表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/34

第二話 時目木池の怪しいウワサ

****


 (あたた)かくて(おも)わずお昼寝(ひるね)してしまいたくなるような放課後(ほうかご)


 タカヤとショースケは神社(じんじゃ)(ちか)くにある時目(ときめ)()(いけ)のほとりにやってきました。


 (あた)りはひとけもなく(しず)まり(かえ)り、(とお)くの(とり)(こえ)がよく()こえるほどです。


「ねえ、本当(ほんとう)にいるのかなぁ」


 ショースケは(あや)しそうに、じとーっと(まわ)りを見渡(みわた)します。


「うーん、(くわ)しくはわかんないけどここには(なに)かいる()がするよ」


 タカヤは(なに)かを(かん)じているのか、いつも(どお)りの(そで)なしの(ふく)(たん)パンを(かぜ)()らしながら(いけ)(いっ)(てん)をじっと()つめて()いました。



****



 (はなし)今日(きょう)昼休(ひるやす)みにさかのぼります。


「タカヤ、なんで給食(きゅうしょく)牛乳(ぎゅうにゅう)()やされてるんだと(おも)う?」


 タカヤの(つくえ)()()しながらショースケは(たず)ねます。


「さぁ……(くさ)らないようにするためじゃないか?」


 タカヤはいつもと(おな)じように適当(てきとう)(こた)えました。


 この質問(しつもん)をされるのは数十(すうじゅっ)(かい)()なのですから()たり(まえ)です。


「いや(ぼく)はね? (つめ)たい牛乳(ぎゅうにゅう)(きら)いなわけじゃないんだよ? でもさ、常温(じょうおん)牛乳(ぎゅうにゅう)にしかないあのぬるっとした(した)(ざわ)りとか芳醇(ほうじゅん)(かお)りとかそういうのが()やされると(うしな)われるわけで」


 少々(しょうしょう)牛乳(ぎゅうにゅう)に思い(おもいい)れが(つよ)すぎるショースケの(はなし)(みぎ)から(ひだり)()(なが)しながら、タカヤは(つぎ)授業(じゅぎょう)提出(ていしゅつ)する宿題(しゅくだい)のプリントを確認(かくにん)していました。


二人(ふたり)本当(ほんとう)仲良(なかよ)しだねぇ」


 (となり)(せき)未央斗(みおと)(ねむ)たそうに(こえ)()けます。


()きてたのか、ミオ」


「んー、いま()きたの」


 タカヤの()いかけに、ミオは(くま)だらけの()をこすりながら(つづ)けます。


「たしかタカヤは、ショースケが転校(てんこう)してくる(まえ)から()()いなんだっけ?」


 ショースケは宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)として活動(かつどう)するため、四年生(よねんせい)(はじ)まると同時(どうじ)外国(がいこく)からこの(まち)()()してきました。


「いいなーなんか特別(とくべつ)仲良(なかよ)しって()がするよねー。ねぇレン?」


「なんでオレに(はなし)()るんだよ」


 (ちか)くにいた(れん)はミオをじろりとにらみます。


 レンは最近(さいきん)タカヤとショースケが一緒(いっしょ)にいるといつもこのように機嫌(きげん)(わる)いのでした。


「いやー、(べつ)になんでもないけどー?」


 ミオがニマニマ(わら)いながら(かお)()()にしていくレンを(なが)めていると


「ねぇねぇねぇ! ()いて()いて!」


 バタバタドタドタと(あわ)ただしく和彦(かずひこ)(はし)ってきました。


「どうしたのカズ、また(へん)なウワサでも()いたの?」


 つい最近(さいきん)転校(てんこう)してきたショースケがこう()うほど、カズはいつもどこからかよくわからない情報(じょうほう)仕入(しい)れてきます。


(へん)じゃないもん! まぁウワサだけどさ、これ()てよ!」


挿絵(By みてみん)


 カズが(にぎ)りしめていたしわしわの(かみ)には、作者(さくしゃ)はカズであろう(なん)とも()えないクオリティの()()かれています。


 ()(くろ)()りつぶされている地面(じめん)から(なに)かが()()ているような()ですが、なんのこっちゃかわかりません。


(なん)だこれ?」


(なに)ってひどいよレン! どう()ても恐竜(きょうりゅう)じゃないか!」


 どこからどう()ても恐竜(きょうりゅう)()えないことは(たし)かですが……さすがにそこを()めるのはかわいそうなので、みんなは()いたいことをそっと(むね)にしまいました。


「なんかね、(とき)()()(いけ)恐竜(きょうりゅう)がいるらしいんだよ! ぼくのお(とう)さんの()()いの友達(ともだち)(いもうと)さんの息子(むすこ)さんが()たんだって!」


 ……(なに)もかもがとんでもなく(あや)しいウワサですがとりあえず(つづ)きを()きます。


「この()みたいに(いけ)(なか)から恐竜(きょうりゅう)(くび)(なが)()してたんだってさ!」


 カズはテンションMAX(まっくす)でまくしたてます。


(なん)だかネス()のネッシーみたいだよね! それなら(とき)()()(いけ)だからトッシーかな⁉」


「……で、カズはトッシーを(さが)しに()きたいんだね?」


 ミオが(おお)きなあくびをしながら()いました。


 ショースケ以外(いがい)(さん)(にん)はカズとは保育園(ほいくえん)からの()()いのため、(つぎ)()いたいことはなんとなくわかります。


「さすがミオ! ねぇねぇみんなで()こうよー!」


「うんうんわかった一緒(いっしょ)()くってさ、レンが」


「なんでオレが()くんだよ!」


「えーだっておれはゲームが(いそが)しいもーん」


 ミオとレンが()()()いをしている(よこ)で、タカヤは一人(ひとり)(かんが)()んでいました。


 そして(つくえ)(した)から、こっそりショースケのひざをつつきます。


「ん?」


 ショースケが(かお)()げると、タカヤはこっそり()(なか)(にぎ)っている(ちい)さくしたポスエッグを()せました。


 それを()てショースケも、ズボンのポケットの(なか)()れていたポスエッグを(にぎ)ります。


(どうしたのタカヤ)


 二人(ふたり)(あたま)(なか)会話(かいわ)(はじ)めました。


 ポスエッグに(そな)わっている便利(べんり)機能(きのう)(ひと)つでコンビでテレパシーが使(つか)えます。


(カズの(はなし)だけどさ、なんか(あや)しいと(おも)わないか?)


(いや、そりゃ(あや)しいよ。むしろ(あや)しくないところがないレベルだよ)


(そうじゃなくて……もしかしたらET(いーてぃー)かもしれないってことだよ)


「えぇ⁉」


 ショースケが(おも)わず(おお)きな(こえ)()してしまったため、()()いをしていた(さん)(にん)(おどろ)いてタカヤとショースケの(ほう)()きました。


「びっくりしたぁ、どうしたのショースケ」


カズが()をぱちくりさせて(たず)ねます。


「え、えーと……その、あれ……タカヤの変顔(へんがお)がすごくてつい(こえ)()ちゃった」


 非常(ひじょう)(くる)しい()(わけ)ですが、それを()いた(さん)(にん)はそれどころではありません。


「え⁉ タカヤが変顔(へんがお)⁉」


 ミオは(いま)まで(ねむ)そうだったのが(うそ)のように()()がり


()たことない! ねぇぼくにも()せて!」


 カズもメガネをかけ(なお)しながら猛烈(もうれつ)()いつきます。


 タカヤは(みみ)まで()()にしながら、ものすごく(なに)()いたそうな(かお)(くち)をパクパクさせています。


(タカヤごめん、(あと)でおわびするから)


 (つづ)きの言葉(ことば)()くのは(こわ)いので、ショースケはポスエッグから()(はな)しました。


 タカヤは(おぼ)えてろよと()わんばかりに一度(いちど)ショースケをにらみつけると、ヤケクソで変顔(へんがお)披露(ひろう)しておりました。


 その(あいだ)、ショースケは(おに)のような形相(ぎょうそう)()をギリギリ()らしているレンににらまれ(つづ)けることになりました。



****



「いや、ごめん本当(ほんとう)(わる)かったよ」


 (いけ)(まわ)りの砂場(すなば)(こし)かけながらショースケは(あやま)りますが、タカヤは()れてほしくないのかそのことに(かん)しては返事(へんじ)をしてくれません。


「おわびに(なん)でもするって()ったら、タカヤがこの(いけ)をすぐ調査(ちょうさ)したいって()うから()たけどさ」


 おわびまで仕事(しごと)関連(かんれん)とは、タカヤは本当(ほんとう)仕事(しごと)熱心(ねっしん)です。


「あんなのウワサじゃないの? そもそもET(いーてぃー)はキラキラ()使(つか)ってるから地球(ちきゅう)(じん)には()えないんだし」


 ショースケがそう()うとタカヤは(おどろ)いてやっと(くち)(ひら)きました。


「もしかして……ショースケこの(あいだ)(はなし)()いてなかったのか?」


「この(あいだ)?」


「ほら、ショースケの(いえ)でライトさんたちと(はな)しただろ」


 ショースケは一生懸命(いっしょうけんめい)(おも)()そうとするもののその(とき)おやつに()てきた(いちご)のショートケーキがめちゃめちゃ美味(おい)しくてとにかく夢中(むちゅう)()べた記憶(きおく)しか(のこ)っていません。


 タカヤはなんとなく(さっ)したのか(ちい)さくため(いき)をつきました。


最近(さいきん)UFO(ゆーふぉー)やワープを使(つか)って地球(ちきゅう)にやって()ET(いーてぃー)問題(もんだい)になってるって(はなし)だよ」


 残念(ざんねん)ながらどうもショースケはまだピンと()ていないようなので、仕方(しかた)なくタカヤは(つづ)けます。


特急(とっきゅう)こすもに()って地球(ちきゅう)()るには、キラキラ()使(つか)うとかその(ほか)にもいろんなルールを(まも)らないと()られないだろ? だからそれを(やぶ)ET(いーてぃー)(すく)ないんだけど……。UFO(ゆーふぉー)やワープ装置(そうち)()(なか)にはそもそもルールを()らなかったり、地球(ちきゅう)危害(きがい)(くわ)えるためにわざとルールを(やぶ)ったりするET(いーてぃー)がいるんだ」


 ショースケはなんとなく、大好(だいす)きな(なま)クリームの(あま)みを(あじ)わいながらそんな(はなし)()いたような()がしてきました。


宇宙鉄道(うちゅうてつどう)(えき)はまだまだ()(ほし)も多(おお)いし、宇宙警察(うちゅうけいさつ)(すべ)ての(ほし)管理(かんり)できてるわけじゃないから仕方(しかた)がないけどな。それに(くわ)えて、宇宙鉄道(うちゅうてつどう)(えき)があるような(まち)はよく目立(めだ)ってET(いーてぃー)(あつ)めやすいから注意(ちゅうい)しろってライトさんが()ってただろ?」


「あー……うん(おも)()した(おも)()した」


絶対(ぜったい)ウソだ」


 バレたか……と(おも)いながら、これ以上(いじょう)追求(ついきゅう)されるとさらにボロが()そうなのでショースケは(はなし)()らします。


「ところで、どうやって(いけ)調査(ちょうさ)する()?」


「そうだな……もし危険(きけん)ET(いーてぃー)だったら刺激(しげき)するわけにはいかないし……」


 タカヤは真剣(しんけん)(かんが)()みながら時折(ときおり)(にが)そうな(かお)をしています。


 おそらくコスモピースの(ちから)使(つか)おうかと(かんが)えては、先日(せんじつ)ライトさんに使(つか)()ぎだとみっちり(しか)られたことを(おも)()しているのでしょう。


 もちろんショースケも一緒(いっしょ)(しか)られたので、むやみにコスモピースに(たよ)ろうとは()いません。


「と……とりあえず()りでもしてみる、か……?」


 いつも(かしこ)いタカヤが()したとは(おも)えないガバガバの(あん)ですが、(ほか)方法(ほうほう)()かばないのでショースケもそれに()っかることにしました。


****


()竿(ざお)どうしよう、(いえ)にあると(おも)うから()りに(かえ)ってこようか」


 その()(はな)れようとするタカヤをショースケは()ったと()()めました。


普通(ふつう)()竿(ざお)恐竜(きょうりゅう)()れないでしょ、(ぼく)にいい(かんが)えがあるよ」


 ショースケはカバンから、(ちい)さくしていたポスエッグを()()して(おお)きくします。


 するとそのポスエッグは以前(いぜん)までとは(おお)きく様子(ようす)()わっていました。


 (いま)までのたまご(がた)部分(ぶぶん)にいくつも(あたら)しいパーツが()()けられていて、まるでおもちゃの(じゅう)のような()()をしています。


「ショースケついにポスエッグ改造(かいぞう)したのか!」


「そう! だってポスエッグっていろんな機能(きのう)あるけどさ、ボタンとかついてないから使(つか)いにくくてしょうがないでしょ? 使(つか)いやすくする専用(せんよう)道具(どうぐ)(たか)くてお(かね)()りないし……」


 タカヤはショースケと一緒(いっしょ)専用(せんよう)道具(どうぐ)()っているお(みせ)(おとず)れたときのことを(おも)()しました。


 (たし)かに小学生(しょうがくせい)金銭(きんせん)感覚(かんかく)では目玉(めだま)()()すような価格(かかく)()かれていて、ショースケは実際(じっさい)目玉(めだま)()()しかけていました。


「だから自分(じぶん)(つく)ってみたんだよ、名前(なまえ)は『エッグロケット』! どう、かっこいい?」


 ショースケはビシッとエッグロケットを(かま)えて得意(とくい)げです。


挿絵(By みてみん)


「ショースケって本当(ほんとう)天才(てんさい)だよな……学校(がっこう)宿題(しゅくだい)とかもちゃんとやればいいのに」


 こんなに天才(てんさい)なショースケですが学校(がっこう)成績(せいせき)はてんやわんやです。


 ですので、タカヤはいつも勉強(べんきょう)(おし)えたり宿題(しゅくだい)をやらせたり頑張(がんば)っているのでした。


「それはそれ、これはこれだよ」


 ショースケは堂々(どうどう)(ひら)(なお)っています。


「それでね、改造(かいぞう)してて()ったんだけど、ポスエッグには大量(たいりょう)(もの)収納(しゅうのう)できる機能(きのう)があるみたいなんだ」


 タカヤは一瞬(いっしゅん)(まゆ)をしかめましたが、ショースケは()づかず(つづ)けます。


「だから(なか)にしまっておいた地球(ちきゅう)(がい)素材(そざい)(つく)られた頑丈(がんじょう)(いと)をエッグロケットの(さき)から()して、()()()ばしたら……これで()竿(ざお)のできあがりだよ!」


 ちょっと()()特殊(とくしゅ)ですが、見事(みごと)()竿(ざお)ができあがりました。


「おおすごい、すごいけど……」


「なに、なんか文句(もんく)あるの」


 ショースケはむっと(くち)(とが)らせます。


「いや、まさかショースケが収納(しゅうのう)機能(きのう)のことも()らなかったなんて……」


 タカヤは片手(かたて)(ひたい)()さえて(あたま)(かか)えます。


「え、タカヤ()ってたの⁉ ()ってよ! (ぼく)この(あいだ)(かえ)(みち)にカバンに(もの)()めすぎて(やぶ)いちゃってライトさんにすごい(おこ)られたのに!」


「わざと使(つか)ってないんだと(おも)って……そもそもポスエッグと一緒(いっしょ)にもらった説明書(せつめいしょ)にしっかり()いてあっただろ⁉」


「あんな分厚(ぶあつ)いの()めないよ! (あつ)(じゅっ)センチくらいあったじゃん!」


 いつまでも()(あらそ)いをしている場合(ばあい)ではありません、とりあえず()りを開始(かいし)しなくては。


(えさ)とか()けた(ほう)がいいよね、今日(きょう)のおやつに()ってきたバナナでいっか」


 ショースケはバナナを(かわ)ごと(いと)(さき)()()けました。


恐竜(きょうりゅう)ってバナナ()べるかな……」


 タカヤは不安(ふあん)そうですが、(もの)(ため)しです。


 エッグロケットの釣竿(つりざお)(おお)きく()って、ショースケは(いけ)()(いと)()()みました。




「あ……アキコノペチュニ」


「ニッカルコピ(せい)


「イントルベシアント……そろそろ地球(ちきゅう)(がい)しりとりも()きてきたね」


 ショースケは(おお)きなあくびを(ひと)つしました。


 ()りを(はじ)めて(いち)時間(じかん)竿(さお)(うご)きはピクリともありません。


「やっぱり()りじゃ無理(むり)があったかな……」


 自分(じぶん)がした提案(ていあん)だけに、タカヤは(もう)(わけ)なさそうです。


「んー、一回(いっかい)()()げて(あたら)しい作戦(さくせん)(かんが)えよっか」


ショースケは()竿(ざお)(にぎ)り、(いと)(なか)()()げました。すると……


 バナナがありません。


 それどころかバナナを(むす)んでいた(むす)()()いのです。


 ()(いと)はあの惑星(わくせい)ミッシェルの(ちょう)(つよ)いモンスター、オンガイルゴンの(ちから)()ってしても()れない! というキャッチフレーズで()られていました。



 (いけ)中心部(ちゅうしんぶ)(おと)がしました。



 ショースケとタカヤが(おそ)(おそ)(おと)(ほう)()るとそこには確実(かくじつ)地球(ちきゅう)()(もの)では()いと一目(ひとめ)でわかる、巨大(きょだい)ET(いーてぃー)(なが)(くび)をもたげていました。


「ぎゃっ」


 (おお)きな(こえ)()しそうになったショースケの(くち)をタカヤがとっさに(ふさ)ぎます。


 巨大(きょだい)ET(いーてぃー)はまだ二人(ふたり)()()いてない様子(ようす)(そら)をぼんやりと(なが)めていました。


 (おお)きな(みっ)つの()(かた)そうな(くろ)いウロコが()(めぐ)らされた(くび)(もと)、そしてとっても(おお)きな(くち)


 ()()はまずい、タカヤはそう確信(かくしん)していました。


(ショースケ()こえるか?)


 タカヤがテレパシーを(おく)ります。


()こえるけど……(なに)あれ! 絶対(ぜったい)ヤバい(やつ)じゃん!)


 ショースケはカタカタ(ふる)えています。


 当然(とうぜん)です、(じゅっ)(きゅう)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)のショースケが相手(あいて)にするようなET(いーてぃー)ではありません。


 とにかくここからショースケを()がさなくては。


(ショースケにお(ねが)いがあるんだけど、ここからゆっくり(はな)れて安全(あんぜん)場所(ばしょ)からライトさんを()んでくれないか?)


(いいけど……タカヤはどうするの?)


(おれ)ET(いーてぃー)()げないように(かく)れて見張(みは)ってるから)


 (すこ)しでも安心(あんしん)させようとタカヤは(わら)って()せます。


 もちろん、ショースケが(はな)れた瞬間(しゅんかん)にタカヤがETを対処(たいしょ)するつもりです。


(わかった……でも無理(むり)しないでね)


 ショースケが(はな)れようとしたその(とき)



(たし)かこの(あた)りだって()いたんだけどなー」


 (とお)くから(みみ)なじみのある(こえ)がしました。


「おいカズ、やっぱり()くのやめないか……?」


「あれー? レンびびってるのー?」


「び、びびってねーし! ミオこそびびってんじゃねーの⁉」


 その(こえ)反応(はんのう)してET(いーてぃー)はさらに(くび)をもたげ、(こえ)のする(ほう)視線(しせん)()けました。



 二人(ふたり)(かんが)えるより(さき)(からだ)(うご)いていました。


 ショースケがエッグロケットを(たか)(かか)(たま)一発(いっぱつ)発射(はっしゃ)すると、(たま)(から)ではじけてキラキラ()(いけ)全体(ぜんたい)散布(さんぷ)されます。


 タカヤは一気(いっき)にコスモピースの(ちから)発動(はつどう)させると、(いけ)全体(ぜんたい)にシールドを()ります。


 異変(いへん)()()いたET(いーてぃー)は、タカヤとショースケの(ほう)をじろりとにらみました。



 ET(いーてぃー)(おお)きな(くち)をゆっくり(ひら)いて、(みっ)つの()順番(じゅんばん)にピカピカ(ひか)らせました。


 (きば)()く、のどの(おく)では(ちい)さな(なに)かが渦巻(うずま)きながら(かがや)いています。


「ショースケ‼」


 (なに)()こったかわからないうちに、()()くとショースケはタカヤに(うで)(つか)まれ上空(じょうくう)()()げられていました。


 (いま)(いま)までショースケがいた場所(ばしょ)には、(くび)をぐんと()ばし(くち)()じたET(いーてぃー)(かお)があります。


 そしてショースケが()っていたはずの地面(じめん)ET(いーてぃー)(くち)(かたち)(ふか)くえぐられていました。


大丈夫(だいじょうぶ)か⁉」


 大丈夫(だいじょうぶ)なわけありません、ショースケはもうチビりそうです。


 ET(いーてぃー)(くび)()()げると、また(おお)きく(くち)(ひら)いて二人(ふたり)(ほう)(おそ)()かってきました。


 タカヤはショースケを(かか)えたまま、空中(くうちゅう)何度(なんど)もそれを()けていきます。


(なに)なに⁉ (ぼく)たちのこと()べようとしてるってこと⁉」


「どうもそうみたいだな……ショースケ、このET(いーてぃー)には『強制(きょうせい)転送(てんそう)』を使(つか)おう! やり(かた)はわかるか?」


 強制(きょうせい)転送(てんそう)とは、ポスエッグに(そな)わっているワープ機能(きのう)発動(はつどう)してET(いーてぃー)直接(ちょくせつ)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)(おく)方法(ほうほう)です。


「さすがにそれはわかるけど……こうも(あば)れてたら使(つか)えないよ! もっとおとなしくさせないと!」


 なかなか二人(ふたり)()らえることができず逆上(ぎゃくじょう)したET(いーてぃー)はさらに(くび)(はげ)しく()り、金属(きんぞく)がこすれるような(おお)きな()(ごえ)をあげます。


 タカヤはズボンのポケットに()れてあったポスエッグから、筒状(つつじょう)道具(どうぐ)()()()しました。


 先端(せんたん)には(ふと)(はり)()()しています。


「それってもしかして鎮静剤(ちんせいざい)?」


「うん、かなり強力(きょうりょく)成分(せいぶん)のものだ。ショースケしっかり(つか)まっててくれ!」


 そう()うとタカヤは一気(いっき)にスピードを()げて、ET(いーてぃー)背中(せなか)(がわ)(まわ)()みました。


 そしてET(いーてぃー)(くび)がこちらを()くよりも(さき)に、びっしり()えたウロコとウロコのわずかな隙間(すきま)(はり)()()みました。


「やった!」


 ショースケはタカヤの背中(せなか)にしがみつきながら(よろこ)びましたが、タカヤは(あお)ざめていました。


 (はり)(おく)まで()さりません、まるで(てつ)(はり)()()てているような感触(かんしょく)です。


 そしてタカヤが一瞬(いっしゅん)うろたえた(すき)ET(いーてぃー)見逃(みのが)しません。


 (みっ)つの()同時(どうじ)にまぶしく(ひか)らせると、(くち)から二人(ふたり)()かって(つよ)衝撃(しょうげき)()()ばしました。


 タカヤは(いそ)いで()けましたが、その(いきお)いでショースケの()がタカヤの背中(せなか)から(はな)れてしまいました。


 ショースケは()(さか)さまに(いけ)()ちていきます。


 (たす)けに()かおうとしますがET(いーてぃー)視線(しせん)はまっすぐタカヤを()らえており、攻撃(こうげき)()けるだけで精一杯(せいいっぱい)です。


 そのままショースケは茶色(ちゃいろ)(みず)(なか)(おと)()てて()()まれていきました。



****



(どうしよう(ぼく)(およ)ぐの苦手(にがて)なのに!)


 (みず)はかなり(にご)っていますし、ショースケは(みず)(なか)()()けられないので(まわ)りの様子(ようす)もわかりません。


 ショースケはジタバタともがこうとして、とっさにあることを(おも)()しました。


 エッグロケットの(うし)ろにつけたダイヤルをカリカリと(まわ)しスイッチを()すと、先端(せんたん)から(おお)きなシャボン(だま)のような空気(くうき)のかたまりが()てきました。


 ショースケはその(なか)(いそ)いで(かお)()()みます。


「ぷはっ! (あぶ)なかった……」


 なんとなく(たの)しそうだからと()けた機能(きのう)でしたが、まさかこんなに(やく)()つとは(おも)いませんでした。


 (くび)から(うえ)(おお)きなシャボン(だま)のようなものをつけたまま、ショースケは(うえ)目指(めざ)します。


 とりあえずこの(みず)(なか)から()なくては。


 自力(じりき)水面(すいめん)()がれるほどショースケに(およ)ぎの技術(ぎじゅつ)はありませんので、エッグロケットの(さき)から下向(したむ)きに空気(くうき)発射(はっしゃ)して上昇(じょうしょう)していきます。


 しかしいつまでも周囲(しゅうい)(あか)るくなりません。


 水面(すいめん)(ちか)づいているはずなのにおかしいなと(かん)(はじ)めたとき、ショースケの(からだ)はなにか(かた)いものに()たりました。


 エッグロケットのライトを()けて()らしてみると、それは()(しろ)でとても(おお)きな(なに)かの一部(いちぶ)のようです。


 この(いけ)にあるこんな巨大(きょだい)なものといえば(ひと)つしかありません。


 あのET(いーてぃー)のお(なか)です。


 (そと)でタカヤが()()いているのでしょう、ET(いーてぃー)(くび)()るうことに集中(しゅうちゅう)しておりお(なか)はほとんど(うご)いていないようです。


 これはチャンスです、(いま)なら強制(きょうせい)転送(てんそう)使(つか)えるかもしれません。


 ショースケはやり(かた)(おも)()しながらエッグロケットを操作(そうさ)します。


 ダイヤルを(にぎ)って(おも)()()()ると、エッグロケットの先端(せんたん)から(ちい)さなブラックホールのような(うず)()まれて次第(しだい)(おお)きくなっていきました。


 強制(きょうせい)転送(てんそう)準備(じゅんび)完了(かんりょう)するまでには十数(じゅうすう)(びょう)程度(ていど)かかります。


 ショースケがふう、と一息(ひといき)ついて(あた)りを見渡(みわた)すと



 (くび)()()げて、水中(すいちゅう)からまっすぐこちらを()つめるET(いーてぃー)()()いました。


 ショースケが(なに)かを(おこな)っていることに()()いたのでしょう。


 そのままET(いーてぃー)(みっ)つの()をニヤリと(ゆが)ませると(いま)までで一番(いちばん)(くち)(おお)きく(ひら)きショースケに(ちか)づきました。


 ET(いーてぃー)自分(じぶん)(せま)って()るまでのその時間(じかん)が、ショースケにはひどくゆっくりに(かん)じます。


 (こえ)()せず(うご)くこともできません。


 まだ強制(きょうせい)転送(てんそう)準備(じゅんび)完了(かんりょう)しておらず、武器(ぶき)(ひと)つもありません。


 ショースケは()をぎゅっと(つむ)()()いしばりました。



 まぶた()しに(みず)(そと)(はげ)しく(なに)かが(ひか)った()がしました。



****



 ……()()けるとET(いーてぃー)(くち)()けたまま(うご)きを()めていました。


 (くる)しそうに(くび)をくねらせて(ちい)さく()(ごえ)をあげながら、(みっ)つの()(おお)きく見開(みひら)いています。


 ショースケは(なに)()きたかわからず呆然(ぼうぜん)としていましたが、(にぎ)りしめていたエッグロケットが煌々(こうこう)(かがや)いていることに()()きました。


 強制(きょうせい)転送(てんそう)準備(じゅんび)完了(かんりょう)したのです。


 ショースケは両手(りょうて)でエッグロケットを(かま)えると()(まえ)(おお)きな(くち)()かって(おも)()りスイッチを()しました。


 エッグロケットに()()こっていた(うず)はさらに(おお)きくなりながらビカビカと(かがや)くと、巨大(きょだい)ET(いーてぃー)一気(いっき)()()んで次第(しだい)(ちい)さくなりやがて()えていきました。



「やった……やったあ!」


 ショースケが(いそ)いで(みず)から(かお)()すと、(そら)()かんでいるタカヤが()えました。


「タカヤー! やったよ! 転送(てんそう)でき……た……」


挿絵(By みてみん)


 あれはタカヤでしょうか。全身(ぜんしん)()(くろ)で、()だけが(あか)(あお)(あや)しく(ひか)っています。


「タカヤ……?」


 その(こえ)()()いたのか


「しょーすけ……」


 タカヤはゆっくり(もと)姿(すがた)(もど)ると、そのまま(そら)から()ちてきました。


 ショースケは(あわ)ててエッグロケットを操作(そうさ)して(みず)(うえ)(おお)きなシャボン(だま)(ふた)()し、タカヤを()()めます。


「タカヤ大丈夫(だいじょうぶ)⁉」


 ショースケはなんとか頑張(がんば)ってタカヤを(きし)()げました。


(おれ)はだいじょうぶ……ショースケが無事(ぶじ)でよかった」


 タカヤの(まゆ)がへにょりと()がりました。


 おそらくET(いーてぃー)(きゅう)(うご)かなくなった理由(りゆう)はタカヤが(なに)かをしたからでしょう。


 一体(いったい)(なに)をしたのか、ショースケには見当(けんとう)もつきません。


 でもきっと()いてもタカヤは(こた)えてくれないでしょうし、(なん)だか()いてはいけないような()がして、ショースケはお(れい)だけ(つた)えることにしました。


「……ありがとうタカヤ、おかげで(たす)かったよ!」


 タカヤはそれを()いていつものように(もう)(わけ)なさそうに(わら)うのでした。



****



 二人(ふたり)とも(つか)()ってしばらく(うご)けずにいましたが、(ちか)くで()きだしたカラスの(こえ)でハッと()がつくと(いそ)いで(かえ)支度(したく)(はじ)めました。


 ショースケはびちゃびちゃになった(ふく)を、タカヤのポスエッグに(はい)っていた予備(よび)(ふく)着替(きが)えます。


「なんか(そで)なし(たん)パンって()()かないや、ちょっと(さむ)いし」


「ごめん、(おれ)(そで)あるの苦手(にがて)であんまり()ないから……今度(こんど)長袖(ながそで)(ふく)()れとくよ」


 タカヤが真夏(まなつ)のような服装(ふくそう)(この)むのはコスモピースの影響(えいきょう)があるからだと、ショースケはいつの()かライトさんから()きました。


 二人(ふたり)(ある)いて(いけ)(あと)にすると、なにやら(ちか)くでワイワイと(こえ)()こえます。


「ねえねえあれ(なん)だったんだろう⁉ (きゅう)()(まえ)透明(とうめい)(かべ)ができたよね!」


(たし)かに、()えない(なに)かがあって(いけ)までの(みち)(とお)れなかったよねー」


「や、やっぱりお()けなんじゃ……」


 カズとミオとレンの(さん)(にん)はおそらく、さっきタカヤが(いそ)いで()ったシールドの(はなし)をしているのでしょう。


いくらキラキラ()使(つか)っても、(からだ)()れた感触(かんしょく)()かったことにはできないのです。


こうなっては仕方(しかた)がありません、あれを使(つか)うしかないでしょう。


タカヤはポスエッグを()って()(ひと)背中(せなか)(ちか)づきました、そして


「みんなごめん!」


 そのまま一人(ひとり)ずつの(あたま)にポンポンポンとポスエッグを()てました。


「わ! なになに⁉」


 (さん)(にん)(おどろ)いている(あいだ)に、すかさずタカヤはポスエッグを(ちい)さくしてポケットにしまいます。


「なんだタカヤか! ぼくたち(いま)すごい(はなし)してたんだよ! えーっと……あれなんだっけ?」


 カズは(くび)をひねります。


 ミオとレンもぴんと()ていない様子(ようす)で、どうやら無事(ぶじ)ETに(かん)する記憶(きおく)()すことに成功(せいこう)したようです。


 もっと(ふか)ET(いーてぃー)(かか)わってしまった場合(ばあい)には宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)協力(きょうりょく)必要(ひつよう)ですが、これぐらい(あさ)(かか)わりならポスエッグの(ちから)でなんとかなります。


 しかしタカヤは記憶(きおく)(かい)ざんなんてすごく(わる)いことをした()がするため、できるだけ使(つか)いたくないのでした。


「ほらみんないつまでここにいるの、もう(おそ)いんだし(はや)(いえ)(かえ)るよー」


 ショースケが()(たた)いて(うなが)します。


 レンはそんなショースケを一目(ひとめ)()ると()()()るほど(おどろ)き、みるみる不機嫌(ふきげん)になってショースケを(するど)くにらみつけました。


「あれ、ショースケもいたんだー……ってどしたのその服装(ふくそう)。タカヤとおそろい?」


 ミオはニヤニヤ(わら)っています。


「え、えーと……まあイメチェンっていうか……ちょっと()りてるんだよ、うん」


 ショースケはだんだんこの服装(ふくそう)()ずかしくなってきました。


「へ―……()りてるねぇ……これは大変(たいへん)だねー、ねぇレン?」


「だから(なん)(おれ)(はなし)()るんだよ‼」


 ショースケは(かえ)ったら絶対(ぜったい)予備(よび)自分(じぶん)(ふく)をポスエッグに()れるぞと(かた)(こころ)(ちか)い、これ以上(いじょう)服装(ふくそう)()れられないよう足早(あしばや)(いえ)()かうのでした。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ