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第十六話 消えた乗客、消せない気持ち

****


「なぁココレヨ、あの薬(くすり)は持(も)ったか?」


「…持(も)ちましたよ。これを誰(だれ)にも見(み)られないように、列車(れっしゃ)を降(お)りる直前(ちょくぜん)に飲(の)んで…変身(へんしん)すればいいんですよね。本当(ほんとう)に、上手(うま)く行(い)くでしょうか…?」


「大丈夫(だいじょうぶ)だって、計画(けいかく)は完璧(かんぺき)だ。それに、薬(くすり)をくれた人(ひと)も言(い)ってただろ? 絶対(ぜったい)バレないって」


「でも…」


「でもでも言(い)うなよ! …オレはこれからも、ココレヨと一緒(いっしょ)にいろんなところを旅(たび)したいんだ。ココレヨはそうじゃないのか?」


「それは…私(わたし)もキミと一緒(いっしょ)に…」


「…それならやるしかないだろ。ほら、時間(じかん)だ。先(さき)に行(い)くよ、一緒(いっしょ)だと疑(うたが)われる。…じゃあ、また時(とき)目(め)木(き)駅(えき)で会(あ)おうな、ココレヨ」



****



 日中(にっちゅう)の刺(さ)すような暑(あつ)さと打(う)って変(か)わって、少(すこ)し湿(しめ)った風(かぜ)が吹(ふ)いている金曜日(きんようび)の午後(ごご)十(じゅう)時(じ)五十分(ごじゅっぷん)。


 タカヤとショースケは今週(こんしゅう)も、時(とき)目(め)木(き)公園(こうえん)の時計台(とけいだい)の上(うえ)で特急(とっきゅう)こすもがやって来(く)るのを待(ま)っていました。


「そういえばショースケ、夏休(なつやす)みの宿題(しゅくだい)は進(すす)んでるか?」


 夜空(よぞら)に浮(う)かぶ夏(なつ)の大(だい)三角形(さんかっけい)を見上(みあ)げながらタカヤが問(と)いかけます。


「うん。一(いっ)個(こ)もやってないよ」


 ショースケは手元(てもと)のタブレットでパズルゲームをしながらさらりと答(こた)えました。


「えぇ⁉ えっと…余裕(よゆう)を持(も)って終(お)わらせるために、何(なん)日(にち)にこれをやるとか…一緒(いっしょ)に計画(けいかく)した、よな?」


「したよ、予定(よてい)通(どお)りに進(すす)んでないだけ」


「そ、そっか…」


 現実(げんじつ)から目(め)を逸(そ)らすように、タカヤは今度(こんど)は下(した)を見下(みお)ろします。


 ポツンと立(た)った街灯(がいとう)に照(て)らされた芝生(しばふ)の上(うえ)では、一週間(いっしゅうかん)の時(とき)目(め)木(き)町(ちょう)旅行(りょこう)を楽(たの)しんだであろうET(いーてぃー)たちが、タカヤたちと同(おな)じく特急(とっきゅう)こすもの到着(とうちゃく)を待(ま)っていました。


 何(なん)本(ぼん)もの手(て)にお土産(みやげ)をたっぷり抱(かか)えたET(いーてぃー)、思(おも)い出(で)話(ばなし)に花(はな)を咲(さ)かせるET(いーてぃー)、はたまた帰(かえ)りたくないのかちょっとむすっとした顔(かお)で佇(たたず)むET(いーてぃー)…。


 そんなET(いーてぃー)たちが何事(なにごと)も無(な)くこの町(まち)を楽(たの)しんでくれたことがタカヤは嬉(うれ)しくて、思(おも)わず顔(かお)をほころばせました。


 その隣(となり)でショースケはパズルゲームで負(ま)けそうになっているようで、高速(こうそく)で指(ゆび)を動(うご)かしていましたが…


「あぅ…」


 画面(がめん)には『You Lose』の文字(もじ)が浮(う)かんで、ショースケはそれから早(はや)く目(め)を背(そむ)けたいのかタブレットをカバンの中(なか)に戻(もど)します。


「…僕(ぼく)のことばっか言(い)うけどさぁ、そういうタカヤは終(お)わってるの? 夏休(なつやす)みの宿題(しゅくだい)」


 パズルゲームで負(ま)けた悔(くや)しさも相(あい)まって、ショースケはつい拗(す)ねたような口調(くちょう)でタカヤに尋(たず)ねてしまい…すぐにそのことを後悔(こうかい)しました。


 このスーパーウルトラ優等生(ゆうとうせい)、時(とき)目(め)木(き)町(ちょう)が生(う)んだ完璧(かんぺき)超人(ちょうじん)である石越(いしごえ)タカヤが、夏休(なつやす)みが始(はじ)まって数(すう)日(じつ)経(た)った今日(きょう)までに宿題(しゅくだい)が終(お)わってないはずがありません。


 おそらく夏休(なつやす)みが始(はじ)まる前(まえ)に終(お)わっているとかそういう話(はなし)をされるのでしょう、ショースケが耳(みみ)を塞(ふさ)ごうとしていると…タカヤから返(かえ)ってきたのは予想外(よそうがい)の言葉(ことば)です。


「…いや、実(じつ)はまだ一(ひと)つ終(お)わってなくて。教室(きょうしつ)の壁(かべ)に貼(は)るらしい、自己(じこ)紹介(しょうかい)を書(か)くプリント」


「え、あれでしょ? 誕生日(たんじょうび)とか趣味(しゅみ)とか好(す)きな食(た)べ物(もの)とか、自分(じぶん)の長所(ちょうしょ)とか書(か)くやつ。あんなのちゃちゃっと書(か)いたらいいじゃん、僕(ぼく)なら二(に)分(ふん)で書(か)けるね!」


 二(に)分(ふん)で書(か)けるなら今(いま)すぐ書(か)けばいいのに…きっとショースケはこのプリントを最終日(さいしゅうび)の夜中(よなか)に泣(な)きながら書(か)くことになるのでしょう。


「あはは…ちゃちゃっと、書(か)けたらよかったんだけどな…」


「えーなになに? 自分(じぶん)の似顔絵(にがおえ)が上手(うま)く描(か)けないとか? しょうがないなー僕(ぼく)が代(か)わりに描(か)いてあげてもいいよー?」


 …ちなみに偉(えら)そうに言(い)っているショースケの絵(え)の実力(じつりょく)は…先生(せんせい)に「すごく独創(どくそう)的(てき)だね」と言(い)われるくらいです。


「あ、ありがとう…似顔絵(にがおえ)はもう描(か)いたからいいかな」


 タカヤが困(こま)ったように笑(わら)っていると…夜空(よぞら)がキラリと光(ひか)りました。



****



 シャラシャラと貝殻(かいがら)を擦(こす)り合(あ)わせたような音(おと)が辺(あた)りに響(ひび)いて、空(そら)から特急(とっきゅう)こすもが滑(すべ)るように降(ふ)ってきます。


「時(とき)目(め)木(き)駅(えき)、時(とき)目(め)木(き)駅(えき)ー」


 キラキラと現(あらわ)れた天(あま)の川(がわ)のようなレールの上(うえ)に、特急(とっきゅう)こすもはゆっくりと停車(ていしゃ)しました。


「タカヤは今(いま)から乗(の)るET(いーてぃー)さんたちのチェックをしてくれる? 僕(ぼく)は降(お)りてきたET(いーてぃー)さんたちをチェックするよ」


「ああ、わかった」


 ドアがシューっと開(ひら)いて、中(なか)からたくさんの色(いろ)とりどりなET(いーてぃー)たちが降(お)りてきます。



 …その中(なか)に小(ちい)さなハエが一匹(いっぴき)混(ま)ざっていましたが、ショースケは気(き)が付(つ)かず…ハエは体(からだ)のコントロールが利(き)かないのか、街灯(がいとう)の天辺(てっぺん)へとふらふら飛(と)んでいきました。



 イヤホン型(がた)翻訳機(ほんやくき)を片耳(かたみみ)に入(い)れて、ショースケは降(お)りてきたET(いーてぃー)たちを一人(ひとり)一人(ひとり)、本部(ほんぶ)から送(おく)られている情報(じょうほう)と照(て)らし合(あ)わせて間違(まちが)いがないか確(たし)かめていきます。


 毎週(まいしゅう)やっていることです。今(いま)まで問題(もんだい)があったことはありませんし、今日(きょう)もいつも通(どお)り『異常(いじょう)なし』と言(い)ってさっさと家(いえ)に帰(かえ)るつもり、だったのですが…


「あれ…?」


 ショースケはもう一度(いちど)、本部(ほんぶ)から送(おく)られているET(いーてぃー)の情報(じょうほう)をタブレットで確認(かくにん)します。


「ショースケ、どうかしたか? 時(とき)目(め)木(き)駅(えき)から乗(の)るET(いーてぃー)さんたちは問題(もんだい)無(な)かったから、もう特急(とっきゅう)こすもに乗車(じょうしゃ)してもらったよ」


「いや…なんか一人(ひとり)足(た)りないような…?」


「足(た)りない?」


 二人(ふたり)はタブレットを見(み)ながらもう一度(いちど)、降(お)りてきたET(いーてぃー)たちをチェックしていきます。


 …やっぱり一人(ひとり)…オラブ星(せい)からやって来(き)ているはずのオラブ星人(せいじん)、ココレヨさんがいません。


「まだ降(お)りてきてないだけかな? あ、座席(ざせき)で寝(ね)ちゃってるとか!」


「確認(かくにん)しないとな」


 ショースケは一番(いちばん)前(まえ)の車両(しゃりょう)のドアから、タカヤは一番(いちばん)後(うし)ろの車両(しゃりょう)のドアから特急(とっきゅう)こすもに入(はい)ります。


 すでに乗車(じょうしゃ)している、これから時目木町(ときめきちょう)を発(た)つ予定(よてい)のET(いーてぃー)たちにも協力(きょうりょく)してもらって、二人(ふたり)は座席(ざせき)の隙間(すきま)から机(つくえ)の下(した)、はたまた天井(てんじょう)に張(は)り付いてないかまで隈(くま)なく捜索(そうさく)しましたが…どうにもココレヨさんらしき人(ひと)は見当(みあ)たりません。


 特急(とっきゅう)こすもの外(そと)に戻(もど)って来(き)たタカヤとショースケは同時(どうじ)に首(くび)を傾(かし)げました。 


「ポスリコモス側(がわ)の手違(てちが)いか…? 本部(ほんぶ)に確認(かくにん)してみるよ」


 タカヤはエッグロケットを取(と)り出(だ)して、後(うし)ろに付(つ)いたダイヤルを回(まわ)します。


「はい、こちら宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)。どうしましたか? タカヤ隊員(たいいん)」


「お忙(いそが)しいところすみません、特急(とっきゅう)こすもの乗客(じょうきゃく)について確認(かくにん)したいのですが…」



「…はい、そうですか。わかりました」


 タカヤはエッグロケットをポケットに戻(もど)しました。


「どうだった? タカヤ」


「それが…ココレヨさんは確実(かくじつ)に、ポスリコモス発(はつ)の特急(とっきゅう)こすもに乗(の)ったらしいんだ」


「えぇ⁉ じゃあどこ行(い)っちゃったの?」


「わからない…けど、このままじゃ特急(とっきゅう)こすもは動(うご)かせない。俺(おれ)は列車(れっしゃ)の中(なか)のET(いーてぃー)たちに事情(じじょう)を説明(せつめい)してくるよ」


 タカヤはもう一度(いちど)、足早(あしばや)に特急(とっきゅう)こすものドアをくぐって行(い)きました。


 ショースケがその間(あいだ)にタブレットでココレヨさんについて確認(かくにん)していると…その近(ちか)くで、時(とき)目(め)木(き)町(ちょう)旅行(りょこう)にやって来(き)たばかりの赤(あか)いET(いーてぃー)が声(こえ)を上(あ)げます。


「すみませーん、まだここを離(はな)れたらいけないんですかー?」


 続(つづ)いて隣(となり)の緑色(みどりいろ)のET(いーてぃー)も細(ほそ)い触手(しょくしゅ)を揺(ゆ)らしました。


「ワタクシ今(いま)のうちに、この町(まち)で行(い)きたいところがありますので…もう移動(いどう)を始(はじ)めたいのですけれど…」


 わらわらと集(あつ)まってくるET(いーてぃー)たちに、ショースケは慌(あわ)てて事情(じじょう)を説明(せつめい)します。


「ご、ごめんなさい。実(じつ)は乗(の)って来(き)たはずの方(かた)が一人(ひとり)消(き)えちゃって…! みなさんからお話(はなし)が聞(き)きたいので、まだここに居(い)てもらわないといけないんです…」


 それを聞(き)いたET(いーてぃー)たちの反応(はんのう)は様々(さまざま)ですが…一人(ひとり)の小(ちい)さな青(あお)いET(いーてぃー)が、ショースケのタブレットの画面(がめん)を覗(のぞ)き込(こ)んで大声(おおごえ)を出(だ)しました。


「あ! オレこの人(ひと)見(み)た!」


「え、この人(ひと)って…ココレヨさん⁉」


 ショースケは青(あお)いET(いーてぃー)にしっかり画面(がめん)を見(み)せます。


「ああ。遠(とお)くの座席(ざせき)からだったけど…オレ、視力(しりょく)には自信(じしん)があるから間違(まちが)ってないと思(おも)う。確(たし)かにあの列車(れっしゃ)に乗(の)ってたよ、消(き)えたなんてびっくりだな」


 青(あお)いET(いーてぃー)は一本(いっぽん)生(は)えた角(つの)をキラリと輝(かがや)かせながら言(い)いました。


 するとその様子(ようす)を見(み)ていた周辺(しゅうへん)のET(いーてぃー)たちが…


「あら、その方(かた)ならワタクシも見(み)ましたわ」


「ぼくも見(み)ました」


「あ、わたしも!」


「見(み)た見(み)たー!」


 なんと全員(ぜんいん)、口々(くちぐち)にそう言(い)うではありませんか!


「え、え⁉ 全員(ぜんいん)見(み)たの⁉」 


 ショースケが驚(おどろ)いていると、先(さき)ほどの赤(あか)いET(いーてぃー)が耳(みみ)をくるくる回(まわ)して嬉(うれ)しそうに話(はな)します。


「その人(ひと)…ココレヨさん、って言(い)うんですか? 体(からだ)が大(おお)きくて目立(めだ)っていたのもそうなんですけど…全身(ぜんしん)が黒(くろ)い宝石(ほうせき)みたいにキラキラ光(ひか)っていて、つい見惚(みと)れてしまったんです」


 周(まわ)りにいるET(いーてぃー)たちがそれに同意(どうい)します。


「そうなの! オラブ星人(せいじん)が美(うつく)しいって噂(うわさ)は聞(き)いたことがあったけど、あんなに綺麗(きれい)だなんて驚(おどろ)いちゃった。ねぇ?」


 ふわふわのピンクのET(いーてぃー)が伸縮(しんしゅく)しながら、隣(となり)の白(しろ)いET(いーてぃー)に話(はなし)を振(ふ)りました。


「うんうん、それに振(ふ)る舞(ま)いに気品(きひん)があったよ。さすが王子(おうじ)様(さま)だよね」


 白(しろ)いET(いーてぃー)が頭(あたま)の天辺(てっぺん)の口(くち)を開(ひら)いてそう言(い)ったので、ショースケは思(おも)わず尋(たず)ねます。


「え、王子(おうじ)様(さま)? このココレヨさんって王子(おうじ)様(さま)なの?」


「そうだよ、ボクはオラブ星(せい)の近(ちか)くの星(ほし)の出身(しゅっしん)だから知(し)ってるんだ。ココレヨ様(さま)は確(たし)か…もう少(すこ)ししたら王様(おうさま)になるはずだよ。そうか、この地球(ちきゅう)から…というかポスリコモスからもオラブ星(せい)はとーーーっても離(はな)れているから、キミたちが知(し)らないのは当然(とうぜん)だね」


 今度(こんど)は足下(あしもと)にある二(ふた)つ目(め)の口(くち)を開(ひら)いて、白(しろ)いET(いーてぃー)は得意(とくい)げに笑(わら)いました。


 …その後(うし)ろで小(ちい)さな青(あお)いETが、角(つの)をわずかに震(ふる)わせたのに気(き)が付(つ)く人(ひと)はいません。


 ショースケはタブレットで、急(いそ)いでオラブ星(せい)について調(しら)べます。


「オラブ星(せい)…ポスリコモスから最新(さいしん)のワープ機能(きのう)を使(つか)っても、地球(ちきゅう)時間(じかん)で数週間(すうしゅうかん)かかるほど遠(とお)く離(はな)れた星(ほし)。…うーん? そんな遠(とお)くの星(ほし)の王子(おうじ)様(さま)がなんでこの時(とき)目(め)木(き)町(ちょう)に?」


 ショースケがより詳(くわ)しく調(しら)べようとタブレットを操作(そうさ)していると…一体(いったい)いくつ口(くち)があるのでしょう、白(しろ)いET(いーてぃー)は右(みぎ)の口(くち)と左(ひだり)の口(くち)で同時(どうじ)に喋(しゃべ)り始(はじ)めました。


「オラブ星(せい)はかなり厳(きび)しい星(ほし)だからね。王様(おうさま)になったらめったに星(ほし)から出(で)られなくなるだろうから、そうなる前(まえ)に最後(さいご)にゆっくり旅行(りょこう)に来(き)たんだと思(おも)ってたんだけど…まさか消(き)えてしまうなんてね。一体(いったい)どうしたんだろう?」


 たくさんの口(くち)をうねうね尖(とが)らせて、白(しろ)いET(いーてぃー)は不思議(ふしぎ)そうです。



 …小(ちい)さなハエは体(からだ)が上手(うま)く動(うご)かせないのか、街灯(がいとう)の天辺(てっぺん)に一生懸命(いっしょうけんめい)しがみついていました。



****



「ただいまショースケ、何(なに)か進展(しんてん)はあったか?」


「あ、おかえりタカヤ。実(じつ)はね…」


 ショースケは先(さき)ほどET(いーてぃー)たちから聞(き)いたことをタカヤと共有(きょうゆう)します。


「なるほど、王子(おうじ)様(さま)か…とにかく、もう少(すこ)し調(しら)べてみないとな。乗客(じょうきゃく)が急(きゅう)に消(き)えるなんてどう考(かんが)えても変(へん)だ」


「そうだよね…あ、もしかしたら! 透明(とうめい)マントとか、変身(へんしん)スプレーとか…何(なに)か道具(どうぐ)が使(つか)われてるかも!」



 …小(ちい)さな青(あお)いET(いーてぃー)がピクリと小(ちい)さく反応(はんのう)して、ほんの少(すこ)しショースケから距離(きょり)を取(と)ります。



「確(たし)かにその可能(かのう)性(せい)は高(たか)いな。どうする? 乗客(じょうきゃく)たちの荷物(にもつ)を調(しら)べさせてもらうか?」


「ふっふっふ…その必要(ひつよう)は無(な)いんだなー! 見(み)てよこの新(あたら)しい道具(どうぐ)…」


 タカヤの発言(はつげん)に、ショースケは待(ま)ってましたと言(い)わんばかりに意気揚々(いきようよう)とカバンに手(て)を突(つ)っ込(こ)みました、が…


「あ、それとも俺(おれ)が見(み)てみようか?」


 …次(つぎ)にタカヤが何気(なにげ)なく発(はっ)したその言葉(ことば)で、ピタリとその手(て)を止(と)めました。


「え、見(み)てみるって…もしかしてコスモピースの力(ちから)ってそんなこともできるの? さすがにちょっとズル過(す)ぎない?」


 ショースケは眉間(みけん)にぎゅぎゅっとしわを寄(よ)せて、口元(くちもと)をこれでもかと歪(ゆが)ませます。


「多分(たぶん)出来(でき)ると思(おも)うんだけど…そ、そんな顔(かお)しないでくれよ…」


「えー…だってさぁ、この間(あいだ)の依頼(いらい)もその前(まえ)の依頼(いらい)もタカヤのコスモピースでなんとかなっちゃったんだもん。なんかもう僕(ぼく)いらなくない?」


「いらなくないって! えーっと…ご、ごめん…」


 わかりやすく拗(す)ねてしまったショースケに、タカヤは謝(あやま)ることしか出来(でき)ません。


「…タカヤがライトさんに内緒(ないしょ)でいっぱいコスモピースの力(ちから)使(つか)ってるーって…ライトさんにチクっちゃおうかなぁ」


「ごめんって! お願(ねが)いだからそれだけはやめてくれ! ショ、ショースケの新(あたら)しい道具(どうぐ)見(み)たいなー、見(み)せてくれよ!」


 タカヤが頼(たの)み込(こ)むと…ショースケは小(ちい)さくため息(いき)を吐(つ)いた後(あと)、カバンからエッグロケットを取(と)り出(だ)しました。


 その中(なか)からさらに、双眼鏡(そうがんきょう)のようなものを引(ひ)っ張(ぱ)り出(だ)します。


「これだよ、新(あたら)しい道具(どうぐ)。この間(あいだ)じーちゃんにもらったの」


 ショースケは双眼鏡(そうがんきょう)を覗(のぞ)いて辺(あた)りを見渡(みわた)し始(はじ)めました。


「これはね、例(たと)えば透明(とうめい)マントや変身(へんしん)スプレーなんかを使(つか)ってたり、はたまたメグさんみたいに他(ほか)の生物(せいぶつ)に変身(へんしん)してたり…とにかく、見(み)た目(め)が本当(ほんとう)の姿(すがた)とは違(ちが)う姿(すがた)になっている生物(せいぶつ)や、そういう道具(どうぐ)を使(つか)った痕跡(こんせき)を見分(みわ)けることができる発明品(はつめいひん)なんだ。例(たと)えばあそこの白(しろ)いET(いーてぃー)さんは…本当(ほんとう)は紫色(むらさきいろ)の体(からだ)なのに白(しろ)く見(み)えるように変身(へんしん)してるみたいだね」



 …小(ちい)さな青(あお)いET(いーてぃー)は何度(なんど)も、チラチラと街灯(がいとう)の天辺(てっぺん)を見(み)ます。


(大丈夫(だいじょうぶ)だ…あの薬(くすり)をくれた人(ひと)が言(い)ってた。あの薬(くすり)はすごいものだから…最新(さいしん)の機械(きかい)でも変身(へんしん)を見破(みやぶ)ることはできないって。大丈夫(だいじょうぶ)だぞココレヨ、大丈夫(だいじょうぶ)…)



「すごいな、そんなこともわかるのか」


「びっくりしてくれなくていいよ。タカヤだってわかるくせに」


 ショースケはまだ機嫌(きげん)を損(そこ)ねているのか、頬(ほお)を膨(ふく)らませながらタカヤの方(ほう)を向(む)いて…思(おも)わず飛(と)び出(だ)しそうになった声(こえ)を必死(ひっし)に飲(の)み込(こ)みました。


 …双眼鏡(そうがんきょう)越(ご)しに見(み)たタカヤは…黒々(くろぐろ)としたぐちゃぐちゃの闇(やみ)が渦巻(うずま)いています。


「どうしたショースケ?」


「い、いや…なんでもない! じゃあこれでいろいろ見(み)てみようか!」


「うん…?」



****



「んー…変(へん)だなぁ」


 ショースケは双眼鏡(そうがんきょう)を覗(のぞ)きながら、特急(とっきゅう)こすもの中(なか)を何(なん)往復(おうふく)も歩(ある)き回(まわ)ります。


「ショースケ、やっぱり何(なに)も無(な)いか?」


「うん、そういう道具(どうぐ)を使(つか)ってるET(いーてぃー)さんは何人(なんにん)かいたけれど、その中(なか)にココレヨさんはいなかったよ。何(なに)か使(つか)われた痕跡(こんせき)みたいなのも見(み)えないし…」


 …双眼鏡(そうがんきょう)越(ご)しにタカヤを見(み)ると怖(こわ)いので、ショースケはわざと大(おお)きく目(め)を逸(そ)らします。


「そっか。…一体(いったい)どこに行(い)ったんだろうな」


「とりあえず僕(ぼく)はもう一(いち)往復(おうふく)、列車(れっしゃ)の中(なか)を探(さが)してみるね」


「わかった。俺(おれ)は外(そと)でもう一度(いちど)聞(き)き込(こ)みしてみるよ」


 タカヤが一番(いちばん)後(うし)ろのドアから特急(とっきゅう)こすもの外(そと)へ出(で)ると…ガヤガヤと話(はなし)をしているET(いーてぃー)たちの中(なか)で、小(ちい)さな青(あお)いET(いーてぃー)が一人(ひとり)、街灯(がいとう)の天辺(てっぺん)を不安(ふあん)そうにじっと見上(みあ)げていました。 


 …見(み)つめる先(さき)には、どうやら小(ちい)さなハエが一匹(いっぴき)止(と)まっているようです。


 コスモピースのエネルギーの影響(えいきょう)で恐(おそ)ろしいほど視力(しりょく)を高(たか)めることができるタカヤが見逃(みのが)すことはありません。


「…こんばんは、ご不便(ふべん)をおかけしてしまって申(もう)し訳(わけ)ありません」


 突然(とつぜん)タカヤからそう話(はな)しかけられた青(あお)いET(いーてぃー)は、驚(おどろ)いて声(こえ)を上(あ)げました。


「わっ! びっくりした…ほ、本当(ほんとう)だよ! 早(はや)く町(まち)の観光(かんこう)に行(い)きたいのに、ココレヨってやつも迷惑(めいわく)なことするよな」


 青(あお)いET(いーてぃー)は怒(おこ)りながら顔(かお)を背(そむ)けます。


「…そうですか」


 タカヤはにこりと笑(わら)って、また特急(とっきゅう)こすもの車内(しゃない)に戻(もど)りました。



****



「ショースケ、ちょっといいか? 頼(たの)みがあって…外(そと)の街灯(がいとう)の天辺(てっぺん)をその双眼鏡(そうがんきょう)で見(み)てみてくれないか?」


「街灯(がいとう)? いいけど…」


 ショースケは特急(とっきゅう)こすものドアの隙間(すきま)から、街灯(がいとう)の天辺(てっぺん)を双眼鏡(そうがんきょう)越(ご)しに覗(のぞ)きました。


「んー…特(とく)に何(なに)もないけど?」


「え、…ちょっと貸(か)してくれるか?」


 タカヤも双眼鏡(そうがんきょう)を受(う)け取(と)って確認(かくにん)してみますが…特(とく)に変(か)わった様子(ようす)はありません。


「ほ、本当(ほんとう)だ…」


「どうしたの? 何(なに)かあったの」


「実(じつ)は…」


 周(まわ)りに聞(き)かれないように、タカヤはショースケに耳打(みみう)ちします。


「外(そと)にいる体(からだ)の小(ちい)さい青(あお)いET(いーてぃー)さんなんだけど、おそらくココレヨさんの仲間(なかま)だ」


「え、仲間(なかま)?」


「うん。話(はなし)を聞(き)いたら『ココレヨってやつも迷惑(めいわく)なことするよな』って…。ココレヨさんが自分(じぶん)で消(き)えたのか、事件(じけん)に巻(ま)き込(こ)まれたのかはまだ誰(だれ)もわからないはずなのに。あのET(いーてぃー)さんの口(くち)ぶりは、まるでココレヨさんが自分(じぶん)から消(き)えたことを知(し)ってるみたいだった」


「な、なるほど…」


「それで、その青(あお)いET(いーてぃー)さんが街灯(がいとう)の天辺(てっぺん)をチラチラ見(み)てたから…てっきりそこに変身(へんしん)したココレヨさんがいるんだと思(おも)ったんだけど…」


 タカヤは眉毛(まゆげ)をハの字(じ)にして考(かんが)え込(こ)みます。


「えーっと…念(ねん)の為(ため)に言(い)って置(お)くけど、この双眼鏡(そうがんきょう)は壊(こわ)れてないと思(おも)う…よ?」


 ショースケは双眼鏡(そうがんきょう)を通(とお)して、恐(おそ)る恐(おそ)るタカヤを覗(のぞ)きながら言(い)いました。


 …タカヤが人間(にんげん)の形(かたち)に見(み)えないのはきっとコスモピースの影響(えいきょう)でしょう、やっぱり黒(くろ)くてぐちゃぐちゃです。


「いや、壊(こわ)れたとか疑(うたが)ってるわけじゃないんだ」


 そう言(い)っていつも通(どお)り、申(もう)し訳(わけ)なさそうに笑(わら)ったタカヤでしたが…ある恐(おそ)ろしい可能(かのう)性(せい)が、不意(ふい)に頭(あたま)を過(よぎ)りました。


(まさか…)



 ショースケがもう一度(いちど)特急(とっきゅう)こすもの中(なか)の痕跡(こんせき)を探(さが)しに戻(もど)った間(あいだ)に、タカヤはこっそりと外(そと)へ出(で)て…目(め)を閉(と)じてコスモピースの力(ちから)を発動(はつどう)させます。


 そして赤(あか)と青(あお)の星々(ほしぼし)が煌(きら)めく瞳(ひとみ)で街灯(がいとう)の天辺(てっぺん)を見上(みあ)げて…息(いき)を呑(の)みました。



****



「みなさん、お待(ま)たせしました。もうこの場(ば)を離(はな)れていただいて構(かま)いません」


 外(そと)で待(ま)っていた、これから時(とき)目(め)木(き)町(ちょう)旅行(りょこう)に出(で)かけるET(いーてぃー)たちにタカヤは笑(わら)いかけました。


 ET(いーてぃー)たちは嬉(うれ)しそうに、歩(ある)いたり走(はし)ったり、飛(と)んだり転(ころ)がったりしながらその場(ば)を離(はな)れて行(い)きますが…


「…あなたは移動(いどう)されないんですか? 早(はや)く出(で)かけたがっていたのに」


 一人(ひとり)残(のこ)った小(ちい)さな青(あお)いET(いーてぃー)に、タカヤは話(はな)しかけます。


「で! 出(で)かけるさ…ただちょっと、ここから見(み)える星(ほし)が綺麗(きれい)だからもう少(すこ)し見(み)ていこうと思(おも)ったんだ」


 そう言(い)って青(あお)いET(いーてぃー)は再(ふたた)び、街灯(がいとう)の方(ほう)をちらりと見(み)上(あ)げます。


「…慣(な)れない変身(へんしん)であそこから動(うご)けなくなってしまったココレヨさんのことが心配(しんぱい)なんですよね? …思(おも)ったように動(うご)けなくて当然(とうぜん)です…普通(ふつう)の、見(み)た目(め)だけの変身(へんしん)じゃない」


 タカヤはコスモピースの力(ちから)でふわりと宙(ちゅう)に浮(う)かぶと、街灯(がいとう)の天辺(てっぺん)に降(お)り立(た)ち、一匹(いっぴき)のハエを手(て)に優(やさ)しくのせて地上(ちじょう)に戻(もど)ってきました。


「…変身(へんしん)には薬(くすり)を使(つか)ってますよね? その薬(くすり)はどこで手(て)に入(い)れましたか?」


「な、何(なん)のことだよ…オレは知(し)らないぞ!」


 青(あお)いET(いーてぃー)は角(つの)を揺(ゆ)すって必死(ひっし)に否定(ひてい)します。


「そうですか…それなら、この生物(せいぶつ)を宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)に送(おく)っても構(かま)いませんよね?」


 ポケットからエッグロケットを取(と)り出(だ)して…タカヤは冷(つめ)たい目(め)で、その銃口(じゅうこう)を小(ちい)さなハエに向(む)けます。


「そ、それはっ…。わ、わかった認(みと)めるよ…そいつはココレヨだ。薬(くすり)は…オラブ星(せい)で名前(なまえ)も知(し)らない人(ひと)にもらったんだよ…元(もと)に戻(もど)す薬(くすり)ももらってある。これ…」


 消(き)え入(い)りそうな声(こえ)で青(あお)いET(いーてぃー)は答(こた)えると、旅行(りょこう)カバンから透明(とうめい)な液体(えきたい)の入(はい)ったカプセル状(じょう)の薬(くすり)を取(と)り出(だ)しました。


 タカヤの手(て)のひらから小(ちい)さなハエがふらふらと飛(と)び立(た)って、青(あお)いET(いーてぃー)の持(も)つ薬(くすり)の上(うえ)にぴたりと止(と)まると…小(ちい)さなハエの体(からだ)に薬(くすり)がスルスルと吸(す)い込(こ)まれていきます。


 そしてハエはみるみるうちに、黒(くろ)く輝(かがや)く大(おお)きな体(からだ)のオラブ星人(せいじん)…ココレヨさんへと姿(すがた)を変(か)えました。


「…助(たす)けていただきありがとうございます、宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)さん。そして…ご迷惑(めいわく)をおかけして本当(ほんとう)に申(もう)し訳(わけ)ありませんでした」


 ココレヨは跪(ひざまず)き、深(ふか)く頭(あたま)を下(さ)げます。


「キミにも…悪(わる)いことをしました。私(わたし)の我(わ)が儘(まま)に付(つ)き合(あ)わせてしまった…本当(ほんとう)にごめんなさい」


「何(なん)でココレヨが謝(あやま)るんだよ…逃(に)げようって、最初(さいしょ)に提案(ていあん)したのはオレだ。ココレヨが王様(おうさま)になったら、二人(ふたり)で旅(たび)が出来(でき)なくなる…ココレヨと一緒(いっしょ)に居(い)られなくなる。オレはそれが嫌(いや)で…」


 小(ちい)さな青(あお)いET(いーてぃー)は、小(ちい)さな小(ちい)さな涙(なみだ)を流(なが)しました。


「…なぁ宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)さん」


「何(なん)ですか?」


 タカヤは屈(かが)んで、できるだけ青(あお)いET(いーてぃー)と目線(めせん)を合(あ)わせます。


「…オレたちを見逃(みのが)してくれないか? ココレヨと一緒(いっしょ)に居(い)たいんだ…頼(たの)むよ…」


「……」


 少(すこ)しだけ考(かんが)えた後(あと)、タカヤが口(くち)を開(ひら)こうとすると…先(さき)に口(くち)を開(ひら)いたのはココレヨでした。


「私(わたし)は…旅(たび)が好(す)きな、自由(じゆう)なキミが好(す)きなんです」


 ココレヨは細(ほそ)い指(ゆび)で、青(あお)いET(いーてぃー)の涙(なみだ)を拭(ぬぐ)います。


「ですから…私(わたし)の所為(せい)でキミを縛(しば)るのが怖(こわ)くて…キミに嫌(きら)われてしまうかもしれないと思(おも)うと、どうしても言(い)い出(だ)せませんでした」


「ココレヨ…?」


「私(わたし)は…オラブ星(せい)で王(おう)になります。その隣(となり)に…キミが居(い)て欲(ほ)しい」


 ふわりと、優(やさ)しい風(かぜ)が吹(ふ)き抜(ぬ)けました。


「…旅(たび)にはもう行(い)けないかもしれません。自由(じゆう)だって利(き)かないかもしれません。それでも…我(わ)が儘(まま)だとわかっていても、私(わたし)はキミの側(そば)にいたい」


 街灯(がいとう)の光(ひかり)に照(て)らされて、ココレヨの体(からだ)が一際(ひときわ)黒(くろ)く美(うつく)しく光(ひか)って…


「私(わたし)のパートナーになってくれませんか」


「ねぇタカヤー? やっぱり特(とく)に痕跡(こんせき)無(な)いよー! もーどこ行(い)っちゃった…ってうわぁあああ⁉ ココレヨさんいる⁉」


 …なんとこんなタイミングでショースケが戻(もど)ってきてしまいました。


「ショ、ショースケ! ちょっと静(しず)かにしててくれ、今(いま)大事(だいじ)なところなんだ!」


 タカヤが急(いそ)いで駆(か)け寄(よ)り、ショースケの口(くち)を両手(りょうて)で塞(ふさ)ぎます。


「もが…ひゃひふんひょひゃひゃや!」


「すみませんお二人(ふたり)とも! 続(つづ)きどうぞ!」


 タカヤはそう言(い)いますが…ココレヨも青(あお)いET(いーてぃー)も、なんだか可笑(おか)しくて笑(わら)い出(だ)してしまいました。


「あははは! …なぁ、ココレヨ?」


「ふふふ…はい、なんですか?」


「帰(かえ)ったら…オラブ星(せい)のこと教(おし)えてくれよ。オレさ、まだあんまり知(し)らないから…お、王様(おうさま)のパートナーになるなら、知(し)っておかなきゃだろ?」


「…! わかりました…ふふ。厳(きび)しくしますよ?」


「そ、そこは優(やさ)しくしてくれよ…」



「えーっと…なんかわかんないけど上手(うま)く行(い)ったって…こと?」


 やっと解放(かいほう)されて喋(しゃべ)れるようになったショースケは、タカヤの方(ほう)を不思議(ふしぎ)そうに見(み)ます。


「ああ、そうみたいだ」


 満点(まんてん)の星(ほし)空(ぞら)がまるで祝福(しゅくふく)するように、チカチカと明(あか)るく瞬(またた)いていました。



****



 さて、随分(ずいぶん)遅(おく)れてしまいましたが…特急(とっきゅう)こすもは無事(ぶじ)に、夜空(よぞら)に吸(す)い込(こ)まれるようにポスリコモスへと出発(しゅっぱつ)しました。



「お二人(ふたり)には本部(ほんぶ)でお話(はなし)を聞(き)かせていただく必要(ひつよう)があるので、このまま本部(ほんぶ)へ転送(てんそう)させていただきますね」


 タカヤはエッグロケットを操作(そうさ)して、転送(てんそう)機能(きのう)を作動(さどう)させます。


「はい。たくさんの方(かた)に…多大(ただい)なる迷惑(めいわく)をかけてしまいました。本当(ほんとう)にごめんなさい」


 ココレヨと青(あお)いET(いーてぃー)は申(もう)し訳(わけ)なさそうに、宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)へと転送(てんそう)されて行(い)きました。



「ねぇタカヤ、それにしても変(へん)だと思(おも)わない?」


「ん? 何(なに)がだ?」


 暗(くら)い帰(かえ)り道(みち)を歩(ある)きながら、タカヤはショースケに聞(き)き返(かえ)します。


「だってあの二人(ふたり)、逃(に)げるつもりならわざわざこの町(まち)に来(く)ること無(な)いじゃない? タカヤが言(い)うには、なんか…すごい変身(へんしん)ができる薬(くすり)を持(も)ってたんでしょ? それなら変身(へんしん)して、普通(ふつう)に町(まち)で暮(く)らしていれば良(よ)かったじゃん。わざわざ身分証明(みぶんしょうめい)が必要(ひつよう)な異星旅行(いせいりょこう)に来(く)るなんておかしいよ」


「確(たし)かに…そう言(い)われるとそうだな」


「それにしても…変身(へんしん)してたなら、なんで薬(くすり)を使(つか)った痕跡(こんせき)すらこの双眼鏡(そうがんきょう)で見(み)えなかったのかなー? これは最新式(さいしんしき)のはずなのに…じーちゃんに言(い)っておかないと」


「あはは…そう、だな」


「あ、僕(ぼく)の家(いえ)こっちだからここでお別(わか)れだね。じゃあタカヤ、また明日(あした)ねー!」


 ショースケはパタパタと、月明(つきあ)かりでぼんやり照(て)らされた道(みち)を走(はし)って行(い)きました。


「ああ。また明日(あした)」


 …タカヤはそのまま、暗闇(くらやみ)で目(め)を伏(ふ)せます。


(あの薬(くすり)は…普通(ふつう)の変身薬(へんしんやく)じゃない。見(み)た目(め)だけじゃなくて、体(からだ)の作(つく)りを丸(まる)ごと別(べつ)の生物(せいぶつ)に変身(へんしん)させる薬(くすり)だ。見(み)た目(め)を変化(へんか)させてるわけじゃないからショースケの双眼鏡(そうがんきょう)でも見(み)えなかったし…ココレヨさんは慣(な)れないハエそのものの体(からだ)を上手(うま)く動(うご)かすことが出来(でき)なかった…)


 夜中(よなか)の独特(どくとく)な匂(にお)いを吸(す)い込(こ)んで…ふぅっと息(いき)を吐(つ)いてから、タカヤは見慣(みな)れた家路(いえじ)を歩(ある)き始(はじ)めました。


(あの変身(へんしん)は…トリスタル星人(せいじん)の…あの人(ひと)の変身(へんしん)と同(おな)じだ)



****



 真(ま)っ白(しろ)な宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)の一(いっ)室(しつ)で、ココレヨたちは肖造(しょうぞう)から尋問(じんもん)を受(う)けています。


「『特急(とっきゅう)こすもに乗(の)って、地球(ちきゅう)の時(とき)目(め)木(き)町(ちょう)へ向(む)かって…そこで薬(くすり)を使(つか)ってみせること』…それが、あの薬(くすり)をもらう条件(じょうけん)だったんです」


「怪(あや)しいとは思(おも)ったよ、妙(みょう)に具体的(ぐたいてき)だし。でも…他(ほか)に縋(すが)る物(もの)も無(な)かったから。それにしても絶対(ぜったい)バレないって言(い)われてたのに、あの宇宙警察(うちゅうけいさつ)さんにバレるなんて…オレたち、薬(くすり)をくれたあの人(ひと)に騙(だま)されたのかな。まぁ今(いま)となっては別(べつ)に構(かま)わないけどさ」


「え、薬(くすり)をくれた人(ひと)の特徴(とくちょう)…? 私(わたし)と同(おな)じオラブ星人(せいじん)で、特(とく)に変(か)わったことは…あ、でも…語尾(ごび)を伸(の)ばすような珍(めずら)しい喋(しゃべ)り方(かた)をしていましたね」


「残(のこ)った薬(くすり)…あるよ、あるはずなんだけど…あれ? 絶対(ぜったい)ここに入(い)れたんだけど…。一緒(いっしょ)にもらった、薬(くすり)を入(い)れる箱(はこ)ごと無(な)くなってる。どこかで落(お)としたか? いや、そんなはず無(な)いのに…」



****



「オカエリ オカエリ タカヤー!」


 家(いえ)に帰(かえ)ってリビングに入(はい)ると、早速(さっそく)ツバサが駆(か)け寄(よ)ってきてタカヤの足下(あしもと)をぐるぐると回(まわ)ります。


「ただいま、ツバサ。お留守番(るすばん)ご苦労(くろう)様(さま)」


「コレグライ ヘッチャラ! タカヤ コソ オシゴト オツカレサマ!」


 手洗(てあら)いうがいを済(す)ませて、タカヤはツバサを抱(だ)っこするとリビングのソファに座(すわ)りました。


 …目(め)の前(まえ)のテーブルの上(うえ)には最後(さいご)に残(のこ)った夏休(なつやす)みの宿題(しゅくだい)、自己(じこ)紹介(しょうかい)を書(か)くプリントが置(お)いてあります。


 誕生日(たんじょうび)六(ろく)月(がつ)十七(じゅうなな)日(にち)、血液(けつえき)型(がた)A型(がた)、そして似顔絵(にがおえ)…そこまでしか空欄(くうらん)は埋(う)まっていません。


 何日(なんにち)も前(まえ)からその状態(じょうたい)のプリントを見(み)て、タカヤが小(ちい)さくため息(いき)を吐(つ)くと…



 突然(とつぜん)、しんとした部屋(へや)に固定(こてい)電話(でんわ)の着信音(ちゃくしんおん)がプルプルと鳴(な)り始(はじ)めました。


 タカヤは立(た)ち上(あ)がり、急(いそ)いでコードレスの受話器(じゅわき)を取(と)ります。


「あ! タカヤ? 俺(おれ)だよヒカル!」


「兄(にい)ちゃん?」


 タカヤの家(いえ)の固定(こてい)電話(でんわ)は肖(しょう)造(ぞう)によって改造(かいぞう)されているため、ポスリコモスからでも繋(つな)がるようになっています。


「うん! 久(ひさ)しぶりだなー元気(げんき)にしてたか? あ、そっちって今(いま)何時(なんじ)? 俺(おれ)の予想(よそう)ではお昼(ひる)くらいなんだけど」


「えっと…夜中(よなか)の二(に)時前(じまえ)かな」


「え」


 地球(ちきゅう)とポスリコモスの時間(じかん)はかなり流(なが)れ方(かた)が違(ちが)うため、こういうことが起(お)こるのは日常(にちじょう)茶飯事(さはんじ)です。


「ご、ごめん…タカヤ。もしかして寝(ね)てた?」


「あはは…大丈夫(だいじょうぶ)だよ、俺(おれ)寝(ね)る必要(ひつよう)ないから。それで、兄(にい)ちゃんどうしたの?」


「そうだ! あのさ、もう少(すこ)ししたら父(とう)さんと母(かあ)さんがポスリコモスに一時(いちじ)的(てき)に帰(かえ)って来(く)るらしいんだ! だから久(ひさ)しぶりに家族(かぞく)みんなで会(あ)わないかと思(おも)って!」


「そうなんだ! …うん、俺(おれ)もみんなに会(あ)いたいな。楽(たの)しみにしてる」


 タカヤとヒカルがしばらくお話(はなし)していると…後(うし)ろで退屈(たいくつ)そうにしていたツバサか、急(きゅう)に触覚(しょっかく)をピンと伸(の)ばして声(こえ)を出(だ)しました。


「ソウダ。ボク ヒカル ニ ミセタイ モノ アッタンダッタ! チョット マッテテ。 ニカイ ニ オイテアル カラ」


 そう言(い)って四(よん)本(ほん)の足(あし)をバタバタ動(うご)かしながら、ツバサはよいしょと二(に)階(かい)へ上(あ)がっていきます。


 タカヤはそれを笑顔(えがお)で見送(みおく)って…ふと、テーブルの上(うえ)のプリントが目(め)に入(はい)りました。


 …いけないことなのはわかっています。


 でも、タカヤには…他(ほか)に手段(しゅだん)が思(おも)いつきません。


「…なぁ、兄(にい)ちゃん? 俺(おれ)、兄(にい)ちゃんに協力(きょうりょく)して欲(ほ)しいことがあって」


「お? なになに、タカヤが頼(たよ)ってくれるなんて嬉(うれ)しいなー」


 …受話器(じゅわき)越(ご)しのヒカルの声(こえ)は嬉(うれ)しそうです。


「実(じつ)は学校(がっこう)の宿題(しゅくだい)で、家族(かぞく)に質問(しつもん)してみようっていうのがあって…兄(にい)ちゃんに聞(き)きたいんだけど、いい?」


「あ、またその宿題(しゅくだい)? 確(たし)か前(まえ)にも一回(かい)あったよな、タカヤのクラスって珍(めずら)しい宿題(しゅくだい)あるなーって思(おも)ったから覚(おぼ)えてる! もちろんいいよ!」


「…ありがとう、それじゃあ…」


 タカヤはリビングのソファに座(すわ)り、左手(ひだりて)で受話器(じゅわき)を持(も)ったまま、右手(みぎて)で鉛筆(えんぴつ)を握(にぎ)りました。


「兄(にい)ちゃんの趣味(しゅみ)は?」


「えーっと…強(し)いて言(い)うなら読書(どくしょ)かな?」


「じゃあ…長所(ちょうしょ)は?」


「え! えーっと…あ、笑顔(えがお)がいいねとは言(い)われるよ!」


「好(す)きな食(た)べ物(もの)は?」


「ハンバーグだよ」


「…小学生(しょうがくせい)のとき好(す)きだった教科(きょうか)は?」


「えー何(なん)だったかなー、理科(りか)とか?」


「そっか、それじゃあ次(つぎ)は…」


 タカヤはヒカルの答(こた)えを、次々(つぎつぎ)と自分(じぶん)の自己(じこ)紹介(しょうかい)のプリントに書(か)いていきます。


 良(よ)かった…前(まえ)に聞(き)いたときとは少(すこ)し答(こた)えが違(ちが)っていますから、これなら恐(おそ)らく自然(しぜん)でしょう。



「ありがとう、兄(にい)ちゃんのおかげで助(たす)かったよ」


「これぐらいならお安(やす)いご用(よう)さ。また頼(たよ)ってくれよ」


「…うん、また頼(たよ)らせてもらうよ」


 心底(しんそこ)安心(あんしん)しながらも、胸(むね)がチクリと痛(いた)んで…。


 タカヤは書(か)き終(お)わった自己(じこ)紹介(しょうかい)のプリントをもう見(み)なくて済(す)むように、書(か)いた面(めん)を内側(うちがわ)に二(ふた)つ折(お)りして、クリアファイルの中(なか)に仕舞(しま)いました。


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