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第十七話 束の間の再会に愛を込めて

****


「ねぇタカヤ聞(き)いた? 僕(ぼく)らがこの間(あいだ)、スイとティナと行(い)った惑星(わくせい)ミッシェルの話(はなし)」


 ポスリコモス行(ゆ)きの特急(とっきゅう)こすもに備(そな)え付(つ)けられているプヨプヨの座席(ざせき)に座(すわ)って、ショースケは隣(となり)のタカヤに問(と)いかけます。


「ああ、見慣(みな)れない生物(せいぶつ)が大量(たいりょう)発生(はっせい)したらしいな」


「うん。危害(きがい)を加(くわ)えて来(く)るわけじゃないんだけど、とにかく数(かず)が多(おお)くて宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)も対処(たいしょ)に困(こま)ってたみたい。あ、でも…数日(すうじつ)前(まえ)にまるで消(き)えたみたいにパタリと居(い)なくなったらしいよ、本当(ほんとう)不思議(ふしぎ)だよねー」


 そう言(い)いながら、ショースケはいつも持(も)っているカバンの中(なか)からバナナを取(と)り出(だ)し、皮(かわ)を剥(む)いてむしゃりと頬張(ほおば)りました。


「あ、タカヤもいる? 二(に)本(ほん)持(も)ってきたけど」


「そうなんだ、じゃあもら…」


 …無意識(むいしき)なのでしょうが、ショースケの眉(まゆ)が露骨(ろこつ)に下(さ)がっていきます。


「…わないでおこうかな。ショースケが食(た)べたらいいよ!」


「え、いいの⁉ わーい!」


 一本(いっぽん)目(め)をすぐに食(た)べ終(お)えたショースケは嬉(うれ)しそうに、二(に)本(ほん)目(め)のバナナの皮(かわ)を剥(む)き始(はじ)めました。


 タカヤはそれを見(み)てへにょりと笑(わら)うと、ふと思(おも)い出(だ)したように口(くち)を開(ひら)きます。


「そういえばショースケ聞(き)いたか? 宇宙警察(うちゅうけいさつ)のデータの一部(いちぶ)が、何者(なにもの)かによって盗(ぬす)まれていたことが判明(はんめい)したって。具体的(ぐたいてき)に何時(いつ)盗(ぬす)まれたのかはわかってないらしい」


「あー、どうもそうらしいね。まさか最新(さいしん)技術(ぎじゅつ)で守(まも)られてるデータが盗(ぬす)まれるなんてびっくりしちゃったよ。えーっと、盗(ぬす)まれたデータは確(たし)か、宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)それぞれの配属先(はいぞくさき)と…ここ数(すう)か月(げつ)の、どの隊員(たいいん)がいつ、どこの星(ほし)に行(い)ったかの情報(じょうほう)だっけ。そんなの何(なん)で欲(ほ)しかったんだろう? 見当(けんとう)がつかないや」


「…ああ、そうだな」


 そう口(くち)に出(だ)しながら、タカヤが深(ふか)く考(かんが)え込(こ)んでいると…ポスリコモスへの到着(とうちゃく)を知(し)らせるアナウンスが車内(しゃない)に響(ひび)きます。


「え、もう着(つ)いちゃったの⁉ うぅ、どうしよう…今更(いまさら)緊張(きんちょう)してきた…」


 ショースケはあからさまにソワソワし始(はじ)めて、落(お)ち着(つ)かないのかガバッと立(た)ち上(あ)がり、もう出口(でぐち)へと向(む)かっていきます。


「そんなに緊張(きんちょう)しなくて大丈夫(だいじょうぶ)だって。あ、ショースケ? これ忘(わす)れてるぞ!」


 足下(あしもと)に置(お)いてあった白(しろ)い紙袋(かみぶくろ)を持(も)ったタカヤは、ショースケの後(あと)を追(お)いかけようとして…一瞬(いっしゅん)動(うご)きを止(と)めて座席(ざせき)に座(すわ)り直(なお)しました。


「あ、紙袋(かみぶくろ)! ありがとうタカヤ…タカヤ?」


「なんでもない。ほら、行(い)こう?」



****



「タカヤー! ショースケくん! こっちこっち」


 ポスリコモス駅(えき)からゲートをくぐった先(さき)、たくさんのET(いーてぃー)たちで賑(にぎ)わう広場(ひろば)でヒカルは大(おお)きく手(て)を振(ふ)ります。


「兄(にい)ちゃん、迎(むか)えに来(き)てくれてありがとう。あ! 今日(きょう)はエイギスさんも一緒(いっしょ)に来(き)てくださるんですか?」


 ヒカルの隣(となり)にはエイギスが立(た)っており、その美(うつく)しい見(み)た目(め)からたくさんのET(いーてぃー)の視線(しせん)を集(あつ)めていました。


「ええ、一緒(いっしょ)に行(い)きたいってヒカルにお願(ねが)いしたの。ワタシも春子(はるこ)と諄(じゅん)弌(いち)に会(あ)いたいもの」


 そう、今日(きょう)はタカヤとヒカルの両親(りょうしん)、春子(はるこ)と諄(じゅん)弌(いち)がポスリコモスに帰(かえ)って来(く)る日(ひ)です!


「…エイギスさんがいるなら僕(ぼく)もちょっと安心(あんしん)するよ。家族(かぞく)で集(あつ)まるときに僕(ぼく)が居(い)たら困(こま)るんじゃないかって不安(ふあん)だったもの」


 ショースケは小(ちい)さな声(こえ)で呟(つぶや)きながら、地球(ちきゅう)から持(も)ってきた白(しろ)い紙袋(かみぶくろ)の中(なか)をちらりと確認(かくにん)しました。


 …自分(じぶん)は会(あ)いに行(い)けないからと、ライトからタカヤの両親(りょうしん)に渡(わた)すように頼(たの)まれた有名(ゆうめい)なお店(みせ)のおまんじゅう…どうやら崩(くず)れたりはしていないようです。


「大丈夫(だいじょうぶ)! 父(とう)さんも母(かあ)さんもショースケくんに会(あ)うの楽(たの)しみにしてたから! さて、そろそろ約束(やくそく)の時間(じかん)なんだけど…二人(ふたり)とも来(こ)ないな?」


 ヒカルは辺(あた)りをキョロキョロ見渡(みわた)しますが…どうもそれらしき人(ひと)はいません。


「んー…俺(おれ)、もしかして…また待(ま)ち合(あ)わせ場所(ばしょ)とか間違(まちが)えてる?」


 ヒカルがポケットからメモを取(と)り出(だ)してじろじろ確認(かくにん)していると…




「誰(だれ)かー! 泥棒(どろぼう)よ捕(つか)まえてー!」


 市場(いちば)の方向(ほうこう)から劈(つんざ)くような悲鳴(ひめい)が聞(き)こえました。


 真(ま)っ黒(くろ)なラバースーツのような服(ふく)で顔(かお)まで覆(おお)われたET(いーてぃー)が、盗(ぬす)んだであろう壺(つぼ)を抱(かか)え、周囲(しゅうい)のET(いーてぃー)たちを突(つ)き飛(と)ばしながらこちらへ向(む)かって来(き)ます。


「ど、泥棒(どろぼう)⁉ どうしようこっちに来(く)る!」


 ショースケはエッグロケットを取(と)り出(だ)そうと、カバンをわたわたと探(さぐ)りますが…片手(かたて)に持(も)った紙袋(かみぶくろ)が邪魔(じゃま)でなかなか見(み)つかりません。


 その間(あいだ)に他(ほか)の三(さん)人(にん)が走(はし)り出(だ)します。


「兄(にい)ちゃん、エイギスさん! 泥棒(どろぼう)の対処(たいしょ)は頼(たの)んでいいですか!」


 タカヤはすぐに、突(つ)き飛(と)ばされて怪我(けが)をしているET(いーてぃー)たちの元(もと)へ走(はし)って行(い)きました。


「わかったわ、行(い)くわよヒカル!」


「もちろん、エイギス。しかしあの泥棒(どろぼう)も運(うん)が悪(わる)いな…まさか俺(おれ)たち宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)が集(あつ)まってる方(ほう)へ走(はし)ってくるなんて!」


 ヒカルは右腕(みぎうで)に付(つ)けているポスエッグに触(ふ)れて、その中(なか)から丸(まる)くてツヤツヤの玉(たま)を引(ひ)っ張(ぱ)り出(だ)します。


「最近(さいきん)手(て)に入(い)れたばかりの自動(じどう)追跡(ついせき)機能(きのう)付(つ)き捕獲(ほかく)ボール! これを…こう!」


 思(おも)い切(き)り振(ふ)りかぶって、ヒカルは捕獲(ほかく)ボールを空(そら)へ向(む)けて放(ほう)り投(な)げました。


 捕獲(ほかく)ボールは空中(くうちゅう)でピカリと一度(いちど)光(ひか)ったかと思(おも)うと勢(いきお)いよく弾(はじ)けて、中(なか)から大(おお)きな大(おお)きな捕獲(ほかく)ネットが飛(と)び出(だ)します。


 その大(おお)きさは…なんと、広場(ひろば)が三(さん)分(ぶん)の一(いち)ほど埋(う)まってしまいそうなほどで…


「ヒカル⁉ もしかして、投(な)げる捕獲(ほかく)ボールを間違(まちが)えてないかしら⁉」


「あぁああ! 本当(ほんとう)だ、これ超(ちょう)大型(おおがた)モンスター用(よう)だった!」


 気付(きづ)いたところでもう遅(おそ)く…ヒカルの上(うえ)にもエイギスの上(うえ)にも、はたまたショースケとタカヤの上(うえ)にも超(ちょう)大(おお)きな捕獲(ほかく)ネットが降(ふ)ってきました。


「うわぁ⁉ 何(なに)これ、なんかベタベタして逃(に)げられない!」


 ショースケはバタバタ藻掻(もが)きますが…この捕獲(ほかく)ネットには捕獲(ほかく)対象(たいしょう)が逃(に)げられないように接着剤(せっちゃくざい)のようなものが塗(ぬ)られています、そう簡単(かんたん)に抜(ぬ)けられません。


「うわぁあん…どうしよう、皆(みんな)ごめん…」


 何(なん)とか抜(ぬ)け出(だ)そうと暴(あば)れたのでしょう、ヒカルは身動(みうご)きも取(と)れない程(ほど)ネットでぐるぐる巻(ま)きになりながらしょんぼりと謝(あやま)りました。


「大変(たいへん)なことになったわね…あら?」


 エイギスは頭(あたま)に貼(は)り付(つ)いた捕獲(ほかく)ネットごと首(くび)を持(も)ち上(あ)げます。


「さっきの泥棒(どろぼう)がネットに掛(か)かっていないわ!」


「えぇ⁉ じゃあどこに…ってあぁ!」


 ショースケが頑張(がんば)って首(くび)をもたげると…捕獲(ほかく)ネットの隙間(すきま)の穴(あな)から、地面(じめん)からぬるりと出(で)てきた泥棒(どろぼう)が遠(とお)ざかっていくのが見(み)えました。


「あの泥棒(どろぼう)、地面(じめん)の中(なか)を移動(いどう)できる道具(どうぐ)を使(つか)ってたんだ! 大変(たいへん)、このままじゃ逃(に)げられちゃうよ!」


 でも動(うご)けば動(うご)くほど捕獲(ほかく)ネットが絡(から)まって貼(は)り付(つ)いて…どうすることもできません。


「うぅ…誰(だれ)か助(たす)けてー!」


 ショースケが思(おも)わずそう叫(さけ)ぶと…



「はーい!」


 空(そら)から声(こえ)が聞(き)こえました。


「行(い)くわよ! 諄(じゅん)弌(いち)」


「了解(りょうかい)…春子(はるこ)」



 広場(ひろば)の側(そば)にある高(たか)い建物(たてもの)の上(うえ)から、人影(ひとかげ)が二(ふた)つ降(お)り立(た)ちます。


「諄(じゅん)弌(いち)はみんなを解放(かいほう)してあげて。私(わたし)はあの子(こ)を捕(つか)まえにいくから!」


「…わかった」


 春子(はるこ)と二手(ふたて)に分(わ)かれた諄(じゅん)弌(いち)は、刀身(とうしん)が光(ひかり)で出来(でき)ている一本(いっぽん)の剣(けん)を両手(りょうて)で構(かま)えて、大(おお)きく広(ひろ)がった捕獲(ほかく)ネットの上(うえ)にふわりと浮(う)かびました。


「と、父(とう)さぁあん…」


 身動(みうご)きが取(と)れないヒカルはべそべそと泣(な)いています。


「お…ヒカル。久(ひさ)しぶりだな、いつぶりだ…?」


 諄(じゅん)弌(いち)は剣(けん)を降(お)ろし、捕獲(ほかく)ネットにぐるぐる巻(ま)きのヒカルを見下(みお)ろしながらぼそぼそと話(はな)しかけ始(はじ)めました。


「え、えーっと…一(いち)年半(ねんはん)ぶりくらい?」


「…そうか、もうそんなに経(た)つのか。元気(げんき)でやってるか…? お、ヒカルちょっと大(おお)きくなったんじゃないか…? そうだタカヤは…」


「いやいや、父(とう)さん! 話(はなし)は後(あと)でするからとりあえず助(たす)けて欲(ほ)しいな⁉」


 その場(ば)に屈(かが)んでゆっくり話(はなし)を続(つづ)けようとする諄(じゅん)弌(いち)に、ヒカルは必死(ひっし)に叫(さけ)びます。


「あ…そうか、そうだった」


 立(た)ち上(あ)がって首(くび)をコキコキと二(に)回(かい)鳴(な)らして、諄(じゅん)弌(いち)はもう一度(いちど)剣(けん)を構(かま)えました。


「…動(うご)くなよ」


 そう呟(つぶや)いて、目(め)にも止(と)まらぬ速(はや)さで何度(なんど)か剣(けん)を振(ふ)ったと思(おも)うと…次(つぎ)の瞬間(しゅんかん)には、ヒカルたちを捕(と)らえていた大(おお)きな捕獲(ほかく)ネットは粉々(こなごな)に切(き)り刻(きざ)まれていました。


「…まだベタベタはするだろうが、これで動(うご)けるだろ」




「ありゃ、また地中(ちちゅう)に潜(もぐ)っちゃったみたいねー」


 泥棒(どろぼう)の姿(すがた)が見(み)えなくなっても、春子(はるこ)はやけに落(お)ち着(つ)いています。


「潜(もぐ)ってからの時間(じかん)から考(かんが)えて…移動(いどう)範囲(はんい)はこの辺(あた)り。障害物(しょうがいぶつ)の有無(うむ)、この後(あと)逃(に)げるのに有利(ゆうり)な経路(けいろ)…そう考(かんが)えると」


 春子(はるこ)はスタスタと歩(ある)いて行(い)き、ある一(いち)点(てん)で止(と)まります。


「出(で)てくるのはここ!」


 そう言(い)ったのと同時(どうじ)に、春子(はるこ)の目(め)の前(まえ)の地面(じめん)から泥棒(どろぼう)がぬるりと飛(と)び出(だ)して来(き)ました!


「ビンゴね!」


 春子(はるこ)は背負(せお)っていた諄(じゅん)弌(いち)と同(おな)じ剣(けん)を二(に)本(ほん)、両手(りょうて)で一本(いっぽん)ずつ構(かま)えると瞬時(しゅんじ)に泥棒(どろぼう)に飛(と)びかかります。


 尖(とが)った剣(けん)の先(さき)はゆらゆらと形(かたち)を変(か)えてロープのように伸(の)びてしなって、春子(はるこ)はそれを器用(きよう)に操(あやつ)り泥棒(どろぼう)の体(からだ)にぐるぐると巻(ま)き付(つ)けると、いとも容易(たやす)く動(うご)きを封(ふう)じてしまいました。


「一丁(いっちょう)上(あ)がり! さて、お話(はなし)は本部(ほんぶ)で聞(き)かせてもらうわね」




「助(たす)けてくれてありがとう、父(とう)さん母(かあ)さん…そしてごめんなさい」


 まだ体(からだ)に捕獲(ほかく)ネットのベタベタを付(つ)けたまま、ヒカルはうずくまってどんよりと凹(へこ)んでいます。


 エイギスはそんなヒカルの背中(せなか)を、細(ほそ)い腕(うで)でツンツンとつつきました。


「こらヒカル、いつまでもそんな風(ふう)にいないの。ほら、このスプレーを吹(ふ)きかけたらベタベタは取(と)れるから」


「うぅー…だって俺(おれ)の所為(せい)でたくさんの人(ひと)に迷惑(めいわく)を…」


「もういいから。はい、これ使(つか)って」


 …ヒカルはやっと立(た)ち上(あ)がってスプレーを受(う)け取(と)ると、体(からだ)に吹(ふ)き付(つ)け始(はじ)めました。


 その様子(ようす)を見(み)ていた春子(はるこ)は高(たか)らかに笑(わら)います。


「あははは、ごめんねエイギス! うちの息子(むすこ)が世話(せわ)になってるわ」


「ううん、ワタシもヒカルにいっぱいお世話(せわ)になってるから。春子(はるこ)、諄(じゅん)弌(いち)、久(ひさ)しぶりに会(あ)えて嬉(うれ)しいわ! ワタシ、二人(ふたり)のおかげで宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)として頑張(がんば)ってるの」


「私(わたし)も会(あ)えて嬉(うれ)しいわーエイギス! 可愛(かわい)い可愛(かわい)い!」


 春子(はるこ)は背(せ)の高(たか)いエイギスのお腹(なか)周(まわ)りをぎゅーっと抱(だ)きしめて、何度(なんど)も頬(ほお)ずりします。


 そんな二人(ふたり)を横目(よこめ)で見(み)て、ほんの少(すこ)し口元(くちもと)を緩(ゆる)めた諄(じゅん)弌(いち)は、近(ちか)くで体(からだ)にスプレーを吹(ふ)きかけているタカヤの方(ほう)へ歩(あゆ)みを進(すす)めました。


「…タカヤ、久(ひさ)しぶりだな。体(からだ)はどうだ…」


「久(ひさ)しぶり、父(とう)さん。体(からだ)は大丈夫(だいじょうぶ)だよ、何(なん)にも問題(もんだい)は無(な)いかな」


 タカヤはいつも通(どお)り笑(わら)って見(み)せます。


「……そうか。ところで…」


 諄(じゅん)弌(いち)はいつも通(どお)りの無表情(むひょうじょう)で、タカヤの背中(せなか)の後(うし)ろに隠(かく)れているショースケをじーっと見(み)つめました。


「ひっ…え、ええと…」


「父(とう)さん、この子(こ)が俺(おれ)のコンビのショースケだよ。ほらショースケ、怖(こわ)くないから」


「…そうか、君(きみ)が肖(しょう)造(ぞう)さんの孫(まご)か…」


 またまた、諄(じゅん)弌(いち)はショースケの顔(かお)を穴(あな)が空(あ)くほど見(み)つめます。


「…あんまり似(に)ていないな」


 そう言(い)って、諄(じゅん)弌(いち)がふにゃっと口元(くちもと)を緩(ゆる)めると…後(うし)ろから春子(はるこ)が全速力(ぜんそくりょく)で走(はし)って来(き)て、タカヤの体(からだ)をぎゅーっと抱(だ)きしめました。


「タカヤ、会(あ)いたかったー! 大(おお)きくなったわね、体(からだ)は大丈夫(だいじょうぶ)?」


「母(かあ)さん! う、うん。大丈夫(だいじょうぶ)」


「無事(ぶじ)みたいで良(よ)かったわー…あら?」


 春子(はるこ)はタカヤの後(うし)ろで隠(かく)れるように屈(かが)んでいるショースケを見(み)つけると…


「もしかして! あなたショースケくん⁉」


 潰(つぶ)れるぐらいの勢(いきお)いで抱(だ)きついて、ショースケの体(からだ)を高(たか)く持(も)ち上(あ)げてしまいました。


「わ⁉ わわっ…」


「きゃー! なんて可愛(かわい)いの!」


 春子(はるこ)がそのまま、嬉(うれ)しそうにくるくる回(まわ)るので…ショースケは目(め)が回(まわ)って、何(なに)が何(なん)だかよくわからなくなってきました。


「母(かあ)さん! ショースケ困(こま)ってるから降(お)ろしてあげて!」


「あ、ごめんねタカヤ! あんまり可愛(かわい)いからつい…」


 春子(はるこ)はゆっくりと大切(たいせつ)そうに、ショースケを地面(じめん)に降(お)ろします。


「ごめんね、自己(じこ)紹介(しょうかい)もせずにいきなり抱(だ)っこしちゃったりして。私(わたし)は石(いし)越(ごえ)春子(はるこ)! こっちは夫(おっと)の諄(じゅん)弌(いち)!」


 春子(はるこ)が諄(じゅん)弌(いち)の背中(せなか)をぽんっと叩(たた)くと、ぼーっと空(そら)を見(み)ていた諄(じゅん)弌(いち)は気(き)が付(つ)いたのか頭(あたま)を小(ちい)さく一回(いっかい)下(さ)げます。


「ここで立(た)ち話(ばなし)もなんだし…とりあえず本部(ほんぶ)内(ない)のカフェにでも行(い)きましょうか! もちろんご馳走(ちそう)するわよ!」



****



 六(ろく)人(にん)は宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)の一(いっ)階(かい)にあるカフェにやって来(き)て、丸(まる)いテーブルを囲(かこ)んで座(すわ)ります。


「はー、久(ひさ)しぶりに食(た)べるとここの極彩色(ごくさいしき)のご飯(はん)も一層(いっそう)美味(おい)しいわねー!」


 お皿(さら)にてんこ盛(も)りの色(いろ)とりどりの丸(まる)いパンのような何(なに)かを口(くち)に運(はこ)びながら、春子(はるこ)はご満悦(まんえつ)で頬(ほお)を押(お)さえました。


「ほら、ヒカルもっと食(た)べなさい! 前(まえ)よりちょっと痩(や)せたんじゃないの?」


「べ、別(べつ)に痩(や)せてないよ。むしろ前(まえ)より太(ふと)ったからちょっと減(へ)らして…って無理(むり)やり皿(さら)にのせないで⁉」


「いいから食(た)べなさい! ほらエイギスも…って、エイギスは物(もの)を食(た)べないんだったわね」


 椅子(いす)には上手(うま)く座(すわ)れないエイギスは立(た)ったまま、その様子(ようす)を見下(みお)ろしてふわりと笑(わら)いました。


「あら? タカヤもあんまり食(た)べてないじゃない! ほら、お皿(さら)貸(か)して!」


 春子(はるこ)は今度(こんど)はタカヤの皿(さら)を受(う)け取(と)ると、丸(まる)いパンのような何(なに)かをいくつものせて、山積(やまづ)みにして返(かえ)します。


「食(た)べれるだけ食(た)べなさい! 余(あま)ったら母(かあ)さんが食(た)べてあげるから」


「あ、ありがとう…母(かあ)さん」


 タカヤは眉(まゆ)を下(さ)げてへちょりと笑(わら)って、そのうちの一(ひと)つを頬張(ほおば)り始(はじ)めました。


「なぁショースケ? 良(よ)かったらこれ一緒(いっしょ)に食(た)べてくれないか? たくさんあるし…」


「…え? あ! うん、わかった」


 タカヤの隣(となり)に座(すわ)るショースケは白(しろ)い紙袋(かみぶくろ)を膝(ひざ)の上(うえ)にのせたまま、ずーっとそわそわしています。


「あ、そうか。それを渡(わた)すんだったな…父(とう)さん母(かあ)さん、ショースケが二人(ふたり)に渡(わた)す物(もの)があるって」


「ん? 何(なに)かしら」


 春子(はるこ)と諄(じゅん)弌(いち)が同時(どうじ)にショースケの方(ほう)を向(む)いたので、ショースケはまた一段(いちだん)と、心臓(しんぞう)がきゅっと握(にぎ)られたように緊張(きんちょう)してしまいます。


「え、ええええ、えぇっと…」


「…俺(おれ)たち、そんなに怖(こわ)いだろうか…」


 諄(じゅん)弌(いち)は青(あお)いジュースを飲(の)みながら、表情(ひょうじょう)を変(か)えずにしょんぼりとうつむきました。


「ほら! 諄(じゅん)弌(いち)ももっと笑(わら)って! ショースケくーん、怖(こわ)くないわよー?」


 春子(はるこ)と諄(じゅん)弌(いち)は二人(ふたり)で両手(りょうて)をぶんぶんと振(ふ)りますが…ショースケの顔(かお)は強張(こわば)ったままです。


 …見(み)かねたタカヤはポケットの中(なか)のエッグロケットを握(にぎ)って、ショースケにテレパシーを送(おく)ります。


(どうしたんだショースケ。普段(ふだん)は初対面(しょたいめん)でもそんなに緊張(きんちょう)してないのに)


(だってタカヤの両親(りょうしん)なんだもん! タカヤだって僕(ぼく)のマムとダッドに会(あ)ったら絶対(ぜったい)緊張(きんちょう)するって!)


(そ、そうかもしれないけど…)


(もうタカヤがこれ渡(わた)して!)


 ショースケは紙袋(かみぶくろ)をゴリゴリとタカヤに押(お)しつけます。


「えーっと、父(とう)さん母(かあ)さんこれ…」


「何(なに)かしら…あ! ここのおまんじゅう私(わたし)たち大好(だいす)きなのよー! 久(ひさ)しぶりに食(た)べられるなんて嬉(うれ)しいわー! ねぇ諄(じゅん)弌(いち)?」


「ああ…なぁ、ショースケ君(くん)…?」


 ショースケがあまりにも縮(ちぢ)こまっているので、諄(じゅん)弌(いち)はいつもより笑(わら)おうとして…何(なん)とも言(い)えない不気味(ぶきみ)な笑(え)みを浮(う)かべました。


「諄(じゅん)弌(いち)、その顔(かお)は怖(こわ)いわよ」


 右隣(みぎどなり)の春子(はるこ)に片手(かたて)でほっぺたをむにゅっと挟(はさ)まれて、変顔(へんがお)状態(じょうたい)のまま諄(じゅん)弌(いち)は話(はなし)を続(つづ)けます。


「…このおまんじゅうは…もしかしてライト君(くん)からだろうか…?」


 ショースケは物凄(ものすご)く諄(じゅん)弌(いち)の変顔(へんがお)が気(き)になりますが…とにかくコクコクと頷(うなづ)きました。


「あ! そういえばショースケくんはライトくんと一緒(いっしょ)に住(す)んでるんだったわね! ねぇねぇライトくんは元気(げんき)にしてる?」


 春子(はるこ)に目(め)をキラキラさせて尋(たず)ねられたものの、ショースケが今日(きょう)見(み)て来(き)たライトの姿(すがた)は…何徹目(なんてつめ)かわからないほど目(め)の下(した)に隈(くま)を作(つく)り、おでこに冷却(れいきゃく)シートを貼(は)ってエナジードリンクを飲(の)んで、机(つくえ)に向(む)かってよくわからない言葉(ことば)をぶつぶつ呟(つぶや)きながら作業(さぎょう)をしている姿(すがた)だったので…はたしてそれが元気(げんき)なのかショースケにはわかりません。


 頷(うなづ)くわけにもいかないので、ショースケは小(ち)っちゃく口(くち)を開(ひら)きました。


「え、ええと…元気(げんき)じゃない、かも…?」


「えぇ⁉ 元気(げんき)じゃないの⁉」


 春子(はるこ)も諄(じゅん)弌(いち)もヒカルもタカヤもびっくりです。


「どういうことだショースケ⁉ もしかしてライトさん何(なん)か病気(びょうき)に…」


「え、病気(びょうき)⁉ もしかして…地球(ちきゅう)外(がい)の病気(びょうき)だったりしないかしら⁉ どうしましょう諄(じゅん)弌(いち)!」


「お、おお落(お)ち着(つ)け春子(はるこ)…離(はな)して…あぁ、あんまり肩(かた)を揺(ゆ)するな首(くび)がもげる…」


「父(とう)さん大丈夫(だいじょうぶ)⁉ あ! お、俺(おれ)、本部(ほんぶ)勤務(きんむ)だからライトお兄(にい)ちゃんに何(なに)か薬(くすり)とか調達(ちょうたつ)できるかも!」


 …なんだか大事(おおごと)になってきているので、ショースケは慌(あわ)ててブンブン首(くび)を横(よこ)に振(ふ)ります。


「い、いやいや! 疲(つか)れてはいたけど病気(びょうき)じゃない…です」


 …四(よ)人(にん)は一斉(いっせい)にショースケの方(ほう)を見(み)て…


「よかったぁ…」


 ぺたりとテーブルに伏(ふ)せました。


 その様子(ようす)を見(み)ていたエイギスは長(なが)い睫毛(まつげ)を揺(ゆ)らして、瞳(ひとみ)をコロコロと大(おお)きく見開(みひら)いています。


「皆(みんな)が急(きゅう)に取(と)り乱(みだ)してしまったからびっくりしたわ…? 確(たし)かライトさんって…肖(しょう)造(ぞう)のコンビの地球(ちきゅう)人(じん)よね?」


「え」


 今度(こんど)はショースケが、目(め)を零(こぼ)れそうなほどかっ開(ぴら)きました。


「えぇええええええ⁉ ライトさんってじーちゃんのコンビなの⁉」


「ショースケくん知(し)らなかったんだ。タカヤからは言(い)わなかったの?」


 ヒカルが問(と)いかけると、タカヤは困(こま)ったように笑(わら)います。


「ライトさんは、肖(しょう)造(ぞう)さんとのコンビはお互(たが)いの利益(りえき)のために仕方(しかた)なく組(く)んでるだけだから絶対(ぜったい)言(い)わないで欲(ほ)しいって…」


「あははは! …ライトくんらしいわね」


 高(たか)らかに笑(わら)った春子(はるこ)がショースケが持(も)ってきたお土産(みやげ)の箱(はこ)を開(ひら)くと…中(なか)には綺麗(きれい)に並(なら)んだおまんじゅうが入(はい)っていて、その横(よこ)には丁寧(ていねい)に整(ととの)った文字(もじ)で綴(つづ)られた手紙(てがみ)が添(そ)えられていました。


 『春子(はるこ)さんと諄(じゅん)弌(いち)さんへ』と記(しる)されている青(あお)い封筒(ふうとう)を手(て)に取(と)って開(ひら)き、春子(はるこ)は嬉(うれ)しそうに顔(かお)をほころばせます。


「ねぇショースケくん? ライトくんはね、私(わたし)たちにとってもう一人(ひとり)の息子(むすこ)みたいな存在(そんざい)なの。ちょっと真面目(まじめ)すぎて心配(しんぱい)な事(こと)も多(おお)いけど…とってもとっても優(やさ)しい子(こ)」


 手紙(てがみ)の内容(ないよう)に一通(ひととお)り目(め)を通(とお)して、春子(はるこ)は笑(わら)いながら手紙(てがみ)を諄(じゅん)弌(いち)に渡(わた)します。


「あはは! ショースケくんのお世話(せわ)が大変(たいへん)なんですって。でもそれくらいがちょうどいいわよ、あの子(こ)は何(なん)でも根(こん)を詰(つ)め過(す)ぎるところがあるし…ショースケくん、これからもライトくんのことよろしくね!」


「え、あ!」


 ショースケはキリリと表情(ひょうじょう)を作(つく)って、かっこよく返事(へんじ)をしようとして…


「ひゃぃ!」


 …今度(こんど)は思(おも)い切(き)り声(こえ)が裏返(うらがえ)り、しかもちょっと噛(か)んでしまいました。


 少(すこ)し緊張(きんちょう)が解(と)けて、やっと普通(ふつう)に喋(しゃべ)れるようになってきたと思(おも)ったのに…ショースケはあまりの恥(は)ずかしさに顔(かお)を真(ま)っ赤(か)にして、自分(じぶん)の太(ふと)ももを見(み)つめることしか出来(でき)ません。


 すっかり丸(まる)まってしまったショースケの背中(せなか)を、隣(となり)のタカヤは何(なん)とか元気付(げんきづ)けようと必死(ひっし)に摩(さす)ります。


 そんな二人(ふたり)の様子(ようす)を、春子(はるこ)と諄(じゅん)弌(いち)が優(やさ)しい目(め)で見(み)つめていると…天井(てんじょう)のスピーカーから、大(おお)きな音(おと)でアナウンスが流(なが)れました。



『春子(はるこ)隊員(たいいん)、諄(じゅん)弌(いち)隊員(たいいん)。最上階(さいじょうかい)の研究室(けんきゅうしつ)へ至急(しきゅう)向(む)かってください』



「あら…もう時間(じかん)なのね」


 春子(はるこ)は残念(ざんねん)そうに、自分(じぶん)の皿(さら)の上(うえ)にあるパンのようなものを全部(ぜんぶ)ペロリと平(たい)らげて「ごちそうさま」と手(て)を合(あ)わせます。


その隣(となり)で、諄(じゅん)弌(いち)は読(よ)んでいたライトから手紙(てがみ)をおまんじゅうの入(はい)っている白(しろ)い紙袋(かみぶくろ)の中(なか)に一緒(いっしょ)にしまい、それを持(も)って立(た)ち上(あ)がりました。


「もしかして母(かあ)さんと父(とう)さん、もう別(べつ)の星(ほし)に行(い)っちゃうの?」


「そうなのヒカル。ごめんね、せっかく時間(じかん)を空(あ)けてくれたのに…もう行(い)かなくちゃ。会(あ)えて嬉(うれ)しかったわ」


 慌(あわ)てて立(た)ち上(あ)がったヒカルをぎゅっと抱(だ)きしめた後(あと)、春子(はるこ)はタカヤの方(ほう)へ歩(ある)いて来(き)ました。


「タカヤ、元気(げんき)そうで良(よ)かった。くれぐれも無理(むり)はしないこと、いいわね?」


 そう言(い)って、今度(こんど)はタカヤを抱(だ)きしめます。


「…うん」


 タカヤは春子(はるこ)の体(からだ)を抱(だ)きしめ返(かえ)そうかと腕(うで)を少(すこ)し上(あ)げて…そのまま、力(ちから)無(な)くその手(て)を下(お)ろしました。


 春子(はるこ)がパッと顔(かお)を上(あ)げます。


「それじゃあ行(い)ってくるわね! エイギス、ショースケくん、ヒカルとタカヤをよろしくね! ほら、行(い)くわよ諄(じゅん)弌(いち)!」


「ああ、春子(はるこ)…それじゃあ、また」


 二人(ふたり)は振(ふ)り返(かえ)ること無(な)くカフェを出(で)て、真(ま)っ白(しろ)な廊下(ろうか)の先(さき)へ消(き)えていきました。




「残念(ざんねん)だわ…もっと、お話(はな)したいことがたくさんあったのに」


 長(なが)い首(くび)を下(さ)げて、エイギスはしょんぼり項垂(うなだ)れます。


「二人(ふたり)とも忙(いそが)しいな。さて、これをどうしよう…?」


 ヒカルの皿(さら)の上(うえ)にはまだたくさん、パンのようなものが残(のこ)っています。


「お、俺(おれ)も…さすがにショースケと二人(ふたり)でもこんなには食(た)べられないかな」


 タカヤも自分(じぶん)の皿(さら)の上(うえ)の残(のこ)りの数(かず)を見(み)て苦笑(にがわら)いです。


「母(かあ)さん残(のこ)ったら食(た)べてくれるって言(い)ってたけど行(い)っちゃったし…仕方(しかた)ない、俺(おれ)の同僚(どうりょう)たちに食(た)べてもらおう」


 ヒカルはカフェのカウンター向(む)かい、半透明(はんとうめい)の袋(ふくろ)をもらって戻(もど)ってくると、残(のこ)ったカラフルなパンのようなものを二(ふた)皿(さら)分(ぶん)、その中(なか)にパツパツに詰(つ)め込(こ)みました。


「さて、俺(おれ)はとりあえずこれを同僚(どうりょう)たちに届(とど)けて来(こ)ようかな」


「ワタシも一緒(いっしょ)に行(い)くわ、ヒカル。タカヤとショースケはこの後(あと)の予定(よてい)はあるの?」


「いえ、予定(よてい)は無(な)いんですけど…」


 エイギスの問(と)いかけに、タカヤは隣(となり)のショースケをちらりと見(み)ます。


「うぅ…むちゃくちゃ緊張(きんちょう)したよぉ…絶対(ぜったい)変(へん)な子(こ)だと思(おも)われた、もう帰(かえ)りたい…」


 ショースケはテーブルに突(つ)っ伏(ぷ)し半(はん)ベソをかいていました。


「ライトさんもひどいや、あんな手紙(てがみ)書(か)くことないじゃんか。僕(ぼく)すごく手(て)が掛(か)かる子(こ)だと思(おも)われちゃったよ…?」


 足(あし)をバタバタ鳴(な)らしながらショースケはぐずり続(つづ)けます。


「大体(だいたい)さ、僕(ぼく)だってライトさんのお世話(せわ)いっつもしてあげてるのに! お腹(なか)出(だ)して寝(ね)てるときはお布団(ふとん)かけてあげてるし、肩(かた)叩(たた)きだってたまーにしてあげてるんだよ? 全(まった)く、帰(かえ)ったら文句(もんく)言(い)ってやらないと…うぇえん…」


 そろそろ本格(ほんかく)的(てき)に泣(な)き出(だ)してしまいそうなショースケを、タカヤは慌(あわ)てて肩(かた)を貸(か)して椅子(いす)から立(た)たせました。


「お、俺(おれ)たち今日(きょう)本部(ほんぶ)に泊(と)まる予定(よてい)で…明日(あした)もあるから、今日(きょう)はもう休(やす)もうかと思(おも)います! ほら、ショースケ部屋(へや)行(い)くぞ?」


「ううぅ…僕(ぼく)普段(ふだん)あんな子(こ)じゃ無(な)いのにぃい…」


 タカヤはショースケの手(て)を握(にぎ)ってヒカルとエイギスにぺこりとお辞儀(じぎ)をすると、カフェを後(あと)にしようと一歩(いっぽ)踏(ふ)み出(だ)して…ガクリとその場(ば)に跪(ひざまず)きました。


「ごめんごめん、ちょっとつまずいちゃった。行(い)こうか」



****



 透明(とうめい)なチューブのように伸(の)びるエレベーターを、宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)の最上階(さいじょうかい)で降(お)りた春子(はるこ)と諄(じゅん)弌(いち)は肖(しょう)造(ぞう)の研究室(けんきゅうしつ)の扉(とびら)をノックします。


「来(き)たか、準備(じゅんび)が出来(でき)たぞ。すまんな、急(せ)かしてしもうて…久(ひさ)しぶりの息子(むすこ)たちとの再開(さいかい)じゃったのに」


「いいえ、少(すこ)しでも会(あ)えて…本当(ほんとう)に嬉(うれ)しかったです。それで、私(わたし)たちは何処(どこ)へ向(む)かえばいいんですか?」


 先程(さきほど)までとは打(う)って変(か)わって、春子(はるこ)はひどく真面目(まじめ)な顔(かお)で言(い)いました。


「…お前(まえ)たち二人(ふたり)に、ここへ一度(いちど)戻(もど)るように伝(つた)えたときはまだ広(ひろ)い範囲(はんい)しか絞(しぼ)れていなかったんじゃが…先日(せんじつ)あることがあってな、遂(つい)に居場所(いばしょ)が特定(とくてい)出来(でき)た」


 肖(しょう)造(ぞう)が手(て)をかざすと、暗(くら)い紫色(むらさきいろ)の小(ちい)さな惑星(わくせい)が大(おお)きなスクリーンに映(うつ)し出(だ)されます。


「星(ほし)の名前(なまえ)はオラブ星(せい)、ここからはかなり遠(とお)く離(はな)れた星(ほし)じゃ。二人(ふたり)には今(いま)すぐこの星(ほし)へ向(む)かってもらいたい。詳(くわ)しい情報(じょうほう)は後(あと)で送(おく)るが…相手(あいて)は何(なに)をしてくるかわからん、くれぐれも気(き)をつけてくれ」


「…了解(りょうかい)しました。…肖(しょう)造(ぞう)さん?」


 諄(じゅん)弌(いち)は小(ちい)さく、でもしっかりと口(くち)を開(ひら)いて肖(しょう)造(ぞう)を真(ま)っ直(す)ぐ見据(みす)えます。


「…タカヤを、よろしくお願(ねが)いします」


「…ああ、わかっとる。最新式(さいしんしき)のUFO(ゆーふぉー)を用意(ようい)しておいた、ほんの少(すこ)しじゃが今(いま)までのものより早(はや)く到着(とうちゃく)するはずじゃ」


「ありがとうございます。…それでは、行(い)ってきます」


 春子(はるこ)と諄(じゅん)弌(いち)は深(ふか)く礼(れい)をすると、研究室(けんきゅうしつ)の扉(とびら)をくぐって行(い)きました。



****



 高速(こうそく)でワープを繰(く)り返(かえ)すUFO(ゆーふぉー)の中(なか)。


 窓(まど)の外(そと)にはマーブル模様(もよう)に波打(なみう)つ、虹色(にじいろ)の景色(けしき)が流(なが)れるばかりです。


「ねぇ諄(じゅん)弌(いち)? あの子(こ)たち、大(おお)きくなってたわね。特(とく)にタカヤ…離(はな)れたときはまだ八(はっ)歳(さい)で…今(いま)は十(じゅっ)歳(さい)なんだもんね。近(ちか)くで、成長(せいちょう)を見(み)ていたかったわ」


「…ああ、そうだな」


「でも楽(たの)しそうにしてたわね。ショースケくんのおかげかしら、ちょっと安心(あんしん)した…待(ま)っててね、タカヤ。私(わたし)たちは絶対(ぜったい)に…もう一(ひと)つのコスモピースを見(み)つけ出(だ)して、あなたを助(たす)けてみせる」


挿絵(By みてみん)

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