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第十四話 プニプヨ料理でお大事に!

****


 まだまだ暑(あつ)ーいある日(ひ)の真(ま)っ昼間(ぴるま)。


 黒(くろ)くて凸凹(でこぼこ)のアスファルトは、さんさんと降(ふ)り注(そそ)ぐ熱(ねつ)をこれでもかと吸収(きゅうしゅう)して恐(おそ)ろしい温度(おんど)になっています。


 熱(ねっ)された鉄板(てっぱん)のようなその上(うえ)を、タカヤはパタパタと急(いそ)いで走(はし)っていました。


 コスモピースの力(ちから)を手(て)に入(い)れてから暑(あつ)いやら寒(さむ)いやらという感覚(かんかく)が無(な)くなったタカヤにとって、今日(きょう)の最高気温(さいこうきおん)がどうだのということは特(とく)に影響(えいきょう)はありませんが…今(いま)手(て)に持(も)っている保冷(ほれい)バッグの中(なか)に入っている手作(てづく)りアイスクリームには多大(ただい)なる影響(えいきょう)があります。


「うーん、ちょっと溶(と)けちゃったかもな…」


 不安(ふあん)そうにバッグの中(なか)を覗(のぞ)きながら、タカヤはショースケの家(いえ)の呼(よ)び鈴(りん)を鳴(な)らしました。


 はーい、と声(こえ)が聞(き)こえて重厚(じゅうこう)なドアが薄(うす)く開(ひら)き、ショースケが隙間(すきま)からちらりと顔(かお)を出(だ)しましたが…


「どうしたショースケ、何(なに)かあったのか?」


 タカヤが思(おも)わずそう聞(き)いてしまうほど、その顔(かお)は疲(つか)れ切(き)っています。


「もう大変(たいへん)なんだよ…とりあえず入(はい)って」


 靴(くつ)を何(なん)足(そく)も出(だ)しっぱなしにしていても問題(もんだい)なさそうなほど広(ひろ)い玄関(げんかん)に入(はい)ると、なにやら奥(おく)の部屋(へや)から声(こえ)が聞(き)こえます。


「ルルさん、この本(ほん)に書(か)いてある適量(てきりょう)とは正確(せいかく)には何(なん)グラムのことを言(い)うんですか?」


「さぁ…私(わたし)にもわかりませんが、こういうのはライトさんが入(い)れたいと思(おも)う量(りょう)を入(い)れたらいいのではないかと」


「そうはいきません、数(すう)ミリグラムの差(さ)が効(き)き目(め)に大(おお)きな違(ちが)いを生(う)むかもしれないんです。やはりここはグラム数(すう)を変(か)えた試作(しさく)を繰(く)り返(かえ)すことによって正確(せいかく)な値(あたい)を割(わ)り出(だ)した方(ほう)が…」


「それでは日(ひ)が暮(く)れてしまうどころでは済(す)まないような…」


 引(ひ)き戸(ど)の隙間(すきま)から聞(き)こえるルルの困(こま)り声(ごえ)を聞(き)いて、ショースケは何(なん)度目(どめ)かわからない大(おお)きなため息(いき)を吐(つ)きました。


「…と、まぁこういうわけなの」


「ど、どういうわけなんだ…?」


 さすがに来(き)たばかりで状況(じょうきょう)が掴(つか)めないタカヤに、ショースケは説明(せつめい)し始(はじ)めます。


「実(じつ)は昨日(きのう)から、メグさんが体調(たいちょう)を崩(くず)しちゃって。どうも脱皮(だっぴ)の時期(じき)を迎(むか)えたらしいんだ」


「そういえばプニプヨ星人(せいじん)って定期(ていき)的(てき)に脱皮(だっぴ)をするんだったな」


「そうそう。それでね、プニプヨ星人(せいじん)がスムーズに脱皮(だっぴ)するためにとっても有効(ゆうこう)な薬(くすり)代(が)わりの料理(りょうり)があるらしくて。本(ほん)で調(しら)べたら、幸(さいわ)い材料(ざいりょう)はある程度(ていど)ライトさんの実験室(じっけんしつ)に揃(そろ)ってるみたいだったし、それを作(つく)ろうって話(はなし)になったんだけどっ…!」


 ショースケは乱暴(らんぼう)に引(ひ)き戸(ど)を開(ひら)いてズカズカとキッチンに入(はい)ると、腕(うで)を思(おも)いっきり伸(の)ばしてライトを指(ゆび)さしました。


「ライトさんが! 真面目(まじめ)すぎて! 全然(ぜんぜん)作業(さぎょう)が進(すす)まないのー!」


「うわぁ! びっくりした…あ、タカヤ君(くん)いらっしゃい」


 ライトはいつもと変(か)わらない笑顔(えがお)を浮(う)かべながら、何(なに)やら精密(せいみつ)そうな大(おお)きな量(はか)りでミリ単位(たんい)の計測(けいそく)をしています。


「まだその粉(こな)量(はか)ってんの⁉ だーかーら、その粉(こな)はラバラの実(み)二(ふた)つ分(ぶん)くらいの量(りょう)入(い)れたらいいって書(か)いてるんだから目分量(めぶんりょう)で入(い)れたらいいじゃんか!」


 付箋(ふせん)がたくさん貼(は)ってある分厚(ぶあつ)い本(ほん)を開(ひら)いて、ショースケはライトの顔(かお)の前(まえ)にぐいっと押(お)し出(だ)します。


「いや、ラバラの実(み)は大(おお)きさに結構(けっこう)バラつきがある実(み)なんだから、どの大(おお)きさが正(ただ)しいのかきちんと見極(みきわ)めないと。そもそも、その本(ほん)に書(か)かれているラバラの実(み)が熟(じゅく)しているかいないかで大(おお)きさが多少(たしょう)変(か)わって…ああ待(ま)って? さっき量(はか)ったデキオウの葉(は)を粉末(ふんまつ)にしたものも、もしかしたら青(あお)い葉(は)じゃなくて紫(むらさき)の葉(は)のことだったのかも…やっぱり一(いち)から作(つく)り直(なお)した方(ほう)が」


 …ライトの口(くち)が止(と)まらないのでショースケはもう泣(な)きそうです。


「…と、いうわけなんだよタカヤ。わかってくれた?」


「あ、あぁうん。なんとなく…あの、ライトさん?」


 タカヤはへにょりと笑顔(えがお)を浮(う)かべながら、右手(みぎて)に持(も)った保冷(ほれい)バッグを胸(むね)の高(たか)さに掲(かか)げました。


「俺(おれ)、家(いえ)でアイスを作(つく)って持(も)って来(き)たんです。今(いま)から一緒(いっしょ)に食(た)べてくれませんか?」



****



「このバニラアイス美味(おい)しいね。タカヤ君(くん)は本当(ほんとう)に料理(りょうり)が上手(じょうず)だね」


 小(ちい)さな金属(きんぞく)のスプーンでもう一口(ひとくち)、ライトはアイスを満足(まんぞく)そうに頬張(ほおば)ります。


「いえ、レシピ本(ぼん)を見(み)てその通(とお)りに作(つく)ってるだけですよ。ごめんなさい、ちょっと溶(と)けちゃってましたね」


「やわらかくて食(た)べやすいから、僕(ぼく)はこれぐらいがちょうどいいと思(おも)うけど」


 ライトが使(つか)っているものと同(おな)じ小(ちい)さなスプーンで大(おお)きく抉(えぐ)るようにアイスを掬(すく)ったショースケは、それを一気(いっき)に口(くち)に入(い)れて…案(あん)の定(じょう)、キーンと痛(いた)んだ額(ひたい)をゴシゴシ擦(こす)りました。


「本当(ほんとう)に美味(おい)しそうですね、私(わたし)もいつか食(た)べてみたいです。メグも食(た)べられたら良(よ)かったんですけれど…」


 物(もの)を食(た)べる必要(ひつよう)の無(な)いアンドロイドのルルは、心配(しんぱい)そうに二(に)階(かい)にあるメグの部屋(へや)を天井(てんじょう)越(ご)しに見(み)上(あ)げます。


「かなり具合(ぐあい)悪(わる)そうだもんね…脱皮(だっぴ)中(ちゅう)は食欲(しょくよく)も無(な)くなるらしいし。だから早(はや)く料理(りょうり)を作(つく)って渡(わた)そうって言(い)ったのに…!」


 ショースケがじとりと睨(にら)むと、ライトは申(もう)し訳(わけ)なさそうに目(め)を逸(そ)らしました。


「ごめん…気(き)になることがあったら細(こま)かく追求(ついきゅう)しないと気(き)が済(す)まなくて…。でも、ショースケ君(くん)は大雑把(おおざっぱ)すぎるよ! ちゃんと量(りょう)が記載(きさい)されている材料(ざいりょう)も全然(ぜんぜん)量(はか)ろうとしないし!」


「ちょっとくらい多(おお)くても少(すく)なくても一緒(いっしょ)でしょ。お腹(なか)に入(い)れちゃったら何(なん)とかなるってじーちゃんも言(い)ってたし」


「いやいやならないよ! もっと具合(ぐあい)が悪(わる)くなったらどうするんだ!」


 また言(い)い争(あらそ)いを始(はじ)めた二人(ふたり)を前(まえ)に、ルルとタカヤは困(こま)ったように笑(わら)い合(あ)いました。


「ごめんなさいタカヤさん、今日(きょう)はずっとこのような感(かん)じで…」


「いえ、お構(かま)いなく…そうだ! メグさんに食(た)べていただくお料理(りょうり)、何(なに)か俺(おれ)も力(ちから)になれることありますか?」


「まぁ! 手伝(てつだ)ってくださるんですか? タカヤさんが協力(きょうりょく)してくださるなら百人力(ひゃくにんりき)です」


 ルルは嬉(うれ)しそうに両手(りょうて)を合(あ)わせると、料理(りょうり)の作(つく)り方(かた)が載(の)っている本(ほん)をキッチンから持(も)ってきてテーブルの上(うえ)に置(お)きました。


「このレシピ本(ぼん)はプニプヨ星(せい)のものなんですけれど、どうも普通(ふつう)のプニプヨ語(ご)をかなり崩(くず)して書(か)いてあるみたいで…解読(かいどく)だけでかなり時間(じかん)がかかってしまっているんです。メグに聞(き)こうにもずっと眠(ねむ)っていますから難(むずか)しいですし…タカヤさん読(よ)めませんか?」


「うーん、ごめんなさい。俺(おれ)はコスモピースの力(ちから)でET(いーてぃー)さんたちが伝(つた)えたいことはなんとなくわかるんですけど…書(か)かれた文字(もじ)はこの力(ちから)では読(よ)めないんです」


 すみません、とタカヤは肩(かた)を落(お)とします。


「ふーん、タカヤというか…コスモピースにも出来(でき)ないことがあるんだね」


 ショースケはカップの底(そこ)に残(のこ)ったアイスを一滴(いってき)も残(のこ)さないようにスプーンでかき集(あつ)めながら、意外(いがい)そうに言(い)いました。


「あはは…俺(おれ)がコスモピースの力(ちから)を引(ひ)き出(だ)せてないだけかもしれないけどな」


 タカヤがいつものように申(もう)し訳(わけ)なさそうに笑(わら)う様子(ようす)を少(すこ)し気(き)にかけながら、ライトは空(から)になったアイスのカップを置(お)いて、ごちそうさまと手(て)を合(あ)わせます。


「美味(おい)しかったよ、タカヤ君(くん)ありがとう。さて…料理(りょうり)の続(つづ)きをしないとね」


 腕(うで)まくりをしてキッチンへ向(む)かうライトを、ショースケは待(ま)ったと強(つよ)く呼(よ)び止(と)めました。


「ライトさんもうキッチンに行(い)かないで! 全然(ぜんぜん)作業(さぎょう)が進(すす)まなくなるから!」


「なっ…! き、気(き)を付(つ)けるから! それならいいだろ?」


「ダメ! ライトさんそう言(い)って気(き)を付(つ)けられたこと今(いま)まで無(な)いじゃん!」


 …図星(ずぼし)を突(つ)かれたライトは何(なに)も言(い)い返(かえ)せず口(くち)をつぐみます。


 すると話(はなし)を聞(き)いていたルルがふわりと微笑(ほほえ)んで、椅子(いす)からゆっくりと立(た)ち上(あ)がりました。


「みなさん、ここは二手(ふたて)に分(わ)かれて作業(さぎょう)をするのはどうでしょう?」


 いつもの見慣(みな)れたメイド服(ふく)に身(み)を包(つつ)んだルルは、背中(せなか)についた大(おお)きなリボンを揺(ゆ)らしながら続(つづ)けます。


「私(わたし)とタカヤさんがお料理(りょうり)を、ライトさんとショースケさんがレシピ本(ぼん)の解読(かいどく)をそれぞれ担当(たんとう)するんです。そうすればより早(はや)く、メグに料理(りょうり)を届(とど)けることができるのではないでしょうか?」


「確(たし)かに、それは良(い)い考(かんが)えですね。僕(ぼく)はキッチンに入(はい)らない方(ほう)が良(よ)さそうですし…」


 しょんぼりと俯(うつむ)きながらライトは納得(なっとく)しましたが…


「えー、僕(ぼく)お料理(りょうり)担当(たんとう)がいいなー。その方(ほう)が楽(たの)しそうだもん、タカヤ代(か)わってよ」


 ショースケが唇(くちびる)を尖(とが)らせるので、ルルは自分(じぶん)の頬(ほお)に片手(かたて)を添(そ)えて首(くび)を小(ちい)さく傾(かし)げます。


「あら? ショースケさんはとってもとーっても賢(かしこ)い方(かた)ですから、さぞかし解読(かいどく)がお得意(とくい)だろうと思(おも)ったんですけれど…料理(りょうり)の方(ほう)がいいですか?」


 それを聞(き)いたショースケは、ニヤニヤしながら胸(むね)の前(まえ)で腕(うで)を組(く)みます。


「ま、まぁ? 僕(ぼく)すっごく賢(かしこ)いし? 解読(かいどく)くらい朝飯(あさめし)前(まえ)だけど?」


「さすがショースケさん、期待(きたい)してますね! ではタカヤさん、私(わたし)たちはキッチンの方(ほう)へ行(い)きましょうか」



****



「タカヤさん、そこに置(お)いてあるピンク色(いろ)の液体(えきたい)を取(と)っていただけますか?」


「これですね、どうぞ。ルルさん、頼(たの)まれていたオーリョの茎(くき)のみじん切(ぎ)り終(お)わりました」


 ルルとタカヤは着々(ちゃくちゃく)と、レシピ本(ぼん)の解読(かいどく)が済(す)んでいるところまで料理(りょうり)を進(すす)めていきます。


「本当(ほんとう)、タカヤさんが来(き)てくださって助(たす)かりました。ライトさんもショースケさんも頑張(がんば)ってくださったんですけれど…その、あの調子(ちょうし)でしたから如何(いかん)せん作業(さぎょう)が進(すす)まなくて」


 小(ちい)さくふぅっと息(いき)を漏(も)らすルルの隣(となり)で、タカヤはあははと苦笑(にがわら)いしながら次(つぎ)の工程(こうてい)に入(はい)ります。


「えーっと、出来上(できあ)がったポノムとレガフルを鍋(なべ)に入(い)れてフヨルキギュする…。えーっと…?」


 首(くび)を深(ふか)く傾(かし)げるタカヤの頭(あたま)の中(なか)は?(はてな)マークでいっぱいです。


「タカヤさん、ポノムは先(さき)ほど作(つく)ったこのピンク色(いろ)の練(ね)り物(もの)のことです。レガフルはここに置(お)いてある青(あお)い草(くさ)と、タカヤさんが刻(きざ)んでくださったオーリョの茎(くき)を混(ま)ぜたもの。フヨルキギュは…何(なん)でしょう? 私(わたし)にもわかりません」


 ルルは奥(おく)の本棚(ほんだな)から古(ふる)びてボロボロのプニプヨ星(せい)辞典(じてん)を持(も)って来(き)て開(ひら)きます。


「あ、ありました! フヨルキギュは…プニプヨ星(せい)に生息(せいそく)するET(いーてぃー)、ニュムニュムに変身(へんしん)してその背中(せなか)の翅(はね)の鱗粉(りんぷん)をできるだけたくさん振(ふ)りかけること…だそうです」


「へ、変身(へんしん)ですか…」


 タカヤは眉(まゆ)をしょぼんと下(さ)げて困(こま)ってしまいました。


「メグも地球(ちきゅう)人(じん)に変身(へんしん)していますし、プニプヨ星人(せいじん)は変身(へんしん)が得意(とくい)ですからそういう調理法(ちょうりほう)もあるんですね…しかし、困(こま)りましたね。私(わたし)たちは変身(へんしん)出来(でき)ませんし」


 ルルも口元(くちもと)に手(て)を当(あ)ててしばらく考(かんが)え込(こ)んでから…あっ! と高(たか)い声(こえ)を上(あ)げました。


「ニュムニュムと言(い)えば、先日(せんじつ)この家(いえ)で生(う)まれて本部(ほんぶ)へと送(おく)り返(かえ)したET(いーてぃー)ですよね? それならライトさんの実験室(じっけんしつ)にその鱗粉(りんぷん)が保存(ほぞん)されているかもしれません。ライトさんはニュムニュムの体(からだ)を検査(けんさ)していらっしゃいましたし」


「なるほど…! 変身(へんしん)しなくても本物(ほんもの)を入(い)れることが出来(でき)れば先(さき)の工程(こうてい)に進(すす)めますね!」


「はい! ではタカヤさん、ライトさんの実験室(じっけんしつ)を訪(たず)ねてニュムニュムの鱗粉(りんぷん)があるかどうか確認(かくにん)して来(き)ていただけますか? 私(わたし)は少(すこ)しメグの様子(ようす)を見(み)てきますね」


「わかりました!」



****



 タカヤが実験室(じっけんしつ)の扉(とびら)をノックして…返事(へんじ)が無(な)いのでゆっくり開(ひら)くと、中(なか)ではショースケとライトがまたもや言(い)い合(あ)いをしています。


「だーかーら! この文字(もじ)のこの部分(ぶぶん)は絶対(ぜったい)横棒(よこぼう)だって! ライトさんはもっと柔軟(じゅうなん)に考(かんが)えないと!」


「いーや! これは斜(なな)めの部分(ぶぶん)が崩(くず)して書(か)かれているだけだ、それならこの文章(ぶんしょう)の意味(いみ)も通(とお)るだろ⁉」


「あのー…二人(ふたり)とも?」


 その声(こえ)で、やっと二人(ふたり)はタカヤがいることに気(き)がついたようです。


「タカヤ君(くん)ごめんね、気(き)がつかなかった。どうしたの?」


「実(じつ)はニュムニュムの鱗粉(りんぷん)が必要(ひつよう)で…ライトさん持(も)ってませんか?」


「ああ、この間(あいだ)採取(さいしゅ)したから持(も)ってるよ。今(いま)出(だ)すからちょっと待(ま)ってて」


 ライトは奥(おく)の棚(たな)を開(ひら)いて鱗粉(りんぷん)が入(はい)った瓶(びん)を探(さが)し始(はじ)めました。



「タカヤ、料理(りょうり)の進(すす)み具合(ぐあい)はどう?」


「かなり順調(じゅんちょう)に進(すす)んでるよ。解読(かいどく)はどうだ? ショースケ」


「いやー…これがかなり大変(たいへん)で。ミミズみたいなむっにょむにょの文字(もじ)で書(か)かれてるから全然(ぜんぜん)読(よ)めなくてさー、この実験室(じっけんしつ)にあったプニプヨ星(せい)の辞書(じしょ)と照(て)らし合(あ)わせながら頑張(がんば)ってるところだよ」


 ショースケはライトが日頃(ひごろ)使(つか)っているキャスターの付(つ)いたふかふかのデスクチェアにドカリと腰掛(こしか)けて、その場(ば)でくるくると回(まわ)ります。


「あ、この机(つくえ)の上(うえ)に解読(かいどく)出来(でき)たところまでのレシピ置(お)いておいたよ」


「ありがとう…あれ?」


 レシピの隣(となり)には厚(あつ)さ十(じゅっ)センチはあると思(おも)われるポスエッグの説明書(せつめいしょ)が、重(おも)そうな文鎮(ぶんちん)で開(ひら)きっぱなしにされています。


 宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)になってポスエッグを受(う)け取(と)るのと同時(どうじ)に、この説明書(せつめいしょ)は配(くば)られるのですが…小(ちい)さな文字(もじ)が全(ぜん)ページに渡(わた)ってびーっしり書(か)かれたそれを最後(さいご)まで読(よ)んだという隊員(たいいん)は、タカヤを含(ふく)めてもごく少数(しょうすう)でしょう。


 しかしよく見(み)てみると…ライトの机(つくえ)の上(うえ)に開(ひら)かれたそれには、赤(あか)いペンでたくさんの修正(しゅうせい)が施(ほどこ)されています。


「おまたせ。これがニュムニュムの鱗粉(りんぷん)だよ…ってああ、それ?」


 ライトは瓶(びん)を一(ひと)つ持(も)って戻(もど)ってくると、分厚(ぶあつ)い説明書(せつめいしょ)に目(め)をやります。


「今度(こんど)改訂(かいてい)しようと思(おも)って。五(ご)章(しょう)の収納(しゅうのう)機能(きのう)の説明(せつめい)、もっと詳(くわ)しくしようと思(おも)ってるんだ。隣(となり)に置(お)いてあるのがその原稿(げんこう)だよ」


 …確(たし)かに隣(となり)には恐(おそ)ろしい高(たか)さの紙(かみ)束(たば)が積(つ)み上(あ)がっています。


「ま、まさかこの説明書(せつめいしょ)…ライトさんが書(か)いたの?」


「そうだよ。僕(ぼく)が宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)になった頃(ころ)はまだポスエッグの説明書(せつめいしょ)って無(な)くて…あったらきっと便利(べんり)だろうと思(おも)って頑張(がんば)って作(つく)ったんだ。ショースケ君(くん)ももちろん読(よ)んでくれたよね?」


「えーっと…」


 まさか開始(かいし)二(に)ページでやめたとは言(い)えません。


「そ、それよりさぁ! レシピ本(ぼん)の解読(かいどく)を進(すす)めなきゃだよね! さっきのこの文字(もじ)、やっぱりライトさんの解釈(かいしゃく)が合(あ)ってるんじゃないかなぁー?」


「お、ショースケ君(くん)もそう思(おも)ってくれる? じゃあ続(つづ)きの解読(かいどく)に移(うつ)ろうか、あと少(すこ)しだし頑張(がんば)ろう!」


 …タカヤは鱗粉(りんぷん)の入(はい)った瓶(びん)を受(う)け取(と)ると、扉(とびら)の前(まえ)で深(ふか)くお辞儀(じぎ)をして実験室(じっけんしつ)を後(あと)にしました。



****



「おかえりなさい、タカヤさん」


「ただいま戻(もど)りましたルルさん。メグさんの様子(ようす)は如何(いかが)でしたか?」


 そう聞(き)かれると、ルルはしょんぼりと目(め)を伏(ふ)せます。


「メグはとっても具合(ぐあい)が悪(わる)いようで…ET(いーてぃー)の姿(すがた)ですっかりしおれてしまって、喋(しゃべ)ることもしんどいみたいです。早(はや)くお料理(りょうり)を作(つく)ってあげないと」


「それは大変(たいへん)ですね! 急(いそ)ぎましょう」


 タカヤがもらって来(き)たニュムニュムの鱗粉(りんぷん)を鍋(なべ)に入(い)れようとしたところで…ルルは少(すこ)し言(い)いにくそうに口(くち)を開(ひら)きました。


「その、タカヤさん? 私(わたし)さきほどこの辞典(じてん)を見(み)ていて思(おも)ったのですけれど…」


 ルルはプニプヨ星(せい)辞典(じてん)を開(ひら)いて、『変身(へんしん)』という項目(こうもく)を見(み)せます。


「どうやらプニプヨ星人(せいじん)の変身(へんしん)は表面(ひょうめん)的(てき)な見(み)た目(め)のみ、らしくて…つまりメグも地球(ちきゅう)人(じん)に変身(へんしん)してはいるものの、内側(うちがわ)はプニプヨ星人(せいじん)のまま変(か)わっていないそうなんです」


「と、いうことは…?」


「その…見(み)た目(め)だけニュムニュムに変身(へんしん)しても、中身(なかみ)はプニプヨ星人(せいじん)のままなのですから…レシピに書(か)かれている鱗粉(りんぷん)とは、プニプヨ星人(せいじん)の体(からだ)の一部(いちぶ)のことなのでは…?」


 …キッチンは数秒(すうびょう)沈黙(ちんもく)に包(つつ)まれて…、先(さき)にルルが口(くち)を開(ひら)きました。


「…きっと勘違(かんちが)いですね! もしそうなら私(わたし)たちは、眠(ねむ)っているメグの触手(しょくしゅ)を一本(いっぽん)切断(せつだん)させてもらわないといけなくなってしまいますから。えーっと確(たし)かこれは…出来(でき)るだけたくさん入(い)れるんでしたね!」


 そう言(い)ってふわりと笑(わら)うと、ルルは鍋(なべ)の中(なか)にタカヤがもらって来(き)たニュムニュムの鱗粉(りんぷん)を全部(ぜんぶ)投入(とうにゅう)しました。


 鍋(なべ)の中(なか)はその途端(とたん)に、ギラギラと輝(かがや)くドブのような色(いろ)に変(か)わります。


「こ、これ…食(た)べられるんでしょうか」


 何(なん)とも言(い)えない異臭(いしゅう)が立(た)ちこめるキッチンで、タカヤは不安(ふあん)そうにルルを見(み)つめました。


「…プニプヨ星人(せいじん)の味覚(みかく)は地球(ちきゅう)人(じん)とは違(ちが)うでしょうから大丈夫(だいじょうぶ)ですよ。ええ、きっとそうに決(き)まってます」


 ルルはいつものやわらかい笑顔(えがお)とは打(う)って変(か)わって、妙(みょう)に真剣(しんけん)な面持(おもも)ちで鍋(なべ)にガチャンと蓋(ふた)をします。


「さ、さて! これから三(さん)十分(じゅっぷん)は煮込(にこ)みの時間(じかん)ですね…そうだタカヤさん、この辞典(じてん)に興味深(きょうみぶか)いことが書(か)いてあったんですよ!」


 鍋(なべ)の中(なか)に出来上(できあ)がりつつある現実(げんじつ)をあまり直視(ちょくし)したくないのか、ルルは古(ふる)いプニプヨ星(せい)辞典(じてん)に視線(しせん)を移(うつ)しました。


「タカヤさんはトリスタル伝説(でんせつ)ってご存(ぞん)じですか?」


「…はい、聞(き)いたことはありますよ。それがどうかしましたか?」


「その昔(むかし)、惑星(わくせい)トリスタルという星(ほし)に住(す)んでいたと言(い)われるトリスタル星人(せいじん)は、それはそれはすごい変身能力(へんしんのうりょく)を持(も)っていたそうです。地球人(ちきゅうじん)で例えると…細胞(さいぼう)の一(ひと)つ一(ひと)つまで変身(へんしん)させることが出来(でき)て、本当(ほんとう)にその生物(せいぶつ)そのものになれたらしいですよ。ふふ…案外(あんがい)近(ちか)くにいらっしゃるかもしれませんね」


 ボゴボゴと怪(あや)しい音(おと)を立(た)てる鍋(なべ)を極力(きょくりょく)視界(しかい)に入(い)れないように、明後日(あさって)の方向(ほうこう)を向(む)きながらルルは笑(わら)います。


「…あはは、ルルさんは面白(おもしろ)いことを仰(おっしゃ)いますね」



****



「解読(かいどく)できたよー! …って何(なに)この臭(にお)い!」


 ショースケはキッチンに繋(つな)がるリビングに入(はい)って、開口(かいこう)一番(いちばん)に叫(さけ)びました。


 後(あと)から入(はい)ってきたライトもぎゅっと眉(まゆ)をしかめます。


「お疲(つか)れ様(さま)でした、ライトさん、ショースケさん。料理(りょうり)の方(ほう)は…この通(とお)り、とっても順調(じゅんちょう)ですよ!」


 ルルがわざとらしいほどニコニコと笑(わら)うので、タカヤも隣(となり)で引(ひ)きつった笑顔(えがお)を浮(う)かべるしかありません。


「順調(じゅんちょう)、なの…これ?」


 ショースケは蓋(ふた)を少(すこ)し開(あ)けて鍋(なべ)の中(なか)を確認(かくにん)しました。


 煮込(にこ)んだことによってドロドロになったそれはもはや例(たと)えの言葉(ことば)すら浮(う)かばない、生(う)まれて初(はじ)めて見(み)る物体(ぶったい)です。


「…えーっと…それでですねルルさん」


 ライトは鍋(なべ)の中(なか)の物体(ぶったい)からすっと目(め)を背(そむ)けて、解読(かいどく)したレシピ本(ぼん)のメモを差(さ)し出(だ)しました。


「どうもこの料理(りょうり)は、プニプヨ星(せい)ではお祭(まつ)りのときに大人数(おおにんずう)で作(つく)られていたらしくて。その…最後(さいご)の調理(ちょうり)行程(こうてい)がですね…」


 顔(かお)を赤(あか)くしながら、ライトは二(ふた)つ咳(せき)払(ばら)いをして…息(いき)を吸(す)ってから声(こえ)を出(だ)しました。


「料理(りょうり)の入(はい)った鍋(なべ)を中心(ちゅうしん)に置(お)いて、その周囲(しゅうい)で輪(わ)になってみんなで踊(おど)りまくる…というものだそうです」


「…はい?」


 あまりに予想外(よそうがい)の言葉(ことば)に、ルルは笑顔(えがお)を貼(は)り付(つ)けたまま首(くび)を傾(かし)げます。


「いや、僕(ぼく)だって信(しん)じたくなかったですよ! でもどうやらプニプヨ星人(せいじん)は踊(おど)りが好(す)きな陽気(ようき)な種族(しゅぞく)らしくて…解読(かいどく)したらそう書(か)いてあったんですもん…」


 ライトはリビングテーブルに添(そ)えられた木製(もくせい)の長椅子(ながいす)に腰掛(こしか)けて、頭(あたま)を抱(かか)えて項垂(うなだ)れました。


「と、いうわけなんだよ。タカヤ」


 ショースケはタカヤの右手首(みぎてくび)をぎゅっと掴(つか)んで、ずずいっと詰(つ)め寄(よ)ります。


「タカヤも踊(おど)ってくれるよね?」


「え、えええと…わかった、わかったから…」


 耳(みみ)まで真(ま)っ赤(か)にして目(め)を潤(うる)ませながらも、タカヤは断(ことわ)ることが出来(でき)ない性分(しょうぶん)なので首(くび)を縦(たて)に振(ふ)りました。



****



 テーブルや椅子(いす)を少(すこ)し離(はな)れたところへ移動(いどう)させて、蓋(ふた)をしても尚(なお)怪(あや)しい臭(にお)いを放(はな)つ鍋(なべ)をリビングの中心(ちゅうしん)に置(お)いて…準備(じゅんび)は完了(かんりょう)です。


「あ、そうだ…」


 ライトは虚(うつ)ろな目(め)で半(はん)笑(わら)いを浮(う)かべながら、ポケットの中(なか)から小(ちい)さな機械(きかい)を取(と)り出(だ)しました。


「プニプヨ星(せい)の祭(まつ)りで歌(うた)われている歌(うた)があるらしくて…一応(いちおう)それも準備(じゅんび)して来(き)たよ…」


 機械(きかい)のスイッチを押(お)すと、にゃろにゃろと聞(き)いたことの無(な)い音楽(おんがく)が流(なが)れ始(はじ)めます。


 …どうやら歌詞(かし)は『にゃろにゃろ』だけのようです。


「なんだろうこの…中途(ちゅうと)半端(はんぱ)に乗(の)れないリズムは…」


 ショースケがゆらゆらと揺(ゆ)れながら踊(おど)りを模索(もさく)していると、ライトは覚悟(かくご)を決(き)めたのか両手(りょうて)でパンッと自分(じぶん)の頬(ほお)を叩(たた)いて目(め)を見開(みひら)きました。


「とやかく言(い)ってても仕方(しかた)が無(な)い! もうヤケだ始(はじ)めるぞ‼」




 各々(おのおの)自由(じゆう)に踊(おど)り始(はじ)めて五(ご)分(ふん)、鍋(なべ)にまだ変化(へんか)は見(み)られません。


「うう…もう疲(つか)れてきた…それにしてもルルさん踊(おど)り上手(じょうず)だね」


 片足(かたあし)で立(た)ったままくるくる回(まわ)っているルルの方(ほう)へ、ショースケは視線(しせん)を向(む)けます。


「私(わたし)は博士(はかせ)が作(つく)った最高(さいこう)傑作(けっさく)ですから、踊(おど)りも多少(たしょう)は出来(でき)るように作(つく)られているんですよ。ええと…ライトさんは…」


「何(なん)ですかルルさん」


 とにかく必死(ひっし)にぎこちなく体(からだ)を動(うご)かしているライトは、恥(は)ずかしさのあまり睨(にら)むようにルルを見(み)ました。


「いえ…独創(どくそう)的(てき)な動(うご)きでとっても可愛(かわい)…素敵(すてき)です! 是非(ぜひ)動画(どうが)を保存(ほぞん)させていただきたいんですけれど!」


 ルルは興奮(こうふん)を隠(かく)し切(き)れず、目(め)をキラキラ輝(かがや)かせてねだりますが…


「頼(たの)むから勘弁(かんべん)してください!」


 もちろん一(いち)秒(びょう)も待(ま)たずに断(ことわ)られてしまいました。




 …踊(おど)り始(はじ)めて十分(じゅっぷん)、鍋(なべ)の中(なか)から何(なに)やらプツプツと小(ちい)さな音(おと)が聞(き)こえ始(はじ)めました。


「あ! 音(おと)が聞(き)こえる…よかった、ちゃんと踊(おど)ってる意味(いみ)あったんだ…!」


 タカヤは両(りょう)腕(うで)を頭上(ずじょう)で揺(ゆ)らしながら、嬉(うれ)しそうに足(あし)でピコピコとリズムを取(と)りました。


「本当(ほんとう)だよ。これで何(なに)も起(お)こらなかったら僕(ぼく)たち、ただ輪(わ)になって踊(おど)ってる愉快(ゆかい)な集団(しゅうだん)だもんね」


 ショースケはその辺(へん)にあったタオルを振(ふ)り回(まわ)しつつ腰(こし)を振(ふ)っています。



 その時(とき)、突然(とつぜん)鍋(なべ)からボコボコと音(おと)がして、立(た)ち上(のぼ)った大(おお)きな泡(あわ)が鍋(なべ)の蓋(ふた)を吹(ふ)っ飛(と)ばしたかと思(おも)うと…鍋(なべ)の中身(なかみ)は眩(まぶ)しい虹色(にじいろ)の光(ひかり)を放(はな)ちました!


「わわわ! なになに⁉」


 タオルを両手(りょうて)で持(も)って、ショースケは思(おも)わず目(め)を覆(おお)います。


「この光(ひかり)は…! 料理(りょうり)が完成(かんせい)したんだ!」


 ライトがゼーゼーと息(いき)を吐(つ)きながら、嬉(うれ)しそうに声(こえ)を上(あ)げました。


「え、やったー! どれどれ、何(なに)か虹色(にじいろ)に光(ひか)ってたし…美味(おい)しそうにできたかなー?」


 ショースケを先頭(せんとう)に、四(よ)人(にん)はわくわくと鍋(なべ)の中(なか)を覗(のぞ)き込(こ)んで…一斉(いっせい)に表情(ひょうじょう)を曇(くも)らせました。


 だってそこにあったのは…ギラギラと眩(まぶ)しく輝(かがや)きながら異臭(いしゅう)を放(はな)つ、ドブ色(いろ)のドロドロだったからです。


「…どうやら踊(おど)ったところで、見(み)た目(め)に変化(へんか)は無(な)いみたいですね。さ、さて!」


 ルルはお玉(たま)を使(つか)って、大(おお)きな深皿(ふかざら)に鍋(なべ)の中身(なかみ)を残(のこ)さず掬(すく)い取(と)りました。


「あとはこれをメグに食(た)べてもらうだけですね! それでは部屋(へや)に持(も)って行(い)って来(き)ます!」


 ルルはパタパタと階段(かいだん)を上(あ)がっていきました。



 …ライトとタカヤとショースケも、ルルに続(つづ)いて階段(かいだん)を上(のぼ)り少(すこ)し離(はな)れたところから様子(ようす)を窺(うかが)います。


「メグ、起(お)きられますか? 脱皮(だっぴ)を円滑(えんかつ)にするという料理(りょうり)を作(つく)ってきましたよ」


「…あノ、ルル…?」


「はい?」


「ワタシの知(し)っている料理(りょうり)と随分(ずいぶん)見(み)た目(め)が違(ちが)うのですガ…」


「気(き)にしないでください、大事(だいじ)なのは効(き)き目(め)です。さあ、あーんして」


「あノ…」


「あーんしてください」



 …言葉(ことば)にならないメグの悲鳴(ひめい)が響(ひび)きます。


「え、えーと…僕(ぼく)は肖(しょう)造(ぞう)おじさんから何(なに)か連絡(れんらく)が入(はい)ってたから、それを確認(かくにん)して来(こ)ようかなー…」


「そ、そうだタカヤ! 新(あたら)しく見(み)せたい発明品(はつめいひん)があるんだ、僕(ぼく)の部屋(へや)に見(み)に来(き)てよ!」


 三(さん)人(にん)はそれぞれ、その場(ば)を離(はな)れて行(い)きました…。



****



 空(から)になった深皿(ふかざら)を持(も)って、ルルは一(いっ)階(かい)のリビングに戻(もど)ってきました。


「あら? ライトさん、ここでコーヒーブレイクなんて珍(めずら)しいですね。いつもは実験室(じっけんしつ)で召(め)し上(あ)がっていらっしゃるのに」


「ちょっとルルさんにお話(はな)したいことがあって。そうだ、その…メグさんは大丈夫(だいじょうぶ)でしたか?」


 湯気(ゆげ)が立(た)ち上(のぼ)るコーヒーカップを片手(かたて)に、ライトは少(すこ)し不安(ふあん)そうに尋(たず)ねます。


「そのことなんですが、何(なん)とあの料理(りょうり)を食(た)べてすぐにメグの体(からだ)が白(しろ)っぽくなって、するすると皮(かわ)が剥(む)け始(はじ)めたんです! プニプヨ星(せい)で食(た)べていた料理(りょうり)でもここまでの効果(こうか)は無(な)かったって、メグもとっても驚(おどろ)いていました!」


 ルルは嬉(うれ)しそうにライトの隣(となり)に座(すわ)りながら、まあ…と言葉(ことば)を付(つ)け足(た)します。


「味(あじ)は今(いま)まで食(た)べたものの中(なか)で、比(くら)べようもないくらい一番(いちばん)不味(まず)かったそうですが」


「な、なるほど…とにかく、メグさんの体調(たいちょう)が少(すこ)しでも良(よ)くなったみたいでなによりです」


「はい、顔色(かおいろ)も良(よ)くなって安心(あんしん)しました! それでライトさん、私(わたし)に聞(き)かせたいお話(はなし)とは何(なん)でしょう?」


 ルルはライトの顔(かお)を覗(のぞ)き込(こ)みます。


「そうなんです! 実(じつ)は…」


 ライトはコーヒーカップをソーサーの上(うえ)に置(お)いて、表情(ひょうじょう)をぱぁっと輝(かがや)かせました。


「肖(しょう)造(ぞう)おじさんから連絡(れんらく)があって…! コスモピースに関(かん)する手(て)がかりが見(み)つかったそうなんです!」


 泣(な)きそうに目元(めもと)を歪(ゆが)めながら、くしゃりと笑(わら)ってライトは続(つづ)けます。


「やっと…、やっと、タカヤ君(くん)をコスモピースから解放(かいほう)してあげられるかもしれないんです…! だから嬉(うれ)しくて」


「…ライトさんは、そのために寝(ね)る間(ま)も惜(お)しんでたくさん頑張(がんば)って来(こ)られましたもんね。私(わたし)も嬉(うれ)しいです」


「頑張(がんば)るのは当然(とうぜん)です。だって…タカヤ君(くん)は僕(ぼく)の所為(せい)で、コスモピースに翻弄(ほんろう)されることになったんですから…。あの子(こ)を元(もと)の体(からだ)に戻(もど)すためなら僕(ぼく)は何(なん)でもします」


 ライトはそのまま、まだ熱(あつ)い残(のこ)りのコーヒーを一気(いっき)に飲(の)み干(ほ)しました。


「そうだ、タカヤ君(くん)が帰(かえ)る前(まえ)にコスモピースの検査(けんさ)をさせてもらわないと。すみませんルルさん、ちょっと準備(じゅんび)をして来(き)ますね」


 ライトが口元(くちもと)を緩(ゆる)ませたままリビングを出(で)て行(い)くのを、ルルは幸(しあわ)せそうに見送(みおく)りました。




 …階段(かいだん)の上(うえ)でその会話(かいわ)に聞(き)き耳(みみ)を立(た)てていたタカヤは、その場(ば)で小(ちい)さくため息(いき)を吐(つ)いてからショースケの部屋(へや)へと戻(もど)って行(い)きました。


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