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第二十二話 今度こそ、二人で①

****


 ここは宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)三(さん)階(かい)。


 真(ま)っ白(しろ)な廊下(ろうか)に置(お)かれている長(なが)いベンチに、ショースケは座(すわ)っていました。


「ネェ、ショースケ」


 ショースケの膝(ひざ)の上(うえ)で、ロボットのツバサが声(こえ)をかけましたが…ショースケからの返事(へんじ)はありません。


 いつものお気(き)に入(い)りの青(あお)いカバンを隣(となり)に置(お)いたまま、ただただ、ぼんやりと…もう数時間(すうじかん)、ショースケは白(しろ)い床(ゆか)と…地球(ちきゅう)から持(も)ってきたタカヤのバッジを見(み)つめています。


 何度(なんど)見(み)ても、そこには『特級(とっきゅう)』の二(ふた)文字(もじ)が書(か)いてありました。


 …あの日(ひ)も、この日(ひ)も、ああ、あの時(とき)も…きっとずっとそう書(か)かれていたのでしょう。


「ツバサ」


 ショースケはほんの少(すこ)し頭(あたま)を持(も)ち上(あ)げて、久(ひさ)しぶりに声(こえ)を出(だ)しました。


「ナニ、ショースケ」


「ツバサは…タカヤが特級(とっきゅう)なこと知(し)ってたんだよね」


「ウン」


 ツバサはいつものように触覚(しょっかく)を揺(ゆ)らしたりはせず…わざとロボットらしく淡々(たんたん)と答(こた)えます。


「…じーちゃんも、ライトさんも、知(し)ってたんだよね」


「ウン」


「…そっか」


 そう答(こた)えると、ショースケはまた、タカヤのバッジをぼんやりと見(み)つめ始(はじ)めました。




 それから一(いち)時間(じかん)ほどして、まだベンチに座(すわ)ったままのショースケとツバサの元(もと)へ肖(しょう)造(ぞう)がやって来(き)ました。


「ショースケ、ツバサ。タカヤは…この言(い)い方(かた)が正(ただ)しいのかはわからんが、一命(いちめい)を取(と)り留(と)めた」


 …ショースケとツバサはバッと顔(かお)を上(あ)げます。


「まだ安心(あんしん)は出来(でき)んが、このまま順調(じゅんちょう)に行(い)けば直(じき)に回復(かいふく)するじゃろう」


「ヨカッター…ハカセ、アリガトー!」


 ツバサはやっと触覚(しょっかく)を振(ふ)って、ショースケの膝(ひざ)の上(うえ)でぴょんっと一回(いっかい)跳(は)ねました。


「ネェ、ショースケ! タカヤ ブジ ダッテ! ショースケ…?」


「…じーちゃん、何(なん)で僕(ぼく)に…タカヤが特級(とっきゅう)だって教(おし)えてくれなかったの」


 疲(つか)れ切(き)った目(め)を真(ま)っ直(す)ぐ肖(しょう)造(ぞう)に向(む)けて、ショースケは尋(たず)ねます。


「…タカヤと…ショースケ、お前(まえ)のためじゃよ」


 肖(しょう)造(ぞう)はショースケの隣(となり)に腰掛(こしか)けました。


「ワシはどうしても、タカヤのためにお前(まえ)とコンビを組(く)ませたかった。じゃがショースケ…お前(まえ)は相手(あいて)が特級(とっきゅう)だと知(し)ったら、きっと…今(いま)のように自然(しぜん)に接(せっ)することは出来(でき)んかったじゃろう」


 …ショースケはまた、タカヤの鈍(にぶ)く光(ひか)るバッジに目(め)をやります。


「…黙(だま)ってて、すまんかった。タカヤにはワシから口止(くちど)めしていたんじゃ、アイツを責(せ)めんでやってくれ」


「…別(べつ)に、怒(おこ)ってるわけじゃないよ」


 膝(ひざ)の上(うえ)のツバサをベンチに降(お)ろして、タカヤのバッジをポケットに突(つ)っ込(こ)んで、ショースケは立(た)ち上(あ)がりました。


「ただちょっと、寂(さび)しいだけ」


 そう言(い)って、ショースケは歩(ある)き始(はじ)めます。


「どこへ行(い)くんじゃショースケ」


 …肖(しょう)造(ぞう)の声(こえ)に返事(へんじ)すること無(な)く、カバンをベンチに置(お)いたまま、ショースケは真(ま)っ白(しろ)な廊下(ろうか)の先(さき)に消(き)えていきました。



****



「博士(はかせ)」


 ベンチに座(すわ)っていた肖(しょう)造(ぞう)に、いつものメイド服(ふく)に身(み)を包(つつ)んだルルが声(こえ)をかけます。


「スイさんとティナさんが、時(とき)目(め)木(き)町(ちょう)に無事(ぶじ)到着(とうちゃく)したそうです。後(あと)の細(こま)かい案内(あんない)等(とう)はメグに任(まか)せてあります」


「ありがとう、ルル…タカヤもショースケもライトもここへ来(き)とるからな。二人(ふたり)が代(か)わりに少(すこ)しの間(あいだ)、時(とき)目(め)木(き)町(ちょう)を担当(たんとう)してくれると言(い)ってくれて助(たす)かったわい」


「それと…」


 ルルは少(すこ)し言(い)いにくそうに俯(うつむ)きます。


「…ライトさんがお呼(よ)びです。博士(はかせ)の研究室(けんきゅうしつ)で待(ま)っているから来(き)て欲(ほ)しいと…」


「…そうか。わかった、すぐ向(む)かう。ルル、ツバサと…このカバンを頼(たの)めるか」


 肖(しょう)造(ぞう)はツバサを抱(だ)き上(あ)げてルルに渡(わた)すと、ショースケが置(お)いて行(い)ったカバンをベンチに残(のこ)し、重(おも)い腰(こし)を上(あ)げて研究室(けんきゅうしつ)へと向(む)かっていきました。



****



「んー…のどかなところねー」


 時(とき)目(め)木(き)公園(こうえん)の時計台(とけいだい)の上(うえ)。


 吹(ふ)きさらしの屋根(やね)の下(した)に置(お)いてある緑(みどり)のベンチに座(すわ)って、スイは抜(ぬ)けるような青空(あおぞら)を見上(みあ)げていました。


「それにしても、タカヤに何(なに)があったのかしら…博士(はかせ)にも、とても聞(き)けるような雰囲気(ふんいき)じゃ無(な)かったから急(いそ)いでここに来(き)たけれど…心配(しんぱい)ね、ティナ」


 …隣(となり)のティナが何(なに)も喋(しゃべ)らないので、スイは話(はなし)を続(つづ)けます。


「ショースケも座(すわ)って俯(うつむ)いたままだったし…そうよ、ショースケが持(も)ってたバッジ…あれ、タカヤのよね。まさか特級(とっきゅう)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)だったなんて…道理(どうり)ですごい力(ちから)が使(つか)えるわけよ」


 …やっぱりティナが何(なに)も喋(しゃべ)らないので、スイは眩(まぶ)しく照(て)りつける太陽(たいよう)を、指(ゆび)の隙間(すきま)からに睨(にら)みつけました。


「今(いま)の時期(じき)はこんなに暑(あつ)いのね…地球(ちきゅう)に戻(もど)ってくるのも久(ひさ)しぶりだもんね」


「お姉(ねえ)ちゃん…」


 …ふと口(くち)を開(ひら)いたティナは泣(な)いていて。


 スイはそれに気付(きづ)かないフリをして…空気(くうき)が澄(す)んで、遠(とお)くまで良(よ)く見(み)える山々(やまやま)を眺(なが)めながら返事(へんじ)をします。


「なぁに」


「わたしね、知(し)ってたの」


 やわらかい風(かぜ)が、二人(ふたり)の間(あいだ)を吹(ふ)き抜(ぬ)けました。


「タカヤくんが特級(とっきゅう)なことも…コスモピースの力(ちから)で無理(むり)をしてて、危険(きけん)な状態(じょうたい)なことも知(し)ってたの。それで…いつか、怖(こわ)いことが起(お)きるんじゃないかって、思(おも)ってたの」


 ポツリポツリと、ティナは小(ちい)さく呟(つぶや)きます。


「タカヤくんが言(い)わないでって…怖(こわ)い目(め)をしてて。もし言(い)ったら、タカヤくんに嫌(きら)われてしまいそうで…誰(だれ)にも言(い)わなかった」


 夏(なつ)の終(お)わりが近(ちか)いことを示(しめ)す、突(つ)き刺(さ)すような蝉(せみ)の声(こえ)と、どこかから聞(き)こえる鳥(とり)の声(こえ)が時計台(とけいだい)の中(なか)で反響(はんきょう)して。


「でも…わたしが誰(だれ)かに言(い)ってたら、こんなことにならなかったのかなって。少(すく)なくとも…もし、ショースケくんに言(い)ってあげてたら…あんな悲(かな)しい顔(かお)させないで済(す)んだかなって…」


 涙(なみだ)が零(こぼ)れて、乾(かわ)ききった床(ゆか)のタイルの上(うえ)に染(し)みを作(つく)ります。


「…止(と)められても、例(たと)え…タカヤくんに嫌(きら)われても…言(い)わなきゃ、いけなかったなぁ…」


…スイは黙(だま)って、ティナの体(からだ)を抱(だ)き寄(よ)せました。


 二人(ふたり)の心(こころ)とは裏腹(うらはら)に、天気(てんき)はうざったい程(ほど)の快晴(かいせい)です。



****



 薄暗(うすぐら)い研究室(けんきゅうしつ)には、ライトが一人(ひとり)立(た)っていました。


 扉(とびら)を開(あ)けて肖(しょう)造(ぞう)が中(なか)に入(はい)ると…ライトはすぐに肖(しょう)造(ぞう)に詰(つ)め寄(よ)ります。


「どういうことですか、肖(しょう)造(ぞう)おじさん」


「…何(なん)のことじゃ、ライト」


「とぼけないでくださいよ!」


 目(め)を逸(そ)らそうとした肖(しょう)造(ぞう)の胸(むな)ぐらを両手(りょうて)で掴(つか)んで、ライトは声(こえ)を張(は)り上(あ)げました。


「…どうして、タカヤ君(くん)があんなことになったって僕(ぼく)が伝(つた)えたとき、貴方(あなた)驚(おどろ)かなかったんですか! それどころか、タカヤ君(くん)の…コスモピースのための特殊(とくしゅ)な治療(ちりょう)設備(せつび)まで、ここにすでに準備(じゅんび)してあった!」


 …何(なに)も言(い)わない肖(しょう)造(ぞう)を睨(にら)み付(つ)け、ライトは言葉(ことば)をぶつけ続(つづ)けます。


「まさか…知(し)ってたんですか? 時(とき)目(め)木(き)町(ちょう)にイレギュラーな存在(そんざい)が来(く)ることも、それでタカヤ君(くん)が…こうなることも! 知(し)ってて、僕(ぼく)に黙(だま)ってて…タカヤ君(くん)をあんな目(め)に遭(あ)わせたんですか⁉」


「お前(まえ)に教(おし)えてたら…どうなったんじゃ?」


 肖(しょう)造(ぞう)は場(ば)に似合(にあ)わない、妙(みょう)に落(お)ち着(つ)いた声(こえ)を発(はっ)しました。


 その様子(ようす)に少(すこ)し恐(おそ)れを感(かん)じ、胸(むな)ぐらを掴(つか)んでいた手(て)を離(はな)したものの…ライトはさらに言(い)い返(かえ)します。


「それは…級(きゅう)の高(たか)い隊員(たいいん)に応援(おうえん)を頼(たの)むとか…そうだ、先日(せんじつ)春子(はるこ)さんと諄(じゅん)弌(いち)さんがここに戻(もど)っていたんだから、二人(ふたり)にも手伝(てつだ)ってもらっていれば!」


 …思(おも)わず、肖(しょう)造(ぞう)は乾(かわ)いた笑(わら)いが零(こぼ)れました。


「はっ…コスモピースの力(ちから)を使(つか)ってもああなるような存在(そんざい)に、お前(まえ)らが勝(か)てるわけないじゃろう」


 その顔(かお)が、今(いま)にも泣(な)き出(だ)しそうに見(み)えて…今度(こんど)はライトが口(くち)を噤(つぐ)みます。


「勝(か)てもしないのに…お前(まえ)らは向(む)かって行(い)くんじゃろう? そうしたら…無意味(むいみ)な被害(ひがい)が増(ふ)えるだけじゃ」


「でも…そうだ! 肖(しょう)造(ぞう)おじさんだってタカヤ君(くん)と同(おな)じ特級(とっきゅう)でしょう⁉ 貴方(あなた)の技術(ぎじゅつ)があれば…!」


「ワシが!」


 俯(うつむ)いた肖(しょう)造(ぞう)が、肩(かた)を震(ふる)わせて叫(さけ)びました。


「ただの…模倣品(もほうひん)のワシの技術(ぎじゅつ)が、アイツに勝(か)てるわけがないじゃろう…!」




 ライトが部屋(へや)を後(あと)にして、肖(しょう)造(ぞう)は一人(ひとり)、薄暗(うすぐら)い部屋(へや)で眩(まぶ)しい画面(がめん)を前(まえ)に座(すわ)っています。


 画面(がめん)には、春子(はるこ)と諄(じゅん)弌(いち)が乗(の)るUFOへの通信(つうしん)を開始(かいし)するためのボタンが表示(ひょうじ)されていて…でもまた、そのボタンを押(お)すことが出来(でき)ないまま、肖(しょう)造(ぞう)は画面(がめん)の電源(でんげん)をブツンと切(き)りました。


「…タカヤを頼(たの)むと、言(い)われておったのになぁ」


「のう…春子(はるこ)、諄(じゅん)弌(いち)。ワシは…どうしたら良(よ)かったんじゃ」



****



「ヒカル、食(た)べ物(もの)を買(か)ってきたわ。タカヤはどう?」


 特別(とくべつ)治療室(ちりょうしつ)に戻(もど)ってきたエイギスは、椅子(いす)に座(すわ)っている…目元(めもと)を赤(あか)く腫(は)らしたヒカルに声(こえ)をかけました。


「ありがとう、エイギス。見(み)てよ…タカヤの体(からだ)が元(もと)に戻(もど)ってきたんだ」


 エイギスから紙袋(かみぶくろ)を受(う)け取(と)って、ヒカルは部屋(へや)の中心(ちゅうしん)にある、大(おお)きくて透明(とうめい)なボールのようなものを指(ゆび)さしました。


 その中(なか)では、タカヤが目(め)を閉(と)じています。


「まぁ、本当(ほんとう)ね。さっきまでは…言(い)いにくいけれど、とても地球(ちきゅう)人(じん)とは思(おも)えない見(み)た目(め)だったものね」


 エイギスがそう言(い)うと、ヒカルも頷(うなず)きました。


「うん…戻(もど)って良(よ)かったよ。俺(おれ)にはよくわからないけど…肖造(しょうぞう)さんが言(い)うには、タカヤが今(いま)までエネルギー貯蔵庫(ちょぞうこ)に溜(た)めてたコスモピースのエネルギーと…この、虹色(にじいろ)の何(なに)かの塊(かたまり)? のおかげでタカヤはギリギリ助(たす)かったんだってさ」


 ヒカルが指(ゆび)をさした先(さき)にある、部屋(へや)の天井(てんじょう)に取(と)り付(つ)けられた虹色(にじいろ)の光(ひかり)をピカピカ放(はな)つエネルギーの塊(かたまり)は…以前(いぜん)タカヤが惑星(わくせい)ミッシェルでET(いーてぃー)の胸元(むなもと)から掴(つか)み取(と)ったものです。


 それを見上(みあ)げながら、エイギスは手(て)を口元(くちもと)に当(あ)てました。


「これ…なんだか知(し)ってる気(き)がするの」


「知(し)ってる?」


 ヒカルの問(と)いかけに、エイギスは長(なが)い首(くび)を傾(かし)げて睫毛(まつげ)を揺(ゆ)らします。


「ええ。懐(なつ)かしいというか…変(へん)よね、初(はじ)めて見(み)たのに」




 二人(ふたり)が話(はな)していると特別(とくべつ)治療室(ちりょうしつ)の自動(じどう)ドアが開(ひら)いて、青(あお)いカバンを肩(かた)から掛(か)けたルルと、その腕(うで)に抱(だ)かれたツバサが入(はい)ってきました。


 ツバサはすぐに腕(うで)の中(なか)から飛(と)び降(お)りて、タカヤの入(はい)った透明(とうめい)なボールへと駆(か)け寄(よ)ります。


「タカヤー! オキテ タカヤー!」


「こらツバサ! 揺(ゆ)らしたりしたらダメだ、ほらこっち」


 ヒカルがすぐにツバサを抱(だ)き上(あ)げました。


「ネェ ヒカル。 タカヤ ハ モウスグ オキル?」


「うーん、肖(しょう)造(ぞう)さんは明日(あした)くらいには起(お)きるんじゃないかって言(い)ってたよ」


「ソッカー…タカヤ ハヤク オキテネ。イッショ ニ アソボウネ」


 ツバサは三本(さんぼん)の触覚(しょっかく)で、透明(とうめい)なボールの表面(ひょうめん)を優(やさ)しく撫(な)でました。


「ところで…ヒカルさん、エイギスさん、お二人(ふたり)はずっとこの部屋(へや)にいらっしゃいましたか?」


 ルルは右手(みぎて)を頬(ほお)に当(あ)てて、困(こま)ったように首(くび)を傾(かし)げて尋(たず)ねます。


「ワタシは少(すこ)し離(はな)れていた時間(じかん)もあるけれど…ヒカルはこの部屋(へや)にずっと居(い)るわよね?」


「うん、大体(だいたい)二(に)時間(じかん)くらいは居(い)るかな。どうかしましたか?」


「実(じつ)は…ショースケさんの姿(すがた)をしばらく見(み)ていなくて。もしかしてこの部屋(へや)に来(き)ていないかなと思(おも)ったのですが…」


 心配(しんぱい)そうな表情(ひょうじょう)を浮(う)かべてルルが俯(うつむ)いていると、ヒカルの腕(うで)の中(なか)でツバサがバタバタと手足(てあし)を動(うご)かしました。


「ショースケ、ヒドインダヨ、ルル! チキュウ カラ イッショニ キタノニ、ボクノコト オイテ ドッカ イッチャッタノ!」


「どっか…どこに行(い)くとかは言(い)っていませんでした? ツバサさん」


「バショ ハ ワカンナイ。デモ、アッチ ニ イッタヨ!」


 ツバサは触覚(しょっかく)をピッと前(まえ)に倒(たお)しました。


「あっち…ではさすがにわかりませんね。とにかく、もう少(すこ)し探(さが)してみます。ツバサさんも一緒(いっしょ)に来(き)ていただけますか?」


「アイアイサー」


 ルルはツバサをヒカルから受(う)け取(と)って抱(だ)き上(あ)げると、透明(とうめい)なボールの中(なか)で眠(ねむ)るタカヤへ深(ふか)く一礼(いちれい)します。


「ルル、もしこの部屋(へや)にショースケが来(き)たら伝(つた)えるわね」


「ありがとうございます、エイギスさん。それでは…タカヤさんをよろしくお願(ねが)いしますね」


 自動(じどう)で開(ひら)いたドアの前(まえ)でもう一度(いちど)深(ふか)く礼(れい)をして、ルルとツバサは特別(とくべつ)治療室(ちりょうしつ)を出(で)て行(い)きました。



****



 ショースケは一人(ひとり)で、どこまでも白(しろ)い廊下(ろうか)を歩(ある)いていました。


 宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)の中(なか)はまるでいつも通(どお)りで、ショースケの横(よこ)を忙(いそが)しそうな隊員(たいいん)たちが走(はし)り抜(ぬ)けていきます。


 きっととても賑(にぎ)やかなはずですが…ショースケにはその声(こえ)が、その音(おと)が、妙(みょう)にくぐもって聞(き)こえて。


 頭(あたま)の中(なか)にも霧(きり)がかかったようで。


 ぼんやりと…ただ、どうしてもあの場(ば)に居(い)たくなかったから、足(あし)を動(うご)かしていました。




 そのまま歩(ある)いて歩(ある)いて、気(き)が付(つ)くとショースケは出口(でぐち)と真逆(まぎゃく)にある、一階(いっかい)搭乗口(とうじょうぐち)エリアに来(き)ていました。


 ここでは今(いま)からUFO(ゆーふぉー)に乗(の)って宇宙(うちゅう)へ旅立(たびだ)つ、たくさんの隊員(たいいん)たちが準備(じゅんび)を進(すす)めています。


 …少(すこ)し疲(つか)れてしまったショースケは、端(はし)の方(ほう)にある椅子(いす)に腰掛(こしか)けて、その様子(ようす)を眺(なが)めていました。


 そういえば、スイとティナと…タカヤと、惑星(わくせい)ミッシェルへ行(い)ったときもここへ来(き)て、ワクワクしながら青(あお)いUFO(ゆーふぉー)に乗(の)り込(こ)んだのでしたっけ。


 …なんだか随分(ずいぶん)と昔(むかし)のことのような気(き)がします。



 ポケットに手(て)を入(い)れて、タカヤのバッジを裏(うら)を向(む)けて取(と)り出(だ)して…それを見(み)ながら、ショースケはまたぼんやりと考(かんが)えます。


 …どうしてタカヤは教(おし)えてくれなかったのでしょう。


 どうして肖(しょう)造(ぞう)も、ライトも教(おし)えてくれなかったのでしょう。


 わかっています、理由(りゆう)があることは…でも。


 もし自分(じぶん)が、もっと強(つよ)かったら?


 もし自分(じぶん)が、タカヤが特級(とっきゅう)だと知(し)っても揺(ゆ)らがないくらい、対等(たいとう)にいられるくらい強(つよ)かったら…みんなは教(おし)えてくれたかも知(し)れない。



 そんな考(かんが)えがふと過(よぎ)ったとき…搭乗口(とうじょうぐち)が何(なに)やら慌(あわ)ただしくなりました。


 …どうやら隊員(たいいん)が二人(ふたり)、急(きゅう)に旅立(たびだ)てなくなったらしいです。


 ショースケが他人事(ひとごと)のように、騒(さわ)がしい声(こえ)を聞(き)き流(なが)していると…一人(ひとり)の隊員(たいいん)がズカズカと近(ちか)づいてきました。


「ねえ、君(きみ)ちょっといい?」


 隊員(たいいん)は毛(け)むくじゃらな体(からだ)をグイッと近付(ちかづ)けて、ショースケの持(も)っているバッジを覗(のぞ)き込(こ)みました。


「君(きみ)、タカヤ隊員(たいいん)って言(い)うんだね…え、特級(とっきゅう)なの⁉ ちょうどよかった! 今(いま)すごく困(こま)っててさ、よかったら助(たす)けてもらえない?」


「え? えぇと…」


 ショースケが言葉(ことば)を返(かえ)すよりも先(さき)に、隊員(たいいん)は話(はなし)を続(つづ)けます。


「実(じつ)は三級(さんきゅう)のコンビが出(で)られなくなっちゃって。代(か)わりになれる三(さん)級(きゅう)以上(いじょう)の隊員(たいいん)を探(さが)してるんだ! 特級(とっきゅう)の君(きみ)なら十分(じゅうぶん)すぎるくらいだ。場所(ばしょ)は惑星(わくせい)ミッシェル、どうかな?」


 …惑星(わくせい)ミッシェル、以前(いぜん)四人(よにん)で行(い)った星(ほし)です。


 ショースケの手(て)の中(なか)にあるバッジはタカヤのもので、ショースケ自身(じしん)は十(じゅっ)級(きゅう)なのです…この仕事(しごと)は絶対(ぜったい)に受(う)けてはいけません。


 なのに。


「いいよ、行(い)っても」


「本当(ほんとう)⁉ 助(たす)かるよ…ところで君(きみ)、コンビは?」


「…今(いま)は別(べつ)の仕事(しごと)をしてる」


 ショースケは咄嗟(とっさ)に顔(かお)を背(そむ)けました。


「そうなんだ、まぁ一(いっ)級(きゅう)以上(いじょう)の隊員(たいいん)は一人(ひとり)での仕事(しごと)が許可(きょか)されてるから大丈夫(だいじょうぶ)か。…あれ、君(きみ)よく見(み)たら制服(せいふく)着(き)てないね。忘(わす)れちゃった?」


「…うん、今日(きょう)は仕事(しごと)のつもりで来(き)たんじゃないから」


「そっか! それなら向(む)こうの貸(か)し出(だ)しスペースで借(か)りてくるといいよ。申(もう)し訳(わけ)ないんだけど急(いそ)いでもらっていい?」


「わかった」


 立(た)ち上(あ)がったショースケは足早(あしばや)に貸(か)し出(だ)しスペースへ向(む)かい、地球(ちきゅう)人(じん)用(よう)の制服(せいふく)を借(か)りると隣(となり)の部屋(へや)でそれに着替(きが)えます。


 そして胸(むね)にタカヤのバッジを付(つ)けて、もう一度(いちど)さっきの隊員(たいいん)の元(もと)へ戻(もど)りました。


「おかえり! 詳(くわ)しい仕事(しごと)の内容(ないよう)や地図(ちず)は君(きみ)のポスエッグに送(おく)らせてもらうね」


 隊員(たいいん)が、持(も)っていた四角(しかく)い機械(きかい)をショースケがポケットに入(い)れていたエッグロケットにくっつけると、機械(きかい)のランプがピカピカと点滅(てんめつ)します。


「これでよし! さぁ、君(きみ)のUFO(ゆーふぉー)はこれだよ。自動(じどう)で惑星(わくせい)ミッシェルに向(む)かうようになってるから操作(そうさ)はいらないからね。それじゃ、頼(たの)んだよ!」


 隊員(たいいん)はそう言(い)って肉球(にくきゅう)の付(つ)いた手(て)を振(ふ)ると、バタバタと他(た)のところへ行(い)ってしまいました。



 赤(あか)いUFO(ゆーふぉー)に乗(の)り込(こ)んで、ショースケは出発(しゅっぱつ)のボタンを押(お)します。


 扉(とびら)が閉(し)まって、機体(きたい)が大(おお)きく揺(ゆ)れてあちこちが光(ひか)って…あたふたとしている間(あいだ)に、いつのまにか窓(まど)の外(そと)には、さっきまで居(い)たポスリコモスが小(ちい)さく見(み)えました。



 大変(たいへん)なことをしてしまいました、バレたら怒(おこ)られるどころでは済(す)みません。


 不安(ふあん)で震(ふる)える右手(みぎて)を、ショースケは左手(ひだりて)でぎゅーっと押(お)さえ込(こ)みます。


 …でも、もし、もし。


 もしこの仕事(しごと)を自分(じぶん)の力(ちから)だけで終(お)えることが出来(でき)たら…もっと強(つよ)くなれる気(き)がしたのです。


 タカヤと対等(たいとう)に…なれる気(き)がしたのです。



****



 UFO(ゆーふぉー)は以前(いぜん)来(き)たときのようなエメラルドグリーンの草原(そうげん)では無(な)く、沼地(ぬまち)の真(ま)ん中(なか)にあるピンクの大(おお)きな岩(いわ)の上(うえ)に着陸(ちゃくりく)しました。


 辺(あた)り一面(いちめん)粘度(ねんど)の高(たか)そうな黄色(きいろ)い泥(どろ)に覆(おお)われていて、ぶくぶく泡(あわ)が立(た)つその沼(ぬま)は…一度(いちど)足(あし)を突(つ)っ込(こ)んでしまえば抜(ぬ)け出(だ)せそうにありません。


 ショースケはUFO(ゆーふぉー)からそーっと出(で)てくると、岩(いわ)の上(うえ)に恐(おそ)る恐(おそ)る足(あし)を伸(の)ばして降(お)り立(た)ちました。


「うう、滑(すべ)ったら終(お)わりだよ…ええっと、目的地(もくてきち)は…あっちかな」


 エッグロケットでもらった地図(ちず)を確認(かくにん)して、ショースケは遠(とお)くの景色(けしき)に目(め)をやります。


 目的地(もくてきち)はイアル山(やま)の近(ちか)く。


 そこにあるらしい泉(いずみ)から湧(わ)いている、特別(とくべつ)な液体(えきたい)を汲(く)んでくることが今回(こんかい)のショースケの仕事(しごと)です。


「イアル山(やま)っていえば…あのオンガイルゴンが住(す)んでるところだよね…」


 以前(いぜん)襲(おそ)われた記憶(きおく)が蘇(よみがえ)って、ショースケは身震(みぶる)いしましたが…自分(じぶん)の体(からだ)を抱(だ)きかかえて必死(ひっし)に震(ふる)えを抑(おさ)えると、ぎゅっと眉間(みけん)にシワを寄(よ)せて前(まえ)を向(む)きました。


「…行(い)こう。急(いそ)いでほしいって言(い)われてるし」




 エッグロケットの中(なか)からスカイボードを引(ひ)っ張(ぱ)り出(だ)し、それに乗(の)ったショースケは、後(うし)ろに付(つ)いたボタンを押(お)してから右(みぎ)ハンドルをグルリと捻(ひね)ります。


 スカイボードは沼(ぬま)の上(うえ)を滑(すべ)るように、なかなかのスピードで前(まえ)へと進(すす)み始(はじ)めました。


 …あの日(ひ)タカヤに見(み)せたスカイボードの新(しん)機能(きのう)である水上(すいじょう)走行(そうこう)、まさかこんなに早(はや)く…こんなところで使(つか)うことになるとは思(おも)いませんでした。



 どこまでも続(つづ)いているんじゃないかと思(おも)われた黄色(きいろ)い沼地(ぬまち)をやっと抜(ぬ)けて、さらにその先(さき)の水色(みずいろ)の山(やま)を一(ひと)つ越(こ)えて…ショースケは赤褐色(せきかっしょく)の岩場(いわば)に辿(たど)り着(つ)きました。


 大(おお)きな石(いし)がゴロゴロと転(ころ)がっていて、砂(すな)混(ま)じりの風(かぜ)が吹(ふ)き荒(あ)れ…ショースケは口(くち)に入(はい)った砂粒(すなつぶ)をペッペッと吐(は)き出(だ)します。


「泉(いずみ)は確(たし)かこの辺(あた)りなんだけ…ど⁉」


 急(きゅう)にブワッと突風(とっぷう)が吹(ふ)いて、スカイボードはバランスを崩(くず)すと、近(ちか)くの大(おお)きな岩(いわ)に正面(しょうめん)からぶつかってしまいました。


「わっ! いたた…ってエネルギーのパーツが割(わ)れてる⁉ 大変(たいへん)だ!」


 ショースケは急(いそ)いでスカイボードから降(お)りて、前側(まえがわ)に付(つ)いているドーム状(じょう)の部分(ぶぶん)を触(さわ)って確(たし)かめます。


「よかった、走(はし)れないほど壊(こわ)れてはないみたい。これが壊(こわ)れたら僕(ぼく)本当(ほんとう)に遭難(そうなん)しちゃうもんな…」


 ショースケはほっと胸(むね)を撫(な)で下(お)ろしました。


「でも、ここではこれ以上(いじょう)使(つか)わない方(ほう)が良(よ)さそうだ。ということは…うーん、歩(ある)くしか無(な)いか…」


 スカイボードをエッグロケットの中(なか)に戻(もど)して、ショースケは岩(いわ)場(ば)を進(すす)み始(はじ)めます。


 これ以上(いじょう)砂(すな)が口(くち)に入(はい)らないように左腕(ひだりうで)で口元(くちもと)を覆(おお)ったまま、岩(いわ)を登(のぼ)ったり降(お)りたり…疲(つか)れて止(と)まってしまいそうな足(あし)を一生懸命(いっしょうけんめい)動(うご)かしました。



 そうしてしばらく歩(ある)き続(つづ)けていると…にわかに砂(すな)混(ま)じりの風(かぜ)が止(や)んで、嗅(か)いだことのないフルーツのような甘(あま)い香(かお)りをのせたやわらかい風(かぜ)が吹(ふ)きます。


 足下(あしもと)にはさっきまでのゴツゴツした岩(いわ)とは打(う)って変(か)わって、ふわふわの金色(きんいろ)の草(くさ)が生(お)い茂(しげ)り、前(まえ)を向(む)くと…金色(きんいろ)の小(ちい)さな泉(いずみ)が光(ひかり)を反射(はんしゃ)してキラキラと輝(かがや)いていました。


「あった! 泉(いずみ)…きっとこれのことだよね!」


 ショースケはエッグロケットの中(なか)から大(おお)きな瓶(びん)を取(と)り出(だ)すと、泉(いずみ)の水(みず)を汲(く)み始(はじ)めました。


「いっぱいに入(い)れて、後(あと)はこれを持(も)って帰(かえ)ればいいんだよね」


 瓶(びん)の口(くち)スレスレにまで金色(きんいろ)の水(みず)を入(い)れてギュッと蓋(ふた)を閉(し)めると、ショースケはそれを再(ふたた)びエッグロケットの中(なか)に戻(もど)します。


「さて! 帰(かえ)らなきゃ…なんだけど…」


 ショースケはフラフラと、ふわふわの草(くさ)の上(うえ)に腰(こし)を下(お)ろしました。


 ここまで歩(ある)いてきて、緊張感(きんちょうかん)からずっと気(き)を張(は)っていて…正直(しょうじき)お腹(なか)もぺこぺこだし、もう動(うご)けないほどヘトヘトです。


「ちょっとくらいなら休(やす)んでいいかなぁ…ここ、あったかいし…眠(ねむ)く、なってきた…」



****



「みゅー?」


 …妙(みょう)にやわらかい何(なに)かが顔(かお)に触(ふ)れて、ショースケはやっと目(め)を覚(さ)ましました。


「んー…なにぃ…? って、本当(ほんとう)に何(なに)⁉」


 薄(うす)いピンク色(いろ)の体(からだ)をしたそれは、ショースケの両手(りょうて)に収(おさ)まってしまいそうなほど小(ちい)さくて、おまんじゅうのようにまん丸(まる)で、クリックリの黒(くろ)い瞳(ひとみ)を真(ま)っ直(す)ぐショースケに向(む)けています。


「みゅーん」


「な、何(なに)この生(い)き物(もの)⁉ ああ、あんまりくっついて来(こ)ないで…!」


「みゅーん!」


 薄(うす)ピンクの生(い)き物(もの)は、立(た)ち上(あ)がったショースケの足(あし)にスリスリと甘(あま)えてきました。


 …仕方(しかた)なく、ショースケはそれを両手(りょうて)で掬(すく)って抱(だ)き上(あ)げます。


「うーん…警戒心(けいかいしん)も無(な)いし、多分(たぶん)何(なに)かの子(こ)ども…だよね? 親(おや)はどこに行(い)っちゃったんだろう」


 周囲(しゅうい)をキョロキョロ見回(みまわ)しても、ふわふわの金色(きんいろ)の草原(そうげん)が広(ひろ)がっているばかりです。


「さっきまでの道(みち)で生(い)き物(もの)には会(あ)わなかったし、やっぱりこの先(さき)から来(き)たのかな?」


「みゅーん」


 …残念(ざんねん)ながら翻訳機(ほんやくき)を使(つか)っても会話(かいわ)は出来(でき)そうにありません。


「そうだ! タブレットで何(なん)の生(い)き物(もの)か調(しら)べてみれば…って、そういえばカバンに入(い)れっぱなしで持(も)ってきてないや…。あ、あのね、君(きみ)!」


 ショースケは生(い)き物(もの)をのせた手(て)のひらを、顔(かお)の高(たか)さまで上(あ)げて話(はな)しかけます。


「僕(ぼく)もう行(い)かなきゃいけないんだ。だから…その、ここに置(お)いていくけど許(ゆる)してね!」


 そう言(い)って生(い)き物(もの)を金色(きんいろ)の草(くさ)の上(うえ)に置(お)くと、ショースケはさっきまでの道(みち)を引(ひ)き返(かえ)し始(はじ)めました…が!


「みゅっ、みゅ、みゅぎゃぁあああああああああっ!!!!」


 小(ちい)さな生(い)き物(もの)はやわらかい体(からだ)を波打(なみう)たせながら、信(しん)じられないほどの爆音(ばくおん)で泣(な)き叫(さけ)びました!


 咄嗟(とっさ)にショースケは耳(みみ)を両手(りょうて)で塞(ふさ)ぎますが…そんなもので防(ふせ)げるような可愛(かわい)いらしい音量(おんりょう)ではありません、耳(みみ)がもげそうです!


「え、え⁉ そんな泣(な)かないで…!」


「ぎゃぁあああああああああああああっ!!!!!」


「わかった! わかったから!」


 ショースケは急(いそ)いで生(い)き物(もの)に近(ちか)づいて、もう一度(いちど)優(やさ)しく抱(だ)き上(あ)げました。


「親(おや)を探(さが)せばいいんでしょ! 一緒(いっしょ)に居(い)てあげるから…だからお願(ねが)い、これ以上(いじょう)泣(な)かないで…」


 たった数(すう)秒(びょう)泣(な)き声(ごえ)を聞(き)いただけですが、ショースケはもうゲッソリしてしまって…もう一回(いっかい)あの泣(な)き声(ごえ)を聞(き)いたら、今度(こんど)は本当(ほんとう)に耳(みみ)が取(と)れてしまうかも知(し)れません。


 そんなショースケの気持(きも)ちも露(つゆ)知(し)らず、生(い)き物(もの)は嬉(うれ)しそうにニコーッと笑(わら)いました。


「みゅっ!」


「…仕方(しかた)ない、行(い)こうか。えーっとこの先(さき)は…本格(ほんかく)的(てき)にイアル山(やま)のふもとだね、注意(ちゅうい)しないと…」


 ショースケは生(い)き物(もの)を抱(かか)えたまま、予定(よてい)には無(な)かった道(みち)を歩(ある)き始(はじ)めました。


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