)をひねって遠(とお)くを見(み)つめました。


 さっきまで居(い)た湖(みずうみ)が、銀色(ぎんいろ)にチカチカ光(ひか)って…やっぱり痛(いた)いほど眩(まぶ)しくて、タカヤは思(おも)わずぎゅっと目(め)を細(ほそ)めます。



(俺(おれ)は…ショースケみたいになりたかったな)


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