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第二十三話 今度こそ、二人で②

****


 金色(きんいろ)(くさ)()えたエリアを()けた(さき)は……(さき)ほどまでと同様(どうよう)(すな)()じりの強風(きょうふう)()くゴツゴツした赤褐色(せきかっしょく)(いわ)()でした。


 地面(じめん)にはあちこちに(ふか)亀裂(きれつ)(はい)っていて……うっかり()ちたら、大変(たいへん)なことになってしまうのは明白(めいはく)でしょう。


どうやら(さき)ほどまでの金色(きんいろ)(いずみ)周辺(しゅうへん)は、砂漠(さばく)(なか)のオアシスのような(めずら)しい場所(ばしょ)だったようです。


「うぅ……すごい(かぜ)……」


 (うす)ピンクの(ちい)さな()(もの)()ばされないようにギュッと()いて、ショースケは(まえ)(すす)んでいきます。


 この(あた)りは(ちょう)危険(きけん)なモンスター、オンガイルゴンの生息地(せいそくち)でもありますが……それについてはショースケには秘策(ひさく)があります。


 エッグロケットの(おく)(おく)()()()んで、ショースケは緑色(みどりいろ)のリボンが()いた(しろ)()(ぶくろ)()()しました。


 これはあの()、スイと二人(ふたり)でオンガイルゴンに(おそ)われたとき、ふいに(そら)から()ってきて二人(ふたり)(たす)けてくれた(なぞ)()(ぶくろ)です。


 どうやらオンガイルゴンは、この(ふくろ)から()ている成分(せいぶん)感知(かんち)すると、まるでマタタビを()ったネコのようになってしまうようで……これさえあればきっと、いや……多分(たぶん)(おそ)われることは()いんじゃないかとショースケは(おも)っているわけです。


「みゅーみゅーみゅー」


「わ、どうしたの(きゅう)()いて……これが()になるの? ダメだよ、大事(だいじ)なものだから!」


 (ちい)さな()(もの)()(ぶくろ)目掛(めが)けて、ショースケの(うで)(なか)から()ようと(あば)れるので、()ちないようにもう一度(いちど)ギュッと()きしめます。


「うーん、それにしても(おや)らしき()(もの)見当(みあ)たらないなぁ……(かぜ)(つよ)まってきたし、この(あた)りが限界(げんかい)かも。でも……」


「みゅー?」


(きみ)をここに()いていったら、あのオンガイルゴンにやられちゃうかもだもんね。(きみ)とってもやわらかそうだし……(かた)いオンガイルゴンに(おそ)われたら一溜(ひとた)まりもなさそうだもの」


「みゅーん?」


 (ちい)さな()(もの)(わら)って、ショースケの()()()りました。


「ふふ、(なん)にもわかってないみたいだね。それにしても……可愛(かわい)いなぁ。そうだ! このまま(おや)()つからなかったら、いっそ本部(ほんぶ)()れて(かえ)っちゃおうかな?」


「みゅみゅみゅ?」


「うん、それがいいね! そうしよう!」


 ショースケが(ちい)さな()(もの)(ほお)ずりして、あと(すこ)しだけ(すす)もうと(まえ)()くと……



 突然(とつぜん)、ズシンズシンと(おお)きな足音(あしおと)()こえてきました。


 砂嵐(すなあらし)視界(しかい)(かす)んでよく()えませんが……(なに)やら(おお)きな()(もの)大群(たいぐん)(ちか)づいているようです。


 この(あた)りに生息(せいそく)している(おお)きな()(もの)()ったら……


「オォオオオオオオオオン!」


 ()いピンク(いろ)のブツブツした(はだ)(ふと)手足(てあし)()えた(くろ)くて(おそ)ろしいほど(なが)(つめ)……そう、オンガイルゴンの大群(たいぐん)です!


「うわぁあああああああっ⁉ えーと、えーと!」


 (よみがえ)るトラウマを必死(ひっし)()()んで、ショースケは(みどり)のリボンの()いた()(ぶくろ)(つか)んでオンガイルゴンに()けました。


 ……オンガイルゴンたちは(すこ)しずつショースケに(ちか)づいて()ます。


 ()(ぶくろ)()()はブルブル(ふる)えて、(いま)にも(こぼ)れそうな(なみだ)をぐっと(こら)えて……それでも、もう一方(いっぽう)()(ちい)さな()(もの)をギュッと()きしめたまま、ショースケは(まえ)見据(みす)えていました。


 すると……


「オォオオォン……」


 オンガイルゴンたちは(みな)突然(とつぜん)その()にゴロゴロと寝転(ねころ)がり地面(じめん)()()り……まるで()(ぱら)ったようになってしまいました。


 ショースケはガクガク(ふる)える(ひざ)()って、その()にお(しり)()けてぺたんと(すわ)()みます。


「うぅううう……よ、よかったぁ……()かなかったらどうしようかと(おも)った……」


 (ちから)()けて、()(ちから)(ゆる)んでしまい……()いていた(ちい)さな()(もの)地面(じめん)にぽとりと()ちてしまいました。


「あ。ごめんごめん……(きみ)にも怪我(けが)()くてよかったって……あれ?」


 ……(ちい)さな()(もの)()(まえ)のオンガイルゴンたちと(おな)じように、(からだ)地面(じめん)()()けてゴロゴロ(ころ)がり(はじ)めます。


「その(うご)き……え、え? (きみ)ってもしかして……」


 ショースケは(おお)きなオンガイルゴンと(ちい)さな()(もの)交互(こうご)何度(なんど)()て……


「……オンガイルゴンの()ども⁉」


「みゅーん」


 (うれ)しそうに()いている(ちい)さな()(もの)()()げて、ショースケはその(からだ)をジロジロと観察(かんさつ)します。


「え、え⁉ (からだ)(いろ)(ちが)うし、(つめ)だって……そもそも手足(てあし)だって()いのに⁉ こんなにやわらかくてまん(まる)なのに⁉」


 どう()ても(しん)じられませんが……あの()(ぶくろ)がオンガイルゴン以外(いがい)生物(せいぶつ)にも()く、という可能(かのう)(せい)もありますが……確認(かくにん)してみるしかありません。


「あのー……もしかしてこの()(きみ)たちの()ども?」


 ショースケは(おそ)(おそ)る、オンガイルゴンたちに(ちい)さな()(もの)()()してみるものの……オンガイルゴンたちは()(ぶくろ)効果(こうか)で、それどころでは()いようです。


 バクバクと()心臓(しんぞう)(おさ)えながら……ショースケは()(ぶくろ)をエッグロケットの(なか)仕舞(しま)ってみました。


 するとオンガイルゴンたちは、徐々(じょじょ)正気(しょうき)()(もど)して()()がって()ます。


「あ、あのぉ……」


 ……オンガイルゴンたちが一斉(いっせい)に、ギロリとショースケを(にら)みます。


「こ! この()……(きみ)たちの()⁉」


 (ふる)える()で、ショースケは今一度(いまいちど)(ちい)さな()(もの)()()しました。


「みゅーん」


 (ちい)さな()(もの)が、そう一声(ひとこえ)()くと……


「オォオオン」


 一体(いったい)のオンガイルゴンがゆっくりと(ちか)づいてきて……(ちい)さな()(もの)(いと)おしそうに(かお)をくっつけたではありませんか。


「みゅーん!」


「オーン」


 オンガイルゴンは(やさ)しい(こえ)()くと、(ちい)さな()(もの)のやわらかい(はだ)(くわ)えて()()げました。


 ……そうこうしている(あいだ)にオンガイルゴンとの距離(きょり)三十(さんじゅっ)センチも()くなっていますので……ショースケはもう(くち)からいろいろ()そうなほどドキドキですが、なんとか平静(へいせい)(よそお)ってみせます。


「や、やっぱり(きみ)たちの()だったんだね……! じゃ! じゃあ(ぼく)(かえ)るね!」


 オンガイルゴンたちに()()けて、ショースケは一目散(いちもくさん)(はし)(はじ)めました!


 ……(うし)ろでやけにオンガイルゴンたちが(おお)きく()いていますが、ショースケはそれに(かま)っている場合(ばあい)ではありません。


(いつ()()わって(ぼく)()ってくるかわかんないもの! (はや)()げないと!)


 ろくに(まえ)()ずに必死(ひっし)(あし)(うご)かしていた、その(とき)



 突然(とつぜん)(おお)きなオンガイルゴンたちも体勢(たいせい)(くず)(ほど)強風(きょうふう)()きました。


 (かる)いショースケの(からだ)は、(あし)()られてふわりと()かび()がり……


「わ、わわっ⁉」


 そのまま(すう)メートル()()ばされて、その(さき)は……




「いったたた……一応(いちおう)無事(ぶじ)、みたいだね……」


 あちこちが(いた)(からだ)(さす)りながら、ショースケは(とお)くに()える(そら)見上(みあ)げます。


 ……どうやら、地面(じめん)(はい)っていた(おお)きな亀裂(きれつ)(なか)()ちてしまったみたいです。


 岩壁(いわかべ)同士(どうし)隙間(すきま)(すこ)(ほそ)くなっている部分(ぶぶん)で、ショースケの(からだ)はなんとかギリギリ(とど)まっているようで……


 びくびくしながら(した)()てみると、(そこ)()えないほど(ふか)いのです……ショースケはゴクンと(つば)()()んで、もう一度(いちど)(うえ)へと()()けます。


「どうしよう、(いそ)いでここから()ないと……!」


 ()ちた(ふか)さは(さん)メートルほどでしょうか。


 ショースケはとりあえず(のぼ)れないかと岩壁(いわかべ)(つか)んでみますが……亀裂(きれつ)(はい)って(もろ)くなっているのでしょう、すぐにボロボロと(くず)れてしまいます。


 (うえ)からは(ちい)さな(いし)(すな)がまばらに()ってきていて、この場所(ばしょ)もそう(なが)くは()ちそうにありません。


「そうだ! スカイボードを()して()べば……」


 ショースケはポケットに()れていたエッグロケットに()れましたが……はて、こんな(もろ)くて(せま)隙間(すきま)でスカイボードのような(おお)きなものを()してしまったら、(おそ)らく……?


 ……その(さき)(こわ)いので、ショースケはそこで(かんが)えるのを()めました。


 (ほそ)亀裂(きれつ)隙間(すきま)から(あか)(そら)見上(みあ)げて、(ちい)さく(いき)()きます。


「……(ばち)()たったのかな。(うそ)ついてここまで()たから」


 ショースケの(ちか)くの岩壁(いわかべ)が、また一部(いちぶ)、パラリと(くず)()ちました。



****



 タカヤが(ねむ)特別(とくべつ)治療室(ちりょうしつ)(なか)では、もうずっとここに()るヒカルが、うつらうつらと(ふね)()ぎながら椅子(いす)(すわ)っていました。


 ドアが自動(じどう)(ひら)いて、(つめ)たい()(もの)(ふた)()()ったライトが(はい)ってきましたが……どうやらヒカルは(ねむ)っていて()()いていないようです。


「ヒカル(くん)? ()(もの)()ってきたよ……あれ、()てるの」


 ライトは無理(むり)()こすこともせず、ヒカルの(となり)腰掛(こしか)けると()(もの)(ふた)(ひと)()けて()(はじ)めました。


 ……()(まえ)(おお)きな透明(とうめい)なボールの(なか)では、やっと(ひと)(かたち)()(もど)したタカヤが(ねむ)っています。


 (いや)でもあの日々(ひび)を……どうやってもタカヤが()()ますことが()かったあの時間(じかん)(おも)()してしまって、ライトは(あたま)(かか)えました。


 ……()()がって、透明(とうめい)なボールにそっと()()えて。


「どうして(きみ)は……いつもそんな無茶(むちゃ)をするんだ。どうしていつも……(ぼく)(なに)()ってくれないんだ」


 じわりと(あつ)くなる目頭(めがしら)()さえて、ライトは(はな)(すこ)(すす)ります。


(ぼく)(きみ)が……タカヤ(くん)()てくれるだけで十分(じゅうぶん)なのに」


「ん……んー?」


 ……どうやらうたた()をしていたヒカルが()きたようなので、ライトは(うし)ろを()(かえ)りました。


「ヒカル(くん)おはよう。(つか)れてるだろ? ここは(ぼく)()てるから部屋(へや)(やす)んで()たら?」


「あ……ライトおに……あわわ、ライトさん! ()てたんだ、ごめん()()かなかった」


 ヒカルはぼんやりした(あたま)()まそうと、(くび)をプルプル()ります。


「あ、()(もの)ありがとう! (おれ)()きな(あじ)だ、いただきます!」


「ふふ、(むかし)からヒカル(くん)この(あじ)()きだよね。ところで……タカヤ(くん)様子(ようす)はどう?」


「うん、(ひと)(かたち)(もど)ってからは(とく)変化(へんか)()いよ……ってそれはそうか。それ以上(いじょう)変化(へんか)があったら(こま)るよね。本当(ほんとう)……(たす)かってよかったよ」


 ()(もの)()()(ふる)わせながら、ヒカルはくたびれきった(からだ)(わら)いました。



 そこへ自動(じどう)ドアが(ひら)いて、これまた()(もの)()ったエイギスと、()ぶらの(しょう)(ぞう)(はい)ってきました。


「ヒカル? ヒカルの()きな(あじ)()(もの)()ってきたわ……あら、もしかして(かぶ)っちゃった?」


 ライトが()ってきたものと(まった)(おな)()(もの)()ったエイギスは、(ひも)のような(ほそ)()(あご)(さき)()えてクスリと(わら)います。


大丈夫(だいじょうぶ)じゃエイギス、ヒカルなら()(ほん)ぐらい()んでくれるじゃろ。さて……おおタカヤ、なかなか()調子(ちょうし)回復(かいふく)しとるじゃないか」


 (しょう)(ぞう)部屋(へや)(おく)にズカズカと(はい)って、たくさん設置(せっち)された機械(きかい)(さわ)って調整(ちょうせい)していきます。


()きるのは明日(あす)くらいになると(おも)っておったが……これならもう(じき)()()めるじゃろうな」


本当(ほんとう)ですか⁉ よかった……!」


 ヒカルは(ふた)つの()(もの)両手(りょうて)()って、ほっと(いき)()きました。


 そんな(とき)……



大変(たいへん)です!」


 ツバサを()いたルルが、血相(けっそう)()えて特別(とくべつ)治療室(ちりょうしつ)()()んで()ました。


「タイヘン! タイヘン ナンダヨ! ショースケ ガ!」


 手足(てあし)をバタバタ、触覚(しょっかく)をグルグルさせながらツバサも大慌(おおあわ)てです。


「ショースケ(くん)がどうしたんですか⁉」


 ライトの()いかけに、ルルは()()しそうな(かお)(こた)えます。


(わたし)たち、(いっ)(かい)搭乗(とうじょう)(ぐち)(ちか)くで、ショースケさんを()ていないか(みち)()方々(かたがた)(たず)ねていたんです。そうしたら……特級(とっきゅう)のバッジを()ったタカヤって地球(ちきゅう)(じん)が、緊急(きんきゅう)依頼(いらい)()けてさっき旅立(たびだ)ったって……!」


(なん)だって……⁉」


「タカヤ ノ バッジ ハ ショースケ ガ モッテタンダヨ!」


「しかも……場所(ばしょ)惑星(わくせい)ミッシェルのイアル(やま)(ちか)く、(さん)(きゅう)以上(いじょう)隊員(たいいん)()けられた仕事(しごと)()ったって()うんです! どうしましょうライトさん……!」


 ()(うる)ませたルルの(かた)(やさ)しく(ささ)えて、ライトは(こえ)()げます。


(ぼく)(いま)すぐ(むか)えに()きます! (しょう)(ぞう)おじさん、UFO(ゆーふぉー)準備(じゅんび)していただけますか!」


()て、ライト。お(まえ)()(きゅう)じゃろ……一人(ひとり)じゃ許可(きょか)()せんわい、ワシも一緒(いっしょ)()く」


 二人(ふたり)足早(あしばや)出口(でぐち)()かって(ある)(はじ)めると……



()ってください」



 透明(とうめい)なボールが(ひら)いて、タカヤが()()ましました。


「……(はなし)()いていました、(おれ)()かせてください」


 すぐに()()がって()てこようとするタカヤを、ヒカルは必死(ひっし)()めようとします。


(なに)()ってるんだタカヤ! やっと()()めたところだって()うのに……お(ねが)いだから(やす)んでてくれ!」


「そうよタカヤ、貴方(あなた)本当(ほんとう)(あぶ)ないところだったんだから!」


 エイギスも一緒(いっしょ)()いますが……タカヤは(あゆ)みを()めることなく、そのままライトと(しょう)(ぞう)(まえ)()ちました。


「……コスモピースの(ちから)安定(あんてい)しています、(いま)なら問題(もんだい)ありません。お(ねが)いします()かせてください」


「そんな(わけ)には()かないよタカヤ(くん)(ぼく)らが()ってくるから」


「それなら、(おれ)一緒(いっしょ)()かせてください」


 タカヤの()()()ぐ、()らぎません。


(おれ)なら惑星(わくせい)ミッシェルに()いてすぐ、この(ちから)でショースケの居場所(いばしょ)探知(たんち)出来(でき)る。それに、(なに)かがあってもすぐに対処(たいしょ)できます。事態(じたい)一刻(いっこく)(あらそ)可能(かのう)(せい)がある……お(ねが)いします、(おれ)()れて()ってください!」


「でも……!」


「ライト」


 (しょう)(ぞう)がライトの(うで)(つか)んで、ライトのその(さき)言葉(ことば)()めました。


「……わかった、一緒(いっしょ)()れて()ってやる。ただし……絶対(ぜったい)無理(むり)はせんと約束(やくそく)してくれ。出来(でき)るか? タカヤ」


「はい……ありがとうございます!」



****



 惑星(わくせい)ミッシェルの黄色(きいろ)泡立(あわだ)沼地(ぬまち)上空(じょうくう)に、(しょう)(ぞう)とライトとタカヤの()ったUFO(ゆーふぉー)はやって()ました。


 ……真下(ました)にはショースケが()ってきたであろう(あか)UFO(ゆーふぉー)()えますが、肝心(かんじん)のショースケの姿(すがた)見当(みあ)たりません。


「どうやらここに()とるのは間違(まちが)いないようじゃな」


 宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)制服(せいふく)着替(きが)えた(しょう)(ぞう)とライトが着陸(ちゃくりく)のための操作(そうさ)をしている(あいだ)に、タカヤはコスモピースの(ちから)発動(はつどう)させて、ショースケの居場所(いばしょ)(さぐ)ります。


 (あか)(あお)(ほし)(かがや)(ひとみ)()じて、意識(いしき)集中(しゅうちゅう)させて……温度(おんど)呼吸(こきゅう)(おと)(にお)い、全身(ぜんしん)感覚(かんかく)をこの(うえ)ないほど()()ませて、広範囲(こうはんい)探知(たんち)します。


 タカヤの周辺(しゅうへん)空気(くうき)がバチバチと(おと)()てて(きら)めいて、その(からだ)()()くように(かぜ)()こりました。


 ……何度(なんど)()ても異様(いよう)な、人間(にんげん)(ばな)れしたその光景(こうけい)にライトが(おも)わず()()せていると、タカヤが(くち)(ひら)きます。


「いました、ショースケ!」


本当(ほんとう)かタカヤ! 場所(ばしょ)(おし)えてくれ、そこへ()かう」


「はい! ……あれ?」


 (しょう)(ぞう)返事(へんじ)をしたタカヤは()()じたまま、ギュッと(かお)をしかめました。


 (たし)かにショースケの反応(はんのう)()つけました、が……その周辺(しゅうへん)にある複数(ふくすう)生命(せいめい)反応(はんのう)(なん)でしょう。


 ショースケより(おお)きくて……体温(たいおん)はかなり(たか)い……それにこの、(かす)かに(かん)じる地面(じめん)(ひび)くような(ひく)()(ごえ)……これは!


 タカヤは()見開(みひら)いて、まだ着陸(ちゃくりく)していないUFO(ゆーふぉー)(とびら)(ひら)いて()()りました!


「タカヤ(くん)⁉ どこに()くんだ!」


 ライトの(こえ)()ばした(うで)(とど)かず、タカヤは体中(からだじゅう)(ひかり)(まと)って、そのまま限界(げんかい)までスピードを()げて(そら)()んでいきます。



(ショースケの(まわ)りにたくさんある反応(はんのう)……間違(まちが)いない、オンガイルゴンだ!)


(たの)む、()()え! ()()ってくれ!)



****



 (あた)一面(いちめん)を、ふわふわの金色(きんいろ)(くさ)(おお)うエリア。


 上空(じょうくう)からオンガイルゴンの大群(たいぐん)()つけたタカヤは、急降下(きゅうこうか)してその(まえ)()ちはだかりました。


 間違(まちが)いありません、ショースケの反応(はんのう)はここからしたのですが……その姿(すがた)()えません。


 ……最悪(さいあく)可能(かのう)(せい)(あたま)(よぎ)って、タカヤはオンガイルゴンの大群(たいぐん)(するど)(にら)()けました。


「ショースケを(かえ)せ」




 すると、一匹(いっぴき)のオンガイルゴンがノシノシとタカヤに(ちか)づいてきて、(おお)きく(おお)きく(くち)(ひら)きます。


 その(なか)には……


「あれ、タカヤ⁉ もう()()めたの⁉」


 みゅーみゅーと()くオンガイルゴンの()どもと(たわむ)れているショースケがいました。



****



 (いま)から(すこ)(まえ)地面(じめん)亀裂(きれつ)()ちてしまったショースケが(あきら)めてしまおうかと(おも)ったとき……(なが)ーい(なが)い、しっとりとした(ふと)(ぬの)のような(なに)かがショースケの()(まえ)()りてきました。


(なん)だろ、これ……地上(ちじょう)(つづ)いてるみたい……」


 ショースケがそれをギュッと(つか)んでみると、その(なに)かはショースケ諸共(もろとも)、シュルシュルと()()まれるように地上(ちじょう)(もど)って()きます。


「わ、わ……(ぼく)(たす)かったの⁉」


 そのまま地上(ちじょう)()てきたショースケの()(まえ)には……(さき)ほどのオンガイルゴンの大群(たいぐん)がいました。


 あまりの衝撃(しょうげき)にショースケは意識(いしき)()びそうになりましたが……さらに(おどろ)くべきことに、ショースケが(つか)んでいる(なに)かは一匹(いっぴき)のオンガイルゴンの(くち)から……()びていて……。


 それがオンガイルゴンの(ちょう)()びる(した)である、と()がつくまでにそう時間(じかん)はかかりません。


 ショースケが(した)から(いそ)いで()(はな)すと……突然(とつぜん)、その(した)はまたニュルリと()びて、今度(こんど)はショースケの(からだ)(から)()りました!


「え、え⁉」


 そしてオンガイルゴンはそのまま、ショースケを(つか)まえた(した)(くち)(なか)(もど)してしまいました……。


 (くち)(なか)薄暗(うすぐら)くて湿(しめ)っていて、(つよ)そうな()丸見(まるみ)えで……


(あ……(ぼく)()べられるんだ……)


 ショースケはそう(おも)ったのですが、(なに)やら(ちか)くで(こえ)()こえます。


「みゅーん!」


 なんとショースケが(たす)けた、まん(まる)のオンガイルゴンの()どもも(おな)(くち)(なか)にいるではありませんか!


「あれ? (きみ)(なん)でこんな(くち)(なか)にいるの⁉」


 ショースケが(おどろ)いている(あいだ)に、ショースケに()()いていた(した)はいつの()にか(ほど)かれて……オンガイルゴンはどこかへ()かって(ある)(はじ)めたようです。


 たまに(ひら)かれる(くち)隙間(すきま)から(のぞ)いてみると……不思議(ふしぎ)なことにその方向(ほうこう)はオンガイルゴンの生息地(せいそくち)であるイアル(やま)とは真逆(まぎゃく)で、ショースケがオンガイルゴンの子供(こども)出会(であ)った金色(きんいろ)(いずみ)のある方向(ほうこう)で……。


「みゅーんみゅん!」


 オンガイルゴンの()どもは(うれ)しそうにショースケに()()ってきます。


「ねえ、もしかして……(ぼく)(おく)って()ってくれるつもりなの?」


「みゅんっ!」


 ……言葉(ことば)はわかりませんが、(なん)となく『そうだよ』と()っている()がしました。


「そうなんだ……ありがとう」


 ショースケはオンガイルゴンの()どもをぎゅーっと()きしめます。


 ……生温(なまあたた)かい(くち)(なか)も、なんだか(わる)くないような()がして()ました。



****



 オンガイルゴンは()びる(した)(くち)(なか)のショースケを(から)()ると、タカヤの()(まえ)にポンッと()いて(はな)し、そのまま(した)(くち)(もど)します。


 ……ショースケとの(わか)れが()しいのでしょう、(くち)(なか)でぐずる()どもをあやしながら、オンガイルゴンの大群(たいぐん)(きびす)(かえ)してその()(あと)にしました。


「またねー! ありがとー!」


 ショースケはその背中(せなか)たちに(おお)きく()()った(あと)、タカヤの(ほう)()きます。


「タカヤもう(からだ)はいいの……って、あれ? 制服(せいふく)()てないんだ。コスモピースの(ちから)大丈夫(だいじょうぶ)なの?」


 自分(じぶん)制服(せいふく)()いた(どろ)(はら)いながら、ショースケは(うれ)しそうに(つづ)けます。


「そうだ! (ぼく)仕事(しごと)して()てね、(いずみ)から金色(きんいろ)(みず)()ってきて……」


「……(なに)(かんが)えてるんだ」


「え?」


「だからっ……(なん)でこんなことしたんだって()ってるんだ!」


 ……(はじ)めて()る、(ひる)むほどの剣幕(けんまく)のタカヤに、ショースケは言葉(ことば)(かえ)せません。


(おれ)のバッジを使(つか)って、格上(かくうえ)仕事(しごと)()けて……(なに)かあったらどうするつもりだったんだ!」


「だって……」


「だってじゃない!」


「だってぇっ!!!」


 ショースケの()から、ずっと(こら)えていた(なみだ)(あふ)れました。


「だってタカヤが(わる)いんじゃんかぁあっ……! (ぼく)特級(とっきゅう)だって(おし)えてくれなかった、調子(ちょうし)(わる)いことも、(ほか)にもいっぱいいっぱい(おし)えてくれなかった……(ぼく)はタカヤに秘密(ひみつ)にしてることなんてほとんど()いのにぃい……!」


「それは……」


「わかってる! 理由(りゆう)があることわかってるけど……(ぼく)は、タカヤの(くち)から(おし)えてもらいたかったのぉお! コンビ……ううん、(とも)だちだからぁあ!」


 ポロポロ(こぼ)れる(なみだ)()まらず、金色(きんいろ)(くさ)(うえ)(つゆ)()としていきます。


(ぼく)がこの仕事(しごと)()けたのは……(ぼく)がもっと(たよ)れる(つよ)(ひと)になったら、タカヤもみんなも(かく)したりせずに(しゃべ)ってくれると(おも)ったから! 今度(こんど)こそ、二人(ふたり)で……対等(たいとう)になれると(おも)ったから! うわぁああん……タカヤの馬鹿(ばか)ぁあああ!!!」


 ショースケがあんまり()くので、タカヤは(あわ)ててポケットからハンカチを()()して(なみだ)(ぬぐ)ってあげました。


「ご、ごめんショースケ……」


(あやま)って()しいんじゃ()いっ! それにそれに! (ぼく)……まだ()ってなかったのに!」


()ってなかった?」


「タカヤが……コンビに、(とも)だちになってくれてありがとうって自分(じぶん)勝手(かって)()ってきて! (ぼく)、まだ……『(ぼく)もだよ』って()ってなかったのにっ、勝手(かって)に……」


 タカヤの(うで)を、ショースケはギュッと、(いた)いくらいに(つか)みます。


勝手(かって)に……()なくなろうとしないでよぉお……っ!」



 (そら)から(おと)()こえて、(しょう)(ぞう)とライトの()ったUFO(ゆーふぉー)がゆっくり()りて()ます。


 (なみだ)鼻水(はなみず)でぐちゃぐちゃになりながらも、ショースケはタカヤの(うで)絶対(ぜったい)(はな)そうとはしないのでした。



****



 本部(ほんぶ)最上階(さいじょうかい)()(しろ)廊下(ろうか)(すす)んだタカヤは、(しょう)(ぞう)研究室(けんきゅうしつ)(とびら)(たた)きました。


「おお()たか。どうじゃ、ショースケは()たか?」


「はい……やっぱり(つか)れてたみたいで、すぐに()ちゃいました」


「そうか……あの()には反省(はんせい)してもらわんといかんからな。()きたらみっちり説教(せっきょう)じゃな」


 (しょう)(ぞう)はお()()りの椅子(いす)にどっしりと(すわ)ります。


「さて……タカヤには()かないかんことがあるな」


「はい、(とき)()()(ちょう)()た……(おれ)相手(あいて)をしたET(いーてぃー)のことですね」


 タカヤは()ったまま、(はなし)(つづ)けます。


「やっぱり(とき)()()(いけ)惑星(わくせい)ミッシェルで()ET(いーてぃー)()てましたが……どちらよりも強力(きょうりょく)でした。あれより(つよ)いのが()たら……今度(こんど)こそ(おれ)()てないかもしれません」


 (まゆ)()げて、タカヤがいつものように(もう)(わけ)なさそうに(わら)うのを、(しょう)(ぞう)面白(おもしろ)くなさそうに()ていました。


相手(あいて)(ねら)いはおそらく……コスモピースを、(おれ)ごと(こわ)すことだと(おも)います」


「……(こわ)す?」


「はい。相手(あいて)多分(たぶん)……もう(ひと)つのコスモピースを()ってて、それに唯一(ゆいいつ)対抗(たいこう)できる手段(しゅだん)()(おれ)邪魔(じゃま)なんだと(おも)います。だから一度(いちど)にたくさんの(ちから)使(つか)わせて、(おれ)(からだ)がコスモピースの(ちから)()えられなくなって(こわ)れるのを(のぞ)んでる……」


「……」


「……きっとまた、(おな)じように()めて()ると(おも)います。その(とき)は、(おれ)がまた……」


()て、タカヤ」


 (しょう)(ぞう)はじろりと目線(めせん)()げて、タカヤを見据(みす)えます。


「ワシは……(たし)かにお(まえ)(ちから)(ねら)って(おそ)ってくるやつが(あらわ)れるかも()れんとは()った。じゃが……もう(ひと)つのコスモピースの存在(そんざい)は、お(まえ)には()かしていないはずじゃ。何故(なぜ)()ってる?」


 ……それを()いたタカヤは、突然(とつぜん)へにょりと、(とし)相応(そうおう)(わら)って()せました。


「ごめんなさい、あの(ころ)コスモピースの(ちから)制御(せいぎょ)上手(うま)出来(でき)なくて……偶然(ぐうぜん)聴力(ちょうりょく)()がって、その(はなし)()こえてしまったんです」


「……そうか」


「はい。あ、すみませんちょっと……」


 タカヤはズボンのポケットから、ブルブル(ふる)(つづ)ける(あか)いポスエッグを()()して(にぎ)ります。


「……ごめんなさい、ショースケが(おれ)(さが)してるみたいで。部屋(へや)(もど)りますね」


「わかった……くれぐれも安静(あんせい)にするんじゃぞ」


「あはは、もう大丈夫(だいじょうぶ)ですよ。体調(たいちょう)(わる)かったのも、(ちから)大量(たいりょう)放出(ほうしゅつ)したからか()くなりましたし。それでは、失礼(しつれい)します」


 タカヤはぺこりと(あたま)()げて、研究室(けんきゅうしつ)(あと)にしました。




「……偶然(ぐうぜん)()こえた、か……」


 一人(ひとり)になった(しょう)(ぞう)は、天井(てんじょう)見上(みあ)げてフーッと(いき)()きます。


(うそ)ばかり上手(うま)くなりおって」



****



「ショースケ、()んだか?」


 タカヤが部屋(へや)(とびら)()けると、ショースケはまだ(おお)きな(しろ)いベッドの(うえ)で、ゴロゴロと気持(きも)()さそうに()そべっていました。


「んぅうう……タカヤ、ここ()て……()っちゃだめ……」


 ……どうやら、かなり()ぼけているようです。


「あはは、わかったよ」


 ショースケの(となり)にころんと寝転(ねころ)がったタカヤの(うで)を、ショースケはすかさずギューッと(にぎ)ります。


「もう、()なくなっちゃダメ、だからね……」


 ……そのまま、ショースケはまた(ねむ)りについてしまいました。


 おだやかな、スースーという寝息(ねいき)部屋(へや)(ひび)きます。


 ショースケの目元(めもと)()()らして()()で……お仕事(しごと)頑張(がんば)ったのでしょう、(かお)()(ちい)さな(きず)がいくつも出来(でき)ていました。


 そんな寝顔(ねがお)()て、(むね)(おく)がキュッと(いた)むのを(かん)じながら……タカヤは(すこ)(あま)(にお)いがする()(しろ)なベッドシーツに(ほお)(こす)ります。


「ごめんな、ショースケ」



(ショースケは、(おれ)秘密(ひみつ)なんてほとんど()いって()ってくれたけど……(おれ)は……ショースケに秘密(ひみつ)()くなることは、きっと一生(いっしょう)()いよ)



 ()(がえ)りを()って天井(てんじょう)見上(みあ)げて、タカヤはポソリと(つぶや)きます。


「また、()()めちゃったな……」



(きっと、(おれ)にまだ役目(やくめ)(のこ)ってるからだ。このコスモピースの(ちから)使(つか)って、もう(ひと)つのコスモピースを……それで、(おれ)は……やっと)


 ……(ちい)さく(わら)って、タカヤはほんの(すこ)しだけ()()じてみるのでした。



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