↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
27/34

第二十三話 今度こそ、二人で②

****


 金色(きんいろ)の草(くさ)の生(は)えたエリアを抜(ぬ)けた先(さき)は…先(さき)ほどまでと同様(どうよう)、砂(すな)混(ま)じりの強風(きょうふう)が吹(ふ)くゴツゴツした赤褐色(せきかっしょく)の岩(いわ)場(ば)でした。


 地面(じめん)にはあちこちに深(ふか)い亀裂(きれつ)が入(はい)っていて…うっかり落(お)ちたら、大変(たいへん)なことになってしまうのは明白(めいはく)でしょう。


どうやら先(さき)ほどまでの金色(きんいろ)の泉(いずみ)の周辺(しゅうへん)は、砂漠(さばく)の中(なか)のオアシスのような珍(めずら)しい場所(ばしょ)だったようです。


「うぅ…すごい風(かぜ)…」


 薄(うす)ピンクの小(ちい)さな生(い)き物(もの)が飛(と)ばされないようにギュッと抱(だ)いて、ショースケは前(まえ)へ進(すす)んでいきます。


 この辺(あた)りは超(ちょう)危険(きけん)なモンスター、オンガイルゴンの生息地(せいそくち)でもありますが…それについてはショースケには秘策(ひさく)があります。


 エッグロケットの奥(おく)の奥(おく)に手(て)を突(つ)っ込(こ)んで、ショースケは緑色(みどりいろ)のリボンが付(つ)いた白(しろ)い小(こ)袋(ぶくろ)を取(と)り出(だ)しました。


 これはあの日(ひ)、スイと二人(ふたり)でオンガイルゴンに襲(おそ)われたとき、ふいに空(そら)から降(ふ)ってきて二人(ふたり)を助(たす)けてくれた謎(なぞ)の小(こ)袋(ぶくろ)です。


 どうやらオンガイルゴンは、この袋(ふくろ)から出(で)ている成分(せいぶん)を感知(かんち)すると、まるでマタタビを吸(す)ったネコのようになってしまうようで…これさえあればきっと、いや…多分(たぶん)、襲(おそ)われることは無(な)いんじゃないかとショースケは思(おも)っているわけです。


「みゅーみゅーみゅー」


「わ、どうしたの急(きゅう)に鳴(な)いて…これが気(き)になるの? ダメだよ、大事(だいじ)なものだから!」


 小(ちい)さな生(い)き物(もの)が小(こ)袋(ぶくろ)目掛(めが)けて、ショースケの腕(うで)の中(なか)から出(で)ようと暴(あば)れるので、落(お)ちないようにもう一度(いちど)ギュッと抱(だ)きしめます。


「うーん、それにしても親(おや)らしき生(い)き物(もの)も見当(みあ)たらないなぁ…風(かぜ)も強(つよ)まってきたし、この辺(あた)りが限界(げんかい)かも。でも…」


「みゅー?」


「君(きみ)をここに置(お)いていったら、あのオンガイルゴンにやられちゃうかもだもんね。君(きみ)とってもやわらかそうだし…固(かた)いオンガイルゴンに襲(おそ)われたら一溜(ひとた)まりもなさそうだもの」


「みゅーん?」


 小(ちい)さな生(い)き物(もの)は笑(わら)って、ショースケの手(て)に擦(す)り寄(よ)りました。


「ふふ、何(なん)にもわかってないみたいだね。それにしても…可愛(かわい)いなぁ。そうだ! このまま親(おや)が見(み)つからなかったら、いっそ本部(ほんぶ)に連(つ)れて帰(かえ)っちゃおうかな?」


「みゅみゅみゅ?」


「うん、それがいいね! そうしよう!」


 ショースケが小(ちい)さな生(い)き物(もの)に頬(ほお)ずりして、あと少(すこ)しだけ進(すす)もうと前(まえ)を向(む)くと…



 突然(とつぜん)、ズシンズシンと大(おお)きな足音(あしおと)が聞(き)こえてきました。


 砂嵐(すなあらし)で視界(しかい)が霞(かす)んでよく見(み)えませんが…何(なに)やら大(おお)きな生(い)き物(もの)の大群(たいぐん)が近(ちか)づいているようです。


 この辺(あた)りに生息(せいそく)している大(おお)きな生(い)き物(もの)と言(い)ったら…


「オォオオオオオオオオン!」


 濃(こ)いピンク色(いろ)のブツブツした肌(はだ)、太(ふと)い手足(てあし)に生(は)えた黒(くろ)くて恐(おそ)ろしいほど長(なが)い爪(つめ)…そう、オンガイルゴンの大群(たいぐん)です!


「うわぁあああああああっ⁉ えーと、えーと!」


 蘇(よみがえ)るトラウマを必死(ひっし)に飲(の)み込(こ)んで、ショースケは緑(みどり)のリボンの付(つ)いた小(こ)袋(ぶくろ)を掴(つか)んでオンガイルゴンに向(む)けました。


 …オンガイルゴンたちは少(すこ)しずつショースケに近(ちか)づいて来(き)ます。


 小(こ)袋(ぶくろ)を持(も)つ手(て)はブルブル震(ふる)えて、今(いま)にも零(こぼ)れそうな涙(なみだ)をぐっと堪(こら)えて…それでも、もう一方(いっぽう)の手(て)で小(ちい)さな生(い)き物(もの)をギュッと抱(だ)きしめたまま、ショースケは前(まえ)を見据(みす)えていました。


 すると…


「オォオオォン…」


 オンガイルゴンたちは皆(みな)、突然(とつぜん)その場(ば)にゴロゴロと寝転(ねころ)がり地面(じめん)に擦(す)り寄(よ)り…まるで酔(よ)っ払(ぱら)ったようになってしまいました。


 ショースケはガクガク震(ふる)える膝(ひざ)を折(お)って、その場(ば)にお尻(しり)を付(つ)けてぺたんと座(すわ)り込(こ)みます。


「うぅううう…よ、よかったぁ…効(き)かなかったらどうしようかと思(おも)った…」


 力(ちから)が抜(ぬ)けて、手(て)の力(ちから)が緩(ゆる)んでしまい…抱(だ)いていた小(ちい)さな生(い)き物(もの)が地面(じめん)にぽとりと落(お)ちてしまいました。


「あ。ごめんごめん…君(きみ)にも怪我(けが)が無(な)くてよかったって…あれ?」


 …小(ちい)さな生(い)き物(もの)は目(め)の前(まえ)のオンガイルゴンたちと同(おな)じように、体(からだ)を地面(じめん)に擦(す)り付(つ)けてゴロゴロ転(ころ)がり始(はじ)めます。


「その動(うご)き…え、え? 君(きみ)ってもしかして…」


 ショースケは大(おお)きなオンガイルゴンと小(ちい)さな生(い)き物(もの)を交互(こうご)に何度(なんど)も見(み)て…


「…オンガイルゴンの子(こ)ども⁉」


「みゅーん」


 嬉(うれ)しそうに鳴(な)いている小(ちい)さな生(い)き物(もの)を抱(だ)き上(あ)げて、ショースケはその体(からだ)をジロジロと観察(かんさつ)します。


「え、え⁉ 体(からだ)の色(いろ)も違(ちが)うし、爪(つめ)だって…そもそも手足(てあし)だって無(な)いのに⁉ こんなにやわらかくてまん丸(まる)なのに⁉」


 どう見(み)ても信(しん)じられませんが…あの小(こ)袋(ぶくろ)がオンガイルゴン以外(いがい)の生物(せいぶつ)にも効(き)く、という可能(かのう)性(せい)もありますが…確認(かくにん)してみるしかありません。


「あのー…もしかしてこの子(こ)、君(きみ)たちの子(こ)ども?」


 ショースケは恐(おそ)る恐(おそ)る、オンガイルゴンたちに小(ちい)さな生(い)き物(もの)を差(さ)し出(だ)してみるものの…オンガイルゴンたちは小(こ)袋(ぶくろ)の効果(こうか)で、それどころでは無(な)いようです。


 バクバクと鳴(な)る心臓(しんぞう)を抑(おさ)えながら…ショースケは小(こ)袋(ぶくろ)をエッグロケットの中(なか)に仕舞(しま)ってみました。


 するとオンガイルゴンたちは、徐々(じょじょ)に正気(しょうき)を取(と)り戻(もど)して立(た)ち上(あ)がって来(き)ます。


「あ、あのぉ…」


 …オンガイルゴンたちが一斉(いっせい)に、ギロリとショースケを睨(にら)みます。


「こ! この子(こ)…君(きみ)たちの子(こ)⁉」


 震(ふる)える手(て)で、ショースケは今一度(いまいちど)、小(ちい)さな生(い)き物(もの)を差(さ)し出(だ)しました。


「みゅーん」


 小(ちい)さな生(い)き物(もの)が、そう一声(ひとこえ)鳴(な)くと…


「オォオオン」


 一体(いったい)のオンガイルゴンがゆっくりと近(ちか)づいてきて…小(ちい)さな生(い)き物(もの)に愛(いと)おしそうに顔(かお)をくっつけたではありませんか。


「みゅーん!」


「オーン」


 オンガイルゴンは優(やさ)しい声(こえ)で鳴(な)くと、小(ちい)さな生(い)き物(もの)のやわらかい肌(はだ)を咥(くわ)えて持(も)ち上(あ)げました。


 …そうこうしている間(あいだ)にオンガイルゴンとの距離(きょり)は三十(さんじゅっ)センチも無(な)くなっていますので…ショースケはもう口(くち)からいろいろ出(で)そうなほどドキドキですが、なんとか平静(へいせい)を装(よそお)ってみせます。


「や、やっぱり君(きみ)たちの子(こ)だったんだね…! じゃ! じゃあ僕(ぼく)帰(かえ)るね!」


 オンガイルゴンたちに背(せ)を向(む)けて、ショースケは一目散(いちもくさん)に走(はし)り始(はじ)めました!


 …後(うし)ろでやけにオンガイルゴンたちが大(おお)きく鳴(な)いていますが、ショースケはそれに構(かま)っている場合(ばあい)ではありません。


(いつ気(き)が変(か)わって僕(ぼく)を追(お)ってくるかわかんないもの! 早(はや)く逃(に)げないと!)


 ろくに前(まえ)も見(み)ずに必死(ひっし)に足(あし)を動(うご)かしていた、その時(とき)。



 突然(とつぜん)、大(おお)きなオンガイルゴンたちも体勢(たいせい)を崩(くず)す程(ほど)の強風(きょうふう)が吹(ふ)きました。


 軽(かる)いショースケの体(からだ)は、足(あし)を取(と)られてふわりと浮(う)かび上(あ)がり…


「わ、わわっ⁉」


 そのまま数(すう)メートル吹(ふ)き飛(と)ばされて、その先(さき)は…




「いったたた…一応(いちおう)、無事(ぶじ)、みたいだね…」


 あちこちが痛(いた)む体(からだ)を摩(さす)りながら、ショースケは遠(とお)くに見(み)える空(そら)を見上(みあ)げます。


 …どうやら、地面(じめん)に入(はい)っていた大(おお)きな亀裂(きれつ)の中(なか)に落(お)ちてしまったみたいです。


 岩壁(いわかべ)同士(どうし)の隙間(すきま)が少(すこ)し細(ほそ)くなっている部分(ぶぶん)で、ショースケの体(からだ)はなんとかギリギリ止(とど)まっているようで…


 びくびくしながら下(した)を見(み)てみると、底(そこ)が見(み)えないほど深(ふか)いのです…ショースケはゴクンと唾(つば)を飲(の)み込(こ)んで、もう一度(いちど)上(うえ)へと目(め)を向(む)けます。


「どうしよう、急(いそ)いでここから出(で)ないと…!」


 落(お)ちた深(ふか)さは三(さん)メートルほどでしょうか。


 ショースケはとりあえず登(のぼ)れないかと岩壁(いわかべ)を掴(つか)んでみますが…亀裂(きれつ)が入(はい)って脆(もろ)くなっているのでしょう、すぐにボロボロと崩(くず)れてしまいます。


 上(うえ)からは小(ちい)さな石(いし)や砂(すな)がまばらに降(ふ)ってきていて、この場所(ばしょ)もそう長(なが)くは持(も)ちそうにありません。


「そうだ! スカイボードを出(だ)して飛(と)べば…」


 ショースケはポケットに入(い)れていたエッグロケットに触(ふ)れましたが…はて、こんな脆(もろ)くて狭(せま)い隙間(すきま)でスカイボードのような大(おお)きなものを出(だ)してしまったら、恐(おそ)らく…?


 …その先(さき)は怖(こわ)いので、ショースケはそこで考(かんが)えるのを止(と)めました。


 細(ほそ)い亀裂(きれつ)の隙間(すきま)から赤(あか)い空(そら)を見上(みあ)げて、小(ちい)さく息(いき)を吐(つ)きます。


「…罰(ばち)が当(あ)たったのかな。嘘(うそ)ついてここまで来(き)たから」


 ショースケの近(ちか)くの岩壁(いわかべ)が、また一部(いちぶ)、パラリと崩(くず)れ落(お)ちました。



****



 タカヤが眠(ねむ)る特別(とくべつ)治療室(ちりょうしつ)の中(なか)では、もうずっとここに居(い)るヒカルが、うつらうつらと船(ふね)を漕(こ)ぎながら椅子(いす)に座(すわ)っていました。


 ドアが自動(じどう)で開(ひら)いて、冷(つめ)たい飲(の)み物(もの)を二(ふた)つ手(て)に持(も)ったライトが入(はい)ってきましたが…どうやらヒカルは眠(ねむ)っていて気(き)が付(つ)いていないようです。


「ヒカル君(くん)? 飲(の)み物(もの)持(も)ってきたよ…あれ、寝(ね)てるの」


 ライトは無理(むり)に起(お)こすこともせず、ヒカルの隣(となり)に腰掛(こしか)けると飲(の)み物(もの)の蓋(ふた)を一(ひと)つ開(あ)けて飲(の)み始(はじ)めました。


 …目(め)の前(まえ)の大(おお)きな透明(とうめい)なボールの中(なか)では、やっと人(ひと)の形(かたち)を取(と)り戻(もど)したタカヤが眠(ねむ)っています。


 嫌(いや)でもあの日々(ひび)を…どうやってもタカヤが目(め)を覚(さ)ますことが無(な)かったあの時間(じかん)を思(おも)い出(だ)してしまって、ライトは頭(あたま)を抱(かか)えました。


 …立(た)ち上(あ)がって、透明(とうめい)なボールにそっと手(て)を添(そ)えて。


「どうして君(きみ)は…いつもそんな無茶(むちゃ)をするんだ。どうしていつも…僕(ぼく)に何(なに)も言(い)ってくれないんだ」


 じわりと熱(あつ)くなる目頭(めがしら)を押(お)さえて、ライトは鼻(はな)を少(すこ)し啜(すす)ります。


「僕(ぼく)は君(きみ)が…タカヤ君(くん)が居(い)てくれるだけで十分(じゅうぶん)なのに」


「ん…んー?」


 …どうやらうたた寝(ね)をしていたヒカルが起(お)きたようなので、ライトは後(うし)ろを振(ふ)り返(かえ)りました。


「ヒカル君(くん)おはよう。疲(つか)れてるだろ? ここは僕(ぼく)が見(み)てるから部屋(へや)で休(やす)んで来(き)たら?」


「あ…ライトおに…あわわ、ライトさん! 来(き)てたんだ、ごめん気(き)が付(つ)かなかった」


 ヒカルはぼんやりした頭(あたま)を冷(さ)まそうと、首(くび)をプルプル振(ふ)ります。


「あ、飲(の)み物(もの)ありがとう! 俺(おれ)の好(す)きな味(あじ)だ、いただきます!」


「ふふ、昔(むかし)からヒカル君(くん)この味(あじ)好(す)きだよね。ところで…タカヤ君(くん)の様子(ようす)はどう?」


「うん、人(ひと)の形(かたち)に戻(もど)ってからは特(とく)に変化(へんか)は無(な)いよ…ってそれはそうか。それ以上(いじょう)の変化(へんか)があったら困(こま)るよね。本当(ほんとう)…助(たす)かってよかったよ」


 飲(の)み物(もの)を持(も)つ手(て)を震(ふる)わせながら、ヒカルはくたびれきった体(からだ)で笑(わら)いました。



 そこへ自動(じどう)ドアが開(ひら)いて、これまた飲(の)み物(もの)を持(も)ったエイギスと、手(て)ぶらの肖(しょう)造(ぞう)が入(はい)ってきました。


「ヒカル? ヒカルの好(す)きな味(あじ)の飲(の)み物(もの)を買(か)ってきたわ…あら、もしかして被(かぶ)っちゃった?」


 ライトが買(か)ってきたものと全(まった)く同(おな)じ飲(の)み物(もの)を持(も)ったエイギスは、紐(ひも)のような細(ほそ)い手(て)を顎(あご)の先(さき)に添(そ)えてクスリと笑(わら)います。


「大丈夫(だいじょうぶ)じゃエイギス、ヒカルなら二(に)本(ほん)ぐらい飲(の)んでくれるじゃろ。さて…おおタカヤ、なかなか良(よ)い調子(ちょうし)で回復(かいふく)しとるじゃないか」


 肖(しょう)造(ぞう)は部屋(へや)の奥(おく)にズカズカと入(はい)って、たくさん設置(せっち)された機械(きかい)を触(さわ)って調整(ちょうせい)していきます。


「起(お)きるのは明日(あす)くらいになると思(おも)っておったが…これならもう直(じき)に目(め)が覚(さ)めるじゃろうな」


「本当(ほんとう)ですか⁉ よかった…!」


 ヒカルは二(ふた)つの飲(の)み物(もの)を両手(りょうて)に持(も)って、ほっと息(いき)を吐(つ)きました。


 そんな時(とき)…



「大変(たいへん)です!」


 ツバサを抱(だ)いたルルが、血相(けっそう)を変(か)えて特別(とくべつ)治療室(ちりょうしつ)に駆(か)け込(こ)んで来(き)ました。


「タイヘン! タイヘン ナンダヨ! ショースケ ガ!」


 手足(てあし)をバタバタ、触覚(しょっかく)をグルグルさせながらツバサも大慌(おおあわ)てです。


「ショースケ君(くん)がどうしたんですか⁉」


 ライトの問(と)いかけに、ルルは泣(な)き出(だ)しそうな顔(かお)で答(こた)えます。


「私(わたし)たち、一(いっ)階(かい)の搭乗(とうじょう)口(ぐち)の近(ちか)くで、ショースケさんを見(み)ていないか道(みち)行(ゆ)く方々(かたがた)に尋(たず)ねていたんです。そうしたら…特級(とっきゅう)のバッジを持(も)ったタカヤって地球(ちきゅう)人(じん)が、緊急(きんきゅう)の依頼(いらい)を受(う)けてさっき旅立(たびだ)ったって…!」


「何(なん)だって…⁉」


「タカヤ ノ バッジ ハ ショースケ ガ モッテタンダヨ!」


「しかも…場所(ばしょ)は惑星(わくせい)ミッシェルのイアル山(やま)の近(ちか)く、三(さん)級(きゅう)以上(いじょう)の隊員(たいいん)に向(む)けられた仕事(しごと)に行(い)ったって言(い)うんです! どうしましょうライトさん…!」


 目(め)を潤(うる)ませたルルの肩(かた)を優(やさ)しく支(ささ)えて、ライトは声(こえ)を上(あ)げます。


「僕(ぼく)が今(いま)すぐ迎(むか)えに行(い)きます! 肖(しょう)造(ぞう)おじさん、UFO(ゆーふぉー)を準備(じゅんび)していただけますか!」


「待(ま)て、ライト。お前(まえ)五(ご)級(きゅう)じゃろ…一人(ひとり)じゃ許可(きょか)が出(だ)せんわい、ワシも一緒(いっしょ)に行(い)く」


 二人(ふたり)が足早(あしばや)に出口(でぐち)に向(む)かって歩(ある)き始(はじ)めると…



「待(ま)ってください」



 透明(とうめい)なボールが開(ひら)いて、タカヤが目(め)を覚(さ)ましました。


「…話(はなし)は聞(き)いていました、俺(おれ)に行(い)かせてください」


 すぐに立(た)ち上(あ)がって出(で)てこようとするタカヤを、ヒカルは必死(ひっし)で止(と)めようとします。


「何(なに)言(い)ってるんだタカヤ! やっと目(め)が覚(さ)めたところだって言(い)うのに…お願(ねが)いだから休(やす)んでてくれ!」


「そうよタカヤ、貴方(あなた)本当(ほんとう)に危(あぶ)ないところだったんだから!」


 エイギスも一緒(いっしょ)に言(い)いますが…タカヤは歩(あゆ)みを止(と)めることなく、そのままライトと肖(しょう)造(ぞう)の前(まえ)に立(た)ちました。


「…コスモピースの力(ちから)も安定(あんてい)しています、今(いま)なら問題(もんだい)ありません。お願(ねが)いします行(い)かせてください」


「そんな訳(わけ)には行(い)かないよタカヤ君(くん)。僕(ぼく)らが行(い)ってくるから」


「それなら、俺(おれ)も一緒(いっしょ)に行(い)かせてください」


 タカヤの目(め)は真(ま)っ直(す)ぐ、揺(ゆ)らぎません。


「俺(おれ)なら惑星(わくせい)ミッシェルに着(つ)いてすぐ、この力(ちから)でショースケの居場所(いばしょ)が探知(たんち)出来(でき)る。それに、何(なに)かがあってもすぐに対処(たいしょ)できます。事態(じたい)は一刻(いっこく)を争(あらそ)う可能(かのう)性(せい)がある…お願(ねが)いします、俺(おれ)も連(つ)れて行(い)ってください!」


「でも…!」


「ライト」


 肖(しょう)造(ぞう)がライトの腕(うで)を掴(つか)んで、ライトのその先(さき)の言葉(ことば)を止(と)めました。


「…わかった、一緒(いっしょ)に連(つ)れて行(い)ってやる。ただし…絶対(ぜったい)に無理(むり)はせんと約束(やくそく)してくれ。出来(でき)るか? タカヤ」


「はい…ありがとうございます!」



****



 惑星(わくせい)ミッシェルの黄色(きいろ)く泡立(あわだ)つ沼地(ぬまち)の上空(じょうくう)に、肖(しょう)造(ぞう)とライトとタカヤの乗(の)ったUFO(ゆーふぉー)はやって来(き)ました。


 …真下(ました)にはショースケが乗(の)ってきたであろう赤(あか)いUFO(ゆーふぉー)が見(み)えますが、肝心(かんじん)のショースケの姿(すがた)は見当(みあ)たりません。


「どうやらここに来(き)とるのは間違(まちが)いないようじゃな」


 宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)の制服(せいふく)に着替(きが)えた肖(しょう)造(ぞう)とライトが着陸(ちゃくりく)のための操作(そうさ)をしている間(あいだ)に、タカヤはコスモピースの力(ちから)を発動(はつどう)させて、ショースケの居場所(いばしょ)を探(さぐ)ります。


 赤(あか)と青(あお)の星(ほし)が輝(かがや)く瞳(ひとみ)を閉(と)じて、意識(いしき)を集中(しゅうちゅう)させて…温度(おんど)、呼吸(こきゅう)、音(おと)、匂(にお)い、全身(ぜんしん)の感覚(かんかく)をこの上(うえ)ないほど研(と)ぎ澄(す)ませて、広範囲(こうはんい)を探知(たんち)します。


 タカヤの周辺(しゅうへん)の空気(くうき)がバチバチと音(おと)を立(た)てて煌(きら)めいて、その体(からだ)を取(と)り巻(ま)くように風(かぜ)が起(お)こりました。


 …何度(なんど)見(み)ても異様(いよう)な、人間(にんげん)離(ばな)れしたその光景(こうけい)にライトが思(おも)わず目(め)を伏(ふ)せていると、タカヤが口(くち)を開(ひら)きます。


「いました、ショースケ!」


「本当(ほんとう)かタカヤ! 場所(ばしょ)を教(おし)えてくれ、そこへ向(む)かう」


「はい! …あれ?」


 肖(しょう)造(ぞう)に返事(へんじ)をしたタカヤは目(め)を閉(と)じたまま、ギュッと顔(かお)をしかめました。


 確(たし)かにショースケの反応(はんのう)は見(み)つけました、が…その周辺(しゅうへん)にある複数(ふくすう)の生命(せいめい)反応(はんのう)は何(なん)でしょう。


 ショースケより大(おお)きくて…体温(たいおん)はかなり高(たか)い…それにこの、微(かす)かに感(かん)じる地面(じめん)に響(ひび)くような低(ひく)い鳴(な)き声(ごえ)…これは!


 タカヤは目(め)を見開(みひら)いて、まだ着陸(ちゃくりく)していないUFO(ゆーふぉー)の扉(とびら)を開(ひら)いて飛(と)び降(お)りました!


「タカヤ君(くん)⁉ どこに行(い)くんだ!」


 ライトの声(こえ)も伸(の)ばした腕(うで)も届(とど)かず、タカヤは体中(からだじゅう)に光(ひかり)を纏(まと)って、そのまま限界(げんかい)までスピードを上(あ)げて空(そら)を飛(と)んでいきます。



(ショースケの周(まわ)りにたくさんある反応(はんのう)…間違(まちが)いない、オンガイルゴンだ!)


(頼(たの)む、間(ま)に合(あ)え! 間(ま)に合(あ)ってくれ!)



****



 辺(あた)り一面(いちめん)を、ふわふわの金色(きんいろ)の草(くさ)が覆(おお)うエリア。


 上空(じょうくう)からオンガイルゴンの大群(たいぐん)を見(み)つけたタカヤは、急降下(きゅうこうか)してその前(まえ)に立(た)ちはだかりました。


 間違(まちが)いありません、ショースケの反応(はんのう)はここからしたのですが…その姿(すがた)が見(み)えません。


 …最悪(さいあく)の可能(かのう)性(せい)が頭(あたま)を過(よぎ)って、タカヤはオンガイルゴンの大群(たいぐん)を鋭(するど)く睨(にら)み付(つ)けました。


「ショースケを返(かえ)せ」




 すると、一匹(いっぴき)のオンガイルゴンがノシノシとタカヤに近(ちか)づいてきて、大(おお)きく大(おお)きく口(くち)を開(ひら)きます。


 その中(なか)には…


「あれ、タカヤ⁉ もう目(め)が覚(さ)めたの⁉」


 みゅーみゅーと鳴(な)くオンガイルゴンの子(こ)どもと戯(たわむ)れているショースケがいました。



****



 今(いま)から少(すこ)し前(まえ)、地面(じめん)の亀裂(きれつ)に落(お)ちてしまったショースケが諦(あきら)めてしまおうかと思(おも)ったとき…長(なが)ーい長(なが)い、しっとりとした太(ふと)い布(ぬの)のような何(なに)かがショースケの目(め)の前(まえ)に降(お)りてきました。


「何(なん)だろ、これ…地上(ちじょう)に続(つづ)いてるみたい…」


 ショースケがそれをギュッと掴(つか)んでみると、その何(なに)かはショースケ諸共(もろとも)、シュルシュルと吸(す)い込(こ)まれるように地上(ちじょう)へ戻(もど)って行(い)きます。


「わ、わ…僕(ぼく)、助(たす)かったの⁉」


 そのまま地上(ちじょう)に出(で)てきたショースケの目(め)の前(まえ)には…先(さき)ほどのオンガイルゴンの大群(たいぐん)がいました。


 あまりの衝撃(しょうげき)にショースケは意識(いしき)が飛(と)びそうになりましたが…さらに驚(おどろ)くべきことに、ショースケが掴(つか)んでいる何(なに)かは一匹(いっぴき)のオンガイルゴンの口(くち)から…伸(の)びていて…。


 それがオンガイルゴンの超(ちょう)伸(の)びる舌(した)である、と気(き)がつくまでにそう時間(じかん)はかかりません。


 ショースケが舌(した)から急(いそ)いで手(て)を離(はな)すと…突然(とつぜん)、その舌(した)はまたニュルリと伸(の)びて、今度(こんど)はショースケの体(からだ)を絡(から)め取(と)りました!


「え、え⁉」


 そしてオンガイルゴンはそのまま、ショースケを捕(つか)まえた舌(した)を口(くち)の中(なか)に戻(もど)してしまいました…。


 口(くち)の中(なか)は薄暗(うすぐら)くて湿(しめ)っていて、強(つよ)そうな歯(は)が丸見(まるみ)えで…


(あ…僕(ぼく)食(た)べられるんだ…)


 ショースケはそう思(おも)ったのですが、何(なに)やら近(ちか)くで声(こえ)が聞(き)こえます。


「みゅーん!」


 なんとショースケが助(たす)けた、まん丸(まる)のオンガイルゴンの子(こ)どもも同(おな)じ口(くち)の中(なか)にいるではありませんか!


「あれ? 君(きみ)、何(なん)でこんな口(くち)の中(なか)にいるの⁉」


 ショースケが驚(おどろ)いている間(あいだ)に、ショースケに巻(ま)き付(つ)いていた舌(した)はいつの間(ま)にか解(ほど)かれて…オンガイルゴンはどこかへ向(む)かって歩(ある)き始(はじ)めたようです。


 たまに開(ひら)かれる口(くち)の隙間(すきま)から覗(のぞ)いてみると…不思議(ふしぎ)なことにその方向(ほうこう)はオンガイルゴンの生息地(せいそくち)であるイアル山(やま)とは真逆(まぎゃく)で、ショースケがオンガイルゴンの子供(こども)と出会(であ)った金色(きんいろ)の泉(いずみ)のある方向(ほうこう)で…。


「みゅーんみゅん!」


 オンガイルゴンの子(こ)どもは嬉(うれ)しそうにショースケに擦(す)り寄(よ)ってきます。


「ねえ、もしかして…僕(ぼく)を送(おく)って行(い)ってくれるつもりなの?」


「みゅんっ!」


 …言葉(ことば)はわかりませんが、何(なん)となく『そうだよ』と言(い)っている気(き)がしました。


「そうなんだ…ありがとう」


 ショースケはオンガイルゴンの子(こ)どもをぎゅーっと抱(だ)きしめます。


 …生温(なまあたた)かい口(くち)の中(なか)も、なんだか悪(わる)くないような気(き)がして来(き)ました。



****



 オンガイルゴンは伸(の)びる舌(した)で口(くち)の中(なか)のショースケを絡(から)め取(と)ると、タカヤの目(め)の前(まえ)にポンッと置(お)いて離(はな)し、そのまま舌(した)を口(くち)に戻(もど)します。


 …ショースケとの別(わか)れが惜(お)しいのでしょう、口(くち)の中(なか)でぐずる子(こ)どもをあやしながら、オンガイルゴンの大群(たいぐん)は踵(きびす)を返(かえ)してその場(ば)を後(あと)にしました。


「またねー! ありがとー!」


 ショースケはその背中(せなか)たちに大(おお)きく手(て)を振(ふ)った後(あと)、タカヤの方(ほう)を向(む)きます。


「タカヤもう体(からだ)はいいの…って、あれ? 制服(せいふく)着(き)てないんだ。コスモピースの力(ちから)で大丈夫(だいじょうぶ)なの?」


 自分(じぶん)の制服(せいふく)に付(つ)いた泥(どろ)を払(はら)いながら、ショースケは嬉(うれ)しそうに続(つづ)けます。


「そうだ! 僕(ぼく)お仕事(しごと)して来(き)てね、泉(いずみ)から金色(きんいろ)の水(みず)取(と)ってきて…」


「…何(なに)考(かんが)えてるんだ」


「え?」


「だからっ…何(なん)でこんなことしたんだって言(い)ってるんだ!」


 …初(はじ)めて見(み)る、怯(ひる)むほどの剣幕(けんまく)のタカヤに、ショースケは言葉(ことば)が返(かえ)せません。


「俺(おれ)のバッジを使(つか)って、格上(かくうえ)の仕事(しごと)受(う)けて…何(なに)かあったらどうするつもりだったんだ!」


「だって…」


「だってじゃない!」


「だってぇっ!!!」


 ショースケの目(め)から、ずっと堪(こら)えていた涙(なみだ)が溢(あふ)れました。


「だってタカヤが悪(わる)いんじゃんかぁあっ…! 僕(ぼく)に特級(とっきゅう)だって教(おし)えてくれなかった、調子(ちょうし)悪(わる)いことも、他(ほか)にもいっぱいいっぱい教(おし)えてくれなかった…僕(ぼく)はタカヤに秘密(ひみつ)にしてることなんてほとんど無(な)いのにぃい…!」


「それは…」


「わかってる! 理由(りゆう)があることわかってるけど…僕(ぼく)は、タカヤの口(くち)から教(おし)えてもらいたかったのぉお! コンビ…ううん、友(とも)だちだからぁあ!」


 ポロポロ零(こぼ)れる涙(なみだ)は止(と)まらず、金色(きんいろ)の草(くさ)の上(うえ)に露(つゆ)を落(お)としていきます。


「僕(ぼく)がこの仕事(しごと)を受(う)けたのは…僕(ぼく)がもっと頼(たよ)れる強(つよ)い人(ひと)になったら、タカヤもみんなも隠(かく)したりせずに喋(しゃべ)ってくれると思(おも)ったから! 今度(こんど)こそ、二人(ふたり)で…対等(たいとう)になれると思(おも)ったから! うわぁああん…タカヤの馬鹿(ばか)ぁあああ!!!」


 ショースケがあんまり泣(な)くので、タカヤは慌(あわ)ててポケットからハンカチを取(と)り出(だ)して涙(なみだ)を拭(ぬぐ)ってあげました。


「ご、ごめんショースケ…」


「謝(あやま)って欲(ほ)しいんじゃ無(な)いっ! それにそれに! 僕(ぼく)…まだ言(い)ってなかったのに!」


「言(い)ってなかった?」


「タカヤが…コンビに、友(とも)だちになってくれてありがとうって自分(じぶん)勝手(かって)に言(い)ってきて! 僕(ぼく)、まだ…『僕(ぼく)もだよ』って言(い)ってなかったのにっ、勝手(かって)に…」


 タカヤの腕(うで)を、ショースケはギュッと、痛(いた)いくらいに掴(つか)みます。


「勝手(かって)に…居(い)なくなろうとしないでよぉお…っ!」



 空(そら)から音(おと)が聞(き)こえて、肖(しょう)造(ぞう)とライトの乗(の)ったUFO(ゆーふぉー)がゆっくり降(お)りて来(き)ます。


 涙(なみだ)と鼻水(はなみず)でぐちゃぐちゃになりながらも、ショースケはタカヤの腕(うで)を絶対(ぜったい)に離(はな)そうとはしないのでした。



****



 本部(ほんぶ)最上階(さいじょうかい)の真(ま)っ白(しろ)な廊下(ろうか)を進(すす)んだタカヤは、肖(しょう)造(ぞう)の研究室(けんきゅうしつ)の扉(とびら)を叩(たた)きました。


「おお来(き)たか。どうじゃ、ショースケは寝(ね)たか?」


「はい…やっぱり疲(つか)れてたみたいで、すぐに寝(ね)ちゃいました」


「そうか…あの子(こ)には反省(はんせい)してもらわんといかんからな。起(お)きたらみっちり説教(せっきょう)じゃな」


 肖(しょう)造(ぞう)はお気(き)に入(い)りの椅子(いす)にどっしりと座(すわ)ります。


「さて…タカヤには聞(き)かないかんことがあるな」


「はい、時(とき)目(め)木(き)町(ちょう)に来(き)た…俺(おれ)が相手(あいて)をしたET(いーてぃー)のことですね」


 タカヤは立(た)ったまま、話(はなし)を続(つづ)けます。


「やっぱり時(とき)目(め)木(き)池(いけ)や惑星(わくせい)ミッシェルで見(み)たET(いーてぃー)に似(に)てましたが…どちらよりも強力(きょうりょく)でした。あれより強(つよ)いのが来(き)たら…今度(こんど)こそ俺(おれ)は勝(か)てないかもしれません」


 眉(まゆ)を下(さ)げて、タカヤがいつものように申(もう)し訳(わけ)なさそうに笑(わら)うのを、肖(しょう)造(ぞう)は面白(おもしろ)くなさそうに見(み)ていました。


「相手(あいて)の狙(ねら)いはおそらく…コスモピースを、俺(おれ)ごと壊(こわ)すことだと思(おも)います」


「…壊(こわ)す?」


「はい。相手(あいて)は多分(たぶん)…もう一(ひと)つのコスモピースを持(も)ってて、それに唯一(ゆいいつ)対抗(たいこう)できる手段(しゅだん)を持(も)つ俺(おれ)が邪魔(じゃま)なんだと思(おも)います。だから一度(いちど)にたくさんの力(ちから)を使(つか)わせて、俺(おれ)の体(からだ)がコスモピースの力(ちから)に耐(た)えられなくなって壊(こわ)れるのを望(のぞ)んでる…」


「…」


「…きっとまた、同(おな)じように攻(せ)めて来(く)ると思(おも)います。その時(とき)は、俺(おれ)がまた…」


「待(ま)て、タカヤ」


 肖(しょう)造(ぞう)はじろりと目線(めせん)を上(あ)げて、タカヤを見据(みす)えます。


「ワシは…確(たし)かにお前(まえ)の力(ちから)を狙(ねら)って襲(おそ)ってくるやつが現(あらわ)れるかも知(し)れんとは言(い)った。じゃが…もう一(ひと)つのコスモピースの存在(そんざい)は、お前(まえ)には明(あ)かしていないはずじゃ。何故(なぜ)知(し)ってる?」


 …それを聞(き)いたタカヤは、突然(とつぜん)へにょりと、年(とし)相応(そうおう)に笑(わら)って見(み)せました。


「ごめんなさい、あの頃(ころ)コスモピースの力(ちから)の制御(せいぎょ)が上手(うま)く出来(でき)なくて…偶然(ぐうぜん)聴力(ちょうりょく)が上(あ)がって、その話(はなし)が聞(き)こえてしまったんです」


「…そうか」


「はい。あ、すみませんちょっと…」


 タカヤはズボンのポケットから、ブルブル震(ふる)え続(つづ)ける赤(あか)いポスエッグを取(と)り出(だ)して握(にぎ)ります。


「…ごめんなさい、ショースケが俺(おれ)を探(さが)してるみたいで。部屋(へや)に戻(もど)りますね」


「わかった…くれぐれも安静(あんせい)にするんじゃぞ」


「あはは、もう大丈夫(だいじょうぶ)ですよ。体調(たいちょう)が悪(わる)かったのも、力(ちから)を大量(たいりょう)に放出(ほうしゅつ)したからか良(よ)くなりましたし。それでは、失礼(しつれい)します」


 タカヤはぺこりと頭(あたま)を下(さ)げて、研究室(けんきゅうしつ)を後(あと)にしました。




「…偶然(ぐうぜん)聞(き)こえた、か…」


 一人(ひとり)になった肖(しょう)造(ぞう)は、天井(てんじょう)を見上(みあ)げてフーッと息(いき)を吐(つ)きます。


「嘘(うそ)ばかり上手(うま)くなりおって」



****



「ショースケ、呼(よ)んだか?」


 タカヤが部屋(へや)の扉(とびら)を開(あ)けると、ショースケはまだ大(おお)きな白(しろ)いベッドの上(うえ)で、ゴロゴロと気持(きも)ち良(よ)さそうに寝(ね)そべっていました。


「んぅうう…タカヤ、ここ来(き)て…行(い)っちゃだめ…」


 …どうやら、かなり寝(ね)ぼけているようです。


「あはは、わかったよ」


 ショースケの隣(となり)にころんと寝転(ねころ)がったタカヤの腕(うで)を、ショースケはすかさずギューッと握(にぎ)ります。


「もう、居(い)なくなっちゃダメ、だからね…」


 …そのまま、ショースケはまた眠(ねむ)りについてしまいました。


 おだやかな、スースーという寝息(ねいき)が部屋(へや)に響(ひび)きます。


 ショースケの目元(めもと)は泣(な)き腫(は)らして真(ま)っ赤(か)で…お仕事(しごと)も頑張(がんば)ったのでしょう、顔(かお)や手(て)に小(ちい)さな傷(きず)がいくつも出来(でき)ていました。


 そんな寝顔(ねがお)を見(み)て、胸(むね)の奥(おく)がキュッと痛(いた)むのを感(かん)じながら…タカヤは少(すこ)し甘(あま)い匂(にお)いがする真(ま)っ白(しろ)なベッドシーツに頬(ほお)を擦(こす)ります。


「ごめんな、ショースケ」



(ショースケは、俺(おれ)に秘密(ひみつ)なんてほとんど無(な)いって言(い)ってくれたけど…俺(おれ)は…ショースケに秘密(ひみつ)が無(な)くなることは、きっと一生(いっしょう)無(な)いよ)



 寝(ね)返(がえ)りを打(う)って天井(てんじょう)を見上(みあ)げて、タカヤはポソリと呟(つぶや)きます。


「また、目(め)が覚(さ)めちゃったな…」



(きっと、俺(おれ)にまだ役目(やくめ)が残(のこ)ってるからだ。このコスモピースの力(ちから)を使(つか)って、もう一(ひと)つのコスモピースを…それで、俺(おれ)は…やっと)


 …小(ちい)さく笑(わら)って、タカヤはほんの少(すこ)しだけ目(め)を閉(と)じてみるのでした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。