↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
31/34

第二十六話 君の為に、僕の為に

****


「やっと来(き)ましたねー。遅(おそ)いですよー」


 オラブ星(せい)から戻(もど)ってきたばかりのイルクマはさも、もの凄(すご)く待(ま)ったかのよう不満(ふまん)げに言(い)いました。


 宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)最上階(さいじょうかい)。


 肖(しょう)造(ぞう)の研究室(けんきゅうしつ)の隣(となり)にあった空(あ)き部屋(べや)は一時(いちじ)的(てき)にイルクマの研究室(けんきゅうしつ)になり、みんなはその部屋(へや)に呼(よ)ばれてすぐに集(あつ)まった…ものの。


「えーっと…僕(ぼく)らはどこに立(た)ったらいいの?」


 ショースケがそう聞(き)くのも無理(むり)はありません。


 室内(しつない)はイルクマがオラブ星(せい)から持(も)ってきた道具(どうぐ)やら荷物(にもつ)やらで大層(たいそう)ごちゃごちゃで、足(あし)の踏(ふ)み場(ば)も無(な)いほどなのですから。


「知(し)りませんよーそんなことー。それより早(はや)く入(はい)ってくださいー。あ、ここにあるものはどれも大事(だいじ)なのでー、絶対(ぜったい)に壊(こわ)したり崩(くず)したりしないでくださいねー?」


 イルクマが無茶(むちゃ)を言(い)うので…みんなは仕方(しかた)なく、入(い)り口(ぐち)付近(ふきん)にほんの少(すこ)しだけある小(ちい)さな空(あ)きスペースに、ぎゅうぎゅう詰(づ)めで立(た)つことになりました。


「ショースケ君(くん)大丈夫(だいじょうぶ)? ちょっと肖(しょう)造(ぞう)おじさん、僕(ぼく)の足(あし)踏(ふ)んでますよ」


「そんなこと言(い)われたって狭(せま)いんじゃもん、ライト。のおタカヤ、もうちょい寄(よ)ってくれんか」


「ごめんなさい、これ以上(いじょう)はツバサが潰(つぶ)れちゃいます!」


「セマイー セマイー」


「…父(とう)さんがツバサを持(も)ってやるから…こっちにおいで。春子(はるこ)は大丈夫(だいじょうぶ)か…?」


「大丈夫(だいじょうぶ)よ諄(じゅん)弌(いち)、何(なん)だかおしくらまんじゅうみたいで楽(たの)しくなってきちゃった! ねぇエイギス?」


「うふふ、そうね春子(はるこ)! ヒカル、もう少(すこ)しこっちに来(き)てもいいのよ?」


「え、えーっと…これ以上(いじょう)はエイギスに抱(だ)きついちゃうって言(い)うかぁ…」


 …入(い)り口(ぐち)付近(ふきん)はもうてんやわんやです。


「…アナタたち、本当(ほんとう)に騒々(そうぞう)しいですねー」


 イルクマはその様子(ようす)を見(み)て、まるで他人事(ひとごと)のようにため息(いき)を吐(つ)くと…長(なが)ーい紙(かみ)のようなものを、積(つ)み上(あ)がった荷物(にもつ)の上(うえ)に適当(てきとう)に広(ひろ)げました。


「これがー、私(わたし)が今(いま)考(かんが)えている新(あたら)しいコスモピースの材料(ざいりょう)ですー。理解(りかい)の遅(おそ)いアナタたちのためにわかりやすく書(か)いてあげましたよー? 感謝(かんしゃ)してくださいねー」


 長(なが)い紙(かみ)にはこれまた小(ちい)さな文字(もじ)で、様々(さまざま)なものの名前(なまえ)が書(か)かれているようです。


 ライトは溢(あふ)れんばかりの荷物(にもつ)の隙間(すきま)に足(あし)を置(お)いて体(からだ)を精一杯(せいいっぱい)伸(の)ばすと、その長(なが)い紙(かみ)を指先(ゆびさき)で摘(つ)まんで引(ひ)き寄(よ)せました。


「いちいち言動(げんどう)が癪(しゃく)に障(さわ)るよな…えーっと、何(なに)なに? まずはイントルベシアントの塊(かたまり)が一(いち)キロ…一(いち)キロ⁉ 一(ひと)欠片(かけら)でも貴重(きちょう)なあの石(いし)を⁉」


「嫌(いや)なら止(や)めてもいいですよー?」


「い、いや止(や)めないですけど! 他(ほか)には…コルムル、アキコノペチュニ、それにフォーン石(せき)…ぱっと見(み)ただけでも、採取(さいしゅ)が難(むずか)しいものばかりだ…」


「…ライト君(くん)、その紙(かみ)を見(み)せてもらってもいいだろうか」


 諄(じゅん)弌(いち)はライトから紙(かみ)を受(う)け取(と)ると、春子(はるこ)と一緒(いっしょ)に目(め)を通(とお)しました。


「春子(はるこ)、このコルムルは…確(たし)か以前(いぜん)セラパス星(せい)に行(い)った際(さい)に見(み)かけたよな…?」


「ええ。それにこっちのデニラン草(そう)も採取(さいしゅ)出来(でき)る場所(ばしょ)を知(し)ってるわ。あ、こっちの虹色(にじいろ)のラフコの花(はな)も!」


 二人(ふたり)は紙(かみ)に書(か)かれたものの名前(なまえ)に、持(も)っていたペンでいくつも印(しるし)を付(つ)けていきます。


「…コスモピースを探(さが)すためにいろいろな星(ほし)を回(まわ)っていた甲斐(かい)があったな…。ん…? ヒカル、紙(かみ)を覗(のぞ)き込(こ)んでどうした…?」


「このアキコノペチュニってやつ…リララ星(せい)で取(と)れる貝(かい)がらだよね? 俺(おれ)たちの同僚(どうりょう)にリララ星(せい)人(じん)がいるから聞(き)いてみるよ!」


 ヒカルとエイギスは顔(かお)を見合(みあ)わせながら大(おお)きく頷(うなず)きます。


「どれ、ワシにもちょっと見(み)せてみぃ…ふむ、本部(ほんぶ)で準備(じゅんび)出来(でき)るものもいくつかあるな。お、ライト? これはお前(まえ)の仲間(なかま)に聞(き)いてみたらいいんじゃないか?」


「本当(ほんとう)だ、プニプヨ星(せい)のものですね、メグさんに聞(き)いてみます。えーっと他(ほか)には…キドシンを含(ふく)まない、モジェリの花(はな)…?」


 …ライトは紙(かみ)をなぞっていた手(て)を止(と)めました。


「…僕(ぼく)がずっと研究(けんきゅう)してる…地球(ちきゅう)人(じん)に毒(どく)の無(な)いモジェリのことだ」


「アナタ、それに覚(おぼ)えがあるんですかー?」


 イルクマは少(すこ)し驚(おどろ)いたように首(くび)を傾(かし)げます。


「それが今回(こんかい)、入手(にゅうしゅ)が一番(いちばん)難(むずか)しい材料(ざいりょう)なんですー。何(なん)せ、この私(わたし)でも一度(いちど)も見(み)たことがありませんからねー。それを作(つく)るだけでもある程度(ていど)時間(じかん)がかかると思(おも)っていましたがー…?」


「このモジェリはおそらく…あと数ヶ月(すうかげつ)で咲(さ)かせることが出来(でき)る…いえ、咲(さ)かせます。咲(さ)かせてみせます!」


「ふーん…? アナタ、思(おも)ったより頭(あたま)悪(わる)くないかもしれませんねー。褒(ほ)めてやってもいいでしょうー…さてと」


 長(なが)いズボンの裾(すそ)をスリッパで踏(ふ)みながら、イルクマ大(おお)きなあくびを一(ひと)つしました。


「すごーく面倒(めんどう)くさいですがー…私(わたし)は準備(じゅんび)を始(はじ)めますー。さぁ、用事(ようじ)は終(お)わりましたからさっさと出(で)て行(い)ってくださーい」


 イルクマがぶかぶかの白衣(はくい)の袖(そで)をしっしっと振(ふ)りながら、左目(ひだりめ)の前(まえ)に浮(う)かぶレンズに触(ふ)れると…研究室(けんきゅうしつ)の扉(とびら)がひとりでに開(ひら)きます。


 そしてみんなの体(からだ)がふわりと浮(う)き上(あ)がったかと思(おも)えば…全員(ぜんいん)、部屋(へや)の外(そと)の廊下(ろうか)へポーンと弾(はじ)き出(だ)されてしまいました。


 …エイギスだけは優(やさ)しく降(お)ろされましたが、残(のこ)りはみーんな適当(てきとう)に落(お)とされたので激(はげ)しく尻餅(しりもち)をつきます。


「いたーい! 怪我(けが)したらどうするのさ!」


「大丈夫(だいじょうぶ)か? ショースケ」


 座(すわ)ったままプンプン抗議(こうぎ)するショースケを、タカヤが手(て)を引(ひ)いて立(た)たせてあげていると…今度(こんど)はタカヤの体(からだ)だけがふわりと浮(う)かび上(あ)がります。


「…そうですー、うっかりしてましたー。コスモピース、アナタのことをまだ調(しら)べていませんでしたねー? もう一度(いちど)来(き)てもらいましょうー」


 研究室(けんきゅうしつ)の中(なか)からイルクマの声(こえ)が聞(き)こえてきて、また扉(とびら)がひとりでに開(ひら)くと…タカヤは部屋(へや)の中(なか)に吸(す)い込(こ)まれていって、扉(とびら)の鍵(かぎ)はそのままガチャリと閉(し)まってしまいました。


 ライトは直(す)ぐに立(た)ち上(あ)がって、外(そと)から扉(とびら)を乱暴(らんぼう)にガンガン叩(たた)きます。


「おい! タカヤ君(くん)に何(なに)するつもりだ!」


「そ、そうだそうだ! タカヤ返(かえ)してよー!」


「カエセ カエセー」


「何(なん)か面白(おもしろ)そうじゃしワシも一緒(いっしょ)に叩(たた)いちゃろ、ほれほれ」


 ショースケもツバサも肖(しょう)造(ぞう)も一緒(いっしょ)になって、まるで打楽器(だがっき)のように扉(とびら)を叩(たた)きまくっていましたら…さすがに無視(むし)出来(でき)なくなったイルクマが扉(とびら)を少(すこ)しだけ開(ひら)いて、至極(しごく)不機嫌(ふきげん)な顔(かお)を出(だ)しました。


「うーるーさーいーでーすーねー! 別(べつ)に怪我(けが)させたりしませんよー! さっさと材料(ざいりょう)集(あつ)めに行(い)ったらどうですかー⁉」


 珍(めずら)しく喉(のど)が枯(か)れそうな大声(おおごえ)を出(だ)すイルクマの横(よこ)から、タカヤが苦笑(にがわら)いをしてひょこりと現(あらわ)れます。


「あのー…俺(おれ)なら大丈夫(だいじょうぶ)だから。みんな自由(じゆう)にしてて…?」


「コスモピースもこう言(い)ってるでしょー? ほらー、さっさと散(ち)ってください目障(めざわ)りですー!」


 研究室(けんきゅうしつ)の扉(とびら)は音(おと)を立(た)てて閉(し)められて、中(なか)からはさらに厳重(げんじゅう)に鍵(かぎ)がいくつもかけられてしまいました。



****



 さて、それから数分(すうふん)が経過(けいか)して。


 ショースケは一人(ひとり)、まだイルクマの研究室(けんきゅうしつ)の前(まえ)に立(た)ち尽(つ)くしていました。



 というのも…肖(しょう)造(ぞう)は本部(ほんぶ)の資料(しりょう)室(しつ)へ、コスモピースの材料(ざいりょう)に使(つか)えそうなものが無(な)いか探(さが)しに行(い)きました。


 諄(じゅん)弌(いち)と春子(はるこ)は、またすぐに旅立(たびだ)つための準備(じゅんび)を始(はじ)めました。


 ヒカルとエイギスは仕事(しごと)に戻(もど)って…ライトはツバサを連(つ)れて、一足(ひとあし)先(さき)に時(とき)目(め)木(き)町(ちょう)へと帰(かえ)って行(い)きました。


「うーん…僕(ぼく)は何(なに)したらいいんだろう…?」


 ショースケは肩掛(かたか)けカバンの中(なか)から、先(さき)ほどコピーしてもらった長(なが)い紙(かみ)を取(と)り出(だ)します。


 紙(かみ)には新(あたら)しいコスモピースの材料(ざいりょう)が書(か)いてありますが…ぶっちゃけ、どの材料(ざいりょう)も残念(ざんねん)ながらショースケにはピンと来(き)ません。


 ため息(いき)を吐(つ)いて、ショースケは紙(かみ)をまた仕舞(しま)います。


「…そうだ。僕(ぼく)、九(きゅう)級(きゅう)になったから制服(せいふく)がもらえるって連絡(れんらく)が来(き)てたな。とりあえずそれをもらいに行(い)こうかな」



****



 透明(とうめい)なチューブ状(じょう)のエレベーターに乗(の)って一(いっ)階(かい)へ降(お)りたショースケは、出(で)入(い)り口(ぐち)とは反対(はんたい)方向(ほうこう)に向(む)かいます。


 相変(あいか)わらず真(ま)っ白(しろ)な本部(ほんぶ)の中(なか)は慌(あわ)ただしくて、忙(せわ)しなく隊員(たいいん)たちが横(よこ)を通(とお)り過(す)ぎて…。


 ぶつからないようにキョロキョロ辺(あた)りを見回(みまわ)しながらしばらく歩(ある)くと、目的地(もくてきち)である搭乗口(とうじょうぐち)エリアへ到着(とうちゃく)しました。


 以前(いぜん)訪(おとず)れた貸(か)し出(だ)しスペースのカウンターで、ショースケはおずおずと九(きゅう)級(きゅう)のバッジを見(み)せます。


「え、ええっと…これ。その、制服(せいふく)…もらえるって聞(き)いたんですけど…」


 しどろもどろになりながら口(くち)を動(うご)かすと、カウンターでバッジを受(う)け取(と)った隊員(たいいん)は驚(おどろ)いたように大(おお)きな黒(くろ)い体(からだ)を膨(ふく)らませました。


「あなた、もしかしてあのショースケ隊員(たいいん)⁉」


「え⁉ あ、あのって?」


「今(いま)、ちょうどここでもあなたの話(はなし)をしていたところなの! ねぇ皆(みんな)?」


 …周(まわ)りの隊員(たいいん)たちも同意(どうい)しますが…ショースケには何(なん)のことだかわかりません。


 オロオロ俯(うつむ)いてしまったショースケを、黒(くろ)い隊員(たいいん)は首(くび)を伸(の)ばして下(した)からニュルリと覗(のぞ)き込(こ)み、興奮(こうふん)したように話(はな)し始(はじ)めました。


「あなた、惑星(わくせい)ミッシェルでオンガイルゴンの子(こ)どもを助(たす)けたんでしょ? その子(こ)、どうもオンガイルゴンの群(む)れのボスの子(こ)どもだったみたいで。あなたがここに戻(もど)ってきてからは、宇宙警察(うちゅうけいさつ)がオンガイルゴンに襲(おそ)われることがめっきり無(な)くなったの!」


 …ショースケは驚(おどろ)いて顔(かお)を上(あ)げます。


「そ、そうなの…?」


「そうよ! 惑星(わくせい)ミッシェルで宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)がオンガイルゴンに襲(おそ)われる事故(じこ)は毎年(まいとし)数(すう)件(けん)は起(お)こってたのに。あなたって皆(みんな)の恩人(おんじん)なんだから!」


 黒(くろ)い隊員(たいいん)は後(うし)ろの棚(たな)の高(たか)いところから、小(ちい)さなサイズの地球(ちきゅう)人(じん)用(よう)の制服(せいふく)を取(と)り出(だ)して持(も)ってきました。


「きっと、だから昇格(しょうかく)したのね。おめでとう、これがあなたの制服(せいふく)よ! それとこれもね!」


 一緒(いっしょ)に渡(わた)された小(ちい)さな袋(ふくろ)には、どうやらポスリコモスのお金(かね)…白(しろ)いコインが入(はい)っているようです。


「本部(ほんぶ)から制服(せいふく)と一緒(いっしょ)に渡(わた)すよう頼(たの)まれていたの。特別(とくべつ)報酬(ほうしゅう)ですって! 大切(たいせつ)に使(つか)ってね」


「あ…ありがとう!」


 少(すこ)し背伸(せの)びしながらそれらを受(う)け取(と)って、小(ちい)さな袋(ふくろ)だけをエッグロケットの中(なか)に仕舞(しま)うと…たくさんの隊員(たいいん)たちの注目(ちゅうもく)を浴(あ)びながら、ショースケは搭乗口(とうじょうぐち)エリアを逃(に)げるように後(あと)にしました。



 …足取(あしど)りは軽(かる)く、ちょっとスキップしながら白(しろ)い廊下(ろうか)を進(すす)みます。


「えへ…えへへへ…」


 ニヤニヤして、体(からだ)はぽかぽかして。


 いつもの廊下(ろうか)は、さっきまでとは少(すこ)し違(ちが)って見(み)えるのでした。



****



 さて、せっかく制服(せいふく)を受(う)け取(と)ったのです。


 空(あ)き部屋(べや)に入(はい)ったショースケは、そそくさとそれに袖(そで)を通(とお)しました。


 白(しろ)くて、左胸(ひだりむね)に付(つ)けたバッジがよく目立(めだ)って…まるで自分(じぶん)のために仕立(した)てられたようにピッタリです。


 鏡(かがみ)が無(な)いので全身(ぜんしん)は見(み)られませんが、ショースケは首(くび)をぐりぐり動(うご)かして見(み)える範囲(はんい)を確認(かくにん)しました。


「へ、変(へん)じゃないよね?」


 そう呟(つぶや)いて扉(とびら)を開(ひら)いて、ショースケはまた廊下(ろうか)を歩(ある)き始(はじ)めます。


 周(まわ)りの隊員(たいいん)も同(おな)じ服(ふく)を着(き)ていて…なんだかくすぐったくてソワソワして、慣(な)れない袖(そで)をいじりながら下(した)を向(む)いていると、どこかから良(い)い匂(にお)いがしてきました。


 …どうやら本部(ほんぶ)の中(なか)にあるカフェからのようです。


 そういえばずっと何(なに)も食(た)べてなかったショースケは、吸(す)い込(こ)まれるようにカフェへ入(はい)っていきました。




 やわらかい席(せき)に座(すわ)って、お気(き)に入(い)りの紫色(むらさきいろ)のクレープのような食(た)べ物(もの)と、少(すこ)し泡立(あわだ)つ黄色(きいろ)い飲(の)み物(もの)をいただいていると…近(ちか)くの席(せき)から話(はな)し声(ごえ)が聞(き)こえます。


「ねぇねぇ、今日(きょう)は珍(めずら)しい商人(しょうにん)が市場(いちば)に来(き)てるらしくて。あのフォーン石(せき)が売(う)られてるんだって!」


「え、あの貴重(きちょう)なフォーン石(せき)が?」


 …ショースケは咥(くわ)えていたストローから口(くち)を離(はな)して、隣(となり)に置(お)いてあるカバンの中(なか)を探(さぐ)って長(なが)い紙(かみ)を取(と)り出(だ)しました。


 フォーン石(せき)…フォーン石(せき)…やっぱりありました!


 どうやら新(あたら)しいコスモピースを作(つく)る材料(ざいりょう)の一(ひと)つのようです。


 買(か)って帰(かえ)ることが出来(でき)れば、みんなの役(やく)に…タカヤの役(やく)に立(た)てるでしょう!


 幸(さいわ)い特別(とくべつ)報酬(ほうしゅう)も貰(もら)いましたし、最近(さいきん)は持(も)っている材料(ざいりょう)で発明(はつめい)をしていましたから、お金(かね)だって結構(けっこう)あります。


 急(いそ)いで大(おお)きな口(くち)を開(あ)けて、残(のこ)っていた食(た)べ物(もの)を平(たい)らげると…ショースケはカバンを肩(かた)にかけて、口(くち)の周(まわ)りに付(つ)いたクリームを舐(な)めながらカフェを出(で)て行(い)きました。



****



 市場(いちば)は今日(きょう)もたくさんのET(いーてぃー)で大(おお)賑(にぎ)わいです。


 今日(きょう)の空(そら)は懐(なつ)かしい野菜(やさい)色(いろ)…ショースケは最近(さいきん)知(し)ったのですが、どうやら野菜(やさい)色(いろ)の空(そら)の日(ひ)は市場(いちば)ではセールを行(おこな)っているらしく、余計(よけい)に人(ひと)が訪(おとず)れているようです。


 肩(かた)をきゅっと狭(せば)めて、大(おお)きいET(いーてぃー)たちの隙間(すきま)を縫(ぬ)うように進(すす)んで行(い)くと…一際(ひときわ)目立(めだ)つ人(ひと)だかりがありました。


 背(せ)の低(ひく)いショースケは一生懸命(いっしょうけんめい)背伸(せの)びをしますが…よく見(み)えません。


 すると近(ちか)くにいた優(やさ)しいET(いーてぃー)が、声(こえ)をかけてくれました。


「キミ、ここで売(う)っているのはフォーン石(せき)だよ。すごく珍(めずら)しいもので、今(いま)私(わたし)たちも並(なら)んで順番(じゅんばん)待(ま)ちをしているんだ」


 フォーン石(せき)! ショースケが探(さが)しているものです。


 ショースケはいそいそと、優(やさ)しいET(いーてぃー)の後(うし)ろに並(なら)びました。


 列(れつ)は少(すこ)しずつ短(みじか)くなっていって、人(ひと)だかりの隙間(すきま)からやっと商品(しょうひん)…フォーン石(せき)が見(み)えました。


 なんて綺麗(きれい)なんでしょう、淡(あわ)いピンク色(いろ)で凸凹(でこぼこ)とした表面(ひょうめん)に光(ひかり)が当(あ)たって乱反射(らんはんしゃ)して、それはそれは輝(かがや)いています。


 そしてその近(ちか)くに置(お)いてあるボードには、フォーン石(せき)の値段(ねだん)が書(か)いてあるのですが…


 …ショースケは黙(だま)ってエッグロケットの中(なか)を覗(のぞ)き込(こ)みます。


 そしてもう一度(いちど)ボードを見(み)て、またエッグロケットの中(なか)を見(み)て。


 …お金(かね)が足(た)りない、なんて生(なま)やさしい言葉(ことば)では足(た)りないほど足(た)りません。


 ショースケがあと数(すう)年(ねん)働(はたら)いたとしても…もしまた何(なに)かがあって凄(すご)い額(がく)の特別(とくべつ)報酬(ほうしゅう)を貰(もら)えたとしても…とても買(か)えないでしょう。


「いらっしゃい! 次(つぎ)はお客(きゃく)さんの番(ばん)だよ! 何(なん)個(こ)買(か)う?」


 店主(てんしゅ)が威勢(いせい)良(よ)く声(こえ)をかけました。


 ショースケは俯(うつむ)いて、小(ちい)さな消(き)えそうな声(こえ)で…やっぱりいいです、としか言(い)うことが出来(でき)ず…そのまま列(れつ)を抜(ぬ)けていきました。




 狭(せま)くて暗(くら)い路地裏(ろじうら)。


 ショースケは膝(ひざ)を抱(かか)えて体育(たいいく)座(ずわ)りをして、建物(たてもの)の隙間(すきま)から見(み)える細(ほそ)い野菜(やさい)色(いろ)の空(そら)を眺(なが)めていました。


「…はぁ…僕(ぼく)、全然(ぜんぜん)役(やく)に立(た)てないな」


 長(なが)い紙(かみ)をカバンから出(だ)して、ショースケはまたため息(いき)を吐(つ)きます。


 何度(なんど)も目(め)を皿(さら)のようにして確認(かくにん)しますが…やっぱり身(み)に覚(おぼ)えのある材料(ざいりょう)はありません。


 きっとタカヤもみんなも、『そんなこと気(き)にしなくていいよ』と笑(わら)ってくれるでしょうが…


「…僕(ぼく)は気(き)にするんだよなぁ…」


 膝(ひざ)に頬(ほお)を寄(よ)せて丸(まる)まっていると…突然(とつぜん)、路地(ろじ)の先(さき)から耳(みみ)を劈(つんざ)くような、宇宙(うちゅう)公用語(こうようご)の大(おお)きな声(こえ)が聞(き)こえました!



「ねぇねぇねぇ! 泣(な)いてるの⁉」



 …この声(こえ)は。



「ねぇねぇ、ねぇってば! もしかして迷子(まいご)? …ってあれ? その顔(かお)、もしかして!」



 …ショースケは声(こえ)と逆(ぎゃく)方向(ほうこう)に走(はし)り出(だ)していました!


「あれ⁉ 何(なん)で逃(に)げるの! あ、もしかして追(お)いかけっこ? ボク、足(あし)速(はや)いんだから負(ま)けないよー!」


 声(こえ)の主(ぬし)はどんどんどんどんショースケに迫(せま)ってきます。


 そもそも地球(ちきゅう)人(じん)は宇宙(うちゅう)全体(ぜんたい)で見(み)て足(あし)が速(はや)いほうではありませんし、ショースケはその中(なか)でも足(あし)が遅(おそ)い方(ほう)ですから…残念(ざんねん)ながらあっけなく、背中(せなか)をタッチされてしまいました。


「捕(つか)まえたー! ねぇ、何(なん)で逃(に)げるのショースケー?」


 長(なが)い耳(みみ)が二(ふた)つ付(つ)いた、水色(みずいろ)のタコのような三十(さんじゅっ)センチ程度(ていど)の体(からだ)をふわりと揺(ゆ)らして、紫色(むらさきいろ)の宝石(ほうせき)のような瞳(ひとみ)をキラリと輝(かがや)かせて…懐(なつ)かしい顔(かお)、カランは無邪気(むじゃき)に笑(わら)いました。



****



「いやー本当(ほんとう)に久(ひさ)しぶりだねー! それにその制服(せいふく)! ショースケも宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)になったんだねー!」


 ポスリコモスの中央(ちゅうおう)広場(ひろば)のベンチに座(すわ)って、カランは足(あし)の間(あいだ)にある口(くち)でモサモサした食(た)べ物(もの)を頬張(ほおば)りながらはしゃいでいます。


「ねぇショースケ、食(た)べないの? コセツベのモヨキュ焼(や)き。美味(おい)しいよー? この間(あいだ)食(た)べよーって言(い)ってたのにモンスターに襲(おそ)われて一緒(いっしょ)に食(た)べられなかったから、ボク気(き)になってたんだよねー」


 …隣(となり)に座(すわ)ったショースケはコセツベのモヨキュ焼(や)きを手(て)に持(も)ったまま、目(め)を逸(そ)らしています。


「ショースケー? …あ! わかった、あーんして欲(ほ)しいんだ?」


 カランが伸(の)ばした足(あし)をショースケの口元(くちもと)に近(ちか)づけるので…ショースケはブンブンと首(くび)を振(ふ)って、やっと口(くち)を開(ひら)きました。


「違(ちが)うよ! あーんして欲(ほ)しいわけないじゃん!」


「えー? じゃあどうして欲(ほ)しいのさ?」


「どうして欲(ほ)しいとかじゃないの! 逆(ぎゃく)に何(なん)でカランはそんなに普通(ふつう)なの⁉」


 …そう言(い)ったショースケは俯(うつむ)いて、小(ちい)さな声(こえ)を漏(も)らします。


「…僕(ぼく)のこと、恨(うら)んでないの…?」


「え? 何(なん)で恨(うら)むの?」


 カランは心底(しんそこ)きょとーんとしているようで、耳(みみ)をピコピコさせながら宝石(ほうせき)のような目(め)を動(うご)かしてキラキラさせました。


「何(なん)でって…だって僕(ぼく)、カランが僕(ぼく)を助(たす)けてモンスターに襲(おそ)われたとき…逃(に)げちゃったから…」


「えっ、そうなのー? ボク見(み)えてなかったから気(き)が付(つ)かなかったよー!」


「え」


「えー?」


 …どうやらバレてなかったようなのに墓穴(ぼけつ)を掘(ほ)ったようです。


 ショースケは体(からだ)が冷(つめ)たくなるのを感(かん)じながら…乾(かわ)いた唇(くちびる)をなんとか動(うご)かしました。


「その…ごめん、なさい…怒(おこ)ったよね…?」


「なんでー?」


 …緊張(きんちょう)しているのが悲(かな)しくなるほど、カランは気(き)の抜(ぬ)けた声(こえ)を出(だ)します。


 ショースケは逆(ぎゃく)に腹(はら)が立(た)ってきました。


「いや、怒(おこ)りなよ⁉ カラン、僕(ぼく)のせいで怪我(けが)して危(あぶ)なかったんでしょ⁉」


「でもボクも助(たす)かったし、ショースケも助(たす)かったでしょー? 何(なに)がダメなの?」


 ニコニコしながらコセツベのモヨキュ焼(や)きを食(た)べきったカランを見(み)て…馬鹿(ばか)らしくなったショースケはやっと、自分(じぶん)の分(ぶん)のモヨキュ焼(や)きを口(くち)に入(い)れました。


 モサモサで、すぐに千切(ちぎ)れる糸(いと)の束(たば)を食(た)べているような感触(かんしょく)で…悔(くや)しいかな美味(おい)しいです。


「ね? それ美味(おい)しいでしょー? あ、そうだ!」


 カランはキラリと瞳(ひとみ)を光(ひか)らせました。


「ショースケさっき、初(はじ)めて会(あ)ったときみたいにしょんぼりしてたね? 何(なん)でー? …あ! 待(ま)って、やっぱりボクが当(あ)てるから!」


 むむむーと、足(あし)を一本(いっぽん)額(ひたい)に当(あ)ててカランは考(かんが)え込(こ)むと…垂(た)れていた耳(みみ)をピコンと立(た)たせます。


「お腹(なか)空(す)いてたから! どう⁉ あ、それとも…おやつ食(た)べるの忘(わす)れちゃったとか?」


「…その調子(ちょうし)だと永遠(えいえん)に当(あ)たらないと思(おも)うよ」


 ショースケは口(くち)の中(なか)のモヨキュ焼(や)きを飲(の)み込(こ)んで、はぁ、と小(ちい)さくため息(いき)を吐(つ)きました。


「別(べつ)に…ただちょっと、僕(ぼく)って役(やく)に立(た)たないなと思(おも)ってただけさ」


「へー! ショースケ役(やく)に立(た)たないんだ!」


 …改(あらた)めて他人(たにん)に声(こえ)に出(だ)されると少々(しょうしょう)苛立(いらだ)ちます。


「べ、別(べつ)に⁉ 全然(ぜんぜん)役(やく)に立(た)たないってワケじゃ無(な)くて? 今(いま)は立(た)てなかったってだけで?」


 自分(じぶん)で言(い)ったくせに自分(じぶん)で言(い)い訳(わけ)をしているショースケを、カランは不思議(ふしぎ)そうに見(み)つめました。


「ふーん? それで、何(なん)で役(やく)に立(た)ちたいのー?」


「そ、それは! だってコンビだし…」


 そう言(い)い返(かえ)したショースケは、もごもごと続(つづ)きの言葉(ことば)を紡(つむ)ぎます。


「…僕(ぼく)のコンビ、僕(ぼく)より級(きゅう)が上(うえ)なんだ。それでその…悔(くや)しいけどすごくて。だから…役(やく)に立(た)てないと、もっと置(お)いていかれそうっていうか…」


「へー! つまり…ショースケ、コンビの相手(あいて)のこと好(す)きなんだね! ボクもボクのコンビ大好(だいす)き!」


 …ショースケはそんなことを言(い)ったつもりは無(な)かったのですが、カランはうんうんと納得(なっとく)したように体(からだ)を弾(はず)ませました。


「聞(き)いてよショースケ! ボクのコンビとっても優(やさ)しいんだー! あと強(つよ)くて、判断(はんだん)も早(はや)くて、いつもボクを助(たす)けてくれるんだよー?」


「それはっ…僕(ぼく)のコンビだってそうだよ!」


 何故(なぜ)だが反射(はんしゃ)的(てき)に言(い)い返(かえ)してしまったショースケを、カランはニコニコと見(み)つめます。


「うんうん、大好(だいす)きなんだねー! じゃあさー、ショースケは…役(やく)に立(た)つからそのコンビと一緒(いっしょ)に居(い)たいの?」


「そんなわけないじゃん!」


 静(しず)かな中央(ちゅうおう)広場(ひろば)に、ショースケの大(おお)きな声(こえ)が響(ひび)きました。


「僕(ぼく)は別(べつ)に、タカヤが強(つよ)いからコンビ組(く)んでるんじゃない! 僕(ぼく)のこと助(たす)けてくれるから大事(だいじ)なんじゃ無(な)い! でも…だからこそ、役(やく)に立(た)てるようになりたいの!」


 …気付(きづ)かない間(あいだ)に立(た)ち上(あ)がって叫(さけ)んでいたショースケは、辺(あた)りをキョロキョロ見回(みまわ)してから慌(あわ)ててベンチに座(すわ)り直(なお)します。


「…ごめん、急(きゅう)に大(おお)きい声(こえ)出(だ)して」


「いいよー? あはは、それにしてもショースケって変(へん)なのー!」


「変(へん)って何(なに)が?」


 少(すこ)しムッとして眉(まゆ)をつり上(あ)げるショースケに、カランは瞳(ひとみ)を輝(かがや)かせて笑(わら)いかけました。


「だってー、ショースケがそんな風(ふう)に思(おも)ってくれてるんだよ? その気持(きも)ちが、コンビの相手(あいて)の役(やく)に立(た)ってないわけないじゃない! ボクだったら嬉(うれ)しくって、何(なん)でも頑張(がんば)れちゃう気(き)がするもん!」


「…そ、そうかな?」


「そうだよー! 絶対(ぜったい)そうに決(き)まってるよ!」


 軽(かろ)やかな笑(わら)い声(ごえ)を上(あ)げながら、カランは空(そら)を見上(みあ)げます。


「ショースケのコンビは幸(しあわ)せ者(もの)だねー…あ、見(み)て見(み)て! 空(そら)の色(いろ)が変(か)わってきた!」


 オレンジと白(しろ)と緑(みどり)のマーブル模様(もよう)だった空(そら)は、少(すこ)しずつ、まるでかき氷(ごおり)にイチゴとブルーハワイのシロップを同時(どうじ)にかけたように…赤(あか)と青(あお)に変(か)わっていきます。


「…本当(ほんとう)だ。この空(そら)の色(いろ)は初(はじ)めて見(み)たかも」


「この色(いろ)、珍(めずら)しいんだよ! 赤(あか)と青(あお)の空(そら)は、見(み)るとラッキーなことがある、なんて言(い)われてるんだー! あ、だからショースケに会(あ)えたのかも! わーい!」


 カランは飛(と)べそうなほど、耳(みみ)をパタパタ動(うご)かしました。


 赤(あか)と青(あお)の空(そら)が、カランの宝石(ほうせき)のような紫(むらさき)の瞳(ひとみ)に映(うつ)ると…瞳(ひとみ)は少(すこ)しピンクがかった色(いろ)になったように見(み)えます。


 それが、まるでさっき見(み)たフォーン石(せき)のように…いや、それ以上(いじょう)に綺麗(きれい)に見(み)えて…微笑(ほほえ)んだショースケは、最後(さいご)の一口(ひとくち)のモヨキュ焼(や)きを頬張(ほおば)りました。


「…そうだね、僕(ぼく)もラッキーかも!」


 やわらかい風(かぜ)が吹(ふ)き抜(ぬ)けて…どこかから甘(あま)い匂(にお)いがして。


 ショースケはやっと、あの日(ひ)の続(つづ)きを歩(ある)き始(はじ)めた気(き)がしたのでした。 



****



「さー、その辺(へん)適当(てきとう)に座(すわ)ってくださいー」


 イルクマは機械(きかい)の準備(じゅんび)をしながら、タカヤに怠(だる)そうに声(こえ)をかけました。


 …足(あし)の踏(ふ)み場(ば)も無(な)い部屋(へや)のどこに座(すわ)れと言(い)うのでしょう、タカヤがオロオロと辺(あた)りを見回(みまわ)していると…たくさん積(つ)み上(あ)げられた荷物(にもつ)の中(なか)に丸(まる)い瓶(びん)がありました。


 丸(まる)い瓶(びん)の中(なか)は何(なに)やら怪(あや)しい水色(みずいろ)の液体(えきたい)で満(み)たされていて、その液体(えきたい)の中(なか)には…細(ほそ)い糸(いと)が括(くく)り付(つ)けられた皮付(かわつ)きのバナナが浮(う)かんでいます。


 …何(なん)だかどこかで見(み)たことがあるような?


 タカヤが首(くび)を傾(かし)げていると、イルクマがまた声(こえ)を出(だ)します。


「それ珍(めずら)しいでしょう、気(き)に入(い)っているんですー。あげませんよー?」


「あ、あはは…取(と)ったりしませんよ?」


 荷物(にもつ)の隙間(すきま)にそろりと足(あし)を置(お)きながら、タカヤはイルクマの近(ちか)くにあった、小(ちい)さな床(ゆか)の隙間(すきま)にやっと座(すわ)りました。


「…さてー、じゃあ見(み)せてもらいましょうかー」


 イルクマが大(おお)きな機械(きかい)に触(ふ)れると、機械(きかい)からたくさんの管(くだ)が伸(の)びてきて、タカヤの体(からだ)をふわりと撫(な)でていきました。


「ふーん。やっぱりかなり上手(うま)く適合(てきごう)しているようですねー…ですがー。アナタ、このままではコスモピースの力(ちから)に飲(の)み込(こ)まれて消滅(しょうめつ)するところでしたねー」


 左目(ひだりめ)の前(まえ)に浮(う)かぶレンズに触(ふ)れながら、イルクマは続(つづ)けます。


「コスモピースは周囲(しゅうい)の空気(くうき)や熱(ねつ)、光(ひかり)や音(おと)など…ありとあらゆるものを吸収(きゅうしゅう)してー、エネルギーを無限(むげん)に作(つく)り出(だ)し続(つづ)ける石(いし)ですー。単体(たんたい)では機能(きのう)せずー、『入(い)れ物(もの)』である『生物(せいぶつ)』と一体化(いったいか)して取(と)り込(こ)まれることで力(ちから)を発揮(はっき)するー…つまりー、『入(い)れ物(もの)』がコスモピースの力(ちから)に耐(た)えきれず壊(こわ)れてしまえばー、コスモピースも一緒(いっしょ)に壊(こわ)れますー。もちろん、地球人(ちきゅうじん)に適応(てきおう)するようになんて作(つく)っていませんからー…アナタにはその力(ちから)は強大(きょうだい)過(す)ぎますー」


「…そうでしょうね」


 いつものように笑(わら)ってみせたタカヤを、イルクマは顔(かお)をしかめて覗(のぞ)き込(こ)みました。


「アナタ、嫌(いや)に冷静(れいせい)ですねー。もっと焦(あせ)ったらどうですー?」


「あはは…」


「…そのわざとらしい笑(わら)い方(かた)、私(わたし)の昔(むかし)の仲間(なかま)に似(に)てますー」


「昔(むかし)の仲間(なかま)…」


 タカヤは少(すこ)し悩(なや)んでから、口(くち)を開(ひら)きます。


「あの、イルクマさん。お尋(たず)ねしてもいいですか?」


「ダメですー」


「それならいいです」


 至極(しごく)爽(さわ)やかにタカヤがそう返(かえ)したのが…イルクマはちょっと気(き)に入(い)らなかったようです。


「…もう少(すこ)し食(く)い下(さ)がるものじゃありませんかー? 仮(かり)にも聞(き)きたいことなんでしょうー?」


「ですがイルクマさんがダメって…」


「…あーもう、わかりましたー。一(ひと)つだけなら答(こた)えてあげましょうー、なんですかー?」


 ひどくぶっきらぼうに答(こた)えて、イルクマは立(た)ったまま、その辺(へん)の荷物(にもつ)の上(うえ)に肘(ひじ)を置(お)いて頬杖(ほおづえ)をつきました。


「いいんですか? それでは…イルクマさんと肖(しょう)造(ぞう)さん…トリスタル星人(せいじん)は、無限(むげん)の命(いのち)を持(も)っているんですよね?」


「そうですよー」


「でも、イルクマさんは先(さき)ほど…トリスタル星人(せいじん)はもう自分(じぶん)たち二人(ふたり)しか居(い)ないと仰(おっしゃ)いました。無限(むげん)の命(いのち)を持(も)っているのに、何故(なぜ)…他(ほか)の方(かた)は居(い)なくなったのですか?」


 …タカヤの質問(しつもん)に、イルクマはしばらく口(くち)を閉(と)ざします。


「…ご、ごめんなさい! 聞(き)いてはいけないことでしたね…俺(おれ)、失礼(しつれい)します!」


「待(ま)ちなさいー」


 慌(あわ)てて研究(けんきゅう)室(しつ)を出(で)ようとするタカヤを、イルクマは後(うし)ろから呼(よ)び止(と)めました。


「自分(じぶん)で聞(き)いたんだから、ちゃんと最後(さいご)まで聞(き)いてくださいよー…確(たし)かに私(わたし)たちには無限(むげん)の命(いのち)がありますー。寿命(じゅみょう)はありませんし、刺(さ)されようが、粉々(こなごな)になろうが、宇宙空間(うちゅうくうかん)に飛(と)び出(だ)そうが何(なん)ともありませんー。でも…」


 俯(うつむ)いたイルクマの左目(ひだりめ)のレンズが、白(しろ)く曇(くも)って光(ひか)ります。


「無限(むげん)の命(いのち)には条件(じょうけん)があった…ただ、それだけですー」




 しんとした研究室(けんきゅうしつ)の中(なか)。


 どこかで積(つ)み上(あ)げた大切(たいせつ)な荷物(にもつ)が崩(くず)れたのでしょう、ガラガラと大(おお)きな音(おと)が立(た)ちました。



 …それが聞(き)こえていないわけがないのに…イルクマがしばらく、顔(かお)を上(あ)げることはありませんでした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。