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第二十四話 コントローラー A+B+Y+SS

****


 九月(くがつ)(はい)り、二学期(にがっき)(はじ)まったばかりの(とき)()()小学校(しょうがっこう)四年生(よねんせい)教室(きょうしつ)


 (いち)時間(じかん)()()わった(やす)時間(じかん)に、ショースケとレンは(うし)ろの(かべ)掲示(けいじ)されたみんなの自己(じこ)紹介(しょうかい)のプリントを()ていました。


「へー、タカヤってハンバーグが()きなんだ。()らなかった、レン()ってた?」


()ってる、(まえ)一回(いっかい)そうやって()いてたからな! まぁ、オレとタカヤは()()いが(なが)いからなー?」


 ……レンが何故(なぜ)()(ほこ)った(かお)()けてくるので、ショースケは(すこ)しカチンと()(みょう)()()いたくなってしまいます。


「ふ、ふーん? まあ(ぼく)は? 夏休(なつやす)みにタカヤの手作(てづく)りアイス()べたけどね? レンは()べたことあるの?」


「はぁ⁉ オ、オレは手作(てづく)りクッキー()べたことあるぞ!」


(ぼく)だってありますー! 残念(ざんねん)でしたー、しかも手作(てづく)りカレーも()べたことありますー!」


「う、うぅ……!」


 二人(ふたり)がそうこう()(あらそ)ってる(あいだ)に、廊下(ろうか)から(まど)(そと)(くも)(ぞら)(なが)めていたタカヤが教室(きょうしつ)(もど)ってきました。


二人(ふたり)(なに)(はな)してるんだ?」


(べつ)にー? (ぼく)(ほう)がタカヤに(くわ)しいって(はなし)だよ」


 ちょっと涙目(なみだめ)になっているレンの(となり)で、ショースケは(こし)()()ててふんぞり(かえ)ります。


「レン? どうした?」


 ()(ひく)いレンに目線(めせん)()わせるために(すこ)(かが)んで、タカヤは(やさ)しく(わら)いかけます。


「べ、 (べつ)(なん)でもねーよ……ただ、その……アイスとカレー……」


「アイスとカレー? お(なか)()いたのか?」


「や! やっぱり(なん)でもねーよ!」


 レンが(かお)(あか)くして、ぷいっと(かお)(そむ)けると……(あさ)から(つくえ)()()したままのミオが視界(しかい)(はい)りました。


「……おいミオ、まだ(へこ)んでんのか? だから、(つぎ)頑張(がんば)ったら()いって()ってるだろ」


「え、ミオてっきり()てるんだと(おも)ってた。(へこ)んでるって……(なに)かあったの?」


 ショースケがミオの背中(せなか)をツンツンつついていると、(ちか)くに()たカズがその質問(しつもん)(こた)えます。


「ミオはねー、昨日(きのう)あったゲームのオンライン大会(たいかい)全然(ぜんぜん)(おも)ったように()かなかったんだってさ。ほらミオ、元気(げんき)()してー?」


 カズがミオに(こえ)をかけると……突然(とつぜん)、ミオはガバリと(かお)()げて()見開(みひら)きました!


(した)Aからの(うえ)B! 間合(まあ)調整(ちょうせい)からの(うえ)Y、そこで必殺技(ひっさつわざ)のスペシャルスマッシュ!」


 そう(さけ)んだミオは、(つくえ)(なか)から(つぎ)授業(じゅぎょう)使(つか)算数(さんすう)のノートを()()()して……算数(さんすう)とは(まった)関係(かんけい)ないであろう(なに)かを()(なぐ)ります。


「そうだ、相手(あいて)のキャラは(わざ)()してから(つぎ)のモーションに(うつ)るまで時間(じかん)があるんだから、その(あいだ)距離(きょり)()めてA攻撃(こうげき)連打(れんだ)からのガード()り! ……でもそうしたら()こうが」


 ……めちゃくちゃ早口(はやくち)でまるで呪文(じゅもん)のように(とな)えるミオに、みんなが唖然(あぜん)としていると……


「あー! これじゃまだダメかー!」


 ミオはまた(つくえ)()()してしまいました。


 ……どうやら(あたま)(なか)(おこな)ったゲームのシミュレーションが上手(うま)くいかなかったようです。


「な、なんかよくわかんないけど大変(たいへん)みたいだね……」


「そうなんだよショースケ。ミオはこうなると(なが)いから、(あたた)かく見守(みまも)ってあげてね」


 カズがへにゃりと(わら)うと……レンとタカヤは見慣(みな)れているのか、うんうんと(つよ)(うなず)きました。



****



 さてさて()時間(じかん)()()わりの(やす)時間(じかん)、トイレから教室(きょうしつ)(もど)途中(とちゅう)廊下(ろうか)


「うーん、相手(あいて)滞空(たいくう)時間(じかん)がおれのキャラより(なが)いんだから……」


 ……ミオは一人(ひとり)(ある)きながら、まだブツブツと(つぶや)いてゲームの対策(たいさく)(かんが)えています。


()てよ? 相手(あいて)のスペシャルスマッシュは距離(きょり)判定(はんてい)(きび)しいから……つまり回避(かいひ)した(あと)のダッシュ攻撃(こうげき)、でっ⁉」


 さっぱり(まわ)りなんて()ていなかったミオは、(なん)かに正面(しょうめん)から(おも)()りぶつかってしまいました。


「いたたたー……って、あれ?」


 ミオはやっと(まえ)()きましたが……()(まえ)には(なに)もありません。


「んー? おれ(なに)にぶつかったんだろ……まぁいいか、えーっと……それで相手(あいて)は」


 (あたま)(なか)がゲームでいっぱいのミオは、また(かんが)(ごと)をしながら(ある)(はじ)めましたが……今度(こんど)足下(あしもと)にある(なに)かを(つよ)蹴飛(けと)ばしてしまいました。


 ミオが蹴飛(けと)ばした(なに)かは、カラカラと(おと)()てて廊下(ろうか)(ころ)がり……(かべ)()たってようやく()まります。


「うん? (なに)()っちゃったー……ってあれ、もしかして……コントローラー⁉」


 パタパタと()(あし)で、ミオは(さき)ほど蹴飛(けと)ばした(なに)かを(ひろ)()げました。


 楕円形(だえんけい)(ひら)べったいボディにはスティックやボタンが()いていて、ミオが普段(ふだん)(あそ)んでいるゲームで使(つか)うコントローラーにとってもよく()ています。


「よかったー、(きず)とかは()いて()いみたい……でも、(なん)のゲームのだろ? わかんないけど、学校(がっこう)にコントローラーを()ってくるなんて勇気(ゆうき)のある()がいるもんだねー」


 ミオがニヤニヤ(わら)っていると、コントローラーから(なに)やら(おと)()りました。


『ニョロニュルーンニョニョ』


「わ、(なん)()った。(へん)(おと)ー……」


 キョロキョロと(あた)りを見回(みまわ)したミオは、(だれ)もいないことを確認(かくにん)すると、(にぎ)ったコントローラーへと視線(しせん)(もど)します。


「……(だれ)のかわかんないけど、ちょっとくらい(さわ)ってもいいよねー?」


 ミオはそのコントローラーを、()れた()つきでカチャカチャ(さわ)ってみました。


 (した)Aからの(うえ)B……間合(まあ)調整(ちょうせい)して、(うえ)Yからのスペシャルスマッシュ。


 ああ、このプレイが昨日(きのう)のオンライン大会(たいかい)出来(でき)ていたなら!


 ミオがため(いき)()くと、またコントローラーから(おと)()りました。


『パッポニョロニュルーン』


「わーまた()った……ふふ、やっぱり(へん)(おと)―!」


 (なん)だか(たの)しくなってきたミオが、そのままガチャガチャとコントローラーのボタンを()しまくっていると……


「ん? ()てよ……あの()でジャンプ回避(かいひ)からの(よこ)攻撃(こうげき)(うつ)れば!」


 どうやら、ゲームのいいアイデアが()かんだようです!


「うーん、やっぱり(あたま)だけで(かんが)えるより、コントローラーを(さわ)ってる(ほう)()かびやすいねー……おっと、そうだ。このコントローラーは先生(せんせい)()つかったら没収(ぼっしゅう)されちゃうだろうし、ゲームが()きな同士(どうし)のためにも(かく)しておいてあげないとねー」


 ミオは男子(だんし)トイレの手洗(てあら)()(した)(たな)、しかもその一番(いちばん)(おく)にコントローラーらしきものを()きます。


 そしてさっきより上機嫌(じょうきげん)に、またブツブツと(かんが)(ごと)をしながら教室(きょうしつ)へと(もど)って()きました。



****



「ねぇねぇ、運動場(うんどうじょう)でキックベースしない? まだギリギリ(あめ)()って()いし!」


 (にぎ)やかな昼休(ひるやす)みの(はじ)まりと(とも)に、クラスメイトのすぴかがショースケたちに(こえ)をかけました。


「いいね、やるやる! みんなもやるでしょ?」


 ショースケが(たず)ねると、タカヤとカズとレンが(うなず)きます、が……


「うーん、さっきのアイデアだと火力(かりょく)()るけど(すき)出来(でき)ちゃうからー……やっぱりY攻撃(こうげき)からダッシュ……いやでもそれだと」


 ミオは(つくえ)()()して、まだブツブツと(なに)かを(つぶや)(つづ)けていました。


 ()時間(じかん)()()わりの(やす)時間(じかん)(うれ)しそうに教室(きょうしつ)(もど)って()たと(おも)ったのも(つか)()……どうやらまたシミュレーションは難航(なんこう)しているようです。


 無理(むり)(はな)しかけても返事(へんじ)(かえ)って()ないでしょうから、ショースケはそっとしておきます。


「えーっと……ミオは……無理(むり)そう、かな」


「わかった、じゃあ()(にん)参加(さんか)ね! ボールと場所(ばしょ)()っとくからすぐに()てねー!」


 すぴかはピョコピョコと両手(りょうて)()って、一足(ひとあし)(さき)運動場(うんどうじょう)()ってしまいました。




「しかしミオはずっとあんな(かん)じだね、一体(いったい)いつ(もど)るの?」


 ()(かい)から(いっ)(かい)(つづ)階段(かいだん)()りながら、ショースケはちょっと不満気(ふまんげ)です。


「んー、三日(みっか)ぐらいしたら(おさ)まるんじゃねーの」


 一段(いちだん)()ばしで階段(かいだん)()()ったレンは、面倒(めんどう)そうに(こた)えました。


三日(みっか)⁉ 三日(みっか)もあのままなの⁉」


「ミオは(ひと)()になることがあると、ずーっとそればっかりになっちゃうからね。ぼくらは(いま)まで何回(なんかい)()たことあるから」


 カズはニコニコと笑顔(えがお)()かべます。


「ふ、ふーん……そういうもの、なんだー……」


 ショースケはいまいち納得(なっとく)がいかないまま、()(にん)下駄箱(げたばこ)(まえ)(そと)廊下(ろうか)にやって()ました。


 湿(しめ)った(すこ)(つよ)(かぜ)(からだ)()けながら、上履(うわば)きを()いで運動(うんどう)(ぐつ)()()えます。


天気(てんき)ちょっと(わる)くて()かったね、()れてたら(あつ)()ぎるくらいだもん!」


 一番(いちばん)(くつ)()けたカズは、元気(げんき)運動場(うんどうじょう)へと(はし)って()きました。


「おいカズ()てよ……(まった)く、カズは()どもだよな」


 どの(くち)()っているんだという(かん)じですが、レンは(あき)れた様子(ようす)です。


「さ、タカヤ()こうぜ……タカヤ? どうしたんだよ、外庭(そとにわ)(ほう)()て」


「えーっと……(はな)綺麗(きれい)()いてるなーと(おも)って!」


 いつも(どお)りの笑顔(えがお)()かべながら……タカヤはレンからは()えないように、(となり)のショースケのお(なか)をつつきました。


「わひゃっ⁉ (なに)すんのタカ……」


 ……タカヤは(まゆ)をぎゅっと()()げて、ショースケにとにかく外庭(そとにわ)(ほう)()るよう目配(めくば)せして()ます。


 (なん)(なん)だと、ショースケは(かる)気持(きも)ちで外庭(そとにわ)(ほう)()いて……(さき)ほどたくさんおかわりして、お(なか)いっぱい()べた給食(きゅうしょく)()そうになるほど(おどろ)きました。


 だって(みどり)がたくさん()えられた外庭(そとにわ)にある(いわ)(うえ)には……もの(すご)見覚(みおぼ)えのある()()ET(いーてぃー)寝転(ねころ)がって()るではありませんか!


 ()()ET(いーてぃー)はタカヤとショースケの存在(そんざい)()()くと、ボロボロ()きながら(なが)(はな)をブンブン()(まわ)します。


「わー! タカヤ隊員(たいいん)とショースケ隊員(たいいん)ー! もう大変(たいへん)なんです、(たす)けてくださーい!」


 ……ショースケはゆっくり、視線(しせん)をレンへと(もど)します。


「ぼ、(ぼく)……教室(きょうしつ)(わす)(もの)? しちゃった、かもー……」


「は? (わす)(もの)って……そもそもキックベースするのに(なに)がいるって()うんだよ」


 レンの()うことはもっともですが、こうしている(あいだ)にも外庭(そとにわ)ET(いーてぃー)はウニョウニョとこちらへアピールを(つづ)けています。


 ショースケがここから(はな)れる方法(ほうほう)必死(ひっし)(かんが)えていると……(さき)にタカヤが(うご)きました。


「そういえば……(おれ)先生(せんせい)から学級(がっきゅう)委員(いいん)として(たの)まれ(ごと)をしてたんだった。ごめん、()かないと」


「え……じゃあ、一緒(いっしょ)(あそ)べねーの?」


 レンは露骨(ろこつ)にしょんぼりとします。


「うん……だからさ、レンから(みんな)に、(おれ)()られなくなったって説明(せつめい)しておいてもらえないかな? レンにしか(たの)めないんだ、お(ねが)い」


「しょ、しょーがねーな……今回(こんかい)だけだぞ?」


 タカヤに()()()つめられて、レンは()ずかしそうに()()らしながら(うなず)きました。


 それを(よこ)から()ていたショースケは……


「ぼ! (ぼく)(ぼく)も!」


(なん)だよショースケ。まさかショースケまで(よう)があるとか()うんじゃねーだろうな?」


 ……(まさ)しくそう()いたかったのですが……レンはめちゃくちゃ(うたが)っているみたいです。


「どうせタカヤと一緒(いっしょ)()たいだけだろ。ほら、運動場(うんどうじょう)()くぞ」


()って()って(ちが)うんだ! えーっと……そう、トイレ!」


「トイレぇ?」


「うん! あの、すっごく時間(じかん)かかりそうな予感(よかん)がするからキックベース出来(でき)ないかも! も、()れそうだからもう()くね⁉」


 ショースケはバタバタと(はし)って、()(みち)(もど)って()きました。


「なんだアイツ。そういえば……今日(きょう)学校(がっこう)(やす)んだ洋平(ようへい)(ぶん)牛乳(ぎゅうにゅう)まで()んでたな。(はら)(こわ)したのか?」


「あ、あはは……そうかもな。じゃあ(おれ)()ってくるから。レン、ショースケの(ぶん)伝達(でんたつ)(たの)むな」


 タカヤはこれ以上(いじょう)(あや)しまれることが()いよう、ショースケが()かった(ほう)とは(ぎゃく)方向(ほうこう)にある階段(かいだん)(のぼ)って()きました。



****



 ポスエッグのテレパシーを使(つか)って()(かい)()()ったタカヤとショースケは、(からだ)にキラキラ()をかけてから外庭(そとにわ)へと()かいます。


「あ! タカヤ隊員(たいいん)、ショースケ隊員(たいいん)……よかった(もど)ってきてくれたんですねー! ぐへへ……また()えて(うれ)しいですー」


 ()()ET(いーてぃー)(みじか)(ろっ)(ぽん)(あし)()らして、()きながらもニヤニヤ(わら)っています。


(もど)って()てくれたじゃ()いでしょ! (なん)でここにいるの⁉ (まえ)散々(さんざん)もう()たらダメだって()ったじゃん!」


 ショースケがぷんぷん(おこ)って(ゆび)をさした(さき)ET(いーてぃー)……ローナグ星人(せいじん)は、(ちょう)()くほどの宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)マニアでその(あい)のあまり、数ヶ月前(すうかげつまえ)ここ(とき)()()小学校(しょうがっこう)男子(だんし)トイレに(しの)()んで(さわ)ぎを()こした張本人(ちょうほんにん)です。


「そもそも(きみ)! あまりにも宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)(たい)する問題(もんだい)行動(こうどう)()ぎるってことで、この(まち)()ちゃダメって()われたんじゃなかったの⁉」


「た、(たし)かに特急(とっきゅう)こすもに()ったらダメって()われたんで……今回(こんかい)はちゃんと、レンタルUFO(ゆーふぉー)でここに()ましたよ! ふふ……出費(しゅっぴ)(いた)かったですけどね……」


 特急(とっきゅう)こすもは(ほか)交通(こうつう)手段(しゅだん)(くら)べて、圧倒(あっとう)(てき)にお(やす)地球(ちきゅう)()ることが出来(でき)ます。


(なに)それ! うぅ……(はや)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)にはUFO(ゆーふぉー)やワープ装置(そうち)での移動(いどう)()()まれるようになって()しいよ……」


 (にが)(かお)をするショースケを()ながら、ローナグ星人(せいじん)(うれ)しそうに(なが)(からだ)()っていましたが……途端(とたん)(おも)()したように(あせ)(はじ)めました。


「って、それどころじゃないんですー! ボクの遠隔(えんかく)操作(そうさ)カメラが大変(たいへん)なんです!」


遠隔(えんかく)操作(そうさ)カメラって……学校(がっこう)(まわ)りを()んでいたあれですか?」


「え、タカヤ()ってるの?」


 ショースケはそんなこと一言(ひとこと)()いていません。


「うん、廊下(ろうか)(がわ)(まど)から()える(そら)()んでたんだよ。ちゃんとキラキラ()使(つか)ってるみたいだったし、ET(いーてぃー)さんたちの観光(かんこう)道具(どうぐ)だと(おも)ってショースケにも()ってなかったんだけど……あなたのだったんですね」


「そうです! 学校(がっこう)でのお二人(ふたり)様子(ようす)盗撮(とうさつ)してコレクション……じゃなくて、地球(ちきゅう)勉強(べんきょう)一環(いっかん)としてデータを(あつ)めていたんです!」


「ねぇタカヤ、(いま)この(ひと)盗撮(とうさつ)って()ったよ⁉ もうやだー! 本部(ほんぶ)にはもっと(きび)しく()()まってって()っておくからね!」


 ……とりあえず(はなし)(つづ)きを()きましょう。


「それで、どうして大変(たいへん)なんですか?」


(じつ)遠隔(えんかく)操作(そうさ)カメラのリモコンを()くしてしまったんです。しかも、そのリモコンが(だれ)かにめちゃくちゃに操作(そうさ)されてしまったみたいで……ボクの遠隔(えんかく)操作(そうさ)カメラが暴走(ぼうそう)しているんですー! ほら、あれ!」


 ローナグ星人(せいじん)(なが)(はな)(とお)くの(そら)()しました。


 (くも)った薄暗(うすぐら)(そら)を、サッカーボールくらいの(おお)きさのドローンのような機械(きかい)が、それはそれは結構(けっこう)なスピードで()んでいます。


「わ! (なに)あれ……どうやったら()まるの?」


「リモコンを()つけ()して、(うし)ろに()いている(あか)いボタンを()せば()まると(おも)います。停止(ていし)のためのパスワードは設定(せってい)していませんから。それで、その……リモコンの場所(ばしょ)なんですけど……」


 たくさん()いた(ちい)さな()をパチパチさせながら、ローナグ星人(せいじん)はチラチラとショースケの(ほう)()ます。


「……(なに)、まさか……また学校(がっこう)侵入(しんにゅう)して、学校(がっこう)(なか)()としましたーなんて()わないよね?」


「そ、そのまさかです……しかもリモコンにはキラキラ()をかけるの(わす)れてましたー……」


「はい⁉」


「わーすみませんすみません! どうしてもカメラ()しじゃなくて、この()でお二人(ふたり)のことが()たくなってー! まぁ結局(けっきょく)……()()こうと(おも)ったら地球(ちきゅう)(じん)にぶつかっちゃって、(あわ)てて()げたんですけどね」


「はぃいいい⁉ ちょっと(きみ)(なに)してんの⁉」


大丈夫(だいじょうぶ)です! ボク自身(じしん)にはキラキラ()使(つか)っていましたから()えていません! そ、それに()こうが(わる)いんです。ボクは()けようとしたけど、相手(あいて)全然(ぜんぜん)(まえ)()てなかったみたいでぶつかって()られたんですー!」


「ダメって()ってたのに侵入(しんにゅう)した(きみ)(わる)いに()まってるでしょ! ど、どどどうしようタカヤ! 大変(たいへん)なことになってるよ!」


「ああ、そうみたいだな。まずは(いそ)いでそのリモコンを(さが)そう」


 タカヤが(ひとみ)(ひか)らせてコスモピースの(ちから)使(つか)おうとするので……ショースケは大慌(おおあわ)てで、ポケットの(なか)のエッグロケットを(にぎ)ってテレパシーを(おく)ります。


()った()った! 使(つか)っちゃダメだよ、この(あいだ)あんなことになったの(わす)れたの⁉)


(あはは、大丈夫(だいじょうぶ)だよ。最近(さいきん)調子(ちょうし)いいんだ)


(お(ねが)いだからやめて⁉ (ぼく)本当(ほんとう)にトラウマなんだから!)


(そこまで()うなら……でも、それならどうやってリモコンを()つけ()すんだ?)


(う、それは……(ぼく)探知機(たんちき)使(つか)ってみるとか?)


 二人(ふたり)(かんが)えていると……突然(とつぜん)(とお)くの(そら)()かんでいた遠隔(えんかく)操作(そうさ)カメラがスピードを()げて、こちらの方向(ほうこう)()んでくるではありませんか!


 そして遠隔(えんかく)操作(そうさ)カメラはそのまま、小学校(しょうがっこう)運動場(うんどうじょう)へと(はい)って()きます。


「まずい! (だれ)かにぶつかったりしたら大変(たいへん)だ、ショースケ()くぞ!」


 タカヤとショースケは全速力(ぜんそくりょく)外庭(そとにわ)(あと)にしました。



****



 (ひろ)運動場(うんどうじょう)ではたくさんの生徒(せいと)たちが(たの)しそうに(あそ)んでいます。


遠隔(えんかく)操作(そうさ)カメラは……あった、あそこだ!」


 タカヤが(ゆび)をさした(さき)(そら)は……ちょうどクラスメイトたちがキックベースをしている真上(まうえ)です。


「うわ、結構(けっこう)(ちか)いところ()んでる……もう(あめ)()()しそうだし、みんなに(こえ)をかけて運動場(うんどうじょう)から(はな)れてもらった(ほう)がいいね!」


 ショースケはエッグロケットを操作(そうさ)すると、自分(じぶん)とタカヤの(からだ)専用(せんよう)(くすり)をかけて、キラキラ()()としました。


 さて、みんなに(こえ)をかけに()こうと運動場(うんどうじょう)一歩(いっぽ)()()した……その(とき)です。


 ()()()んでいたはずの遠隔(えんかく)操作(そうさ)カメラは、なんと(きゅう)進行(しんこう)方向(ほうこう)をグルリと()えて……あろうことか(した)()かって()(はじ)めました!


 その軌道(きどう)(さき)にいるのは……


「ショースケ! ごめん、(あと)(たの)む!」


 タカヤは(ひとみ)(かがや)かせてコスモピースの(ちから)瞬時(しゅんじ)発動(はつどう)させると、()にも()まらぬ(はや)さで()()します。


 そのままファーストベースを(まも)っているレンのもとまで()くと、その(からだ)をぎゅっと()()せて……遠隔(えんかく)操作(そうさ)カメラはその(よこ)をギリギリ(かす)めた(あと)今度(こんど)(やま)(ほう)へと()んで()きました。


「……へ? タ、タカヤ⁉ どどどうしたんだよ!」


 突如(とつじょ)(あらわ)れたタカヤに、レンはもう(だい)パニックです!


 タカヤはすぐにコスモピースの(ちから)()くと、(こま)ったように(わら)って()せました。


「あはは、えーっと……」


「あれ、タカヤ(なん)でそんなところにいるの? さっきまで()なかったよね?」


 セカンドベースに()っているカズも(おお)きく(くび)(かし)げます。


 (まわ)りにいるクラスメイトたちもザワザワと(さわ)(はじ)めました……(いそ)がなくては!


 ショースケは(あわ)ててエッグロケットからクラッカーのようなものを()()して、そこに()いた(ひも)(おも)()()()りました。


 (おお)きな(おお)きなパーンッという(おと)が、運動場(うんどうじょう)(じゅう)(ひび)きます。


 生徒(せいと)たちが(みな)、その(おと)()()られている(あいだ)に……ショースケはお(なか)から(こえ)()()げて(さけ)びました!


「わー! ()んできたボールがレンに()たりそうになってたんだよー! 偶然(ぐうぜん)(とお)りかかったタカヤが(たす)けてくれて()かったねー!」


 (こえ)()()ぎでショースケはゲホゲホと()せてしまいましたが……多分(たぶん)これで大丈夫(だいじょうぶ)なはずです。


 ……ショースケの言葉(ことば)()いたカズは、ニコーッと(わら)いました。


「そっか! そうだったねショースケ!」



 ()らしたクラッカーは、ショースケの最新(さいしん)発明品(はつめいひん)です。


 (おと)()いた(ひと)たちの、(おと)()(まえ)数秒(すうびょう)(かん)記憶(きおく)()()えることが出来(でき)仕組(しく)みになっており、つい先日(せんじつ)タカヤに自慢(じまん)しまくったばかりです。



 なんとか上手(うま)くいったようで……ショースケはその()にペタリと(すわ)()みました。


「な、なぁタカヤ? それはわかったけど……いつまで、その……」


 まだタカヤに()きしめられているレンは、(みみ)まで()()にして爆発(ばくはつ)寸前(すんぜん)です。


「あっ、ごめん。レンに怪我(けが)()くてよかったよ」


 タカヤはさわやかに振舞(ふるま)ってレンを(はな)すと、(そら)から一滴(いってき)、ポタリと(あめ)()ちてきたのを見上(みあ)げました。


(おれ)まだ用事(ようじ)途中(とちゅう)だから()くな。みんなも(あめ)()()したから教室(きょうしつ)(もど)った(ほう)がいいよ、それじゃあまた!」


 そう()って、校舎(こうしゃ)へと()かって(はし)って()きます。


「あ……ぼ、(ぼく)もまだお(なか)(いた)いから! それじゃあねー!」


 ショースケもそれを()うため、クラスメイトたちにブンブン()()りました。



****



「もうタカヤ無茶(むちゃ)()ぎだよ! (ぼく)がなんとか誤魔化(ごまか)せなかったらどうするつもりだったの⁉」


 ぷりぷり(ちい)さく文句(もんく)()いながら、ショースケはタカヤに()いていきます。


「ごめんごめん。でもショースケなら、この(あいだ)()せてくれた発明品(はつめいひん)使(つか)って(なん)とかしてくれると(おも)ったんだよ。ありがとう」


「な……(なに)それー! もー、しょうがないなー。やっぱり(ぼく)がいなくちゃダメだねー!」


 (なん)だかすごく(たよ)られている()がしたショースケはもうニヤニヤが()まりません。


「ところで、(ぼく)たちどこへ()かってるの?」


(よん)(かい)(はし)っこ、図工室(ずこうしつ)(まえ)だよ」


「え? (なん)で?」


「そこにローナグ星人(せいじん)さんのリモコンがあるって……えーっと、さっきコスモピースの(ちから)使(つか)ったときに、ついでに……調(しら)べて……」


 ……(となり)のショースケからもの(すご)(あつ)(かん)じるので、タカヤはわざと(ぎゃく)方向(ほうこう)(まど)(そと)()ながら(はなし)(つづ)けます。


「ほ、ほら! (ちから)使(つか)っても大丈夫(だいじょうぶ)だっただろ? そんなに()にしなくても……」


今回(こんかい)は、大丈夫(だいじょうぶ)だっただけでしょ⁉ 大体(だいたい)タカヤ、コンビ()んですぐの(ころ)はコスモピースの(ちから)はあんまり使(つか)わないって()ってたくせに、最近(さいきん)(なん)でも使(つか)いすぎじゃない? またあんなことになったらどうするの⁉」


「だって使(つか)った(ほう)便利(べんり)だろ? それに(おれ)一人(ひとり)でやってる特級(とっきゅう)仕事(しごと)のときは普通(ふつう)使(つか)ってるし。(なん)とも()いよ?」


(なん)ともあったから()ってるんでしょ⁉ もー……特級(とっきゅう)仕事(しごと)のときは仕方(しかた)ないのかもだけど、(ぼく)()るときはもう使(つか)ったらダメだからね!」


「んー……出来(でき)るだけ頑張(がんば)るよ」


 あの()(おも)()してちょっと()きそうなショースケの(よこ)で、タカヤはいつもより(すこ)し、(もう)(わけ)なさそうに()(ほそ)めました。




 (よん)(かい)まで階段(かいだん)()がって、人通(ひとどお)りの()(しず)かな廊下(ろうか)(かど)()がると……


「ん? ()て、タカヤ。(だれ)かいるみたい……ってあれ? あれって……」


 廊下(ろうか)一番(いちばん)(はし)技術室(ぎじゅつしつ)(まえ)には……(ちい)さく体育(たいいく)(ずわ)りをしているミオがいました。


「……やっぱりコントローラーを実際(じっさい)操作(そうさ)してると()いアイデアが()かんで()るねー。(だれ)のか()らないけど、(あと)でちゃんと(かえ)せば大丈夫(だいじょうぶ)だよね……えーっと、(しょう)ジャンプからの……」


 ……ここからはよく()こえませんが、(なに)かを(さわ)りながらブツブツ(しゃべ)っているようです。


「ミオー? そこで(なに)してんのー?」


 ショースケが(おお)きな(こえ)()びかけると、ミオはビクッと(おお)きく(からだ)(ふる)わせて、(なに)かを背中(せなか)(うし)ろに(かく)しました。


「あ、あれー? ショースケとタカヤじゃん、偶然(ぐうぜん)だねー……」


「ミオ、(いま)(なに)(かく)した? ()せて()せてー!」


 そう()ってショースケが背中(せなか)(がわ)(のぞ)()んだため、ミオは咄嗟(とっさ)(かく)した(もの)をお(なか)(がわ)(まわ)しましたが……当然(とうぜん)(まえ)にいるタカヤからは丸見(まるみ)えになってしまいました。


 もちろん(かく)していたのはコントローラー……もとい、ローナグ星人(せいじん)()とし(もの)であるリモコンです。


「こ、このコントローラーはおれのじゃなくてー……その、()ちてたからちょっと出来心(できごころ)()りちゃったんだよー。(あと)(もと)場所(ばしょ)(もど)すからさ、先生(せんせい)やみんなには()わないでくれない?」


 ミオは()(せん)をキョロキョロさせて、一生懸命(いっしょうけんめい)()(わけ)(さが)しているようです。


「なぁミオ。それ、(おれ)にもちょっと(さわ)らせてくれないか?」


「え、いいけどー……タカヤがこういうのに興味(きょうみ)()つなんて(めずら)しいねー」


 リモコンをミオから()()ったタカヤは、すぐにそれを裏向(うらむ)けて……()(なか)にある(あか)いボタンを()しました。


 これで暴走(ぼうそう)していた遠隔(えんかく)操作(そうさ)カメラはとりあえず()まるはず……だったのですが!


 ピーピーピーピー!


 突然(とつぜん)、リモコンから警報音(けいほうおん)()(はじ)めました。


「わわっ、なになに⁉」


 ショースケは(おと)()(ひび)くリモコンをタカヤから()()って、(すこ)しでも(おと)(ちい)さくしようと()ている制服(せいふく)のポロシャツで(つつ)みます。


「こんな(おと)してたら先生(せんせい)()ちゃう! (はや)()めなきゃ!」


 何度(なんど)(あか)いボタンを()してみますが……(おと)()まる気配(けはい)がありません。


 すると、リモコンから宇宙(うちゅう)公用語(こうようご)音声(おんせい)()こえました。


遠隔(えんかく)操作(そうさ)カメラの運転(うんてん)停止(ていし)するにはパスワードが必要(ひつよう)です。パスワードを入力(にゅうりょく)してください』


 さあ(こま)りました、ローナグ星人(せいじん)さんはパスワードは設定(せってい)していないと()ってたのに!


 タカヤとショースケがオロオロしていると、ミオが(くち)(ひら)きました。


「あ、またその(おと)だ。なんかニョロニョルーンみたいな(おと)たまに()るよねー」


 ……宇宙(うちゅう)公用語(こうようご)がわからないミオには、『パスワード』の部分(ぶぶん)がそう()こえるようです。


「ミオ、この(おと)()いたことあるのか?」


「うん、あるよー? おれがそれを(ひろ)ったときに()ってたんだよー、なんかこう……ニョロニュルーンニョニョ、みたいな(かん)じで。あ、あと……おれがいくつかボタンを()した(あと)()ってたかな? その(とき)は、パッポニョロニュルーンみたいな……(なん)(へん)(おと)だったから(おぼ)えてるよー」


 警報音(けいほうおん)はまだ()(つづ)けており、(こころ)なしか階段(かいだん)(した)(さわ)がしくなって()()がします。


「ね! ねぇミオ! その(とき)、どのボタンを()したの? ちょっと(いま)(おな)じボタンを()してみてくれない⁉」


 ショースケはミオに、お(なか)(した)()れていたリモコンを()()けました。


「え、(なん)でー?」


「そ……それを入力(にゅうりょく)すれば、(おと)()まる()がするから! (はや)く!」


 おそらく……ミオの()いた一回(いっかい)()(おと)は『パスワードを設定(せってい)してください』、()回目(かいめ)(おと)は『パスワードの設定(せってい)完了(かんりょう)しました』です!


「え、えー……? (なん)()したっけ? えーっと……」


 ミオがカチカチとボタンを()すと……警報音(けいほうおん)一段(いちだん)(おお)きくなりました。


『パスワードが(ちが)います』


「ショースケー? なんかうるさくなったよー?」


(ちが)うみたい! (べつ)入力(にゅうりょく)して!」


「えー?」


 またミオがカチカチとボタンを()して……するとまた警報音(けいほうおん)(おお)きくなります。


『パスワードが(ちが)います』


「またうるさくなったー! おれ、どこ()したっけー⁉ うーんと、うーんと……」


 ……(だれ)かが階段(かいだん)(のぼ)って()足音(あしおと)()こえました。


 ショースケはズボンの(なか)のエッグロケットを(にぎ)って、テレパシーを(おく)ります。


(タカヤ! まずいよ、(ひと)()る! 一旦(いったん)ミオにもキラキラ()をかけて()えなくして、(あと)本部(ほんぶ)にミオの記憶(きおく)(なん)とかしてもらおうよ!)


仕方(しかた)ないか……これ以上(いじょう)地球(ちきゅう)(がい)物質(ぶっしつ)(かか)わる(ひと)()やす(わけ)にはいかないもんな)


「なぁミオ、ちょっとだけ(した)()いててもらえるか? この(こな)()()ぎると()くないから」


 タカヤがキラキラ()使(つか)うため、ポケットからエッグロケットを()りだそうとした……その(とき)


(した)、した……? あぁーっ!」


 ミオは途端(とたん)にガチャガチャとリモコンを操作(そうさ)(はじ)めます。


(おも)()した! (した)Aからの(うえ)B、間合(まあ)調整(ちょうせい)して(うえ)Yからのスペシャルスマッシュだ!」


 ()にも()まらぬ高速(こうそく)(うご)いてたミオの(ゆび)()まると……


『パスワードが入力(にゅうりょく)されました。遠隔(えんかく)操作(そうさ)カメラの運転(うんてん)停止(ていし)します』


 ()(ひび)いていた(おお)きな警報音(けいほうおん)はピタッと()まって、(した)(かい)生徒(せいと)(わら)(ごえ)()こえるほど周囲(しゅうい)(しず)まりかえりました。


 そこへちょうど、廊下(ろうか)(さき)からタカヤたちの担任(たんにん)である(こと)()先生(せんせい)がやって()ます。


(きみ)たちか。(なん)かすごい(おと)がしてたから()たんだけど、どうかした?」


 ……ショースケとミオが(あわ)ててリモコンを(かく)そうと背中(せなか)()けている(あいだ)に、タカヤが一歩(いっぽ)(まえ)()て、ポケットから防犯(ぼうはん)ブザーを()()しました。


「ごめんなさい、(おれ)防犯(ぼうはん)ブザーが間違(まちが)えて()っちゃって。お(さわ)がせしました」


「ああ、そういうこと! びっくりしたよ……そうだ、もうすぐチャイムが()るから掃除(そうじ)場所(ばしょ)移動(いどう)しなよー」


 琴子(ことこ)先生(せんせい)三人(さんにん)(あか)るく(わら)いかけると、階段(かいだん)()りて()きました。




「よ、よかった……(たす)かったよタカヤ。没収(ぼっしゅう)されちゃうかと(おも)った……」


 ショースケはまた()ているポロシャツの(した)にリモコンを(かく)したようで、お(なか)(あた)りを(ふく)らませたまま(いき)()きました。


本当(ほんとう)ありがとうー。おれのせいで、コントローラーの()(ぬし)であるゲーム()きの同士(どうし)(こま)っちゃったらどうしようかと(おも)ったー……やっぱりどれだけ(なや)んでても、他人(ひと)のを勝手(かって)使(つか)ったらダメだねー。反省(はんせい)したよ」


 ミオがちょっと()ずかしそうに(ほお)()くのを()て、タカヤは安心(あんしん)したように(わら)います。


「あはは、(なん)とかなってよかったよ」


「ところでタカヤー。おれさー、よく()いてなかったんだけど……なんか途中(とちゅう)(こな)とか()ってなかったー?」


「え⁉ き、()間違(まちが)いだろ! さぁ、掃除(そうじ)()かないとだな!」


 タイミング()く、昼休(ひるやす)終了(しゅうりょう)のチャイムが(なが)(はじ)めました。


「あ、本当(ほんとう)だー。おれ掃除(そうじ)場所(ばしょ)(よん)(かい)音楽室(おんがくしつ)だからこのまま()くよー。そうだ、タカヤとショースケって一階(いっかい)理科室(りかしつ)掃除(そうじ)だよねー?」


 ミオは(ふく)らんだショースケのお(なか)(あた)りを(ゆび)さします。


「そのコントローラーさ、()(かい)のトイレの(した)(たな)にでも(かく)しておいてよ。()(ぬし)(さが)してるだろうしー」


 (ふく)(した)からリモコンを()()したショースケが(おお)きく()(かい)(うなず)くと、ミオは(うれ)しそうにへにゃっと(わら)いました。


(たの)んだよー。じゃあおれ()ってくるねー!」


 (すこ)しすっきりした表情(ひょうじょう)のミオが廊下(ろうか)(さき)()えるのを見送(みおく)ってから……タカヤとショースケは(かお)見合(みあ)わせてニヤリと(わら)います。


 そしてエッグロケットを操作(そうさ)してキラキラ()(かぶ)ると、外庭(そとにわ)へと(いそ)ぐのでした。



****



「ただいま」


 大雨(おおあめ)(なか)学校(がっこう)から(かえ)ったタカヤは(しずく)(したた)(かさ)玄関(げんかん)()した(あと)、リビングへと(はい)って()かりを()けます。


「オカエリー タカヤ オカエリー!」


 ()(かい)()たらしいツバサは、(せわ)しなく(よん)(ほん)(あし)(うご)かしてタカヤに(ちか)づくと、その足下(あしもと)をくるくる(まわ)(はじ)めました。


「タカヤ、キョウモ ヤクソク シタ トオリ コスモピース ノ チカラ ツカワナカッタ?」


「……うーんと」


 タカヤが返事(へんじ)(こま)っていると……ツバサは三本(さんぼん)触覚(しょっかく)でぺちぺちタカヤのふくらはぎを(たた)(はじ)めます。


「ツカッタ デショ! ボク モ ショースケ モ ダメッテ イッテルノニ!」


「あはは……今日(きょう)仕方(しかた)なかったんだって。大丈夫(だいじょうぶ)だよ、(なん)ともないだろ?」


「タカヤ キキカン ガ ナサスギル! ボク コマッチャウ!」


 ツバサに今度(こんど)はスネを(たた)かれながら、タカヤが部屋(へや)(なか)見渡(みわた)すと……固定(こてい)電話(でんわ)のランプが(ひか)っているのに()()きました。


 あの(いろ)(ひかり)は……宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)からです。


「ツバサ? (だれ)かから電話(でんわ)かかって()たか?」


「ソウイエバ ショウゾウ カラ ルスデン ガ ハイッテルヨ」


 ツバサはタカヤを(たた)くのを()めて電話(でんわ)(ほう)(ある)いて()くと、器用(きよう)触覚(しょっかく)()ばして、留守電(るすでん)再生(さいせい)ボタンを()しました。


 スピーカーから(しょう)(ぞう)(こえ)(なが)(はじ)めます。



『タカヤか。ワシじゃ……(つぎ)金曜日(きんようび)に、春子(はるこ)(じゅん)(いち)本部(ほんぶ)(もど)ってくる。その()に……お(まえ)にも()てもらいたい。学校(がっこう)()わり次第(しだい)(いそ)いで本部(ほんぶ)()てくれんか。以上(いじょう)じゃ』



「ワオワオ! ネェ タカヤ、ボク モ イキタイ! ボク、タカヤ ノ カアサン ト トウサン ニ アッタ コト ナイモノ!」


 ツバサが(うれ)しそうに触覚(しょっかく)()らして()びついて()たので、タカヤはそれを(やさ)しく()きとめました。


「あはは、(まえ)二人(ふたり)(かえ)ってきたときは『家族(かぞく)水入(みずい)らずで』ってお留守番(るすばん)しててくれたもんな」


「ソウ! ボク ガマン シタノニ、アトデ ショースケ モ エイギス モ アッタ ッテ キイテ モウ プンプン!」


「よしよし、ありがとなツバサ。(しょう)(ぞう)さんにツバサも()れて()っていいか()いとくよ」


「ワーイ! タカヤ ダイスキー!」


 タカヤの(うで)(なか)(あたま)(やさ)しく()でられて、ツバサは大変(たいへん)満悦(まんえつ)です。


「でも……一体(いったい)(なん)(はなし)だろう」


 そう(かんが)えた(とき)……何故(なぜ)でしょう、タカヤの背中(せなか)にゾクリと悪寒(おかん)(はし)りました。


「タカヤー? ドウシタノー?」


「……いや、(なん)でも()い。ツバサ、今日(きょう)はこの(あと)用事(ようじ)()いから一緒(いっしょ)(あそ)ぼうか」


 ()のせいだと自分(じぶん)()()かせて、ツバサを()いたままタカヤはソファに(すわ)ります。


「ワーイ! ジャア カクレンボ シヨー?」


「あはは、ツバサかくれんぼ()きだよな。いいよ、じゃあ(じゅう)(びょう)(かぞ)えるな……いーち、にー」




 (まど)(そと)から()こえる(つよ)(あめ)(おと)()けないように……自分(じぶん)(なか)芽生(めば)えた(いや)予感(よかん)が、これ以上(いじょう)(ふく)()がらないように……タカヤはわざと、かき()すように(おお)きな(こえ)()すのでした。 


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