表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/34

第二十七話 銀色の鱗粉①

****


「さあさア、到着(とうちゃく)しましたヨー! ここが(わたし)故郷(ふるさと)、プニプヨ(せい)でス!」


 メイド(ふく)姿(すがた)のメグは元気(げんき)UFO(ゆーふぉー)()()して、緑色(みどりいろ)(つち)(うえ)()()ちました。


「わぁ……(なん)()うか、すごく派手(はで)だね……?」


 (すこ)着慣(きな)れてきた宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)制服(せいふく)()(つつ)んだショースケは、(あと)(つづ)いて地面(じめん)()みしめます。


 見上(みあ)げた(そら)はショッキングピンク、そこに()かぶ太陽(たいよう)のようなものはミラーボールのようにギラッギラで……その(まぶ)しさにショースケは(おも)わず()(ほそ)めました。


「うう……()(わる)くなりそう。ねぇ、タカヤはコスモピースの(ちから)でそんなに(まぶ)しくないの?」


(おれ)もちょっとは(まぶ)しいけど……我慢(がまん)できるのはこの(ちから)のおかげかもな」


 いつも(どお)りの(そで)なしの(ふく)()らしながら、タカヤが興味深(きょうみぶか)そうにそのド派手(はで)景色(けしき)(なが)めていると、UFO(ゆーふぉー)(なか)から荷物(にもつ)両手(りょうて)一杯(いっぱい)()ったライトが(こえ)()します。


「すみませーんメグさん! この地球(ちきゅう)土産(みやげ)()って()たらいいんですか?」


「まぁライトさん。荷物(にもつ)なら(わたし)()ちますよ? アンドロイドなのですから力仕事(ちからしごと)得意(とくい)です」


 ルルはライトが()っている荷物(にもつ)()()ばしますが、ライトはそのまま(あゆ)みを(すす)めてUFO(ゆーふぉー)()りて()ました。


 ……(おも)いのかその足取(あしど)りはフラフラです。


「いえ……(ぼく)()ちます。ルルさんにばかり(あま)えられませんよ」


「ですが、先日(せんじつ)またお(こし)(いた)められたばかりですよね?」


「う、それはそうですけど……。とにかく大丈夫(だいじょうぶ)……っ」


 そこまで()ったところで、ライトの()っていた荷物(にもつ)(すべ)て、ルルの()によって軽々(かるがる)()()げられてしまいました。


「やっぱり(わたし)()ちますね?」


 (くび)(かる)(かし)げて、ルルはふわりと(わら)います。


「さぁメグ? (わたし)たちはどこへ()かえばいいんですか?」


「とりあえず情報(じょうほう)収集(しゅうしゅう)のためニ、まずはワタシの()んでいた(むら)()かいましょウ。長老(ちょうろう)なら『銀色(ぎんいろ)鱗粉(りんぷん)』の(くわ)しい採取(さいしゅ)方法(ほうほう)()っているかもしれませン!」 


 ()(にん)今回(こんかい)プニプヨ(せい)にやって()たのは、(あたら)しいコスモピースを(つく)材料(ざいりょう)(ひと)つである『銀色(ぎんいろ)鱗粉(りんぷん)』を()()れるためです。


 一行(いっこう)(ちか)くにあるらしい(むら)()かって(ある)(はじ)めました。



「あ! ()てみて、モジェリの花畑(はなばたけ)があるよ!」


 ショースケが(ゆび)をさした(さき)では、(てん)(たか)くそびえるまで(おお)きく(そだ)ったモジェリの(はな)広大(こうだい)敷地(しきち)一面(いちめん)()いています。


本当(ほんとう)だ……こんなに(おお)きくなるんだね。うちで研究(けんきゅう)してるモジェリより(ばい)以上(いじょう)(おお)きいよ」


 ライトは(くび)(つか)れてしまいそうなほど見上(みあ)げて……あまりに派手(はで)(そら)()()みたのか(まぶた)(こす)りました。


 その様子(ようす)に、メグはふふんと(はな)()らします。


「すごいでショー。これが本場(ほんば)のモジェリ(ばたけ)でス! (わたし)もライトさんのところに()(まえ)はここで(はたら)いていたんですヨ! ……ア、()えて()ましたネ!」


 (とお)くにはメグが()っていたであろう(むら)()えました。


 (むら)……おそらく(むら)です。


 まるでクリスマスのイルミネーションの(ごと)くビカビカ(ひか)り、大規模(だいきぼ)(まつ)りでもやっているのかというほど(にぎ)やかな(おと)()こえ、(はな)れていてもわかるほどの(あや)しい異臭(いしゅう)()ちこめていますが……。


「えーっとメグさん? あそこは(はい)っても大丈夫(だいじょうぶ)場所(ばしょ)ですか?」


(なに)()ってるんでス? ライトさん。いつも(どお)りの(むら)ですヨ」


 メグがぴょんぴょんスキップしながら(すす)むので、()(にん)不安(ふあん)(おも)いながらもその(あと)()いていきました。



****



「おお、メグじゃないか! (ひさ)しぶりじゃなー」


 (むら)(はい)ると、(ちい)さなクラゲのような(あお)いプニプヨ星人(せいじん)が、(からだ)をぼよんぼよん(はず)ませながら(ちか)づいてきました。


長老(ちょうろう)、お(ひさ)しぶりでス! お土産(みやげ)()って()ましたヨ!」


 メグはピンクのプニプヨ星人(せいじん)姿(すがた)(もど)ると、(おな)じようにぽよぽよ()ねて挨拶(あいさつ)をします。


元気(げんき)そうで()かったぞ……ん? (うし)ろに()るのは……地球(ちきゅう)(じん)⁉」


「はイ! (わたし)仲間(なかま)()れて()ましたタ!」


「それは大変(たいへん)じゃ! おい! (みな)(もの)ー!」


 長老(ちょうろう)(こえ)()()げると、(むら)のあちこちからたくさんのプニプヨ星人(せいじん)がワイワイと(あつ)まってきました。


地球(ちきゅう)(じん)()たぞ! (いま)すぐ(まつ)りじゃ、(まつ)りを開催(かいさい)するぞー!」




 ……()がついたときには、()(にん)はカラフルでゴージャスな(せき)(すわ)らされていて。


 ()(まえ)には(なに)やらぐちゃぐちゃとして(あや)しい(にお)いがする大量(たいりょう)料理(りょうり)


 そしてその(まわ)りを(おお)はしゃぎで(おど)りまくるプニプヨ星人(せいじん)たち。


 どこかからは、にゃろにゃろと()()(おぼ)えのある(うた)(なが)れます。


 けたたましいほど村中(むらじゅう)がビカビカに(ひか)(なか)、ショースケは(みっ)(となり)(すわ)るメグに(ちい)さな(こえ)(はな)しかけました。


「ねぇメグさん、これ(ぼく)たちどうしたらいいの?」


「どうしたらいいと()われてモ……(たの)しんだらいいんじゃないですカ? これ美味(おい)しいですヨ?」


 メグはクラゲのような(ちい)さな(からだ)で、()(まえ)料理(りょうり)()()んでいます。


美味(おい)しい、ねぇ……」


 料理(りょうり)(にお)いは地球(ちきゅう)()うと、納豆(なっとう)とキムチと沢庵(たくあん)とブルーチーズを()ぜたみたいです。


「ねぇライトさん、これ()べてみて美味(おい)しいか(おし)えてくれない?」


(いや)だよ……(ぼく)実験台(じっけんだい)にしようとしないでくれ」


 ライトはこの(にお)いが苦手(にがて)なのか、()ている宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)制服(せいふく)(そで)(はな)(おお)いました。


「と、とにかく! (はや)く『銀色(ぎんいろ)鱗粉(りんぷん)』の情報(じょうほう)()()さないと! ねぇタカヤ(くん)……タカヤ(くん)⁉」


 ライトの視線(しせん)(さき)のタカヤは……()(まえ)料理(りょうり)(くち)いっぱいに()れていました。


 ……(なん)だか(かた)をガタガタ(ふる)わせて、(かお)()(さお)です。


「タカヤ⁉ それ()べちゃったの⁉」


 (となり)のショースケもびっくりです!


「……だって、(おれ)たちのために用意(ようい)してくれたのに……()べなきゃ(わる)いし……お、おおいしい、ですよ?」


 (かた)だけじゃ()(あたま)もガタガタ(ふる)わせながら、(いま)にも(たお)れそうな()をしてタカヤは(わら)いました。


「タカヤ(くん)! いいから(はや)くぺーしなさい!」


 ライトが(せき)から()()がって、タカヤの背中(せなか)をパンパン(たた)くと……タカヤはやっと(さら)(うえ)に、(くち)から料理(りょうり)()()します。


「うぅ……せっかく(つく)ってくれたのにごめんなさい……」


「タカヤ、()されたもの(なん)でも()べようとするの()めた(ほう)がいいよ⁉ この(あいだ)本部(ほんぶ)()されたじーちゃんのお(ちゃ)()んだしさー、もう(すこ)自分(じぶん)大事(だいじ)に」


 ショースケがつらつらと説教(せっきょう)(はじ)めたところへ……(あお)(からだ)長老(ちょうろう)が、(うれ)しそうに()(にん)近寄(ちかよ)って()ました。


「どうじゃ、地球(ちきゅう)(じん)(みな)さん! (たの)しんでくれてますかな? 料理(りょうり)はお(くち)()いましたかのう?」


「は! はい、それはもう!」


 ライトはそう(こた)えながら、(いそ)いで(からだ)(うし)ろにタカヤの()()したものが(はい)った(さら)(かく)します。


「ん? (いま)(なに)(かく)しましたかな?」


「いえいえいえ! (なん)にも!」


 必死(ひっし)(くび)()っているライトを、長老(ちょうろう)(あや)しそうに(のぞ)()むので……ルルは(たす)(ぶね)()そうと(いそ)いで(くち)(ひら)きました。


長老(ちょうろう)(さま)? (わたし)、お(うかが)いしたいことがございますの!」


「ほう? (なん)ですかな、地球(ちきゅう)(じん)のお(じょう)さん」


(わたし)たち『銀色(ぎんいろ)鱗粉(りんぷん)』というものを(さが)しているのですが……(なに)かご(ぞん)じありませんか?」


銀色(ぎんいろ)鱗粉(りんぷん)⁉」


 長老(ちょうろう)はやわらかい(からだ)をぷくーっと(ふく)らませました。


「お(じょう)さん、(なん)(おそ)ろしいものの名前(なまえ)(くち)()すんじゃ!」


「お、(おそ)ろしいものなのですか?」


 戸惑(とまど)うルルの(となり)で、メグはやっと料理(りょうり)()べるのを()めて長老(ちょうろう)()います。


長老(ちょうろう)、『銀色(ぎんいろ)鱗粉(りんぷん)』って結局(けっきょく)(なん)なんでス?」


「……銀色(ぎんいろ)鱗粉(りんぷん)は、このプニプヨ(せい)生息(せいそく)する猛獣(もうじゅう)ニュムニュムの成体(せいたい)(はね)から採取(さいしゅ)できるものじゃ。それも、(だい)好物(こうぶつ)()べた(あと)(はね)から、のう」


(だい)好物(こうぶつ)……それってまさカ! プ、プニプヨ星人(せいじん)⁉」


 メグは(からだ)をぐにょぐにょ()らしながら悲鳴(ひめい)をあげました。


「そうじゃ……じゃから、銀色(ぎんいろ)鱗粉(りんぷん)については(わし)(ふく)めごく少数(しょうすう)(もの)しか()らないのです。あんまりにも(おそ)ろしいものじゃからのう……」


 長老(ちょうろう)(まわ)りのプニプヨ星人(せいじん)()こえないように()()けて、(ちい)さな(こえ)()います。


「あ、あの! (なに)(ほか)採取(さいしゅ)する方法(ほうほう)()いのでしょうか?」


 (はなし)()いていたライトが(たず)ねると……長老(ちょうろう)(すこ)(かんが)()んでから(しゃべ)(はじ)めました。


()いわけでは()いです。ニュムニュムはプニプヨ星人(せいじん)()べると、その興奮(こうふん)によって筋肉(きんにく)躍動(やくどう)し、(からだ)(おく)にある器官(きかん)『オプト』が刺激(しげき)されて、銀色(ぎんいろ)鱗粉(りんぷん)(はな)つようになる。つまり、(べつ)方法(ほうほう)でそのオプトを刺激(しげき)することが出来(でき)れば……()()れることは出来(でき)なくは()いじゃろう。しかし……ニュムニュムは(つよ)い、危険(きけん)なモンスターじゃ。おすすめはせんよ」


 長老(ちょうろう)はため(いき)()くと、一度(いちど)建物(たてもの)(なか)(もど)って……一冊(いっさつ)(ほん)()(もど)って()て、それをライトに(わた)しました。


「ここにニュムニュムに(かん)する(くわ)しいことが()いてある、お()ししましょう……でも、今日(きょう)はもう(おそ)いから()まって()きなさい。部屋(へや)用意(ようい)しておきますな」


「え、(おそ)いって……こんなに(まぶ)しいじゃない。まだお(ひる)でしょ?」


 ショースケはギラギラ(かがや)(そら)見上(みあ)げました。


 (そら)はショッキングピンクなのでわかりませんが……とにかく(くら)くないので、地球(ちきゅう)では特別(とくべつ)場合(ばあい)(のぞ)(よる)とは()えないでしょう。


 と、その(とき)……。


 ポタリポタリと、(うす)緑色(みどりいろ)液体(えきたい)(あめ)のように()ってきました。


 (さいわ)()(にん)(うえ)には屋根(やね)があるので()れませんが……(まわ)りの村人(むらびと)たちは大慌(おおあわ)てで(いえ)(なか)へと(かえ)っていきます。


「へー、この(ほし)(あめ)()るんだね」


 ショースケが(なが)めていると、その(あめ)(すう)(てき)屋根(やね)(そと)にあった料理(りょうり)(うえ)()ちました。


 すると!


 (あめ)()たった部分(ぶぶん)料理(りょうり)が、ジュワジュワと(おと)()てて(おそ)ろしい(いきお)いで()けていくではありませんか!


「え、え⁉」


「ショースケさん、これはこの(ほし)(よる)(はじ)まりの合図(あいず)なんですヨ。さぁ、部屋(へや)()きましょうカ」


 メグはひどく()れた様子(ようす)で、ふよふよ()きながら部屋(へや)()かって()(はじ)めました。


「ね、ねぇタカヤ? もしかしてプニプヨ(せい)って……もの(すご)過酷(かこく)(ほし)?」


「そうみたいだな……(おれ)(はじ)めて()たから()らなかったよ」


「うーん……(ぼく)メグさんの図太(ずぶと)さの理由(りゆう)がわかった()がしたよ」


 ショースケとタカヤが小声(こごえ)(はな)していると、(さき)(ある)いていたライトが()(かえ)ります。


「タカヤ(くん)、ショースケ(くん)? ()くよ?」


「あ、はい! (いま)()きます!」


 タカヤがそう返事(へんじ)をして、二人(ふたり)(おそ)ろしい(あめ)(おと)()きながら(あと)()いていきました。



****



「えーっと……ベッドとか()いの?」


 部屋(へや)(はい)って早々(そうそう)、ショースケは(あた)りを見回(みまわ)します。


 こぢんまりとした、()(にん)()るには(すこ)(せま)部屋(へや)(なか)には……(なぞ)置物(おきもの)しかありません。


「プニプヨ星人(せいじん)(からだ)がやわらかいですからネ。ベッドなんて必要(ひつよう)()いんでス……すみませんガ今日(きょう)(ゆか)()てくださイ」


 メグはぷよぷよ()ねて部屋(へや)(すみ)っこに()くと、触手(しょくしゅ)(まる)めるようにして(ねむ)準備(じゅんび)(はじ)めました。


「うーん……(なに)かベッドの()わりになるようなもの(はい)ってないかな?」


 ショースケはエッグロケットの(なか)(さぐ)りますが……残念(ざんねん)ながらその(よう)なものは(はい)っていないみたいです。


 (となり)(おな)じく(さぐ)っていたライトとタカヤも同様(どうよう)のようで……。


仕方(しかた)ない、今日(きょう)(ゆか)()よう」


 ライトは(ちい)さくため(いき)()いて、(かべ)(ほう)(かお)()けて寝転(ねころ)がりました。


「う、(おも)ったより(かた)いな……また(こし)(いた)めそうだ……」


大丈夫(だいじょうぶ)ですか? ライトさん。(わたし)膝枕(ひざまくら)しましょうか?」


 ルルはすかさずライトの(となり)寝転(ねころ)んで、その背中(せなか)にぎゅーっと()()きます。


「いえ、平気(へいき)です……あの、ルルさん(ちか)くないですか? そんなに(せま)いですっけ?」


「はい! とってもとっても(せま)いんです!」


 (しあわ)せそうに(ほお)ずりをするルルを見下(みお)ろしながら……ショースケは(なん)とも()えない、複雑(ふくざつ)そうな()をしています。


「……ねぇタカヤこの(あいだ)(はい)ってよ。(ぼく)この(となり)()たくないよ……」


「い、いいけど……」


 タカヤが若干(じゃっかん)()まずさを(かん)じながらルルの(となり)寝転(ねころ)ぶと、ショースケはその(よこ)にやっと寝転(ねころ)びました。


「うう……本当(ほんとう)(かた)いよ……ベッドが(こい)しいよ……」


 (はじ)めはぐずぐず文句(もんく)()っていたものの……(つか)れていたのでしょう、ショースケはすぐに(ねむ)ってしまいました。


 ライトもメグも寝息(ねいき)()てていますし、ルルもスリープモードに(はい)っているようです。




 ……部屋(へや)(なか)一人(ひとり)、タカヤは()そべったまま天井(てんじょう)をただ見上(みあ)げていました。


 (よる)はまだ(なが)いのでしょう、(あめ)()気配(けはい)はありません。



(……銀色(ぎんいろ)鱗粉(りんぷん)か。そんなもの、()つからなければいいのに)



 こっそり、コスモピースの(ちから)(すこ)しだけ解放(かいほう)してみます。


 (ひとみ)禍々(まがまが)しく(くろ)()まって、その(なか)(あか)(あお)星々(ほしぼし)()かんで……よかった、まだちゃんと使(つか)えます。


 (ちい)さくほっと(いき)()いてその(ちから)()くと、(ひとみ)はまたいつもの様子(ようす)(もど)って……タカヤはきゅっと、(すこ)しだけ(つよ)()(つむ)りました。



****



 さて、(あめ)がすっかり()んだ翌朝(よくあさ)


 (むら)出発(しゅっぱつ)した()(にん)は、ニュムニュムが(おお)生息(せいそく)するらしい(みずうみ)()かって(ある)いていました。


「うう、お(なか)(いた)いでス……わざわざあの(おそ)ろしいニュムニュムに()いに()くなんテ」


 また地球(ちきゅう)(じん)姿(すがた)(もど)ったメグは、いつものメイド(ふく)のフリルを()らしながら心底(しんそこ)(いや)そうにため(いき)()きます。


大丈夫(だいじょうぶ)ですよ、メグ。()べられそうになったら(わたし)(たす)けてあげますから」


本当(ほんとう)ですかルル! 約束(やくそく)ですヨ⁉ (うそ)()いたらダメですからネ⁉」


 ぎゅうっと()きついてきたメグの(あたま)を、ルルは微笑(ほほえ)ましそうによしよしと()でました。


「ねぇところでライトさん、結局(けっきょく)どうやって銀色(ぎんいろ)鱗粉(りんぷん)採取(さいしゅ)するの? プニプヨ星人(せいじん)()べさせるわけにはいかないし」


 ショースケが()いかけると、ライトは自分(じぶん)(くび)から()げた紺色(こんいろ)のポスエッグに()れて、空中(くうちゅう)(おお)きく画像(がぞう)表示(ひょうじ)しました。


 ……どうやらニュムニュムの体内(たいない)()のようです。


長老(ちょうろう)さんから()りた(ほん)をよく()んでみたんだけど、どうも銀色(ぎんいろ)鱗粉(りんぷん)採取(さいしゅ)するために刺激(しげき)しなければならない器官(きかん)の『オプト』は、分厚(ぶあつ)皮膚(ひふ)筋肉(きんにく)(おお)われてて(そと)からでは刺激(しげき)出来(でき)そうにないんだ。だから……」


「だ、だから?」


「うん。(ぼく)(ちい)さくなって、ニュムニュムの体内(たいない)侵入(しんにゅう)して直接(ちょくせつ)そのオプトを刺激(しげき)しようと(おも)って」


 ……ライトの(はなし)()いていたショースケたち()(にん)はパチパチと数回(すうかい)まばたきをした(あと)……()(くち)(おお)きく(ひら)きました!


「えぇ⁉ ライトさん()べられるってこと⁉」


「うん、まぁそうなるかな。でも刺激(しげき)したらワープ装置(そうち)ですぐに(もど)ってくるから。心配(しんぱい)いらないよショースケ(くん)


「いけませんライトさん! 危険(きけん)すぎます!」


大丈夫(だいじょうぶ)ですよルルさん、それなりに対策(たいさく)していきますから」


正気(しょうき)ですカ⁉ (あたま)でも()ったんじゃないですカ⁉」


()ってないですよメグさん……だってこれしか()かばないんです」


(おれ)一緒(いっしょ)()きます、ライトさん」


 ……今度(こんど)全員(ぜんいん)がタカヤの(ほう)視線(しせん)()けます。


一人(ひとり)()くのはあまりにも危険(きけん)()ぎます。(おれ)(そば)にいればコスモピースの(ちから)でいざという(とき)対応(たいおう)出来(でき)ますから」


「いやいや! ダメだよタカヤ(くん)(あぶ)ないよ⁉」


 あんなに大丈夫(だいじょうぶ)だと()ったライトですが、タカヤのこととなると(はなし)(べつ)のようで……(くび)をぶんぶん(よこ)()りました。


 それでもタカヤは(がん)として(ゆず)りません。


「ライトさん一人(ひとり)(ほう)がよっぽど(あぶ)ないじゃないですか。とにかく、(おれ)一緒(いっしょ)()きますから。(おれ)とライトさんがニュムニュムの体内(たいない)(はい)ってオプトを刺激(しげき)する、(そと)待機(たいき)しているショースケとルルさんとメグさんが銀色(ぎんいろ)鱗粉(りんぷん)採取(さいしゅ)する……というのでどうでしょうか」


「えー……やだなぁニュムニュム(こわ)いもん。でも、()べられるよりは(ひゃく)(ばい)マシかなぁ」


 ショースケはため(いき)()きながら、(まゆ)をハの()()げました。


「……ワ、ワタシはどこかに(かく)れて()ていたのでいいですカ……?」


「いけませんよ、メグ。協力(きょうりょく)してくださいね?」


 ルルはガシリと、()()むほど(つよ)くメグの(うで)(つか)みます。


「ひっ、(いや)でス(こわ)いでス! ……あア! その()はやめてくださイっ、ルルのその()(こわ)いでス!」


「ふふ……あら、(みずうみ)()えてきましたよ」


 (まえ)()くと、(とお)くにはまるで水銀(すいぎん)のように銀色(ぎんいろ)(かがや)く、(ひろ)水面(すいめん)()えました。


 (そら)から()(そそ)(ひかり)(まぶ)しいほどに反射(はんしゃ)して、(おも)わず()()じてしまいたくなるほどです。


(おそ)くなるとまたあの(あめ)()ってきてしまいますから。(いそ)ぎましょうか」


 メグの(うで)()()るルルを先頭(せんとう)に、一行(いっこう)(すこ)()(あし)(さき)目指(めざ)しました。



****



「ひぃいいいイ……うじゃうじゃいまスゥ……!」


本当(ほんとう)だ……(まえ)(ぼく)(いえ)()たやつより随分(ずいぶん)(おお)きいよ……!」


 (ちか)くの岩場(いわば)(かく)れたメグとショースケは、(かお)(すこ)()して(みずうみ)岸辺(きしべ)(のぞ)きます。


 岸辺(きしべ)では大小(だいしょう)様々(さまざま)なニュムニュムが、お昼寝(ひるね)時間(じかん)なのか(くち)(おお)きく(ひら)いてあくびを()(かえ)していました。


 成体(せいたい)のニュムニュムが背中(せなか)()えた(はね)(うご)かすたびに、ギラギラしたカラフルな鱗粉(りんぷん)(あた)りに()って(かがや)きます。


「なるほど……あのように(はね)から放出(ほうしゅつ)されるであろう『銀色(ぎんいろ)鱗粉(りんぷん)』を(あつ)めれば()いのですね、ライトさん」


「そうです、ルルさん。よろしくお(ねが)いします……ねぇタカヤ(くん)本当(ほんとう)()くのかい?」


 ライトはまだ不安(ふあん)そうですが……タカヤはさも当然(とうぜん)()わんばかりに(つよ)(うなず)きました。


「もちろんです。さて……油断(ゆだん)している(いま)がチャンスですね」


 タカヤはズボンのポケットからエッグロケットを()()して、その(なか)から(ひと)つの小瓶(こびん)()()()します。


「まずはこのクリームを(からだ)()って、(ちい)さくなったのでいいんですよね?」


「あ、ああ……その(とお)りだよ。さすがタカヤ(くん)だな……」


 躊躇(ちゅうちょ)()くクリームを(からだ)()(はじ)めたタカヤに、ライトは()()せながらも(なに)()えず……仕方(しかた)なく自分(じぶん)にもクリームを()(はじ)めました。


 二人(ふたり)(からだ)はみるみるうちに(ちい)さくなり、ショースケの片手(かたて)()りそうなほどになってしまいます。


「うわぁ……なんかお人形(にんぎょう)みたい」


 (うずくま)ったショースケは指先(ゆびさき)で、(ちい)さなタカヤのほっぺをツンツンとつつきました。


「きゃーライトさん可愛(かわい)いです! このままポケットに()れて()って(かえ)りたいです!」


 ルルは両手(りょうて)(やさ)しくライトを(すく)()げて、()(かがや)かせながら(ほお)ずりします。


「や、やめてくださいルルさん、()ろして……!」


「あら、ごめんなさい。あんまり可愛(かわい)らしいからつい……」


 ライトの(ほお)(ひと)つキスを()としてから、ルルはライトを地面(じめん)(もど)しました。


「……さ、さて! 最後(さいご)にこれをやっておかないとね!」


 (かお)()(だこ)のように(あか)らめながら、ライトは(くび)()げたポスエッグから霧吹(きりふ)きのようなものを()()します。


「それなんですカ? ライトさん」


(からだ)をコーティングする薬品(やくひん)ですよ、メグさん。これをやっておかないとニュムニュムの消化液(しょうかえき)()かされてしまいますから」


「しょ、消化液(しょうかえき)……うゥ」


 ……メグは想像(そうぞう)しただけで失神(しっしん)しそうです。


「さ、タカヤ(くん)にも薬品(やくひん)をかけるから()(つむ)って?」


 ライト自身(じしん)にスプレーをして、(となり)のタカヤにも同様(どうよう)()きかけて……さぁ、これで準備(じゅんび)完了(かんりょう)です。


 岸辺(きしべ)()かおうとする二人(ふたり)に、ショースケは(うし)ろから(こえ)をかけました。


本当(ほんとう)()()けてよ? ニュムニュムの(からだ)から()()なかったなんて(いや)だからね⁉」


 その(こえ)にタカヤは()(かえ)って……いつも(どお)りに、(わら)ったフリをします。


「わかってるよ。ショースケも……その、よろしく(たの)むな?」


「ああ、銀色(ぎんいろ)鱗粉(りんぷん)でしょ? わかってるよ。(あたら)しいコスモピースのためだもん、ちゃんと()ってみせるから安心(あんしん)してよね!」


「……うん。それじゃあ、いってくる」


 緑色(みどりいろ)(つち)()みながら、タカヤとライトは(はし)って()きました。




 岸辺(きしべ)へと(ちか)づいて、これまた派手(はで)(いろ)(くさ)(しげ)みから二人(ふたり)はニュムニュムの様子(ようす)(うかが)います。


「どのニュムニュムにしますか? ライトさん」


「そうだな、出来(でき)るだけ(からだ)(おお)きいニュムニュムの(ほう)(はい)りやすいだろうから……あの(おく)にいるのとかどうかな?」


 ライトが(ゆび)をさした(さき)では一際(ひときわ)(おお)きなニュムニュムが、銀色(ぎんいろ)(みずうみ)(みず)(なが)(くび)()げてグビグビと()んでいました。


「わかりました、あのニュムニュムにしましょう……ところで、どうやって体内(たいない)(はい)ります? (きば)()まれるわけにはいきませんし……」


「うん、その(ため)には丸呑(まるの)みされないとね。その方法(ほうほう)(かんが)えたんだ、えーっと……あ、あったね」


 パタパタと(しげ)みの(おく)(はし)って()ったライトは、(ちか)くから(いま)(からだ)よりも(おお)きい、(まる)()()大玉(おおだま)のように(ころ)がして()ました。


「この()()はハララの()(かわ)がすごく(かた)いからニュムニュムはこの()()()れないんだけど、どうも栄養(えいよう)があるからか(この)んで丸呑(まるの)みすることがわかってるんだ」


 (かた)(かわ)をコツコツと(ゆび)(たた)きながらライトは(つづ)けます。


「だからこの()(あな)()けて(なか)(はい)って近付(ちかづ)けば、ニュムニュムに()まれること()丸呑(まるの)みしてもらえると(おも)うんだ。まぁ問題(もんだい)は……そんな(かた)()にどうやって(あな)()けるかなんだけどね」


「ああ、(あな)なら(おれ)()けますよ」


 そう()ったタカヤはすぐにコスモピースの(ちから)解放(かいほう)すると、背中(せなか)から()した無数(むすう)触手(しょくしゅ)をまるでドリルのように回転(かいてん)させて、あっという()(かた)いハララの()(おお)きめの(あな)()けてしまいました。


「これでいいですか?」


 ……へにゃりと(わら)ったタカヤに、ライトは(きび)しい……そして(かな)しそうな()()けます。


「……タカヤ(くん)、この(あいだ)(あぶ)ないことがあったばかりだろ。その(ちから)はそんな簡単(かんたん)使(つか)ったらダメだよ」


平気(へいき)ですよ。特級(とっきゅう)仕事(しごと)ではよく使(つか)ってますし、(なん)ともありません」


(きみ)(なん)ともなくても(ぼく)(いや)なんだよ」


 ライトの(こえ)(ふる)えていました。


 ……不安(ふあん)なときに(こえ)(ふる)えるのは、ライトの(むかし)からの(くせ)です。


「とにかく、出来(でき)るだけその(ちから)使(つか)わないで()しい。もうすぐやっと(きみ)(からだ)からコスモピースを()(のぞ)けるんだから、それまでに(なに)かあったら大変(たいへん)だろ?」



 ……その言葉(ことば)()いたとき、タカヤは(からだ)(おく)が、ヒュッと(つめ)たくなったのを(かん)じました。


 (なに)大事(だいじ)仕舞(しま)っていたものが、プツリと()れてしまったような感覚(かんかく)がしました。



「……タカヤ(くん)()いてるかい? わかった?」


 ただ(うなず)くつもりだったのです。


 いつもみたいに、(うそ)でも、わかったと()うつもりだったのです……なのに。


「……じゃあ」


 タカヤは何故(なぜ)(くち)(ひら)いていました。


(おれ)(ちから)使(つか)わずに、どうやって(あな)()けるつもりだったんですか?」



 ……タカヤは(くち)から()言葉(ことば)に、その(つめ)たい(こわ)(いろ)に……(だれ)よりも自分(じぶん)(おどろ)いていました。


 ()(まえ)のライトは(くちびる)(ふる)わせて、(ひとみ)()らして……ひどくショックを()けている様子(ようす)です。


 何故(なぜ)こんなことを()ってしまったのかは自分(じぶん)でもわからなくて。


 でも……ああもう、()わなかったことには出来(でき)ません。



 ライトは動揺(どうよう)しながらも(こえ)(しぼ)()します。 


「そ、それは……(いま)から(かんが)えるつもりで」


(かんが)えたら()てきたんですか? 時間(じかん)()いでしょう?」


「……それは……」


 タカヤの(みょう)(あつ)に、()(くら)(ひとみ)に……ライトは(なに)()(かえ)せず、(うつむ)いてしまいました。


「……(おれ)は、(おれ)使(つか)いたいときにこの(ちから)使(つか)います。ですので、使(つか)わない約束(やくそく)出来(でき)ません。ごめんなさい」



 (みずうみ)(みず)がパシャリと、()ねる(おと)()こえます。


 (ちか)くで昼寝(ひるね)をするニュムニュムの、うなるような寝言(ねごと)()こえます。



()きましょう。あまりショースケたちを()たせるわけにはいきません」


 タカヤは(しげ)みの(なか)を、(あな)()いた()(ころ)がしながら(ある)(はじ)めました。


 ……ライトはその(うし)ろを、(すこ)(はな)れて()いていきます。


 二人(ふたり)(ねら)いを(さだ)めたニュムニュムは、のんきに(おお)きなあくびをしながら(ちか)くの(くさ)美味(おい)しそうに()んでいました。


 お(なか)()いているようです。(さき)ほど(あな)()けたハララの()(はい)って、その(ちか)くに(ころ)がれば……きっとあのニュムニュムはそれを丸呑(まるの)みするでしょう。


 タカヤは()()まって、()()けた(あな)(なか)(はい)ります。


「ライトさんも(はい)ってください」


「……あぁ、うん」


 (からだ)(すこ)しぎゅっと(まる)めて、ライトも()(なか)(はい)りました。


「それじゃあ(ころ)がしますね」


 タカヤが背中(せなか)から()ばした触手(しょくしゅ)()けた(あな)から()して、()(そと)から(ころ)がそうとすると……


「タカヤ(くん)


 ……ライトは(ちい)さく(つぶや)きました。


(ぼく)は……(きみ)心配(しんぱい)なんだよ……」



 (あた)りには、ハララの()()だるくなるほど(あま)(にお)いが()ちこめて。


 ……ライトがほんの(すこ)しだけ、(はな)(すす)(おと)()こえて。



「……わかってます」


 一言(ひとこと)だけ(こた)えて……タカヤはそのまま、自分(じぶん)たちが(はい)った()(ころ)がします。


 ()はコロコロと(ころ)がって、(くさ)()んでいたニュムニュムの鼻先(はなさき)にコツンと()たると……ニュムニュムは(おお)きな(くち)(ひら)いてそれを()()んでしまいました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ