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第十八話 楽しい時間はあっという間に

****


「タカヤ見(み)てー、あれ美味(おい)しそう! あ、あっちも! ねぇねぇ食(た)べて行(い)かない?」


 たくさんのET(いーてぃー)たちで賑(にぎ)わうポスリコモスの市場(いちば)を歩(ある)きながら、ショースケはあちらこちらに目移(めうつ)りしていました。


「うーん、確(たし)かに美味(おい)しそうだけど…今日(きょう)はこの後(あと)仕事(しごと)があるだろ?」


「ちょっとくらいいいじゃんか! あ、あれも美味(おい)しそ…う、コセツベの実(み)か…」


「ショースケ、コセツベの実(み)苦手(にがて)なのか? モサモサしてるから?」


「ま、まぁちょっとね! ところで今日(きょう)はどんなことするのかな?」


 ショースケははぐらかすように別(べつ)の話題(わだい)を振(ふ)ります。


「俺(おれ)もよくわかってなくて、とりあえず言(い)われた場所(ばしょ)に向(む)かってるんだ。あ、あそこだよ…久(ひさ)しぶりに来(き)たな」


 市場(いちば)を通(とお)り抜(ぬ)けた広(ひろ)い道(みち)の先(さき)には、大(おお)きな大(おお)きな、その上(うえ)カラフルでド派手(はで)な看板(かんばん)が立(た)っていました。


 そこには宇宙(うちゅう)公用語(こうようご)で『ポスリコモス遊園地(ゆうえんち)』と書(か)かれています。


「ポスリコモス遊園地(ゆうえんち)…遊園地(ゆうえんち)⁉」


 ショースケは瞳(ひとみ)をギャラギャラと輝(かがや)かせました!


「え! 今日(きょう)の仕事(しごと)って遊園地(ゆうえんち)であるの⁉ やったー絶対(ぜったい)楽(たの)しいじゃん!」


「遊園地(ゆうえんち)であるって…俺(おれ)、昨日(きのう)部屋(へや)に戻(もど)ってからショースケに言(い)ったよな?」


「…僕(ぼく)、昨日(きのう)のことは全部(ぜんぶ)無(な)かったことにしてるの。頼(たの)むから思(おも)い出(だ)させないで」


 ショースケは昨日(きのう)、タカヤの両親(りょうしん)に無様(ぶざま)な姿(すがた)を晒(さら)してしまったことをまだ引(ひ)きずっているようです。


 おそらく今日(きょう)の仕事(しごと)についての話(はなし)も、ずっとベソをかいていてまともに聞(き)いていなかったのでしょう。


 タカヤがへらりと苦笑(にがわら)いをしていると…


「タカヤくーん! ショースケくーん!」


 賑(にぎ)やかな通(とお)りの先(さき)から、二人(ふたり)を呼(よ)ぶ声(こえ)が聞(き)こえました。


 ウェーブのかかった長(なが)いツインテールを揺(ゆ)らしながら、ティナが満面(まんめん)の笑(え)みで走(はし)って来(き)て…前(まえ)を歩(ある)いていたショースケに思(おも)いっきり抱(だ)きつきます!


「んぶっ⁉」


「久(ひさ)しぶりー! 元気(げんき)にしてた?」


「んぶぶぶ…!」


 力(ちから)の強(つよ)いティナに圧迫(あっぱく)されて、背(せ)の低(ひく)いショースケは上手(うま)く喋(しゃべ)れません。


「こ、こんにちはティナさん。お久(ひさ)しぶりです」


「タカヤくん久(ひさ)しぶりー! ねぇねぇ、もしかして二人(ふたり)もここへお仕事(しごと)しに来(き)たの?」


「二人(ふたり)もってことは…」


「うん、わたしたちもここへお仕事(しごと)しに来(き)たの! 今日(きょう)の仕事(しごと)は二(ふた)組(くみ)で行(おこな)うとは聞(き)いてたんだけど、まさかタカヤくんとショースケくんだったなんて!」


 ティナは喜(よろこ)びを全身(ぜんしん)で表現(ひょうげん)するように、今度(こんど)はタカヤをぎゅーっと抱(だ)きしめて頬(ほお)ずりします。


 そこへ呆(あき)れた様子(ようす)のスイが、道(みち)の先(さき)からやって来(き)ました。


「ちょっとティナ。急(いそ)に居(い)なくなるから驚(おどろ)いた…って、ショースケとタカヤじゃない。何(なん)であなたたちがここにいるのよ」


「聞(き)いてよお姉(ねえ)ちゃん! 今日(きょう)わたしたち四(よん)人(にん)でお仕事(しごと)するんだって!」


 ティナはぴょんぴょんと、今度(こんど)はスイの腕(うで)に抱(だ)きつきます。


「ちょっとは落(お)ち着(つ)きなさいティナ! 全(まった)く…こんなところで駄弁(だべ)ってる場合(ばあい)じゃないの。時間(じかん)が迫(せま)ってるわ、ほら、あなたたちも行(い)くわよ!」


 スイを先頭(せんとう)に、四(よ)人(にん)はバタバタと急(いそ)いで遊園地(ゆうえんち)のカラフルな入場(にゅうじょう)門(もん)をくぐって行(い)きました。


 …その道中(どうちゅう)にほんの少(すこ)しだけタカヤがふらついたのに気(き)が付(つ)いたのは、最後尾(さいこうび)を走(はし)っていたティナだけでした。



****



「それで、今日(きょう)は具体(ぐたい)的(てき)に何(なに)をすればいいの? 二人(ふたり)は聞(き)いてる?」


 連(つ)れて来(こ)られた薄暗(うすぐら)いスタッフルームの中(なか)で、ショースケは首(くび)を傾(かし)げます。


「聞(き)いてるよー。 ふふふー、今日(きょう)の仕事(しごと)はズバリ! 来園者(らいえんしゃ)さんにムッポンを配(くば)ることだよ!」


「む、むっぽん…?」


「あれ、ショースケくんムッポン知(し)らない? ほら、あれだよ」


 ティナが指(ゆび)さした先(さき)には…うぞうぞと動(うご)く足(あし)が大量(たいりょう)についている、紐(ひも)の付(つ)いた浮遊(ふゆう)物体(ぶったい)が大量(たいりょう)にありました。


「ひぃ⁉ 何(なに)あれ⁉」


「し! 静(しず)かにして、お客(きゃく)さんに聞(き)こえるでしょ。…ムッポンは今(いま)このポスリコモスで大(だい)人気(にんき)のおもちゃよ。まぁ地球(ちきゅう)で言(い)うと風船(ふうせん)のようなものね」


 スイはムッポンを一(ひと)つ手(て)に取(と)って、顔(かお)をしかめているショースケにぐいぐい近(ちか)づけます。


「この遊園地(ゆうえんち)、繁忙(はんぼう)期(き)で人手(ひとで)が足(た)りないらしくて…私(わたし)たちは今日(きょう)は遊園地(ゆうえんち)のスタッフさんの手伝(てつだ)いとして呼(よ)ばれたのよ」


「わ、わかったけど…何(なん)で僕(ぼく)にそんなにムッポンを近(ちか)づけるの」


「…だって私(わたし)たちこれを手(て)に持(も)って配(くば)らないといけないのよ? 早(はや)く慣(な)れないと困(こま)るじゃない。はい、これ」


 スイはちょっといじわるに笑(わら)いながら、ムッポンから出(で)ている長(なが)い紐(ひも)を無理(むり)やりショースケに握(にぎ)らせました。


「…スイって意外(いがい)とそういうとこあるよね。うぅ、めちゃくちゃ動(うご)いてる…ねぇタカヤこれ代(か)わりに持(も)ってよ」


「いいけど…それじゃあスイさん、ティナさん。俺(おれ)たちはこのムッポンを持(も)って外(そと)へ出(で)て、来園者(らいえんしゃ)たちに配(くば)ったらいいんですか?」


「あ! そうなんだけど…一番(いちばん)大事(だいじ)なこと忘(わす)れてた!」


 ティナは慌(あわ)てて、右手(みぎて)の人差(ひとさ)し指(ゆび)に付(つ)けている指輪(ゆびわ)型(がた)のポスエッグからスプレー缶(かん)のようなものを取(と)り出(だ)します。


「じゃじゃーん! 今回(こんかい)はこの変身(へんしん)スプレーを使(つか)ってかわいい姿(すがた)に変身(へんしん)するんだよ!」


「変身(へんしん)って…このままの姿(すがた)じゃだめなの?」


「だってここは遊園地(ゆうえんち)だよ? 来園者(らいえんしゃ)さんに夢(ゆめ)を見(み)せて、楽(たの)しい時間(じかん)を提供(ていきょう)するのがお仕事(しごと)なの! ほらほら、早速(さっそく)使(つか)ってみよ!」


 きょとんとしているショースケに、ティナはスプレーを二(に)回(かい)シュッシュと吹(ふ)きかけました。


「はい、ショースケくん! 目(め)を閉(と)じてかわいい姿(すがた)を想像(そうぞう)してみて!」


「かわいい、かわいい…」


 目(め)をぎゅっと瞑(つむ)って、ぶつぶつと呟(つぶや)いたショースケの体(からだ)はみるみるうちに…青(あお)いベストを着(き)て蝶(ちょう)ネクタイを付(つ)けた、真(ま)っ白(しろ)な二(に)足(そく)歩行(ほこう)のうさぎさんに変(か)わっていきます!


「え、え、これ僕(ぼく)⁉ うわー我(われ)ながらすっごくかわいい!」


 ショースケは近(ちか)くにあった姿見(すがたみ)の方(ほう)へ短(みじか)い足(あし)でテポテポ走(はし)っていくと、自分(じぶん)の体(からだ)を前(まえ)から後(うし)ろからまじまじと眺(なが)めました。


「よーし! じゃあわたしたちも変身(へんしん)しよう!」


 ティナはスイにもタカヤにも自分(じぶん)にも、ショースケにやったのと同(おな)じようにスプレーを吹(ふ)きかけました。


 すると…スイはグレーのネコに、ティナはピンク色(いろ)のモフモフなモンスターへと姿(すがた)を変(か)えます。


「お姉(ねえ)ちゃんネコちゃん好(す)きだもんねー!」


「ティナは…よくわからないけれど、可愛(かわい)いからいいんじゃないかしら」


 スイは四(よん)足(そく)歩行(ほこう)でしゃなりしゃなりとムッポン置(お)き場(ば)へ近(ちか)づいて、長(なが)い尻尾(しっぽ)で器用(きよう)にムッポンから飛(と)び出(で)た紐(ひも)を掴(つか)みます。


「これで準備(じゅんび)は完了(かんりょう)ね…って、え?」


 前足(まえあし)でくしくしと顔(かお)を拭(ぬぐ)って…スイはもう一度(いちど)じろりと前(まえ)を見(み)ます。


 隣(となり)にいたティナも同様(どうよう)に目元(めもと)を擦(こす)り、姿見(すがたみ)の方(ほう)から戻(もど)ってきたショースケは逆(ぎゃく)に目元(めもと)を小(ちい)さな両手(りょうて)で覆(おお)いました。


 三(さん)人(にん)の目(め)の前(まえ)には…真(ま)っ赤(か)な体(からだ)にまん丸(まる)の足(あし)が六(むっ)つ生(は)えた、太(ふと)い眉毛(まゆげ)のでっかい芋虫(いもむし)のようなモンスターが転(ころ)がっています。


 真(ま)っ赤(か)なモンスターは大量(たいりょう)に付(つ)いた目(め)をまばたきさせてウネウネと蠢(うごめ)きながら、何故(なぜ)かお尻(しり)の方(ほう)に付(つ)いている口(くち)から声(こえ)を出(だ)しました。


「ご、ごめんなさい…上手(うま)く想像(そうぞう)できなくて…」


「その声(こえ)やっぱりタカヤか…って、いやいや! 上手(うま)く想像(そうぞう)できないにも程(ほど)があるでしょ! かわいい姿(すがた)って言(い)われたよね⁉」


 …今(いま)のタカヤの姿(すがた)をかわいいと言(い)う人(ひと)は…おそらく地球(ちきゅう)では極々(ごくごく)少数(しょうすう)でしょう。


 あんまり直視(ちょくし)したくないショースケは目元(めもと)を手(て)で覆(おお)ったままティナに問(と)いかけます。


「ねぇ、これって変身(へんしん)をやり直(なお)す方法(ほうほう)は無(な)いの?」


「うーん、高級(こうきゅう)な変身(へんしん)スプレーだったら、専用(せんよう)のスプレーで変身(へんしん)を解(と)くことができるんだけど…。この変身(へんしん)スプレーはお手頃(てごろ)価格(かかく)だったから、地球(ちきゅう)の時間(じかん)で二(に)時間(じかん)くらい経(た)たないと変身(へんしん)が解(と)けないの。ごめんね」


 ティナはしょんぼりと、モフモフの体(からだ)を震(ふる)わせました。


「…仕方(しかた)ないわ、約束(やくそく)の時間(じかん)も来(き)ちゃったしこのまま行(い)きましょう。ほら、行(い)くわよ」


 大量(たいりょう)のムッポンを持(も)って、四(よ)人(にん)はスタッフルームの外(そと)へと出(で)て行(い)きました。



****



「こんにちはー! ポスリコモス遊園地(ゆうえんち)へようこそ! 今日(きょう)はいっぱい楽(たの)しんで行(い)ってね!」


 ショースケは小(ちい)さなうさぎの体(からだ)でぴょんぴょん跳(は)ねながら、来園者(らいえんしゃ)にムッポンを配(くば)っていきます。


「ショースケ、もうムッポンには慣(な)れちゃったのね」


「だって変身(へんしん)したタカヤの方(ほう)がよっぽどすごい見(み)た目(め)だったからね…スイ、何(なに)その目(め)は」


「別(べつ)にー?  …残念(ざんねん)だわ、ちょっと可愛(かわい)かったのに」


 聞(き)こえないようにそう小(ちい)さく呟(つぶや)いたスイも、その隣(となり)で笑顔(えがお)を絶(た)やさないティナも、一生懸命(いっしょうけんめい)ムッポンを配(くば)りますが…


残念(ざんねん)ながらそんな三(さん)人(にん)の前(まえ)に集(あつ)まってくる来園者(らいえんしゃ)はちらほらで、ほとんどの来園者(らいえんしゃ)は…


「あ、押(お)さないでください…皆(みな)さんの分(ぶん)、ちゃんとありますから、ね?」


 赤(あか)くてでかい芋虫(いもむし)状(じょう)の生物(せいぶつ)であるタカヤの元(もと)へ集(あつ)まっていました。


「そうよね…よく考(かんが)えたら、ポスリコモスはこのムッポンが大(だい)人気(にんき)になるような星(ほし)なんだもん…地球(ちきゅう)とはかわいいの感覚(かんかく)が違(ちが)って当然(とうぜん)よね」


 頭上(ずじょう)で浮(う)かんでわさわさと足(あし)を動(うご)かすムッポンを見(み)つめながら、スイは小(ちい)さくため息(いき)を吐(つ)きます。


「お姉(ねえ)ちゃんのネコちゃん可愛(かわい)いから自信(じしん)持(も)って! ほら、お客(きゃく)さんが来(き)たよー笑(わら)って!」


 そんなこんなで四(よ)人(にん)がムッポン配(くば)りに精(せい)を出(だ)していると…




「うぇえええん! 助(たす)けてー!」


 少(すこ)し離(はな)れたところから大(おお)きな声(こえ)が聞(き)こえました。


 見(み)ると、ガヤガヤと人(ひと)だかりが出来(でき)ています。


「どうしたのかしら…あっ!」


 何(なに)かに気(き)が付(つ)いたスイが、前足(まえあし)ではるか上(うえ)を指(ゆび)さしました。


 園内(えんない)に植(う)えられている、それはそれは背(せ)の高(たか)いメタリックに輝(かがや)く木(き)の天辺(てっぺん)に…小(ちい)さなオレンジ色(いろ)のET(いーてぃー)がしがみついています!


 そのすぐ側(そば)の枝(えだ)には四(よ)人(にん)が配(くば)っていたムッポンが一(ひと)つ絡(から)みついていて、どうやらそれを取(と)りたくて木(き)に登(のぼ)ってしまい、降(お)りられなくなったようです。


「大変(たいへん)! すぐに助(たす)けなきゃ、えーっとポスエッグから道具(どうぐ)を…あれ?」


 ティナはいつも通(どお)り右手(みぎて)の人差(ひとさ)し指(ゆび)に付(つ)けているポスエッグを見(み)ようとして…そこにはモフモフのピンクの毛皮(けがわ)しか無(な)いことに気(き)がつきました。


「…まさか、ポスエッグごと変身(へんしん)しちゃった…?」


「そのまさかみたいね…私(わたし)の腕(うで)にも指輪(ゆびわ)が付(つ)いてないわ」


 スイの右手(みぎて)にも、やわらかそうな肉球(にくきゅう)しか付(つ)いていません。


「俺(おれ)もポケットに入(い)れてたエッグロケットごと変身(へんしん)したみたいだ、ショースケもか?」


「う、うん。僕(ぼく)もカバンごと変身(へんしん)したみたい…」


 その場(ば)でウネウネ動(うご)くタカヤをショースケはやっと見慣(みな)れて来(き)たのか、くりくりの赤(あか)い瞳(ひとみ)を薄(うす)―く開(ひら)いて見(み)つめました。


 四(よ)人(にん)があたふたしている間(あいだ)にも、木(き)の上(うえ)にしがみついているET(いーてぃー)は大(おお)きな声(こえ)で助(たす)けを求(もと)めます。


「ひっくひっく…たすけてー…」


「そ、そうだわ!」


 スイはしっぽをくるりと一回(いっかい)揺(ゆ)らすと、人(ひと)だかりが出来(でき)ている木(き)の根元(ねもと)へと走(はし)って行(い)きました。


「スイ! どうするの?」


 ショースケたちもそれに付(つ)いていきます。


「私(わたし)は今(いま)ネコなのよ? それならこの木(き)くらい登(のぼ)って助(たす)けに行(い)けるかも!」


 そう言(い)って、スイは木(き)に鋭(するど)い爪(つめ)を立(た)ててペタリと貼(は)り付(つ)いて…そのままズルズルと滑(すべ)り落(お)ちてきました。


「あ、あら? おかしいわね、もう一度(いちど)!」


 …当然(とうぜん)、二(に)回目(かいめ)のチャレンジもさっきと結果(けっか)は変(か)わりません。


「お姉(ねえ)ちゃん、あのね…」


 ティナはもごもごと、言(い)いにくそうに口(くち)を開(ひら)きます。


「変身(へんしん)スプレーはプニプヨ星人(せいじん)の遺伝子(いでんし)を元(もと)に作(つく)られてて、見(み)た目(め)だけを変化(へんか)させる道具(どうぐ)だから…身体(しんたい)能力(のうりょく)はお姉(ねえ)ちゃんのままなんだよ」


「そ…そういうことは早(はや)く言(い)いなさいよ!」


 スイは全身(ぜんしん)毛(け)だらけでよくわかりませんが、おそらく顔(かお)を真(ま)っ赤(か)にしてティナの顔面(がんめん)に飛(と)びかかりました。


「きゃーごめんごめん! だってお姉(ねえ)ちゃんすぐ飛(と)び出(だ)しちゃうんだもん」


 モフモフの腕(うで)で、ティナはスイを抱(だ)き上(あ)げて優(やさ)しく撫(な)でます。


「で、結局(けっきょく)どうしよう? ううー、エッグロケットさえあればすぐに助(たす)けてあげれるのに!」


 ショースケは真(ま)っ白(しろ)な小(ちい)さな足(あし)をその場(ば)でジタジタ鳴(な)らしながら上(うえ)を見上(みあ)げました。


 木(き)の天辺(てっぺん)にいるET(いーてぃー)は声(こえ)を出(だ)す元気(げんき)をも無(な)くしており、もうあまり時間(じかん)がありません。


「…俺(おれ)がコスモピースの力(ちから)を使(つか)うよ」


「え、タカヤその見(み)た目(め)でも使(つか)えるの?」


「それはやってみないとわからないけど…何(なん)とか頑張(がんば)ってみる。ショースケ、危(あぶ)ないかもしれないから周(まわ)りにいるET(いーてぃー)たちをここから遠(とお)ざけてくれないか?」


「わかった! スイもティナも手伝(てつだ)って!」


 ショースケとスイとティナが三(さん)人(にん)で協力(きょうりょく)して周囲(しゅうい)のET(いーてぃー)たちを遠(とお)ざけている間(あいだ)に、タカヤは芋虫(いもむし)状(じょう)の体(からだ)をとにかくウネウネと動(うご)かします。


(ええっと…ここが腕(うで)でここが足(あし)、か? と…とにかくやってみるしかない!)


「タカヤー! 準備(じゅんび)できたよー!」


「わかった、始(はじ)めるぞ!」


 タカヤは全身(ぜんしん)に力(ちから)を込(こ)めて、コスモピースの力(ちから)を発動(はつどう)させました。


 やわらかそうな体(からだ)が内側(うちがわ)から発光(はっこう)するようにギラギラと輝(かがや)き、周囲(しゅうい)の空気(くうき)が共鳴(きょうめい)してチカチカと光(ひか)ります。


 体(からだ)をぐいっと仰(の)け反(ぞ)って、タカヤが木(き)の天辺(てっぺん)を鋭(するど)く睨(にら)むと…


「わ…! 見(み)て、枝(えだ)が!」


 ショースケが白(しろ)い手(て)で指(さ)した先(さき)では…小(ちい)さなET(いーてぃー)がしがみついている枝(えだ)と、ムッポンが絡(から)みついている枝(えだ)の二(に)本(ほん)がひとりでに折(お)れて、ふわりと空中(くうちゅう)に浮(う)かんでいました。


 そのままゆっくりゆっくり、枝(えだ)は地面(じめん)に降(お)りて来(き)ます。


「すごいわね…これがコスモピースの力(ちから)…」


「ね、ね⁉ すごいでしょ!」


 初(はじ)めてその力(ちから)を目(ま)の当(あ)たりにして驚(おどろ)くスイに、ショースケは何故(なぜ)か自分(じぶん)のことのように自慢(じまん)げに振(ふ)る舞(ま)いました。


「ね⁉ ティナも初(はじ)めて見(み)たでしょ? コスモピースの力(ちから)って本当(ほんとう)にすごいんだから!」


「え、あ! うん、そうだねショースケくん!」


 三(さん)人(にん)がのんきに空(そら)を見上(みあ)げていたその時(とき)…



 ゆっくりと降(お)りていた枝(えだ)が突然(とつぜん)ガクンと揺(ゆ)れたかと思(おも)うと、枝(えだ)はまるでコントロールを失(うしな)ったかのように真(ま)っ逆(さか)さまに落(お)ちて来(き)ます!


「え、え⁉ 落(お)ちてくる!」


 ショースケは慌(あわ)てて枝(えだ)を受(う)け止(と)めようと前(まえ)に出(で)ますが…落(お)ちてくる枝(えだ)は、少(すく)なくとも小(ちい)さな白(しろ)ウサギである今(いま)のショースケに受(う)け止(と)められるサイズではありません。


「危(あぶ)ないショースケくん! 下(さ)がって!」


 変身(へんしん)した三(さん)人(にん)の中(なか)ではまだ一番(いちばん)体(からだ)が大(おお)きいティナが飛(と)び出(だ)して、ショースケの上(うえ)から枝(えだ)を受(う)け止(と)めようとします。


「だめよティナ! あなたの大(おお)きさでも危(あぶ)ないわ!」


「でもお姉(ねえ)ちゃん! わたしが受(う)け止(と)めなきゃ枝(えだ)の上(うえ)のあの子(こ)が!」


 落(お)ちて来(く)る枝(えだ)はもうすぐそこまで迫(せま)っています。


 …スイは四(よん)本(ほん)の足(あし)で、地面(じめん)をぎゅっと踏(ふ)みしめました。


「ダメよ、私(わたし)は…もう傷(きず)ついたティナを見(み)るのは嫌(いや)なの!」


 そう叫(さけ)ぶと、スイは強(つよ)く足下(あしもと)を蹴(け)って、ティナの背中(せなか)に突進(とっしん)しました!


 ティナはバランスを崩(くず)して押(お)し出(だ)され、近(ちか)くに居(い)たショースケ諸共(もろとも)前方(ぜんぽう)に転(ころ)びます。


 …枝(えだ)は真(ま)っ直(す)ぐに、小(ちい)さなネコの姿(すがた)のスイの上(うえ)に落(お)ちて来(き)て。


「お姉(ねえ)ちゃん!」


「スイ!」


 ティナとショースケが急(いそ)いで後(うし)ろを振(ふ)り向(む)くと…



 落(お)ちてきた枝(えだ)は、スイの頭(あたま)のほんの数(すう)センチ上(うえ)で浮(う)いていました。



「ごめんなさい…この体(からだ)で力(ちから)が上手(うま)くコントロールが出来(でき)なくて。…怖(こわ)い思(おも)いをさせてしまいました…」


 真(ま)っ赤(か)な体(からだ)をひねりながらタカヤは声(こえ)を絞(しぼ)り出(だ)すと、枝(えだ)をゆっくり地面(じめん)の上(うえ)に置(お)きました。


 枝(えだ)にしがみついていたオレンジ色(いろ)の小(ちい)さなET(いーてぃー)が、泣(な)きながら降(お)りてきます。


「うぇええん…こわかったぁ…」


「…うん、よく頑張(がんば)ったわね」


 スイは小(ちい)さな前足(まえあし)で小(ちい)さなET(いーてぃー)の頭(あたま)を撫(な)でると、次(つぎ)に降(お)りてきた二(に)本(ほん)目(め)の枝(えだ)に絡(から)まっていたムッポンを尻尾(しっぽ)で外(はず)して掴(つか)みました。


 そしてそのまま、そのムッポンを小(ちい)さなET(いーてぃー)に渡(わた)します。


「もう手(て)を離(はな)したらだめよ?」


「…うん、ありがとぉ」



****



「ふふん、やっぱり慣(な)れ親(した)しんだ体(からだ)が一番(いちばん)だね! カバンもエッグロケットも戻(もど)ってきたし!」


 時間(じかん)が経(た)って変身(へんしん)スプレーの効果(こうか)が切(き)れたのが嬉(うれ)しいのか、ショースケは薄暗(うすぐら)いスタッフルームの中(なか)の姿見(すがたみ)で自分(じぶん)の体(からだ)と肩(かた)から提(さ)げたカバンをまじまじと眺(なが)めていました。


「ムッポン配(くば)りも無事(ぶじ)に終(お)わって良(よ)かったわ…ところで。ねぇティナ、何時(いつ)まで私(わたし)に抱(だ)きついてるつもり?」


「うぅうう…だってお姉(ねえ)ちゃんが無茶(むちゃ)するんだもん! 怖(こわ)かったよー!」


「私(わたし)だってあなたが無茶(むちゃ)するから怖(こわ)かったわよ! ほら、お互(たが)い様(さま)なんだからもういいでしょ?」


「やだー!」


 ティナはスイの頬(ほお)に頬(ほお)ずりしながら、抱(だ)きしめる力(ちから)を緩(ゆる)めません。


「全(まった)く…あら? そういえばタカヤは?」


「タカヤはトイレだってさ。でもなかなか戻(もど)ってこないね、トイレってここからそんなに遠(とお)かったっけ?」


 ショースケは姿見(すがたみ)の中(なか)の自分(じぶん)を見(み)つめたまま首(くび)をひねります。


「あ! じゃあわたしが飲(の)み物(もの)買(か)ってくるついでに探(さが)してくるよ!」


 ティナはやっとスイから手(て)を離(はな)してぴょんっと立(た)ち上(あ)がりました。


「飲(の)み物(もの)なら私(わたし)が買(か)いに…」


「ダメ! お姉(ねえ)ちゃんまたいつ危(あぶ)ないことするかわかんないもの、ここで待(ま)ってて!」




 スタッフルームの扉(とびら)をくぐったティナは賑(にぎ)やかな遊園地(ゆうえんち)の中(なか)を歩(ある)きます。


 楽(たの)しそうなET(いーてぃー)たち、どう動(うご)くかの予想(よそう)が付(つ)かない様々(さまざま)なアトラクション…歩(ある)いているだけでなんだかわくわくしてしまって、ティナは小(ちい)さくスキップしながら飲(の)み物(もの)の売(う)っている売店(ばいてん)へとたどり着(つ)きました。


「えっと、この青(あお)いのを二(ふた)つと、赤(あか)いのを二(ふた)つください!」


 腕(うで)いっぱいに飲(の)み物(もの)を四(よっ)つ抱(かか)えて、溢(こぼ)さないよう慎重(しんちょう)に…今度(こんど)はゆっくり元(もと)来(き)た道(みち)を戻(もど)ります。


「そういえば…タカヤくんいないなぁ。トイレは売店(ばいてん)よりスタッフルームに近(ちか)いはずなのに」


 キョロキョロと辺(あた)りを見回(みまわ)しながら歩(ある)いていると…ふと、改修(かいしゅう)中(ちゅう)のアトラクションがティナの目(め)に留(と)まりました。


 見上(みあ)げるほど大(おお)きなそのアトラクションは、骨組(ほねぐ)みにこれまた大(おお)きな布(ぬの)が被(かぶ)せられていて、外(そと)からは中(なか)が見(み)えないようになっています。


 …急(きゅう)に、ざわざわと胸騒(むなさわ)ぎがして。


「まさか、ね」


 ティナがそろりと、布(ぬの)をめくって中(なか)を覗(のぞ)いてみると…



 そこには、体(からだ)を抱(かか)えてうずくまるタカヤがいました。


 肘(ひじ)と膝(ひざ)を地面(じめん)に付(つ)けて、ひどく震(ふる)えています。


「タカヤくん⁉」


 すぐに飲(の)み物(もの)を地面(じめん)に置(お)いて、ティナはタカヤに駆(か)け寄(よ)りました。


「どうしたの⁉ 大丈夫(だいじょうぶ)⁉」


「…あぁ、ティナさんですか」


 タカヤは誰(だれ)から見(み)ても一目瞭然(いちもくりょうぜん)に、無理(むり)やり笑(わら)って見(み)せます。


「大丈夫(だいじょうぶ)ですよ、慣(な)れない姿(すがた)で力(ちから)を使(つか)ったからちょっと疲(つか)れちゃって。すぐに戻(もど)りますね」


「大丈夫(だいじょうぶ)じゃないよ、こんなに震(ふる)えて…」


「大丈夫(だいじょうぶ)ですよ」


「でも…」


「大丈夫(だいじょうぶ)だって言(い)ってるじゃないですか!」


 急(きゅう)に声(こえ)を荒(あら)げたタカヤに、ティナはビクリと怯(ひる)みます。


「あ…ごめんなさい。でも本当(ほんとう)に大丈夫(だいじょうぶ)なんですよ、ほら」


 真(ま)っ直(す)ぐ立(た)って笑(わら)って見(み)せるタカヤを前(まえ)に…ティナは遊園地(ゆうえんち)の入(い)り口(ぐち)で、タカヤが少(すこ)しふらついたことを思(おも)い出(だ)しました。


「ねぇ、タカヤくん」


「なんですか?」


「それは…本当(ほんとう)に、変身(へんしん)してコスモピースの力(ちから)を使(つか)ったのが原因(げんいん)?」


「…」


「だって、特級(とっきゅう)になれるほどすごい力(ちから)なんだもん…タカヤくんの体(からだ)に何(なん)の影響(えいきょう)も無(な)いとは思(おも)えない。もしかして最近(さいきん)ずっと、体調(たいちょう)が悪(わる)いの?」


「……」


「…誰(だれ)にも、ショースケくんにも言(い)ってないの? ねぇ、相談(そうだん)してみようよ…そしたら少(すこ)しは…っ」


 そこまで言(い)って、ティナは口(くち)を噤(つぐ)みました。


 目(め)の前(まえ)のタカヤが、信(しん)じられないほど真(ま)っ暗(くら)な、闇(やみ)のような目(め)で自分(じぶん)を見(み)ていたからです。


「…そろそろ戻(もど)りましょうティナさん、二人(ふたり)が心配(しんぱい)します。あ、飲(の)み物(もの)半分(はんぶん)持(も)ちますよ」


 タカヤは地面(じめん)に置(お)いてあった赤(あか)い飲(の)み物(もの)を二(ふた)つ手(て)に取(と)りました。


「ティナさん? 戻(もど)りましょう?」


「…タカヤくんは」


 青(あお)い飲(の)み物(もの)を二(ふた)つ手(て)に取(と)って、ティナは俯(うつむ)いたまま言(い)います。


「タカヤくんは…本当(ほんとう)にそれでいいの…?」


「…はい。これが、いいんです」


「そっか、それなら…仕方(しかた)ないね」


 二人(ふたり)は布(ぬの)をくぐって、また賑(にぎ)やかな遊園地(ゆうえんち)の道(みち)へ戻(もど)って行(い)きました。



****



「二人(ふたり)ともおかえり、遅(おそ)かったね?」


「あはは、ただいまショースケ。途中(とちゅう)で来園者(らいえんしゃ)さんの道案内(みちあんない)をしたりしてたから遅(おそ)くなったよ」


「なんだそうなんだ、トイレ行(い)って帰(かえ)ってこないからお腹(なか)でも痛(いた)いのかと思(おも)っちゃったよ。あ、ティナ飲(の)み物(もの)ありがとう!」


 ショースケはティナから青(あお)い飲(の)み物(もの)を受(う)け取(と)って、美味(おい)しそうに飲(の)み始(はじ)めました。


「ティナも遅(おそ)かったわね? 売店(ばいてん)そんなに遠(とお)かった?」


「…ふふふー、実(じつ)はちょっと迷(まよ)っちゃって! うろうろしてたら時間(じかん)が掛(か)かっちゃった、ごめんねお姉(ねえ)ちゃん!」


「きゃっ! もう、また抱(だ)きついてきて。今日(きょう)はいつも以上(いじょう)に甘(あま)えん坊(ぼう)なんだから」


 やわらかな手(て)つきで、スイがティナのふわふわの頭(あたま)を撫(な)でます。


「…えへへ。ねぇ、わたしお腹(なか)空(す)いて来(き)ちゃったなー? そろそろ本部(ほんぶ)に戻(もど)ろうよー!」


「えー、僕(ぼく)ここ初(はじ)めて来(き)たから遊(あそ)びたい! ねぇタカヤ遊(あそ)んで帰(かえ)ろうよー!」


 ショースケがタカヤの腕(うで)をぐいぐい引(ひ)っ張(ぱ)って外(そと)へ出(で)ようとするので、ティナは優(やさ)しく手(て)を握(にぎ)ってそれを止(と)めます。


「ダーメ、ショースケくん。お仕事(しごと)の報告(ほうこく)をしに戻(もど)らないと!」


「うぅ…ジェットコースターみたいなやつ乗(の)りたかったなぁ。また今度(こんど)来(こ)ようねタカヤ、絶対(ぜったい)だよ!」


「…ああ、そうだな」


 赤(あか)い飲(の)み物(もの)を少(すこ)し飲(の)んで、タカヤは本当(ほんとう)にいつも通(どお)り笑(わら)って見(み)せました。



****



 四(よ)人(にん)は宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)最上階(さいじょうかい)にある、肖(しょう)造(ぞう)の研究室(けんきゅうしつ)を訪(おとず)れました。


「ただいま戻(もど)りました博士(はかせ)。これお土産(みやげ)のムッポンです。博士(はかせ)が好(す)きそうな見(み)た目(め)ですよ」


「おお、おかえり。ほう…噂(うわさ)には聞(き)いとったが、これはなかなか面白(おもしろ)いのう」


 肖(しょう)造(ぞう)はスイから受(う)け取(と)ったムッポンの紐(ひも)を椅子(いす)の背(せ)もたれに括(くく)り付(つ)けて、ゆらゆら揺(ゆ)らして遊(あそ)んでいます。


「そうよ、ティナ。あなたお腹(なか)が空(す)いてるんじゃなかった? 一(いっ)階(かい)のカフェに何(なに)か食(た)べに行(い)く?」


「…あ、うん! 行(い)きたい行(い)きたい! そういえば昨日(きのう)新(しん)メニューが出(で)たよね」


「え、新(しん)メニュー⁉ ねぇねぇそれってどんなの?」


 食(く)いしん坊(ぼう)なショースケはすぐに食(く)いつきます。


「えっとねー、地球(ちきゅう)で言(い)う鶏肉(とりにく)みたいな味(あじ)の木(き)の実(み)がいーっぱい挟(はさ)まったサンドイッチで…」


「食(た)べたい! 行(い)く! ねぇタカヤも行(い)こう!」


「あ、俺(おれ)は…」


 タカヤは鋭(するど)い視線(しせん)を向(む)ける肖(しょう)造(ぞう)と目(め)が合(あ)いました。


「…俺(おれ)はツバサのことについて肖(しょう)造(ぞう)さんに相談(そうだん)があるからここにいるよ。ショースケ、よかったら俺(おれ)の分(ぶん)テイクアウトして来(き)てくれないか?」


「えー、しょうがないなー。それじゃあ僕(ぼく)行(い)ってくるからねー」


 スイとティナとショースケは、研究室(けんきゅうしつ)の扉(とびら)をくぐって階下(かいか)へと降(お)りていきました。




「…何(なん)でしょう、肖(しょう)造(ぞう)さん」


「タカヤ、お前(まえ)…コスモピースの力(ちから)が抑(おさ)え切(き)れんほど強(つよ)くなっとるな」


 …タカヤは何(なに)も言(い)い返(かえ)しません。


「もし今(いま)、強(つよ)い力(ちから)を使(つか)うようなことがあったら…力(ちから)が暴走(ぼうそう)してもおかしくない。のお、タカヤ」


 肖(しょう)造(ぞう)は近(ちか)くの椅子(いす)に深(ふか)く腰掛(こしか)けました。


「お前(まえ)、しばらくこのポスリコモスに居(お)れ」


 タカヤの目(め)を真(ま)っ直(す)ぐ見据(みす)えて、肖(しょう)造(ぞう)は続(つづ)けます。


「はっきり言(い)う。お前(まえ)の、コスモピースの在処(ありか)がヤツにバレた。近(ちか)いうちに…お前(まえ)を狙(ねら)って時(とき)目(め)木(き)町(ちょう)に何(なに)かがやって来(く)るかも知(し)れん。今(いま)のお前(まえ)がそいつと相対(あいたい)したら…おそらく、無事(ぶじ)では居(お)れんじゃろう」


「…大丈夫(だいじょうぶ)です、やります」


「タカヤ!」


「だって他(ほか)に誰(だれ)が出来(でき)るんですか⁉」


 自分(じぶん)の服(ふく)の胸元(むなもと)をぎゅっと掴(つか)んで、タカヤは肖(しょう)造(ぞう)を睨(にら)みました。


「…やって来(く)るのは多分(たぶん)、前(まえ)に時(とき)目(め)木(き)池(いけ)や惑星(わくせい)ミッシェルで会(あ)ったET(いーてぃー)より強力(きょうりょく)なものなんでしょう? 俺(おれ)じゃない、他(ほか)の宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)でそいつらに勝(か)てるんですか?」


「それは…」


「…時(とき)目(め)木(き)町(ちょう)には、俺(おれ)の大事(だいじ)なものがたくさんあります。絶対(ぜったい)、守(まも)りたいんです。やらせてください、例(たと)え何(なに)があっても…俺(おれ)は勝(か)ちます、勝(か)って見(み)せます。だから」



「…俺(おれ)に何(なに)かあったときは…よろしくお願(ねが)いします。肖(しょう)造(ぞう)さん」


 ふわりと、タカヤは笑(わら)いました。


 まるでこれから起(お)こることを、全部(ぜんぶ)全部(ぜんぶ)、わかっているみたいでした。



****



 ここはポスリコモスから、遠(とお)く遠(とお)く離(はな)れたオラブ星(せい)。


 一人(ひとり)のオラブ星人(せいじん)が住(す)む少(すこ)し変(か)わった建物(たてもの)に、美(うつく)しいオラブ星人(せいじん)とそのパートナーのET(いーてぃー)が二人(ふたり)で訪(たず)ねて来(き)ました。


「おやー、おかえりなさいですねー。名前(なまえ)は確(たし)か…ココレヨさん、でしたっけー。逃(に)げるのは止(や)めたんですねー」


 住人(じゅうにん)のオラブ星人(せいじん)は怪(あや)しい蛍光色(けいこうしょく)の薬品(やくひん)を混(ま)ぜながら続(つづ)けます。


「アナタたちに私(わたし)の体(からだ)の一部(いちぶ)を混(ま)ぜた薬(くすり)を持(も)たせたのは正解(せいかい)でしたー。あの変身(へんしん)を見分(みわ)けることができるのは…私(わたし)の知(し)る限(かぎ)り、コスモピースの力(ちから)を持(も)つ者(もの)だけですからねー」


 それを聞(き)いたココレヨが冷静(れいせい)に口(くち)を開(ひら)きます。


「つまり…やはり貴方(あなた)は私(わたし)たちを利用(りよう)して、貴方(あなた)の目的(もくてき)を達成(たっせい)したということですね? …私(わたし)たちに渡(わた)した薬(くすり)を入(い)れる箱(はこ)に、盗聴(とうちょう)器(き)が仕掛(しか)けてあったんでしょう?」


「そうですよー、まぁ距離(きょり)が距離(きょり)ですからあまり正確(せいかく)には聞(き)き取(と)れませんでしたけどー。二人(ふたり)には感謝(かんしゃ)してますー、おかげで確証(かくしょう)が持(も)てましたー。これまで大変(たいへん)だったんですよー? 惑星(わくせい)ミッシェルに探査(たんさ)のための生物(せいぶつ)をいっぱい送(おく)ったりー、宇宙警察(うちゅうけいさつ)のデータを盗(ぬす)んだりー。でも…それも今回(こんかい)で終わりですー」


 ニタリと、オラブ星人(せいじん)のような何(なに)かは笑(わら)います。


「さー、私(わたし)は最後(さいご)の調整(ちょうせい)に忙(いそが)しいんですー。帰(かえ)ってもらっていいですかー?」


「わかりました…その節(せつ)は、お世話(せわ)になりました。今日(きょう)はそれを言(い)いに来(き)たんです」


 ココレヨと小(ちい)さなET(いーてぃー)は、すぐに外(そと)へと出(で)て行(い)きました。




「さてー、随分(ずいぶん)時間(じかん)がかかってしまいましたが…もうすぐ完成(かんせい)ですー。大(たい)した材料(ざいりょう)は使(つか)えない環境(かんきょう)ですがー…これならコスモピースの力(ちから)とある程度(ていど)は張(は)り合(あ)えますかねー」


「やっと、やっとですー…やっと…この宇宙(うちゅう)から消(け)し去(さ)ることができますねー。コスモピース」



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