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第十六話 消えた乗客、消せない気持ち

****


「なぁココレヨ、あの(くすり)()ったか?」


「……()ちましたよ。これを(だれ)にも()られないように、列車(れっしゃ)()りる直前(ちょくぜん)()んで……変身(へんしん)すればいいんですよね。本当(ほんとう)に、上手(うま)()くでしょうか……?」


大丈夫(だいじょうぶ)だって、計画(けいかく)完璧(かんぺき)だ。それに、(くすり)をくれた(ひと)()ってただろ? 絶対(ぜったい)バレないって」


「でも……」


「でもでも()うなよ! ……オレはこれからも、ココレヨと一緒(いっしょ)にいろんなところを(たび)したいんだ。ココレヨはそうじゃないのか?」


「それは……(わたし)もキミと一緒(いっしょ)に……」


「……それならやるしかないだろ。ほら、時間(じかん)だ。(さき)()くよ、一緒(いっしょ)だと(うたが)われる。……じゃあ、また(とき)()()(えき)()おうな、ココレヨ」



****



 日中(にっちゅう)()すような(あつ)さと()って()わって、(すこ)湿(しめ)った(かぜ)()いている金曜日(きんようび)午後(ごご)(じゅう)()五十分(ごじゅっぷん)


 タカヤとショースケは今週(こんしゅう)も、(とき)()()公園(こうえん)時計台(とけいだい)(うえ)特急(とっきゅう)こすもがやって()るのを()っていました。


「そういえばショースケ、夏休(なつやす)みの宿題(しゅくだい)(すす)んでるか?」


 夜空(よぞら)()かぶ(なつ)(だい)三角形(さんかっけい)見上(みあ)げながらタカヤが()いかけます。


「うん。(いっ)()もやってないよ」


 ショースケは手元(てもと)のタブレットでパズルゲームをしながらさらりと(こた)えました。


「えぇ⁉ えっと……余裕(よゆう)()って()わらせるために、(なん)(にち)にこれをやるとか…一緒(いっしょ)計画(けいかく)した、よな?」


「したよ、予定(よてい)(どお)りに(すす)んでないだけ」


「そ、そっか……」


 現実(げんじつ)から()()らすように、タカヤは今度(こんど)(した)見下(みお)ろします。


 ポツンと()った街灯(がいとう)()らされた芝生(しばふ)(うえ)では、一週間(いっしゅうかん)(とき)()()(ちょう)旅行(りょこう)(たの)しんだであろうET(いーてぃー)たちが、タカヤたちと(おな)じく特急(とっきゅう)こすもの到着(とうちゃく)()っていました。


 (なん)(ぼん)もの()にお土産(みやげ)をたっぷり(かか)えたET(いーてぃー)(おも)()(ばなし)(はな)()かせるET(いーてぃー)、はたまた(かえ)りたくないのかちょっとむすっとした(かお)(たたず)ET(いーてぃー)……。


 そんなET(いーてぃー)たちが何事(なにごと)()くこの(まち)(たの)しんでくれたことがタカヤは(うれ)しくて、(おも)わず(かお)をほころばせました。


 その(となり)でショースケはパズルゲームで()けそうになっているようで、高速(こうそく)(ゆび)(うご)かしていましたが……


「あぅ……」


 画面(がめん)には『You Lose』の文字(もじ)()かんで、ショースケはそれから(はや)()(そむ)けたいのかタブレットをカバンの(なか)(もど)します。


「……(ぼく)のことばっか()うけどさぁ、そういうタカヤは()わってるの? 夏休(なつやす)みの宿題(しゅくだい)


 パズルゲームで()けた(くや)しさも(あい)まって、ショースケはつい()ねたような口調(くちょう)でタカヤに(たず)ねてしまい……すぐにそのことを後悔(こうかい)しました。


 このスーパーウルトラ優等生(ゆうとうせい)(とき)()()(ちょう)()んだ完璧(かんぺき)超人(ちょうじん)である石越(いしごえ)タカヤが、夏休(なつやす)みが(はじ)まって(すう)(じつ)()った今日(きょう)までに宿題(しゅくだい)()わってないはずがありません。


 おそらく夏休(なつやす)みが(はじ)まる(まえ)()わっているとかそういう(はなし)をされるのでしょう、ショースケが(みみ)(ふさ)ごうとしていると……タカヤから(かえ)ってきたのは予想外(よそうがい)言葉(ことば)です。


「……いや、(じつ)はまだ(ひと)()わってなくて。教室(きょうしつ)(かべ)()るらしい、自己(じこ)紹介(しょうかい)()くプリント」


「え、あれでしょ? 誕生日(たんじょうび)とか趣味(しゅみ)とか()きな()(もの)とか、自分(じぶん)長所(ちょうしょ)とか()くやつ。あんなのちゃちゃっと()いたらいいじゃん、(ぼく)なら()(ふん)()けるね!」


 ()(ふん)()けるなら(いま)すぐ()けばいいのに……きっとショースケはこのプリントを最終日(さいしゅうび)夜中(よなか)()きながら()くことになるのでしょう。


「あはは……ちゃちゃっと、()けたらよかったんだけどな……」


「えーなになに? 自分(じぶん)似顔絵(にがおえ)上手(うま)()けないとか? しょうがないなー(ぼく)()わりに()いてあげてもいいよー?」


 ……ちなみに(えら)そうに()っているショースケの()実力(じつりょく)は……先生(せんせい)に「すごく独創(どくそう)(てき)だね」と()われるくらいです。


「あ、ありがとう……似顔絵(にがおえ)はもう()いたからいいかな」


 タカヤが(こま)ったように(わら)っていると…夜空(よぞら)がキラリと(ひか)りました。



****



 シャラシャラと貝殻(かいがら)(こす)()わせたような(おと)(あた)りに(ひび)いて、(そら)から特急(とっきゅう)こすもが(すべ)るように()ってきます。


(とき)()()(えき)(とき)()()(えき)ー」


 キラキラと(あらわ)れた(あま)(がわ)のようなレールの(うえ)に、特急(とっきゅう)こすもはゆっくりと停車(ていしゃ)しました。


「タカヤは(いま)から()ET(いーてぃー)さんたちのチェックをしてくれる? (ぼく)()りてきたET(いーてぃー)さんたちをチェックするよ」


「ああ、わかった」


 ドアがシューっと(ひら)いて、(なか)からたくさんの(いろ)とりどりなET(いーてぃー)たちが()りてきます。



 ……その(なか)(ちい)さなハエが一匹(いっぴき)()ざっていましたが、ショースケは()()かず…ハエは(からだ)のコントロールが()かないのか、街灯(がいとう)天辺(てっぺん)へとふらふら()んでいきました。



 イヤホン(がた)翻訳機(ほんやくき)片耳(かたみみ)()れて、ショースケは()りてきたET(いーてぃー)たちを一人(ひとり)一人(ひとり)本部(ほんぶ)から(おく)られている情報(じょうほう)()らし()わせて間違(まちが)いがないか(たし)かめていきます。


 毎週(まいしゅう)やっていることです。(いま)まで問題(もんだい)があったことはありませんし、今日(きょう)もいつも(どお)り『異常(いじょう)なし』と()ってさっさと(いえ)(かえ)るつもり、だったのですが……


「あれ……?」


 ショースケはもう一度(いちど)本部(ほんぶ)から(おく)られているET(いーてぃー)情報(じょうほう)をタブレットで確認(かくにん)します。


「ショースケ、どうかしたか? (とき)()()(えき)から()ET(いーてぃー)さんたちは問題(もんだい)()かったから、もう特急(とっきゅう)こすもに乗車(じょうしゃ)してもらったよ」


「いや……なんか一人(ひとり)()りないような……?」


()りない?」


 二人(ふたり)はタブレットを()ながらもう一度(いちど)()りてきたET(いーてぃー)たちをチェックしていきます。


 ……やっぱり一人(ひとり)……オラブ(せい)からやって()ているはずのオラブ星人(せいじん)、ココレヨさんがいません。


「まだ()りてきてないだけかな? あ、座席(ざせき)()ちゃってるとか!」


確認(かくにん)しないとな」


 ショースケは一番(いちばん)(まえ)車両(しゃりょう)のドアから、タカヤは一番(いちばん)(うし)ろの車両(しゃりょう)のドアから特急(とっきゅう)こすもに(はい)ります。


 すでに乗車(じょうしゃ)している、これから時目木町(ときめきちょう)()予定(よてい)ET(いーてぃー)たちにも協力(きょうりょく)してもらって、二人(ふたり)座席(ざせき)隙間(すきま)から(つくえ)(した)、はたまた天井(てんじょう)()り付いてないかまで(くま)なく捜索(そうさく)しましたが……どうにもココレヨさんらしき(ひと)見当(みあ)たりません。


 特急(とっきゅう)こすもの(そと)(もど)って()たタカヤとショースケは同時(どうじ)(くび)(かし)げました。 


「ポスリコモス(がわ)手違(てちが)いか……? 本部(ほんぶ)確認(かくにん)してみるよ」


 タカヤはエッグロケットを()()して、(うし)ろに()いたダイヤルを(まわ)します。


「はい、こちら宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)。どうしましたか? タカヤ隊員(たいいん)


「お(いそが)しいところすみません、特急(とっきゅう)こすもの乗客(じょうきゃく)について確認(かくにん)したいのですが……」



「……はい、そうですか。わかりました」


 タカヤはエッグロケットをポケットに(もど)しました。


「どうだった? タカヤ」


「それが……ココレヨさんは確実(かくじつ)に、ポスリコモス(はつ)特急(とっきゅう)こすもに()ったらしいんだ」


「えぇ⁉ じゃあどこ()っちゃったの?」


「わからない……けど、このままじゃ特急(とっきゅう)こすもは(うご)かせない。(おれ)列車(れっしゃ)(なか)ET(いーてぃー)たちに事情(じじょう)説明(せつめい)してくるよ」


 タカヤはもう一度(いちど)足早(あしばや)特急(とっきゅう)こすものドアをくぐって()きました。


 ショースケがその(あいだ)にタブレットでココレヨさんについて確認(かくにん)していると……その(ちか)くで、(とき)()()(ちょう)旅行(りょこう)にやって()たばかりの(あか)ET(いーてぃー)(こえ)()げます。


「すみませーん、まだここを(はな)れたらいけないんですかー?」


 (つづ)いて(となり)緑色(みどりいろ)ET(いーてぃー)(ほそ)触手(しょくしゅ)()らしました。


「ワタクシ(いま)のうちに、この(まち)()きたいところがありますので…もう移動(いどう)(はじ)めたいのですけれど……」


 わらわらと(あつ)まってくるET(いーてぃー)たちに、ショースケは(あわ)てて事情(じじょう)説明(せつめい)します。


「ご、ごめんなさい。(じつ)()って()たはずの(かた)一人(ひとり)()えちゃって……! みなさんからお(はなし)()きたいので、まだここに()てもらわないといけないんです……」


 それを()いたET(いーてぃー)たちの反応(はんのう)様々(さまざま)ですが……一人(ひとり)(ちい)さな(あお)ET(いーてぃー)が、ショースケのタブレットの画面(がめん)(のぞ)()んで大声(おおごえ)()しました。


「あ! オレこの(ひと)()た!」


「え、この(ひと)って……ココレヨさん⁉」


 ショースケは(あお)ET(いーてぃー)にしっかり画面(がめん)()せます。


「ああ。(とお)くの座席(ざせき)からだったけど…オレ、視力(しりょく)には自信(じしん)があるから間違(まちが)ってないと(おも)う。(たし)かにあの列車(れっしゃ)()ってたよ、()えたなんてびっくりだな」


 (あお)ET(いーてぃー)一本(いっぽん)()えた(つの)をキラリと(かがや)かせながら()いました。


 するとその様子(ようす)()ていた周辺(しゅうへん)ET(いーてぃー)たちが……


「あら、その(かた)ならワタクシも()ましたわ」


「ぼくも()ました」


「あ、わたしも!」


()()たー!」


 なんと全員(ぜんいん)口々(くちぐち)にそう()うではありませんか!


「え、え⁉ 全員(ぜんいん)()たの⁉」 


 ショースケが(おどろ)いていると、(さき)ほどの(あか)ET(いーてぃー)(みみ)をくるくる(まわ)して(うれ)しそうに(はな)します。


「その(ひと)……ココレヨさん、って()うんですか? (からだ)(おお)きくて目立(めだ)っていたのもそうなんですけど…全身(ぜんしん)(くろ)宝石(ほうせき)みたいにキラキラ(ひか)っていて、つい見惚(みと)れてしまったんです」


 (まわ)りにいるET(いーてぃー)たちがそれに同意(どうい)します。


「そうなの! オラブ星人(せいじん)(うつく)しいって(うわさ)()いたことがあったけど、あんなに綺麗(きれい)だなんて(おどろ)いちゃった。ねぇ?」


 ふわふわのピンクのET(いーてぃー)伸縮(しんしゅく)しながら、(となり)(しろ)ET(いーてぃー)(はなし)()りました。


「うんうん、それに()()いに気品(きひん)があったよ。さすが王子(おうじ)(さま)だよね」


 (しろ)ET(いーてぃー)(あたま)天辺(てっぺん)(くち)(ひら)いてそう()ったので、ショースケは(おも)わず(たず)ねます。


「え、王子(おうじ)(さま)? このココレヨさんって王子(おうじ)(さま)なの?」


「そうだよ、ボクはオラブ(せい)(ちか)くの(ほし)出身(しゅっしん)だから()ってるんだ。ココレヨ(さま)(たし)か…もう(すこ)ししたら王様(おうさま)になるはずだよ。そうか、この地球(ちきゅう)から……というかポスリコモスからもオラブ(せい)はとーーーっても(はな)れているから、キミたちが()らないのは当然(とうぜん)だね」


 今度(こんど)足下(あしもと)にある(ふた)()(くち)(ひら)いて、(しろ)ET(いーてぃー)得意(とくい)げに(わら)いました。


 ……その(うし)ろで(ちい)さな(あお)いETが、(つの)をわずかに(ふる)わせたのに()()(ひと)はいません。


 ショースケはタブレットで、(いそ)いでオラブ(せい)について調(しら)べます。


「オラブ(せい)…ポスリコモスから最新(さいしん)のワープ機能(きのう)使(つか)っても、地球(ちきゅう)時間(じかん)数週間(すうしゅうかん)かかるほど(とお)(はな)れた(くに)。……うーん? そんな(とお)くの(ほし)王子(おうじ)(さま)がなんでこの(とき)()()(ちょう)に?」


 ショースケがより(くわ)しく調(しら)べようとタブレットを操作(そうさ)していると……一体(いったい)いくつ(くち)があるのでしょう、(しろ)ET(いーてぃー)(みぎ)(くち)(ひだり)(くち)同時(どうじ)(しゃべ)(はじ)めました。


「オラブ(せい)はかなり(きび)しい(ほし)だからね。王様(おうさま)になったらめったに(ほし)から()られなくなるだろうから、そうなる(まえ)最後(さいご)にゆっくり旅行(りょこう)()たんだと(おも)ってたんだけど……まさか()えてしまうなんてね。一体(いったい)どうしたんだろう?」


 たくさんの(くち)をうねうね(とが)らせて、(しろ)ET(いーてぃー)不思議(ふしぎ)そうです。



 ……(ちい)さなハエは(からだ)上手(うま)(うご)かせないのか、街灯(がいとう)天辺(てっぺん)一生懸命(いっしょうけんめい)しがみついていました。



****



「ただいまショースケ、(なに)進展(しんてん)はあったか?」


「あ、おかえりタカヤ。(じつ)はね……」


 ショースケは(さき)ほどET(いーてぃー)たちから()いたことをタカヤと共有(きょうゆう)します。


「なるほど、王子(おうじ)(さま)か……とにかく、もう(すこ)調(しら)べてみないとな。乗客(じょうきゃく)(きゅう)()えるなんてどう(かんが)えても(へん)だ」


「そうだよね……あ、もしかしたら! 透明(とうめい)マントとか、変身(へんしん)スプレーとか……(なに)道具(どうぐ)使(つか)われてるかも!」



 ……(ちい)さな(あお)ET(いーてぃー)がピクリと(ちい)さく反応(はんのう)して、ほんの(すこ)しショースケから距離(きょり)()ります。



(たし)かにその可能(かのう)(せい)(たか)いな。どうする? 乗客(じょうきゃく)たちの荷物(にもつ)調(しら)べさせてもらうか?」


「ふっふっふ……その必要(ひつよう)()いんだなー! ()てよこの(あたら)しい道具(どうぐ)…」


 タカヤの発言(はつげん)に、ショースケは()ってましたと()わんばかりに意気揚々(いきようよう)とカバンに()()()みました、が……


「あ、それとも(おれ)()てみようか?」


 ……(つぎ)にタカヤが何気(なにげ)なく(はっ)したその言葉(ことば)で、ピタリとその()()めました。


「え、()てみるって……もしかしてコスモピースの(ちから)ってそんなこともできるの? さすがにちょっとズル()ぎない?」


 ショースケは眉間(みけん)にぎゅぎゅっとしわを()せて、口元(くちもと)をこれでもかと(ゆが)ませます。


多分(たぶん)出来(でき)ると(おも)うんだけど……そ、そんな(かお)しないでくれよ……」


「えー……だってさぁ、この(あいだ)依頼(いらい)もその(まえ)依頼(いらい)もタカヤのコスモピースでなんとかなっちゃったんだもん。なんかもう(ぼく)いらなくない?」


「いらなくないって! えーっと……ご、ごめん……」


 わかりやすく()ねてしまったショースケに、タカヤは(あやま)ることしか出来(でき)ません。


「……タカヤがライトさんに内緒(ないしょ)でいっぱいコスモピースの(ちから)使(つか)ってるーって……ライトさんにチクっちゃおうかなぁ」


「ごめんって! お(ねが)いだからそれだけはやめてくれ! ショ、ショースケの(あたら)しい道具(どうぐ)()たいなー、()せてくれよ!」


 タカヤが(たの)()むと……ショースケは(ちい)さくため(いき)()いた(あと)、カバンからエッグロケットを()()しました。


 その(なか)からさらに、双眼鏡(そうがんきょう)のようなものを()()()します。


「これだよ、(あたら)しい道具(どうぐ)。この(あいだ)じーちゃんにもらったの」


 ショースケは双眼鏡(そうがんきょう)(のぞ)いて(あた)りを見渡(みわた)(はじ)めました。


「これはね、(たと)えば透明(とうめい)マントや変身(へんしん)スプレーなんかを使(つか)ってたり、はたまたメグさんみたいに(ほか)生物(せいぶつ)変身(へんしん)してたり……とにかく、()()本当(ほんとう)姿(すがた)とは(ちが)姿(すがた)になっている生物(せいぶつ)や、そういう道具(どうぐ)使(つか)った痕跡(こんせき)見分(みわ)けることができる発明品(はつめいひん)なんだ。(たと)えばあそこの(しろ)ET(いーてぃー)さんは……本当(ほんとう)紫色(むらさきいろ)(からだ)なのに(しろ)()えるように変身(へんしん)してるみたいだね」



 ……(ちい)さな(あお)ET(いーてぃー)何度(なんど)も、チラチラと街灯(がいとう)天辺(てっぺん)()ます。


大丈夫(だいじょうぶ)だ…あの(くすり)をくれた(ひと)()ってた。あの(くすり)はすごいものだから…最新(さいしん)機械(きかい)でも変身(へんしん)見破(みやぶ)ることはできないって。大丈夫(だいじょうぶ)だぞココレヨ、大丈夫(だいじょうぶ)……)



「すごいな、そんなこともわかるのか」


「びっくりしてくれなくていいよ。タカヤだってわかるくせに」


 ショースケはまだ機嫌(きげん)(そこ)ねているのか、(ほお)(ふく)らませながらタカヤの(ほう)()いて……(おも)わず()()しそうになった(こえ)必死(ひっし)()()みました。


 ……双眼鏡(そうがんきょう)()しに()たタカヤは…黒々(くろぐろ)としたぐちゃぐちゃの(やみ)渦巻(うずま)いています。


「どうしたショースケ?」


「い、いや……なんでもない! じゃあこれでいろいろ()てみようか!」


「うん……?」



****



「んー……(へん)だなぁ」


 ショースケは双眼鏡(そうがんきょう)(のぞ)きながら、特急(とっきゅう)こすもの(なか)(なん)往復(おうふく)(ある)(まわ)ります。


「ショースケ、やっぱり(なに)()いか?」


「うん、そういう道具(どうぐ)使(つか)ってるET(いーてぃー)さんは何人(なんにん)かいたけれど、その(なか)にココレヨさんはいなかったよ。(なに)使(つか)われた痕跡(こんせき)みたいなのも()えないし……」


 ……双眼鏡(そうがんきょう)()しにタカヤを()ると(こわ)いので、ショースケはわざと(おお)きく()()らします。


「そっか。……一体(いったい)どこに()ったんだろうな」


「とりあえず(ぼく)はもう(いち)往復(おうふく)列車(れっしゃ)(なか)(さが)してみるね」


「わかった。(おれ)(そと)でもう一度(いちど)()()みしてみるよ」


 タカヤが一番(いちばん)(うし)ろのドアから特急(とっきゅう)こすもの(そと)()ると……ガヤガヤと(はなし)をしているET(いーてぃー)たちの(なか)で、(ちい)さな(あお)ET(いーてぃー)一人(ひとり)街灯(がいとう)天辺(てっぺん)不安(ふあん)そうにじっと見上(みあ)げていました。 


 ……()つめる(さき)には、どうやら(ちい)さなハエが一匹(いっぴき)()まっているようです。


 コスモピースのエネルギーの影響(えいきょう)(おそ)ろしいほど視力(しりょく)(たか)めることができるタカヤが見逃(みのが)すことはありません。


「……こんばんは、ご不便(ふべん)をおかけしてしまって(もう)(わけ)ありません」


 突然(とつぜん)タカヤからそう(はな)しかけられた(あお)ET(いーてぃー)は、(おどろ)いて(こえ)()げました。


「わっ! びっくりした……ほ、本当(ほんとう)だよ! (はや)(まち)観光(かんこう)()きたいのに、ココレヨってやつも迷惑(めいわく)なことするよな」


 (あお)ET(いーてぃー)(おこ)りながら(かお)(そむ)けます。


「……そうですか」


 タカヤはにこりと(わら)って、また特急(とっきゅう)こすもの車内(しゃない)(もど)りました。



****



「ショースケ、ちょっといいか? (たの)みがあって……(そと)街灯(がいとう)天辺(てっぺん)をその双眼鏡(そうがんきょう)()てみてくれないか?」


街灯(がいとう)? いいけど……」


 ショースケは特急(とっきゅう)こすものドアの隙間(すきま)から、街灯(がいとう)天辺(てっぺん)双眼鏡(そうがんきょう)()しに(のぞ)きました。


「んー……(とく)(なに)もないけど?」


「え、……ちょっと()してくれるか?」


 タカヤも双眼鏡(そうがんきょう)()()って確認(かくにん)してみますが……(とく)()わった様子(ようす)はありません。


「ほ、本当(ほんとう)だ……」


「どうしたの? (なに)かあったの」


(じつ)は……」


 (まわ)りに()かれないように、タカヤはショースケに耳打(みみう)ちします。


(そと)にいる(からだ)(ちい)さい(あお)ET(いーてぃー)さんなんだけど、おそらくココレヨさんの仲間(なかま)だ」


「え、仲間(なかま)?」


「うん。(はなし)()いたら『ココレヨってやつも迷惑(めいわく)なことするよな』って……。ココレヨさんが自分(じぶん)()えたのか、事件(じけん)()()まれたのかはまだ(だれ)もわからないはずなのに。あのET(いーてぃー)さんの(くち)ぶりは、まるでココレヨさんが自分(じぶん)から()えたことを()ってるみたいだった」


「な、なるほど……」


「それで、その(あお)ET(いーてぃー)さんが街灯(がいとう)天辺(てっぺん)をチラチラ()てたから…てっきりそこに変身(へんしん)したココレヨさんがいるんだと(おも)ったんだけど……」


 タカヤは眉毛(まゆげ)をハの()にして(かんが)()みます。


「えーっと……(ねん)(ため)()って()くけど、この双眼鏡(そうがんきょう)(こわ)れてないと(おも)う……よ?」


 ショースケは双眼鏡(そうがんきょう)(とお)して、(おそ)(おそ)るタカヤを(のぞ)きながら()いました。


 ……タカヤが人間(にんげん)(かたち)()えないのはきっとコスモピースの影響(えいきょう)でしょう、やっぱり(くろ)くてぐちゃぐちゃです。


「いや、(こわ)れたとか(うたが)ってるわけじゃないんだ」


 そう()っていつも(どお)り、(もう)(わけ)なさそうに(わら)ったタカヤでしたが……ある(おそ)ろしい可能(かのう)(せい)が、不意(ふい)(あたま)(よぎ)りました。


(まさか……)



 ショースケがもう一度(いちど)特急(とっきゅう)こすもの(なか)痕跡(こんせき)(さが)しに(もど)った(あいだ)に、タカヤはこっそりと(そと)()て……()()じてコスモピースの(ちから)発動(はつどう)させます。


 そして(あか)(あお)星々(ほしぼし)(きら)めく(ひとみ)街灯(がいとう)天辺(てっぺん)見上(みあ)げて……(いき)()みました。



****



「みなさん、お()たせしました。もうこの()(はな)れていただいて(かま)いません」


 (そと)()っていた、これから(とき)()()(ちょう)旅行(りょこう)()かけるET(いーてぃー)たちにタカヤは(わら)いかけました。


 ET(いーてぃー)たちは(うれ)しそうに、(ある)いたり(はし)ったり、()んだり(ころ)がったりしながらその()(はな)れて()きますが……


「……あなたは移動(いどう)されないんですか? (はや)()かけたがっていたのに」


 一人(ひとり)(のこ)った(ちい)さな(あお)ET(いーてぃー)に、タカヤは(はな)しかけます。


「で! ()かけるさ……ただちょっと、ここから()える(ほし)綺麗(きれい)だからもう(すこ)()ていこうと(おも)ったんだ」


 そう()って(あお)ET(いーてぃー)(ふたた)び、街灯(がいとう)(ほう)をちらりと()()げます。


「……()れない変身(へんしん)であそこから(うご)けなくなってしまったココレヨさんのことが心配(しんぱい)なんですよね? ……(おも)ったように(うご)けなくて当然(とうぜん)です……普通(ふつう)の、()()だけの変身(へんしん)じゃない」


 タカヤはコスモピースの(ちから)でふわりと(ちゅう)()かぶと、街灯(がいとう)天辺(てっぺん)()()ち、一匹(いっぴき)のハエを()(やさ)しくのせて地上(ちじょう)(もど)ってきました。


「……変身(へんしん)には(くすり)使(つか)ってますよね? その(くすり)はどこで()()れましたか?」


「な、(なん)のことだよ……オレは()らないぞ!」


 (あお)ET(いーてぃー)(つの)()すって必死(ひっし)否定(ひてい)します。


「そうですか……それなら、この生物(せいぶつ)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)(おく)っても(かま)いませんよね?」


 ポケットからエッグロケットを()()して……タカヤは(つめ)たい()で、その銃口(じゅうこう)(ちい)さなハエに()けます。


「そ、それはっ……。わ、わかった(みと)めるよ……そいつはココレヨだ。(くすり)は……オラブ(せい)名前(なまえ)()らない(ひと)にもらったんだよ……(もと)(もど)(くすり)ももらってある。これ……」


 ()()りそうな(こえ)(あお)ET(いーてぃー)(こた)えると、旅行(りょこう)カバンから透明(とうめい)液体(えきたい)(はい)ったカプセル(じょう)(くすり)()()しました。


 タカヤの()のひらから(ちい)さなハエがふらふらと()()って、(あお)ET(いーてぃー)()(くすり)(うえ)にぴたりと()まると……(ちい)さなハエの(からだ)(くすり)がスルスルと()()まれていきます。


 そしてハエはみるみるうちに、(くろ)(かがや)(おお)きな(からだ)のオラブ星人(せいじん)……ココレヨさんへと姿(すがた)()えました。


「…(たす)けていただきありがとうございます、宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)さん。そして……ご迷惑(めいわく)をおかけして本当(ほんとう)(もう)(わけ)ありませんでした」


 ココレヨは(ひざまず)き、(ふか)(あたま)()げます。


「キミにも……(わる)いことをしました。(わたし)()(まま)()()わせてしまった……本当(ほんとう)にごめんなさい」


(なん)でココレヨが(あやま)るんだよ……()げようって、最初(さいしょ)提案(ていあん)したのはオレだ。ココレヨが王様(おうさま)になったら、二人(ふたり)(たび)出来(でき)なくなる……ココレヨと一緒(いっしょ)()られなくなる。オレはそれが(いや)で……」


 (ちい)さな(あお)ET(いーてぃー)は、(ちい)さな(ちい)さな(なみだ)(なが)しました。


「……なぁ宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)さん」


(なん)ですか?」


 タカヤは(かが)んで、できるだけ(あお)ET(いーてぃー)目線(めせん)()わせます。


「……オレたちを見逃(みのが)してくれないか? ココレヨと一緒(いっしょ)()たいんだ……(たの)むよ……」


「…………」


 (すこ)しだけ(かんが)えた(あと)、タカヤが(くち)(ひら)こうとすると……(さき)(くち)(ひら)いたのはココレヨでした。


(わたし)は……(たび)()きな、自由(じゆう)なキミが()きなんです」


 ココレヨは(ほそ)(ゆび)で、(あお)ET(いーてぃー)(なみだ)(ぬぐ)います。


「ですから……(わたし)所為(せい)でキミを(しば)るのが(こわ)くて……キミに(きら)われてしまうかもしれないと(おも)うと、どうしても()()せませんでした」


「ココレヨ……?」


(わたし)は……オラブ(せい)(おう)になります。その(となり)に……キミが()()しい」


 ふわりと、(やさ)しい(かぜ)()()けました。


「……(たび)にはもう()けないかもしれません。自由(じゆう)だって()かないかもしれません。それでも……()(まま)だとわかっていても、(わたし)はキミの(そば)にいたい」


 街灯(がいとう)(ひかり)()らされて、ココレヨの(からだ)一際(ひときわ)(くろ)(うつく)しく(ひか)って……


(わたし)のパートナーになってくれませんか」


「ねぇタカヤー? やっぱり(とく)痕跡(こんせき)()いよー! もーどこ()っちゃった……ってうわぁあああ⁉ ココレヨさんいる⁉」


 ……なんとこんなタイミングでショースケが(もど)ってきてしまいました。


「ショ、ショースケ! ちょっと(しず)かにしててくれ、(いま)大事(だいじ)なところなんだ!」


 タカヤが(いそ)いで()()り、ショースケの(くち)両手(りょうて)(ふさ)ぎます。


「もが……ひゃひふんひょひゃひゃや!」


「すみませんお二人(ふたり)とも! (つづ)きどうぞ!」


 タカヤはそう()いますが……ココレヨも(あお)ET(いーてぃー)も、なんだか可笑(おか)しくて(わら)()してしまいました。


「あははは! ……なぁ、ココレヨ?」


「ふふふ……はい、なんですか?」


(かえ)ったら……オラブ(せい)のこと(おし)えてくれよ。オレさ、まだあんまり()らないから……お、王様(おうさま)のパートナーになるなら、()っておかなきゃだろ?」


「……! わかりました……ふふ。(きび)しくしますよ?」


「そ、そこは(やさ)しくしてくれよ……」



「えーっと……なんかわかんないけど上手(うま)()ったって……こと?」


 やっと解放(かいほう)されて(しゃべ)れるようになったショースケは、タカヤの(ほう)不思議(ふしぎ)そうに()ます。


「ああ、そうみたいだ」


 満点(まんてん)(ほし)(ぞら)がまるで祝福(しゅくふく)するように、チカチカと(あか)るく(またた)いていました。



****



 さて、随分(ずいぶん)(おく)れてしまいましたが……特急(とっきゅう)こすもは無事(ぶじ)に、夜空(よぞら)()()まれるようにポスリコモスへと出発(しゅっぱつ)しました。



「お二人(ふたり)には本部(ほんぶ)でお(はなし)()かせていただく必要(ひつよう)があるので、このまま本部(ほんぶ)転送(てんそう)させていただきますね」


 タカヤはエッグロケットを操作(そうさ)して、転送(てんそう)機能(きのう)作動(さどう)させます。


「はい。たくさんの(かた)に……多大(ただい)なる迷惑(めいわく)をかけてしまいました。本当(ほんとう)にごめんなさい」


 ココレヨと(あお)ET(いーてぃー)(もう)(わけ)なさそうに、宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)へと転送(てんそう)されて()きました。



「ねぇタカヤ、それにしても(へん)だと(おも)わない?」


「ん? (なに)がだ?」


 (くら)(かえ)(みち)(ある)きながら、タカヤはショースケに()(かえ)します。


「だってあの二人(ふたり)()げるつもりならわざわざこの(まち)()ること()いじゃない? タカヤが()うには、なんか……すごい変身(へんしん)ができる(くすり)()ってたんでしょ? それなら変身(へんしん)して、普通(ふつう)(まち)()らしていれば()かったじゃん。わざわざ身分証明(みぶんしょうめい)必要(ひつよう)異星旅行(いせいりょこう)()るなんておかしいよ」


(たし)かに……そう()われるとそうだな」


「それにしても……変身(へんしん)してたなら、なんで(くすり)使(つか)った痕跡(こんせき)すらこの双眼鏡(そうがんきょう)()えなかったのかなー? これは最新式(さいしんしき)のはずなのに……じーちゃんに()っておかないと」


「あはは……そう、だな」


「あ、(ぼく)(いえ)こっちだからここでお(わか)れだね。じゃあタカヤ、また明日(あした)ねー!」


 ショースケはパタパタと、月明(つきあ)かりでぼんやり()らされた(みち)(はし)って()きました。


「ああ。また明日(あした)


 ……タカヤはそのまま、暗闇(くらやみ)()()せます。


(あの(くすり)は…普通(ふつう)変身薬(へんしんやく)じゃない。()()だけじゃなくて、(からだ)(つく)りを(まる)ごと(べつ)生物(せいぶつ)変身(へんしん)させる(くすり)だ。()()変化(へんか)させてるわけじゃないからショースケの双眼鏡(そうがんきょう)でも()えなかったし……ココレヨさんは()れないハエそのものの(からだ)上手(うま)(うご)かすことが出来(でき)なかった……)


 夜中(よなか)独特(どくとく)(にお)いを()()んで……ふぅっと(いき)()いてから、タカヤは見慣(みな)れた家路(いえじ)(ある)(はじ)めました。


(あの変身(へんしん)は……トリスタル星人(せいじん)の……あの(ひと)変身(へんしん)(おな)じだ)



****



 ()(しろ)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)(いっ)(しつ)で、ココレヨたちは肖造(しょうぞう)から尋問(じんもん)()けています。


「『特急(とっきゅう)こすもに()って、地球(ちきゅう)(とき)()()(ちょう)()かって……そこで(くすり)使(つか)ってみせること』……それが、あの(くすり)をもらう条件(じょうけん)だったんです」


(あや)しいとは(おも)ったよ、(みょう)具体的(ぐたいてき)だし。でも……(ほか)(すが)(もの)()かったから。それにしても絶対(ぜったい)バレないって()われてたのに、あの宇宙警察(うちゅうけいさつ)さんにバレるなんて……オレたち、(くすり)をくれたあの(ひと)(だま)されたのかな。まぁ(いま)となっては(べつ)(かま)わないけどさ」


「え、(くすり)をくれた(ひと)特徴(とくちょう)……? (わたし)(おな)じオラブ星人(せいじん)で、(とく)()わったことは……あ、でも……語尾(ごび)()ばすような(めずら)しい(しゃべ)(かた)をしていましたね」


(のこ)った(くすり)……あるよ、あるはずなんだけど……あれ? 絶対(ぜったい)ここに()れたんだけど……。一緒(いっしょ)にもらった、(くすり)()れる(はこ)ごと()くなってる。どこかで()としたか? いや、そんなはず()いのに……」



****



「オカエリ オカエリ タカヤー!」


 (いえ)(かえ)ってリビングに(はい)ると、早速(さっそく)ツバサが()()ってきてタカヤの足下(あしもと)をぐるぐると(まわ)ります。


「ただいま、ツバサ。お留守番(るすばん)苦労(くろう)(さま)


「コレグライ ヘッチャラ! タカヤ コソ オシゴト オツカレサマ!」


 手洗(てあら)いうがいを()ませて、タカヤはツバサを()っこするとリビングのソファに(すわ)りました。


 ……()(まえ)のテーブルの(うえ)には最後(さいご)(のこ)った夏休(なつやす)みの宿題(しゅくだい)自己(じこ)紹介(しょうかい)()くプリントが()いてあります。


 誕生日(たんじょうび)(ろく)(がつ)十七(じゅうなな)(にち)血液(けつえき)(がた)A型(がた)、そして似顔絵(にがおえ)……そこまでしか空欄(くうらん)()まっていません。


 何日(なんにち)(まえ)からその状態(じょうたい)のプリントを()て、タカヤが(ちい)さくため(いき)()くと……



 突然(とつぜん)、しんとした部屋(へや)固定(こてい)電話(でんわ)着信音(ちゃくしんおん)がプルプルと()(はじ)めました。


 タカヤは()()がり、(いそ)いでコードレスの受話器(じゅわき)()ります。


「あ! タカヤ? オレだよヒカル!」


(にい)ちゃん?」


 タカヤの(いえ)固定(こてい)電話(でんわ)(しょう)(ぞう)によって改造(かいぞう)されているため、ポスリコモスからでも(つな)がるようになっています。


「うん! (ひさ)しぶりだなー元気(げんき)にしてたか? あ、そっちって(いま)何時(なんじ)? (おれ)予想(よそう)ではお(ひる)くらいなんだけど」


「えっと……夜中(よなか)()時前(じまえ)かな」


「え」


 地球(ちきゅう)とポスリコモスの時間(じかん)はかなり(なが)(かた)(ちが)うため、こういうことが()こるのは日常(にちじょう)茶飯事(さはんじ)です。


「ご、ごめん……タカヤ。もしかして()てた?」


「あはは……大丈夫(だいじょうぶ)だよ、(おれ)()必要(ひつよう)ないから。それで、(にい)ちゃんどうしたの?」


「そうだ! あのさ、もう(すこ)ししたら(とう)さんと(かあ)さんがポスリコモスに一時(いちじ)(てき)(かえ)って()るらしいんだ! だから(ひさ)しぶりに家族(かぞく)みんなで()わないかと(おも)って!」


「そうなんだ! ……うん、(おれ)もみんなに()いたいな。(たの)しみにしてる」


 タカヤとヒカルがしばらくお(はなし)していると……(うし)ろで退屈(たいくつ)そうにしていたツバサか、(きゅう)触覚(しょっかく)をピンと()ばして(こえ)()しました。


「ソウダ。ボク ヒカル ニ ミセタイ モノ アッタンダッタ! チョット マッテテ。 ニカイ ニ オイテアル カラ」


 そう()って(よん)(ほん)(あし)をバタバタ(うご)かしながら、ツバサはよいしょと()(かい)()がっていきます。


 タカヤはそれを笑顔(えがお)見送(みおく)って……ふと、テーブルの(うえ)のプリントが()(はい)りました。


 ……いけないことなのはわかっています。


 でも、タカヤには……(ほか)手段(しゅだん)(おも)いつきません。


「……なぁ、(にい)ちゃん? (おれ)(にい)ちゃんに協力(きょうりょく)して()しいことがあって」


「お? なになに、タカヤが(たよ)ってくれるなんて(うれ)しいなー」


 ……受話器(じゅわき)()しのヒカルの(こえ)(うれ)しそうです。


(じつ)学校(がっこう)宿題(しゅくだい)で、家族(かぞく)質問(しつもん)してみようっていうのがあって……(にい)ちゃんに()きたいんだけど、いい?」


「もちろんいいよ!」


「……ありがとう、それじゃあ……」


 タカヤはリビングのソファに(すわ)り、左手(ひだりて)受話器(じゅわき)()ったまま、右手(みぎて)鉛筆(えんぴつ)(にぎ)りました。


(にい)ちゃんの趣味(しゅみ)は?」


「えーっと……()いて()うなら読書(どくしょ)かな?」


「じゃあ……長所(ちょうしょ)は?」


「え! えーっと……あ、笑顔(えがお)がいいねとは()われるよ!」


()きな()(もの)は?」


「ハンバーグだよ」


「……小学生(しょうがくせい)のとき()きだった教科(きょうか)は?」


「えー(なん)だったかなー、理科(りか)とか?」


「そっか、それじゃあ(つぎ)は……」


 タカヤはヒカルの(こた)えを、次々(つぎつぎ)自分(じぶん)自己(じこ)紹介(しょうかい)のプリントに()いていきます。



「ありがとう、(にい)ちゃんのおかげで(たす)かったよ」


「これぐらいならお(やす)いご(よう)さ。また(たよ)ってくれよ」


「……うん、また(たよ)らせてもらうよ」


 心底(しんそこ)安心(あんしん)しながらも、(むね)がチクリと(いた)んで……。


 タカヤは()()わった自己(じこ)紹介(しょうかい)のプリントをもう()なくて()むように、()いた(めん)内側(うちがわ)(ふた)()りして、クリアファイルの(なか)仕舞(しま)いました。


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