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第十三話 カズの優しい宝物

****


「みんな! いらっしゃーい!」


 玄関(げんかん)で待機(たいき)していたカズは、ピンポンの音(おと)が聞(き)こえてすぐに自宅(じたく)のドアを開(ひら)きました。


「まだ七月(しちがつ)に入(はい)ったばかりなのに暑(あつ)いよね。さ、入(はい)って入(はい)って!」


「本当(ほんとう)に暑(あつ)かったよ…溶(と)けるかと思(おも)った…」


 ショースケはTシャツの裾(すそ)で、額(ひたい)の滝(たき)のような汗(あせ)を拭(ぬぐ)います。


「ショースケ、暑(あつ)い暑(あつ)い言(い)い過(す)ぎなんだよ! 余計(よけい)に暑(あつ)く感(かん)じただろ!」


「知(し)らないよそんなこと。レンが勝手(かって)にイライラして暑(あつ)く感(かん)じたんじゃないの」


 炎天下(えんてんか)の中(なか)歩(ある)いてきた疲(つか)れからか、レンとショースケはじろりと鋭(するど)くにらみ合(あ)いました。


「まぁまぁー、人様(ひとさま)のおうちなんだからケンカしないでよー。…にしてもタカヤすごいねー、汗(あせ)の一(ひと)つもかいてないじゃんか」


 ミオはタカヤの体(からだ)を上(うえ)から下(した)までじろじろ見(み)ます。


「あ、あはは…暑(あつ)いの慣(な)れてるから、かなぁ? そうだカズ、これ」


 靴(くつ)を揃(そろ)えて玄関(げんかん)に上(あ)がって、タカヤはカズに茶色(ちゃいろ)い紙袋(かみぶくろ)を手渡(てわた)しました。


「ブラウニー焼(や)いてきたんだ。みんなの分(ぶん)と…カズのご家族(かぞく)の分(ぶん)も焼(や)いてきたから後(あと)で食(た)べてくれると嬉(うれ)しいよ」


「え! ありがとう、タカヤの作(つく)ったお菓子(かし)美味(おい)しいからみんな喜(よろこ)ぶよ!」


 カズがニコニコ笑(わら)いながらリビングに繋(つな)がる引(ひ)き戸(ど)を開(あ)けると、玄関(げんかん)にクーラーの冷(つめ)たい風(かぜ)がさーっと吹(ふ)き込(こ)みます。


「ふわぁー涼(すず)しい…生(い)き返(かえ)った気分(きぶん)だよ」


 急(いそ)いでリビングに駆(か)け込(こ)んだショースケは、両手(りょうて)で顔(かお)を扇(あお)ぎながらその冷気(れいき)をふんだんに吸(す)い込(こ)みました。


 すると後(うし)ろから、タカヤがショースケの背中(せなか)をぽんっと叩(たた)いて声(こえ)をかけます。


「ショースケ、先(さき)にあいさつするぞ」


「あ、うん! そうだったね」


 全員(ぜんいん)で奥(おく)の和室(わしつ)に入(はい)って、カズのお母(かあ)さんの写真(しゃしん)が飾(かざ)られた仏壇(ぶつだん)の前(まえ)に一列(いちれつ)に並(なら)んで手(て)を合(あ)わせてから、みんなは再(ふたた)びリビングに戻(もど)って来(き)ました。


「麦茶(むぎちゃ)どうぞー! あ、タカヤのくれたブラウニーも開(あ)けたよー」


「ありがとーカズー。おれもう喉(のど)カラカラだー」


 ミオはカズがローテーブルに置(お)いたばかりの麦茶(むぎちゃ)が入(はい)ったグラスを一(ひと)つ手(て)に取(と)って、待(ま)ってましたと言(い)わんばかりに一気(いっき)に飲(の)み干(ほ)しました。


「おいミオ! 立(た)ったまま飲(の)むなよ、行儀(ぎょうぎ)悪(わる)いだろ!」


 そう注意(ちゅうい)したレンは座布団(ざぶとん)に座(すわ)って、タカヤの焼(や)いたブラウニーを一(ひと)つ、誰(だれ)よりも早(はや)く口(くち)に入(い)れます。


「…うまい」


「そっか、よかった。レンがさ、前(まえ)にナッツが入(はい)ったのが好(す)きだって言(い)ってたから今回(こんかい)はいっぱい入(い)れてみたんだ」


「ふ、ふーん…? そうかよ」


 隣(となり)に座(すわ)るタカヤからわざと大(おお)きく目(め)を逸(そ)らして、レンは嬉(うれ)しそうに口元(くちもと)を緩(ゆる)ませたままブラウニーをもう一(ひと)つ頬張(ほおば)りました。


「ねえねえ何(なに)するー? 今日(きょう)はね、お父(とう)さんもおじいちゃんもおばあちゃんも弟(おとうと)も妹(いもうと)もみんなお出(で)かけしてるから、ここはぼくらの城(しろ)なんだよ!」


 カズは麦茶(むぎちゃ)をちびちび飲(の)みながらえへへと笑(わら)います。


「僕(ぼく)、あんまり経験(けいけん)が無(な)いんだけどこういう時(とき)は何(なに)をするものなの?」


 両手(りょうて)にブラウニーを握(にぎ)ったショースケが尋(たず)ねると、向(む)かいに座(すわ)ったミオがギラリと目(め)を輝(かがや)かせました。


「それはやっぱりゲームでしょー。ほらやろー今(いま)すぐやろー!」


「えー…ゲームはミオの一人(ひとり)勝(が)ちじゃねーか」


「みんなより何(なん)十(じゅう)倍(ばい)も練習(れんしゅう)してるんだからおれだって勝(か)たなきゃ困(こま)るよー? いいじゃんレン、やろうよー」


 嫌(いや)そうに眉(まゆ)をしかめるレンの腕(うで)を、ミオはぐいぐい引(ひ)っ張(ぱ)ります。


「…仕方(しかた)ねーな、ちょっとだけだぞ」


「じゃあぼくの部屋(へや)に移動(いどう)しようか!」


 麦茶(むぎちゃ)とブラウニーをお盆(ぼん)に載(の)せて、みんなはカズを先頭(せんとう)に二(に)階(かい)へと上(あ)がって行(い)きました。



****



「ごめんね、ちょっと暑(あつ)いけどしばらく我慢(がまん)して」


 グリーンのカーテンを閉(し)めながら、カズはエアコンのスイッチを入(い)れました。


 窓(まど)から入(はい)った刺(さ)すような日差(ひざ)しでほかほかになっているカズの部屋(へや)には、たくさんの図鑑(ずかん)が入(はい)った本棚(ほんだな)やゲーム機(き)が繋(つな)がった小(ちい)さめの古(ふる)いテレビがあります。


 ミオはまるで自分(じぶん)の部屋(へや)であるかのようにいそいそとゲーム機(き)に近(ちか)づいて、何(なに)にしようかとゲームソフトを探(さぐ)って…レンはそれを後(うし)ろからやれやれと眺(なが)めていますが…


 タカヤとショースケの視線(しせん)は窓際(まどぎわ)の棚(たな)の上(うえ)に置(お)いてある、怪(あや)しく光(ひか)るまだら模様(もよう)の大(おお)きな石(いし)にもう釘(くぎ)付(づ)けです。


 二人(ふたり)は顔(かお)を見合(みあ)わせました、だってあれはどう見(み)ても…惑星(わくせい)シュレンティで採(と)れる宝石(ほうせき)、ラクトモンドだからです!




 今(いま)から七日(なのか)ほど前(まえ)、宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)からとある連絡(れんらく)が入(はい)りました。


「落(お)とし物(もの)、ですか?」


 タカヤが小(ちい)さくしたエッグロケットを握(にぎ)りしめて応答(おうとう)します。


「はい。先日(せんじつ)時(とき)目(め)木(き)町(ちょう)を訪(おとず)れた宇宙(うちゅう)的(てき)大(だい)富豪(ふごう)のマルーボさんから、大(おお)きなラクトモンドをそちらで落(お)としてしまったとの連絡(れんらく)が入(はい)りました」


「わかりました、見(み)つけ次第(しだい)本部(ほんぶ)に送(おく)ります」


 そう返事(へんじ)をして、タカヤはエッグロケットをポケットにしまいました。


「ショースケ、どこかでラクトモンド見(み)たか?」


「見(み)てるわけないじゃん。というか…それって誰(だれ)かに盗(ぬす)まれちゃったんじゃないの? ラクトモンドってめちゃくちゃ高価(こうか)な宝石(ほうせき)でしょ。お金(かね)に目(め)が眩(くら)んだET(いーてぃー)さんがいてもおかしくないよ」


 僕(ぼく)だって欲(ほ)しいもん、とショースケは自分(じぶん)のお財布(さいふ)事情(じじょう)のことを考(かんが)えてため息(いき)をつきます。


「そうだよな…マルーボさんには申(もう)し訳(わけ)ないけど、見(み)つかる可能(かのう)性(せい)は低(ひく)いだろうな。しかもラクトモンドは地球(ちきゅう)の物質(ぶっしつ)と似(に)てるからコスモピースの力(ちから)を使(つか)っても捜索(そうさく)が難(むずか)しいし…」


 頭(あたま)を悩(なや)ませながら、タカヤも小(ちい)さくため息(いき)をつきました。




 …そんなラクトモンドがまさかこんなところにあるなんて!


「ね、ねぇねぇカズー?」


「なーに? ショースケ」


「あの石(いし)ってさー…どこで拾(ひろ)ったの?」


 ショースケはラクトモンドを指(ゆび)さします。


「ああ! いいでしょあれ。一(いっ)週間(しゅうかん)と少(すこ)し前(まえ)くらいに海辺(うみべ)で拾(ひろ)ったの! ぼくの宝物(たからもの)にしようと思(おも)って」


 カズは大事(だいじ)そうにラクトモンドを撫(な)で回(まわ)しながら続(つづ)けます。


「本当(ほんとう)は学校(がっこう)に持(も)って行(い)ってみんなに見(み)せたかったんだけど…この石(いし)片手(かたて)で持(も)てないくらい大(おお)きいし、見(み)た目(め)の割(わり)に重(おも)いから持(も)って行(い)けなかったんだー」


「そうなんだー…あのさ、急(きゅう)なんだけど…」


 ショースケは言(い)いにくそうに口(くち)をもごもごさせながら、ちらりとカズの方(ほう)を見(み)ました。


「その石(いし)、僕(ぼく)にくれたりしないかなー…なんて」


「えぇ⁉ ダメダメ、ダメだよ! すっごく綺麗(きれい)だから、欲(ほ)しくなるのはわかるけど!」


「だ、だよねー…」


 ショースケはズボンのポケットの中(なか)のエッグロケットを握(にぎ)ってテレパシーを送(おく)ります。


(どうする? タカヤ。まさかこっそり盗(ぬす)むわけにもいかないし…)


(そうだな…どうしてもカズが渡(わた)さないなら、宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)に頼(たの)んで記憶(きおく)操作(そうさ)をしてもらわないといけなくなる。なんとか自分(じぶん)から手放(てばな)して欲(ほ)しいんだけど…)


「タカヤー、ショースケー? 準備(じゅんび)できたよー早(はや)くやろうー!」


 ゲームの起動(きどう)が完了(かんりょう)したミオは、テレビの前(まえ)でそわそわと体(からだ)を揺(ゆ)らしています。


 とりあえず様子(ようす)を見(み)ながら考(かんが)えようと、二人(ふたり)はエッグロケットから手(て)を離(はな)してコントローラーを握(にぎ)りました。



****



「…タカヤちょっと下手(へた)過(す)ぎない?」


「え、今(いま)落(お)ちたキャラクターが俺(おれ)の?」


「そうだよ! さっきからそう言(い)ってるじゃんか!」


 ショースケはやいやいとタカヤのプレイに口(くち)を出(だ)します。


「タカヤは大体(だいたい)何(なん)でもできるけどさー、ゲームだけは苦手(にがて)だよねー」


 またもや余裕(よゆう)で一(いち)位(い)を取(と)ったミオが、ブラウニーを頬張(ほおば)りながらニヤリと笑(わら)います。


「あはは…俺(おれ)だって苦手(にがて)なこといっぱいあるよ。ミオはやっぱりゲーム上手(うま)いな」


「当然(とうぜん)。一日(いちにち)何(なん)時間(じかん)練習(れんしゅう)してると思(おも)ってるのー。今度(こんど)こそ大会(たいかい)で優勝(ゆうしょう)目指(めざ)してるんだからー」


 ミオがそう言(い)いながらさりげなくコントローラーを操作(そうさ)して、『もう一度(いちど)プレイする』を選択(せんたく)しようとするのをレンは見逃(みのが)しません。


「おい! ちょっとだけって約束(やくそく)しただろ!」


「まだ十(じゅっ)回(かい)しかやってないじゃーん! ちょっとって二十(にじゅっ)回(かい)くらいでしょー?」


「そんなわけねーだろ! ほら、もう終(お)わり!」


 十(じゅっ)回(かい)全部(ぜんぶ)二(に)位(い)だったレンはむすっとしたままコントローラーを片付(かたづ)けます。


「えぇー…レンのケチー」


 ほっぺをぷくーっと膨(ふく)らませているミオの頭(あたま)を、カズはよしよしと優(やさ)しく撫(な)でました。


「次(つぎ)は何(なに)するー? あ、トランプあるよーババ抜(ぬ)きしようよ!」


「え、ババ抜(ぬ)き…」


 ショースケはぎゅぎゅっと眉(まゆ)をしかめました。


「なんだよ、ショースケ弱(よわ)いのか?」


 嬉(うれ)しそうにニヤニヤ笑(わら)うレンに、ショースケはいやいやとすぐさま言(い)い返(かえ)します。


「そ、そんなわけないじゃん! 少(すく)なくともレンよりは強(つよ)いんだから!」


「はぁ⁉ じゃあ勝負(しょうぶ)しようぜ」


 二人(ふたり)はバチバチ火花(ひばな)を散(ち)らします。


「決(き)まりね! じゃあ配(くば)るよー」


 カズは慣(な)れた手(て)つきでカードをシャッフルすると、五(いつ)つに分(わ)けて配(くば)り始(はじ)めました。




「レンさー、早(はや)くジョーカー引(ひ)いてくれない? 僕(ぼく)もう疲(つか)れたんだよ!」


「オレだって疲(つか)れたよ! ショースケこそ早(はや)く引(ひ)けよ!」


 お互(たが)い顔(かお)に丸出(まるだ)しで、弱(よわ)すぎて決着(けっちゃく)が付(つ)かない二人(ふたり)は置(お)いておいて…



「しかしタカヤ本当(ほんとう)にババ抜(ぬ)き強(つよ)いよねー、なんかコツとかあるのー?」


 ミオがくつろぎながら尋(たず)ねます。


「コツかはわからないけど…相手(あいて)が引(ひ)いて欲(ほ)しそうな方(ほう)と逆(ぎゃく)を引(ひ)く、とか。目線(めせん)のクセとかを見(み)て、引(ひ)きたそうな場所(ばしょ)にジョーカーを持(も)って行(い)くとか…かな?」


「へー…タカヤっていろいろ見(み)てるんだね! ぼくはよくわかんないや」


 カズは次(つぎ)に遊(あそ)ぶ予定(よてい)のすごろくを組(く)み立(た)てながらニコニコと笑(わら)いました。


 …さてさて、いつまでも遊(あそ)んでいるわけにはいきません。


「なぁカズ? ちょっとこの石(いし)触(さわ)らせてもらっていいか?」


「いいよー! やっぱりタカヤもその石(いし)気(き)になる? かっこいいよねー!」


 タカヤはポケットの中(なか)のエッグロケットから小(ちい)さな機械(きかい)を取(と)り出(だ)すと、それを手(て)のひらに隠(かく)したままラクトモンドに近(ちか)づきました。


 大(おお)きなラクトモンドに機械(きかい)をぎゅっと押(お)し当(あ)てて、重(おも)さや材質(ざいしつ)のデータを取(と)ります。


(…やっぱりマルーボさんが落(お)としたラクトモンドで間違(まちが)いなさそうだ。おそらくこの石(いし)にはキラキラ粉(こ)をかけて無(な)かったんだな…さて、どうしよう?)


 本部(ほんぶ)にカズの記憶(きおく)を操作(そうさ)してもらえば、簡単(かんたん)にラクトモンドを取(と)り戻(もど)すことができるでしょう。


 しかし…


(記憶(きおく)操作(そうさ)は便利(べんり)なことだけじゃない…カズの中(なか)のラクトモンドと結(むす)びついてる記憶(きおく)にも影響(えいきょう)が出(で)て、消(き)えてしまったりする可能(かのう)性(せい)がある。たとえば…今日(きょう)みんなで一緒(いっしょ)に遊(あそ)んだこと、とか)


 大事(だいじ)な友達(ともだち)の記憶(きおく)です、出来(でき)ることなら手(て)を入(い)れたくはありません。


(そのためには…カズに自分(じぶん)からラクトモンドを手放(てばな)してもらわないと)


 タカヤはラクトモンドが飾(かざ)ってある棚(たな)の前(まえ)に立(た)ったまま考(かんが)え込(こ)みます。


 その姿(すがた)を、ショースケは残(のこ)り二(に)枚(まい)のトランプを右手(みぎて)に握(にぎ)ったまま後(うし)ろからじーっと見(み)ていました。


(タカヤ、今(いま)ラクトモンドのデータを取(と)ってたな…ってことは、あれが使(つか)えるかも!)


「おいショースケ早(はや)く引(ひ)けよ…」


 レンも残(のこ)り二(に)枚(まい)のトランプを握(にぎ)って、疲(つか)れ切(き)った顔(かお)でショースケをにらみます。


「…ねぇレン。僕(ぼく)たち、かれこれ十(じゅっ)分(ぷん)くらいジョーカーを引(ひ)き合(あ)ってるじゃん?」


「…そうだな」


「正直(しょうじき)もう疲(つか)れたよね…? だからさ、二人(ふたり)とも勝(か)ったことにしない? 僕(ぼく)このままやってても終(お)わる気(き)がしないもの」


「…今回(こんかい)だけだぞ」


 二人(ふたり)は同時(どうじ)に手(て)の中(なか)のトランプを床(ゆか)に置(お)き、レンはその場(ば)にぐったりと横(よこ)たわりました。


 ショースケは立(た)ち上(あ)がり、大(おお)きく伸(の)びをしながらわざとらしく声(こえ)を出(だ)します。


「あー疲(つか)れた! 僕(ぼく)トイレに行(い)きたいなーでも場所(ばしょ)がわかんないからタカヤに案内(あんない)してもらおうかなー!」


「あ、案内(あんない)ならぼくがするよー? だってぼくの家(いえ)だし」


 カズが立(た)ち上(あ)がろうとするので、ショースケは必死(ひっし)にタカヤに視線(しせん)を送(おく)ります。


「い、いや! 俺(おれ)が連(つ)れて行(い)ってくるよ!」


 カズが歩(ある)き始(はじ)めるよりも先(さき)に、タカヤは急(いそ)いでショースケを連(つ)れて部屋(へや)を出(で)ました。



****



 熱(ねつ)がムンムンとこもった廊下(ろうか)で、二人(ふたり)はこそこそと話(はな)し合(あ)います。


「どうしたんだよ、ショースケ。何(なに)か良(い)い考(かんが)えが浮(う)かんだのか?」


「正(まさ)しくその通(とお)りだよ。タカヤさっき、機械(きかい)でラクトモンドのデータ取(と)ってたでしょ? あれちょっと貸(か)してくれない?」


 タカヤはエッグロケットの中(なか)から小(ちい)さな機械(きかい)を取(と)りだしてショースケに渡(わた)します。


「このデータを、まずは僕(ぼく)のタブレットに入(い)れて…そしてこれ!」


 ショースケは白(しろ)くてやわらかそうな、粘土(ねんど)のような塊(かたまり)を取(と)り出(だ)しました。


「ふっふっふ…これねー、この間(あいだ)宇宙(うちゅう)通販(つうはん)で買(か)ったんだー。まあ見(み)ててよ!」


 青白(あおじろ)い光(ひかり)を放(はな)つタブレットの画面(がめん)の上(うえ)に、ショースケが白(しろ)い塊(かたまり)をのせると…


 白(しろ)い塊(かたまり)はみるみるうちに、カズの部屋(へや)に置(お)いてあるラクトモンドそっくりに姿(すがた)を変(か)えていくではありませんか!


「わ…っ! すごい!」


「でしょでしょ? この偽物(にせもの)のラクトモンドを、本物(ほんもの)のラクトモンドと取(と)り替(か)えればいいんだよ! でも…」


「でも?」


 タカヤは首(くび)を傾(かし)げながら偽物(にせもの)のラクトモンドを持(も)ち上(あ)げてみて…ショースケの言(い)いたい続(つづ)きがなんとなくわかりました。


「…これ、すごく軽(かる)いな」


「そうなんだよ…重(おも)さはコピー出来(でき)なくて。カズが持(も)ったら一瞬(いっしゅん)で異変(いへん)に気(き)が付(つ)くだろうけど…まぁ、それさえ誤魔化(ごまか)せれば大丈夫(だいじょうぶ)だと思(おも)うよ」


「うーん、地球(ちきゅう)外(がい)物質(ぶっしつ)をカズの家(いえ)に置(お)いておくのは不安(ふあん)だけど…とりあえずマルーボさんにラクトモンドが返(かえ)すのが最(さい)優先(ゆうせん)だもんな」


 二人(ふたり)の話(はな)し合(あ)いが終了(しゅうりょう)したタイミングで、部屋(へや)の扉(とびら)が開(ひら)いてカズがぴょこっと顔(かお)を出(だ)しました。


「あれ、そんなところにいたの? なかなか戻(もど)ってこないから心配(しんぱい)してたんだよ」


「えーっと…ちょっとお腹(なか)壊(こわ)しちゃってさー! あ、タカヤもお腹(なか)壊(こわ)したから二(に)倍(ばい)時間(じかん)がかかったんだよ。ね、タカヤ!」


「え…あ、ああうん! そうなんだよ!」


「そうなの? 大丈夫(だいじょうぶ)?」


 カズが不安(ふあん)そうに眉(まゆ)を下(さ)げるので、二人(ふたり)はいやいやと両手(りょうて)をぶんぶん振(ふ)りました。


「もう治(なお)ったんだ、だから大丈夫(だいじょうぶ)だよ。ほら、部屋(へや)に戻(もど)ろうショースケ」



****



「次(つぎ)おれの番(ばん)ねー。えーっと、六(ろく)。いちにぃさん…」


 ミオが自分(じぶん)の紫色(むらさきいろ)のコマをぴょこぴょこと動(うご)かします。


 みんなですごろくをやっている間(あいだ)にも、ショースケはちらちらと頻繁(ひんぱん)に棚(たな)の上(うえ)のラクトモンドを確認(かくにん)していました。


 隙(すき)を見(み)て偽物(にせもの)のラクトモンドと取(と)り替(か)えなければなりませんが…問題(もんだい)はそんなタイミングがあるかどうかです。


 だってここはカズの部屋(へや)、タカヤとショースケが二人(ふたり)きりになれる可能(かのう)性(せい)は極(きわ)めて低(ひく)いでしょう。


「おい、次(つぎ)ショースケの番(ばん)だぞ」


「あ! ごめんごめん」


 レンに言(い)われてショースケはサイコロを転(ころ)がします。


 …考(かんが)え事(ごと)ばかりしているためか出目(でめ)は一(いち)ですし、振(ふ)り出(だ)しに戻(もど)されるしでショースケの青(あお)いコマの進(すす)み具合(ぐあい)は散々(さんざん)です。


 一番(いちばん)にゴールして、みんながすごろくにまだ集中(しゅうちゅう)している間(あいだ)にこっそり取(と)り替(か)える…という方法(ほうほう)はどうやら使(つか)えそうにありません。


 …と、その時(とき)。


 ピンポーン、とカズの家(いえ)の呼(よ)び鈴(りん)が鳴(な)りました。


「お客(きゃく)さんかな? ぼく、ちょっと見(み)てくるね」


 カズが立(た)ち上(あ)がって部屋(へや)を後(あと)にします。


「あ、じゃあおれはその間(あいだ)にトイレ行(い)ってくるー」


 ミオもカズに続(つづ)くように扉(とびら)をくぐったため、部屋(へや)にはタカヤとショースケとレンの三(さん)人(にん)だけになりました。


 これはラクトモンドを取(と)り替(か)える絶好(ぜっこう)のチャンスです!


(タカヤ! 何(なん)でもいいからレンの注意(ちゅうい)を逸(そ)らしておいてくれない?)


(え! …わ、わかったやってみるよ)


 ポケットの中(なか)のエッグロケットから手(て)を離(はな)して、タカヤは隣(となり)に座(すわ)るレンの目(め)を後(うし)ろから両手(りょうて)で覆(おお)いました。


「レン? だ、だーれだ!」


「な、何(なん)だよ急(きゅう)に! 誰(だれ)って…タカヤに決(き)まってるだろ!」


「あはは…正解(せいかい)」


 そう言(い)って笑(わら)いながらも、タカヤは一向(いっこう)に両手(りょうて)をレンの目(め)から離(はな)そうとしません。


 ショースケはその間(あいだ)にラクトモンドを取(と)り替(か)えようとしますが…思(おも)ったより重(おも)かったのか、もたついて時間(じかん)がかかっています。


「タ、タカヤ何(なん)で手(て)離(はな)さねぇんだよ!」


「え、ええっと…俺(おれ)がもう少(すこ)しレンとこうしてたいから。ダメ?」


「なっ…! だ、ダメじゃねぇ、けど…」


 レンがニマニマと緩(ゆる)む口元(くちもと)を必死(ひっし)に抑(おさ)えているうちに、ショースケはやっとラクトモンドの取(と)り替(か)えが完了(かんりょう)したようです。


 タカヤがレンの目元(めもと)から手(て)を離(はな)すと同時(どうじ)に、扉(とびら)が開(ひら)いてカズとミオが帰(かえ)ってきました。


「ただいまー! お客(きゃく)さんね、隣(となり)のおばあちゃんだった! この前(まえ)おばあちゃん家(ち)の庭(にわ)の草(くさ)引(ひ)き手伝(てつだ)ったから、お礼(れい)にってお菓子(かし)を渡(わた)しに来(き)てくれたの。お礼(れい)なんていいのにねー!」


 カズはニコニコと元(もと)居(い)た場所(ばしょ)に座(すわ)り直(なお)します。


「カズって本当(ほんとう)に優(やさ)しいよねー…あれー? レンなんかいいことあったー?」


 ニヤニヤ尋(たず)ねてくるミオに、レンはぶっきらぼうにそっぽを向(む)きながら答(こた)えます。


「べ、別(べつ)に何(なに)もねぇよ! それよりすごろく、次(つぎ)カズの番(ばん)だぞ!」


「あ、そうだった! …あれ?」


 レンからサイコロを受(う)け取(と)ろうと左(ひだり)を向(む)いて…奥(おく)にある棚(たな)が目(め)に入(はい)ったカズはぴたりと動(うご)きを止(と)めました。


「石(いし)の向(む)きが変(か)わってる…誰(だれ)か触(さわ)った?」


「え…さ、触(さわ)ってないよ! カズの勘違(かんちが)いじゃない⁉」


 ショースケは一生懸命(いっしょうけんめい)、精一杯(せいいっぱい)しらを切(き)ります。


「えー、だってこの尖(とが)った部分(ぶぶん)は右(みぎ)にあったはずだもの。ほら、こんな風(ふう)に…」


 元(もと)あった形(かたち)に戻(もど)そうと、カズは立(た)ち上(あ)がって石(いし)を両手(りょうて)で持(も)ち上(あ)げて…そのまま五(ご)回(かい)、パチパチとまばたきをしました。


 石(いし)をゆっくり置(お)いて、もう一度(いちど)持(も)ち上(あ)げて…それを三(さん)回(かい)繰(く)り返(かえ)したあと、カズはみんなの方(ほう)にくるりと振(ふ)り返(かえ)って今日(きょう)一番(いちばん)の大声(おおごえ)を上(あ)げます。


「なんか…すっっっごく軽(かる)くなってる!」


「え、えー⁉ そんなわけないじゃーん!」


 滝(たき)のような冷(ひ)や汗(あせ)をかきながら、ショースケは何(なん)とか誤魔化(ごまか)そうと声(こえ)を絞(しぼ)り出(だ)しました。


「石(いし)が軽(かる)くなんてなるかよ」


「だってレン、ぼくこれを海辺(うみべ)から持(も)って帰(かえ)るの大変(たいへん)だったのに…今(いま)の重(おも)さならすいすい運(はこ)べちゃうよ! あっ! もしかして…」


 カズは目(め)をキラキラキラッと輝(かがや)かせます。


「えへへー実(じつ)はぼく最初(さいしょ)から怪(あや)しいと思(おも)ってたんだー。この石(いし)ってさ、もしかして特別(とくべつ)な石(いし)なんじゃないかなぁ⁉ 例えば…宇宙(うちゅう)から来(き)たとか!」


 …ショースケはもう思(おも)いっきり目(め)を逸(そ)らすことしかできません。


「えー宇宙(うちゅう)からー? 隕石(いんせき)ってことー?」


 ミオが近(ちか)づいてツンツンと石(いし)をつついてみます。


「ふふー…実(じつ)はぼくのお父(とう)さんの知(し)り合(あ)いにそういうの研究(けんきゅう)してる人(ひと)がいるんだー! その人(ひと)に頼(たの)んだら調(しら)べてもらえるかも!」


 ニコニコ笑(わら)うカズを見(み)ながら、タカヤはポケットの中(なか)のエッグロケットを握(にぎ)ります。


(…なあショースケ。あの偽物(にせもの)のラクトモンドって何(なに)で出来(でき)てるんだ?)


(…グラクラ星(せい)に住(す)むET(いーてぃー)、ユラトブレのウロコからだよ。調(しら)べられたら…まぁ大騒(おおさわ)ぎになるだろうね)


 大変(たいへん)なことになってしまいました、さてどうしましょう!


(とにかく調(しら)べられるのはまずい! ショースケ、ラクトモンドをもう一度(いちど)本物(ほんもの)と取(と)り替(か)えて何(なん)とかしよう!)


(こんなにみんながラクトモンドに注目(ちゅうもく)してるのにどうやって取(と)り替(か)えるのさ⁉)


(ええーっと…えーっと…!)


 タカヤはたくさん考(かんが)えますが…なかなか良(い)い案(あん)が浮(う)かびません。


(それに取(と)り替(か)えちゃったら、ラクトモンドをマルーボさんに返(かえ)せないよ! 何(なに)か別(べつ)の方法(ほうほう)を考(かんが)えないと…)


 ショースケも胸(むね)の前(まえ)で腕(うで)を組(く)んで必死(ひっし)に頭(あたま)をひねります。


(ううん、カズに石(いし)を何(なに)かと交換(こうかん)して! って頼(たの)み込(こ)むとか…? でもでも、そんなに僕(ぼく)らがあの石(いし)を欲(ほ)しがるのも怪(あや)しいし…!)


 いっぱい考(かんが)えすぎて、ショースケの頭(あたま)はもうパンク寸前(すんぜん)です。


(うーんうーん、ああもう! いっそのことマルーボさんがカズの前(まえ)に現(あらわ)れて、『それは自分(じぶん)のものだから返(かえ)して』って言(い)ってくれたらいいのに! そしたらカズは優(やさ)しいから、絶対(ぜったい)返(かえ)してくれると思(おも)うのになぁ…)


 そう考(かんが)えて深(ふか)―いため息(いき)を吐(つ)いたショースケが顔(かお)を上(あ)げると…驚(おどろ)いたような表情(ひょうじょう)のタカヤと目(め)が合(あ)いました。


 そして途端(とたん)に、タカヤはにっこりと笑(わら)います。


(どしたのタカヤ、そんな顔(かお)して)


(ショースケのおかげでいい作戦(さくせん)を思(おも)いついたんだ! 協力(きょうりょく)してくれないか?)



****



「ごめん、急(きゅう)なんだけど…俺(おれ)、用事(ようじ)を思(おも)い出(だ)したから帰(かえ)らなきゃ」


 すごろくを一番(いちばん)にゴールしたタカヤが立(た)ち上(あ)がると、カズは眉(まゆ)をしょんぼりと下(さ)げながら駆(か)け寄(よ)って来(き)ます。


「えー⁉ タカヤもう帰(かえ)っちゃうの? せっかく遊(あそ)びに来(き)てくれたのに…」


「ごめんな。また遊(あそ)びに来(こ)させてもらってもいいかな?」


「もちろんだよ! あ、お見送(みおく)りに行(い)くね!」


 カズもレンもミオも、タカヤを見送(みおく)るために部屋(へや)から出(で)て行(い)きます。


 ショースケは念(ねん)のため、棚(たな)の上(うえ)の偽物(にせもの)のラクトモンドを本物(ほんもの)と取(と)り替(か)え直(なお)してからみんなの後(あと)を追(お)いました。


「それじゃ、また学校(がっこう)で。今日(きょう)はありがとう」


 午後(ごご)三(さん)時(じ)を回(まわ)っても弱(よわ)まることの無(な)い日差(ひざ)しの中(なか)、タカヤは大(おお)きく手(て)を振(ふ)りながら角(かど)を曲(ま)がって見(み)えなくなりました。


「バイバーイ…うぅ、やっぱりタカヤって毎日(まいにち)忙(いそが)しそうだよね。せっかく今日(きょう)は長(なが)く一緒(いっしょ)に遊(あそ)べると思(おも)ったのに」


 タイル張(ば)りの玄関(げんかん)前(まえ)で、カズはがっかりと肩(かた)を落(お)とします。


「昔(むかし)はそんなことなかったのにねー、なんかおれたちに内緒(ないしょ)で習(なら)い事(ごと)でもしてるのかなー? ねぇショースケなんか知(し)らない?」


「し、知(し)らないよ! それよりさ、えーっと…あの雲(くも)! なんかすごく変(へん)な形(かたち)してない⁉」


 ミオの問(と)いかけに激(はげ)しく首(くび)を横(よこ)に振(ふ)ってから、ショースケは空(そら)を指(ゆび)さしました。


「別(べつ)に普通(ふつう)じゃねーの。なぁ暑(あつ)いから早(はや)く中(なか)入(はい)ろうぜ? ずっと見(み)送(おく)られてもタカヤも困(こま)るだろ」


「いやいやいや! よく見(み)て変(へん)な形(かたち)だから!」


 家(いえ)の中(なか)に戻(もど)ろうとするレンを、ショースケは腕(うで)を引(ひ)っ張(ぱ)って引(ひ)き留(と)めます。


「なんだよ! 別(べつ)に変(へん)じゃねーって!」


「いやすごく変(へん)! 変(へん)だからまだ帰(かえ)らないで!」


「んー…そんなに変(へん)かなぁ…?」


 カズとミオも不思議(ふしぎ)そうに空(そら)を見上(みあ)げていると…



「どこに行(い)っちゃったのかしら…」


 白(しろ)いワンピース姿(すがた)の女性(じょせい)が長(なが)い髪(かみ)を揺(ゆ)らしながら、カズの家(いえ)の前(まえ)を通(とお)りかかりました。


「あ…そこのアナタたち。ちょっとお話(はなし)いいですか?」


 女性(じょせい)は困(こま)ったような表情(ひょうじょう)を浮(う)かべて、辺(あた)りをキョロキョロ見回(みまわ)してから首(くび)を傾(かし)げます。


「どうしましたか?」


 カズは目(め)をきょとんと丸(まる)くして問(と)いかけました。


「実(じつ)は私(わたし)、探(さが)し物(もの)をしていて…海辺(うみべ)でまだら模様(もよう)の大(おお)きな石(いし)を無(な)くしてしまったんです。それで…いろんな人(ひと)に聞(き)いて回(まわ)っていたら、この辺(あた)りで見(み)かけたって言(い)われて。何(なに)か知(し)りませんか?」


「え! ええっと…ちょっと待(ま)っててください!」


 女性(じょせい)の今(いま)にも泣(な)き出(だ)しそうな潤(うる)んだ瞳(ひとみ)を見(み)たカズは、すぐに玄関(げんかん)の扉(とびら)を開(あ)けて二(に)階(かい)へと駆(か)け上(あ)がります。


 そしてさっきよりも何(なん)だか重(おも)くなった気(き)がするラクトモンドを不思議(ふしぎ)そうに抱(かか)えて、玄関(げんかん)前(まえ)に戻(もど)ってきました。


「もしかして…この石(いし)のことですか?」


「あ!」


 女性(じょせい)は嬉(うれ)しそうに顔(かお)をほころばせると、カズから石(いし)を両手(りょうて)で受(う)け取(と)ります。


「間違(まちが)いありません、私(わたし)の無(な)くした石(いし)です! アナタが持(も)っていてくださったんですね。本当(ほんとう)にありがとうございます!」


 大切(たいせつ)そうに石(いし)を抱(だ)いて、女性(じょせい)は深々(ふかぶか)とおじぎをすると角(かど)を曲(ま)がって帰(かえ)って行(い)きました。



 その姿(すがた)が見(み)えなくなっても手(て)を振(ふ)り続(つづ)けるカズに、ミオが話(はな)しかけます。


「まさか海辺(うみべ)で拾(ひろ)った石(いし)に持(も)ち主(ぬし)がいたとはねー…カズ残念(ざんねん)だったねー、宝物(たからもの)にするんだーってすごく気(き)に入(い)ってたじゃん」


「え、全然(ぜんぜん)残念(ざんねん)じゃないよ? 確(たし)かにあの石(いし)はかっこよかったけど…お姉(ねえ)さんの元(もと)に戻(もど)れて石(いし)もきっと喜(よろこ)んでるもの!」


 さも当(あ)たり前(まえ)のように、カズはニコニコと笑(わら)います。


「ふーん…カズって本当(ほんとう)に優(やさ)しいよねー」


 その屈託(くったく)のない笑顔(えがお)に釣(つ)られて、ミオもへにゃりと顔(かお)を緩(ゆる)ませました。


「なぁもう部屋(へや)に戻(もど)っていいか…? オレもう暑(あつ)くて…」


「わ! レン顔(かお)真(ま)っ赤(か)! 早(はや)く入(はい)って麦茶(むぎちゃ)飲(の)もう!」


 カズが玄関(げんかん)の扉(とびら)を開(あ)けると、みんなは滑(すべ)り込(こ)むように急(いそ)いで家(いえ)の中(なか)へと入(はい)っていきました。



****



(タカヤ、上手(うま)くいったね!)


 ショースケはカズの家(いえ)のリビングで麦茶(むぎちゃ)を飲(の)みながら、ポケットの中(なか)のエッグロケットを握(にぎ)ります。


(ああ、ショースケのおかげだよ。これでカズも本部(ほんぶ)の記憶(きおく)操作(そうさ)を受(う)けなくて済(す)むはずだ)


 白(しろ)いワンピースの女性(じょせい)は辺(あた)りに誰(だれ)も居(い)ないことを確認(かくにん)してから赤(あか)いエッグロケットにラクトモンドを収納(しゅうのう)すると、なにやら怪(あや)しい薬品(やくひん)を体(からだ)に吹(ふ)きかけて…タカヤへと姿(すがた)を変(か)えました。


(この間(あいだ)ポスリコモスに行(い)ったときに買(か)っておいた変身(へんしん)スプレーが役(やく)に立(た)ってよかったよ)


 そうタカヤは笑(わら)いますが…この変身(へんしん)スプレー、ショースケの記憶(きおく)が正(ただ)しければめちゃくちゃ高価(こうか)だったような…。


 考(かんが)えるのも怖(こわ)いので、ショースケは別(べつ)の話題(わだい)を切(き)り出(だ)します。


(ねぇタカヤ、石(いし)も無事(ぶじ)に取(と)り戻(もど)せたんだしもう一回(いっかい)遊(あそ)びにおいでよ。みんな寂(さび)しがってるからきっと喜(よろこ)ぶよ)


(うーん…ありがたいけど、俺(おれ)この後(あと)本当(ほんとう)に用事(ようじ)があるんだ)


(え、何(なん)の?)


(あはは、ちょっとツバサと遊(あそ)ぶ約束(やくそく)してるだけだよ。じゃあショースケまた明日(あした))


 ポケットの中(なか)のエッグロケットから手(て)を離(はな)して…タカヤはもう一度(いちど)エッグロケットを強(つよ)く握(にぎ)ります。


「はい、フラモ星(せい)で巨大(きょだい)なモンスターが暴(あば)れてる…すぐに向(む)かいます。UFO(ゆーふぉー)は…いつもの場所(ばしょ)ですね。了解(りょうかい)しました」



****



「ねぇカズー? これって昔(むかし)の写真(しゃしん)?」


 ショースケはグラスの中(なか)の麦茶(むぎちゃ)をグッと飲(の)み干(ほ)すと、壁(かべ)にたくさん飾(かざ)ってある写真(しゃしん)の中(なか)の一(いち)枚(まい)に目(め)をやりました。


「そうだよー! ぼくらが三年生(さんねんせい)になったばかりのときにあった遠足(えんそく)の写真(しゃしん)!」


 写真(しゃしん)にはお弁当(べんとう)を食(た)べながらピースをするカズとミオと、少(すこ)し俯(うつむ)いているレンが写(うつ)っています。


「あれ、タカヤがいないね? このときはタカヤと一緒(いっしょ)にお弁当(べんとう)食(た)べなかったの?」


「あ、そういえばタカヤそのとき入院(にゅういん)してたからいなかったね!」


 カズはショースケの分(ぶん)の麦茶(むぎちゃ)のおかわりをなみなみと注(そそ)ぎながら思(おも)い出(だ)します。


「え! 入院(にゅういん)⁉」


「ショースケは聞(き)いてないんだ? タカヤは三年生(さんねんせい)になってすぐ、二ヶ月(にかげつ)くらい入院(にゅういん)してたんだよ! ねぇミオ?」


「そーそー、まぁおれたちは病院(びょういん)の名前(なまえ)も教(おし)えてもらえなかったからお見舞(みま)いにも行(い)けなかったけどねー。レンは特(とく)にすっごく心配(しんぱい)してて、毎日(まいにち)お手紙(てがみ)書(か)いてタカヤのおうちのポストに入(い)れてたよねー…わっぷ」


 レンは眉(まゆ)をつり上(あ)げ顔(かお)を真(ま)っ赤(か)にさせて、ミオの口(くち)を片手(かたて)で塞(ふさ)ぎながらショースケをにらみます。


「おい、ショースケ! さっきまでの話(はなし)タカヤには言(い)うなよ!」


「え、レンが毎日(まいにち)手紙(てがみ)入(い)れてたこと?」


「そ、それもだけど! タカヤが入院(にゅういん)してたって話(はなし)だよ! タカヤが自分(じぶん)からショースケに話(はな)してねーのに、オレたちが勝手(かって)に話(はな)したって知(し)ったら困(こま)るかもだろーが」


「なるほどねー…わかった言(い)わないよ」


 ショースケは残(のこ)り二(ふた)つになったタカヤが焼(や)いたブラウニーを遠慮(えんりょ)無(な)く頬張(ほおば)りながら、また壁(かべ)に飾(かざ)ってある写真(しゃしん)たちに目線(めせん)を戻(もど)しました。


「ねぇねぇ、まだちょっと時間(じかん)あるけど何(なに)するー? あ! 実(じつ)はさっきまでは出(だ)してなかったんだけど、四(よん)人用(にんよう)のゲームソフトがあるんだー。よかったらそれやらない?」


「やる! やるやるすぐやろー!」


 カズの提案(ていあん)にミオはすぐさま瞳(ひとみ)をギラつかせます。


「えー、またミオの一人(ひとり)勝(が)ちじゃねー?」


「大丈夫(だいじょうぶ)だよレン、これは勝(か)ち負(ま)けのゲームじゃなくて協力(きょうりょく)するゲームだから。じゃあもう一回(いっかい)ぼくの部屋(へや)に行(い)こうか! ほら、ショースケも行(い)こう?」


「うん! あ、その前(まえ)に…最後(さいご)のブラウニーいただきまーす!」


 階段(かいだん)を上(のぼ)る三(さん)人(にん)の背中(せなか)を、ショースケは口(くち)をもぐもぐさせながら急(いそ)いで追(お)いかけました。


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