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第二十七話 銀色の鱗粉①

****


「さあさア、到着(とうちゃく)しましたヨー! ここがワタシの故郷(ふるさと)、プニプヨ星(せい)でス!」


 メイド服(ふく)姿(すがた)のメグは元気(げんき)にUFO(ゆーふぉー)を飛(と)び出(だ)して、緑色(みどりいろ)の土(つち)の上(うえ)に降(お)り立(た)ちました。


「わぁ…何(なん)て言(い)うか、すごく派手(はで)だね…?」


 少(すこ)し着慣(きな)れてきた宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)の制服(せいふく)に身(み)を包(つつ)んだショースケは、後(あと)に続(つづ)いて地面(じめん)を踏(ふ)みしめます。


 見上(みあ)げた空(そら)はショッキングピンク、そこに浮(う)かぶ太陽(たいよう)のようなものはミラーボールのようにギラッギラで…その眩(まぶ)しさにショースケは思(おも)わず目(め)を細(ほそ)めました。


「うう…目(め)が悪(わる)くなりそう。ねぇ、タカヤはコスモピースの力(ちから)でそんなに眩(まぶ)しくないの?」


「俺(おれ)もちょっとは眩(まぶ)しいけど…我慢(がまん)できるのはこの力(ちから)のおかげかもな」


 いつも通(どお)りの袖(そで)なしの服(ふく)を揺(ゆ)らしながら、タカヤが興味深(きょうみぶか)そうにそのド派手(はで)な景色(けしき)を眺(なが)めていると、UFO(ゆーふぉー)の中(なか)から荷物(にもつ)を両手(りょうて)一杯(いっぱい)に持(も)ったライトが声(こえ)を出(だ)します。


「すみませーんメグさん! この地球(ちきゅう)土産(みやげ)は持(も)って出(で)たらいいんですか?」


「まぁライトさん。荷物(にもつ)なら私(わたし)が持(も)ちますよ? アンドロイドなのですから力仕事(ちからしごと)は得意(とくい)です」


 ルルはライトが持(も)っている荷物(にもつ)に手(て)を伸(の)ばしますが、ライトはそのまま歩(あゆ)みを進(すす)めてUFO(ゆーふぉー)を降(お)りて来(き)ました。


 …重(おも)いのかその足取(あしど)りはフラフラです。


「いえ…僕(ぼく)が持(も)ちます。ルルさんにばかり甘(あま)えられませんよ」


「ですが、先日(せんじつ)またお腰(こし)を痛(いた)められたばかりですよね?」


「う、それはそうですけど…。とにかく大丈夫(だいじょうぶ)…っ」


 そこまで言(い)ったところで、ライトの持(も)っていた荷物(にもつ)は全(すべ)て、ルルの手(て)によって軽々(かるがる)持(も)ち上(あ)げられてしまいました。


「やっぱり私(わたし)が持(も)ちますね?」


 首(くび)を軽(かる)く傾(かし)げて、ルルはふわりと笑(わら)います。


「さぁメグ? 私(わたし)たちはどこへ向(む)かえばいいんですか?」


「とりあえず情報(じょうほう)収集(しゅうしゅう)のためニ、まずはワタシの住(す)んでいた村(むら)へ向(む)かいましょウ。長老(ちょうろう)なら『銀色(ぎんいろ)の鱗粉(りんぷん)』の詳(くわ)しい採取(さいしゅ)方法(ほうほう)を知(し)っているかもしれませン!」 


 五(ご)人(にん)が今回(こんかい)プニプヨ星(せい)にやって来(き)たのは、新(あたら)しいコスモピースを作(つく)る材料(ざいりょう)の一(ひと)つである『銀色(ぎんいろ)の鱗粉(りんぷん)』を手(て)に入(い)れるためです。


 一行(いっこう)は近(ちか)くにあるらしい村(むら)に向(む)かって歩(ある)き始(はじ)めました。



「あ! 見(み)てみて、モジェリの花畑(はなばたけ)があるよ!」


 ショースケが指(ゆび)をさした先(さき)では、天(てん)高(たか)くそびえるまで大(おお)きく育(そだ)ったモジェリの花(はな)が広大(こうだい)な敷地(しきち)一面(いちめん)に咲(さ)いています。


「本当(ほんとう)だ…こんなに大(おお)きくなるんだね。うちで研究(けんきゅう)してるモジェリより倍(ばい)以上(いじょう)大(おお)きいよ」


 ライトは首(くび)が疲(つか)れてしまいそうなほど見上(みあ)げて…あまりに派手(はで)な空(そら)が目(め)に染(し)みたのか瞼(まぶた)を擦(こす)りました。


 その様子(ようす)に、メグはふふんと鼻(はな)を鳴(な)らします。


「すごいでショー。これが本場(ほんば)のモジェリ畑(ばたけ)でス! ワタシもライトさんのところに行(い)く前(まえ)はここで働(はたら)いていたんですヨ! …ア、見(み)えて来(き)ましたネ!」


 遠(とお)くにはメグが言(い)っていたであろう村(むら)が見(み)えました。


 村(むら)…おそらく村(むら)です。


 まるでクリスマスのイルミネーションの如(ごと)くビカビカ光(ひか)り、大規模(だいきぼ)な祭(まつ)りでもやっているのかというほど賑(にぎ)やかな音(おと)が聞(き)こえ、離(はな)れていてもわかるほどの怪(あや)しい異臭(いしゅう)が立(た)ちこめていますが…。


「えーっとメグさん? あそこは入(はい)っても大丈夫(だいじょうぶ)な場所(ばしょ)ですか?」


「何(なに)を言(い)ってるんでス? ライトさん。いつも通(どお)りの村(むら)ですヨ」


 メグがぴょんぴょんスキップしながら進(すす)むので、四(よ)人(にん)は不安(ふあん)に思(おも)いながらもその後(あと)を付(つ)いていきました。



****



「おお、メグじゃないか! 久(ひさ)しぶりじゃなー」


 村(むら)に入(はい)ると、小(ちい)さなクラゲのような青(あお)いプニプヨ星人(せいじん)が、体(からだ)をぼよんぼよん弾(はず)ませながら近(ちか)づいてきました。


「長老(ちょうろう)、お久(ひさ)しぶりでス! お土産(みやげ)持(も)って来(き)ましたヨ!」


 メグはピンクのプニプヨ星人(せいじん)の姿(すがた)に戻(もど)ると、同(おな)じようにぽよぽよ跳(は)ねて挨拶(あいさつ)をします。


「元気(げんき)そうで良(よ)かったぞ…ん? 後(うし)ろに居(い)るのは…地球(ちきゅう)人(じん)⁉」


「はイ! ワタシの仲間(なかま)を連(つ)れて来(き)ましたタ!」


「それは大変(たいへん)じゃ! おい! 皆(みな)の者(もの)ー!」


 長老(ちょうろう)が声(こえ)を張(は)り上(あ)げると、村(むら)のあちこちからたくさんのプニプヨ星人(せいじん)がワイワイと集(あつ)まってきました。


「地球(ちきゅう)人(じん)が来(き)たぞ! 今(いま)すぐ祭(まつ)りじゃ、祭(まつ)りを開催(かいさい)するぞー!」




 …気(き)がついたときには、五(ご)人(にん)はカラフルでゴージャスな席(せき)に座(すわ)らされていて。


 目(め)の前(まえ)には何(なに)やらぐちゃぐちゃとして怪(あや)しい匂(にお)いがする大量(たいりょう)の料理(りょうり)。


 そしてその周(まわ)りを大(おお)はしゃぎで踊(おど)りまくるプニプヨ星人(せいじん)たち。


 どこかからは、にゃろにゃろと言(い)う聞(き)き覚(おぼ)えのある歌(うた)が流(なが)れます。


 けたたましいほど村中(むらじゅう)がビカビカに光(ひか)る中(なか)、ショースケは三(みっ)つ隣(となり)に座(すわ)るメグに小(ちい)さな声(こえ)で話(はな)しかけました。


「ねぇメグさん、これ僕(ぼく)たちどうしたらいいの?」


「どうしたらいいと言(い)われてモ…楽(たの)しんだらいいんじゃないですカ? これ美味(おい)しいですヨ?」


 メグはクラゲのような小(ちい)さな体(からだ)で、目(め)の前(まえ)の料理(りょうり)を吸(す)い込(こ)んでいます。


「美味(おい)しい、ねぇ…」


 料理(りょうり)の匂(にお)いは地球(ちきゅう)で言(い)うと、納豆(なっとう)とキムチと沢庵(たくあん)とブルーチーズを混(ま)ぜたみたいです。


「ねぇライトさん、これ食(た)べてみて美味(おい)しいか教(おし)えてくれない?」


「嫌(いや)だよ…僕(ぼく)を実験台(じっけんだい)にしようとしないでくれ」


 ライトはこの匂(にお)いが苦手(にがて)なのか、着(き)ている宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)の制服(せいふく)の袖(そで)で鼻(はな)を覆(おお)いました。


「と、とにかく! 早(はや)く『銀色(ぎんいろ)の鱗粉(りんぷん)』の情報(じょうほう)を聞(き)き出(だ)さないと! ねぇタカヤ君(くん)…タカヤ君(くん)⁉」


 ライトの視線(しせん)の先(さき)のタカヤは…目(め)の前(まえ)の料理(りょうり)を口(くち)いっぱいに入(い)れていました。


 …何(なん)だか肩(かた)をガタガタ震(ふる)わせて、顔(かお)が真(ま)っ青(さお)です。


「タカヤ⁉ それ食(た)べちゃったの⁉」


 隣(となり)のショースケもびっくりです!


「…だって、俺(おれ)たちのために用意(ようい)してくれたのに…食(た)べなきゃ悪(わる)いし…お、おおいしい、ですよ?」


 肩(かた)だけじゃ無(な)く頭(あたま)もガタガタ震(ふる)わせながら、今(いま)にも倒(たお)れそうな目(め)をしてタカヤは笑(わら)いました。


「タカヤ君(くん)! いいから早(はや)くぺーしなさい!」


 ライトが席(せき)から立(た)ち上(あ)がって、タカヤの背中(せなか)をパンパン叩(たた)くと…タカヤはやっと皿(さら)の上(うえ)に、口(くち)から料理(りょうり)を吐(は)き出(だ)します。


「うぅ…せっかく作(つく)ってくれたのにごめんなさい…」


「タカヤ、出(だ)されたもの何(なん)でも食(た)べようとするの止(や)めた方(ほう)がいいよ⁉ この間(あいだ)本部(ほんぶ)で出(だ)されたじーちゃんのお茶(ちゃ)も飲(の)んだしさー、もう少(すこ)し自分(じぶん)を大事(だいじ)に」


 ショースケがつらつらと説教(せっきょう)を始(はじ)めたところへ…青(あお)い体(からだ)の長老(ちょうろう)が、嬉(うれ)しそうに五(ご)人(にん)に近寄(ちかよ)って来(き)ました。


「どうじゃ、地球(ちきゅう)人(じん)の皆(みな)さん! 楽(たの)しんでくれてますかな? 料理(りょうり)はお口(くち)に合(あ)いましたかのう?」


「は! はい、それはもう!」


 ライトはそう答(こた)えながら、急(いそ)いで体(からだ)の後(うし)ろにタカヤの吐(は)き出(だ)したものが入(はい)った皿(さら)を隠(かく)します。


「ん? 今(いま)何(なに)か隠(かく)しましたかな?」


「いえいえいえ! 何(なん)にも!」


 必死(ひっし)で首(くび)を振(ふ)っているライトを、長老(ちょうろう)が怪(あや)しそうに覗(のぞ)き込(こ)むので…ルルは助(たす)け舟(ぶね)を出(だ)そうと急(いそ)いで口(くち)を開(ひら)きました。


「長老(ちょうろう)様(さま)? 私(わたし)、お伺(うかが)いしたいことがございますの!」


「ほう? 何(なん)ですかな、地球(ちきゅう)人(じん)のお嬢(じょう)さん」


「私(わたし)たち『銀色(ぎんいろ)の鱗粉(りんぷん)』というものを探(さが)しているのですが…何(なに)かご存(ぞん)じありませんか?」


「銀色(ぎんいろ)の鱗粉(りんぷん)⁉」


 長老(ちょうろう)はやわらかい体(からだ)をぷくーっと膨(ふく)らませました。


「お嬢(じょう)さん、何(なん)て恐(おそ)ろしいものの名前(なまえ)を口(くち)に出(だ)すんじゃ!」


「お、恐(おそ)ろしいものなのですか?」


 戸惑(とまど)うルルの隣(となり)で、メグはやっと料理(りょうり)を食(た)べるのを止(や)めて長老(ちょうろう)に問(と)います。


「長老(ちょうろう)、『銀色(ぎんいろ)の鱗粉(りんぷん)』って結局(けっきょく)何(なん)なんでス?」


「…銀色(ぎんいろ)の鱗粉(りんぷん)は、このプニプヨ星(せい)に生息(せいそく)する猛獣(もうじゅう)ニュムニュムの成体(せいたい)の翅(はね)から採取(さいしゅ)できるものじゃ。それも、大(だい)好物(こうぶつ)を食(た)べた後(あと)の翅(はね)から、のう」


「大(だい)好物(こうぶつ)…それってまさカ! プ、プニプヨ星人(せいじん)⁉」


 メグは体(からだ)をぐにょぐにょ揺(ゆ)らしながら悲鳴(ひめい)をあげました。


「そうじゃ…じゃから、銀色(ぎんいろ)の鱗粉(りんぷん)については儂(わし)を含(ふく)めごく少数(しょうすう)の者(もの)しか知(し)らないのです。あんまりにも恐(おそ)ろしいものじゃからのう…」


 長老(ちょうろう)は周(まわ)りのプニプヨ星人(せいじん)に聞(き)こえないように気(き)を付(つ)けて、小(ちい)さな声(こえ)で言(い)います。


「あ、あの! 何(なに)か他(ほか)に採取(さいしゅ)する方法(ほうほう)は無(な)いのでしょうか?」


 話(はなし)を聞(き)いていたライトが尋(たず)ねると…長老(ちょうろう)は少(すこ)し考(かんが)え込(こ)んでから喋(しゃべ)り始(はじ)めました。


「無(な)いわけでは無(な)いです。ニュムニュムはプニプヨ星人(せいじん)を食(た)べると、その興奮(こうふん)によって筋肉(きんにく)が躍動(やくどう)し、体(からだ)の奥(おく)にある器官(きかん)『オプト』が刺激(しげき)されて、銀色(ぎんいろ)の鱗粉(りんぷん)を放(はな)つようになる。つまり、別(べつ)の方法(ほうほう)でそのオプトを刺激(しげき)することが出来(でき)れば…手(て)に入(い)れることは出来(でき)なくは無(な)いじゃろう。しかし…ニュムニュムは強(つよ)い、危険(きけん)なモンスターじゃ。おすすめはせんよ」


 長老(ちょうろう)はため息(いき)を吐(つ)くと、一度(いちど)建物(たてもの)の中(なか)へ戻(もど)って…一冊(いっさつ)の本(ほん)を手(て)に戻(もど)って来(き)て、それをライトに渡(わた)しました。


「ここにニュムニュムに関(かん)する詳(くわ)しいことが書(か)いてある、お貸(か)ししましょう…でも、今日(きょう)はもう遅(おそ)いから泊(と)まって行(い)きなさい。部屋(へや)を用意(ようい)しておきますな」


「え、遅(おそ)いって…こんなに眩(まぶ)しいじゃない。まだお昼(ひる)でしょ?」


 ショースケはギラギラ輝(かがや)く空(そら)を見上(みあ)げました。


 空(そら)はショッキングピンクなのでわかりませんが…とにかく暗(くら)くないので、地球(ちきゅう)では特別(とくべつ)な場合(ばあい)を除(のぞ)き夜(よる)とは言(い)えないでしょう。


 と、その時(とき)…。


 ポタリポタリと、薄(うす)緑色(みどりいろ)の液体(えきたい)が雨(あめ)のように降(ふ)ってきました。


 幸(さいわ)い五(ご)人(にん)の上(うえ)には屋根(やね)があるので濡(ぬ)れませんが…周(まわ)りの村人(むらびと)たちは大慌(おおあわ)てで家(いえ)の中(なか)へと帰(かえ)っていきます。


「へー、この星(ほし)も雨(あめ)が降(ふ)るんだね」


 ショースケが眺(なが)めていると、その雨(あめ)が数(すう)滴(てき)、屋根(やね)の外(そと)にあった料理(りょうり)の上(うえ)に落(お)ちました。


 すると!


 雨(あめ)が当(あ)たった部分(ぶぶん)の料理(りょうり)が、ジュワジュワと音(おと)を立(た)てて恐(おそ)ろしい勢(いきお)いで溶(と)けていくではありませんか!


「え、え⁉」


「ショースケさん、これはこの星(ほし)の夜(よる)の始(はじ)まりの合図(あいず)なんですヨ。さぁ、部屋(へや)へ行(い)きましょうカ」


 メグはひどく慣(な)れた様子(ようす)で、ふよふよ浮(う)きながら部屋(へや)へ向(む)かって飛(と)び始(はじ)めました。


「ね、ねぇタカヤ? もしかしてプニプヨ星(せい)って…もの凄(すご)く過酷(かこく)な星(ほし)?」


「そうみたいだな…俺(おれ)も初(はじ)めて来(き)たから知(し)らなかったよ」


「うーん…僕(ぼく)メグさんの図太(ずぶと)さの理由(りゆう)がわかった気(き)がしたよ」


 ショースケとタカヤが小声(こごえ)で話(はな)していると、先(さき)を歩(ある)いていたライトが振(ふ)り返(かえ)ります。


「タカヤ君(くん)、ショースケ君(くん)? 行(い)くよ?」


「あ、はい! 今(いま)行(い)きます!」


 タカヤがそう返事(へんじ)をして、二人(ふたり)は恐(おそ)ろしい雨(あめ)の音(おと)を聞(き)きながら後(あと)を付(つ)いていきました。



****



「えーっと…ベッドとか無(な)いの?」


 部屋(へや)に入(はい)って早々(そうそう)、ショースケは辺(あた)りを見回(みまわ)します。


 こぢんまりとした、五(ご)人(にん)で寝(ね)るには少(すこ)し狭(せま)い部屋(へや)の中(なか)には…謎(なぞ)の置物(おきもの)しかありません。


「プニプヨ星人(せいじん)は体(からだ)がやわらかいですからネ。ベッドなんて必要(ひつよう)無(な)いんでス…すみませんガ今日(きょう)は床(ゆか)で寝(ね)てくださイ」


 メグはぷよぷよ跳(は)ねて部屋(へや)の隅(すみ)っこに行(い)くと、触手(しょくしゅ)を丸(まる)めるようにして眠(ねむ)る準備(じゅんび)を始(はじ)めました。


「うーん…何(なに)かベッドの代(か)わりになるようなもの入(はい)ってないかな?」


 ショースケはエッグロケットの中(なか)を探(さぐ)りますが…残念(ざんねん)ながらその様(よう)なものは入(はい)っていないみたいです。


 隣(となり)で同(おな)じく探(さぐ)っていたライトとタカヤも同様(どうよう)のようで…。


「仕方(しかた)ない、今日(きょう)は床(ゆか)で寝(ね)よう」


 ライトは小(ちい)さくため息(いき)を付(つ)いて、壁(かべ)の方(ほう)に顔(かお)を向(む)けて寝転(ねころ)がりました。


「う、思(おも)ったより固(かた)いな…また腰(こし)を痛(いた)めそうだ…」


「大丈夫(だいじょうぶ)ですか? ライトさん。私(わたし)が膝枕(ひざまくら)しましょうか?」


 ルルはすかさずライトの隣(となり)に寝転(ねころ)んで、その背中(せなか)にぎゅーっと抱(だ)き付(つ)きます。


「いえ、平気(へいき)です…あの、ルルさん近(ちか)くないですか? そんなに狭(せま)いですっけ?」


「はい! とってもとっても狭(せま)いんです!」


 幸(しあわ)せそうに頬(ほお)ずりをするルルを見下(みお)ろしながら…ショースケは何(なん)とも言(い)えない、複雑(ふくざつ)そうな目(め)をしています。


「…ねぇタカヤこの間(あいだ)入(はい)ってよ。僕(ぼく)この隣(となり)で寝(ね)たくないよ…」


「い、いいけど…」


 タカヤが若干(じゃっかん)の気(き)まずさを感(かん)じながらルルの隣(となり)に寝転(ねころ)ぶと、ショースケはその横(よこ)にやっと寝転(ねころ)びました。


「うう…本当(ほんとう)に固(かた)いよ…ベッドが恋(こい)しいよ…」


 始(はじ)めはぐずぐず文句(もんく)を言(い)っていたものの…疲(つか)れていたのでしょう、ショースケはすぐに眠(ねむ)ってしまいました。


 ライトもメグも寝息(ねいき)を立(た)てていますし、ルルもスリープモードに入(はい)っているようです。




 …部屋(へや)の中(なか)で一人(ひとり)、タカヤは寝(ね)そべったまま天井(てんじょう)をただ見上(みあ)げていました。


 夜(よる)はまだ長(なが)いのでしょう、雨(あめ)が止(や)む気配(けはい)はありません。



(…銀色(ぎんいろ)の鱗粉(りんぷん)か。そんなもの、見(み)つからなければいいのに)



 こっそり、コスモピースの力(ちから)を少(すこ)しだけ解放(かいほう)してみます。


 瞳(ひとみ)が禍々(まがまが)しく黒(くろ)に染(そ)まって、その中(なか)に赤(あか)と青(あお)の星々(ほしぼし)が浮(う)かんで…よかった、まだちゃんと使(つか)えます。


 小(ちい)さくほっと息(いき)を吐(つ)いてその力(ちから)を解(と)くと、瞳(ひとみ)はまたいつもの様子(ようす)に戻(もど)って…タカヤはきゅっと、少(すこ)しだけ強(つよ)く目(め)を瞑(つむ)りました。



****



 さて、雨(あめ)がすっかり止(や)んだ翌朝(よくあさ)。


 村(むら)を出発(しゅっぱつ)した五(ご)人(にん)は、ニュムニュムが多(おお)く生息(せいそく)するらしい湖(みずうみ)へ向(む)かって歩(ある)いていました。


「うう、お腹(なか)が痛(いた)いでス…わざわざあの恐(おそ)ろしいニュムニュムに会(あ)いに行(い)くなんテ」


 また地球(ちきゅう)人(じん)の姿(すがた)に戻(もど)ったメグは、いつものメイド服(ふく)のフリルを揺(ゆ)らしながら心底(しんそこ)嫌(いや)そうにため息(いき)を吐(つ)きます。


「大丈夫(だいじょうぶ)ですよ、メグ。食(た)べられそうになったら私(わたし)が助(たす)けてあげますから」


「本当(ほんとう)ですかルル! 約束(やくそく)ですヨ⁉ 嘘(うそ)吐(つ)いたらダメですからネ⁉」


 ぎゅうっと抱(だ)きついてきたメグの頭(あたま)を、ルルは微笑(ほほえ)ましそうによしよしと撫(な)でました。


「ねぇところでライトさん、結局(けっきょく)どうやって銀色(ぎんいろ)の鱗粉(りんぷん)を採取(さいしゅ)するの? プニプヨ星人(せいじん)を食(た)べさせるわけにはいかないし」


 ショースケが問(と)いかけると、ライトは自分(じぶん)の首(くび)から下(さ)げた紺色(こんいろ)のポスエッグに触(ふ)れて、空中(くうちゅう)に大(おお)きく画像(がぞう)を表示(ひょうじ)しました。


 …どうやらニュムニュムの体内(たいない)の図(ず)のようです。


「長老(ちょうろう)さんから借(か)りた本(ほん)をよく読(よ)んでみたんだけど、どうも銀色(ぎんいろ)の鱗粉(りんぷん)を採取(さいしゅ)するために刺激(しげき)しなければならない器官(きかん)の『オプト』は、分厚(ぶあつ)い皮膚(ひふ)や筋肉(きんにく)に覆(おお)われてて外(そと)からでは刺激(しげき)出来(でき)そうにないんだ。だから…」


「だ、だから?」


「うん。僕(ぼく)が小(ちい)さくなって、ニュムニュムの体内(たいない)に侵入(しんにゅう)して直接(ちょくせつ)そのオプトを刺激(しげき)しようと思(おも)って」


 …ライトの話(はなし)を聞(き)いていたショースケたち四(よ)人(にん)はパチパチと数回(すうかい)まばたきをした後(あと)…目(め)も口(くち)も大(おお)きく開(ひら)きました!


「えぇ⁉ ライトさん食(た)べられるってこと⁉」


「うん、まぁそうなるかな。でも刺激(しげき)したらワープ装置(そうち)ですぐに戻(もど)ってくるから。心配(しんぱい)いらないよショースケ君(くん)」


「いけませんライトさん! 危険(きけん)すぎます!」


「大丈夫(だいじょうぶ)ですよルルさん、それなりに対策(たいさく)していきますから」


「正気(しょうき)ですカ⁉ 頭(あたま)でも打(う)ったんじゃないですカ⁉」


「打(う)ってないですよメグさん…だってこれしか浮(う)かばないんです」


「俺(おれ)も一緒(いっしょ)に行(い)きます、ライトさん」


 …今度(こんど)は全員(ぜんいん)がタカヤの方(ほう)へ視線(しせん)を向(む)けます。


「一人(ひとり)で行(い)くのはあまりにも危険(きけん)過(す)ぎます。俺(おれ)が傍(そば)にいればコスモピースの力(ちから)でいざという時(とき)に対応(たいおう)出来(でき)ますから」


「いやいや! ダメだよタカヤ君(くん)、危(あぶ)ないよ⁉」


 あんなに大丈夫(だいじょうぶ)だと言(い)ったライトですが、タカヤのこととなると話(はなし)は別(べつ)のようで…首(くび)をぶんぶん横(よこ)に振(ふ)りました。


 それでもタカヤは頑(がん)として譲(ゆず)りません。


「ライトさん一人(ひとり)の方(ほう)がよっぽど危(あぶ)ないじゃないですか。とにかく、俺(おれ)も一緒(いっしょ)に行(い)きますから。俺(おれ)とライトさんがニュムニュムの体内(たいない)に入(はい)ってオプトを刺激(しげき)する、外(そと)で待機(たいき)しているショースケとルルさんとメグさんが銀色(ぎんいろ)の鱗粉(りんぷん)を採取(さいしゅ)する…というのでどうでしょうか」


「えー…やだなぁニュムニュム怖(こわ)いもん。でも、食(た)べられるよりは百(ひゃく)倍(ばい)マシかなぁ」


 ショースケはため息(いき)を吐(つ)きながら、眉(まゆ)をハの字(じ)に下(さ)げました。


「…ワ、ワタシはどこかに隠(かく)れて見(み)ていたのでいいですカ…?」


「いけませんよ、メグ。協力(きょうりょく)してくださいね?」


 ルルはガシリと、食(く)い込(こ)むほど強(つよ)くメグの腕(うで)を掴(つか)みます。


「ひっ、嫌(いや)でス怖(こわ)いでス! …あア! その目(め)はやめてくださイっ、ルルのその目(め)も怖(こわ)いでス!」


「ふふ…あら、湖(みずうみ)が見(み)えてきましたよ」


 前(まえ)を向(む)くと、遠(とお)くにはまるで水銀(すいぎん)のように銀色(ぎんいろ)に輝(かがや)く、広(ひろ)い水面(すいめん)が見(み)えました。


 空(そら)から降(ふ)り注(そそ)ぐ光(ひかり)が眩(まぶ)しいほどに反射(はんしゃ)して、思(おも)わず目(め)を閉(と)じてしまいたくなるほどです。


「遅(おそ)くなるとまたあの雨(あめ)が降(ふ)ってきてしまいますから。急(いそ)ぎましょうか」


 メグの腕(うで)を引(ひ)っ張(ぱ)るルルを先頭(せんとう)に、一行(いっこう)は少(すこ)し駆(か)け足(あし)で先(さき)を目指(めざ)しました。



****



「ひぃいいいイ…うじゃうじゃいまスゥ…!」


「本当(ほんとう)だ…前(まえ)に僕(ぼく)ん家(いえ)で見(み)たやつより随分(ずいぶん)大(おお)きいよ…!」


 近(ちか)くの岩場(いわば)に隠(かく)れたメグとショースケは、顔(かお)を少(すこ)し出(だ)して湖(みずうみ)の岸辺(きしべ)を覗(のぞ)きます。


 岸辺(きしべ)では大小(だいしょう)様々(さまざま)なニュムニュムが、お昼寝(ひるね)の時間(じかん)なのか口(くち)を大(おお)きく開(ひら)いてあくびを繰(く)り返(かえ)していました。


 成体(せいたい)のニュムニュムが背中(せなか)に生(は)えた翅(はね)を動(うご)かすたびに、ギラギラしたカラフルな鱗粉(りんぷん)が辺(あた)りに散(ち)って輝(かがや)きます。


「なるほど…あのように翅(はね)から放出(ほうしゅつ)されるであろう『銀色(ぎんいろ)の鱗粉(りんぷん)』を集(あつ)めれば良(い)いのですね、ライトさん」


「そうです、ルルさん。よろしくお願(ねが)いします…ねぇタカヤ君(くん)も本当(ほんとう)に行(い)くのかい?」


 ライトはまだ不安(ふあん)そうですが…タカヤはさも当然(とうぜん)と言(い)わんばかりに強(つよ)く頷(うなず)きました。


「もちろんです。さて…油断(ゆだん)している今(いま)がチャンスですね」


 タカヤはズボンのポケットからエッグロケットを取(と)り出(だ)して、その中(なか)から一(ひと)つの小瓶(こびん)を引(ひ)っ張(ぱ)り出(だ)します。


「まずはこのクリームを体(からだ)に塗(ぬ)って、小(ちい)さくなったのでいいんですよね?」


「あ、ああ…その通(とお)りだよ。さすがタカヤ君(くん)だな…」


 躊躇(ちゅうちょ)無(な)くクリームを体(からだ)に塗(ぬ)り始(はじ)めたタカヤに、ライトは目(め)を伏(ふ)せながらも何(なに)も言(い)えず…仕方(しかた)なく自分(じぶん)にもクリームを塗(ぬ)り始(はじ)めました。


 二人(ふたり)の体(からだ)はみるみるうちに小(ちい)さくなり、ショースケの片手(かたて)に乗(の)りそうなほどになってしまいます。


「うわぁ…なんかお人形(にんぎょう)みたい」


 蹲(うずくま)ったショースケは指先(ゆびさき)で、小(ちい)さなタカヤのほっぺをツンツンとつつきました。


「きゃーライトさん可愛(かわい)いです! このままポケットに入(い)れて持(も)って帰(かえ)りたいです!」


 ルルは両手(りょうて)で優(やさ)しくライトを掬(すく)い上(あ)げて、目(め)を輝(かがや)かせながら頬(ほお)ずりします。


「や、やめてくださいルルさん、降(お)ろして…!」


「あら、ごめんなさい。あんまり可愛(かわい)らしいからつい…」


 ライトの頬(ほお)に一(ひと)つキスを落(お)としてから、ルルはライトを地面(じめん)に戻(もど)しました。


「…さ、さて! 最後(さいご)にこれをやっておかないとね!」


 顔(かお)を茹(ゆ)で蛸(だこ)のように赤(あか)らめながら、ライトは首(くび)に下(さ)げたポスエッグから霧吹(きりふ)きのようなものを取(と)り出(だ)します。


「それなんですカ? ライトさん」


「体(からだ)をコーティングする薬品(やくひん)ですよ、メグさん。これをやっておかないとニュムニュムの消化液(しょうかえき)で溶(と)かされてしまいますから」


「しょ、消化液(しょうかえき)…うゥ」


 …メグは想像(そうぞう)しただけで失神(しっしん)しそうです。


「さ、タカヤ君(くん)にも薬品(やくひん)をかけるから目(め)を瞑(つむ)って?」


 ライト自身(じしん)にスプレーをして、隣(となり)のタカヤにも同様(どうよう)に吹(ふ)きかけて…さぁ、これで準備(じゅんび)は完了(かんりょう)です。


 岸辺(きしべ)に向(む)かおうとする二人(ふたり)に、ショースケは後(うし)ろから声(こえ)をかけました。


「本当(ほんとう)に気(き)を付(つ)けてよ? ニュムニュムの体(からだ)から出(で)て来(こ)なかったなんて嫌(いや)だからね⁉」


 その声(こえ)にタカヤは振(ふ)り返(かえ)って…いつも通(どお)りに、笑(わら)ったフリをします。


「わかってるよ。ショースケも…その、よろしく頼(たの)むな?」


「ああ、銀色(ぎんいろ)の鱗粉(りんぷん)でしょ? わかってるよ。新(あたら)しいコスモピースのためだもん、ちゃんと採(と)ってみせるから安心(あんしん)してよね!」


「…うん。それじゃあ、いってくる」


 緑色(みどりいろ)の土(つち)を踏(ふ)みながら、タカヤとライトは走(はし)って行(い)きました。




 岸辺(きしべ)へと近(ちか)づいて、これまた派手(はで)な色(いろ)の草(くさ)の茂(しげ)みから二人(ふたり)はニュムニュムの様子(ようす)を窺(うかが)います。


「どのニュムニュムにしますか? ライトさん」


「そうだな、出来(でき)るだけ体(からだ)が大(おお)きいニュムニュムの方(ほう)が入(はい)りやすいだろうから…あの奥(おく)にいるのとかどうかな?」


 ライトが指(ゆび)をさした先(さき)では一際(ひときわ)大(おお)きなニュムニュムが、銀色(ぎんいろ)の湖(みずうみ)の水(みず)を長(なが)い首(くび)を曲(ま)げてグビグビと飲(の)んでいました。


「わかりました、あのニュムニュムにしましょう…ところで、どうやって体内(たいない)に入(はい)ります? 牙(きば)で噛(か)まれるわけにはいきませんし…」


「うん、その為(ため)には丸呑(まるの)みされないとね。その方法(ほうほう)も考(かんが)えたんだ、えーっと…あ、あったね」


 パタパタと茂(しげ)みの奥(おく)へ走(はし)って行(い)ったライトは、近(ちか)くから今(いま)の体(からだ)よりも大(おお)きい、丸(まる)い木(き)の実(み)を大玉(おおだま)のように転(ころ)がして来(き)ました。


「この木(き)の実(み)はハララの実(み)。皮(かわ)がすごく固(かた)いからニュムニュムはこの実(み)を噛(か)み切(き)れないんだけど、どうも栄養(えいよう)があるからか好(この)んで丸呑(まるの)みすることがわかってるんだ」


 固(かた)い皮(かわ)をコツコツと指(ゆび)で叩(たた)きながらライトは続(つづ)けます。


「だからこの実(み)に穴(あな)を空(あ)けて中(なか)に入(はい)って近付(ちかづ)けば、ニュムニュムに噛(か)まれること無(な)く丸呑(まるの)みしてもらえると思(おも)うんだ。まぁ問題(もんだい)は…そんな固(かた)い実(み)にどうやって穴(あな)を空(あ)けるかなんだけどね」


「ああ、穴(あな)なら俺(おれ)が空(あ)けますよ」


 そう言(い)ったタカヤはすぐにコスモピースの力(ちから)を解放(かいほう)すると、背中(せなか)から出(だ)した無数(むすう)の触手(しょくしゅ)をまるでドリルのように回転(かいてん)させて、あっという間(ま)に固(かた)いハララの実(み)に大(おお)きめの穴(あな)を空(あ)けてしまいました。


「これでいいですか?」


 …へにゃりと笑(わら)ったタカヤに、ライトは厳(きび)しい…そして悲(かな)しそうな目(め)を向(む)けます。


「…タカヤ君(くん)、この間(あいだ)危(あぶ)ないことがあったばかりだろ。その力(ちから)はそんな簡単(かんたん)に使(つか)ったらダメだよ」


「平気(へいき)ですよ。特級(とっきゅう)の仕事(しごと)ではよく使(つか)ってますし、何(なん)ともありません」


「君(きみ)に何(なん)ともなくても僕(ぼく)は嫌(いや)なんだよ」


 ライトの声(こえ)は震(ふる)えていました。


 …不安(ふあん)なときに声(こえ)が震(ふる)えるのは、ライトの昔(むかし)からの癖(くせ)です。


「とにかく、出来(でき)るだけその力(ちから)は使(つか)わないで欲(ほ)しい。もうすぐやっと君(きみ)の体(からだ)からコスモピースを取(と)り除(のぞ)けるんだから、それまでに何(なに)かあったら大変(たいへん)だろ?」



 …その言葉(ことば)を聞(き)いたとき、タカヤは体(からだ)の奥(おく)が、ヒュッと冷(つめ)たくなったのを感(かん)じました。


 何(なに)か大事(だいじ)に仕舞(しま)っていたものが、プツリと切(き)れてしまったような感覚(かんかく)がしました。



「…タカヤ君(くん)、聞(き)いてるかい? わかった?」


 ただ頷(うなず)くつもりだったのです。


 いつもみたいに、嘘(うそ)でも、わかったと言(い)うつもりだったのです…なのに。


「…じゃあ」


 タカヤは何故(なぜ)か口(くち)を開(ひら)いていました。


「俺(おれ)の力(ちから)を使(つか)わずに、どうやって穴(あな)を空(あ)けるつもりだったんですか?」



 …タカヤは口(くち)から出(で)た言葉(ことば)に、その冷(つめ)たい声(こわ)色(いろ)に…誰(だれ)よりも自分(じぶん)で驚(おどろ)いていました。


 目(め)の前(まえ)のライトは唇(くちびる)を震(ふる)わせて、瞳(ひとみ)を揺(ゆ)らして…ひどくショックを受(う)けている様子(ようす)です。


 何故(なぜ)こんなことを言(い)ってしまったのかは自分(じぶん)でもわからなくて。


 でも…ああもう、言(い)わなかったことには出来(でき)ません。



 ライトは動揺(どうよう)しながらも声(こえ)を絞(しぼ)り出(だ)します。 


「そ、それは…今(いま)から考(かんが)えるつもりで」


「考(かんが)えたら出(で)てきたんですか? 時間(じかん)も無(な)いでしょう?」


「…それは…」


 タカヤの妙(みょう)な圧(あつ)に、真(ま)っ暗(くら)な瞳(ひとみ)に…ライトは何(なに)も言(い)い返(かえ)せず、俯(うつむ)いてしまいました。


「…俺(おれ)は、俺(おれ)の使(つか)いたいときにこの力(ちから)を使(つか)います。ですので、使(つか)わない約束(やくそく)は出来(でき)ません。ごめんなさい」



 湖(みずうみ)の水(みず)がパシャリと、跳(は)ねる音(おと)が聞(き)こえます。


 近(ちか)くで昼寝(ひるね)をするニュムニュムの、うなるような寝言(ねごと)が聞(き)こえます。



「行(い)きましょう。あまりショースケたちを待(ま)たせるわけにはいきません」


 タカヤは茂(しげ)みの中(なか)を、穴(あな)の空(あ)いた実(み)を転(ころ)がしながら歩(ある)き始(はじ)めました。


 …ライトはその後(うし)ろを、少(すこ)し離(はな)れて付(つ)いていきます。


 二人(ふたり)が狙(ねら)いを定(さだ)めたニュムニュムは、のんきに大(おお)きなあくびをしながら近(ちか)くの草(くさ)を美味(おい)しそうに食(は)んでいました。


 お腹(なか)が空(す)いているようです。先(さき)ほど穴(あな)を空(あ)けたハララの実(み)に入(はい)って、その近(ちか)くに転(ころ)がれば…きっとあのニュムニュムはそれを丸呑(まるの)みするでしょう。


 タカヤは立(た)ち止(ど)まって、実(み)に空(あ)けた穴(あな)の中(なか)に入(はい)ります。


「ライトさんも入(はい)ってください」


「…あぁ、うん」


 体(からだ)を少(すこ)しぎゅっと丸(まる)めて、ライトも実(み)の中(なか)に入(はい)りました。


「それじゃあ転(ころ)がしますね」


 タカヤが背中(せなか)から伸(の)ばした触手(しょくしゅ)を空(あ)けた穴(あな)から出(だ)して、実(み)を外(そと)から転(ころ)がそうとすると…


「タカヤ君(くん)」


 …ライトは小(ちい)さく呟(つぶや)きました。


「僕(ぼく)は…君(きみ)が心配(しんぱい)なんだよ…」



 辺(あた)りには、ハララの実(み)の気(け)だるくなるほど甘(あま)い匂(にお)いが立(た)ちこめて。


 …ライトがほんの少(すこ)しだけ、鼻(はな)を啜(すす)る音(おと)が聞(き)こえて。



「…わかってます」


 一言(ひとこと)だけ答(こた)えて…タカヤはそのまま、自分(じぶん)たちが入(はい)った実(み)を転(ころ)がします。


 実(み)はコロコロと転(ころ)がって、草(くさ)を食(は)んでいたニュムニュムの鼻先(はなさき)にコツンと当(あ)たると…ニュムニュムは大(おお)きな口(くち)を開(ひら)いてそれを飲(の)み込(こ)んでしまいました。


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