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第二十五話 希望

****


「ねぇねぇタカヤ! 見(み)て見(み)て見(み)てっ!!!」


 金曜日(きんようび)、学校(がっこう)終(お)わりの午後(ごご)四(よ)時過(じす)ぎ。


 タカヤの家(いえ)にやって来(き)たショースケは、玄関(げんかん)ドアをくぐるなり大騒(おおさわ)ぎです。


「どうしたんだよ、ショースケ」


「どうしたなんてもんじゃないんだよ! ほら、これ見(み)てっ!」


 ショースケはカバンの中(なか)からバッジを取(と)りだして、タカヤの顔(かお)の前(まえ)にずずいっと見(み)せつけました。


「えーっと…霧(きり)谷(たに)ショースケ、九(きゅう)級(きゅう)…お、ショースケ九(きゅう)級(きゅう)になったのか! おめでとう!」


「そう! さっき家(いえ)に帰(かえ)ったら本部(ほんぶ)から連絡(れんらく)が来(き)てたの! しかし…自分(じぶん)で言(い)うのもなんだけど、僕(ぼく)この間(あいだ)結構(けっこう)なことやらかしたと思(おも)うのによく昇格(しょうかく)出来(でき)たよねー」


 口(くち)ではそう言(い)いながらも、ショースケは頬(ほお)が緩(ゆる)んで仕方(しかた)がありません。


「きっとショースケが今(いま)まで頑張(がんば)って来(き)たからだよ」


「えへへー、そうかなぁ。ところでタカヤ、今日(きょう)は確(たし)かじーちゃんに呼(よ)ばれたんだよね? どうやらライトさんも呼(よ)ばれて本部(ほんぶ)に行(い)ってるみたいでさ、もう家(いえ)に居(い)なかったよ」


「ああ。肖(しょう)造(ぞう)さんに連絡(れんらく)を取(と)ったら、ショースケも一緒(いっしょ)に連(つ)れて来(き)てくれって言(い)われたんだ。出来(でき)るだけ急(いそ)いでって頼(たの)まれてるし、もう行(い)かないとな」


 タカヤは普段(ふだん)は締(し)め切(き)っている和室(わしつ)の引(ひ)き戸(ど)を開(あ)けました。


 その畳(たたみ)の上(うえ)には、長方形(ちょうほうけい)の大(おお)きな枠(わく)が立(た)てて置(お)いてあります。


「え、これってもしかして…ワープ装置(そうち)⁉」


「そうだよ、ポスリコモスまで直接(ちょくせつ)行(い)くことが出来(でき)るんだ。前(まえ)は父(とう)さんと母(かあ)さんが使(つか)ってて、今(いま)は俺(おれ)がたまにつかってるよ」


「タカヤこんなの持(も)ってたの⁉ 言(い)ってよ、そしたら特急(とっきゅう)こすもに乗(の)らなくてもいつでもポスリコモス行(い)き放題(ほうだい)じゃん!」


 ポスリコモス大好(だいす)きなショースケは目(め)を輝(かがや)かせます。


「うーん、でも動(うご)かすのには特別(とくべつ)なエネルギーが必要(ひつよう)で…そのコストが高(たか)いから、俺(おれ)もどうしてもの時(とき)以外(いがい)は使(つか)ってないよ」


「ちなみに、一回(いっかい)使(つか)うのにいくらくらいかかるの?」


「えーっと大体(だいたい)…」


 タカヤがぽしょぽしょショースケに耳打(みみう)ちすると…


「…うん! 僕(ぼく)、特急(とっきゅう)こすもに乗(の)るからいいかな!」


 …どうやらショースケのお給料(きゅうりょう)事情(じじょう)では無理(むり)があったようです。


 そこへ階段(かいだん)からドコドコ音(おと)を立(た)てながら、ロボットのツバサが一(いっ)階(かい)へ下(お)りてきました。


「ア! ショースケ ヤット キタネ! ホラ、ハヤク イコウ!」


 ツバサは触覚(しょっかく)をぶんぶん揺(ゆ)らしてとっても上機嫌(じょうきげん)です。


「今日(きょう)はツバサも一緒(いっしょ)に行(い)くの?」


「ソウ! ショウゾウ ガ キテモ イイヨ ッテ! ボク、タカヤ ノ リョウシン ニ アウ ノ ハジメテ! タノシミ!」


「あ、ツバサ会(あ)ったことないんだー」


 ショースケが何気(なにげ)なく口(くち)にすると…ツバサは触覚(しょっかく)を二(に)本(ほん)使(つか)って、器用(きよう)にショースケのふくらはぎを抓(つね)りました。


「痛(いた)い痛(いた)い! え、何(なに)⁉」


「ツバサ、痛(いた)いことしたらダメだろ…さ、ポスリコモスに行(い)くか」


 タカヤはツバサを抱(だ)きかかえて、ワープ装置(そうち)の上部(じょうぶ)に付(つ)いたボタンを押(お)しました。


 何(なに)も無(な)かった四角(しかく)い枠(わく)の中(なか)に、虹色(にじいろ)のマーブル模様(もよう)のモヤが現(あらわ)れます。


「うーん…今(いま)からこれをくぐったら、あれだけのお金(かね)がかかるのか…」


「ショースケ、今(いま)はそれは気(き)にしなくていいから。ほら行(い)くぞ」


 タカヤとツバサが先(さき)にくぐった枠(わく)の中(なか)を、ショースケも急(いそ)いで追(お)いかけるようにくぐって行(い)きました。



****



 宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)の真(ま)っ白(しろ)な廊下(ろうか)を進(すす)んで、伝(つた)えられていた部屋(へや)の扉(とびら)を開(ひら)くと…部屋(へや)の中(なか)では、春子(はるこ)と諄(じゅん)弌(いち)とライトがお茶(ちゃ)を飲(の)みながら談笑(だんしょう)していました。


「あら。タカヤ、ショースケくん、来(き)てくれたのね! …まぁ! もしかしてあなたツバサ?」


 春子(はるこ)はにっこり笑(わら)って、すぐにツバサを抱(だ)き上(あ)げます。


「ソウ! ボク ツバサ! タカヤ ノ カアサン スッゴク タカヤ ソックリ!」


「うふふ、そうでしょ? いつも言(い)われるの。きゃー、やわらかくって可愛(かわい)い! ねぇ諄(じゅん)弌(いち)も触(さわ)ってみて?」


「ふむ…マシュマロ、みたいだな…」


 …ツバサが二人(ふたり)にもみくちゃにされている間(あいだ)に、タカヤとショースケはライトと同(おな)じテーブルに着(つ)きました。


「ねぇライトさん、のんきにお茶(ちゃ)なんて飲(の)んでていいの? 僕(ぼく)たち急(いそ)いで来(き)てって言(い)われたんだけど」


 ショースケはテーブルの真(ま)ん中(なか)に置(お)いてあるお菓子(かし)にすぐさま手(て)を伸(の)ばし、封(ふう)を開(あ)けながら尋(たず)ねます。


「うん、僕(ぼく)もそう言(い)われて急(いそ)いで来(き)たんだけどね…どうも客人(きゃくじん)が起(お)きないらしいんだ」


「客(きゃく)? 誰(だれ)か来(き)てるの?」


「そう。今日(きょう)、春子(はるこ)さんと諄(じゅん)弌(いち)さんが戻(もど)ってきたときに一緒(いっしょ)に連(つ)れて来(き)たって聞(き)いてるよ。そうでしたよね?」


 ライトが声(こえ)をかけると、春子(はるこ)はツバサを胸(むね)に抱(かか)えたまま頷(うなず)きました。


「ええ。ごめんね、到着(とうちゃく)直前(ちょくぜん)に寝(ね)始(はじ)めちゃって…とってもマイペースな人(ひと)なのよ。一緒(いっしょ)にUFO(ゆーふぉー)に乗(の)っている間(あいだ)も寝(ね)てばかりだったし、いろんな質問(しつもん)もしたけれど全然(ぜんぜん)答(こた)えてもらえなくて…ちょっと困(こま)っちゃった」


 春子(はるこ)が小(ちい)さくため息(いき)を吐(つ)くと…




「起(お)きましたけどー?」




 …突然(とつぜん)、部屋(へや)の真(ま)ん中(なか)に見慣(みな)れないET(いーてぃー)が現(あらわ)れました。


 宝石(ほうせき)のように輝(かがや)く黒(くろ)い体(からだ)…以前(いぜん)出会(であ)ったココレヨさんと同(おな)じオラブ星人(せいじん)のようですが、左目(ひだりめ)の前(まえ)にはモノクルに似(に)た丸(まる)くて透明(とうめい)なレンズが浮(う)いています。


「全(まった)くー、突然(とつぜん)こんなところに連(つ)れてきて…起(お)きたら知(し)らない部屋(へや)に居(い)ましたからー、わざわざこっちから出向(でむ)いて来(き)てあげましたよー?」


 ふてくされているオラブ星人(せいじん)は首(くび)をゴキゴキ鳴(な)らしたかと思(おも)うと…瞬(まばた)きをする間(ま)にタカヤの前(まえ)に立(た)っていました。


「会(あ)いたかったですー、コスモピース…まさかこの間(あいだ)ので壊(こわ)れないなんて予想外(よそうがい)でしたー。思(おも)ったより体(からだ)に適合(てきごう)しているのかもしれませんねー」


 オラブ星人(せいじん)は感情(かんじょう)の籠(こ)もっていない声(こえ)で淡々(たんたん)と喋(しゃべ)ります。


「この間(あいだ)…? 何(なに)かあったのか…?」


「さぁ…ねぇライトくん何(なに)か知(し)ってる?」


 不安(ふあん)そうな表情(ひょうじょう)を浮(う)かべた諄(じゅん)弌(いち)と春子(はるこ)に、ライトが何(なに)も言(い)えないでいると…オラブ星人(せいじん)は突然(とつぜん)、タカヤの腕(うで)を掴(つか)みました。


「さぁ、行(い)きましょーコスモピース」


「え…行(い)くってどこへですか…?」


「私(わたし)が居(い)たオラブ星(せい)ですよー。少(すく)ないですが、あそこには私(わたし)が集(あつ)めた材料(ざいりょう)がありますからねー」


「材料(ざいりょう)…?」


「はいー」


 オラブ星人(せいじん)が左目(ひだりめ)のレンズに触(ふ)れると…突然(とつぜん)空間(くうかん)が大(おお)きく裂(さ)けて、ワープ装置(そうち)の中(なか)のような虹色(にじいろ)のモヤが現(あらわ)れます。


「今度(こんど)こそコスモピース、アナタを消(け)し去(さ)るための生物(せいぶつ)を作(つく)る材料(ざいりょう)ですー。さぁ、行(い)きます…よー?」


 …ライトがタカヤの体(からだ)を、後(うし)ろから抱(だ)きしめるように引(ひ)っ張(ぱ)りました。


「あのー、アナタはいらないから来(こ)なくていいんですけどー? 離(はな)してくださいー」


「行(い)かせるわけないだろ! 一体(いったい)どういうつもりだ!」 


 もの凄(すご)い剣幕(けんまく)で、ライトはオラブ星人(せいじん)を睨(にら)みました。


 その間(あいだ)にショースケも春子(はるこ)も諄(じゅん)弌(いち)もツバサも、タカヤの体(からだ)を掴(つか)んでオラブ星人(せいじん)とは逆(ぎゃく)方向(ほうこう)に引(ひ)っ張(ぱ)ります。


 …どうも力(ちから)は弱(よわ)いらしいオラブ星人(せいじん)は、そのままズルズルと引(ひ)き摺(ず)られ…堪(たま)らずタカヤを掴(つか)んだ手(て)を離(はな)しました。


「うーん、馬鹿力(ばかぢから)ですねー…全(まった)くー。どういうつもりもなにもー、私(わたし)はコスモピースを持(も)って帰(かえ)るために、わざわざあんなに遅(おそ)いUFO(ゆーふぉー)に乗(の)ってここまで来(き)てやったんですー。感謝(かんしゃ)して欲(ほ)しいくらいですよー?」


 オラブ星人(せいじん)は苛立(いらだ)ちを押(お)さえられないのか、わざとらしく足(あし)を鳴(な)らします。


「ちょこまかと邪魔(じゃま)ですねー…アナタたちなんて、私(わたし)の頭脳(ずのう)にかかれば今(いま)すぐ消(け)してしまえるんですよー? 仕方(しかた)ないー、わからせてあげましょうかー」


 大層(たいそう)面倒(めんどう)くさそうに顔(かお)をしかめて、オラブ星人(せいじん)がまた左目(ひだりめ)のレンズに触(ふ)れました。


 すると部屋(へや)中(じゅう)のあちこちの空間(くうかん)が裂(さ)けて、その中(なか)から銃口(じゅうこう)のようなものがいくつも現(あらわ)れます。


「別(べつ)に傷(きず)つけたいわけでは無(な)いんですけどー、邪魔(じゃま)をするのが悪(わる)いんですよー? …大人(おとな)しくしててくださいねー」


 オラブ星人(せいじん)がもう一度(いちど)左目(ひだりめ)のレンズに触(ふ)れようとした、その手(て)を…


「やめてください」


 …気(き)が付(つ)いた時(とき)には、タカヤの背中(せなか)から伸(の)びた触手(しょくしゅ)が絡(から)め取(と)っていました。


 さらに数(かぞ)え切(き)れない本数(ほんすう)の触手(しょくしゅ)を背中(せなか)から生(は)やしたタカヤは、それを使(つか)って空間(くうかん)から現(あらわ)れた銃口(じゅうこう)を目(め)にも留(と)まらぬ速(はや)さで全(すべ)て捻(ね)じ曲(ま)げ終(お)えると…そのままオラブ星人(せいじん)の体(からだ)に大量(たいりょう)の触手(しょくしゅ)を巻(ま)き付(つ)けて拘束(こうそく)します。


「俺(おれ)もあなたを傷(きず)つけたいわけでは無(な)いんですけど…俺(おれ)の大切(たいせつ)な人(ひと)を傷(きず)つけるなら容赦(ようしゃ)はしません。悪(わる)く思(おも)わないでくださいね」


 タカヤは赤(あか)と青(あお)に…コスモピースの色(いろ)になった瞳(ひとみ)を鋭(するど)く輝(かがや)かせました。


 動(うご)きを封(ふう)じられたオラブ星人(せいじん)は特(とく)に暴(あば)れることも無(な)く、興味深(きょうみぶか)そうにその姿(すがた)を見(み)つめています。


「コスモピース…こんなことも出来(でき)るんですねー。これぐらいしゃ敵(かな)いませんかー…さすが、私(わたし)の最高(さいこう)傑作(けっさく)ですー」




 するとそこへ、血相(けっそう)を変(か)えた肖(しょう)造(ぞう)が部屋(へや)へと飛(と)び込(こ)んできました!


「おい! アイツが居(お)らん、どこへ行(い)ったか知(し)らんか…って何(なん)でここに居(お)るんじゃいっ!」


 肖(しょう)造(ぞう)はバタバタと、拘束(こうそく)されたままタカヤを見(み)つめているオラブ星人(せいじん)に近(ちか)づいて、大(おお)きな声(こえ)で怒鳴(どな)り付(つ)けます。


「やっと目(め)が覚(さ)めたと思(おも)ったら、何(なに)を暴(あば)れとるんじゃ!」


「うーるーさーいーでーすー…なんですかーアナ、タ…」


 さも不快(ふかい)そうに顔(かお)を歪(ゆが)めたオラブ星人(せいじん)はやっと、目(め)線(せん)だけを動(うご)かして肖(しょう)造(ぞう)を見(み)て…それはそれは、でっかいため息(いき)を吐(つ)きました。


「…やっとわかりましたー…変(へん)だと思(おも)ったんですー。この宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)、でしたっけー? ここの至(いた)るところにある設備(せつび)や道具(どうぐ)ー、私(わたし)がはるか昔(むかし)に作(つく)ったものにあまりにも似(に)すぎていますからー」


 オラブ星人(せいじん)はまた一(ひと)つため息(いき)を吐(つ)くと、肖(しょう)造(ぞう)の方(ほう)へ顔(かお)を向(む)けます。


「その特徴(とくちょう)…アィーシャの子(こ)ですねー? そしてアナタは、アィーシャの記憶(きおく)の一部(いちぶ)を継承(けいしょう)しているー…合(あ)ってますかー?」


「…ほう、さすがじゃのう。見(み)ただけでわかるか」


「わかりますよー…それにしても、まさかあのアィーシャがコスモピースを盗(ぬす)んでいたなんて。いくら探(さが)しても見(み)つからないわけですー…まぁ、おおよその理由(りゆう)は推測(すいそく)できますから怒(おこ)る気(き)も起(お)きませんけどー」


 …二人(ふたり)の会話(かいわ)に、周囲(しゅうい)は付(つ)いていけません。


「肖(しょう)造(ぞう)おじさん、アィーシャって誰(だれ)ですか? 僕(ぼく)の祖母(そぼ)や祖父(そふ)のあだ名(な)…では無(な)さそうなんですが」


 ライトが困惑(こんわく)していると、オラブ星人(せいじん)は大(おお)きく首(くび)を傾(かし)げて…その体(からだ)をぐにょぐにょ変形(へんけい)させ始(はじ)めました。


「もしかしてー…アナタ言(い)ってないんですかー? まぁー、そこに居(い)るコスモピースは知(し)っているでしょうけどー」


 そしてそのまま、薄(うす)い隙間(すきま)からタカヤの拘束(こうそく)を逃(のが)れたオラブ星人(せいじん)…いえ、オラブ星人(せいじん)だと思(おも)っていた生物(せいぶつ)は…磨(す)りガラスのように透(す)き通(とお)った体(からだ)をしたET(いーてぃー)に姿(すがた)を変(か)えました。


 背(せ)は二(に)メートル以上(いじょう)あり、長(なが)い首(くび)に細(ほそ)い腕(うで)、すらりとして膝(ひざ)の無(な)い足(あし)…そして左目(ひだりめ)の前(まえ)には、変身(へんしん)前(まえ)から装着(そうちゃく)していた透明(とうめい)なレンズが浮(う)かんだままです。


「…今(いま)となってはこの宇宙(うちゅう)で私(わたし)とアナタ二人(ふたり)だけのー…トリスタル星人(せいじん)の生(い)き残(のこ)りであるとー」


 口(くち)の無(な)い生物(せいぶつ)…トリスタル星人(せいじん)は体(からだ)から、そう声(こえ)を発(はっ)しました。


「…ああ、今(いま)の今(いま)まで言(い)ってなかったわい!」


 ニヤリと笑(わら)った肖(しょう)造(ぞう)は、ぐにょぐにょと粘土(ねんど)のように体(からだ)を変形(へんけい)させて、目(め)の前(まえ)のET(いーてぃー)とそっくりに姿(すがた)を変(か)えました。


「この姿(すがた)に戻(もど)るのは数十(すうじゅう)年(ねん)ぶりじゃよ…おお、懐(なつ)かしい感覚(かんかく)じゃのう!」


 肖(しょう)造(ぞう)はそのままほんの数(すう)歩(ほ)、周(まわ)りを歩(ある)いてみましたが…


「…しかしこの姿(すがた)、めちゃくちゃ動(うご)きにくいのう。膝(ひざ)は曲(ま)がらんし…このままじゃ肩(かた)が凝(こ)りそうじゃ」


 そう言(い)って一(ひと)つ伸(の)びをすると、すぐに地球(ちきゅう)人(じん)の姿(すがた)に戻(もど)ってしまいました。


「えー、もう戻(もど)るんですかー? 本当(ほんとう)の姿(すがた)が動(うご)きにくいなんて、アナタ変(へん)なこと言(い)いますねー」


「ワシらに本当(ほんとう)の姿(すがた)なんてあって無(な)いようなもんじゃろ? さて…その見(み)た目(め)に喋(しゃべ)り方(かた)。お前(まえ)の名前(なまえ)はイルクマじゃな? …まさかお前(まえ)がこんなことを仕出(しで)かすなんて思(おも)わんかったよ」


「こんなことー…? 何(なん)のことですかー。それより…アィーシャの記憶(きおく)を一部(いちぶ)とはいえ継承(けいしょう)してるというのはやっかいですねー。名前(なまえ)まで知(し)られているとはー…とっても不快(ふかい)ですー」


 イルクマは心底(しんそこ)嫌(いや)そうに、長(なが)い首(くび)を曲(ま)げて俯(うつむ)きます。


「…さて、イルクマ。面倒(めんどう)くさいことは抜(ぬ)きじゃ、単刀直入(たんとうちょくにゅう)に言(い)う。もう一(ひと)つのコスモピースを渡(わた)してくれ」


「…はいー…?」


「とぼけるな!」


 肖(しょう)造(ぞう)はイルクマのなだらかな肩(かた)を掴(つか)みました。


「コスモピースは…イルクマ、お前(まえ)の発明品(はつめいひん)じゃ。ただ…惑星(わくせい)トリスタルが荒(あ)れ地(ち)となった今(いま)、トリスタルでしか取(と)れない材料(ざいりょう)を多用(たよう)する必要(ひつよう)があるコスモピースをもう作(つく)り出(だ)すことは出来(でき)ない、そうじゃろう?」


 …イルクマは頭(あたま)を下(さ)げたまま動(うご)きません。


「…お前(まえ)がコスモピースを惑星(わくせい)トリスタルから持(も)ち出(だ)したことはわかっとる。そして…そのコスモピースの強大(きょうだい)な力(ちから)を独占(どくせん)するために、お前(まえ)にとって邪魔(じゃま)な存在(そんざい)であるタカヤを攻撃(こうげき)したこともな!」


 周囲(しゅうい)の驚(おどろ)いた様子(ようす)は差(さ)し置(お)いて、肖(しょう)造(ぞう)はまくし立(た)てるように続(つづ)けます。


「ワシらはタカヤの中(なか)に入(はい)っているコスモピースを相殺(そうさい)して、タカヤを元(もと)の人間(にんげん)に戻(もど)すために…どうしても、もう一(ひと)つコスモピースが必要(ひつよう)なんじゃ。頼(たの)む、渡(わた)してくれ…危害(きがい)は加(くわ)えたくない」


 …イルクマは動(うご)きません。


「…っ! 聞(き)いとんのか!」


 肖(しょう)造(ぞう)が掴(つか)んだイルクマの肩(かた)を激(はげ)しく揺(ゆ)すると、イルクマの長(なが)い首(くび)が大(おお)きく揺(ゆ)れてその表情(ひょうじょう)が見(み)えました。


 …すると、イルクマは目(め)を閉(と)じていて…あろうことか、すやすやと寝息(ねいき)のような音(おと)を立(た)てています。


「…寝(ね)とる⁉ おい! 起(お)きんかい!」


 ぶんぶん肩(かた)を揺(ゆ)すられたイルクマはやっと目(め)を覚(さ)ましたものの、眠(ねむ)たそうに目元(めもと)を擦(こす)ります。


「ふわぁー…。だってー、ワケがわからないことばかり言(い)うんですもんー。眠(ねむ)たくなっちゃいましたー」


「わからない?」


「確(たし)かにコスモピースを発明(はつめい)したのは私(わたし)ですー。でもー、もう一(ひと)つのコスモピースなんて持(も)ってませんー。確(たし)かにもう一(ひと)つ存在(そんざい)しましたけどー…ずっと昔(むかし)に壊(こわ)れちゃいましたー」


 イルクマは肩(かた)にのせられた肖(しょう)造(ぞう)の手(て)を、細(ほそ)い腕(うで)でうざったそうに払(はら)いのけながら続(つづ)けます。


「そしてー、そこのコスモピースを攻撃(こうげき)したのは事実(じじつ)ですけどー…その理由(りゆう)はアナタたちが予想(よそう)しているものとは違(ちが)いますー。コスモピースは私(わたし)の最高傑作(さいこうけっさく)であり…最悪(さいあく)の発明(はつめい)ですー。この宇宙(うちゅう)にあってはならないー…ですから」


 イルクマはひどく、底抜(そこぬ)けに冷(つめ)たい目(め)をして見(み)せた後(あと)…ゆっくり、左目(ひだりめ)のレンズに触(ふ)れました。


「私(わたし)が、この手(て)で…消(け)し去(さ)ると決(き)めたんですー」


 すると部屋(へや)中(じゅう)の空間(くうかん)に、さっきとは比(くら)べものにならない数(かず)の裂(さ)け目(め)が出来(でき)て…その中(なか)からは先(さき)ほどより頑丈(がんじょう)そうな銃口(じゅうこう)が無数(むすう)に飛(と)び出(だ)して来(き)ました。


「さぁ…長(なが)ったらしいお喋(しゃべ)りは終(お)わりですー。行(い)きますよー、コスモピース」


 …タカヤがもう一度(いちど)コスモピースの力(ちから)で皆(みんな)を守(まも)ろうとするのを見(み)て、イルクマは淡々(たんたん)と声(こえ)をかけます。


「…今(いま)、防(ふせ)いだって無駄(むだ)ですよー? アナタが私(わたし)の元(もと)に来(く)るまで、私(わたし)は何度(なんど)でもここを…アナタの大切(たいせつ)なものを攻撃(こうげき)しますー。でもー…もし、アナタが私(わたし)の元(もと)へ来(く)るなら、もうここには二度(にど)と関(かか)わりませんー、約束(やくそく)しましょうー」


「…それは、本当(ほんとう)ですか」


 赤(あか)と青(あお)の星々(ほしぼし)が浮(う)かぶ、どこまでも黒(くろ)い瞳(ひとみ)を…タカヤはイルクマへ真(ま)っ直(す)ぐ向(む)けました。


「ええー、本当(ほんとう)ですともー。嘘(うそ)を吐(つ)いても私(わたし)に利益(りえき)がありませんからー」


「…そうですか」


 タカヤはいつものように笑(わら)うと、コスモピースの力(ちから)を解(と)いて…一歩(いっぽ)一歩(いっぽ)、イルクマへと近(ちか)づいて行(い)きます。


「待(ま)ってタカヤ! ダメだよ!」


 ショースケを筆頭(ひっとう)に、皆(みんな)がタカヤの元(もと)へ向(む)かおうとしますが…無数(むすう)の銃口(じゅうこう)が一斉(いっせい)に狙(ねら)いを定(さだ)めて来(き)て、身動(みうご)きが取(と)れません。


「邪魔(じゃま)しないでくださいー。動(うご)いたらアナタたちの頭(あたま)無(な)くなりますよー?」


 …タカヤがイルクマの細(ほそ)い腕(うで)を取(と)ろうとした、その時(とき)。




「すいません遅(おく)れましたーっ!」


 部屋(へや)の扉(とびら)がバーンと開(ひら)いたかと思(おも)うと…ヒカルが汗(あせ)だくで、息(いき)を切(き)らして入(はい)ってきました。


「思(おも)ったより仕事(しごと)が長引(ながび)いちゃって…ってえぇ⁉ 何(なに)これ、どういう状況(じょうきょう)⁉」


 部屋(へや)中(じゅう)に出来(でき)た空間(くうかん)の裂(さ)け目(め)にヒカルが動揺(どうよう)していると…


「もう、ヒカル速(はや)いわ? 置(お)いていかないで」


 その後(うし)ろから、エイギスがコツコツと足音(あしおと)を鳴(な)らして入(はい)ってきました。


 すると…




「エイギス…?」


 イルクマが目(め)を見開(みひら)いて、ポツリと呟(つぶや)きました。


 …部屋(へや)中(じゅう)に現(あらわ)れていた空間(くうかん)の裂(さ)け目(め)が全(すべ)て、みるみるうちに閉(と)じていきます。


「あら? 貴方(あなた)、ワタシの名前(なまえ)を知(し)ってるの? まぁ! 何(なん)だかワタシに似(に)た姿(すがた)をしているのね、嬉(うれ)しいわ!」


 エイギスは嬉(うれ)しそうに、イルクマと、その隣(となり)に居(い)るタカヤの元(もと)へと歩(あゆ)みを進(すす)めました。


「…どうして、アナタがここにいるんですー…?」


 震(ふる)えた声(こえ)で、イルクマは尋(たず)ねます。


「えっと…ワタシは宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)だからここにいるのよ? ねぇタカヤ、この方(かた)は知(し)り合(あ)い?」


「ええと…俺(おれ)も今日(きょう)初(はじ)めて会(あ)いました」


 エイギスとタカヤが話(はな)すのを見(み)たイルクマは…長(なが)い首(くび)を力(ちから)無(な)く垂(た)れました。


「…エイギス?」


「なぁに? そうだ、貴方(あなた)の名前(なまえ)が聞(き)きたいわ。教(おし)えてくれるかしら?」


「…そうでしたねー…私(わたし)は、イルクマですー。エイギス…アナタにとって、そのコスモピース…地球(ちきゅう)人(じん)は、大切(たいせつ)な存在(そんざい)なのですかー?」


「タカヤのこと? もちろんよ!」


 エイギスは長(なが)い睫毛(まつげ)を揺(ゆ)らして、幸(しあわ)せそうに笑(わら)いました。


「タカヤはね、ワタシのコンビのヒカルの弟(おとうと)なの! それでね、とっても優(やさ)しいのよ。ワタシ、タカヤのこと大好(だいす)きなの!」


「…そうですかー。記憶(きおく)が無(な)くなってもー…エイギスは、少(すこ)しも変(か)わりませんねー」


イルクマは愛(いと)おしそうに、そして…泣(な)き出(だ)しそうに目(め)を細(ほそ)めると…急(きゅう)に肖(しょう)造(ぞう)の方(ほう)を向(む)きました。


「そこのアナター…肖(しょう)造(ぞう)、でしたっけー? …ここに資源(しげん)は揃(そろ)っていますかー?」


「…は? 資源(しげん)?」


 ぼんやりと二人(ふたり)の様子(ようす)を見(み)ていた肖(しょう)造(ぞう)は、あまりにも突然(とつぜん)問(と)いかけられて気(き)の抜(ぬ)けた声(こえ)を出(だ)してしまいましたが…イルクマはお構(かま)いなしに喋(しゃべ)り続(つづ)けます。


「コスモピースをもう一つ同(おな)じコスモピースで相殺(そうさい)する…良(い)い考(かんが)えですが、それは不可能(ふかのう)ですー。私(わたし)が作(つく)ったコスモピースは力(ちから)を作(つく)り出(だ)して放出(ほうしゅつ)するためのものー…もし相殺(そうさい)するのなら、力(ちから)を吸収(きゅうしゅう)することに特化(とっか)した新(あたら)しいコスモピースが必要(ひつよう)ですー。そしてそのコスモピースなら…惑星(わくせい)トリスタルの材料(ざいりょう)が無(な)くても作(つく)り出(だ)せるかも知(し)れませんー」


 …周囲(しゅうい)は急(きゅう)なイルクマの態度(たいど)の変化(へんか)について行(い)けません。


「え、えーっと…一体(いったい)どうしたんだ?」


 タカヤたちを守(まも)るように前(まえ)に立(た)ったライトが首(くび)を傾(かし)げていると…イルクマはこの上(うえ)なく不満(ふまん)げにライトを見下(みくだ)しました。


「わからないんですかー? アナタ、相当(そうとう)頭(あたま)悪(わる)いですねー」


「あ、頭(あたま)悪(わる)い⁉ 何(なん)だお前(まえ)失礼(しつれい)だな! さっきみたいにまた引(ひ)っ張(ぱ)って、そこら中(じゅう)を引(ひ)き摺(ず)り回(まわ)してやろうか⁉」


 勉強(べんきょう)だけは良(よ)く出来(でき)ると思(おも)って生(い)きてきたライトです、今(いま)までそんなことは言(い)われたことがありませんので…うっかり口(くち)が悪(わる)くなってしまいます。


「あーやだやだー、野蛮(やばん)ですねー…全(まった)く仕方(しかた)ないー。理解(りかい)が追(お)いついてないようなので、わかりやすく話(はな)してあげましょうー」


 イルクマは気怠(けだる)そうに、長(なが)い首(くび)を揺(ゆ)すりました。


「アナタたちの目的(もくてき)は、この地球人(ちきゅうじん)の体(からだ)から、既(すで)に一体化(いったいか)してしまっているコスモピースを取(と)り除(のぞ)くことー。そして私(わたし)の目的(もくてき)は、コスモピースを完全(かんぜん)に消(け)し去(さ)ることー…その両方(りょうほう)は、エネルギーの吸収(きゅうしゅう)に特化(とっか)した新(あたら)しいコスモピースを作(つく)り出(だ)すことで叶(かな)えることが出来(でき)ますー。つまりー…この私(わたし)がアナタたちごときに協力(きょうりょく)してー、新(あたら)しいコスモピースを作(つく)ってやってもいいと言(い)ってるんですー!」




 …時(とき)が止(と)まったように静(しず)かになった部屋(へや)の中(なか)で、肖(しょう)造(ぞう)が一番(いちばん)に口(くち)を開(ひら)きました。


「それは…本当(ほんとう)か?」


「何(なん)で私(わたし)がこんな恥(は)ずかしい嘘(うそ)を吐(つ)かなくちゃならないんですー?」


 プライドの高(たか)いイルクマはいたく不機嫌(ふきげん)です。


「しかしー…私(わたし)の方(ほう)に揃(そろ)っている材料(ざいりょう)は一(いち)割(わり)にも満(み)たないのでー、アナタたちに残(のこ)りの材料(ざいりょう)は全(すべ)て集(あつ)めてもらいますー。いいですねー?」




「ねぇ諄(じゅん)弌(いち)…? これって…そういうこと、よね?」


「ああ、春子(はるこ)。つまり…タカヤのコスモピースを取(と)り除(のぞ)くことが出来(でき)るんだ…!」


「本当(ほんとう)…? 夢(ゆめ)じゃ無(な)いのね…!」




「ヒカル君(くん)! 聞(き)いた⁉ タカヤ君(くん)が助(たす)かるんだよ!」


「うん、ライトお兄(にい)ちゃん! 良(よ)かった、良(よ)かったよ…! えーん…エイギスぅ…」


「もう、ヒカル泣(な)かないの。でも…泣(な)いちゃうほど、嬉(うれ)しいことなのね」




「ねぇツバサ? 僕(ぼく)よくわかんないんだけど…タカヤのコスモピースが無(な)くなるってことは、タカヤがあの時(とき)みたいに、コスモピースの力(ちから)で危(あぶ)ない目(め)に遭(あ)うことが無(な)くなるってことだよね?」


「ソウイウ コト ダネ ショースケ!」


「それってすっごくいいことじゃん! やったー!」




 各々(おのおの)が喜(よろこ)びの声(こえ)を上(あ)げている中(なか)…イルクマが左目(ひだりめ)のレンズに触(ふ)れると、目(め)の前(まえ)の空間(くうかん)が大(おお)きく裂(さ)きました。


 空間(くうかん)の中(なか)には虹色(にじいろ)のモヤが広(ひろ)がっています。


「私(わたし)は一度(いちど)オラブ星(せい)の研究室(けんきゅうしつ)に戻(もど)って道具(どうぐ)や材料(ざいりょう)を持(も)ってきますねー…はぁ面倒(めんどう)くさいー。でも仕方(しかた)が無(な)いですねー…エイギスのためですー」


「それはワープ装置(そうち)か?」


 肖(しょう)造(ぞう)が興味深(きょうみぶか)そうに覗(のぞ)き込(こ)みました。


「そうですよー。まぁ簡単(かんたん)な作(づく)りなんで、丈夫(じょうぶ)なトリスタル星人(せいじん)…私(わたし)とアナタしか使(つか)えませんがねー。おっとそうだー」


 モヤの前(まえ)で足(あし)を止(と)めたイルクマは突然(とつぜん)、体(からだ)をぐにょぐにょと変形(へんけい)させると…中性(ちゅうせい)的(てき)な地球(ちきゅう)人(じん)へと姿(すがた)を変(か)えました。


 栗色(くりいろ)のやわらかそうな髪(かみ)に、紫(むらさき)の垂(た)れた瞳(ひとみ)。そして左目(ひだりめ)の前(まえ)には、変身(へんしん)前(まえ)と同(おな)じ透明(とうめい)なレンズが浮(う)いています。


 そして肖(しょう)造(ぞう)を真似(まね)したのでしょう、白衣(はくい)を着(き)ているのですが…随分(ずいぶん)と適当(てきとう)に真似(まね)たのか、袖(そで)から手(て)が出(で)ない程(ほど)オーバーサイズです。


「向(む)こうでは誰(だれ)にも会(あ)わないでしょうしー…ここではこの姿(すがた)の方(ほう)が目立(めだ)たなくて済(す)みそうですからねー。じゃあ、いってきますー」


 大(おお)きな大(おお)きなあくびをして、イルクマはモヤの中(なか)に消(き)えていきました。



****



「ねぇねぇ、じーちゃん⁉」


 ショースケは直(す)ぐさま肖(しょう)造(ぞう)に抱(だ)きつきます。


「じーちゃんってトリスタル星人(せいじん)なんでしょ⁉ あのトリスタル伝説(でんせつ)の!」




 トリスタル伝説(でんせつ)。


 惑星(わくせい)トリスタルには無限(むげん)の命(いのち)を持(も)った生物(せいぶつ)が住(す)んでいて、超(ちょう)高度(こうど)な文明(ぶんめい)が栄(さか)えていたと。


 …そしてその生物(せいぶつ)と文明(ぶんめい)はある日(ひ)、突如(とつじょ)として消(き)えてしまったという話(はなし)です。




「え⁉ 肖(しょう)造(ぞう)さんトリスタル星人(せいじん)なの⁉」


 その場(ば)に居(い)なかったヒカルとエイギスはびっくりです。


「そうじゃよ、ほれ」


 肖(しょう)造(ぞう)はぐにょぐにょと、イルクマと同(おな)じトリスタル星人(せいじん)の姿(すがた)に変身(へんしん)しました。


「まぁ…! 肖(しょう)造(ぞう)もワタシと似(に)た姿(すがた)になれるのね、嬉(うれ)しいわ」


「そうじゃろうエイギス。しかし…この体(からだ)疲(つか)れるからのー、また気(き)が向(む)いたら変身(へんしん)してやるわい」


 そう言(い)うと、肖(しょう)造(ぞう)はすぐに見慣(みな)れた地球(ちきゅう)人(じん)の姿(すがた)に戻(もど)って肩(かた)を回(まわ)します。


「ねぇ、じーちゃんそれよりっ! じーちゃんがトリスタル星人(せいじん)ってことは…僕(ぼく)も、もしかしてトリスタル星人(せいじん)⁉ 不老不死(ふろうふし)だったりする⁉」


「いや、地球(ちきゅう)人(じん)じゃけど」


 キラッキラの目(め)を向(む)けてきたショースケに対(たい)して、肖(しょう)造(ぞう)は冷静(れいせい)に言(い)い放(はな)ちました。


「ショースケの父(とう)さんのショータは、ワシが完璧(かんぺき)に地球(ちきゅう)人(じん)に変身(へんしん)してたときの子(こ)どもじゃからな。おそらく完全(かんぜん)な地球(ちきゅう)人(じん)じゃよ…まぁ多少(たしょう)、頭脳(ずのう)は受(う)け継(つ)いどるみたいじゃがな」


「えー…なんかショック」


 ショースケはどんよりと肩(かた)を落(お)とします。


「おお、そうじゃ。ワシ、ライトの母(かあ)さんとは本当(ほんとう)の兄妹(きょうだい)じゃないが…そういうところも考(かんが)えて完璧(かんぺき)に変身(へんしん)しとるからのう、ライトとショースケの血縁(けつえん)関係(かんけい)はあるぞい」


 肖(しょう)造(ぞう)はあっけらかんと笑(わら)いました。


「いや、そこはどうでもいいけど…」


「どうでもいいとか言(い)わないでくれよショースケ君(くん)、大事(だいじ)なことだろ⁉ …あれ、ところでタカヤ君(くん)は?」


 ライトは部屋(へや)中(じゅう)を見回(みまわ)しますが…タカヤの姿(すがた)は見(み)えません。


「ああ、タカヤなら…さっきトイレに行(い)くって部屋(へや)を出(で)たよ?」


 ヒカルは喜(よろこ)びを抑(おさ)えられないのか、口角(こうかく)が緩(ゆる)みきったまま答(こた)えます。


「それにしても本当(ほんとう)によかった…父(とう)さんと母(かあ)さんが頑張(がんば)ってくれたおかげだよ! ありがとう!」


「いや…ヒカルや皆(みんな)が支(ささ)えてくれたおかげだ。なぁ春子(はるこ)?」


「うん。それに…イルクマさんはエイギスを見(み)て考(かんが)えを改(あらた)めてくれたの、二人(ふたり)が来(き)てくれなかったら本当(ほんとう)に危(あぶ)なかったわ」


 春子(はるこ)の言葉(ことば)に、エイギスは長(なが)い首(くび)を曲(ま)げて俯(うつむ)きました。


「そうなの? …やっぱりワタシはあの人(ひと)のこと思(おも)い出(だ)せないから、何(なん)だか申(もう)し訳(わけ)ないわ。ヒカル、どうしたらいいと思(おも)う?」


「まぁ…思(おも)い出(だ)すことがあったら、その時(とき)に改(あらた)めて話(はな)したらいいんじゃないかな?」



 部屋(へや)には、温(あたた)かい、幸(しあわ)せな時間(じかん)が流(なが)れていました。


 こんなにも希望(きぼう)に満(み)ちあふれた気持(きも)ちは…とってもとっても久(ひさ)しぶりでした。



****



「タカヤ ヘン ナノー。オウチ デ トイレ ナンテ イッカイモ イッタ コト ナイ ジャナイ」


「あはは…行(い)くこともあるんだよ」


「エー?」


 タカヤはツバサを抱(かか)えたまま、真(ま)っ白(しろ)な廊下(ろうか)を歩(ある)いて行(い)って…これまた白(しろ)い扉(とびら)の前(まえ)で止(と)まりました。


「じゃあ行(い)ってくるから。ツバサはここで待(ま)ってて」


「ハーイ。ハヤク モドッテ キテネー」


 ツバサは三本(さんぼん)の触覚(しょっかく)をふわふわ揺(ゆ)らします。


 それに答(こた)えるようにタカヤは右手(みぎて)を振(ふ)って…扉(とびら)をくぐって後(うし)ろ手(で)で鍵(かぎ)を閉(し)めました。



 ここはトイレでは無(な)く…タカヤがコスモピースの力(ちから)を手(て)に入(い)れた部屋(へや)です。


 隅(すみ)にあるベッドへと歩(ある)いて行(い)って…タカヤはその上(うえ)に腰掛(こしか)けました。




 コスモピースの力(ちから)を使(つか)って皆(みな)の役(やく)に立(た)つこと。


 そして…もう一(ひと)つのコスモピースと相対(あいたい)して、それを壊(こわ)して、この宇宙(うちゅう)の平和(へいわ)を守(まも)って消(き)えること。 


 それが、自分(じぶん)の役目(やくめ)だと思(おも)っていました。


 空(から)っぽな、大(だい)嫌(きら)いな自分(じぶん)に残(のこ)った、たった一(ひと)つの希望(きぼう)でした。


 みんなは悲(かな)しませるのは本当に怖(こわ)いし、申(もう)し訳(わけ)ないけれど…それは『仕方(しかた)のない理由(りゆう)』だから。


 『いいこと』だから…きっと、許(ゆる)してくれると。


 そう、思(おも)っていました…思(おも)おうと、していました。




 …でも、壊(こわ)さなければならないコスモピースなんて…役目(やくめ)なんて最初(さいしょ)から存在(そんざい)しなくて。


 そして…



「この力(ちから)が…無(な)くなる…?」



 心臓(しんぞう)がバクバクと音(おと)を立(た)てて、目(め)の前(まえ)が真(ま)っ暗(くら)で。


 頭(あたま)が、ひどくクラクラします。




「ネェ タカヤー? マダー?」


 …ツバサが外(そと)から扉(とびら)を叩(たた)く音(おと)で、タカヤはハッと気(き)がつきました。


「あ、ごめんごめん。今(いま)行(い)くよ…」


 立(た)ち上(あ)がって、いつものように笑(わら)おうとして…



 何故(なぜ)でしょう、上手(うま)く笑(わら)えません。



「タカヤー? ドウシタノー?」


「ごめんツバサ…やっぱりもうちょっと待(ま)って」



 もう一度(いちど)ベッドに腰掛(こしか)けたタカヤは両手(りょうて)で顔(かお)を覆(おお)いました。


 ズキズキと胸(むね)が痛(いた)くて…どうしようもなく苦(くる)しくて。



(…何(なに)も無(な)い俺(おれ)に、戻(もど)るのか…?)



(そんなの嫌(いや)だ)


挿絵(By みてみん)

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