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第十七話 束の間の再会に愛を込めて

****


「ねぇタカヤ()いた? (ぼく)らがこの(あいだ)、スイとティナと()った惑星(わくせい)ミッシェルの(はなし)


 ポスリコモス()きの特急(とっきゅう)こすもに(そな)()けられているプヨプヨの座席(ざせき)(すわ)って、ショースケは(となり)のタカヤに()いかけます。


「ああ、見慣(みな)れない生物(せいぶつ)大量(たいりょう)発生(はっせい)したらしいな」


「うん。危害(きがい)(くわ)えて()るわけじゃないんだけど、とにかく(かず)(おお)くて宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)対処(たいしょ)(こま)ってたみたい。あ、でも……数日(すうじつ)(まえ)にまるで()えたみたいにパタリと()なくなったらしいよ、本当(ほんとう)不思議(ふしぎ)だよねー」


 そう()いながら、ショースケはいつも()っているカバンの(なか)からバナナを()()し、(かわ)()いてむしゃりと頬張(ほおば)りました。


「あ、タカヤもいる? ()(ほん)()ってきたけど」


「そうなんだ、じゃあもら……」


 ……無意識(むいしき)なのでしょうが、ショースケの(まゆ)露骨(ろこつ)()がっていきます。


「……わないでおこうかな。ショースケが()べたらいいよ!」


「え、いいの⁉ わーい!」


 一本(いっぽん)()をすぐに()()えたショースケは(うれ)しそうに、()(ほん)()のバナナの(かわ)()(はじ)めました。


 タカヤはそれを()てへにょりと(わら)うと、ふと(おも)()したように(くち)(ひら)きます。


「そういえばショースケ()いたか? 宇宙警察(うちゅうけいさつ)のデータの一部(いちぶ)が、何者(なにもの)かによって(ぬす)まれていたことが判明(はんめい)したって。具体的(ぐたいてき)何時(いつ)(ぬす)まれたのかはわかってないらしい」


「あー、どうもそうらしいね。まさか最新(さいしん)技術(ぎじゅつ)(まも)られてるデータが(ぬす)まれるなんてびっくりしちゃったよ。えーっと、(ぬす)まれたデータは(たし)か、宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)それぞれの配属先(はいぞくさき)と……ここ(すう)(げつ)の、どの隊員(たいいん)がいつ、どこの(ほし)()ったかの情報(じょうほう)だっけ。そんなの(なん)()しかったんだろう? 見当(けんとう)がつかないや」


「……ああ、そうだな」


 そう(くち)()しながら、タカヤが(ふか)(かんが)()んでいると……ポスリコモスへの到着(とうちゃく)()らせるアナウンスが車内(しゃない)(ひび)きます。


「え、もう()いちゃったの⁉ うぅ、どうしよう……今更(いまさら)緊張(きんちょう)してきた……」


 ショースケはあからさまにソワソワし(はじ)めて、()()かないのかガバッと()()がり、もう出口(でぐち)へと()かっていきます。


「そんなに緊張(きんちょう)しなくて大丈夫(だいじょうぶ)だって。あ、ショースケ? これ(わす)れてるぞ!」


 足下(あしもと)()いてあった(しろ)紙袋(かみぶくろ)()ったタカヤは、ショースケの(あと)()いかけようとして……一瞬(いっしゅん)(うご)きを()めて座席(ざせき)(すわ)(なお)しました。


「あ、紙袋(かみぶくろ)! ありがとうタカヤ……タカヤ?」


「なんでもない。ほら、()こう?」



****



「タカヤー! ショースケくん! こっちこっち」


 ポスリコモス(えき)からゲートをくぐった(さき)、たくさんのET(いーてぃー)たちで(にぎ)わう広場(ひろば)でヒカルは(おお)きく()()ります。


(にい)ちゃん、(むか)えに()てくれてありがとう。あ! 今日(きょう)はエイギスさんも一緒(いっしょ)()てくださるんですか?」


 ヒカルの(となり)にはエイギスが()っており、その(うつく)しい()()からたくさんのET(いーてぃー)視線(しせん)(あつ)めていました。


「ええ、一緒(いっしょ)()きたいってヒカルにお(ねが)いしたの。ワタシも春子(はるこ)(じゅん)(いち)()いたいもの」


 そう、今日(きょう)はタカヤとヒカルの両親(りょうしん)春子(はるこ)(じゅん)(いち)がポスリコモスに(かえ)って()()です!


「……エイギスさんがいるなら(ぼく)もちょっと安心(あんしん)するよ。家族(かぞく)(あつ)まるときに(ぼく)()たら(こま)るんじゃないかって不安(ふあん)だったもの」


 ショースケは(ちい)さな(こえ)(つぶや)きながら、地球(ちきゅう)から()ってきた(しろ)紙袋(かみぶくろ)(なか)をちらりと確認(かくにん)しました。


 ……自分(じぶん)()いに()けないからと、ライトからタカヤの両親(りょうしん)(わた)すように(たの)まれた有名(ゆうめい)なお(みせ)のおまんじゅう……どうやら(くず)れたりはしていないようです。


大丈夫(だいじょうぶ)! (とう)さんも(かあ)さんもショースケくんに()うの(たの)しみにしてたから! さて、そろそろ約束(やくそく)時間(じかん)なんだけど…二人(ふたり)とも()ないな?」


 ヒカルは(あた)りをキョロキョロ見渡(みわた)しますが……どうもそれらしき(ひと)はいません。


「んー……(おれ)、もしかして…また()()わせ場所(ばしょ)とか間違(まちが)えてる?」


 ヒカルがポケットからメモを()()してじろじろ確認(かくにん)していると……




(だれ)かー! 泥棒(どろぼう)(つか)まえてー!」


 市場(いちば)方向(ほうこう)から(つんざ)くような悲鳴(ひめい)()こえました。


 ()(くろ)なラバースーツのような(ふく)(かお)まで(おお)われたET(いーてぃー)が、(ぬす)んだであろう(つぼ)(かか)え、周囲(しゅうい)ET(いーてぃー)たちを()()ばしながらこちらへ()かって()ます。


「ど、泥棒(どろぼう)⁉ どうしようこっちに()る!」


 ショースケはエッグロケットを()()そうと、カバンをわたわたと(さぐ)りますが……片手(かたて)()った紙袋(かみぶくろ)邪魔(じゃま)でなかなか()つかりません。


 その(あいだ)(ほか)(さん)(にん)(はし)()します。


(にい)ちゃん、エイギスさん! 泥棒(どろぼう)対処(たいしょ)(たの)んでいいですか!」


 タカヤはすぐに、()()ばされて怪我(けが)をしているET(いーてぃー)たちの(もと)(はし)って()きました。


「わかったわ、()くわよヒカル!」


「もちろん、エイギス。しかしあの泥棒(どろぼう)(うん)(わる)いな……まさか(おれ)たち宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)(あつ)まってる(ほう)(はし)ってくるなんて!」


 ヒカルは右腕(みぎうで)()けているポスエッグに()れて、その(なか)から(まる)くてツヤツヤの(たま)()()()します。


最近(さいきん)()()れたばかりの自動(じどう)追跡(ついせき)機能(きのう)()捕獲(ほかく)ボール! これを……こう!」


 (おも)()()りかぶって、ヒカルは捕獲(ほかく)ボールを(そら)()けて(ほう)()げました。


 捕獲(ほかく)ボールは空中(くうちゅう)でピカリと一度(いちど)(ひか)ったかと(おも)うと(いきお)いよく(はじ)けて、(なか)から(おお)きな(おお)きな捕獲(ほかく)ネットが()()します。


 その(おお)きさは……なんと、広場(ひろば)(さん)(ぶん)(いち)ほど()まってしまいそうなほどで……


「ヒカル⁉ もしかして、()げる捕獲(ほかく)ボールを間違(まちが)えてないかしら⁉」


「あぁああ! 本当(ほんとう)だ、これ(ちょう)大型(おおがた)モンスター(よう)だった!」


 気付(きづ)いたところでもう(おそ)く……ヒカルの(うえ)にもエイギスの(うえ)にも、はたまたショースケとタカヤの(うえ)にも(ちょう)(おお)きな捕獲(ほかく)ネットが()ってきました。


「うわぁ⁉ (なに)これ、なんかベタベタして()げられない!」


 ショースケはバタバタ藻掻(もが)きますが……この捕獲(ほかく)ネットには捕獲(ほかく)対象(たいしょう)()げられないように接着剤(せっちゃくざい)のようなものが()られています、そう簡単(かんたん)()けられません。


「うわぁあん……どうしよう、(みんな)ごめん……」


 (なん)とか()()そうと(あば)れたのでしょう、ヒカルは身動(みうご)きも()れない(ほど)ネットでぐるぐる()きになりながらしょんぼりと(あやま)りました。


大変(たいへん)なことになったわね……あら?」


 エイギスは(あたま)()()いた捕獲(ほかく)ネットごと(くび)()()げます。


「さっきの泥棒(どろぼう)がネットに()かっていないわ!」


「えぇ⁉ じゃあどこに……ってあぁ!」


 ショースケが頑張(がんば)って(くび)をもたげると……捕獲(ほかく)ネットの隙間(すきま)(あな)から、地面(じめん)からぬるりと()てきた泥棒(どろぼう)(とお)ざかっていくのが()えました。


「あの泥棒(どろぼう)地面(じめん)(なか)移動(いどう)できる道具(どうぐ)使(つか)ってたんだ! 大変(たいへん)、このままじゃ()げられちゃうよ!」


 でも(うご)けば(うご)くほど捕獲(ほかく)ネットが(から)まって()()いて……どうすることもできません。


「うぅ……(だれ)(たす)けてー!」


 ショースケが(おも)わずそう(さけ)ぶと……



「はーい!」


 (そら)から(こえ)()こえました。


()くわよ! (じゅん)(いち)


了解(りょうかい)……春子(はるこ)



 広場(ひろば)(そば)にある(たか)建物(たてもの)(うえ)から、人影(ひとかげ)(ふた)()()ちます。


(じゅん)(いち)はみんなを解放(かいほう)してあげて。(わたし)はあの()(つか)まえにいくから!」


「……わかった」


 春子(はるこ)二手(ふたて)()かれた(じゅん)(いち)は、刀身(とうしん)(ひかり)出来(でき)ている一本(いっぽん)(けん)両手(りょうて)(かま)えて、(おお)きく(ひろ)がった捕獲(ほかく)ネットの(うえ)にふわりと()かびました。


「と、(とう)さぁあん……」


 身動(みうご)きが()れないヒカルはべそべそと()いています。


「お……ヒカル。(ひさ)しぶりだな、いつぶりだ……?」


 (じゅん)(いち)(けん)()ろし、捕獲(ほかく)ネットにぐるぐる()きのヒカルを見下(みお)ろしながらぼそぼそと(はな)しかけ(はじ)めました。


「え、えーっと……(いち)年半(ねんはん)ぶりくらい?」


「……そうか、もうそんなに()つのか。元気(げんき)でやってるか……? お、ヒカルちょっと(おお)きくなったんじゃないか……? そうだタカヤは……」


「いやいや、(とう)さん! (はなし)(あと)でするからとりあえず(たす)けて()しいな⁉」


 その()(かが)んでゆっくり(はなし)(つづ)けようとする(じゅん)(いち)に、ヒカルは必死(ひっし)(さけ)びます。


「あ……そうか、そうだった」


 ()()がって(くび)をコキコキと()(かい)()らして、(じゅん)(いち)はもう一度(いちど)(けん)(かま)えました。


「……(うご)くなよ」


 そう(つぶや)いて、()にも()まらぬ(はや)さで何度(なんど)(けん)()ったと(おも)うと……(つぎ)瞬間(しゅんかん)には、ヒカルたちを()らえていた(おお)きな捕獲(ほかく)ネットは粉々(こなごな)に()(きざ)まれていました。


「……まだベタベタはするだろうが、これで(うご)けるだろ」




「ありゃ、また地中(ちちゅう)(もぐ)っちゃったみたいねー」


 泥棒(どろぼう)姿(すがた)()えなくなっても、春子(はるこ)はやけに()()いています。


(もぐ)ってからの時間(じかん)から(かんが)えて……移動(いどう)範囲(はんい)はこの(あた)り。障害物(しょうがいぶつ)有無(うむ)、この(あと)()げるのに有利(ゆうり)経路(けいろ)……そう(かんが)えると」


 春子(はるこ)はスタスタと(ある)いて()き、ある(いち)(てん)()まります。


()てくるのはここ!」


 そう()ったのと同時(どうじ)に、春子(はるこ)()(まえ)地面(じめん)から泥棒(どろぼう)がぬるりと()()して()ました!


「ビンゴね!」


 春子(はるこ)背負(せお)っていた(じゅん)(いち)(おな)(けん)()(ほん)両手(りょうて)一本(いっぽん)ずつ(かま)えると瞬時(しゅんじ)泥棒(どろぼう)()びかかります。


 (とが)った(けん)(さき)はゆらゆらと(かたち)()えてロープのように()びてしなって、春子(はるこ)はそれを器用(きよう)(あやつ)泥棒(どろぼう)(からだ)にぐるぐると()()けると、いとも容易(たやす)(うご)きを(ふう)じてしまいました。


一丁(いっちょう)()がり! さて、お(はなし)本部(ほんぶ)()かせてもらうわね」




(たす)けてくれてありがとう、(とう)さん(かあ)さん……そしてごめんなさい」


 まだ(からだ)捕獲(ほかく)ネットのベタベタを()けたまま、ヒカルはうずくまってどんよりと(へこ)んでいます。


 エイギスはそんなヒカルの背中(せなか)を、(ほそ)(うで)でツンツンとつつきました。


「こらヒカル、いつまでもそんな(ふう)にいないの。ほら、このスプレーを()きかけたらベタベタは()れるから」


「うぅー…だって(おれ)所為(せい)でたくさんの(ひと)迷惑(めいわく)を……」


「もういいから。はい、これ使(つか)って」


 ……ヒカルはやっと()()がってスプレーを()()ると、(からだ)()()(はじ)めました。


 その様子(ようす)()ていた春子(はるこ)(たか)らかに(わら)います。


「あははは、ごめんねエイギス! うちの息子(むすこ)世話(せわ)になってるわ」


「ううん、ワタシもヒカルにいっぱいお世話(せわ)になってるから。春子(はるこ)(じゅん)(いち)(ひさ)しぶりに()えて(うれ)しいわ! ワタシ、二人(ふたり)のおかげで宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)として頑張(がんば)ってるの」


(わたし)()えて(うれ)しいわーエイギス! 可愛(かわい)可愛(かわい)い!」


 春子(はるこ)()(たか)いエイギスのお(なか)(まわ)りをぎゅーっと()きしめて、何度(なんど)(ほお)ずりします。


 そんな二人(ふたり)横目(よこめ)()て、ほんの(すこ)口元(くちもと)(ゆる)めた(じゅん)(いち)は、(ちか)くで(からだ)にスプレーを()きかけているタカヤの(ほう)(あゆ)みを(すす)めました。


「……タカヤ、(ひさ)しぶりだな。(からだ)はどうだ……」


(ひさ)しぶり、(とう)さん。(からだ)大丈夫(だいじょうぶ)だよ、(なん)にも問題(もんだい)()いかな」


 タカヤはいつも(どお)(わら)って()せます。


「…………そうか。ところで……」


 (じゅん)(いち)はいつも(どお)りの無表情(むひょうじょう)で、タカヤの背中(せなか)(うし)ろに(かく)れているショースケをじーっと()つめました。


「ひっ……え、ええと……」


(とう)さん、この()(おれ)のコンビのショースケだよ。ほらショースケ、(こわ)くないから」


「……そうか、(きみ)(しょう)(ぞう)さんの(まご)か……」


 またまた、(じゅん)(いち)はショースケの(かお)(あな)()くほど()つめます。


「……あんまり()ていないな」


 そう()って、(じゅん)(いち)がふにゃっと口元(くちもと)(ゆる)めると……(うし)ろから春子(はるこ)全速力(ぜんそくりょく)(はし)って()て、タカヤの(からだ)をぎゅーっと()きしめました。


「タカヤ、()いたかったー! (おお)きくなったわね、(からだ)大丈夫(だいじょうぶ)?」


(かあ)さん! う、うん。大丈夫(だいじょうぶ)


無事(ぶじ)みたいで()かったわー……あら?」


 春子(はるこ)はタカヤの(うし)ろで(かく)れるように(かが)んでいるショースケを()つけると……


「もしかして! あなたショースケくん⁉」


 (つぶ)れるぐらいの(いきお)いで()きついて、ショースケの(からだ)(たか)()()げてしまいました。


「わ⁉ わわっ……」


「きゃー! なんて可愛(かわい)いの!」


 春子(はるこ)がそのまま、(うれ)しそうにくるくる(まわ)るので……ショースケは()(まわ)って、(なに)(なん)だかよくわからなくなってきました。


(かあ)さん! ショースケ(こま)ってるから()ろしてあげて!」


「あ、ごめんねタカヤ! あんまり可愛(かわい)いからつい……」


 春子(はるこ)はゆっくりと大切(たいせつ)そうに、ショースケを地面(じめん)()ろします。


「ごめんね、自己(じこ)紹介(しょうかい)もせずにいきなり()っこしちゃったりして。(わたし)(いし)(ごえ)春子(はるこ)! こっちは(おっと)(じゅん)(いち)!」


 春子(はるこ)(じゅん)(いち)背中(せなか)をぽんっと(たた)くと、ぼーっと(そら)()ていた(じゅん)(いち)()()いたのか(あたま)(ちい)さく一回(いっかい)()げます。


「ここで()(ばなし)もなんだし……とりあえず本部(ほんぶ)(ない)のカフェにでも()きましょうか! もちろんご馳走(ちそう)するわよ!」



****



 (ろく)(にん)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)(いっ)(かい)にあるカフェにやって()て、(まる)いテーブルを(かこ)んで(すわ)ります。


「はー、(ひさ)しぶりに()べるとここの極彩色(ごくさいしき)のご(はん)一層(いっそう)美味(おい)しいわねー!」


 お(さら)にてんこ()りの(いろ)とりどりの(まる)いパンのような(なに)かを(くち)(はこ)びながら、春子(はるこ)はご満悦(まんえつ)(ほお)()さえました。


「ほら、ヒカルもっと()べなさい! (まえ)よりちょっと()せたんじゃないの?」


「べ、(べつ)()せてないよ。むしろ(まえ)より(ふと)ったからちょっと()らして……って無理(むり)やり(さら)にのせないで⁉」


「いいから()べなさい! ほらエイギスも……って、エイギスは(もの)()べないんだったわね」


 椅子(いす)には上手(うま)(すわ)れないエイギスは()ったまま、その様子(ようす)見下(みお)ろしてふわりと(わら)いました。


「あら? タカヤもあんまり()べてないじゃない! ほら、お(さら)()して!」


 春子(はるこ)今度(こんど)はタカヤの(さら)()()ると、(まる)いパンのような(なに)かをいくつものせて、山積(やまづ)みにして(かえ)します。


()べれるだけ()べなさい! (あま)ったら(かあ)さんが()べてあげるから」


「あ、ありがとう……(かあ)さん」


 タカヤは(まゆ)()げてへちょりと(わら)って、そのうちの(ひと)つを頬張(ほおば)(はじ)めました。


「なぁショースケ? ()かったらこれ一緒(いっしょ)()べてくれないか? たくさんあるし……」


「……え? あ! うん、わかった」


 タカヤの(となり)(すわ)るショースケは(しろ)紙袋(かみぶくろ)(ひざ)(うえ)にのせたまま、ずーっとそわそわしています。


「あ、そうか。それを(わた)すんだったな……(とう)さん(かあ)さん、ショースケが二人(ふたり)(わた)(もの)があるって」


「ん? (なに)かしら」


 春子(はるこ)(じゅん)(いち)同時(どうじ)にショースケの(ほう)()いたので、ショースケはまた一段(いちだん)と、心臓(しんぞう)がきゅっと(にぎ)られたように緊張(きんちょう)してしまいます。


「え、ええええ、えぇっと……」


「……(おれ)たち、そんなに(こわ)いだろうか……」


 (じゅん)(いち)(あお)いジュースを()みながら、表情(ひょうじょう)()えずにしょんぼりとうつむきました。


「ほら! (じゅん)(いち)ももっと(わら)って! ショースケくーん、(こわ)くないわよー?」


 春子(はるこ)(じゅん)(いち)二人(ふたり)両手(りょうて)をぶんぶんと()りますが……ショースケの(かお)強張(こわば)ったままです。


 ……()かねたタカヤはポケットの(なか)のエッグロケットを(にぎ)って、ショースケにテレパシーを(おく)ります。


(どうしたんだショースケ。普段(ふだん)初対面(しょたいめん)でもそんなに緊張(きんちょう)してないのに)


(だってタカヤの両親(りょうしん)なんだもん! タカヤだって(ぼく)のマムとダッドに()ったら絶対(ぜったい)緊張(きんちょう)するって!)


(そ、そうかもしれないけど……)


(もうタカヤがこれ(わた)して!)


 ショースケは紙袋(かみぶくろ)をゴリゴリとタカヤに()しつけます。


「えーっと、(とう)さん(かあ)さんこれ……」


(なに)かしら……あ! ここのおまんじゅう(わたし)たち大好(だいす)きなのよー! (ひさ)しぶりに()べられるなんて(うれ)しいわー! ねぇ(じゅん)(いち)?」


「ああ……なぁ、ショースケ(くん)……?」


 ショースケがあまりにも(ちぢ)こまっているので、(じゅん)(いち)はいつもより(わら)おうとして……(なん)とも()えない不気味(ぶきみ)()みを()かべました。


(じゅん)(いち)、その(かお)(こわ)いわよ」


 右隣(みぎどなり)春子(はるこ)片手(かたて)でほっぺたをむにゅっと(はさ)まれて、変顔(へんがお)状態(じょうたい)のまま(じゅん)(いち)(はなし)(つづ)けます。


「……このおまんじゅうは……もしかしてライト(くん)からだろうか……?」


 ショースケは物凄(ものすご)(じゅん)(いち)変顔(へんがお)()になりますが……とにかくコクコクと(うなづ)きました。


「あ! そういえばショースケくんはライトくんと一緒(いっしょ)()んでるんだったわね! ねぇねぇライトくんは元気(げんき)にしてる?」


 春子(はるこ)()をキラキラさせて(たず)ねられたものの、ショースケが今日(きょう)()()たライトの姿(すがた)は……何徹目(なんてつめ)かわからないほど()(した)(くま)(つく)り、おでこに冷却(れいきゃく)シートを()ってエナジードリンクを()んで、(つくえ)()かってよくわからない言葉(ことば)をぶつぶつ(つぶや)きながら作業(さぎょう)をしている姿(すがた)だったので……はたしてそれが元気(げんき)なのかショースケにはわかりません。


 (うなづ)くわけにもいかないので、ショースケは()っちゃく(くち)(ひら)きました。


「え、ええと……元気(げんき)じゃない、かも……?」


「えぇ⁉ 元気(げんき)じゃないの⁉」


 春子(はるこ)(じゅん)(いち)もヒカルもタカヤもびっくりです。


「どういうことだショースケ⁉ もしかしてライトさん(なん)病気(びょうき)に……」


「え、病気(びょうき)⁉ もしかして……地球(ちきゅう)(がい)病気(びょうき)だったりしないかしら⁉ どうしましょう(じゅん)(いち)!」


「お、おお()()春子(はるこ)……(はな)して……あぁ、あんまり(かた)()するな(くび)がもげる……」


(とう)さん大丈夫(だいじょうぶ)⁉ あ! お、(おれ)本部(ほんぶ)勤務(きんむ)だからライトお(にい)ちゃんに(なに)(くすり)とか調達(ちょうたつ)できるかも!」


 ……なんだか大事(おおごと)になってきているので、ショースケは(あわ)ててブンブン(くび)(よこ)()ります。


「い、いやいや! (つか)れてはいたけど病気(びょうき)じゃない……です」


 ……()(にん)一斉(いっせい)にショースケの(ほう)()て……


「よかったぁ……」


 ぺたりとテーブルに()せました。


 その様子(ようす)()ていたエイギスは(なが)睫毛(まつげ)()らして、(ひとみ)をコロコロと(おお)きく見開(みひら)いています。


(みんな)(きゅう)()(みだ)してしまったからびっくりしたわ……? (たし)かライトさんって……(しょう)(ぞう)のコンビの地球(ちきゅう)(じん)よね?」


「え」


 今度(こんど)はショースケが、()(こぼ)れそうなほどかっ(ぴら)きました。


「えぇええええええ⁉ ライトさんってじーちゃんのコンビなの⁉」


「ショースケくん()らなかったんだ。タカヤからは()わなかったの?」


 ヒカルが()いかけると、タカヤは(こま)ったように(わら)います。


「ライトさんは、(しょう)(ぞう)さんとのコンビはお(たが)いの利益(りえき)のために仕方(しかた)なく()んでるだけだから絶対(ぜったい)()わないで()しいって……」


「あははは! ……ライトくんらしいわね」


 (たか)らかに(わら)った春子(はるこ)がショースケが()ってきたお土産(みやげ)(はこ)(ひら)くと……(なか)には綺麗(きれい)(なら)んだおまんじゅうが(はい)っていて、その(よこ)には丁寧(ていねい)(ととの)った文字(もじ)(つづ)られた手紙(てがみ)()えられていました。


 『春子(はるこ)さんと(じゅん)(いち)さんへ』と(しる)されている(あお)封筒(ふうとう)()()って(ひら)き、春子(はるこ)(うれ)しそうに(かお)をほころばせます。


「ねぇショースケくん? ライトくんはね、(わたし)たちにとってもう一人(ひとり)息子(むすこ)みたいな存在(そんざい)なの。ちょっと真面目(まじめ)すぎて心配(しんぱい)(こと)(おお)いけど……とってもとっても(やさ)しい()


 手紙(てがみ)内容(ないよう)一通(ひととお)()(とお)して、春子(はるこ)(わら)いながら手紙(てがみ)(じゅん)(いち)(わた)します。


「あはは! ショースケくんのお世話(せわ)大変(たいへん)なんですって。でもそれくらいがちょうどいいわよ、あの()(なん)でも(こん)()()ぎるところがあるし……ショースケくん、これからもライトくんのことよろしくね!」


「え、あ!」


 ショースケはキリリと表情(ひょうじょう)(つく)って、かっこよく返事(へんじ)をしようとして……


「ひゃぃ!」


 ……今度(こんど)(おも)()(こえ)裏返(うらがえ)り、しかもちょっと()んでしまいました。


 (すこ)緊張(きんちょう)()けて、やっと普通(ふつう)(しゃべ)れるようになってきたと(おも)ったのに……ショースケはあまりの()ずかしさに(かお)()()にして、自分(じぶん)(ふと)ももを()つめることしか出来(でき)ません。


 すっかり(まる)まってしまったショースケの背中(せなか)を、(となり)のタカヤは(なん)とか元気付(げんきづ)けようと必死(ひっし)(さす)ります。


 そんな二人(ふたり)様子(ようす)を、春子(はるこ)(じゅん)(いち)(やさ)しい()()つめていると…天井(てんじょう)のスピーカーから、(おお)きな(おと)でアナウンスが(なが)れました。



春子(はるこ)隊員(たいいん)(じゅん)(いち)隊員(たいいん)最上階(さいじょうかい)研究室(けんきゅうしつ)至急(しきゅう)()かってください』



「あら……もう時間(じかん)なのね」


 春子(はるこ)残念(ざんねん)そうに、自分(じぶん)(さら)(うえ)にあるパンのようなものを全部(ぜんぶ)ペロリと(たい)らげて「ごちそうさま」と()()わせます。


その(となり)で、(じゅん)(いち)()んでいたライトから手紙(てがみ)をおまんじゅうの(はい)っている(しろ)紙袋(かみぶくろ)(なか)一緒(いっしょ)にしまい、それを()って()()がりました。


「もしかして(かあ)さんと(とう)さん、もう(べつ)(ほし)()っちゃうの?」


「そうなのヒカル。ごめんね、せっかく時間(じかん)()けてくれたのに……もう()かなくちゃ。()えて(うれ)しかったわ」


 (あわ)てて()()がったヒカルをぎゅっと()きしめた(あと)春子(はるこ)はタカヤの(ほう)(ある)いて()ました。


「タカヤ、元気(げんき)そうで()かった。くれぐれも無理(むり)はしないこと、いいわね?」


 そう()って、今度(こんど)はタカヤを()きしめます。


「……うん」


 タカヤは春子(はるこ)(からだ)()きしめ(かえ)そうかと(うで)(すこ)()げて……そのまま、(ちから)()くその()()ろしました。


 春子(はるこ)がパッと(かお)()げます。


「それじゃあ()ってくるわね! エイギス、ショースケくん、ヒカルとタカヤをよろしくね! ほら、()くわよ(じゅん)(いち)!」


「ああ、春子(はるこ)……それじゃあ、また」


 二人(ふたり)()(かえ)ること()くカフェを()て、()(しろ)廊下(ろうか)(さき)()えていきました。




残念(ざんねん)だわ……もっと、お(はな)したいことがたくさんあったのに」


 (なが)(くび)()げて、エイギスはしょんぼり項垂(うなだ)れます。


二人(ふたり)とも(いそが)しいな。さて、これをどうしよう……?」


 ヒカルの(さら)(うえ)にはまだたくさん、パンのようなものが(のこ)っています。


「お、(おれ)も……さすがにショースケと二人(ふたり)でもこんなには()べられないかな」


 タカヤも自分(じぶん)(さら)(うえ)(のこ)りの(かず)()苦笑(にがわら)いです。


(かあ)さん(のこ)ったら()べてくれるって()ってたけど()っちゃったし……仕方(しかた)ない、(おれ)同僚(どうりょう)たちに()べてもらおう」


 ヒカルはカフェのカウンター()かい、半透明(はんとうめい)(ふくろ)をもらって(もど)ってくると、(のこ)ったカラフルなパンのようなものを(ふた)(さら)(ぶん)、その(なか)にパツパツに()()みました。


「さて、(おれ)はとりあえずこれを同僚(どうりょう)たちに(とど)けて()ようかな」


「ワタシも一緒(いっしょ)()くわ、ヒカル。タカヤとショースケはこの(あと)予定(よてい)はあるの?」


「いえ、予定(よてい)()いんですけど……」


 エイギスの()いかけに、タカヤは(となり)のショースケをちらりと()ます。


「うぅ……むちゃくちゃ緊張(きんちょう)したよぉ……絶対(ぜったい)(へん)()だと(おも)われた、もう(かえ)りたい……」


 ショースケはテーブルに()()(はん)ベソをかいていました。


「ライトさんもひどいや、あんな手紙(てがみ)()くことないじゃんか。(ぼく)すごく()()かる()だと(おも)われちゃったよ……?」


 (あし)をバタバタ()らしながらショースケはぐずり(つづ)けます。


大体(だいたい)さ、(ぼく)だってライトさんのお世話(せわ)いっつもしてあげてるのに! お(なか)()して()てるときはお布団(ふとん)かけてあげてるし、(かた)(たた)きだってたまーにしてあげてるんだよ? (まった)く、(かえ)ったら文句(もんく)()ってやらないと……うぇえん……」


 そろそろ本格(ほんかく)(てき)()()してしまいそうなショースケを、タカヤは(あわ)てて(かた)()して椅子(いす)から()たせました。


「お、(おれ)たち今日(きょう)本部(ほんぶ)()まる予定(よてい)で……明日(あした)もあるから、今日(きょう)はもう(やす)もうかと(おも)います! ほら、ショースケ部屋(へや)()くぞ?」


「ううぅ……(ぼく)普段(ふだん)あんな()じゃ()いのにぃい……」


 タカヤはショースケの()(にぎ)ってヒカルとエイギスにぺこりとお辞儀(じぎ)をすると、カフェを(あと)にしようと一歩(いっぽ)()()して……ガクリとその()(ひざまず)きました。


「ごめんごめん、ちょっとつまずいちゃった。()こうか」



****



 透明(とうめい)なチューブのように()びるエレベーターを、宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)最上階(さいじょうかい)()りた春子(はるこ)(じゅん)(いち)(しょう)(ぞう)研究室(けんきゅうしつ)(とびら)をノックします。


()たか、準備(じゅんび)出来(でき)たぞ。すまんな、()かしてしもうて……(ひさ)しぶりの息子(むすこ)たちとの再開(さいかい)じゃったのに」


「いいえ、(すこ)しでも()えて……本当(ほんとう)(うれ)しかったです。それで、(わたし)たちは何処(どこ)()かえばいいんですか?」


 先程(さきほど)までとは()って()わって、春子(はるこ)はひどく真面目(まじめ)(かお)()いました。


「……お(まえ)たち二人(ふたり)に、ここへ一度(いちど)(もど)るように(つた)えたときはまだ(ひろ)範囲(はんい)しか(しぼ)れていなかったんじゃが……先日(せんじつ)あることがあってな、(つい)居場所(いばしょ)特定(とくてい)出来(でき)た」


 (しょう)(ぞう)()をかざすと、(くら)紫色(むらさきいろ)(ちい)さな惑星(わくせい)(おお)きなスクリーンに(うつ)()されます。


(ほし)名前(なまえ)はオラブ(せい)、ここからはかなり(とお)(はな)れた(ほし)じゃ。二人(ふたり)には(いま)すぐこの(ほし)()かってもらいたい。(くわ)しい情報(じょうほう)(あと)(おく)るが……相手(あいて)(なに)をしてくるかわからん、くれぐれも()をつけてくれ」


「……了解(りょうかい)しました。……(しょう)(ぞう)さん?」


 (じゅん)(いち)(ちい)さく、でもしっかりと(くち)(ひら)いて(しょう)(ぞう)()()見据(みす)えます。


「……タカヤを、よろしくお(ねが)いします」


「……ああ、わかっとる。最新式(さいしんしき)UFO(ゆーふぉー)用意(ようい)しておいた、ほんの(すこ)しじゃが(いま)までのものより(はや)到着(とうちゃく)するはずじゃ」


「ありがとうございます。……それでは、()ってきます」


 春子(はるこ)(じゅん)(いち)(ふか)(れい)をすると、研究室(けんきゅうしつ)(とびら)をくぐって()きました。



****



 高速(こうそく)でワープを()(かえ)UFO(ゆーふぉー)(なか)


 (まど)(そと)にはマーブル模様(もよう)波打(なみう)つ、虹色(にじいろ)景色(けしき)(なが)れるばかりです。


「ねぇ(じゅん)(いち)? あの()たち、(おお)きくなってたわね。(とく)にタカヤ……(はな)れたときはまだ(はっ)(さい)で……(いま)(じゅっ)(さい)なんだもんね。(ちか)くで、成長(せいちょう)()ていたかったわ」


「……ああ、そうだな」


「でも(たの)しそうにしてたわね。ショースくんのおかげかしら、ちょっと安心(あんしん)した……()っててね、タカヤ。(わたし)たちは絶対(ぜったい)に……もう(ひと)つのコスモピースを()つけ()して、あなたを(たす)けてみせる」


挿絵(By みてみん)

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