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第二話 時目木池の怪しいウワサ

****


 暖(あたた)かくて思(おも)わずお昼寝(ひるね)してしまいたくなるような放課後(ほうかご)。


 タカヤとショースケは神社(じんじゃ)の近(ちか)くにある時目(ときめ)木(き)池(いけ)のほとりにやってきました。


 辺(あた)りはひとけもなく静(しず)まり返(かえ)り、遠(とお)くの鳥(とり)の声(こえ)がよく聞(き)こえるほどです。


「ねえ、本当(ほんとう)にいるのかなぁ」


 ショースケは怪(あや)しそうに、じとーっと周(まわ)りを見渡(みわた)します。


「うーん、詳(くわ)しくはわかんないけどここには何(なに)かいる気(き)がするよ」


 タカヤは何(なに)かを感(かん)じているのか、いつも通(どお)りの袖(そで)なしの服(ふく)と短(たん)パンを風(かぜ)に揺(ゆ)らしながら池(いけ)の一(いっ)点(てん)をじっと見(み)つめて言(い)いました。



****



 話(はなし)は今日(きょう)の昼休(ひるやす)みにさかのぼります。


「タカヤ、なんで給食(きゅうしょく)の牛乳(ぎゅうにゅう)は冷(ひ)やされてるんだと思(おも)う?」


 タカヤの机(つくえ)に突(つ)っ伏(ぷ)しながらショースケは尋(たず)ねます。


「さぁ…腐(くさ)らないようにするためじゃないか?」


 タカヤはいつもと同(おな)じように適当(てきとう)に答(こた)えました。


 この質問(しつもん)をされるのは数十(すうじゅっ)回(かい)目(め)なのですから当(あ)たり前(まえ)です。


「いや僕(ぼく)はね? 冷(つめ)たい牛乳(ぎゅうにゅう)が嫌(きら)いなわけじゃないんだよ? でもさ、常温(じょうおん)の牛乳(ぎゅうにゅう)にしかないあのぬるっとした舌(した)触(ざわ)りとか芳醇(ほうじゅん)な香(かお)りとかそういうのが冷(ひ)やされると失(うしな)われるわけで」


 少々(しょうしょう)牛乳(ぎゅうにゅう)に思い入(おもいい)れが強(つよ)すぎるショースケの話(はなし)を右(みぎ)から左(ひだり)に聞(き)き流(なが)しながら、タカヤは次(つぎ)の授業(じゅぎょう)で提出(ていしゅつ)する宿題(しゅくだい)のプリントを確認(かくにん)していました。


「二人(ふたり)は本当(ほんとう)に仲良(なかよ)しだねぇ」


 隣(となり)の席(せき)の未央斗(みおと)が眠(ねむ)たそうに声(こえ)を掛(か)けます。


「起(お)きてたのか、ミオ」


「んー、いま起(お)きたの」


 タカヤの問(と)いかけに、ミオは隈(くま)だらけの目(め)をこすりながら続(つづ)けます。


「たしかタカヤは、ショースケが転校(てんこう)してくる前(まえ)から知(し)り合(あ)いなんだっけ?」


 ショースケは宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)として活動(かつどう)するため、四年生(よねんせい)が始(はじ)まると同時(どうじ)に外国(がいこく)からこの町(まち)に引(ひ)っ越(こ)してきました。


「いいなーなんか特別(とくべつ)に仲良(なかよ)しって気(き)がするよねー。ねぇレン?」


「なんでオレに話(はなし)振(ふ)るんだよ」


 近(ちか)くにいた蓮(れん)はミオをじろりとにらみます。


 レンは最近(さいきん)タカヤとショースケが一緒(いっしょ)にいるといつもこのように機嫌(きげん)が悪(わる)いのでした。


「いやー、別(べつ)になんでもないけどー?」


 ミオがニマニマ笑(わら)いながら顔(かお)を真(ま)っ赤(か)にしていくレンを眺(なが)めていると


「ねぇねぇねぇ! 聞(き)いて聞(き)いて!」


 バタバタドタドタと慌(あわ)ただしく和彦(かずひこ)が走(はし)ってきました。


「どうしたのカズ、また変(へん)なウワサでも聞(き)いたの?」


 つい最近(さいきん)転校(てんこう)してきたショースケがこう言(い)うほど、カズはいつもどこからかよくわからない情報(じょうほう)を仕入(しい)れてきます。


「変(へん)じゃないもん! まぁウワサだけどさ、これ見(み)てよ!」


   挿絵(By みてみん)


 カズが握(にぎ)りしめていたしわしわの紙(かみ)には、作者(さくしゃ)はカズであろう何(なん)とも言(い)えないクオリティの絵(え)が描(か)かれています。


 真(ま)っ黒(くろ)に塗(ぬ)りつぶされている地面(じめん)から何(なに)かが突(つ)き出(で)ているような絵(え)ですが、なんのこっちゃかわかりません。


「何(なん)だこれ?」


「何(なに)ってひどいよレン! どう見(み)ても恐竜(きょうりゅう)じゃないか!」


 どこからどう見(み)ても恐竜(きょうりゅう)に見(み)えないことは確(たし)かですが…さすがにそこを責(せ)めるのはかわいそうなので、みんなは言(い)いたいことをそっと胸(むね)にしまいました。


「なんかね、時(とき)目(め)木(き)池(いけ)に恐竜(きょうりゅう)がいるらしいんだよ! ぼくのお父(とう)さんの知(し)り合(あ)いの友達(ともだち)の妹(いもうと)さんの息子(むすこ)さんが見(み)たんだって!」


 …何(なに)もかもがとんでもなく怪(あや)しいウワサですがとりあえず続(つづ)きを聞(き)きます。


「この絵(え)みたいに池(いけ)の中(なか)から恐竜(きょうりゅう)が首(くび)を長(なが)く出(だ)してたんだってさ!」


 カズはテンションMAX(まっくす)でまくしたてます。


「何(なん)だかネス湖(こ)のネッシーみたいだよね! それなら時(とき)目(め)木(き)池(いけ)だからトッシーかな⁉」


「…で、カズはトッシーを探(さが)しに行(い)きたいんだね?」


 ミオが大(おお)きなあくびをしながら言(い)いました。


 ショースケ以外(いがい)の三(さん)人(にん)はカズとは保育園(ほいくえん)からの付(つ)き合(あ)いのため、次(つぎ)に言(い)いたいことはなんとなくわかります。


「さすがミオ! ねぇねぇみんなで行(い)こうよー!」


「うんうんわかった一緒(いっしょ)に行(い)くってさ、レンが」


「なんでオレが行(い)くんだよ!」


「えーだっておれはゲームが忙(いそが)しいもーん」


 ミオとレンが押(お)し付(つ)け合(あ)いをしている横(よこ)で、タカヤは一人(ひとり)考(かんが)え込(こ)んでいました。


 そして机(つくえ)の下(した)から、こっそりショースケのひざをつつきます。


「ん?」


 ショースケが顔(かお)を上(あ)げると、タカヤはこっそり手(て)の中(なか)に握(にぎ)っている小(ちい)さくしたポスエッグを見(み)せました。


 それを見(み)てショースケも、ズボンのポケットの中(なか)に入(い)れていたポスエッグを握(にぎ)ります。


(どうしたのタカヤ)


 二人(ふたり)は頭(あたま)の中(なか)で会話(かいわ)を始(はじ)めました。


 ポスエッグに備(そな)わっている便利(べんり)な機能(きのう)の一(ひと)つでコンビでテレパシーが使(つか)えます。


(カズの話(はなし)だけどさ、なんか怪(あや)しいと思(おも)わないか?)


(いや、そりゃ怪(あや)しいよ。むしろ怪(あや)しくないところがないレベルだよ)


(そうじゃなくて…もしかしたらET(いーてぃー)かもしれないってことだよ)


「えぇ⁉」


 ショースケが思(おも)わず大(おお)きな声(こえ)を出(だ)してしまったため、言(い)い合(あ)いをしていた三(さん)人(にん)も驚(おどろ)いてタカヤとショースケの方(ほう)を向(む)きました。


「びっくりしたぁ、どうしたのショースケ」


カズが目(め)をぱちくりさせて尋(たず)ねます。


「え、えーと…その、あれ…タカヤの変顔(へんがお)がすごくてつい声(こえ)が出(で)ちゃった」


 非常(ひじょう)に苦(くる)しい言(い)い訳(わけ)ですが、それを聞(き)いた三(さん)人(にん)はそれどころではありません。


「え⁉ タカヤが変顔(へんがお)⁉」


 ミオは今(いま)まで眠(ねむ)そうだったのが噓(うそ)のように立(た)ち上(あ)がり


「見(み)たことない! ねぇぼくにも見(み)せて!」


 カズもメガネをかけ直(なお)しながら猛烈(もうれつ)に食(く)いつきます。


 タカヤは耳(みみ)まで真(ま)っ赤(か)にしながら、ものすごく何(なに)か言(い)いたそうな顔(かお)で口(くち)をパクパクさせています。


(タカヤごめん、後(あと)でおわびするから)


 続(つづ)きの言葉(ことば)を聞(き)くのは怖(こわ)いので、ショースケはポスエッグから手(て)を放(はな)しました。


 タカヤは覚(おぼ)えてろよと言(い)わんばかりに一度(いちど)ショースケをにらみつけると、ヤケクソで変顔(へんがお)を披露(ひろう)しておりました。


 その間(あいだ)、ショースケは鬼(おに)のような形相(ぎょうそう)で歯(は)をギリギリ鳴(な)らしているレンににらまれ続(つづ)けることになりました。



****



「いや、ごめん本当(ほんとう)に悪(わる)かったよ」


 池(いけ)の周(まわ)りの砂場(すなば)に腰(こし)かけながらショースケは謝(あやま)りますが、タカヤは触(ふ)れてほしくないのかそのことに関(かん)しては返事(へんじ)をしてくれません。


「おわびに何(なん)でもするって言(い)ったら、タカヤがこの池(いけ)をすぐ調査(ちょうさ)したいって言(い)うから来(き)たけどさ」


 おわびまで仕事(しごと)関連(かんれん)とは、タカヤは本当(ほんとう)に仕事(しごと)熱心(ねっしん)です。


「あんなのウワサじゃないの? そもそもET(いーてぃー)はキラキラ粉(こ)使(つか)ってるから地球(ちきゅう)人(じん)には見(み)えないんだし」


 ショースケがそう言(い)うとタカヤは驚(おどろ)いてやっと口(くち)を開(ひら)きました。


「もしかして…ショースケこの間(あいだ)の話(はなし)聞(き)いてなかったのか?」


「この間(あいだ)?」


「ほら、ショースケの家(いえ)でライトさんたちと話(はな)しただろ」


 ショースケは一生懸命(いっしょうけんめい)思(おも)い出(だ)そうとするもののその時(とき)おやつに出(で)てきた苺(いちご)のショートケーキがめちゃめちゃ美味(おい)しくてとにかく夢中(むちゅう)で食(た)べた記憶(きおく)しか残(のこ)っていません。


 タカヤはなんとなく察(さっ)したのか小(ちい)さくため息(いき)をつきました。


「最近(さいきん)UFO(ゆーふぉー)やワープを使(つか)って地球(ちきゅう)にやって来(く)るET(いーてぃー)が問題(もんだい)になってるって話(はなし)だよ」


 残念(ざんねん)ながらどうもショースケはまだピンと来(き)ていないようなので、仕方(しかた)なくタカヤは続(つづ)けます。


「特急(とっきゅう)こすもに乗(の)って地球(ちきゅう)に来(く)るには、キラキラ粉(こ)を使(つか)うとかその他(ほか)にもいろんなルールを守(まも)らないと来(こ)られないだろ? だからそれを破(やぶ)るET(いーてぃー)は少(すく)ないんだけど…。UFO(ゆーふぉー)やワープ装置(そうち)で来(く)る中(なか)にはそもそもルールを知(し)らなかったり、地球(ちきゅう)に危害(きがい)を加(くわ)えるためにわざとルールを破(やぶ)ったりするET(いーてぃー)がいるんだ」


 ショースケはなんとなく、大好(だいす)きな生(なま)クリームの甘(あま)みを味(あじ)わいながらそんな話(はなし)を聞(き)いたような気(き)がしてきました。


「宇宙鉄道(うちゅうてつどう)の駅(えき)はまだまだ無(な)い星(ほし)も多(おお)いし、宇宙警察(うちゅうけいさつ)も全(すべ)ての星(ほし)を管理(かんり)できてるわけじゃないから仕方(しかた)がないけどな。それに加(くわ)えて、宇宙鉄道(うちゅうてつどう)の駅(えき)があるような町(まち)はよく目立(めだ)ってET(いーてぃー)を集(あつ)めやすいから注意(ちゅうい)しろってライトさんが言(い)ってただろ?」


「あー…うん思(おも)い出(だ)した思(おも)い出(だ)した」


「絶対(ぜったい)ウソだ」


 バレたか…と思(おも)いながら、これ以上(いじょう)追求(ついきゅう)されるとさらにボロが出(で)そうなのでショースケは話(はなし)を逸(そ)らします。


「ところで、どうやって池(いけ)を調査(ちょうさ)する気(き)?」


「そうだな…もし危険(きけん)なET(いーてぃー)だったら刺激(しげき)するわけにはいかないし…」


 タカヤは真剣(しんけん)に考(かんが)え込(こ)みながら時折(ときおり)苦(にが)そうな顔(かお)をしています。


 おそらくコスモピースの力(ちから)を使(つか)おうかと考(かんが)えては、先日(せんじつ)ライトさんに使(つか)い過(す)ぎだとみっちり叱(しか)られたことを思(おも)い出(だ)しているのでしょう。


 もちろんショースケも一緒(いっしょ)に叱(しか)られたので、むやみにコスモピースに頼(たよ)ろうとは言(い)いません。


「と…とりあえず釣(つ)りでもしてみる、か…?」


 いつも賢(かしこ)いタカヤが出(だ)したとは思(おも)えないガバガバの案(あん)ですが、他(ほか)に方法(ほうほう)も浮(う)かばないのでショースケもそれに乗(の)っかることにしました。


****


「釣(つ)り竿(ざお)どうしよう、家(いえ)にあると思(おも)うから取(と)りに帰(かえ)ってこようか」


 その場(ば)を離(はな)れようとするタカヤをショースケは待(ま)ったと呼(よ)び止(と)めました。


「普通(ふつう)の釣(つ)り竿(ざお)で恐竜(きょうりゅう)釣(つ)れないでしょ、僕(ぼく)にいい考(かんが)えがあるよ」


 ショースケはカバンから、小(ちい)さくしていたポスエッグを取(と)り出(だ)して大(おお)きくします。


 するとそのポスエッグは以前(いぜん)までとは大(おお)きく様子(ようす)が変(か)わっていました。


 今(いま)までのたまご型(がた)の部分(ぶぶん)にいくつも新(あたら)しいパーツが取(と)り付(つ)けられていて、まるでおもちゃの銃(じゅう)のような見(み)た目(め)をしています。


「ショースケついにポスエッグ改造(かいぞう)したのか!」


「そう! だってポスエッグっていろんな機能(きのう)あるけどさ、ボタンとかついてないから使(つか)いにくくてしょうがないでしょ? 使(つか)いやすくする専用(せんよう)の道具(どうぐ)は高(たか)くてお金(かね)足(た)りないし…」


 タカヤはショースケと一緒(いっしょ)に専用(せんよう)の道具(どうぐ)を売(う)っているお店(みせ)を訪(おとず)れたときのことを思(おも)い出(だ)しました。


 確(たし)かに小学生(しょうがくせい)の金銭(きんせん)感覚(かんかく)では目玉(めだま)が飛(と)び出(だ)すような価格(かかく)が書(か)かれていて、ショースケは実際(じっさい)に目玉(めだま)が飛(と)び出(だ)しかけていました。


「だから自分(じぶん)で作(つく)ってみたんだよ、名前(なまえ)は『エッグロケット』! どう、かっこいい?」


 ショースケはビシッとエッグロケットを構(かま)えて得意(とくい)げです。


   挿絵(By みてみん)


「ショースケって本当(ほんとう)天才(てんさい)だよな…学校(がっこう)の宿題(しゅくだい)とかもちゃんとやればいいのに」


 こんなに天才(てんさい)なショースケですが学校(がっこう)の成績(せいせき)はてんやわんやです。


 ですので、タカヤはいつも勉強(べんきょう)を教(おし)えたり宿題(しゅくだい)をやらせたり頑張(がんば)っているのでした。


「それはそれ、これはこれだよ」


 ショースケは堂々(どうどう)と開(ひら)き直(なお)っています。


「それでね、改造(かいぞう)してて知(し)ったんだけど、ポスエッグには大量(たいりょう)に物(もの)を収納(しゅうのう)できる機能(きのう)があるみたいなんだ」


 タカヤは一瞬(いっしゅん)眉(まゆ)をしかめましたが、ショースケは気(き)づかず続(つづ)けます。


「だから中(なか)にしまっておいた地球(ちきゅう)外(がい)素材(そざい)で作(つく)られた頑丈(がんじょう)な糸(いと)をエッグロケットの先(さき)から出(だ)して、持(も)ち手(て)を伸(の)ばしたら…これで釣(つ)り竿(ざお)のできあがりだよ!」


 ちょっと見(み)た目(め)は特殊(とくしゅ)ですが、見事(みごと)に釣(つ)り竿(ざお)ができあがりました。


「おおすごい、すごいけど…」


「なに、なんか文句(もんく)あるの」


 ショースケはむっと口(くち)を尖(とが)らせます。


「いや、まさかショースケが収納(しゅうのう)機能(きのう)のことも知(し)らなかったなんて…」


 タカヤは片手(かたて)で額(ひたい)を押(お)さえて頭(あたま)を抱(かか)えます。


「え、タカヤ知(し)ってたの⁉ 言(い)ってよ! 僕(ぼく)この間(あいだ)の帰(かえ)り道(みち)にカバンに物(もの)詰(つ)めすぎて破(やぶ)いちゃってライトさんにすごい怒(おこ)られたのに!」


「わざと使(つか)ってないんだと思(おも)って…そもそもポスエッグと一緒(いっしょ)にもらった説明書(せつめいしょ)にしっかり書(か)いてあっただろ⁉」


「あんな分厚(ぶあつ)いの読(よ)めないよ! 厚(あつ)さ十(じゅっ)センチくらいあったじゃん!」


 いつまでも言(い)い争(あらそ)いをしている場合(ばあい)ではありません、とりあえず釣(つ)りを開始(かいし)しなくては。


「餌(えさ)とか付(つ)けた方(ほう)がいいよね、今日(きょう)のおやつに持(も)ってきたバナナでいっか」


 ショースケはバナナを皮(かわ)ごと糸(いと)の先(さき)に巻(ま)き付(つ)けました。


「恐竜(きょうりゅう)ってバナナ食(た)べるかな…」


 タカヤは不安(ふあん)そうですが、物(もの)は試(ため)しです。


 エッグロケットの釣竿(つりざお)を大(おお)きく振(ふ)って、ショースケは池(いけ)に釣(つ)り糸(いと)を投(な)げ込(こ)みました。




「あ…アキコノペチュニ」


「ニッカルコピ星(せい)」


「イントルベシアント…そろそろ地球(ちきゅう)外(がい)しりとりも飽(あ)きてきたね」


 ショースケは大(おお)きなあくびを一(ひと)つしました。


 釣(つ)りを始(はじ)めて一(いち)時間(じかん)、竿(さお)に動(うご)きはピクリともありません。


「やっぱり釣(つ)りじゃ無理(むり)があったかな…」


 自分(じぶん)がした提案(ていあん)だけに、タカヤは申(もう)し訳(わけ)なさそうです。


「んー、一回(いっかい)引(ひ)き上(あ)げて新(あたら)しい作戦(さくせん)考(かんが)えよっか」


ショースケは釣(つ)り竿(ざお)を握(にぎ)り、糸(いと)を中(なか)へ巻(ま)き上(あ)げました。すると…


 バナナがありません。


 それどころかバナナを結(むす)んでいた結(むす)び目(め)も無(な)いのです。


 釣(つ)り糸(いと)はあの惑星(わくせい)ミッシェルの超(ちょう)強(つよ)いモンスター、オンガイルゴンの力(ちから)をもってしても切(き)れない! というキャッチフレーズで売(う)られていました。



 池(いけ)の中心部(ちゅうしんぶ)で音(おと)がしました。



 ショースケとタカヤが恐(おそ)る恐(おそ)る音(おと)の方(ほう)を見(み)るとそこには確実(かくじつ)に地球(ちきゅう)の生(い)き物(もの)では無(な)いと一目(ひとめ)でわかる、巨大(きょだい)なET(いーてぃー)が長(なが)い首(くび)をもたげていました。


「ぎゃっ」


 大(おお)きな声(こえ)を出(だ)しそうになったショースケの口(くち)をタカヤがとっさに塞(ふさ)ぎます。


 巨大(きょだい)なET(いーてぃー)はまだ二人(ふたり)に気(き)が付(つ)いてない様子(ようす)で空(そら)をぼんやりと眺(なが)めていました。


 大(おお)きな三(みっ)つの目(め)に固(かた)そうな黒(くろ)いウロコが張(は)り巡(めぐ)らされた首(くび)元(もと)、そしてとっても大(おお)きな口(くち)。


 こ(・)れ(・)はまずい、タカヤはそう確信(かくしん)していました。


(ショースケ聞(き)こえるか?)


 タカヤがテレパシーを送(おく)ります。


(聞(き)こえるけど…何(なに)あれ! 絶対(ぜったい)ヤバい奴(やつ)じゃん!)


 ショースケはカタカタ震(ふる)えています。


 当然(とうぜん)です、十(じゅっ)級(きゅう)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)のショースケが相手(あいて)にするようなET(いーてぃー)ではありません。


 とにかくここからショースケを逃(に)がさなくては。


(ショースケにお願(ねが)いがあるんだけど、ここからゆっくり離(はな)れて安全(あんぜん)な場所(ばしょ)からライトさんを呼(よ)んでくれないか?)


(いいけど…タカヤはどうするの?)


(俺(おれ)はET(いーてぃー)が逃(に)げないように隠(かく)れて見張(みは)ってるから)


 少(すこ)しでも安心(あんしん)させようとタカヤは笑(わら)って見(み)せます。


 もちろん、ショースケが離(はな)れた瞬間(しゅんかん)にタカヤがETを対処(たいしょ)するつもりです。


(わかった…でも無理(むり)しないでね)


 ショースケが離(はな)れようとしたその時(とき)。



「確(たし)かこの辺(あた)りだって聞(き)いたんだけどなー」


 遠(とお)くから耳(みみ)なじみのある声(こえ)がしました。


「おいカズ、やっぱり行(い)くのやめないか…?」


「あれー? レンびびってるのー?」


「び、びびってねーし! ミオこそびびってんじゃねーの⁉」


 その声(こえ)に反応(はんのう)してET(いーてぃー)はさらに首(くび)をもたげ、声(こえ)のする方(ほう)へ視線(しせん)を向(む)けました。



 二人(ふたり)は考(かんが)えるより先(さき)に体(からだ)が動(うご)いていました。


 ショースケがエッグロケットを高(たか)く掲(かか)げ弾(たま)を一発(いっぱつ)発射(はっしゃ)すると、弾(たま)は空(から)ではじけてキラキラ粉(こ)が池(いけ)全体(ぜんたい)に散布(さんぷ)されます。


 タカヤは一気(いっき)にコスモピースの力(ちから)を発動(はつどう)させると、池(いけ)全体(ぜんたい)にシールドを張(は)ります。


 異変(いへん)に気(き)が付(つ)いたET(いーてぃー)は、タカヤとショースケの方(ほう)をじろりとにらみました。



 ET(いーてぃー)は大(おお)きな口(くち)をゆっくり開(ひら)いて、三(みっ)つの目(め)を順番(じゅんばん)にピカピカ光(ひか)らせました。


 牙(きば)は無(な)く、のどの奥(おく)では小(ちい)さな何(なに)かが渦巻(うずま)きながら輝(かがや)いています。


「ショースケ‼」


 何(なに)が起(お)こったかわからないうちに、気(き)が付(つ)くとショースケはタカヤに腕(うで)を掴(つか)まれ上空(じょうくう)に引(ひ)き上(あ)げられていました。


 今(いま)の今(いま)までショースケがいた場所(ばしょ)には、首(くび)をぐんと伸(の)ばし口(くち)を閉(と)じたET(いーてぃー)の顔(かお)があります。


 そしてショースケが立(た)っていたはずの地面(じめん)はET(いーてぃー)の口(くち)の形(かたち)に深(ふか)くえぐられていました。


「大丈夫(だいじょうぶ)か⁉」


 大丈夫(だいじょうぶ)なわけありません、ショースケはもうチビりそうです。


 ET(いーてぃー)は首(くび)を引(ひ)き上(あ)げると、また大(おお)きく口(くち)を開(ひら)いて二人(ふたり)の方(ほう)に襲(おそ)い掛(か)かってきました。


 タカヤはショースケを抱(かか)えたまま、空中(くうちゅう)で何度(なんど)もそれを避(よ)けていきます。


「何(なに)なに⁉ 僕(ぼく)たちのこと食(た)べようとしてるってこと⁉」


「どうもそうみたいだな…ショースケ、このET(いーてぃー)には『強制(きょうせい)転送(てんそう)』を使(つか)おう! やり方(かた)はわかるか?」


 強制(きょうせい)転送(てんそう)とは、ポスエッグに備(そな)わっているワープ機能(きのう)を発動(はつどう)してET(いーてぃー)を直接(ちょくせつ)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)へ送(おく)る方法(ほうほう)です。


「さすがにそれはわかるけど…こうも暴(あば)れてたら使(つか)えないよ! もっとおとなしくさせないと!」


 なかなか二人(ふたり)を捕(と)らえることができず逆上(ぎゃくじょう)したET(いーてぃー)はさらに首(くび)を激(はげ)しく振(ふ)り、金属(きんぞく)がこすれるような大(おお)きな鳴(な)き声(ごえ)をあげます。


 タカヤはズボンのポケットに入(い)れてあったポスエッグから、筒状(つつじょう)の道具(どうぐ)を引(ひ)っ張(ぱ)り出(だ)しました。


 先端(せんたん)には太(ふと)い針(はり)が飛(と)び出(だ)しています。


「それってもしかして鎮静剤(ちんせいざい)?」


「うん、かなり強力(きょうりょく)な成分(せいぶん)のものだ。ショースケしっかり捕(つか)まっててくれ!」


 そう言(い)うとタカヤは一気(いっき)にスピードを上(あ)げて、ET(いーてぃー)の背中(せなか)側(がわ)に回(まわ)り込(こ)みました。


 そしてET(いーてぃー)の首(くび)がこちらを向(む)くよりも先(さき)に、びっしり生(は)えたウロコとウロコのわずかな隙間(すきま)に針(はり)を押(お)し込(こ)みました。


「やった!」


 ショースケはタカヤの背中(せなか)にしがみつきながら喜(よろこ)びましたが、タカヤは青(あお)ざめていました。


 針(はり)が奥(おく)まで刺(さ)さりません、まるで鉄(てつ)に針(はり)を突(つ)き立(た)てているような感触(かんしょく)です。


 そしてタカヤが一瞬(いっしゅん)うろたえた隙(すき)をET(いーてぃー)は見逃(みのが)しません。


 三(みっ)つの目(め)を同時(どうじ)にまぶしく光(ひか)らせると、口(くち)から二人(ふたり)に向(む)かって強(つよ)い衝撃(しょうげき)波(は)を飛(と)ばしました。


 タカヤは急(いそ)いで避(よ)けましたが、その勢(いきお)いでショースケの手(て)がタカヤの背中(せなか)から離(はな)れてしまいました。


 ショースケは真(ま)っ逆(さか)さまに池(いけ)に落(お)ちていきます。


 助(たす)けに向(む)かおうとしますがET(いーてぃー)の視線(しせん)はまっすぐタカヤを捕(と)らえており、攻撃(こうげき)を避(よ)けるだけで精一杯(せいいっぱい)です。


 そのままショースケは茶色(ちゃいろ)い水(みず)の中(なか)に音(おと)を立(た)てて吸(す)い込(こ)まれていきました。



****



(どうしよう僕(ぼく)泳(およ)ぐの苦手(にがて)なのに!)


 水(みず)はかなり濁(にご)っていますし、ショースケは水(みず)の中(なか)で目(め)を開(あ)けられないので周(まわ)りの様子(ようす)もわかりません。


 ショースケはジタバタともがこうとして、とっさにあることを思(おも)い出(だ)しました。


 エッグロケットの後(うし)ろにつけたダイヤルをカリカリと回(まわ)しスイッチを押(お)すと、先端(せんたん)から大(おお)きなシャボン玉(だま)のような空気(くうき)のかたまりが出(で)てきました。


 ショースケはその中(なか)に急(いそ)いで顔(かお)を突(つ)っ込(こ)みます。


「ぷはっ! 危(あぶ)なかった…」


 なんとなく楽(たの)しそうだからと付(つ)けた機能(きのう)でしたが、まさかこんなに役(やく)に立(た)つとは思(おも)いませんでした。


 首(くび)から上(うえ)に大(おお)きなシャボン玉(だま)のようなものをつけたまま、ショースケは上(うえ)を目指(めざ)します。


 とりあえずこの水(みず)の中(なか)から出(で)なくては。


 自力(じりき)で水面(すいめん)に上(あ)がれるほどショースケに泳(およ)ぎの技術(ぎじゅつ)はありませんので、エッグロケットの先(さき)から下向(したむ)きに空気(くうき)を発射(はっしゃ)して上昇(じょうしょう)していきます。


 しかしいつまでも周囲(しゅうい)が明(あか)るくなりません。


 水面(すいめん)が近(ちか)づいているはずなのにおかしいなと感(かん)じ始(はじ)めたとき、ショースケの体(からだ)はなにか固(かた)いものに当(あ)たりました。


 エッグロケットのライトを点(つ)けて照(て)らしてみると、それは真(ま)っ白(しろ)でとても大(おお)きな何(なに)かの一部(いちぶ)のようです。


 この池(いけ)にあるこんな巨大(きょだい)なものといえば一(ひと)つしかありません。


 あのET(いーてぃー)のお腹(なか)です。


 外(そと)でタカヤが気(き)を引(ひ)いているのでしょう、ET(いーてぃー)は首(くび)を振(ふ)るうことに集中(しゅうちゅう)しておりお腹(なか)はほとんど動(うご)いていないようです。


 これはチャンスです、今(いま)なら強制(きょうせい)転送(てんそう)が使(つか)えるかもしれません。


 ショースケはやり方(かた)を思(おも)い出(だ)しながらエッグロケットを操作(そうさ)します。


 ダイヤルを握(にぎ)って思(おも)い切(き)り引(ひ)っ張(ぱ)ると、エッグロケットの先端(せんたん)から小(ちい)さなブラックホールのような渦(うず)が生(う)まれて次第(しだい)に大(おお)きくなっていきました。


 強制(きょうせい)転送(てんそう)の準備(じゅんび)が完了(かんりょう)するまでには十数(じゅうすう)秒(びょう)程度(ていど)かかります。


 ショースケがふう、と一息(ひといき)ついて辺(あた)りを見渡(みわた)すと



 首(くび)を折(お)り曲(ま)げて、水中(すいちゅう)からまっすぐこちらを見(み)つめるET(いーてぃー)と目(め)が合(あ)いました。


 ショースケが何(なに)かを行(おこな)っていることに気(き)が付(つ)いたのでしょう。


 そのままET(いーてぃー)は三(みっ)つの目(め)をニヤリと歪(ゆが)ませると今(いま)までで一番(いちばん)口(くち)を大(おお)きく開(ひら)きショースケに近(ちか)づきました。


 ET(いーてぃー)が自分(じぶん)に迫(せま)って来(く)るまでのその時間(じかん)が、ショースケにはひどくゆっくりに感(かん)じます。


 声(こえ)も出(だ)せず動(うご)くこともできません。


 まだ強制(きょうせい)転送(てんそう)の準備(じゅんび)も完了(かんりょう)しておらず、武器(ぶき)は一(ひと)つもありません。


 ショースケは目(め)をぎゅっと瞑(つむ)り歯(は)を食(く)いしばりました。



 まぶた越(ご)しに水(みず)の外(そと)で激(はげ)しく何(なに)かが光(ひか)った気(き)がしました。



****



 …目(め)を開(あ)けるとET(いーてぃー)は口(くち)を開(あ)けたまま動(うご)きを止(と)めていました。


 苦(くる)しそうに首(くび)をくねらせて小(ちい)さく鳴(な)き声(ごえ)をあげながら、三(みっ)つの目(め)を大(おお)きく見開(みひら)いています。


 ショースケは何(なに)が起(お)きたかわからず呆然(ぼうぜん)としていましたが、握(にぎ)りしめていたエッグロケットが煌々(こうこう)と輝(かがや)いていることに気(き)が付(つ)きました。


 強制(きょうせい)転送(てんそう)の準備(じゅんび)が完了(かんりょう)したのです。


 ショースケは両手(りょうて)でエッグロケットを構(かま)えると目(め)の前(まえ)の大(おお)きな口(くち)に向(む)かって思(おも)い切(き)りスイッチを押(お)しました。


 エッグロケットに巻(ま)き起(お)こっていた渦(うず)はさらに大(おお)きくなりながらビカビカと輝(かがや)くと、巨大(きょだい)なET(いーてぃー)を一気(いっき)に吸(す)い込(こ)んで次第(しだい)に小(ちい)さくなりやがて消(き)えていきました。



「やった…やったあ!」


 ショースケが急(いそ)いで水(みず)から顔(かお)を出(だ)すと、空(そら)に浮(う)かんでいるタカヤが見(み)えました。


「タカヤー! やったよ! 転送(てんそう)でき…た…」


   挿絵(By みてみん)


 あれはタカヤでしょうか。全身(ぜんしん)真(ま)っ黒(くろ)で、目(め)だけが赤(あか)と青(あお)に怪(あや)しく光(ひか)っています。


「タカヤ…?」


 その声(こえ)に気(き)が付(つ)いたのか


「しょーすけ…」


 タカヤはゆっくり元(もと)の姿(すがた)に戻(もど)ると、そのまま空(そら)から落(お)ちてきました。


 ショースケは慌(あわ)ててエッグロケットを操作(そうさ)して水(みず)の上(うえ)に大(おお)きなシャボン玉(だま)を二(ふた)つ出(だ)し、タカヤを受(う)け止(と)めます。


「タカヤ大丈夫(だいじょうぶ)⁉」


 ショースケはなんとか頑張(がんば)ってタカヤを岸(きし)に上(あ)げました。


「俺(おれ)はだいじょうぶ…ショースケが無事(ぶじ)でよかった」


 タカヤの眉(まゆ)がへにょりと下(さ)がりました。


 おそらくET(いーてぃー)が急(きゅう)に動(うご)かなくなった理由(りゆう)はタカヤが何(なに)かをしたからでしょう。


 一体(いったい)何(なに)をしたのか、ショースケには見当(けんとう)もつきません。


 でもきっと聞(き)いてもタカヤは答(こた)えてくれないでしょうし、何(なん)だか聞(き)いてはいけないような気(き)がして、ショースケはお礼(れい)だけ伝(つた)えることにしました。


「…ありがとうタカヤ、おかげで助(たす)かったよ!」


 タカヤはそれを聞(き)いていつものように申(もう)し訳(わけ)なさそうに笑(わら)うのでした。



****



 二人(ふたり)とも疲(つか)れ切(き)ってしばらく動(うご)けずにいましたが、近(ちか)くで鳴(な)きだしたカラスの声(こえ)でハッと気(き)がつくと急(いそ)いで帰(かえ)る支度(したく)を始(はじ)めました。


 ショースケはびちゃびちゃになった服(ふく)を、タカヤのポスエッグに入(はい)っていた予備(よび)の服(ふく)に着替(きが)えます。


「なんか袖(そで)なし短(たん)パンって落(お)ち着(つ)かないや、ちょっと寒(さむ)いし」


「ごめん、俺(おれ)袖(そで)あるの苦手(にがて)であんまり着(き)ないから…今度(こんど)は長袖(ながそで)の服(ふく)も入(い)れとくよ」


 タカヤが真夏(まなつ)のような服装(ふくそう)を好(この)むのはコスモピースの影響(えいきょう)があるからだと、ショースケはいつの日(ひ)かライトさんから聞(き)きました。


 二人(ふたり)が歩(ある)いて池(いけ)を後(あと)にすると、なにやら近(ちか)くでワイワイと声(こえ)が聞(き)こえます。


「ねえねえあれ何(なん)だったんだろう⁉ 急(きゅう)に目(め)の前(まえ)に透明(とうめい)の壁(かべ)ができたよね!」


「確(たし)かに、見(み)えない何(なに)かがあって池(いけ)までの道(みち)が通(とお)れなかったよねー」


「や、やっぱりお化(ば)けなんじゃ…」


 カズとミオとレンの三(さん)人(にん)はおそらく、さっきタカヤが急(いそ)いで張(は)ったシールドの話(はなし)をしているのでしょう。


いくらキラキラ粉(こ)を使(つか)っても、体(からだ)に触(ふ)れた感触(かんしょく)を無(な)かったことにはできないのです。


こうなっては仕方(しかた)がありません、あれを使(つか)うしかないでしょう。


タカヤはポスエッグを持(も)って三(み)人(ひと)の背中(せなか)に近(ちか)づきました、そして


「みんなごめん!」


 そのまま一人(ひとり)ずつの頭(あたま)にポンポンポンとポスエッグを当(あ)てました。


「わ! なになに⁉」


 三(さん)人(にん)が驚(おどろ)いている間(あいだ)に、すかさずタカヤはポスエッグを小(ちい)さくしてポケットにしまいます。


「なんだタカヤか! ぼくたち今(いま)すごい話(はなし)してたんだよ! えーっと…あれなんだっけ?」


 カズは首(くび)をひねります。


 ミオとレンもぴんと来(き)ていない様子(ようす)で、どうやら無事(ぶじ)ETに関(かん)する記憶(きおく)を消(け)すことに成功(せいこう)したようです。


 もっと深(ふか)くET(いーてぃー)に関(かか)わってしまった場合(ばあい)には宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)の協力(きょうりょく)が必要(ひつよう)ですが、これぐらい浅(あさ)い関(かか)わりならポスエッグの力(ちから)でなんとかなります。


 しかしタカヤは記憶(きおく)の改(かい)ざんなんてすごく悪(わる)いことをした気(き)がするため、できるだけ使(つか)いたくないのでした。


「ほらみんないつまでここにいるの、もう遅(おそ)いんだし早(はや)く家(いえ)に帰(かえ)るよー」


 ショースケが手(て)を叩(たた)いて促(うなが)します。


 レンはそんなショースケを一目(ひとめ)見(み)ると目(め)が飛(と)び出(で)るほど驚(おどろ)き、みるみる不機嫌(ふきげん)になってショースケを鋭(するど)くにらみつけました。


「あれ、ショースケもいたんだー…ってどしたのその服装(ふくそう)。タカヤとおそろい?」


 ミオはニヤニヤ笑(わら)っています。


「え、えーと…まあイメチェンっていうか…ちょっと借(か)りてるんだよ、うん」


 ショースケはだんだんこの服装(ふくそう)が恥(は)ずかしくなってきました。


「へ―…借(か)りてるねぇ…これは大変(たいへん)だねー、ねぇレン?」


「だから何(なん)で俺(おれ)に話(はなし)振(ふ)るんだよ‼」


 ショースケは帰(かえ)ったら絶対(ぜったい)に予備(よび)の自分(じぶん)の服(ふく)をポスエッグに入(い)れるぞと固(かた)く心(こころ)に誓(ちか)い、これ以上(いじょう)服装(ふくそう)に触(ふ)れられないよう足早(あしばや)に家(いえ)へ向(む)かうのでした。


   挿絵(By みてみん)

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