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第二十六話 君の為に、僕の為に

****


「やっと()ましたねー。(おそ)いですよー」


 オラブ(せい)から(もど)ってきたばかりのイルクマはさも、もの(すご)()ったかのよう不満(ふまん)げに()いました。


 宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)最上階(さいじょうかい)


 (しょう)(ぞう)研究室(けんきゅうしつ)(となり)にあった()部屋(べや)一時(いちじ)(てき)にイルクマの研究室(けんきゅうしつ)になり、みんなはその部屋(へや)()ばれてすぐに(あつ)まった……ものの。


「えーっと……(ぼく)らはどこに()ったらいいの?」


 ショースケがそう()くのも無理(むり)はありません。


 室内(しつない)はイルクマがオラブ(せい)から()ってきた道具(どうぐ)やら荷物(にもつ)やらで大層(たいそう)ごちゃごちゃで、(あし)()()()いほどなのですから。


()りませんよーそんなことー。それより(はや)(はい)ってくださいー。あ、ここにあるものはどれも大事(だいじ)なのでー、絶対(ぜったい)(こわ)したり(くず)したりしないでくださいねー?」


 イルクマが無茶(むちゃ)()うので……みんなは仕方(しかた)なく、()(ぐち)付近(ふきん)にほんの(すこ)しだけある(ちい)さな()きスペースに、ぎゅうぎゅう()めで()つことになりました。


「ショースケ(くん)大丈夫(だいじょうぶ)? ちょっと(しょう)(ぞう)おじさん、(ぼく)(あし)()んでますよ」


「そんなこと()われたって(せま)いんじゃもん、ライト。のおタカヤ、もうちょい()ってくれんか」


「ごめんなさい、これ以上(いじょう)はツバサが(つぶ)れちゃいます!」


「セマイー セマイー」


「……(とう)さんがツバサを()ってやるから……こっちにおいで。春子(はるこ)大丈夫(だいじょうぶ)か……?」


大丈夫(だいじょうぶ)(じゅん)(いち)(なん)だかおしくらまんじゅうみたいで(たの)しくなってきちゃった! ねぇエイギス?」


「うふふ、そうね春子(はるこ)! ヒカル、もう(すこ)しこっちに()てもいいのよ?」


「え、えーっと……これ以上(いじょう)はエイギスに()きついちゃうって()うかぁ……」


 ……()(ぐち)付近(ふきん)はもうてんやわんやです。


「……アナタたち、本当(ほんとう)騒々(そうぞう)しいですねー」


 イルクマはその様子(ようす)()て、まるで他人事(ひとごと)のようにため(いき)()くと……(なが)ーい(かみ)のようなものを、()()がった荷物(にもつ)(うえ)適当(てきとう)(ひろ)げました。


「これがー、(わたし)(いま)(かんが)えている(あたら)しいコスモピースの材料(ざいりょう)ですー。理解(りかい)(おそ)いアナタたちのためにわかりやすく()いてあげましたよー? 感謝(かんしゃ)してくださいねー」


 (なが)(かみ)にはこれまた(ちい)さな文字(もじ)で、様々(さまざま)なものの名前(なまえ)()かれているようです。


 ライトは(あふ)れんばかりの荷物(にもつ)隙間(すきま)(あし)()いて(からだ)精一杯(せいいっぱい)()ばすと、その(なが)(かみ)指先(ゆびさき)()まんで()()せました。


「いちいち言動(げんどう)(しゃく)(さわ)るよな……えーっと、(なに)なに? まずはイントルベシアントの(かたまり)(いち)キロ……(いち)キロ⁉ (ひと)欠片(かけら)でも貴重(きちょう)なあの(いし)を⁉」


(いや)なら()めてもいいですよー?」


「い、いや()めないですけど! (ほか)には……コルムル、アキコノペチュニ、それにフォーン(せき)……ぱっと()ただけでも、採取(さいしゅ)(むずか)しいものばかりだ……」


「……ライト(くん)、その(かみ)()せてもらってもいいだろうか」


 (じゅん)(いち)はライトから(かみ)()()ると、春子(はるこ)一緒(いっしょ)()(とお)しました。


春子(はるこ)、このコルムルは……(たし)以前(いぜん)セラパス(せい)()った(さい)()かけたよな……?」


「ええ。それにこっちのデニラン(そう)採取(さいしゅ)出来(でき)場所(ばしょ)()ってるわ。あ、こっちの虹色(にじいろ)のラフコの(はな)も!」


 二人(ふたり)(かみ)()かれたものの名前(なまえ)に、()っていたペンでいくつも(しるし)()けていきます。


「……コスモピースを(さが)すためにいろいろな(ほし)(まわ)っていた甲斐(かい)があったな……。ん……? ヒカル、(かみ)(のぞ)()んでどうした……?」


「このアキコノペチュニってやつ……リララ(せい)()れる(かい)がらだよね? (おれ)たちの同僚(どうりょう)にリララ(せい)(じん)がいるから()いてみるよ!」


 ヒカルとエイギスは(かお)見合(みあ)わせながら(おお)きく(うなず)きます。


「どれ、ワシにもちょっと()せてみぃ……ふむ、本部(ほんぶ)準備(じゅんび)出来(でき)るものもいくつかあるな。お、ライト? これはお(まえ)仲間(なかま)()いてみたらいいんじゃないか?」


本当(ほんとう)だ、プニプヨ(せい)のものですね、メグさんに()いてみます。えーっと(ほか)には……キドシンを(ふく)まない、モジェリの(はな)……?」


 ……ライトは(かみ)をなぞっていた()()めました。


「……(ぼく)がずっと研究(けんきゅう)してる……地球(ちきゅう)(じん)(どく)()いモジェリのことだ」


「アナタ、それに(おぼ)えがあるんですかー?」


 イルクマは(すこ)(おどろ)いたように(くび)(かし)げます。


「それが今回(こんかい)入手(にゅうしゅ)一番(いちばん)(むずか)しい材料(ざいりょう)なんですー。(なん)せ、この(わたし)でも一度(いちど)()たことがありませんからねー。それを(つく)るだけでもある程度(ていど)時間(じかん)がかかると(おも)っていましたがー……?」


「このモジェリはおそらく……あと数ヶ月(すうかげつ)()かせることが出来(でき)る……いえ、()かせます。()かせてみせます!」


「ふーん……? アナタ、(おも)ったより(あたま)(わる)くないかもしれませんねー。()めてやってもいいでしょうー……さてと」


 (なが)いズボンの(すそ)をスリッパで()みながら、イルクマ(おお)きなあくびを(ひと)つしました。


「すごーく面倒(めんどう)くさいですがー……(わたし)準備(じゅんび)(はじ)めますー。さぁ、用事(ようじ)()わりましたからさっさと()()ってくださーい」


 イルクマがぶかぶかの白衣(はくい)(そで)をしっしっと()りながら、左目(ひだりめ)(まえ)()かぶレンズに()れると……研究室(けんきゅうしつ)(とびら)がひとりでに(ひら)きます。


 そしてみんなの(からだ)がふわりと()()がったかと(おも)えば……全員(ぜんいん)部屋(へや)(そと)廊下(ろうか)へポーンと(はじ)()されてしまいました。


 ……エイギスだけは(やさ)しく()ろされましたが、(のこ)りはみーんな適当(てきとう)()とされたので(はげ)しく尻餅(しりもち)をつきます。


「いたーい! 怪我(けが)したらどうするのさ!」


大丈夫(だいじょうぶ)か? ショースケ」


 (すわ)ったままプンプン抗議(こうぎ)するショースケを、タカヤが()()いて()たせてあげていると……今度(こんど)はタカヤの(からだ)だけがふわりと()かび()がります。


「……そうですー、うっかりしてましたー。コスモピース、アナタのことをまだ調(しら)べていませんでしたねー? もう一度(いちど)()てもらいましょうー」


 研究室(けんきゅうしつ)(なか)からイルクマの(こえ)()こえてきて、また(とびら)がひとりでに(ひら)くと……タカヤは部屋(へや)(なか)()()まれていって、(とびら)(かぎ)はそのままガチャリと()まってしまいました。


 ライトは()ぐに()()がって、(そと)から(とびら)乱暴(らんぼう)にガンガン(たた)きます。


「おい! タカヤ(くん)(なに)するつもりだ!」


「そ、そうだそうだ! タカヤ(かえ)してよー!」


「カエセ カエセー」


(なん)面白(おもしろ)そうじゃしワシも一緒(いっしょ)(たた)いちゃろ、ほれほれ」


 ショースケもツバサも(しょう)(ぞう)一緒(いっしょ)になって、まるで打楽器(だがっき)のように(とびら)(たた)きまくっていましたら……さすがに無視(むし)出来(でき)なくなったイルクマが(とびら)(すこ)しだけ(ひら)いて、至極(しごく)不機嫌(ふきげん)(かお)()しました。


「うーるーさーいーでーすーねー! (べつ)怪我(けが)させたりしませんよー! さっさと材料(ざいりょう)(あつ)めに()ったらどうですかー⁉」


 (めずら)しく(のど)()れそうな大声(おおごえ)()すイルクマの(よこ)から、タカヤが苦笑(にがわら)いをしてひょこりと(あらわ)れます。


「あのー……(おれ)なら大丈夫(だいじょうぶ)だから。みんな自由(じゆう)にしてて……?」


「コスモピースもこう()ってるでしょー? ほらー、さっさと()ってください目障(めざわ)りですー!」


 研究室(けんきゅうしつ)(とびら)(おと)()てて()められて、(なか)からはさらに厳重(げんじゅう)(かぎ)がいくつもかけられてしまいました。



****



 さて、それから数分(すうふん)経過(けいか)して。


 ショースケは一人(ひとり)、まだイルクマの研究室(けんきゅうしつ)(まえ)()()くしていました。



 というのも……(しょう)(ぞう)本部(ほんぶ)資料(しりょう)(しつ)へ、コスモピースの材料(ざいりょう)使(つか)えそうなものが()いか(さが)しに()きました。


 (じゅん)(いち)春子(はるこ)は、またすぐに旅立(たびだ)つための準備(じゅんび)(はじ)めました。


 ヒカルとエイギスは仕事(しごと)(もど)って……ライトはツバサを()れて、一足(ひとあし)(さき)(とき)()()(ちょう)へと(かえ)って()きました。


「うーん……(ぼく)(なに)したらいいんだろう……?」


 ショースケは肩掛(かたか)けカバンの(なか)から、(さき)ほどコピーしてもらった(なが)(かみ)()()します。


 (かみ)には(あたら)しいコスモピースの材料(ざいりょう)()いてありますが……ぶっちゃけ、どの材料(ざいりょう)残念(ざんねん)ながらショースケにはピンと()ません。


 ため(いき)()いて、ショースケは(かみ)をまた仕舞(しま)います。


「……そうだ。(ぼく)(きゅう)(きゅう)になったから制服(せいふく)がもらえるって連絡(れんらく)()てたな。とりあえずそれをもらいに()こうかな」



****



 透明(とうめい)なチューブ(じょう)のエレベーターに()って(いっ)(かい)()りたショースケは、()()(ぐち)とは反対(はんたい)方向(ほうこう)()かいます。


 相変(あいか)わらず()(しろ)本部(ほんぶ)(なか)(あわ)ただしくて、(せわ)しなく隊員(たいいん)たちが(よこ)(とお)()ぎて……。


 ぶつからないようにキョロキョロ(あた)りを見回(みまわ)しながらしばらく(ある)くと、目的地(もくてきち)である搭乗口(とうじょうぐち)エリアへ到着(とうちゃく)しました。


 以前(いぜん)(おとず)れた()()しスペースのカウンターで、ショースケはおずおずと(きゅう)(きゅう)のバッジを()せます。


「え、ええっと……これ。その、制服(せいふく)……もらえるって()いたんですけど……」


 しどろもどろになりながら(くち)(うご)かすと、カウンターでバッジを()()った隊員(たいいん)(おどろ)いたように(おお)きな(くろ)(からだ)(ふく)らませました。


「あなた、もしかしてあのショースケ隊員(たいいん)⁉」


「え⁉ あ、あのって?」


(いま)、ちょうどここでもあなたの(はなし)をしていたところなの! ねぇ(みんな)?」


 ……(まわ)りの隊員(たいいん)たちも同意(どうい)しますが……ショースケには(なん)のことだかわかりません。


 オロオロ(うつむ)いてしまったショースケを、(くろ)隊員(たいいん)(くび)()ばして(した)からニュルリと(のぞ)()み、興奮(こうふん)したように(はな)(はじ)めました。


「あなた、惑星(わくせい)ミッシェルでオンガイルゴンの()どもを(たす)けたんでしょ? その()、どうもオンガイルゴンの()れのボスの()どもだったみたいで。あなたがここに(もど)ってきてからは、宇宙警察(うちゅうけいさつ)がオンガイルゴンに(おそ)われることがめっきり()くなったの!」


 ……ショースケは(おどろ)いて(かお)()げます。


「そ、そうなの……?」


「そうよ! 惑星(わくせい)ミッシェルで宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)がオンガイルゴンに(おそ)われる事故(じこ)毎年(まいとし)(すう)(けん)()こってたのに。あなたって(みんな)恩人(おんじん)なんだから!」


 (くろ)隊員(たいいん)(うし)ろの(たな)(たか)いところから、(ちい)さなサイズの地球(ちきゅう)(じん)(よう)制服(せいふく)()()して()ってきました。


「きっと、だから昇格(しょうかく)したのね。おめでとう、これがあなたの制服(せいふく)よ! それとこれもね!」


 一緒(いっしょ)(わた)された(ちい)さな(ふくろ)には、どうやらポスリコモスのお(かね)……(しろ)いコインが(はい)っているようです。


本部(ほんぶ)から制服(せいふく)一緒(いっしょ)(わた)すよう(たの)まれていたの。特別(とくべつ)報酬(ほうしゅう)ですって! 大切(たいせつ)使(つか)ってね」


「あ……ありがとう!」


 (すこ)背伸(せの)びしながらそれらを()()って、(ちい)さな(ふくろ)だけをエッグロケットの(なか)仕舞(しま)うと……たくさんの隊員(たいいん)たちの注目(ちゅうもく)()びながら、ショースケは搭乗口(とうじょうぐち)エリアを()げるように(あと)にしました。



 ……足取(あしど)りは(かる)く、ちょっとスキップしながら(しろ)廊下(ろうか)(すす)みます。


「えへ……えへへへ……」


 ニヤニヤして、(からだ)はぽかぽかして。


 いつもの廊下(ろうか)は、さっきまでとは(すこ)(ちが)って()えるのでした。



****



 さて、せっかく制服(せいふく)()()ったのです。


 ()部屋(べや)(はい)ったショースケは、そそくさとそれに(そで)(とお)しました。


 (しろ)くて、左胸(ひだりむね)()けたバッジがよく目立(めだ)って……まるで自分(じぶん)のために仕立(した)てられたようにピッタリです。


 (かがみ)()いので全身(ぜんしん)()られませんが、ショースケは(くび)をぐりぐり(うご)かして()える範囲(はんい)確認(かくにん)しました。


「へ、(へん)じゃないよね?」


 そう(つぶや)いて(とびら)(ひら)いて、ショースケはまた廊下(ろうか)(ある)(はじ)めます。


 (まわ)りの隊員(たいいん)(おな)(ふく)()ていて……なんだかくすぐったくてソワソワして、()れない(そで)をいじりながら(した)()いていると、どこかから()(にお)いがしてきました。


 ……どうやら本部(ほんぶ)(なか)にあるカフェからのようです。


 そういえばずっと(なに)()べてなかったショースケは、()()まれるようにカフェへ(はい)っていきました。




 やわらかい(せき)(すわ)って、お()()りの紫色(むらさきいろ)のクレープのような()(もの)と、(すこ)泡立(あわだ)黄色(きいろ)()(もの)をいただいていると……(ちか)くの(せき)から(はな)(ごえ)()こえます。


「ねぇねぇ、今日(きょう)(めずら)しい商人(しょうにん)市場(いちば)()てるらしくて。あのフォーン(せき)()られてるんだって!」


「え、あの貴重(きちょう)なフォーン(せき)が?」


 ……ショースケは(くわ)えていたストローから(くち)(はな)して、(となり)()いてあるカバンの(なか)(さぐ)って(なが)(かみ)()()しました。


 フォーン(せき)……フォーン(せき)……やっぱりありました!


 どうやら(あたら)しいコスモピースを(つく)材料(ざいりょう)(ひと)つのようです。


 ()って(かえ)ることが出来(でき)れば、みんなの(やく)に……タカヤの(やく)()てるでしょう!


 (さいわ)特別(とくべつ)報酬(ほうしゅう)(もら)いましたし、最近(さいきん)()っている材料(ざいりょう)発明(はつめい)をしていましたから、お(かね)だって結構(けっこう)あります。


 (いそ)いで(おお)きな(くち)()けて、(のこ)っていた()(もの)(たい)らげると……ショースケはカバンを(かた)にかけて、(くち)(まわ)りに()いたクリームを()めながらカフェを()()きました。



****



 市場(いちば)今日(きょう)もたくさんのET(いーてぃー)(おお)(にぎ)わいです。


 今日(きょう)(そら)(なつ)かしい野菜(やさい)(いろ)……ショースケは最近(さいきん)()ったのですが、どうやら野菜(やさい)(いろ)(そら)()市場(いちば)ではセールを(おこな)っているらしく、余計(よけい)(ひと)(おとず)れているようです。


 (かた)をきゅっと(せば)めて、(おお)きいET(いーてぃー)たちの隙間(すきま)()うように(すす)んで()くと……一際(ひときわ)目立(めだ)(ひと)だかりがありました。


 ()(ひく)いショースケは一生懸命(いっしょうけんめい)背伸(せの)びをしますが……よく()えません。


 すると(ちか)くにいた(やさ)しいET(いーてぃー)が、(こえ)をかけてくれました。


「キミ、ここで()っているのはフォーン(せき)だよ。すごく(めずら)しいもので、(いま)(わたし)たちも(なら)んで順番(じゅんばん)()ちをしているんだ」


 フォーン(せき)! ショースケが(さが)しているものです。


 ショースケはいそいそと、(やさ)しいET(いーてぃー)(うし)ろに(なら)びました。


 (れつ)(すこ)しずつ(みじか)くなっていって、(ひと)だかりの隙間(すきま)からやっと商品(しょうひん)……フォーン(せき)()えました。


 なんて綺麗(きれい)なんでしょう、(あわ)いピンク(いろ)凸凹(でこぼこ)とした表面(ひょうめん)(ひかり)()たって乱反射(らんはんしゃ)して、それはそれは(かがや)いています。


 そしてその(ちか)くに()いてあるボードには、フォーン(せき)値段(ねだん)()いてあるのですが……


 ……ショースケは(だま)ってエッグロケットの(なか)(のぞ)()みます。


 そしてもう一度(いちど)ボードを()て、またエッグロケットの(なか)()て。


 ……お(かね)()りない、なんて(なま)やさしい言葉(ことば)では()りないほど()りません。


 ショースケがあと(すう)(ねん)(はたら)いたとしても……もしまた(なに)かがあって(すご)(がく)特別(とくべつ)報酬(ほうしゅう)(もら)えたとしても……とても()えないでしょう。


「いらっしゃい! (つぎ)はお(きゃく)さんの(ばん)だよ! (なん)()()う?」


 店主(てんしゅ)威勢(いせい)()(こえ)をかけました。


 ショースケは(うつむ)いて、(ちい)さな()えそうな(こえ)で……やっぱりいいです、としか()うことが出来(でき)ず……そのまま(れつ)()けていきました。




 (せま)くて(くら)路地裏(ろじうら)


 ショースケは(ひざ)(かか)えて体育(たいいく)(ずわ)りをして、建物(たてもの)隙間(すきま)から()える(ほそ)野菜(やさい)(いろ)(そら)(なが)めていました。


「……はぁ……(ぼく)全然(ぜんぜん)(やく)()てないな」


 (なが)(かみ)をカバンから()して、ショースケはまたため(いき)()きます。


 何度(なんど)()(さら)のようにして確認(かくにん)しますが……やっぱり()(おぼ)えのある材料(ざいりょう)はありません。


 きっとタカヤもみんなも、『そんなこと()にしなくていいよ』と(わら)ってくれるでしょうが……


「……(ぼく)()にするんだよなぁ……」


 (ひざ)(ほお)()せて(まる)まっていると……突然(とつぜん)路地(ろじ)(さき)から(みみ)(つんざ)くような、宇宙(うちゅう)公用語(こうようご)(おお)きな(こえ)()こえました!



「ねぇねぇねぇ! ()いてるの⁉」



 ……この(こえ)は。



「ねぇねぇ、ねぇってば! もしかして迷子(まいご)? ……ってあれ? その(かお)、もしかして!」



 ……ショースケは(こえ)(ぎゃく)方向(ほうこう)(はし)()していました!


「あれ⁉ (なん)()げるの! あ、もしかして()いかけっこ? ボク、(あし)(はや)いんだから()けないよー!」


 (こえ)(ぬし)はどんどんどんどんショースケに(せま)ってきます。


 そもそも地球(ちきゅう)(じん)宇宙(うちゅう)全体(ぜんたい)()(あし)(はや)いほうではありませんし、ショースケはその(なか)でも(あし)(おそ)(ほう)ですから……残念(ざんねん)ながらあっけなく、背中(せなか)をタッチされてしまいました。


(つか)まえたー! ねぇ、(なん)()げるのショースケー?」


 (なが)(みみ)(ふた)()いた、水色(みずいろ)のタコのような三十(さんじゅっ)センチ程度(ていど)(からだ)をふわりと()らして、紫色(むらさきいろ)宝石(ほうせき)のような(ひとみ)をキラリと(かがや)かせて……(なつ)かしい(かお)、カランは無邪気(むじゃき)(わら)いました。



****



「いやー本当(ほんとう)(ひさ)しぶりだねー! それにその制服(せいふく)! ショースケも宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)になったんだねー!」


 ポスリコモスの中央(ちゅうおう)広場(ひろば)のベンチに(すわ)って、カランは(あし)(あいだ)にある(くち)でモサモサした()(もの)頬張(ほおば)りながらはしゃいでいます。


「ねぇショースケ、()べないの? コセツベのモヨキュ()き。美味(おい)しいよー? この(あいだ)()べよーって()ってたのにモンスターに(おそ)われて一緒(いっしょ)()べられなかったから、ボク()になってたんだよねー」


 ……(となり)(すわ)ったショースケはコセツベのモヨキュ()きを()()ったまま、()()らしています。


「ショースケー? ……あ! わかった、あーんして()しいんだ?」


 カランが()ばした(あし)をショースケの口元(くちもと)(ちか)づけるので……ショースケはブンブンと(くび)()って、やっと(くち)(ひら)きました。


(ちが)うよ! あーんして()しいわけないじゃん!」


「えー? じゃあどうして()しいのさ?」


「どうして()しいとかじゃないの! (ぎゃく)(なん)でカランはそんなに普通(ふつう)なの⁉」


 ……そう()ったショースケは(うつむ)いて、(ちい)さな(こえ)()らします。


「……(ぼく)のこと、(うら)んでないの……?」


「え? (なん)(うら)むの?」


 カランは心底(しんそこ)きょとーんとしているようで、(みみ)をピコピコさせながら宝石(ほうせき)のような()(うご)かしてキラキラさせました。


(なん)でって……だって(ぼく)、カランが(ぼく)(たす)けてモンスターに(おそ)われたとき……()げちゃったから……」


「えっ、そうなのー? ボク()えてなかったから()()かなかったよー!」


「え」


「えー?」


 ……どうやらバレてなかったようなのに墓穴(ぼけつ)()ったようです。


 ショースケは(からだ)(つめ)たくなるのを(かん)じながら……(かわ)いた(くちびる)をなんとか(うご)かしました。


「その……ごめん、なさい……(おこ)ったよね……?」


「なんでー?」


 ……緊張(きんちょう)しているのが(かな)しくなるほど、カランは()()けた(こえ)()します。


 ショースケは(ぎゃく)(はら)()ってきました。


「いや、(おこ)りなよ⁉ カラン、(ぼく)のせいで怪我(けが)して(あぶ)なかったんでしょ⁉」


「でもボクも(たす)かったし、ショースケも(たす)かったでしょー? (なに)がダメなの?」


 ニコニコしながらコセツベのモヨキュ()きを()べきったカランを()て……馬鹿(ばか)らしくなったショースケはやっと、自分(じぶん)(ぶん)のモヨキュ()きを(くち)()れました。


 モサモサで、すぐに千切(ちぎ)れる(いと)(たば)()べているような感触(かんしょく)で……(くや)しいかな美味(おい)しいです。


「ね? それ美味(おい)しいでしょー? あ、そうだ!」


 カランはキラリと(ひとみ)(ひか)らせました。


「ショースケさっき、(はじ)めて()ったときみたいにしょんぼりしてたね? (なん)でー? ……あ! ()って、やっぱりボクが()てるから!」


 むむむーと、(あし)一本(いっぽん)(ひたい)()ててカランは(かんが)()むと……()れていた(みみ)をピコンと()たせます。


「お(なか)()いてたから! どう⁉ あ、それとも……おやつ()べるの(わす)れちゃったとか?」


「……その調子(ちょうし)だと永遠(えいえん)()たらないと(おも)うよ」


 ショースケは(くち)(なか)のモヨキュ()きを()()んで、はぁ、と(ちい)さくため(いき)()きました。


(べつ)に……ただちょっと、(ぼく)って(やく)()たないなと(おも)ってただけさ」


「へー! ショースケ(やく)()たないんだ!」


 ……(あらた)めて他人(たにん)(こえ)()されると少々(しょうしょう)苛立(いらだ)ちます。


「べ、(べつ)に⁉ 全然(ぜんぜん)(やく)()たないってワケじゃ()くて? (いま)()てなかったってだけで?」


 自分(じぶん)()ったくせに自分(じぶん)()(わけ)をしているショースケを、カランは不思議(ふしぎ)そうに()つめました。


「ふーん? それで、(なん)(やく)()ちたいのー?」


「そ、それは! だってコンビだし……」


 そう()(かえ)したショースケは、もごもごと(つづ)きの言葉(ことば)(つむ)ぎます。


「……(ぼく)のコンビ、(ぼく)より(きゅう)(うえ)なんだ。それでその……(くや)しいけどすごくて。だから……(やく)()てないと、もっと()いていかれそうっていうか……」


「へー! つまり……ショースケ、コンビの相手(あいて)のこと()きなんだね! ボクもボクのコンビ大好(だいす)き!」


 ……ショースケはそんなことを()ったつもりは()かったのですが、カランはうんうんと納得(なっとく)したように(からだ)(はず)ませました。


()いてよショースケ! ボクのコンビとっても(やさ)しいんだー! あと(つよ)くて、判断(はんだん)(はや)くて、いつもボクを(たす)けてくれるんだよー?」


「それはっ……(ぼく)のコンビだってそうだよ!」


 何故(なぜ)だが反射(はんしゃ)(てき)()(かえ)してしまったショースケを、カランはニコニコと()つめます。


「うんうん、大好(だいす)きなんだねー! じゃあさー、ショースケは……(やく)()つからそのコンビと一緒(いっしょ)()たいの?」


「そんなわけないじゃん!」


 (しず)かな中央(ちゅうおう)広場(ひろば)に、ショースケの(おお)きな(こえ)(ひび)きました。


(ぼく)(べつ)に、タカヤが(つよ)いからコンビ()んでるんじゃない! (ぼく)のこと(たす)けてくれるから大事(だいじ)なんじゃ()い! でも……だからこそ、(やく)()てるようになりたいの!」


 ……気付(きづ)かない(あいだ)()()がって(さけ)んでいたショースケは、(あた)りをキョロキョロ見回(みまわ)してから(あわ)ててベンチに(すわ)(なお)します。


「……ごめん、(きゅう)(おお)きい(こえ)()して」


「いいよー? あはは、それにしてもショースケって(へん)なのー!」


(へん)って(なに)が?」


 (すこ)しムッとして(まゆ)をつり()げるショースケに、カランは(ひとみ)(かがや)かせて(わら)いかけました。


「だってー、ショースケがそんな(ふう)(おも)ってくれてるんだよ? その気持(きも)ちが、コンビの相手(あいて)(やく)()ってないわけないじゃない! ボクだったら(うれ)しくって、(なん)でも頑張(がんば)れちゃう()がするもん!」


「……そ、そうかな?」


「そうだよー! 絶対(ぜったい)そうに()まってるよ!」


 (かろ)やかな(わら)(ごえ)()げながら、カランは(そら)見上(みあ)げます。


「ショースケのコンビは(しあわ)(もの)だねー……あ、()()て! (そら)(いろ)()わってきた!」


 オレンジと(しろ)(みどり)のマーブル模様(もよう)だった(そら)は、(すこ)しずつ、まるでかき(ごおり)にイチゴとブルーハワイのシロップを同時(どうじ)にかけたように……(あか)(あお)()わっていきます。


「……本当(ほんとう)だ。この(そら)(いろ)(はじ)めて()たかも」


「この(いろ)(めずら)しいんだよ! (あか)(あお)(そら)は、()るとラッキーなことがある、なんて()われてるんだー! あ、だからショースケに()えたのかも! わーい!」


 カランは()べそうなほど、(みみ)をパタパタ(うご)かしました。


 (あか)(あお)(そら)が、カランの宝石(ほうせき)のような(むらさき)(ひとみ)(うつ)ると……(ひとみ)(すこ)しピンクがかった(いろ)になったように()えます。


 それが、まるでさっき()たフォーン(せき)のように……いや、それ以上(いじょう)綺麗(きれい)()えて……微笑(ほほえ)んだショースケは、最後(さいご)一口(ひとくち)のモヨキュ()きを頬張(ほおば)りました。


「……そうだね、(ぼく)もラッキーかも!」


 やわらかい(かぜ)()()けて……どこかから(あま)(にお)いがして。


 ショースケはやっと、あの()(つづ)きを(ある)(はじ)めた()がしたのでした。 



****



「さー、その(へん)適当(てきとう)(すわ)ってくださいー」


 イルクマは機械(きかい)準備(じゅんび)をしながら、タカヤに(だる)そうに(こえ)をかけました。


 ……(あし)()()()部屋(へや)のどこに(すわ)れと()うのでしょう、タカヤがオロオロと(あた)りを見回(みまわ)していると……たくさん()()げられた荷物(にもつ)(なか)(まる)(びん)がありました。


 (まる)(びん)(なか)(なに)やら(あや)しい水色(みずいろ)液体(えきたい)()たされていて、その液体(えきたい)(なか)には……(ほそ)(ひも)(くく)()けられた皮付(かわつ)きのバナナが()かんでいます。


 ……(なん)だかどこかで()たことがあるような?


 タカヤが(くび)(かし)げていると、イルクマがまた(こえ)()します。


「それ(めずら)しいでしょう、()()っているんですー。あげませんよー?」


「あ、あはは……()ったりしませんよ?」


 荷物(にもつ)隙間(すきま)にそろりと(あし)()きながら、タカヤはイルクマの(ちか)くにあった、(ちい)さな(ゆか)隙間(すきま)にやっと(すわ)りました。


「……さてー、じゃあ()せてもらいましょうかー」


 イルクマが(おお)きな機械(きかい)()れると、機械(きかい)からたくさんの(くだ)()びてきて、タカヤの(からだ)をふわりと()でていきました。


「ふーん。やっぱりかなり上手(うま)適合(てきごう)しているようですねー……ですがー。アナタ、このままではコスモピースの(ちから)()()まれて消滅(しょうめつ)するところでしたねー」


 左目(ひだりめ)(まえ)()かぶレンズに()れながら、イルクマは(つづ)けます。


「コスモピースは周囲(しゅうい)空気(くうき)(ねつ)(ひかり)(おと)など……様々(さまざま)なものを吸収(きゅうしゅう)してー、エネルギーを無限(むげん)(つく)()(つづ)ける(いし)ですー。もちろん、地球人(ちきゅうじん)適応(てきおう)するようになんて(つく)っていませんからー……アナタにはその(ちから)強大(きょうだい)()ぎますー」


「……そうでしょうね」


 いつものように(わら)ってみせたタカヤを、イルクマは(かお)をしかめて(のぞ)()みました。


「アナタ、(いや)冷静(れいせい)ですねー。もっと(あせ)ったらどうですー?」


「あはは……」


「……そのわざとらしい(わら)(かた)(わたし)(むかし)仲間(なかま)()てますー」


(むかし)仲間(なかま)……」


 タカヤは(すこ)(なや)んでから、(くち)(ひら)きます。


「あの、イルクマさん……お(たず)ねしてもいいですか?」


「ダメですー」


「それならいいです」


 至極(しごく)(さわ)やかにタカヤがそう(かえ)したのが……イルクマはちょっと()()らなかったようです。


「……もう(すこ)()()がるものじゃありませんかー? (かり)にも()きたいことなんでしょうー?」


「ですがイルクマさんがダメって……」


「……あーもう、わかりましたー。(ひと)つだけなら(こた)えてあげましょうー、なんですかー?」


 ひどくぶっきらぼうに(こた)えて、イルクマは()ったまま、その(へん)荷物(にもつ)(うえ)(ひじ)()いて頬杖(ほおづえ)をつきました。


「いいんですか? それでは……イルクマさんと(しょう)(ぞう)さん……トリスタル星人(せいじん)は、無限(むげん)(いのち)()っているんですよね?」


「そうですよー」


「でも、イルクマさんは(さき)ほど……トリスタル星人(せいじん)はもう自分(じぶん)たち二人(ふたり)しか()ないと(おっしゃ)いました。無限(むげん)(いのち)()っているのに、何故(なぜ)……(ほか)(かた)()なくなったのですか?」


 ……タカヤの質問(しつもん)に、イルクマはしばらく(くち)()ざします。


「……ご、ごめんなさい! ()いてはいけないことでしたね……(おれ)失礼(しつれい)します!」


()ちなさいー」


 (あわ)てて研究(けんきゅう)(しつ)()ようとするタカヤを、イルクマは(うし)ろから()()めました。


自分(じぶん)()いたんだから、ちゃんと最後(さいご)まで()いてくださいよー……(たし)かに(わたし)たちには無限(むげん)(いのち)がありますー。寿命(じゅみょう)はありませんし、()されようが、粉々(こなごな)になろうが、宇宙空間(うちゅうくうかん)()()そうが(なん)ともありませんー。でも……」


 (うつむ)いたイルクマの左目(ひだりめ)のレンズが、(しろ)(くも)って(ひか)ります。


無限(むげん)(いのち)には条件(じょうけん)があった……ただ、それだけですー」




 しんとした研究室(けんきゅうしつ)(なか)


 どこかで()()げた大切(たいせつ)荷物(にもつ)(くず)れたのでしょう、ガラガラと(おお)きな(おと)()ちました。



 ……それが()こえていないわけがないのに……イルクマがしばらく、(かお)()げることはありませんでした。


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