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第二十話 ライトお兄ちゃん①

****


「はぁ……ちょっと、(おそ)くなっちゃったかな……っ」


 ライトは県内(けんない)有数(ゆうすう)進学(しんがく)高校(こうこう)制服(せいふく)()(つつ)んだまま、宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)()(かい)にある()(しろ)(とびら)をノックしました。


「はーい!」


 (なか)から元気(げんき)(こえ)()こえて、ライトは(とびら)(ひら)きます。


「あ、ライトお(にい)ちゃんお(かえ)りなさい! ()てくれたんだ!」


「ただいまヒカル(くん)()るに()まってるだろ、今日(きょう)大事(だいじ)()なんだから」


 ヒカルは()(しろ)部屋(へや)(なか)にある、これまた()(しろ)(つくえ)(うえ)(くろ)いランドセルを(ひろ)げて、どうやら小学校(しょうがっこう)宿題(しゅくだい)をしていたようです。


「……その様子(ようす)だと、まだ()まれて()いみたいだね」


「うん……(かあ)さん大丈夫(だいじょうぶ)かな。おなか(いた)そうだった……」


 しょんぼりと()()せてしまったヒカルの背中(せなか)を、ライトは(となり)(すわ)って(やさ)しくさすりながら(あか)るく(わら)って()せます。


大丈夫(だいじょうぶ)だよ。ねぇヒカル(くん)(おとうと)(なに)して(あそ)びたい?」


「え! えっとね、(おれ)いろいろ(かんが)えてるんだー! まずはキャッチボールでしょ、それから一緒(いっしょ)(ほん)()みたいし。あ、あとお()かきとか! えへへ、あとねあとね……」


「あはは。いっぱいあるんだね」


「あ! もちろんライトお(にい)ちゃんも一緒(いっしょ)にするんだよ!」


「え、(ぼく)も?」


()たり(まえ)じゃん! みんなで一緒(いっしょ)(あそ)ぶの(たの)しみだなー……(はや)()まれて()ないかな」


 その(とき)(とお)くからバタバタと足音(あしおと)(ちか)づいてきて、二人(ふたり)のいる部屋(へや)(とびら)がコンコンと(はげ)しくノックされました。


 (とびら)(おお)きく(ひら)かれて、(いき)()らした(じゅん)(いち)部屋(へや)(はい)ります。


「……ライト(くん)()てくれたんだな、ありがとう……無事(ぶじ)()まれたよ」


本当(ほんとう)⁉ (とう)さん!」


「ああ、ヒカル。(かあ)さんも無事(ぶじ)だ……(あと)でみんなで()いに()こう」


「あの……(ぼく)()っていいんですか?」


 ライトが(すこ)不安(ふあん)そうに(たず)ねると、(じゅん)(いち)はきょとんと()(まる)くしました。


「むしろ……()ないのか?」


「いえ! ()きたい、です……!」


「……是非(ぜひ)()てくれ。春子(はるこ)も、()まれた()どもも(よろこ)ぶよ」


 (じゅん)(いち)はいつもはあまり表情(ひょうじょう)(くず)しませんが、この()ばかりは(うれ)しそうに(わら)います。



 ()まれた()どもの名前(なまえ)は、石越(いしごえ)タカヤ。


 このポスリコモスにある宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)で……いえ、おそらく……地球(ちきゅう)(そと)(はじ)めて()まれた地球(ちきゅう)(じん)です。



****



「ね、ねぇヒカル(くん)! これってどうしたらいいの⁉」


 (ちい)さなマットの(うえ)寝転(ねころ)がって、ロンパース姿(すがた)手足(てあし)をパタパタ()らしているタカヤを(まえ)にライトは困惑(こんわく)しています。


「えっとね、まずここのボタンを(はず)して……両足(りょうあし)片手(かたて)()()げるんだよ! (おれ)やったことある!」


「こ、こう?」


「そうそう。あ、()って? やっぱり(さき)にオムツのシールを……」


 ……二人(ふたり)がもたもたしている(あいだ)に、タカヤはフニャフニャと()()してしまいました。


「ああ()いちゃった! ごめんねタカヤ(くん)、すぐ綺麗(きれい)にしてあげるからね!」


「ライトお(にい)ちゃん、お(しり)()いてあげたら(つぎ)はこの(あたら)しいオムツをね……」


「な、なるほど……」


 ライトは悪戦(あくせん)苦闘(くとう)しながら、なんとかオムツを(かたち)にします。


「よし! 出来(でき)た、これでいいかな?」


 ……と、なんとか無事(ぶじ)オムツは()()わったものの、今度(こんど)はタカヤが()()みません。


「た、タカヤ(くん)どうしたのー? お(なか)()いちゃったかな? それとも(ねむ)い?」


 おそるおそるやわらかーい(ちい)さなタカヤを()()げて、ライトは自分(じぶん)(からだ)をゆっくり()らします。


「よしよし、()()()()……お(ねが)い、()()んでー……?」


 フニャフニャ()いていたタカヤは、(すこ)しずつウトウトとして()て……どうやら(ねむ)りについたようです。


「よかった……()たみたい。(ねむ)かったのかな」


 ほっとしたライトが、(さき)ほどまで寝転(ねころ)んでいたマットの(うえ)にタカヤを()こうとすると……タカヤは(ふたた)び、今度(こんど)()()いたように()()しました!


「ああ()きちゃった! どうしようヒカル(くん)!」


「お、(おれ)もわかんない……! (かあ)さんと(とう)さんは(きゅう)()ばれてお仕事(しごと)()っちゃったし……そうだ、タカヤー? これ()きだろ? ()かないでー!」


 ヒカルはオムツやタオルが(はい)った(おお)きなカバンからガラガラを()()して、タカヤの耳元(みみもと)(やさ)しく()りましたが……それは(いま)逆効果(ぎゃくこうか)だったようで、タカヤのぐずりを余計(よけい)悪化(あっか)させてしまいました。


「うぇえん……ライトお(にい)ちゃんごめーん……!」


「えぇ⁉ ヒカル(くん)まで()かなくていいんだよ!」


「だってぇ……(おれ)のせいでタカヤがぁ……っ!」


「ああもう、ほらこっちおいで!」


 (うで)(なか)のタカヤは相変(あいか)わらずびゃあびゃあ()いていて、腰元(こしもと)()きついて()たヒカルもぐずぐず()()してしまって……ライトも()きたくなってきました。


「どうしたらいいんだ……子守歌(こもりうた)でも(うた)えばいいのか? えーっと……ねーんねーんころーりよー……?」


 ライトの微妙(びみょう)音程(おんてい)(はず)れた子守歌(こもりうた)が、()(しろ)室内(しつない)(ひび)きます。


 その(とき)、カチャリと(とびら)(うす)(ひら)いた(おと)がしました。


「あ! 春子(はるこ)さん、(じゅん)(いち)さん、(もど)ってきてくれたんです……か……」


 ライトは期待(きたい)()めて(とびら)(ほう)()きましたが……そこに()たのは(いま)にも()()しそうな(わら)いを必死(ひっし)(こら)えている(しょう)(ぞう)でした。


「な! (なん)(よう)ですか(しょう)(ぞう)おじさん!」


 あまりの()ずかしさに(みみ)まで()()にしながら、ライトは(しょう)(ぞう)(にら)みます。


「いや、タカヤの()(ごえ)()こえると(おも)って()たら……ライトが(うた)いだすんじゃもん! ワシもう面白(おもしろ)くて面白(おもしろ)くて……っ!」


 相当(そうとう)ツボに(はい)ったのか、(しょう)(ぞう)はもう()(わら)いが()まりません。


「ぐ……わ、(わら)うな!」


「いやー、すまんすまん。ライトはよく頑張(がんば)っとる……ぷ、くく……」


「ああもう! 腹立(はらた)つなぁ!」


 ……ライトが(こわ)(こえ)()したので、びっくりしたタカヤはまた(こえ)()()げて()()して……それに()られてヒカルも(なみだ)()まりません。


「ああ! ごめん二人(ふたり)(おこ)ったんじゃないんだ……うぅ、お(ねが)いだから()()んでよ……」


「それにしても……タカヤが()いとるのはわかるとして、(なん)でヒカルが()いとるんじゃ」


 (しょう)(ぞう)はヒカルの目線(めせん)(かが)んで(たず)ねます。


「うぇ…っ、だって、タカヤが()()まないからぁあ……」


(まった)く、(あに)のお(まえ)がそんなんじゃタカヤも()きやまんわい。ほれ、()とれよ?」


 (しょう)(ぞう)()ている白衣(はくい)のポケットの(なか)片手(かたて)()()んで、そのままモゾモゾと(うご)かすと……なんとポケットから()てきたその()は、まるで怪獣(かいじゅう)()のように()わっているではありませんか!


 ()いピンクのウロコがびっしり()えていて、(なが)(くろ)(とが)った(つめ)(ひか)っていて……あまりのその()わりように、ヒカルはもう(くぎ)()けです。


「ええ! すごーい! かっこいいー!」


「そうじゃろー。ほれ、こんなのも出来(でき)るぞ?」


 もう一度(いちど)(しょう)(ぞう)がポケットに()()れると……今度(こんど)(ほそ)いガラス細工(ざいく)のような()(はや)()わりです。


「すごいすごい! ねぇ(しょう)(ぞう)さん、それっていつもの発明品(はつめいひん)? もっとやってー!」


 すっかり()()んだヒカルが強請(ねだ)りますが、(しょう)(ぞう)はプルプル(くび)(よこ)()りました。


「やじゃもーん、もう(つか)れたもーん。また今度(こんど)じゃな」


「えーいいじゃん、やってよーお(ねが)い!」


「ダーメーじゃ。さて、(つぎ)はタカヤじゃな……ほれ、ライトちょっと()してみぃ」


 ……ライトは渋々(しぶしぶ)、タカヤをゆっくり(しょう)(ぞう)(わた)します。


「おータカヤ、(なに)をそんなに()いとるんじゃ。ほーれよちよち」


 手慣(てな)れた様子(ようす)で、(しょう)(ぞう)がタカヤを()()をゆらゆら()らしていると……(たちま)ち、タカヤは()()んでへにょりと(わら)ったではありませんか!


「わ、(わら)った……! (くや)しいけどすごい……!」


 ライトは(よろこ)びと(にく)しみが()()じったような、(なん)とも()えない表情(ひょうじょう)(しょう)(ぞう)()ました。


「おーおータカヤ、(わら)った(かお)可愛(かわい)いのぉ」


 タカヤのもちもちほっぺをツンツンしながら、(しょう)(ぞう)(かお)をほころばせます。


「タカヤー? ワシもうすぐおじいちゃんになるんじゃよー。(まご)はタカヤと(おな)(どし)じゃなー……そうじゃ! 二人(ふたり)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)になってコンビを()む、なんてどうじゃろ?」


「また(しょう)(ぞう)おじさんは()(はや)すぎる(はなし)を……でもそうか、ショータ(くん)のところのお()さん、もうすぐ()まれるのか」


「あ、そうじゃ。そのショータがお(まえ)心配(しんぱい)をしとったぞ、ライト」


 (しょう)(ぞう)はウトウトとし(はじ)めたタカヤをベビーベッドの(うえ)()ろして、ちいさな毛布(もうふ)()けてあげながら(つづ)けます。


「お(まえ)(むかし)から、あまり(まわ)りに馴染(なじ)めんかったじゃろ? まぁその……キラキラ()使(つか)ったET(いーてぃー)()える(ちから)があることもその原因(げんいん)一端(いったん)じゃろうが。最近(さいきん)元気(げんき)でやってるのかってショータが()にしとったわい」


「や、やってますよ……元気(げんき)に」


高校(こうこう)はどうじゃ? 友達(ともだち)はできたか?」


「で、でででで出来(でき)ましたよ??? お、おおおお弁当(べんとう)だって移動(いどう)教室(きょうしつ)だって一人(ひとり)じゃないですよ???」


 ライトがあまりにもギョロンギョロンと()(せん)右往左往(うおうさおう)させるので……(しょう)(ぞう)(すべ)てを(さっ)しました。


「……ほんと、お(まえ)をここに()れてきて()かったわい。安心(あんしん)しろ、お(まえ)居場所(いばしょ)はここにあるからな」


(なん)ですかその()は! ふ、ふふ二人(ふたり)(ぐみ)(つく)るときに(あま)ったりしないんですからね⁉」


「……ライトお(にい)ちゃん、(とも)だちいないの? (おれ)たちがいるからね」


「ヒカル(くん)まで! だからいるってば……クラスの(ひと)とも何回(なんかい)(はな)したことあるんだから!」


 必死(ひっし)にライトが弁解(べんかい)していると……部屋(へや)(とびら)がノックされて、仕事(しごと)()えた春子(はるこ)(じゅん)(いち)(もど)ってきました。


「ただいまー! ヒカル、ライトくん、タカヤのこと()ててくれてありがとね! あら、(しょう)(ぞう)さんまで! ……まあ。タカヤは()てるのね」


(かあ)さん(とう)さんおかえりー! あのね、タカヤね、しょうぞ……」


 ……(しょう)(ぞう)(はな)(まえ)人差(ひとさ)(ゆび)()てて、ヒカルにしーっと合図(あいず)(おく)ります。


「……タカヤはライトが()かしつけたんじゃよ。子守歌(こもりうた)まで(うた)っとったわい」


「まあ! そうなの? ありがとうライトくん!」


「え⁉ えぇと……」


 (しょう)(ぞう)手柄(てがら)()っては(わる)いかと、ライトが(しょう)(ぞう)(ほう)をちらりと()ると……(しょう)(ぞう)はライトに()けてパチンとウインクをして()せました。


 ……その表情(ひょうじょう)(みょう)(はら)()ったライトは、本当(ほんとう)のことを()()見事(みごと)()()せます。


「……(ぼく)()かしつけました」


「そうか……ライト(くん)()っこが上手(うま)いんだな……(おれ)(おし)えてもらおうか……」


「う、上手(うま)いわけではないですよ? (じゅん)(いち)さん」


「そうか……? あ、そうだ……ライト(くん)(わた)したいものが……」


 (じゅん)(いち)がポケットを(さぐ)って、(ちい)さな緑色(みどりいろ)(いし)()()すと……ライトは途端(とたん)()(かがや)かせます。


「それは! 惑星(わくせい)プローマのイントルベシアントじゃないですか! ま、まさか……くれるんですか⁉」


「おお、()ただけでわかるとは……さすがだな。……ライト(くん)はこういうのが()きだからって……春子(はるこ)相談(そうだん)してもらって()たんだ……」


「あ、ありがとうございます! すごい……実物(じつぶつ)(はじ)めて()た!」


「なにそれー? ライトお(にい)ちゃん(おれ)にも()せてー?」


「いいよヒカル(くん)。これはね、とってもすごい(いし)なんだ!」



 ……春子(はるこ)(じゅん)(いち)(やさ)しい視線(しせん)(ひざ)にのってきたヒカルの(おも)みと(あたた)かい体温(たいおん)()こえてくるタカヤの(ちい)さな寝息(ねいき)……そして(くや)しいかな、(となり)にいる(しょう)(ぞう)のニヤニヤした()みも(ふく)めて……この場所(ばしょ)がライトの宝物(たからもの)でした。


 ここがある(かぎ)り、自分(じぶん)(なん)でも頑張(がんば)れる……そう確信(かくしん)できるくらい、とってもとっても大事(だいじ)でした。



****



「ど、どうかな? ……似合(にあ)ってる?」


 ライトは姿見(すがたみ)(まえ)で、真新(まあたら)しい宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)制服(せいふく)()自身(じしん)姿(すがた)不安(ふあん)そうに(なが)めます。


似合(にあ)似合(にあ)う! いいなーライトお(にい)ちゃん、(おれ)(はや)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)になりたいなー」


「そう()うヒカル(くん)はもうすぐ中学生(ちゅうがくせい)になるんだよね。月日(つきひ)()つのは(はや)いなぁ」


「うん。中学生(ちゅうがくせい)になったら勉強(べんきょう)()えるし部活(ぶかつ)(はじ)まるし……(いま)までみたいに本部(ほんぶ)(あそ)びには()れないかも」


 ヒカルはちょっと残念(ざんねん)そうに(うつむ)きました。


「あ! でも()れる(とき)()るから、その(とき)(いそが)しくても(あそ)んでよね!」


「あはは、わかったよ。ヒカル(くん)こそ、お友達(ともだち)ばかりと(あそ)んで(ぼく)のこと(わす)れないでね?」


 二人(ふたり)(はな)していると……(そと)から部屋(へや)(とびら)(ひら)かれます。


「ライトくん、お着替(きが)()わったー? ……あら! とってもよく似合(にあ)ってるわ! ねぇ(じゅん)(いち)?」


「そうだな春子(はるこ)……ライト(くん)も、立派(りっぱ)になったなぁ……ほら、タカヤも()()くか……?」


 (じゅん)(いち)()いていたタカヤを、ゆっくり(ゆか)()ろしてあげました。


 タカヤは(おと)()(くつ)をピッピッと()らしながらよちよちと(ある)いて()って……ライトの足下(あしもと)にぎゅっと()きつきます。


「らーとにーちゃ、かっこいー!」


本当(ほんとう)? タカヤ(くん)ありがとう!」


 ライトはタカヤを()()げると、やわらかーいそのほっぺたに(おも)存分(ぞんぶん)(ほお)ずりしました。


 そのままぽんぽんのお(なか)をツンッとつつくと、タカヤが(おどろ)いたようにキャタキャタ(わら)うので……ライトはそれがあんまり(いと)おしくて、つい何回(なんかい)もつついてしまいます。


「タカヤ(くん)本当(ほんとう)可愛(かわい)いなぁ……! お給料(きゅうりょう)()たらいっぱい玩具(おもちゃ)()ってあげるからねー」


本当(ほんとう)、ライトお(にい)ちゃんはタカヤに(あま)いよなー」


「ヒカル(くん)だって十分(じゅうぶん)(あま)いだろ!」


仕方(しかた)ないじゃん、だって可愛(かわい)いんだもん! ……っていうかライトお(にい)ちゃんばっかりズルい! (おれ)もタカヤ()っこしたい!」


 ライトとヒカルが()()っていると……(そば)微笑(ほほえ)ましそうに()ていた春子(はるこ)が、(おも)()したように(くち)(ひら)きました。


「そういえば……ライトくん、(しょう)(ぞう)さんとコンビを()むことになったらしいわね?」


 ……それを()くと、ライトは途端(とたん)苦虫(にがむし)()(つぶ)したような(かお)をします。


「そ、それは……お(たが)いコンビを()まずに一人(ひとり)研究(けんきゅう)したいっていう……(よう)利害(りがい)一致(いっち)しただけで。とにかく、(ぼく)(のぞ)んでそうなったわけではありませんからね!」


「あら、そうなの?」


「そうなんです! だからあんまり(ほか)(ひと)には言わないでくださ……」


 そこまで(はな)したところで、ライトのズボンのポケットの(なか)(はい)っている紺色(こんいろ)のポスエッグがブルブルと(ふる)えました。


 ()いていたタカヤをヒカルに(わた)して、ポケットに()()れてそれを(にぎ)ったライトは……はぁーっと(ふか)くため(いき)()きます。


「すみません……ちょっと(しょう)(ぞう)おじさんに()ばれたので()ってきますね。(まった)く、いつも(わけ)わかんないことで()()すんだから……でも、今日(きょう)こそは大事(だいじ)用事(ようじ)かもしれないもんなぁ……」


 ライトは心底(しんそこ)面倒(めんどう)くさそうに、(おも)足取(あしど)りで部屋(へや)()()きました。




「ねぇ(じゅん)(いち)?」


「どうした、春子(はるこ)


(たし)(しょう)(ぞう)さんって……(だれ)ともコンビを()まないことで有名(ゆうめい)だったわよね?」


「……ああ。コンビ制度(せいど)なんて面倒(めんどう)くさいと……一人(ひとり)一番(いちばん)だっていつも()っていたな……」


「それが、ライトくんが一人(ひとり)研究(けんきゅう)したいって希望(きぼう)(かな)えるためにすぐにコンビを()んであげるなんて……ふふ、ライトくん(あい)されてるわね!」




 ……さて、そんなライトが適当(てきとう)(しょう)(ぞう)研究室(けんきゅうしつ)(とびら)をノックして乱暴(らんぼう)(ひら)き、()(さき)()()()んできたのは……


「おお! ライト()たか、()ろ! すごいじゃろー」


 ……自称(じしょう)宇宙(うちゅう)(いち)面白(おもしろ)いらしい、もう(なに)(なん)だかよくわからないほどド派手(はで)(はな)眼鏡(めがね)をかけた(しょう)(ぞう)で。


「……もしかして用事(ようじ)って、それを()せたかっただけですか?」


「もちのろんでそうじゃけど?」


 ……ライトはギリギリと()()()めながら、(しょう)(ぞう)(しり)(まわ)()りを()らわせたい気持(きも)ちを必死(ひっし)(おさ)えるのでした。



****



 ()(しろ)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)()(かい)廊下(ろうか)()っているライトは、(ちい)さな(まど)からこっそりと、(よん)(さい)になったタカヤが部屋(へや)(なか)(あそ)んでいるのを()ていました。


 ……春子(はるこ)(じゅん)(いち)はおそらく仕事(しごと)()っていて、ヒカルも学校(がっこう)(いそが)しいのでしょう、タカヤが一人(ひとり)でこの部屋(へや)(あそ)んでいるのは(けっ)して(めずら)しいことではありません。


 では何故(なぜ)ライトが部屋(へや)(はい)らず(のぞ)くようなことをしているのかと()うと……タカヤの(あそ)(かた)()になるからです。


 ……前々(まえまえ)から(おも)っていたものの、タカヤの(あそ)(かた)少々(しょうしょう)()わっています。


 タカヤが(あそ)んでいるのは、ライトが一年(いちねん)ほど(まえ)()ってあげた幼児用(ようじよう)簡単(かんたん)なパズルなのですが……それを無表情(むひょうじょう)黙々(もくもく)()んで、完成(かんせい)させてはひっくり(かえ)してまた()んで……(なん)とそれを()きることも()三十分(さんじゅっぷん)以上(いじょう)()(かえ)しているようなのです。


 ライトはずっと()ていたわけではありませんが、(さき)ほど(とお)りすがりに()(とき)玩具(おもちゃ)配置(はいち)(ひと)つも()わっていませんから……きっとそういうことなんでしょう。


 数日(すうじつ)(まえ)()たときはずーっと天井(てんじょう)見上(みあ)げていましたし、またその(まえ)はお()かき(ちょう)平仮名(ひらがな)を『あ』から順番(じゅんばん)(すう)時間(じかん)ほどひたすら()(つづ)けていたり……正直(しょうじき)()うと、ライトは(すこ)心配(しんぱい)しているのです。


 さて、そんなタカヤはまたパズルを()()わり、ひっくり(かえ)そうとして……はたと(まど)(そと)にいるライトに()()いたようで、さっきまでの無表情(むひょうじょう)(うそ)のようにニコーッと(わら)って()()ってきました。


 ライトも()()(かえ)して、やっとタカヤのいる部屋(へや)(なか)(はい)ります。


「タカヤ(くん)、パズルで(あそ)んでたの? ずっとやってたみたいだけど……それそんなに(たの)しい?」


 タカヤは不安(ふあん)そうなライトの表情(ひょうじょう)声色(こわいろ)(かん)()って、より一層(いっそう)にっこりと(わら)って()せます。


「……たのしーよ、だってライトおにーちゃんがくれたんだもん! おれ、このパズルすき!」


「そ、そっか! それならいいんだ!」


 ライトが(うれ)しそうに(わら)ったので、タカヤも(うれ)しくなってえへへと(わら)いました。


 ……()きって()ったらライトが……みんながいつも(よろこ)んでくれるから、タカヤは()きって言葉(ことば)使(つか)うことにしていました。


「ねぇタカヤ(くん)、パズルもいいけど……(ほか)のことして(あそ)ばない?」


「ほかのこと……?」


「うん。(なに)かしたいことない?」


「したいこと……」


 ……ここで一瞬(いっしゅん)、ライトが(ちか)くにあるお絵描(えか)きセットに()()けたのをタカヤは見逃(みのが)しません。


「おれ、ライトおにーちゃんとおえかきしたい!」


「お絵描(えか)きか! (じつ)(ぼく)もそれがいいんじゃないかと(おも)ってたんだ」


 ライトが(わら)ったので、タカヤも(わら)います。


 ……()かった、ちゃんとライトの()って()しいこと……正解(せいかい)()えたみたいです。




 ライトとタカヤは(なら)んで、(つくえ)(うえ)()()(はじ)めました。


「ライトおにーちゃんはなにかくの?」


(ぼく)は……そうだな、ネコさんを()こうかな」


「じゃあおれも、ねこさんかくー!」


 いろんな(いろ)のクレヨンを使(つか)って、二人(ふたり)()()(すす)めて()きます。


「そうだ、タカヤ(くん)保育園(ほいくえん)()(はじ)めたんだよね? どう、(たの)しい?」


「えっとね、おれがひとりでいたら、レンがあそぼーって、てをつないでくれてね! それでね、レンとカズとミオとあそんだの!」


「そうなんだ! もうお友達(ともだち)出来(でき)たんだね……(うらや)ましい……」


 宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)になって数年(すうねん)、やっぱりライトには友達(ともだち)出来(でき)ません。


「ライトおにーちゃんどうしたのー?」


「い、いや(なん)でも()い! ほら、ネコさん()けた!」


 ……ライトは美術(びじゅつ)(てき)センスもなかなか独特(どくとく)です。


「わ……すごーい! えっとね……ここのぴんくとむらさきのしましまもよう? すっごくいいとおもう」


「タカヤ(くん)もそう(おも)う? (ぼく)もここ結構(けっこう)()()ってるんだー」


 ライトが自信(じしん)ありげにそう()うので、おそらく()めるポイントは()っていたのでしょう……タカヤはちょっとホッとします。


「タカヤ(くん)は……(くろ)ネコを()いたの?」


「うん。おれくろねこさんすき」


 タカヤの()いた(くろ)ネコは、丁寧(ていねい)隙間(すきま)()く、この(うえ)なく()(くろ)()りつぶされていました。


「タカヤ(くん)()るのが上手(じょうず)だね、すごく綺麗(きれい)だよ」


 そう()められたタカヤが(こま)ったように(わら)ったタイミングで……ライトのお(なか)がきゅーっと(ちから)なく()ります。


「ライトおにーちゃん、おなかすいたの?」


「あはは……そういえばしばらく(なに)()べてなかったな。ねぇタカヤ(くん)一緒(いっしょ)一階(いっかい)のカフェに()って(なに)()べない?」


「……うん! たべる!」


 ここで(ことわ)ったらきっとライトは(なに)()べないでしょうから、タカヤはコクンと(おお)きく(うなず)きました。




 ()(しろ)(なが)廊下(ろうか)を、二人(ふたり)()(つな)いで(ある)きます。


「タカヤ(くん)(なに)()べたい?」


「え、えーっと……あ! あかい……ぐみみたいなやつ、たべたい!」


 以前(いぜん)家族(かぞく)でカフェで食事(しょくじ)をしたときに()べた(もの)を、タカヤは咄嗟(とっさ)(こた)えました。


「いいね。あれ()き?」


「う、うん! すき!」


 タカヤがそう(こた)えて、いつものようにライトの表情(ひょうじょう)確認(かくにん)しようとしたその(とき)




 (ちか)くの部屋(へや)……治療室(ちりょうしつ)(とびら)突然(とつぜん)ガチャンと(ひら)いて、(なか)から(おお)きなモンスターが()()しました!


 モンスターはひどく興奮(こうふん)しているようで、(するど)視線(しせん)(おさな)いタカヤにギロリと()けます。


(あぶ)ない! タカヤ(くん)!」


 ライトが咄嗟(とっさ)にタカヤを(かか)()むように()きしめると……(あば)れるモンスターの(するど)(つめ)が、ライトの右腕(みぎうで)をザクリと()()きました。


「ライトおにーちゃん!」


()ってぇなぁ……! ……大丈夫(だいじょうぶ)だよ、タカヤくん……怪我(けが)()い?」


 ……モンスターはすぐに、(あつ)まった宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)たちによって捕獲(ほかく)されました。


 ()きしめられたままのタカヤには(きず)()えませんが……自分(じぶん)()きしめる()(ちから)が、(すこ)しずつ(よわ)くなっていくのがわかります。


「ライトおにーちゃん! ライトおにーちゃん……っ!」


 (ちい)さくて無力(むりょく)なタカヤには、()きじゃくりながらライトをぎゅっと()きしめ(かえ)すことしか出来(でき)ませんでした。





「ただいまタカヤ(くん)……ごめんね、(こわ)(おも)いしたよね?」


 (うで)虹色(にじいろ)包帯(ほうたい)のような(もの)()いたライトが、タカヤの()部屋(へや)(もど)って()ました。


「……ライトおにーちゃんだいじょうぶ? いたい?」


「あはは、大事(おおごと)()えるだろうけど……ちょっとした(きず)だよ。全然(ぜんぜん)大丈夫(だいじょうぶ)、だから()()んで?」


 ()きじゃくって()()()になっているタカヤを、ライトは(やさ)しく()()げます。


「だって、ライトおにーちゃんけがしちゃった……おれをたすけてくれたから……」


 ひっくひっくと呼吸(こきゅう)をしながらも、タカヤの(くち)()まりません。


「ごめんなさい……ごめんなさぁい……っ」


(なん)(あやま)るの? (ぼく)はタカヤ(くん)(まも)れて(うれ)しかったよ」


「だっておれも、ライトおにーちゃんの……みんなをまもりたいのに……いっつも、よわくて、なきむしで、なんにもできないからぁ……」


「まだ(ちい)さいのにそんなこと()にしてるのか……ねぇタカヤ(くん)?」


 ライトはタカヤとおでこをコツンと()わせます。


「お(ねが)いがあるんだけど……ライトお(にい)ちゃん頑張(がんば)れーって()って?」


「う……? ライトおにーちゃんがんばれー……?」


 タカヤは(なみだ)()にいっぱい()めて、不思議(ふしぎ)そうに(つぶや)きました。


「うん、ありがとう! ……(ぼく)ね、タカヤ(くん)にそう()ってもらえたら(ちから)()いて、(なん)だって出来(でき)るような()がするんだよ。きっと(ほか)のみんなだってそうだ。だからね、(なん)にも出来(でき)ないなんて()わないで?」


 怪我(けが)をした(ほう)()で、ライトはタカヤの(なみだ)(やさ)しく(ぬぐ)います。


「タカヤ(くん)がいてくれるだけで、それだけで十分(じゅうぶん)なんだから。ね?」


「そーなの……?」


「うん、そうだよ」


 ……ライトのポスエッグが、ポケットの(なか)でブルブルと(ふる)えました。


「……ごめんね、お仕事(しごと)(もど)らなきゃ。タカヤ(くん)一人(ひとり)大丈夫(だいじょうぶ)?」


「うん……もうだいじょうぶ。ありがと」


 (やさ)しくタカヤを()ろして、ライトは()(かえ)りながら(とびら)(ひら)きます。


「それじゃあ、いってきます」


「いってらっしゃい! ライトおにーちゃん!」




 ()()って笑顔(えがお)見送(みおく)って、(とびら)()じた瞬間(しゅんかん)に……タカヤはふっと、パズルをやっていた(とき)のような無表情(むひょうじょう)(もど)ります。


「おれのせいだ」


「おれをまもったから、ライトおにーちゃんがけがした。おれが……いるから」


「……てしまいたい」


 ぽそりと(つぶや)いて、タカヤは()()いたように(くび)(よこ)()ります。


「……ううん、もっと……みんなのやくにたたなきゃ」



****



「ねぇねぇねぇ! に、似合(にあ)ってる⁉」


 数年(すうねん)(まえ)ライトがしていたのと(おな)じように、ヒカルは真新(まあたら)しい宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)制服(せいふく)(そで)(とお)して、(まえ)から(よこ)から(うし)ろから、姿見(すがたみ)自分(じぶん)姿(すがた)(なが)めていました。


「だから似合(にあ)ってるってば。さっきから何回(なんかい)()ってるのに……ふふ、よっぽど(うれ)しいんだね」


 ライトは微笑(ほほえ)ましく、(かがみ)(まえ)でくるくる(まわ)るヒカルを()ています。


「そうだ、ヒカル(くん)? 春子(はるこ)さんと(じゅん)(いち)さんがね、ヒカル(くん)合格(ごうかく)(いわ)いに食事(しょくじ)(かい)でもやろうって。(なに)()べたいか(かんが)えておいてって()ってたよ」


「え、本当(ほんとう)⁉ じゃあねー、(おれ)(かあ)さんの(つく)ったハンバーグがいいかなー!」


「あはは、ヒカル(くん)(むかし)からハンバーグ大好(だいす)きだもんね。しかし、あの(ちい)さかったヒカル(くん)がもう宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)になったのか。びっくりだよ、ねぇタカヤ(くん)?」


 ライトは(となり)()っているタカヤに(わら)いかけました。


「うん。(にい)ちゃん毎日(まいにち)(おそ)くまで勉強(べんきょう)頑張(がんば)ってたから、(おれ)もすごく(うれ)しいよ!」


「ありがとうタカヤぁあ……うぅ、(おれ)人生(じんせい)いつも(がけ)っぷちだけど、今回(こんかい)こそはもう()ちたかと(おも)った……ギリギリだったけど合格(ごうかく)できて本当(ほんとう)()かったよ……」


 ……相当(そうとう)絶望(ぜつぼう)(てき)だったのでしょう、ヒカルは半泣(はんな)きです。


(まった)く、ヒカル(くん)()(むし)なところも()わらないね」


「な! ()いてないって! とにかく、これでライトおに……いや、ライトさんとは仕事(しごと)仲間(なかま)だね!」


「え、(なに)その()(かた)


 ライトはきょとんと()(まる)くしました。


「だってさー……その、いつまでもお(にい)ちゃんって()(かた)してたら、なんか……かっこ(わる)いじゃん? これからはさん()けで()ぼうと(おも)って! ほら、お仕事(しごと)だったら敬語(けいご)(はな)(とき)もあるかもしれないし!」


 ヒカルは(こし)()()てて、(むね)をぐーっと()らして()せます。


(べつ)(かま)わないけれど……本当(ほんとう)(いま)から()(かた)()えられるの?」


 ライトが揶揄(からか)うようにクスクス(わら)ったので……ヒカルはむっとしてすぐに()(かえ)しました!


出来(でき)るってば! ライトおに……ライトさんはいっつも()ども(あつか)いするんだから!」


「ほら、出来(でき)てないじゃん」


「うううぅ……とにかく! これからはライトさんって()ぶから!」


 ヒカルが()ねてそっぽを()くと……ふと、地球(ちきゅう)時間(じかん)とは(ちが)(とき)(きざ)む、ここポスリコモスの時計(とけい)()(はい)ります。


「……ん? げっ、もうこんな時間(じかん)⁉ 研修(けんしゅう)集合(しゅうごう)時間(じかん)()ぎてるじゃん! お、(おれ)()ってくる!」


 ヒカルは(つくえ)(うえ)()いていた自分(じぶん)のオレンジ(いろ)のポスエッグを(にぎ)ると、ドタドタと(あわ)ただしく部屋(へや)()()きました。




「あはは……(さき)(おも)いやられるなぁ」


(にい)ちゃんならきっと大丈夫(だいじょうぶ)だよ」


 苦笑(にがわら)いをしているライトに(さわ)やかに(わら)いかけて、タカヤは()(しろ)(つくえ)(まえ)()(しろ)椅子(いす)腰掛(こしか)けると、地球(ちきゅう)から()ってきたであろう(おお)きなカバンを(ひら)いて勉強(べんきょう)道具(どうぐ)()()しました。


「あれ、(いま)から宿題(しゅくだい)? タカヤ(くん)本当(ほんとう)勉強(べんきょう)熱心(ねっしん)だよね……って、ん?」


 ……タカヤが(ひろ)げている問題(もんだい)(しゅう)を、ライトは二度見(にどみ)……いや、(さん)()()します。


「えっと、タカヤ(くん)ってさ……(いま)春休(はるやす)みで……(つぎ)小学(しょうがく)三年生(さんねんせい)、だよね?」


「うん、そうだよ?」


 (ちい)さい文字(もじ)(むずか)しい漢字(かんじ)……どうみてもその問題(もんだい)(しゅう)三年生(さんねんせい)()けではありません。


「こ、こんなに(むずか)しいの()いてるの……? それに、(よこ)()いてあるこの(ほん)……これって宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)試験(しけん)対策(たいさく)(よう)教本(きょうほん)だよね? もしかしてこの勉強(べんきょう)もしてるの……?」


「うん。将来(しょうらい)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)になってみんなの(やく)()ちたいから、勉強(べんきょう)(はや)いほうがいいと(おも)って」


 分厚(ぶあつ)(なか)(すこ)(ひら)いてみると……(こま)かい()()()みがびっしりされています。


 (ほん)には(ひら)(ぐせ)がたくさん()いていて、表紙(ひょうし)には無数(むすう)(こま)かい(きず)(きざ)まれていて……一体(いったい)どれだけの時間(じかん)これを使(つか)って勉強(べんきょう)しているのでしょう。


「すごいな……って! いやいや感心(かんしん)してる場合(ばあい)じゃない!」


 ライトはブンブン(くび)()って、タカヤの(りょう)(かた)(つか)みました。


「タカヤ(くん)、ちゃんと(やす)んだり(あそ)んだりしてる⁉  そりゃ勉強(べんきょう)するのは(わる)いことじゃないけど……さすがにちょっと心配(しんぱい)だよ!」


大丈夫(だいじょうぶ)だよ? (やす)みの()とか、(さそ)ってもらったら友達(ともだち)(あそ)んでるし。(よる)はちゃんと()てるんだから」


「ううん……でも……」


 ここで、ライトの(あたま)妙案(みょうあん)()かびました。


「そうだ! ねぇタカヤ(くん)今日(きょう)はもう勉強(べんきょう)()めにして(ぼく)(あそ)びに()かない? (ぼく)この(あと)予定(よてい)()いんだ!」


「ライトお(にい)ちゃんと(あそ)びに?」


「うん! 場所(ばしょ)は……そうだ、この(あいだ)出来(でき)たばかりのポスリコモス遊園地(ゆうえんち)なんてどうかな?」


遊園地(ゆうえんち)……でも、ライトお(にい)ちゃんお仕事(しごと)頑張(がんば)って(つか)れてるんじゃ……」


 タカヤが返事(へんじ)(こま)っていると、ライトの(まゆ)(すこ)しずつ()がっていきます。


「えっと、()きたく、()い?」


「……ううん! ()きたい! ライトお(にい)ちゃん()れてって?」


()かった! じゃあ早速(さっそく)()こう!」


 ライトは(うれ)しそうに、(すこ)音程(おんてい)(はず)れた鼻歌(はなうた)(うた)いながら身支度(みじたく)(はじ)めました。


 ……ライトが(よろこ)んでくれる……遊園地(ゆうえんち)自体(じたい)にはさほど興味(きょうみ)はありませんが、()くには十分(じゅうぶん)()ぎる理由(りゆう)です。


 タカヤは椅子(いす)から()()がると、()ていた長袖(ながそで)シャツの(うえ)から薄手(うすで)上着(うわぎ)羽織(はお)りました。




「あら、あなたたち()かけるの?」


 宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)出口(でぐち)付近(ふきん)()たスライム(じょう)隊員(たいいん)が、ライトとタカヤに(こえ)をかけました。


(いま)、ポスリコモスでは宇宙(うちゅう)風邪(かぜ)がすごく流行(はや)ってるでしょう? あなたたち(なに)対策(たいさく)していないようだけど……って、まぁ! あなたたち地球(ちきゅう)(じん)じゃない、それなら安心(あんしん)ね!」


 ……あまり(ほか)隊員(たいいん)(はな)()れていないライトは、(すこ)緊張(きんちょう)しながらも返事(へんじ)をします。


「あはは、そうなんですよ……ご心配(しんぱい)ありがとうございます、()ってきますね」


 隊員(たいいん)(かる)会釈(えしゃく)をして、二人(ふたり)(まち)へと()()きました。




「ねぇライトお(にい)ちゃん、地球(ちきゅう)(じん)宇宙(うちゅう)風邪(かぜ)にかからないの?」


「そうだよタカヤ(くん)。なんでも……地球(ちきゅう)()(もの)とか環境(かんきょう)とか、そういうものによって抗体(こうたい)(つく)られるらしくて、今まで宇宙風邪(うちゅうかぜ)にかかった地球人(ちきゅうじん)はいないんだ。宇宙風邪(うちゅうかぜ)予防(よぼう)にも、地球(ちきゅう)物質(ぶっしつ)使(つか)えるんじゃないかって研究(けんきゅう)されているところなんだよ」


「そうなんだ。ライトお(にい)ちゃんって物知(ものし)りだね!」


「あはは……タカヤ(くん)()められると(なん)だか()れるな。あ、()えてきたよ! 地球(ちきゅう)遊園地(ゆうえんち)参考(さんこう)(つく)られてるだけあって、やっぱり(にぎ)やかだな」


 (おお)きくてド派手(はで)看板(かんばん)には、これまた(おお)きく宇宙(うちゅう)公用語(こうようご)で『ポスリコモス遊園地(ゆうえんち)』と()かれています。


「ほら! タカヤ(くん)()こう!」


「うん!」




 遊園地(ゆうえんち)(なか)は、宇宙(うちゅう)風邪(かぜ)流行(はや)っているからか意外(いがい)()いていて。


 危険(きけん)(かん)じるほどスリル満点(まんてん)なジェットコースターに()って、かわいらしいET(いーてぃー)から風船(ふうせん)のようなものをもらって、(あま)いような()っぱいような(あじ)(あか)()(もの)(あお)()(もの)半分(はんぶん)ずつ()んで。


 ……そのどの魅力(みりょく)も、タカヤには正直(しょうじき)よくわかりません。


 でも、(となり)のライトが(たの)しそうに(わら)ってくれるから、タカヤはそれが(うれ)しくて……()てよかったと(おも)ったのでした。


 一日(いちにち)たくさん(あそ)んでたくさん(わら)って、(ゆめ)のような時間(じかん)()ごして……そうして二人(ふたり)はまた、いつも(どお)りの生活(せいかつ)(もど)るはず、だったのに。




 ……異変(いへん)()こったのは、遊園地(ゆうえんち)()った(つぎ)()(よる)のことでした。


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