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第二十四話 コントローラー A+B+Y+SS

****


 九月(くがつ)に入(はい)り、二学期(にがっき)が始(はじ)まったばかりの時(とき)目(め)木(き)小学校(しょうがっこう)四年生(よねんせい)の教室(きょうしつ)。


 一(いち)時間(じかん)目(め)が終(お)わった休(やす)み時間(じかん)に、ショースケとレンは後(うし)ろの壁(かべ)に掲示(けいじ)されたみんなの自己(じこ)紹介(しょうかい)のプリントを見(み)ていました。


「へー、タカヤってハンバーグが好(す)きなんだ。知(し)らなかった、レン知(し)ってた?」


「知(し)ってる、前(まえ)も一回(いっかい)そうやって書(か)いてたからな! まぁ、オレとタカヤは付(つ)き合(あ)いが長(なが)いからなー?」


 …レンが何故(なぜ)か勝(か)ち誇(ほこ)った顔(かお)を向(む)けてくるので、ショースケは少(すこ)しカチンと来(き)て妙(みょう)に張(は)り合(あ)いたくなってしまいます。


「ふ、ふーん? まあ僕(ぼく)は? 夏休(なつやす)みにタカヤの手作(てづく)りアイス食(た)べたけどね? レンは食(た)べたことあるの?」


「はぁ⁉ オ、オレは手作(てづく)りクッキー食(た)べたことあるぞ!」


「僕(ぼく)だってありますー! 残念(ざんねん)でしたー、しかも手作(てづく)りカレーも食(た)べたことありますー!」


「う、うぅ…!」


 二人(ふたり)がそうこう言(い)い争(あらそ)ってる間(あいだ)に、廊下(ろうか)から窓(まど)の外(そと)の曇(くも)り空(ぞら)を眺(なが)めていたタカヤが教室(きょうしつ)に戻(もど)ってきました。


「二人(ふたり)で何(なに)話(はな)してるんだ?」


「別(べつ)にー? 僕(ぼく)の方(ほう)がタカヤに詳(くわ)しいって話(はなし)だよ」


 ちょっと涙目(なみだめ)になっているレンの隣(となり)で、ショースケは腰(こし)に手(て)を当(あ)ててふんぞり返(かえ)ります。


「レン? どうした?」


 背(せ)の低(ひく)いレンに目線(めせん)を合(あ)わせるために少(すこ)し屈(かが)んで、タカヤは優(やさ)しく笑(わら)いかけます。


「べ、 別(べつ)に何(なん)でもねーよ…ただ、その…アイスとカレー…」


「アイスとカレー? お腹(なか)空(す)いたのか?」


「や! やっぱり何(なん)でもねーよ!」


 レンが顔(かお)を赤(あか)くして、ぷいっと顔(かお)を背(そむ)けると…朝(あさ)から机(つくえ)に突(つ)っ伏(ぷ)したままのミオが視界(しかい)に入(はい)りました。


「…おいミオ、まだ凹(へこ)んでんのか? だから、次(つぎ)頑張(がんば)ったら良(い)いって言(い)ってるだろ」


「え、ミオてっきり寝(ね)てるんだと思(おも)ってた。凹(へこ)んでるって…何(なに)かあったの?」


 ショースケがミオの背中(せなか)をツンツンつついていると、近(ちか)くに居(い)たカズがその質問(しつもん)に答(こた)えます。


「ミオはねー、昨日(きのう)あったゲームのオンライン大会(たいかい)で全然(ぜんぜん)思(おも)ったように行(い)かなかったんだってさ。ほらミオ、元気(げんき)出(だ)してー?」


 カズがミオに声(こえ)をかけると…突然(とつぜん)、ミオはガバリと顔(かお)を上(あ)げて目(め)を見開(みひら)きました!


「下(した)Aからの上(うえ)B! 間合(まあ)い調整(ちょうせい)からの上(うえ)Y、そこで必殺技(ひっさつわざ)のスペシャルスマッシュ!」


 そう叫(さけ)んだミオは、机(つくえ)の中(なか)から次(つぎ)の授業(じゅぎょう)で使(つか)う算数(さんすう)のノートを引(ひ)っ張(ぱ)り出(だ)して…算数(さんすう)とは全(まった)く関係(かんけい)ないであろう何(なに)かを書(か)き殴(なぐ)ります。


「そうだ、相手(あいて)のキャラは技(わざ)を出(だ)してから次(つぎ)のモーションに移(うつ)るまで時間(じかん)があるんだから、その間(あいだ)に距離(きょり)を詰(つ)めてA攻撃(こうげき)連打(れんだ)からのガード割(わ)り! …でもそうしたら向(む)こうが」


 …めちゃくちゃ早口(はやくち)でまるで呪文(じゅもん)のように唱(とな)えるミオに、みんなが唖然(あぜん)としていると…


「あー! これじゃまだダメかー!」


 ミオはまた机(つくえ)に突(つ)っ伏(ぷ)してしまいました。


 …どうやら頭(あたま)の中(なか)で行(おこな)ったゲームのシミュレーションが上手(うま)くいかなかったようです。


「な、なんかよくわかんないけど大変(たいへん)みたいだね…」


「そうなんだよショースケ。ミオはこうなると長(なが)いから、温(あたた)かく見守(みまも)ってあげてね」


 カズがへにゃりと笑(わら)うと…レンとタカヤは見慣(みな)れているのか、うんうんと強(つよ)く頷(うなず)きました。



****



 さてさて二(に)時間(じかん)目(め)終(お)わりの休(やす)み時間(じかん)、トイレから教室(きょうしつ)へ戻(もど)る途中(とちゅう)の廊下(ろうか)。


「うーん、相手(あいて)の滞空(たいくう)時間(じかん)がおれのキャラより長(なが)いんだから…」


 …ミオは一人(ひとり)で歩(ある)きながら、まだブツブツと呟(つぶや)いてゲームの対策(たいさく)を考(かんが)えています。


「待(ま)てよ? 相手(あいて)のスペシャルスマッシュは距離(きょり)の判定(はんてい)が厳(きび)しいから…つまり回避(かいひ)した後(あと)のダッシュ攻撃(こうげき)、でっ⁉」


 さっぱり周(まわ)りなんて見(み)ていなかったミオは、何(なん)かに正面(しょうめん)から思(おも)い切(き)りぶつかってしまいました。


「いたたたー…って、あれ?」


 ミオはやっと前(まえ)を向(む)きましたが…目(め)の前(まえ)には何(なに)もありません。


「んー? おれ何(なに)にぶつかったんだろ…まぁいいか、えーっと…それで相手(あいて)は」


 頭(あたま)の中(なか)がゲームでいっぱいのミオは、また考(かんが)え事(ごと)をしながら歩(ある)き始(はじ)めましたが…今度(こんど)は足下(あしもと)にある何(なに)かを強(つよ)く蹴飛(けと)ばしてしまいました。


 ミオが蹴飛(けと)ばした何(なに)かは、カラカラと音(おと)を立(た)てて廊下(ろうか)を転(ころ)がり…壁(かべ)に当(あ)たってようやく止(と)まります。


「うん? 何(なに)か蹴(け)っちゃったー…ってあれ、もしかして…コントローラー⁉」


 パタパタと駆(か)け足(あし)で、ミオは先(さき)ほど蹴飛(けと)ばした何(なに)かを拾(ひろ)い上(あ)げました。


 楕円形(だえんけい)の平(ひら)べったいボディにはスティックやボタンが付(つ)いていて、ミオが普段(ふだん)遊(あそ)んでいるゲームで使(つか)うコントローラーにとってもよく似(に)ています。


「よかったー、傷(きず)とかは付(つ)いて無(な)いみたい…でも、何(なん)のゲームのだろ? わかんないけど、学校(がっこう)にコントローラーを持(も)ってくるなんて勇気(ゆうき)のある子(こ)がいるもんだねー」


 ミオがニヤニヤ笑(わら)っていると、コントローラーから何(なに)やら音(おと)が鳴(な)りました。


『ニョロニュルーンニョニョ』


「わ、何(なん)か鳴(な)った。変(へん)な音(おと)ー…」


 キョロキョロと辺(あた)りを見回(みまわ)したミオは、誰(だれ)もいないことを確認(かくにん)すると、握(にぎ)ったコントローラーへと視線(しせん)を戻(もど)します。


「…誰(だれ)のかわかんないけど、ちょっとくらい触(さわ)ってもいいよねー?」


 ミオはそのコントローラーを、慣(な)れた手(て)つきでカチャカチャ触(さわ)ってみました。


 下(した)Aからの上(うえ)B…間合(まあ)い調整(ちょうせい)して、上(うえ)Yからのスペシャルスマッシュ。


 ああ、このプレイが昨日(きのう)のオンライン大会(たいかい)で出来(でき)ていたなら!


 ミオがため息(いき)を吐(つ)くと、またコントローラーから音(おと)が鳴(な)りました。


『パッポニョロニュルーン』


「わーまた鳴(な)った…ふふ、やっぱり変(へん)な音(おと)―!」


 何(なん)だか楽(たの)しくなってきたミオが、そのままガチャガチャとコントローラーのボタンを押(お)しまくっていると…


「ん? 待(ま)てよ…あの場(ば)でジャンプ回避(かいひ)からの横(よこ)B攻撃(こうげき)に移(うつ)れば!」


 どうやら、ゲームのいいアイデアが浮(う)かんだようです!


「うーん、やっぱり頭(あたま)だけで考(かんが)えるより、コントローラーを触(さわ)ってる方(ほう)が浮(う)かびやすいねー…おっと、そうだ。このコントローラーは先生(せんせい)に見(み)つかったら没収(ぼっしゅう)されちゃうだろうし、ゲームが好(す)きな同士(どうし)のためにも隠(かく)しておいてあげないとねー」


 ミオは男子(だんし)トイレの手洗(てあら)い場(ば)の下(した)の棚(たな)、しかもその一番(いちばん)奥(おく)にコントローラーらしきものを置(お)きます。


 そしてさっきより上機嫌(じょうきげん)に、またブツブツと考(かんが)え事(ごと)をしながら教室(きょうしつ)へと戻(もど)って行(い)きました。



****



「ねぇねぇ、運動場(うんどうじょう)でキックベースしない? まだギリギリ雨(あめ)降(ふ)って無(な)いし!」


 賑(にぎ)やかな昼休(ひるやす)みの始(はじ)まりと共(とも)に、クラスメイトのすぴかがショースケたちに声(こえ)をかけました。


「いいね、やるやる! みんなもやるでしょ?」


 ショースケが尋(たず)ねると、タカヤとカズとレンが頷(うなず)きます、が…


「うーん、さっきのアイデアだと火力(かりょく)は出(で)るけど隙(すき)が出来(でき)ちゃうからー…やっぱりY攻撃(こうげき)からダッシュ…いやでもそれだと」


 ミオは机(つくえ)に突(つ)っ伏(ぷ)して、まだブツブツと何(なに)かを呟(つぶや)き続(つづ)けていました。


 二(に)時間(じかん)目(め)終(お)わりの休(やす)み時間(じかん)、嬉(うれ)しそうに教室(きょうしつ)に戻(もど)って来(き)たと思(おも)ったのも束(つか)の間(ま)…どうやらまたシミュレーションは難航(なんこう)しているようです。


 無理(むり)に話(はな)しかけても返事(へんじ)は返(かえ)って来(こ)ないでしょうから、ショースケはそっとしておきます。


「えーっと…ミオは…無理(むり)そう、かな」


「わかった、じゃあ四(よ)人(にん)参加(さんか)ね! ボールと場所(ばしょ)取(と)っとくからすぐに来(き)てねー!」


 すぴかはピョコピョコと両手(りょうて)を振(ふ)って、一足(ひとあし)先(さき)に運動場(うんどうじょう)へ行(い)ってしまいました。




「しかしミオはずっとあんな感(かん)じだね、一体(いったい)いつ戻(もど)るの?」


 二(に)階(かい)から一(いっ)階(かい)へ続(つづ)く階段(かいだん)を下(お)りながら、ショースケはちょっと不満気(ふまんげ)です。


「んー、三日(みっか)ぐらいしたら治(おさ)まるんじゃねーの」


 一段(いちだん)飛(と)ばしで階段(かいだん)を下(お)り切(き)ったレンは、面倒(めんどう)そうに答(こた)えました。


「三日(みっか)⁉ 三日(みっか)もあのままなの⁉」


「ミオは一(ひと)つ気(き)になることがあると、ずーっとそればっかりになっちゃうからね。ぼくらは今(いま)まで何回(なんかい)も見(み)たことあるから」


 カズはニコニコと笑顔(えがお)を浮(う)かべます。


「ふ、ふーん…そういうもの、なんだー…」


 ショースケはいまいち納得(なっとく)がいかないまま、四(よ)人(にん)は下駄箱(げたばこ)前(まえ)の外(そと)廊下(ろうか)にやって来(き)ました。


 湿(しめ)った少(すこ)し強(つよ)い風(かぜ)を体(からだ)に受(う)けながら、上履(うわば)きを脱(ぬ)いで運動(うんどう)靴(ぐつ)に履(は)き替(か)えます。


「天気(てんき)ちょっと悪(わる)くて良(よ)かったね、晴(は)れてたら暑(あつ)過(す)ぎるくらいだもん!」


 一番(いちばん)に靴(くつ)が履(は)けたカズは、元気(げんき)に運動場(うんどうじょう)へと走(はし)って行(い)きました。


「おいカズ待(ま)てよ…全(まった)く、カズは子(こ)どもだよな」


 どの口(くち)が言(い)っているんだという感(かん)じですが、レンは呆(あき)れた様子(ようす)です。


「さ、タカヤ行(い)こうぜ…タカヤ? どうしたんだよ、外庭(そとにわ)の方(ほう)見(み)て」


「えーっと…花(はな)が綺麗(きれい)に咲(さ)いてるなーと思(おも)って!」


 いつも通(どお)りの笑顔(えがお)を浮(う)かべながら…タカヤはレンからは見(み)えないように、隣(となり)のショースケのお腹(なか)をつつきました。


「わひゃっ⁉ 何(なに)すんのタカ…」


 …タカヤは眉(まゆ)をぎゅっと吊(つ)り上(あ)げて、ショースケにとにかく外庭(そとにわ)の方(ほう)を見(み)るよう目配(めくば)せして来(き)ます。


 何(なん)だ何(なん)だと、ショースケは軽(かる)い気持(きも)ちで外庭(そとにわ)の方(ほう)を向(む)いて…先(さき)ほどたくさんおかわりして、お腹(なか)いっぱい食(た)べた給食(きゅうしょく)が出(で)そうになるほど驚(おどろ)きました。


 だって緑(みどり)がたくさん植(う)えられた外庭(そとにわ)にある岩(いわ)の上(うえ)には…もの凄(すご)く見覚(みおぼ)えのある真(ま)っ赤(か)なET(いーてぃー)が寝転(ねころ)がって居(い)るではありませんか!


 真(ま)っ赤(か)なET(いーてぃー)はタカヤとショースケの存在(そんざい)に気(き)が付(つ)くと、ボロボロ泣(な)きながら長(なが)い鼻(はな)をブンブン振(ふ)り回(まわ)します。


「わー! タカヤ隊員(たいいん)とショースケ隊員(たいいん)ー! もう大変(たいへん)なんです、助(たす)けてくださーい!」


 …ショースケはゆっくり、視線(しせん)をレンへと戻(もど)します。


「ぼ、僕(ぼく)…教室(きょうしつ)に忘(わす)れ物(もの)? しちゃった、かもー…」


「は? 忘(わす)れ物(もの)って…そもそもキックベースするのに何(なに)がいるって言(い)うんだよ」


 レンの言(い)うことはもっともですが、こうしている間(あいだ)にも外庭(そとにわ)のET(いーてぃー)はウニョウニョとこちらへアピールを続(つづ)けています。


 ショースケがここから離(はな)れる方法(ほうほう)を必死(ひっし)に考(かんが)えていると…先(さき)にタカヤが動(うご)きました。


「そういえば…俺(おれ)、先生(せんせい)から学級(がっきゅう)委員(いいん)として頼(たの)まれ事(ごと)をしてたんだった。ごめん、行(い)かないと」


「え…じゃあ、一緒(いっしょ)に遊(あそ)べねーの?」


 レンは露骨(ろこつ)にしょんぼりとします。


「うん…だからさ、レンから皆(みんな)に、俺(おれ)は来(こ)られなくなったって説明(せつめい)しておいてもらえないかな? レンにしか頼(たの)めないんだ、お願(ねが)い」


「しょ、しょーがねーな…今回(こんかい)だけだぞ?」


 タカヤに真(ま)っ直(す)ぐ見(み)つめられて、レンは恥(は)ずかしそうに目(め)を逸(そ)らしながら頷(うなず)きました。


 それを横(よこ)から見(み)ていたショースケは…


「ぼ! 僕(ぼく)も僕(ぼく)も!」


「何(なん)だよショースケ。まさかショースケまで用(よう)があるとか言(い)うんじゃねーだろうな?」


 …正(まさ)しくそう言(い)いたかったのですが…レンはめちゃくちゃ疑(うたが)っているみたいです。


「どうせタカヤと一緒(いっしょ)に居(い)たいだけだろ。ほら、運動場(うんどうじょう)行(い)くぞ」


「待(ま)って待(ま)って違(ちが)うんだ! えーっと…そう、トイレ!」


「トイレぇ?」


「うん! あの、すっごく時間(じかん)かかりそうな予感(よかん)がするからキックベース出来(でき)ないかも! も、漏(も)れそうだからもう行(い)くね⁉」


 ショースケはバタバタと走(はし)って、来(き)た道(みち)を戻(もど)って行(い)きました。


「なんだアイツ。そういえば…今日(きょう)、学校(がっこう)休(やす)んだ洋平(ようへい)の分(ぶん)の牛乳(ぎゅうにゅう)まで飲(の)んでたな。腹(はら)壊(こわ)したのか?」


「あ、あはは…そうかもな。じゃあ俺(おれ)も行(い)ってくるから。レン、ショースケの分(ぶん)の伝達(でんたつ)も頼(たの)むな」


 タカヤはこれ以上(いじょう)怪(あや)しまれることが無(な)いよう、ショースケが向(む)かった方(ほう)とは逆(ぎゃく)方向(ほうこう)にある階段(かいだん)を登(のぼ)って行(い)きました。



****



 ポスエッグのテレパシーを使(つか)って二(に)階(かい)で落(お)ち合(あ)ったタカヤとショースケは、体(からだ)にキラキラ粉(こ)をかけてから外庭(そとにわ)へと向(む)かいます。


「あ! タカヤ隊員(たいいん)、ショースケ隊員(たいいん)…よかった戻(もど)ってきてくれたんですねー! ぐへへ、また会(あ)えて嬉(うれ)しいですー…前回(ぜんかい)いただいたスペシャルサインは、お陰様(かげさま)で家宝(かほう)にしてます…」


 真(ま)っ赤(か)なET(いーてぃー)は短(みじか)い六(ろっ)本(ぽん)の足(あし)を揺(ゆ)らして、泣(な)きながらもニヤニヤ笑(わら)っています。


「戻(もど)って来(き)てくれたじゃ無(な)いでしょ! 何(なん)でここにいるの⁉ 前(まえ)に散々(さんざん)もう来(き)たらダメだって言(い)ったじゃん!」


 ショースケがぷんぷん怒(おこ)って指(ゆび)をさした先(さき)のET(いーてぃー)…ローナグ星人(せいじん)は、超(ちょう)が付(つ)くほどの宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)マニアでその愛(あい)のあまり、数ヶ月前(すうかげつまえ)ここ時(とき)目(め)木(き)小学校(しょうがっこう)の男子(だんし)トイレに忍(しの)び込(こ)んで騒(さわ)ぎを起(お)こした張本人(ちょうほんにん)です。


「そもそも君(きみ)! あまりにも宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)に対(たい)する問題(もんだい)行動(こうどう)が過(す)ぎるってことで、この町(まち)に来(き)ちゃダメって言(い)われたんじゃなかったの⁉」


「た、確(たし)かに特急(とっきゅう)こすもに乗(の)ったらダメって言(い)われたんで…今回(こんかい)はちゃんと、レンタルUFO(ゆーふぉー)でここに来(き)ましたよ! ふふ…出費(しゅっぴ)が痛(いた)かったですけどね…」


 特急(とっきゅう)こすもは他(ほか)の交通(こうつう)手段(しゅだん)に比(くら)べて、圧倒(あっとう)的(てき)にお安(やす)く地球(ちきゅう)に来(く)ることが出来(でき)ます。


「何(なに)それ! うぅ…早(はや)く宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)にはUFO(ゆーふぉー)やワープ装置(そうち)での移動(いどう)も取(と)り締(し)まれるようになって欲(ほ)しいよ…」


 苦(にが)い顔(かお)をするショースケを見(み)ながら、ローナグ星人(せいじん)は嬉(うれ)しそうに長(なが)い体(からだ)を振(ふ)っていましたが…途端(とたん)に思(おも)い出(だ)したように焦(あせ)り始(はじ)めました。


「って、それどころじゃないんですー! ボクの遠隔(えんかく)操作(そうさ)カメラが大変(たいへん)なんです!」


「遠隔(えんかく)操作(そうさ)カメラって…学校(がっこう)の周(まわ)りを飛(と)んでいたあれですか?」


「え、タカヤ知(し)ってるの?」


 ショースケはそんなこと一言(ひとこと)も聞(き)いていません。


「うん、廊下(ろうか)側(がわ)の窓(まど)から見(み)える空(そら)を飛(と)んでたんだよ。ちゃんとキラキラ粉(こ)も使(つか)ってるみたいだったし、ET(いーてぃー)さんたちの観光(かんこう)道具(どうぐ)だと思(おも)ってショースケにも言(い)ってなかったんだけど…あなたのだったんですね」


「そうです! 学校(がっこう)でのお二人(ふたり)の様子(ようす)を盗撮(とうさつ)してコレクション…じゃなくて、地球(ちきゅう)勉強(べんきょう)の一環(いっかん)としてデータを集(あつ)めていたんです!」


「ねぇタカヤ、今(いま)この人(ひと)盗撮(とうさつ)って言(い)ったよ⁉ もうやだー! 本部(ほんぶ)にはもっと厳(きび)しく取(と)り締(し)まってって言(い)っておくからね!」


 …とりあえず話(はなし)の続(つづ)きを聞(き)きましょう。


「それで、どうして大変(たいへん)なんですか?」


「実(じつ)は遠隔(えんかく)操作(そうさ)カメラのリモコンを無(な)くしてしまったんです。しかも、そのリモコンが誰(だれ)かにめちゃくちゃに操作(そうさ)されてしまったみたいで…ボクの遠隔(えんかく)操作(そうさ)カメラが暴走(ぼうそう)しているんですー! ほら、あれ!」


 ローナグ星人(せいじん)は長(なが)い鼻(はな)で遠(とお)くの空(そら)を指(さ)しました。


 曇(くも)った薄暗(うすぐら)い空(そら)を、サッカーボールくらいの大(おお)きさのドローンのような機械(きかい)が、それはそれは結構(けっこう)なスピードで飛(と)んでいます。


「わ! 何(なに)あれ…どうやったら止(と)まるの?」


「リモコンを見(み)つけ出(だ)して、後(うし)ろに付(つ)いている赤(あか)いボタンを押(お)せば止(と)まると思(おも)います。停止(ていし)のためのパスワードは設定(せってい)していませんから。それで、その…リモコンの場所(ばしょ)なんですけど…」


 たくさん付(つ)いた小(ちい)さな目(め)をパチパチさせながら、ローナグ星人(せいじん)はチラチラとショースケの方(ほう)を見(み)ます。


「…何(なに)、まさか…また学校(がっこう)に侵入(しんにゅう)して、学校(がっこう)の中(なか)で落(お)としましたーなんて言(い)わないよね?」


「そ、そのまさかです…しかもリモコンにはキラキラ粉(こ)をかけるの忘(わす)れてましたー…」


「はい⁉」


「わーすみませんすみません! どうしてもカメラ越(ご)しじゃなくて、この目(め)でお二人(ふたり)のことが見(み)たくなってー! まぁ結局(けっきょく)…見(み)に行(い)こうと思(おも)ったら地球(ちきゅう)人(じん)にぶつかっちゃって、慌(あわ)てて逃(に)げたんですけどね」


「はぃいいい⁉ ちょっと君(きみ)何(なに)してんの⁉」


「大丈夫(だいじょうぶ)です! ボク自身(じしん)にはキラキラ粉(こ)を使(つか)っていましたから見(み)えていません! そ、それに向(む)こうが悪(わる)いんです。ボクは避(よ)けようとしたけど、相手(あいて)は全然(ぜんぜん)前(まえ)を見(み)てなかったみたいでぶつかって来(こ)られたんですー!」


「ダメって言(い)ってたのに侵入(しんにゅう)した君(きみ)が悪(わる)いに決(き)まってるでしょ! ど、どどどうしようタカヤ! 大変(たいへん)なことになってるよ!」


「ああ、そうみたいだな。まずは急(いそ)いでそのリモコンを探(さが)そう」


 タカヤが瞳(ひとみ)を光(ひか)らせてコスモピースの力(ちから)を使(つか)おうとするので…ショースケは大慌(おおあわ)てで、ポケットの中(なか)のエッグロケットを握(にぎ)ってテレパシーを送(おく)ります。


(待(ま)った待(ま)った! 使(つか)っちゃダメだよ、この間(あいだ)あんなことになったの忘(わす)れたの⁉)


(あはは、大丈夫(だいじょうぶ)だよ。最近(さいきん)調子(ちょうし)いいんだ)


(お願(ねが)いだからやめて⁉ 僕(ぼく)、本当(ほんとう)にトラウマなんだから!)


(そこまで言(い)うなら…でも、それならどうやってリモコンを見(み)つけ出(だ)すんだ?)


(う、それは…僕(ぼく)の探知機(たんちき)を使(つか)ってみるとか?)


 二人(ふたり)が考(かんが)えていると…突然(とつぜん)、遠(とお)くの空(そら)に浮(う)かんでいた遠隔(えんかく)操作(そうさ)カメラがスピードを上(あ)げて、こちらの方向(ほうこう)へ飛(と)んでくるではありませんか!


 そして遠隔(えんかく)操作(そうさ)カメラはそのまま、小学校(しょうがっこう)の運動場(うんどうじょう)へと入(はい)って行(い)きます。


「まずい! 誰(だれ)かにぶつかったりしたら大変(たいへん)だ、ショースケ行(い)くぞ!」


 タカヤとショースケは全速力(ぜんそくりょく)で外庭(そとにわ)を後(あと)にしました。



****



 広(ひろ)い運動場(うんどうじょう)ではたくさんの生徒(せいと)たちが楽(たの)しそうに遊(あそ)んでいます。


「遠隔(えんかく)操作(そうさ)カメラは…あった、あそこだ!」


 タカヤが指(ゆび)をさした先(さき)の空(そら)は…ちょうどクラスメイトたちがキックベースをしている真上(まうえ)です。


「うわ、結構(けっこう)近(ちか)いところ飛(と)んでる…もう雨(あめ)も降(ふ)り出(だ)しそうだし、みんなに声(こえ)をかけて運動場(うんどうじょう)から離(はな)れてもらった方(ほう)がいいね!」


 ショースケはエッグロケットを操作(そうさ)すると、自分(じぶん)とタカヤの体(からだ)に専用(せんよう)の薬(くすり)をかけて、キラキラ粉(こ)を落(お)としました。


 さて、みんなに声(こえ)をかけに行(い)こうと運動場(うんどうじょう)に一歩(いっぽ)踏(ふ)み出(だ)した…その時(とき)です。


 真(ま)っ直(す)ぐ飛(と)んでいたはずの遠隔(えんかく)操作(そうさ)カメラは、なんと急(きゅう)に進行(しんこう)方向(ほうこう)をグルリと変(か)えて…あろうことか下(した)へ向(む)かって飛(と)び始(はじ)めました!


 その軌道(きどう)の先(さき)にいるのは…


「ショースケ! ごめん、後(あと)頼(たの)む!」


 タカヤは瞳(ひとみ)を輝(かがや)かせてコスモピースの力(ちから)を瞬時(しゅんじ)に発動(はつどう)させると、目(め)にも止(と)まらぬ速(はや)さで飛(と)び出(だ)します。


 そのままファーストベースを守(まも)っているレンのもとまで行(い)くと、その体(からだ)をぎゅっと抱(だ)き寄(よ)せて…遠隔(えんかく)操作(そうさ)カメラはその横(よこ)をギリギリ掠(かす)めた後(あと)、今度(こんど)は山(やま)の方(ほう)へと飛(と)んで行(い)きました。


「…へ? タ、タカヤ⁉ どどどうしたんだよ!」


 突如(とつじょ)現(あらわ)れたタカヤに、レンはもう大(だい)パニックです!


 タカヤはすぐにコスモピースの力(ちから)を解(と)くと、困(こま)ったように笑(わら)って見(み)せました。


「あはは、えーっと…」


「あれ、タカヤ何(なん)でそんなところにいるの? さっきまで居(い)なかったよね?」


 セカンドベースに立(た)っているカズも大(おお)きく首(くび)を傾(かし)げます。


 周(まわ)りにいるクラスメイトたちもザワザワと騒(さわ)ぎ始(はじ)めました…急(いそ)がなくては!


 ショースケは慌(あわ)ててエッグロケットからクラッカーのようなものを取(と)り出(だ)して、そこに付(つ)いた紐(ひも)を思(おも)い切(き)り引(ひ)っ張(ぱ)りました。


 大(おお)きな大(おお)きなパーンッという音(おと)が、運動場(うんどうじょう)中(じゅう)に響(ひび)きます。


 生徒(せいと)たちが皆(みな)、その音(おと)に気(き)を取(と)られている間(あいだ)に…ショースケはお腹(なか)から声(こえ)を張(は)り上(あ)げて叫(さけ)びました!


「わー! 飛(と)んできたボールがレンに当(あ)たりそうになってたんだよー! 偶然(ぐうぜん)通(とお)りかかったタカヤが助(たす)けてくれて良(よ)かったねー!」


 声(こえ)の出(だ)し過(す)ぎでショースケはゲホゲホと咽(む)せてしまいましたが…多分(たぶん)これで大丈夫(だいじょうぶ)なはずです。


 …ショースケの言葉(ことば)を聞(き)いたカズは、ニコーッと笑(わら)いました。


「そっか! そうだったねショースケ!」



 鳴(な)らしたクラッカーは、ショースケの最新(さいしん)の発明品(はつめいひん)です。


 音(おと)を聞(き)いた人(ひと)たちの、音(おと)を聞(き)く前(まえ)の数秒(すうびょう)間(かん)の記憶(きおく)を書(か)き換(か)えることが出来(でき)る仕組(しく)みになっており、つい先日(せんじつ)タカヤに自慢(じまん)しまくったばかりです。



 なんとか上手(うま)くいったようで…ショースケはその場(ば)にペタリと座(すわ)り込(こ)みました。


「な、なぁタカヤ? それはわかったけど…いつまで、その…」


 まだタカヤに抱(だ)きしめられているレンは、耳(みみ)まで真(ま)っ赤(か)にして爆発(ばくはつ)寸前(すんぜん)です。


「あっ、ごめん。レンに怪我(けが)が無(な)くてよかったよ」


 タカヤはさわやかに振舞(ふるま)ってレンを離(はな)すと、空(そら)から一滴(いってき)、ポタリと雨(あめ)が落(お)ちてきたのを見上(みあ)げました。


「俺(おれ)まだ用事(ようじ)の途中(とちゅう)だから行(い)くな。みんなも雨(あめ)が降(ふ)り出(だ)したから教室(きょうしつ)に戻(もど)った方(ほう)がいいよ、それじゃあまた!」


 そう言(い)って、校舎(こうしゃ)へと向(む)かって走(はし)って行(い)きます。


「あ…ぼ、僕(ぼく)もまだお腹(なか)痛(いた)いから! それじゃあねー!」


 ショースケもそれを追(お)うため、クラスメイトたちにブンブン手(て)を振(ふ)りました。



****



「もうタカヤ無茶(むちゃ)し過(す)ぎだよ! 僕(ぼく)がなんとか誤魔化(ごまか)せなかったらどうするつもりだったの⁉」


 ぷりぷり小(ちい)さく文句(もんく)を言(い)いながら、ショースケはタカヤに付(つ)いていきます。


「ごめんごめん。でもショースケなら、この間(あいだ)見(み)せてくれた発明品(はつめいひん)を使(つか)って何(なん)とかしてくれると思(おも)ったんだよ。ありがとう」


「な…何(なに)それー! もー、しょうがないなー。やっぱり僕(ぼく)がいなくちゃダメだねー!」


 何(なん)だかすごく頼(たよ)られている気(き)がしたショースケはもうニヤニヤが止(と)まりません。


「ところで、僕(ぼく)たちどこへ向(む)かってるの?」


「四(よん)階(かい)の端(はし)っこ、図工室(ずこうしつ)の前(まえ)だよ」


「え? 何(なん)で?」


「そこにローナグ星人(せいじん)さんのリモコンがあるって…えーっと、さっきコスモピースの力(ちから)を使(つか)ったときに、ついでに…調(しら)べて…」


 …隣(となり)のショースケからもの凄(すご)い圧(あつ)を感(かん)じるので、タカヤはわざと逆(ぎゃく)方向(ほうこう)の窓(まど)の外(そと)を見(み)ながら話(はなし)を続(つづ)けます。


「ほ、ほら! 力(ちから)を使(つか)っても大丈夫(だいじょうぶ)だっただろ? そんなに気(き)にしなくても…」


「今回(こんかい)は、大丈夫(だいじょうぶ)だっただけでしょ⁉ 大体(だいたい)タカヤ、コンビ組(く)んですぐの頃(ころ)はコスモピースの力(ちから)はあんまり使(つか)わないって言(い)ってたくせに、最近(さいきん)何(なん)でも使(つか)いすぎじゃない? またあんなことになったらどうするの⁉」


「だって使(つか)った方(ほう)が便利(べんり)だろ? それに俺(おれ)、一人(ひとり)でやってる特級(とっきゅう)の仕事(しごと)のときは普通(ふつう)に使(つか)ってるし。何(なん)とも無(な)いよ?」


「何(なん)ともあったから言(い)ってるんでしょ⁉ もー…特級(とっきゅう)の仕事(しごと)のときは仕方(しかた)ないのかもだけど、僕(ぼく)と居(い)るときはもう使(つか)ったらダメだからね!」


「んー…出来(でき)るだけ頑張(がんば)るよ」


 あの日(ひ)を思(おも)い出(だ)してちょっと泣(な)きそうなショースケの横(よこ)で、タカヤはいつもより少(すこ)し、申(もう)し訳(わけ)なさそうに目(め)を細(ほそ)めました。




 四(よん)階(かい)まで階段(かいだん)を上(あ)がって、人通(ひとどお)りの無(な)い静(しず)かな廊下(ろうか)の角(かど)を曲(ま)がると…


「ん? 見(み)て、タカヤ。誰(だれ)かいるみたい…ってあれ? あれって…」


 廊下(ろうか)の一番(いちばん)端(はし)、技術室(ぎじゅつしつ)の前(まえ)には…小(ちい)さく体育(たいいく)座(ずわ)りをしているミオがいました。


「…やっぱりコントローラーを実際(じっさい)に操作(そうさ)してると良(い)いアイデアが浮(う)かんで来(く)るねー。誰(だれ)のか知(し)らないけど、後(あと)でちゃんと返(かえ)せば大丈夫(だいじょうぶ)だよね…えーっと、小(しょう)ジャンプからの…」


 …ここからはよく聞(き)こえませんが、何(なに)かを触(さわ)りながらブツブツ喋(しゃべ)っているようです。


「ミオー? そこで何(なに)してんのー?」


 ショースケが大(おお)きな声(こえ)で呼(よ)びかけると、ミオはビクッと大(おお)きく体(からだ)を震(ふる)わせて、何(なに)かを背中(せなか)の後(うし)ろに隠(かく)しました。


「あ、あれー? ショースケとタカヤじゃん、偶然(ぐうぜん)だねー…」


「ミオ、今(いま)何(なに)か隠(かく)した? 見(み)せて見(み)せてー!」


 そう言(い)ってショースケが背中(せなか)側(がわ)を覗(のぞ)き込(こ)んだため、ミオは咄嗟(とっさ)に隠(かく)した物(もの)をお腹(なか)側(がわ)に回(まわ)しましたが…当然(とうぜん)、前(まえ)にいるタカヤからは丸見(まるみ)えになってしまいました。


 もちろん隠(かく)していたのはコントローラー…もとい、ローナグ星人(せいじん)の落(お)とし物(もの)であるリモコンです。


「こ、このコントローラーはおれのじゃなくてー…その、落(お)ちてたからちょっと出来心(できごころ)で借(か)りちゃったんだよー。後(あと)で元(もと)の場所(ばしょ)に戻(もど)すからさ、先生(せんせい)やみんなには言(い)わないでくれない?」


 ミオは目(め)線(せん)をキョロキョロさせて、一生懸命(いっしょうけんめい)言(い)い訳(わけ)を探(さが)しているようです。


「なぁミオ。それ、俺(おれ)にもちょっと触(さわ)らせてくれないか?」


「え、いいけどー…タカヤがこういうのに興味(きょうみ)持(も)つなんて珍(めずら)しいねー」


 リモコンをミオから受(う)け取(と)ったタカヤは、すぐにそれを裏向(うらむ)けて…真(ま)ん中(なか)にある赤(あか)いボタンを押(お)しました。


 これで暴走(ぼうそう)していた遠隔(えんかく)操作(そうさ)カメラはとりあえず止(と)まるはず…だったのですが!


 ピーピーピーピー!


 突然(とつぜん)、リモコンから警報音(けいほうおん)が鳴(な)り始(はじ)めました。


「わわっ、なになに⁉」


 ショースケは音(おと)が鳴(な)り響(ひび)くリモコンをタカヤから受(う)け取(と)って、少(すこ)しでも音(おと)を小(ちい)さくしようと着(き)ている制服(せいふく)のポロシャツで包(つつ)みます。


「こんな音(おと)してたら先生(せんせい)が来(き)ちゃう! 早(はや)く止(と)めなきゃ!」


 何度(なんど)も赤(あか)いボタンを押(お)してみますが…音(おと)は止(と)まる気配(けはい)がありません。


 すると、リモコンから宇宙(うちゅう)公用語(こうようご)の音声(おんせい)が聞(き)こえました。


『遠隔(えんかく)操作(そうさ)カメラの運転(うんてん)を停止(ていし)するにはパスワードが必要(ひつよう)です。パスワードを入力(にゅうりょく)してください』


 さあ困(こま)りました、ローナグ星人(せいじん)さんはパスワードは設定(せってい)していないと言(い)ってたのに!


 タカヤとショースケがオロオロしていると、ミオが口(くち)を開(ひら)きました。


「あ、またその音(おと)だ。なんかニョロニョルーンみたいな音(おと)たまに鳴(な)るよねー」


 …宇宙(うちゅう)公用語(こうようご)がわからないミオには、『パスワード』の部分(ぶぶん)がそう聞(き)こえるようです。


「ミオ、この音(おと)聞(き)いたことあるのか?」


「うん、あるよー? おれがそれを拾(ひろ)ったときに鳴(な)ってたんだよー、なんかこう…ニョロニュルーンニョニョ、みたいな感(かん)じで。あ、あと…おれがいくつかボタンを押(お)した後(あと)も鳴(な)ってたかな? その時(とき)は、パッポニョロニュルーンみたいな…何(なん)か変(へん)な音(おと)だったから覚(おぼ)えてるよー」


 警報音(けいほうおん)はまだ鳴(な)り続(つづ)けており、心(こころ)なしか階段(かいだん)の下(した)が騒(さわ)がしくなって来(き)た気(き)がします。


「ね! ねぇミオ! その時(とき)、どのボタンを押(お)したの? ちょっと今(いま)、同(おな)じボタンを押(お)してみてくれない⁉」


 ショースケはミオに、お腹(なか)の下(した)に入(い)れていたリモコンを押(お)し付(つ)けました。


「え、何(なん)でー?」


「そ…それを入力(にゅうりょく)すれば、音(おと)が止(と)まる気(き)がするから! 早(はや)く!」


 おそらく…ミオの聞(き)いた一回(いっかい)目(め)の音(おと)は『パスワードを設定(せってい)してください』、二(に)回目(かいめ)の音(おと)は『パスワードの設定(せってい)が完了(かんりょう)しました』です!


「え、えー…? 何(なん)て押(お)したっけ? えーっと…」


 ミオがカチカチとボタンを押(お)すと…警報音(けいほうおん)は一段(いちだん)と大(おお)きくなりました。


『パスワードが違(ちが)います』


「ショースケー? なんかうるさくなったよー?」


「違(ちが)うみたい! 別(べつ)の入力(にゅうりょく)して!」


「えー?」


 またミオがカチカチとボタンを押(お)して…するとまた警報音(けいほうおん)が大(おお)きくなります。


『パスワードが違(ちが)います』


「またうるさくなったー! おれ、どこ押(お)したっけー⁉ うーんと、うーんと…」


 …誰(だれ)かが階段(かいだん)を上(のぼ)って来(く)る足音(あしおと)が聞(き)こえました。


 ショースケはズボンの中(なか)のエッグロケットを握(にぎ)って、テレパシーを送(おく)ります。


(タカヤ! まずいよ、人(ひと)が来(く)る! 一旦(いったん)ミオにもキラキラ粉(こ)をかけて見(み)えなくして、後(あと)で本部(ほんぶ)にミオの記憶(きおく)を何(なん)とかしてもらおうよ!)


(仕方(しかた)ないか…これ以上(いじょう)、地球(ちきゅう)外(がい)物質(ぶっしつ)に関(かか)わる人(ひと)を増(ふ)やす訳(わけ)にはいかないもんな)


「なぁミオ、ちょっとだけ下(した)を向(む)いててもらえるか? この粉(こな)は吸(す)い過(す)ぎると良(よ)くないから」


 タカヤがキラキラ粉(こ)を使(つか)うため、ポケットからエッグロケットを取(と)りだそうとした…その時(とき)!


「下(した)、した…? あぁーっ!」


 ミオは途端(とたん)にガチャガチャとリモコンを操作(そうさ)し始(はじ)めます。


「思(おも)い出(だ)した! 下(した)Aからの上(うえ)B、間合(まあ)い調整(ちょうせい)して上(うえ)Yからのスペシャルスマッシュだ!」


 目(め)にも止(と)まらぬ高速(こうそく)で動(うご)いてたミオの指(ゆび)が止(と)まると…


『パスワードが入力(にゅうりょく)されました。遠隔(えんかく)操作(そうさ)カメラの運転(うんてん)を停止(ていし)します』


 鳴(な)り響(ひび)いていた大(おお)きな警報音(けいほうおん)はピタッと止(と)まって、下(した)の階(かい)の生徒(せいと)の笑(わら)い声(ごえ)が聞(き)こえるほど周囲(しゅうい)は静(しず)まりかえりました。


 そこへちょうど、廊下(ろうか)の先(さき)からタカヤたちの担任(たんにん)である琴(こと)子(こ)先生(せんせい)がやって来(き)ます。


「君(きみ)たちか。何(なん)かすごい音(おと)がしてたから来(き)たんだけど、どうかした?」


 …ショースケとミオが慌(あわ)ててリモコンを隠(かく)そうと背中(せなか)を向(む)けている間(あいだ)に、タカヤが一歩(いっぽ)前(まえ)へ出(で)て、ポケットから防犯(ぼうはん)ブザーを取(と)り出(だ)しました。


「ごめんなさい、俺(おれ)の防犯(ぼうはん)ブザーが間違(まちが)えて鳴(な)っちゃって。お騒(さわ)がせしました」


「ああ、そういうこと! びっくりしたよ…そうだ、もうすぐチャイムが鳴(な)るから掃除(そうじ)場所(ばしょ)へ移動(いどう)しなよー」


 琴子(ことこ)先生(せんせい)は三人(さんにん)に明(あか)るく笑(わら)いかけると、階段(かいだん)を下(お)りて行(い)きました。




「よ、よかった…助(たす)かったよタカヤ。没収(ぼっしゅう)されちゃうかと思(おも)った…」


 ショースケはまた着(き)ているポロシャツの下(した)にリモコンを隠(かく)したようで、お腹(なか)辺(あた)りを膨(ふく)らませたまま息(いき)を吐(つ)きました。


「本当(ほんとう)ありがとうー。おれのせいで、コントローラーの持(も)ち主(ぬし)であるゲーム好(ず)きの同士(どうし)が困(こま)っちゃったらどうしようかと思(おも)ったー…やっぱりどれだけ悩(なや)んでても、他人(ひと)のを勝手(かって)に使(つか)ったらダメだねー。反省(はんせい)したよ」


 ミオがちょっと恥(は)ずかしそうに頬(ほお)を掻(か)くのを見(み)て、タカヤは安心(あんしん)したように笑(わら)います。


「あはは、何(なん)とかなってよかったよ」


「ところでタカヤー。おれさー、よく聞(き)いてなかったんだけど…なんか途中(とちゅう)で粉(こな)とか言(い)ってなかったー?」


「え⁉ き、聞(き)き間違(まちが)いだろ! さぁ、掃除(そうじ)に行(い)かないとだな!」


 タイミング良(よ)く、昼休(ひるやす)み終了(しゅうりょう)のチャイムが流(なが)れ始(はじ)めました。


「あ、本当(ほんとう)だー。おれ掃除(そうじ)場所(ばしょ)、四(よん)階(かい)の音楽室(おんがくしつ)だからこのまま行(い)くよー。そうだ、タカヤとショースケって一階(いっかい)の理科室(りかしつ)掃除(そうじ)だよねー?」


 ミオは膨(ふく)らんだショースケのお腹(なか)辺(あた)りを指(ゆび)さします。


「そのコントローラーさ、二(に)階(かい)のトイレの下(した)の棚(たな)にでも隠(かく)しておいてよ。持(も)ち主(ぬし)が探(さが)してるだろうしー」


 服(ふく)の下(した)からリモコンを取(と)り出(だ)したショースケが大(おお)きく二(に)回(かい)頷(うなず)くと、ミオは嬉(うれ)しそうにへにゃっと笑(わら)いました。


「頼(たの)んだよー。じゃあおれ行(い)ってくるねー!」


 少(すこ)しすっきりした表情(ひょうじょう)のミオが廊下(ろうか)の先(さき)に消(き)えるのを見送(みおく)ってから…タカヤとショースケは顔(かお)を見合(みあ)わせてニヤリと笑(わら)います。


 そしてエッグロケットを操作(そうさ)してキラキラ粉(こ)を被(かぶ)ると、外庭(そとにわ)へと急(いそ)ぐのでした。



****



「ただいま」


 大雨(おおあめ)の中(なか)、学校(がっこう)から帰(かえ)ったタカヤは雫(しずく)が滴(したた)る傘(かさ)を玄関(げんかん)に干(ほ)した後(あと)、リビングへと入(はい)って明(あ)かりを点(つ)けます。


「オカエリー タカヤ オカエリー!」


 二(に)階(かい)に居(い)たらしいツバサは、忙(せわ)しなく四(よん)本(ほん)の足(あし)を動(うご)かしてタカヤに近(ちか)づくと、その足下(あしもと)をくるくる回(まわ)り始(はじ)めました。


「タカヤ、キョウモ ヤクソク シタ トオリ コスモピース ノ チカラ ツカワナカッタ?」


「…うーんと」


 タカヤが返事(へんじ)に困(こま)っていると…ツバサは三本(さんぼん)の触覚(しょっかく)でぺちぺちタカヤのふくらはぎを叩(たた)き始(はじ)めます。


「ツカッタ デショ! ボク モ ショースケ モ ダメッテ イッテルノニ!」


「あはは…今日(きょう)は仕方(しかた)なかったんだって。大丈夫(だいじょうぶ)だよ、何(なん)ともないだろ?」


「タカヤ キキカン ガ ナサスギル! ボク コマッチャウ!」


 ツバサに今度(こんど)はスネを叩(たた)かれながら、タカヤが部屋(へや)の中(なか)を見渡(みわた)すと…固定(こてい)電話(でんわ)のランプが光(ひか)っているのに気(き)が付(つ)きました。


 あの色(いろ)の光(ひかり)は…宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)からです。


「ツバサ? 誰(だれ)かから電話(でんわ)かかって来(き)たか?」


「ソウイエバ ショウゾウ カラ ルスデン ガ ハイッテルヨ」


 ツバサはタカヤを叩(たた)くのを止(と)めて電話(でんわ)の方(ほう)へ歩(ある)いて行(い)くと、器用(きよう)に触覚(しょっかく)を伸(の)ばして、留守電(るすでん)の再生(さいせい)ボタンを押(お)しました。


 スピーカーから肖(しょう)造(ぞう)の声(こえ)が流(なが)れ始(はじ)めます。



『タカヤか。ワシじゃ…次(つぎ)の金曜日(きんようび)に、春子(はるこ)と諄(じゅん)弌(いち)が本部(ほんぶ)へ戻(もど)ってくる。その場(ば)に…お前(まえ)にも居(い)てもらいたい。学校(がっこう)が終(お)わり次第(しだい)、急(いそ)いで本部(ほんぶ)へ来(き)てくれんか。以上(いじょう)じゃ』



「ワオワオ! ネェ タカヤ、ボク モ イキタイ! ボク、タカヤ ノ カアサン ト トウサン ニ アッタ コト ナイモノ!」


 ツバサが嬉(うれ)しそうに触覚(しょっかく)を揺(ゆ)らして飛(と)びついて来(き)たので、タカヤはそれを優(やさ)しく抱(だ)きとめました。


「あはは、前(まえ)に二人(ふたり)が帰(かえ)ってきたときは『家族(かぞく)水入(みずい)らずで』ってお留守番(るすばん)しててくれたもんな」


「ソウ! ボク ガマン シタノニ、アトデ ショースケ モ エイギス モ アッタ ッテ キイテ モウ プンプン!」


「よしよし、ありがとなツバサ。肖(しょう)造(ぞう)さんにツバサも連(つ)れて行(い)っていいか聞(き)いとくよ」


「ワーイ! タカヤ ダイスキー!」


 タカヤの腕(うで)の中(なか)で頭(あたま)を優(やさ)しく撫(な)でられて、ツバサは大変(たいへん)ご満悦(まんえつ)です。


「でも…一体(いったい)何(なん)の話(はなし)だろう」


 そう考(かんが)えた時(とき)…何故(なぜ)でしょう、タカヤの背中(せなか)にゾクリと悪寒(おかん)が走(はし)りました。


「タカヤー? ドウシタノー?」


「…いや、何(なん)でも無(な)い。ツバサ、今日(きょう)はこの後(あと)用事(ようじ)無(な)いから一緒(いっしょ)に遊(あそ)ぼうか」


 気(き)のせいだと自分(じぶん)に言(い)い聞(き)かせて、ツバサを抱(だ)いたままタカヤはソファに座(すわ)ります。


「ワーイ! ジャア カクレンボ シヨー?」


「あはは、ツバサかくれんぼ好(す)きだよな。いいよ、じゃあ十(じゅう)秒(びょう)数(かぞ)えるな…いーち、にー」




 窓(まど)の外(そと)から聞(き)こえる強(つよ)い雨(あめ)の音(おと)に負(ま)けないように…自分(じぶん)の中(なか)に芽生(めば)えた嫌(いや)な予感(よかん)が、これ以上(いじょう)膨(ふく)れ上(あ)がらないように…タカヤはわざと、かき消(け)すように大(おお)きな声(こえ)を出(だ)すのでした。 


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