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第十五話 あの日の涙の先の夢

****


 これは、(いま)から(いち)(ねん)ほど(むかし)のお(はなし)



 ここは日本(にほん)から(とお)(とお)(はな)れた(くに)にある、とある(おお)きな一軒家(いっけんや)


 その(なか)一室(いっしつ)四方(しほう)()(たか)本棚(ほんだな)(かこ)まれた薄暗(うすぐら)部屋(へや)(なか)で、ショースケはうつ()せに寝転(ねころ)がって(ほん)()んでいました。


 といっても……この(ほん)はもう(なん)(じゅっ)(かい)()んだかわかりませんから、(さき)展開(てんかい)から結末(けつまつ)まで暗唱(あんしょう)できるほどよく()っています。


 ショースケは(おお)きなあくびをして(ほん)()じると、(かた)まで()びた寝癖(ねぐせ)だらけの金髪(きんぱつ)邪魔(じゃま)くさそうに(はら)いました。



 学校(がっこう)()かなくなった理由(りゆう)も、お(そと)()なくなった理由(りゆう)も、(いま)となってはよく(おも)()せません。


 (はじ)まりはそんなに深刻(しんこく)理由(りゆう)では()かったような……なんだかちょっと(いや)なことがあったとか、なんとなく(まわ)りとなじめなかったとか……無理(むり)理由(りゆう)(さが)すとすれば、そんなものだった()がします。


 ただ漠然(ばくぜん)と……毎日(まいにち)が、()える(もの)全部(ぜんぶ)がひどく(から)っぽに(おも)えて。


 以前(いぜん)面白(おもしろ)かったはずのアレにもコレにも興味(きょうみ)()てなくなって。


 ……そんな自分(じぶん)が、世界(せかい)(じゅう)のみんなから(きら)われているような()がして。


 (なに)もかもに(いろ)()くなったような日々(ひび)が、昨日(きのう)今日(きょう)()ぎていきます。


 そりゃ……この部屋(へや)(あふ)れんばかりにある(ほん)たちに登場(とうじょう)する物語(ものがたり)主人公(しゅじんこう)(みな)、『自分(じぶん)から(うご)かなければ(はじ)まらないよ』と(いや)というほど()ってきますが……



「ああもう、全部(ぜんぶ)めんどくさいなぁ……」


 ご(はん)もそういえば昨日(きのう)(よる)から()べていませんし、シャワーだって(すう)(じつ)()びていません。 


でもそれでよくて、だってどうでもよくて。


 ふわふわの(しろ)い……(まえ)(しろ)かったブランケットに(かお)()めて、ショースケは()()じます。


「……ずっと()てたいな。そしたら(なん)にも(かんが)えなくて()むのに」




 ……数十(すうじゅっ)分後(ぷんご)(ねむ)っていたショースケは部屋(へや)(とびら)をドカドカと(たた)かれる(おと)()()めました。


 この容赦(ようしゃ)ない(おと)はきっと祖父(そふ)(しょう)(ぞう)でしょう。


 (ほう)って()いたらいつまでも(たた)(つづ)けるでしょうから、ショースケはよたよたと()()がって仕方(しかた)なく(とびら)(かぎ)()けました。


「おうショースケ! (ひさ)しぶりじゃのう、一ヶ月(いっかげつ)ぶりか⁉」


 ……(しょう)(ぞう)(おお)きな(こえ)は、いつも(しず)かな部屋(へや)()ごしているショースケには少々(しょうしょう)耳障(みみざわ)りです。


「じーちゃん(なん)(よう)? (ぼく)()てたんだけど」


「かーっ! お(まえ)また()とったんか、そんなんじゃいつか(からだ)から()っこが()えて()るぞ!」


「いいじゃんか()えても。(べつ)(こま)んないよ」


 (まった)く、(しょう)(ぞう)はいつもリアクションが(おお)げさで(こま)ります。


 ショースケはさっきまでと(おな)じように、ブランケットにくるまってゴロンと寝転(ねころ)がりました。


 そのまま()()じてもう一度(いちど)(ゆめ)世界(せかい)()こうとしましたが…(しょう)(ぞう)がはちゃめちゃに(さわ)がしいのでどうもそれは(かな)いそうにありません。


「……それで? (ぼく)(なん)(よう)()たの?」


「もちろん! ショースケ、お(まえ)()()しに()たんじゃ!」


 やっぱり……()かなくてもわかっていました。


 (しょう)(ぞう)はここ(すう)(げつ)この部屋(へや)()ては、やれ虫取(むしと)りだ()りだ無人島(むじんとう)だの()ってショースケを(そと)()そうとするのです。


「いつも()ってるじゃん、(ぼく)()かないよ……めんどくさい。そもそもじーちゃん、ちょっと(まえ)までは()()むまでここに()ていいって()ってくれてたのに……(なん)でそんな無理(むり)()()そうとするの」


「じゃってショースケいつまでも()()まないんじゃもん。ワシ()ちくたびれたわい」


 (さび)しそうにため(いき)()いて、(しょう)(ぞう)(つづ)けます。


「しかしつれないのー。以前(いぜん)のお(まえ)は、(ぼく)天才(てんさい)だーって(なに)をするにも()(かがや)かせておった。ワシの発明品(はつめいひん)にも、ちょっとしたことにも、じーちゃん()せてーって興味津々(きょうみしんしん)じゃったのに」


()らないよ(むかし)(はなし)なんて。……仕方(しかた)ないじゃん、この世界(せかい)がつまんないのが(わる)いんだよ」


 ショースケは寝転(ねころ)がったまま、ブランケットを両手(りょうて)でぎゅっと(にぎ)ります。


 ……わかっています、世界(せかい)には面白(おもしろ)(もの)がたくさんあることも、それらから()()らしているだけのことも。


 そして……自分(じぶん)本当(ほんとう)は、この生活(せいかつ)から()()すことを(のぞ)んでいることも。


 でも、(いま)のショースケには……それがどうしてもわかりたくないのです。


「そーか、つまらんか……。じゃがしかし!」


 (しょう)(ぞう)はニカリと(わら)います。


「そんな毎日(まいにち)今日(きょう)(しま)いじゃ! 今回(こんかい)()(さき)はすごいぞ? なな、なんと! ワシと()宇宙(うちゅう)(たび)『ポスリコモス()(はく)三日(みっか)旅行(りょこう)』じゃ!」


 ポケットから見慣(みな)れない(かたち)のクラッカーを()()すと、(しょう)(ぞう)(うれ)しそうに(ひも)()()ってニョニョーンと(おお)きな(おと)()らしました。


 ……この(へん)(おと)、おそらく肖造(しょうぞう)発明品(はつめいひん)でしょう。


 ショースケは(みみ)(ふさ)ぎながら最大限(さいだいげん)(かお)をしかめます。


「じーちゃん……もしかしてまだ(ぼく)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)にしようとしてるの」


「あたり前田(まえだ)のクラッカーじゃよ。お(まえ)はキラキラ()使(つか)っておるET(いーてぃー)姿(すがた)()ることが出来(でき)る……つまり、宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)になれる資格(しかく)がある! これでならないなんてもったいないじゃろ!」


「もう何回(なんかい)(ことわ)ってるのに……。そういえばじーちゃん、宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)関連(かんれん)(ほん)をいくつか勝手(かって)にこの部屋(へや)()いたでしょ。……まぁ(ひま)だったから()んだけどね」


 (なん)となく(しゃく)なので、ちょっと面白(おもしろ)かったとは(つた)えたくありません。


「おお、あの(ほん)()んでくれたんか。しかし一部(いちぶ)宇宙(うちゅう)公用語(こうようご)()かれてたはずじゃが……?」


「じーちゃん宇宙(うちゅう)公用語(こうようご)辞書(じしょ)一緒(いっしょ)()いてってたでしょ。だからそれ使(つか)って()んだよ」


「ほーお? さすがワシの(まご)じゃな! やっぱりお(まえ)天才(てんさい)じゃ」


 (しょう)(ぞう)はガシガシと乱暴(らんぼう)に、ショースケの(まる)(あたま)()でます。


 …()められて(すこ)(ゆる)みそうになった口元(くちもと)を、ショースケはぎゅっと真一文字(まいちもんじ)(むす)(なお)して(しょう)(ぞう)(にら)みました。


「そ、そんなこと()って……どうせじーちゃんも本当(ほんとう)は、(ぼく)のことどうしようもないヤツだって(おも)ってるんでしょ」


 すぐさまそれを否定(ひてい)しようとする(しょう)(ぞう)(こえ)をかき()すように、ショースケは(つづ)けて言葉(ことば)()きます。


「とにかく! (ぼく)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)になんてならないしポスリコモスって(ところ)にも()かない! ……(はなし)()わり? (ぼく)もう一回(いっかい)()るから、おやすみー」


 ショースケがそっぽを()いて()()じると……(なん)だか、(からだ)にまとっているブランケットがうぞうぞ(うご)いたような……。


「ワシは()くか()かないか()いとるんじゃない。()くんじゃ、ショースケ」


 (しょう)(ぞう)()()ったリモコンのボタンを()すと、突然(とつぜん)ブランケットのふわふわの起毛(きもう)がずるずると()びて、ショースケの(からだ)(から)()りました。


「えぇえええええ⁉ (なに)これ! た、(たす)けて! お手伝(てつだ)いさーーーん‼」


(さけ)んだって無駄(むだ)じゃ。お手伝(てつだ)いさんにはショースケは()(はく)三日(みっか)()かけるから、と()って休暇(きゅうか)(あた)えておいた」


 ショースケはそのままブランケットにぐるぐる()きにされてしまいました。


 (しょう)(ぞう)はそれを(かつ)いで、(わき)()()てられていたショースケの(くつ)(つか)むとズカズカと出口(でぐち)()かいます。


「うぇえええん……ひどいひどい、マムとダッドに()いつけてやる……っ」


当然(とうぜん)、そのマムとダッドの許可(きょか)ももらっとるに()まっとるじゃろ。エルヴィーラもショータもお(まえ)心配(しんぱい)しとる…もちろんワシもじゃ。安心(あんしん)しろ、()って()ったりせん。ポスリコモスは(たの)しいぞー」


 そのまま(そと)()(しょう)(ぞう)(ひろ)(にわ)をこれまたズカズカ(ある)いて、(すみ)っこに()いておいたワープ装置(そうち)起動(きどう)させます。


 そして一切(いっさい)躊躇(ちゅうちょ)()く、ショースケ諸共(もろとも)それをくぐって()きました。



****



 見慣(みな)れない(ぞら)()()れない(にお)い、()()れているわけがない言語(げんご)……。


 (にぎ)やかなポスリコモスの(まち)中心(ちゅうしん)にある広場(ひろば)で、ショースケは一緒(いっしょ)()れて()られたブランケットを(あたま)から(かぶ)って(ふる)えていました。


「いつまで(ぬの)(かぶ)っとるんじゃショースケ。ほほいっ!」


 (へん)なかけ(ごえ)(とも)に、(しょう)(ぞう)はブランケットを(うば)()ってポスエッグの(なか)収納(しゅうのう)します。


「うわぁあ(なに)すんのじーちゃん! うぅ……(まぶ)しい……」


 地球(ちきゅう)(そら)だってしばらく()ていないのに、いきなり異星(いせい)(そら)だなんてショースケにはハードルが(たか)すぎます。


「しっかりせんか。ほら()てみろ、今日(きょう)のポスリコモスの(そら)(いろ)は……うーむ、野菜(やさい)みたいな(いろ)じゃな」


 オレンジと(しろ)(みどり)がマーブル模様(もよう)になったような地球(ちきゅう)では絶対(ぜったい)()られない空模様(そらもよう)を、ショースケはやっとこさ薄目(うすめ)見上(みあ)げました。


 ……と、その(とき)


 (しょう)(ぞう)のポケットの(なか)のポスエッグがブルブルと(ふる)えました。


 それを右手(みぎて)(つか)んで…(しょう)(ぞう)はとびっきりの(にが)(かお)をします。


「すまんショースケ、仕事(しごと)サボっとったのがライトにバレた。ワシちょっと本部(ほんぶ)()かなきゃならんくなったから一人(ひとり)(あそ)んどってくれ!」


「え、え、え⁉」


大丈夫(だいじょうぶ)じゃ、ここは()(まち)じゃから」


 そりゃ(わる)いよりマシですが…ショースケにとっては()けりゃいいという(はなし)でもありません。


「それじゃ、(あと)(むか)えにいくからの! あ、(まち)(そと)(つな)がるゲートはくぐるなよー。危険(きけん)なモンスターがおるからな」


 (しょう)(ぞう)はよくわからない機械(きかい)()()すと、ドロンとその()から()えてしまいました。


(うそ)っ⁉ じーちゃん()いていかないで!」



****



 さて、(しょう)(ぞう)本部(ほんぶ)()ってしまって(いち)時間(じかん)


 ショースケは……それはもう見事(みごと)迷子(まいご)になっていました。


 というのもあの(あと)見知(みし)らぬ()(くろ)(おお)きなET(いーてぃー)(はな)しかけられたり、その(となり)にいた細長(ほそなが)ーいET(いーてぃー)からは(なん)だかヌルヌルした(くし)()しの(もの)()しつけられそうになったり……!


 もう(なに)がなんだかわからないまま、ショースケはパニック状態(じょうたい)()(まわ)っていたのです。


 そして(いま)……じめじめとした(くら)路地裏(ろじうら)で、体育(たいいく)(ずわ)りで()きながら(ふる)えているのでした。


 (ひさ)しぶりに(はし)って(あし)はガクガクと(いた)いし、(いえ)()たところを無理(むり)()れてこられたので()ている部屋(へや)()はヨレヨレだし、心細(こころぼそ)いし……ショースケの気分(きぶん)はもう最悪(さいあく)です。


「…きっとさっきのET(いーてぃー)たちは、よそ(もの)(ぼく)のことが()()らなくて攻撃(こうげき)しようとしてたんだ……! (なに)がポスリコモスは(たの)しいだ、すっごく(こわ)いところじゃないか。じーちゃんのバカバカバカ!」


 そんな(ふう)にぼやいていると……


「ビー?」


 ……(ちか)くで(なに)()こえた()がしました。


「ビービー」


「な、なに……? (なん)(おと)?」


 ショースケが(すわ)ったまま(あたま)をもたげたところ…


「ビーーーーー!」


 ベチョリと、(なま)ぬるい(なに)かがショースケの顔面(がんめん)()()きました。


「ぎゃぁあああああああっ⁉」


 ショースケは咄嗟(とっさ)にそれを(つか)んで()()がして()()てます。


「なになになに⁉ うわ(なん)かちょっと(くち)(はい)った! 不味(まず)い!」


 (そで)口元(くちもと)をゴシゴシと何度(なんど)(ぬぐ)っていると…


「ビ、ビ……」


 ()()てられた(なに)かがにゅるにゅると(うご)(はじ)めました。


 体長(たいちょう)三十(さんじゅっ)センチほどで(あざ)やかな水色(みずいろ)()()は、宝石(ほうせき)みたいにキラリと反射(はんしゃ)する紫色(むらさきいろ)(ひとみ)をショースケへ()けます。


 そして(なが)()びた(りょう)(みみ)をはためかせながら、タコのように(なん)(ぼん)もついた(あし)をくねくね(うご)かして、もう一度(いちど)ショースケの(ほう)(ちか)づいて()ました。


「ひ、ひぅ……」


 ショースケはもう(こわ)くて(こえ)()ません。


「ビービービービー……ビ?」


 水色(みずいろ)生物(せいぶつ)自分(じぶん)のプヨプヨの(からだ)(なか)(あし)一本(いっぽん)()()むと……体内(たいない)からひし(がた)(かたまり)がたくさん(はい)った(びん)()()しました。


 そして(びん)(ふた)()けてひし(がた)(かたまり)(ひと)つ、自分(じぶん)(あし)(あし)(あいだ)にある(くち)()れてガリガリと()むと……(びん)からもう(ひと)つひし(がた)(かたまり)()()して、それをショースケの口元(くちもと)にぐいっと()しつけました。


「ひぃ⁉」


「ビービー」


 どうやら()べろと()っているようですが……無理(むり)無理(むり)無理(むり)、こんな不審(ふしん)なもの(くち)()れられるわけがありません!


 ショースケが()きながら(くち)をぎゅっと()じて抵抗(ていこう)していると……


「ビーーーーー‼」


 しびれを()らしたのか、水色(みずいろ)生物(せいぶつ)(のこ)りの(あし)使(つか)ってショースケの口元(くちもと)強引(ごういん)()()ります。


 そしてショースケが力負(ちからま)けして(くち)(すこ)(ひら)いてしまったのを見逃(みのが)さず、ひし(がた)(かたまり)をショースケの口内(こうない)へグリッと()()みました!


「おぶっ……」


 口元(くちもと)(なん)(ぼん)もの(あし)()さえつけられているため()()すことも(ゆる)されず……ショースケは(なみだ)でぐちょぐちょになりながらそれを()みました。


 ……意外(いがい)にも(あじ)(あま)く、シャリシャリとしたキャラメルのようです。


 そういえば昨日(きのう)(よる)から(なに)()べていなかったショースケは、うっかりそれをそのまま()()んでしまいました。


 すると……


「よかった、やっと()べてくれた! ねぇねぇ(なん)()いてたの?」


 水色(みずいろ)生物(せいぶつ)はショースケの口元(くちもと)からやっと(あし)(はな)して、地面(じめん)にぺとりと()()ちました。


「ねぇってば! もしかして迷子(まいご)?」


 ……さっきは自分(じぶん)(かお)(ちか)くから、(いま)()(まえ)地面(じめん)(うえ)からこの(こえ)()こえると()うことは……(しん)じがたいですが、これは水色(みずいろ)生物(せいぶつ)(こえ)なのでしょう。


「ねぇねぇねぇ! ねーえーってば‼」


「うるさいなぁ()こえてるよ!」


 あまりにしつこいので、ショースケはつい返事(へんじ)をしてしまいました。


()こえてた! よかったー、お(しゃべ)出来(でき)ないのかと(おも)っちゃった」


 水色(みずいろ)生物(せいぶつ)(あし)をにょるにょる(うご)かして、(うれ)しそうにその()でピョンッと()ねました。


「さっきのお菓子(かし)すごいでしょ? ()べるといろんな(ほし)生物(せいぶつ)()ってることがわかるようになるんだ。あ、でも(くち)がある生物(せいぶつ)限定(げんてい)だけどね」


「な、なるほど……? だから(ぼく)にそれを()べさせたかった……ってわけね」


「その(とお)り! ねぇねぇねぇ、ところでさっき(なん)()いてたの? (なみだ)(ぬぐ)ってあげようと(おも)って(かお)()()いたら()()ばして()るし……キミってなかなか乱暴(らんぼう)(もの)だね?」


 そりゃ(かお)(なに)かが()()いて()たら、地球(ちきゅう)(じん)なら(だれ)だってそうするでしょう。


 しかも()いてた理由(りゆう)(ふた)つあるのですが……もちろん、(ひと)つはこの水色(みずいろ)生物(せいぶつ)襲来(しゅうらい)によるものです。


「お、もしかしてクイズ? ボクわかっちゃうよー? えーっとねー」


 そんな可能(かのう)(せい)微塵(みじん)(かんが)えていないのでしょう、水色(みずいろ)生物(せいぶつ)得意(とくい)げに(みみ)をパタパタさせながら(ひとみ)(ひか)らせました。


見知(みし)らぬ土地(とち)迷子(まいご)になって心細(こころぼそ)かったから! どう⁉」


「……まぁ半分(はんぶん)正解(せいかい)だよ」


 いろいろ()いたいことはありますが……ショースケにはもう()(かえ)気力(きりょく)がありません。


「やったー! やっぱりねーそうだと(おも)った! ふふふ……キミはとってもラッキーだね」


「ラッキー?」


「そう! だってボクに()つけてもらえたんだよ? ただいま試験(しけん)()けて勉強(べんきょう)(ちゅう)の、未来(みらい)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)であるこのボクに!」


 水色(みずいろ)生物(せいぶつ)伸縮(しんしゅく)しながらくるくる(まわ)って、ウキウキと(おど)っているようです。


 宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)……(いま)のショースケにとってはあまり()きたくない言葉(ことば)です。


「……ふーん、(きみ)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)になりたんだ。……(ぼく)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)って()きじゃないな」


 ショースケがつい、(ちい)さく言葉(ことば)()らすと……


「えぇ⁉ なんでなんでどうして⁉ あ! わかったぞ!」


 宝石(ほうせき)のような(ひとみ)をギンギンに見開(みひら)いて、水色(みずいろ)生物(せいぶつ)はショースケに()()りました。


「キミは宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)がどれだけかっこいいか()らないんだな? よろしい、ならばボクが(おし)えてあげよう!」


「え、いいよ(べつ)に……」


 ショースケは露骨(ろこつ)(いや)(かお)をします。


遠慮(えんりょ)しないの! さ、とりあえず迷子(まいご)のキミを(まち)中央(ちゅうおう)広場(ひろば)まで()れて()ってあげないとね! その道中(どうちゅう)でたーーーっぷり、宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)魅力(みりょく)(おし)えてあげる!」


「ええええ…」


 余計(よけい)なことを()ってしまった、と後悔(こうかい)してももう(おそ)いです。


「あ、そういえば名前(なまえ)! ボクはカラン! キミは?」


「……ショースケ」


「ショースケか! よーしじゃあ()こう、まずはつい数日前(すうじつまえ)宇宙警察(うちゅうけいさつ)勇姿(ゆうし)から! この(まち)(そと)(つな)がっているゲートの(おく)から、危険(きけん)なモンスターのタマゴがいっぱい()ってきて。その()()えたタマゴは(さわ)ったら孵化(ふか)しちゃうから絶対(ぜったい)(さわ)っちゃいけないんだけど……」



****



「……と、いうわけで! 宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)たちは最新(さいしん)発明品(はつめいひん)使(つか)って一回(いっかい)()れること()くその黄緑(きみどり)(いろ)のタマゴをたっぷり回収(かいしゅう)しちゃったってわけ! すごいでしょー……ってショースケ、()いてる⁉」


「あーうん……()いてるよ……」


 (ほそ)路地(ろじ)(とお)りながらかれこれ地球(ちきゅう)時間(じかん)十五(じゅうご)(ふん)ほど、ショースケはカランの(はな)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)美談(びだん)(みぎ)から(ひだり)()(なが)しています。


「よかった! じゃあ(つぎ)ね、宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)何故(なぜ)あんなにかっこいいかなんだけどボクの意見(いけん)としては……」


 ……やっと()わったと(おも)ったのにまだ(つづ)きがあるみたいです。


()った! わかった、わかったから……う、宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)ってめちゃくちゃかっこいいねー!」


 これ以上(いじょう)()いては(みみ)にタコが出来(でき)てしまいますから、ショースケは無理(むり)口角(こうかく)()げて()せました。


 カランの宝石(ほうせき)のような(ひとみ)(ひかり)反射(はんしゃ)してキラキラと(かがや)きます。


「やっとわかってくれたね⁉ いやーよかったよかった! ねぇねぇショースケ、こんなに宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)魅力(みりょく)()ったら……やっぱりショースケも宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)になりたくなっちゃったんじゃない⁉」


「え……」


 (みみ)をパタパタと上機嫌(じょうきげん)(うご)かしながら、カランはじーっとショースケを()つめて()ます。


 ここで『なりたくない』と()ってしまったら……(さき)ほどまでの宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)如何(いか)にかっこいいかという(はなし)がまたも(はじ)まってしまうことは確実(かくじつ)でしょう。


「そ、そうだねー……なりたくなっちゃった、かもー……」


 (うそ)をつくのが苦手(にがて)なショースケは()(おお)きく()らしながらそう(こた)えました。


 カランの(ひとみ)一際(ひときわ)(つよ)く、ギラリと(ひかり)(はな)ちます。


「わっはー! やっぱりやっぱりそうだよね! じゃあボクたち将来(しょうらい)同僚(どうりょう)だ!」


 (なん)(ぼん)もの(あし)をぴょこぴょこ(うご)かして、カランは(はず)みながら()けだして()きました。


「わ、ちょっと……()いていかないでよ」


 ショースケがそれを()って路地(ろじ)()ると……どうも見覚(みおぼ)えのある場所(ばしょ)へたどり()いたようです。


 ……そして場所(ばしょ)だけでは()く、見覚(みおぼ)えのあるものがもう(ふた)つ……。



「さ、(まち)中央(ちゅうおう)広場(ひろば)()いたよショースケー! ん? ショースケ?」


 一足(ひとあし)(はや)くたどり()いたカランが()(かえ)ると……ショースケは街灯(がいとう)(よこ)()いてあるゴミ(ばこ)のような(もの)(うし)ろに(かく)れようとしていました。


 ですが……(まさ)しく(あたま)(かく)して(しり)(かく)さず、という状態(じょうたい)周囲(しゅうい)からは丸見(まるみ)えです。


「ショースケ(なに)してんのー?」


「し、(しず)かにして……気付(きづ)かれるから……!」


 そう()うショースケの視線(しせん)(さき)には……(おお)きな(くち)から(するど)(きば)(のぞ)かせる()(くろ)ET(いーてぃー)と、(なが)いクチバシを()つグレーの細長(ほそなが)ーいET(いーてぃー)がいます。


「あの(ひと)たちがどうかしたの?」


 カランは(ひとみ)をキュルキュルと(まわ)しながら(たず)ねました。


「……さっきあのET(いーてぃー)たちに(はな)しかけられたり、なんか(へん)(もの)()しつけられそうになって…(ぼく)(はし)って()()したからすごく(おこ)ってるかもしれない。うぅ、()べられたりしたらどうしよう……」


「えー? 大丈夫(だいじょうぶ)だよー、じゃあボクが()いてきてあげる! おーいそこの(ひと)たちー!」


「え⁉ や、やめて‼」


 ショースケの(ふる)えた(こえ)(とど)かず、カランはET(いーてぃー)たちの(もと)へぴょこんぴょこんと()ねていって(なに)やら(はな)(はじ)めます。


 ……()(くろ)ET(いーてぃー)がショースケの(ほう)へじとりと視線(しせん)()けました。


「ひ、ひぃぅ……」


 もう()きた心地(ここち)がしません。


 ショースケはそろりとその()(はな)れようとしますが……()(くろ)ET(いーてぃー)はその巨体(きょたい)からは想像(そうぞう)できないほどのスピードでショースケのすぐ(となり)へと()んできました!


「うわぁあ! ごめんなさいごめんなさい()べないで‼」


 (あたま)をぎゅっと(かか)えてうずくまると……頭上(ずじょう)から甲高(かんだか)い、小鳥(ことり)のような(こえ)()こえました。


「さっきはごめんね」


「……え?」


 どうやらカランにもらった……というか無理(むり)やり(くち)()()まれたひし(がた)(かたまり)効果(こうか)(あらわ)れているようです、これは()(くろ)ET(いーてぃー)(こえ)でしょう。


「きゅうにはなしかけてごめんね。わたし、このあたりでぬいぐるみをおとしちゃって……どこかでみてないか、ききたかっただけなの。わたし、おおきいから……びっくりしたでしょ?」


 (すこ)(おく)れて、グレーの細長(ほそなが)ET(いーてぃー)もショースケの(もと)へやって()ました。


(わたし)もごめんなさい。貴方(あなた)一人(ひとり)不安(ふあん)そうに(ある)いていたから……元気付(げんきづ)けたかったんです。これ、(わたし)(ほし)のお菓子(かし)なんです。地球(ちきゅう)(じん)でも安全(あんぜん)()べることが出来(でき)ますよ」


 そう()って(さき)ほどと(おな)じ、(くし)()さったヌルヌルとした(もの)()()しました。


 カランがぽよんと()ねながら、ショースケの(まわ)りを(まわ)ります。


「ね! 大丈夫(だいじょうぶ)だったでしょ? そうだ、さっきこの(ひと)たちにもひし(がた)のお菓子(かし)あげたから、ショースケの言葉(ことば)わかると(おも)うよ!」


「そ、そうなの……? ええと……」


 ショースケはおどおどと右手(みぎて)()()すと……ゆっくり、グレーのET(いーてぃー)()(くし)()さったヌルヌルのお菓子(かし)()()りました。


「あ、ありがとう……あの、二人(ふたり)とも……(ぼく)こそ、さっきは()げちゃってごめんなさい……」


 (つば)をゴクンと()()んで、()(けっ)してショースケはヌルヌルのお菓子(かし)(ちい)さく(かじ)ります。


「……! 意外(いがい)とおいしい……」


 ショースケが(おお)きく二口(ふたくち)()頬張(ほおば)ると、それを()ていたET(いーてぃー)たちは(うれ)しそうに(からだ)()らしました。


「ねぇねぇショースケ、ボクにも一口(ひとくち)ちょうだいよ!」


貴方(あなた)にも(おな)(もの)をあげますから。二人(ふたり)仲良(なかよ)()べてくださいね」


 グレーのET(いーてぃー)はもう一本(いっぽん)、ヌルヌルのお菓子(かし)用意(ようい)するとカランに手渡(てわた)しました。


「わーい! ありがとー!」


 カランは(あし)(あいだ)にある(くち)()()むようにお菓子(かし)()めます。


「どういたしまして、それでは(わたし)はこれで。よい一日(いちにち)を!」


「わたしもいくね。もし、ぬいぐるみみつけたらおしえてね」


 グレーのET(いーてぃー)()(くろ)ET(いーてぃー)市場(いちば)(ほう)()えていきました。



 カランとショースケは不思議(ふしぎ)(かたち)のベンチに(すわ)って、一緒(いっしょ)にお菓子(かし)(あじ)わいます。


「えへへ、おいしいね! ショースケ!」


「う、うん。そうだね……!」


 (そら)野菜(やさい)(いろ)(かぜ)はやわらかく()いて……()()ったお菓子(かし)からも、どこかからも(あま)(かお)りが(ただよ)っています。


 ショースケは(なん)だかとっても(ひさ)しぶりに、自然(しぜん)(わら)った()がするのでした。




「ごちそうさまー! ヌルヌルしてたけどすごく()べやすかったねー!」


「うん……イチゴ(あじ)納豆(なっとう)みたいで面白(おもしろ)かった、かな」


「イチゴ? なっとう? それってショースケの(ほし)()(もの)?」


 カランがキャラキャラと(ひとみ)(かがや)かせます。


「そうだよ。イチゴは果物(くだもの)で、納豆(なっとう)は……ネバネバで(なが)ーい(いと)()くんだ!」


「ええ! (いと)っ⁉ それってコセツベの()みたいな(かん)じかなー!」


「コセツベの()……?」


「ショースケ、コセツベ()べたこと()いの⁉ そうだ、この(ちか)くにコセツベのモヨキュ()きを()べられるところがあるよ! (いま)から()こう!」


 ベンチからぴょこんと()()がって、カランは(さき)ほど(とお)ったところとは(ちが)う、これまた(ほそ)路地(ろじ)へと(はい)って()きます。


「ま、()ってよカラン! (ぼく)、じーちゃんを……まぁいいか、まだ用事(ようじ)()わってないみたいだし。それに……ちょっと面白(おもしろ)そうだし!」


 ショースケもカランを()って、薄暗(うすぐら)路地(ろじ)へと(はい)っていきました。



****



「コセツベの()はねー美味(おい)しいよー! (かじ)ると(なか)から(いと)みたいな(もの)がモサモサモサーって()てくるの!」


「モ、モサモサ……それって本当(ほんとう)においしいの? まぁ……()べてみたいけどさ」


 隣同士(となりどうし)(なら)んでは(とお)れないほど路地(ろじ)(せま)いので、カランは(まえ)を、ショースケは(うし)ろを(ある)きます。


美味(おい)しいよー? あ、()()て! (そら)(いろ)()わってきた!」


 カランは(ある)きながら(うえ)見上(みあ)げました。


 野菜(やさい)(いろ)だった(そら)は、今度(こんど)はまるで()げたてのフライドポテトのような(あざ)やかな黄色(きいろ)()わっていきます。


「この(いろ)(そら)って(めずら)しいんだよ、ラッキーだねショースケ! ……あれ、ショースケ?」


 カランが()(かえ)ると……ショースケは(すこ)(はな)れたところで()()まり、(かが)んで(なに)かを()ているようです。


「ショースケ、(なに)()てるの?」


「これ、なんだろう? ふわふわで黄緑色(きみどりいろ)で……ぬいぐるみかな。あ、もしかしたらさっきの()(くろ)ET(いーてぃー)さんの()とし(もの)かも!」


 ぬいぐるみのような(まる)(なに)かにショースケは()()ばします。


「ふわふわで黄緑色(きみどりいろ)……? って()ってショースケ! それに(さわ)ったらダメー‼」


 ()()ってきたカランの(こえ)(とど)くより(まえ)に、ショースケはそれを()()げました。


 すると……


 (まる)(なに)かに()えていた黄緑(きみどり)(いろ)のふわふわの()がバサリと(すべ)()()ち、(ふか)青色(あおいろ)中身(なかみ)(あらわ)れてぐにゃりぐにゃりと波打(なみう)(はじ)めます。


「え、なになに⁉」


 ショースケが(いそ)いで(なに)かから()(はな)すと、地面(じめん)()ちたそれはどんどん(おお)きくなって……ショースケの身長(しんちょう)()(ばい)、いや(さん)(ばい)(ちか)くまで、まるでミミズのように(なが)()びていきます。


「さっきショースケが(さわ)ったの、この(あいだ)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)たちが回収(かいしゅう)してたモンスターのタマゴだよ! まだ回収(かいしゅう)出来(でき)てないのがあったんだ! (いそ)いで()げるよ!」


 カランはショースケの(うで)(あし)()()けて、()()りながら(ほそ)路地(ろじ)(はし)()しました。


 モンスターは(なが)(からだ)をずりずりとひねりながら、(くち)()もついていない(あたま)()(まわ)して二人(ふたり)(せま)ってきます。


意外(いがい)(はや)い……このままじゃ()いつかれちゃう……! あ、そうだ!」


 (はし)りながら(うし)ろを()いたカランは、(おび)えるショースケにいつもより(ちい)さな(こえ)(はな)しかけます。


「いい? ショースケ。この(さき)十字路(じゅうじろ)があるから、そこで二手(ふたて)()かれて(かく)れよう! ボクは(ひだり)に、ショースケは(みぎ)ね。(みぎ)(みち)には(おお)きな物置(ものおき)があるから、その(なか)(はい)って!」


「わ、わかった……っ」


 ショースケは(いき)()らしながらなんとか返事(へんじ)をしました。


「よーし、じゃあ()くよ! せーの!」


 カランのかけ(ごえ)()わせて、二人(ふたり)左右(さゆう)()かれて(はし)()しました。


 (みぎ)(みち)(はい)ったショースケは(いそ)いで物置(ものおき)(とびら)()けて、その(なか)(なん)とか(からだ)()()みます。 


 ……(すこ)(はな)れたところから、モンスターの(からだ)地面(じめん)()れる(おと)()こえてきました。


 両手(りょうて)(くち)()さえて、(いき)(ひそ)めて、ショースケはただモンスターが(とお)()ぎるのを()ちます。


 ずるり、ずるり……モンスターの(すす)(おと)(ちか)づいて()て……ずるりずるりと、そのまま(とお)くなって()って。


 どうやらモンスターは、二人(ふたり)()がつかず(さき)(みち)(すす)(はじ)めたようです。


 ショースケはほっとして、ふぅっと(ひと)(いき)()くと、物置(ものおき)(なか)(かべ)()(すわ)()みました。


 そうしたら……


 ほんの(すこ)しバランスが(くず)れたのでしょう、物置(ものおき)(なか)(はい)っていた()(たか)道具(どうぐ)(ひと)つ、ゆっくりと(たお)れてバタンと(おと)()てました。


 その瞬間(しゅんかん)……ずるりずるりずるり、モンスターが()(かえ)して()たのでしょう……(おと)次第(しだい)(ちか)く、(おお)きくなっていきます。


 そしてとうとう、……物置(ものおき)(とびら)がガタンと(そと)から(つよ)(たた)かれました。


 ガタン、ガタン……(とびら)衝撃(しょうげき)(すこ)しずつ(ひら)いていって、(ふか)青色(あおいろ)のモンスターの(からだ)隙間(すきま)から()えて。


 もう一度(いちど)モンスターが(からだ)(おお)きく()りかぶったのがわかって……もうダメだと、ショースケが(つよ)()(つむ)ったその(とき)



「おい! ……そこのモンスター!」


 反対(はんたい)方向(ほうこう)(みち)から……カランの(ふる)えた、でも()()げた(こえ)()こえました。


「こっちに()い! こ、(こわ)くないぞ、ボクは未来(みらい)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)なんだから!」


 モンスターはすぐに(からだ)をひねって、ショースケが(なか)にいる倉庫(そうこ)(まえ)から(はな)れてカランの(ほう)へと()かっていきます。


「ショースケ()げてー!」


 カランの(こえ)とモンスターが()いずる(おと)(すこ)しずつ(とお)ざかります。


 ……ショースケは(こわ)れかけた倉庫(そうこ)(とびら)(すこ)(ひら)いて(かお)()しました。


 このままでは自分(じぶん)(たす)けてくれたカランは、モンスターに()いつかれてしまうでしょう。


 そうだ、今度(こんど)はショースケが(こえ)()してモンスターの()()くのはどうでしょうか!


 そうすればカランは(たす)かるかもしれません。


 それにある程度(ていど)距離(きょり)(はな)れていますから、ショースケもモンスターから()()れる可能(かのう)(せい)だってあります。


 それがいい、そうしよう!


 …………なのに。


 どうして、(くち)半開(はんびら)きのまま(こえ)()ないのでしょうか。


 どうして、自分(じぶん)倉庫(そうこ)からゆっくり(しず)かに()()して……どうして、カランと(ぎゃく)方向(ほうこう)(はし)()したのでしょうか。


 ……(とお)くからカランの悲鳴(ひめい)()こえて、ショースケは(おも)()(みみ)(ふさ)ぎます。


 もう一度(いちど)()こえて、それでも(あし)()まらなくて。



 そして、もう一度(いちど)……今度(こんど)(ちい)さな悲鳴(ひめい)()こえて、ショースケが(すこ)しだけ()(かえ)った(とき)


 (あざ)やかな黄色(きいろ)(そら)から(まぶ)しい(ひかり)()ってきて、(ちい)さなブラックホールのような(うず)(あらわ)れたかと(おも)うと、モンスターはその(うず)(なか)へと……いとも簡単(かんたん)()()まれていきました。


大丈夫(だいじょうぶ)か! ……ちいと我慢(がまん)しとくれ」


 (とお)くでカランの(からだ)(かか)えているのは……(しょう)(ぞう)でしょうか。


 (しょう)(ぞう)はすぐにカランを本部(ほんぶ)(おく)ると、こちらに()()いたのか(はし)って()ます。


「ショースケ! 大丈夫(だいじょうぶ)じゃったか⁉」


 ……ショースケは(なに)()えなくて、ただただ地面(じめん)()つめながら、今頃(いまごろ)ポロポロと(なみだ)(あふ)れて()るのでした。



****



「いやー……ワシ、ライトに()われて本部(ほんぶ)仕事(しごと)してたのに、『ポスリコモスに(はじ)めて()(まご)(まち)()いてきた』って()ったらライトにすっごい(おこ)られてのう。『いますぐ(まご)(もと)()け』って…それでショースケの(もと)にワープしたらモンスターが(あば)れておって……ワシは()()()いたわい」


 宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)にある医務室(いむしつ)(まえ)のベンチに、(しょう)(ぞう)とショースケは二人(ふたり)(すわ)っていました。


 ……ショースケは(うつむ)いて(なに)()いません。


「……のぉショースケ。あの()友達(ともだち)か?」


 ……友達(ともだち)なんてずっといないのでショースケには判断(はんだん)出来(でき)ませんが…そうだったらいいな、なんて(すこ)しだけ(おも)ったりしていました。


 でも、もう……()わせる(かお)がありません。


「……今回(こんかい)のことは完全(かんぜん)にワシら宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)のミスじゃ。回収(かいしゅう)していないタマゴが()いかの確認(かくにん)()らんかった。……(こわ)(おも)いをさせたな、ショースケ。もう地球(ちきゅう)へ……」


「ねぇじーちゃん」


 ショースケはふいに(くち)(ひら)きます。


「……さっきモンスターを()()んだあれって……じーちゃんの発明品(はつめいひん)だよね?」


「ああ、そうじゃ」


 肖造(しょうぞう)はそう(こた)えます。


「……そっか」


「もし(ぼく)がじーちゃんみたいに発明(はつめい)できたら、あのモンスターを(たお)せたかな」


「……もし(ぼく)勇気(ゆうき)があったら、もし、(ぼく)(ちから)があったら……(ぼく)(たす)けてくれたあの()を、見捨(みす)てて()げたりしなかったのかなぁ……」


 ……(なみだ)(なが)すショースケの(となり)で、肖造(しょうぞう)はただ(まえ)()いています。


「ねぇじーちゃん、……(ぼく)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)になる」


 ヨレヨレの部屋(へや)()(すそ)で、ショースケはぐいっと(なみだ)(ぬぐ)いました。


「もう()げたくないから……()わりたい、()わるんだ!」


「……そうか」


 ショースケの背中(せなか)一度(いちど)だけポンと、(しょう)(ぞう)(たた)きます。


「それならたくさん勉強(べんきょう)せんといかんな。まずは宇宙(うちゅう)公用語(こうようご)(しゃべ)れるようになって、それから(かく)惑星(わくせい)特徴(とくちょう)(おぼ)えんといかんぞ。試験(しけん)は……大体(だいたい)半年後(はんとしご)じゃな。ギリギリじゃぞ、やれるか?」


「やれるじゃない、やるんだよ。……出来(でき)るさ、(ぼく)……天才(てんさい)だもん」


 ショースケはベンチから()()がりました。


「じーちゃん、(ぼく)……地球(ちきゅう)(かえ)るよ。すぐに勉強(べんきょう)(はじ)めないと()()わない」


「……あの()()ってからじゃなくていいんか? (じき)()()ますぞ」


「……(いま)(ぼく)じゃ…カランに()えないよ……」


 そう()って、ショースケは医務室(いむしつ)()()けます。


「……そうか。()()けて(かえ)れよ」


 (しょう)(ぞう)がポケットから(ちい)さな機械(きかい)()()して操作(そうさ)すると、この(ほし)()(とき)(おな)じワープ装置(そうち)(あらわ)れます。


 ショースケは(すこ)しだけ()()まった(あと)、それをくぐって、地球(ちきゅう)へと(かえ)って()きました。




****



「ねぇなんで()いてるの? もしかして迷子(まいご)? ふふ……キミ、まるでボクの友達(ともだち)みたいだね!」


 (そら)はあの()(おな)野菜(やさい)(いろ)


 じめじめとした(くら)路地裏(ろじうら)でうずくまって()いているET(いーてぃー)に、背中(せなか)のバッジを(かがや)かせながら水色(みずいろ)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)(わら)いかけます。


「キミはとってもラッキーだよ! 未来(みらい)特級(とっきゅう)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)…まぁ(いま)新米(しんまい)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)の、(ほか)でもないこのボクに()つけてもらえたんだから!」


 (むらさき)宝石(ほうせき)のような(ひとみ)で、宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)はパチンとウインクをして()せました。


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