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第十二話 本部の騒ぎは大増殖中⁉

****


「オヨヨー? ナンダカ スゴク ネテタ キガスルー!」


 肖(しょう)造(ぞう)の研究室(けんきゅうしつ)の机(つくえ)の上(うえ)で、ツバサはバタバタ四(よん)本(ほん)の足(あし)を動(うご)かしました。


「うむ、これでメンテナンスは完了(かんりょう)じゃな」


 肖(しょう)造(ぞう)はツバサを抱(だ)きかかえると、タカヤにほいっと手渡(てわた)します。


「おかえりツバサ」


「ヨク ワカンナイ ケド、タダイマ タカヤー! スキスキ」


 タカヤの腕(うで)の中(なか)でツバサが幸(しあわ)せそうに体(からだ)をよじるのを、肖(しょう)造(ぞう)はほっとした様子(ようす)で見(み)つめました。


「無事(ぶじ)に部品(ぶひん)を交換(こうかん)出来(でき)てよかったわい。タカヤとショースケが必要(ひつよう)な材料(ざいりょう)を取(と)ってきてくれたおかげじゃな」


「エ! ソウナノー? アリガトー タカヤ! …ショースケ」


「なんで僕(ぼく)だけ小声(こごえ)なの」


 側(そば)にいたショースケはじとりとツバサをにらんだ後(あと)、ふと何(なに)かを探(さが)すように辺(あた)りをキョロキョロ見回(みまわ)します。


「そういえば…スイとティナは? さっきまでいたのに」


 不思議(ふしぎ)そうに首(くび)を傾(かし)げるショースケの丸(まる)い頭(あたま)を、肖(しょう)造(ぞう)はカカカと笑(わら)いながらぐりぐり撫(な)で回(まわ)しました。


「二人(ふたり)なら外(そと)に仕事(しごと)に行(い)っとるよ。ワシはもう少(すこ)し休(やす)んでからの方(ほう)がいいんじゃないかと言(い)うたんじゃが…どうにも負(ま)けたくない相手(あいて)がおるらしい。はて、誰(だれ)と誰(だれ)のことじゃろうなぁ」


 肖(しょう)造(ぞう)はとぼけたように、肩(かた)をすくめて両手(りょうて)の手(て)のひらを上(うえ)に向(む)けます。


 それを聞(き)いたショースケは、撫(な)でられてぼさぼさになった髪(かみ)を整(ととの)えながら、嬉(うれ)しそうににやりと笑(わら)いました。


「ふーん、そうなんだー…僕(ぼく)らも負(ま)けてられないね、タカヤ!」


「あ、ああ。そうだな」


 甘(あま)えん坊(ぼう)なツバサに触覚(しょっかく)でほっぺたをムニムニ揉(も)まれながら、タカヤはなんとか返事(へんじ)します。


「おお、そうじゃったタカヤ。今回(こんかい)、ツバサに使(つか)っておるエネルギーの塊(かたまり)をワシが開発(かいはつ)した最新式(さいしんしき)に取(と)り替(か)えておいたぞ」


 肖(しょう)造(ぞう)の言(い)う「エネルギーの塊(かたまり)」とは、地球(ちきゅう)で言(い)う電池(でんち)のようなものです。


 このエネルギーの塊(かたまり)を使(つか)うことによって、ツバサは自由(じゆう)に動(うご)くことが出来(でき)るのです。


「ふふふ…今度(こんど)のエネルギーの塊(かたまり)には新(あたら)しく、超(ちょう)激(はげ)しく発熱(はつねつ)できる機能(きのう)をつけたんじゃ! やろうと思(おも)えばツバサの背中(せなか)で目玉焼(めだまや)きが一瞬(いっしゅん)で焼(や)けるようになったぞ。面白(おもしろ)いじゃろー、でも強(つよ)い力(ちから)じゃから使(つか)いすぎには注意(ちゅうい)するんじゃぞ」


「オオ! スゴーイ! タカヤ、ボクノ セナカデ リョウリ スル?」


「いや…台所(だいどころ)でするからいいかな」


 嬉(うれ)しそうにおしりをぷりぷり振(ふ)るツバサを撫(な)でながら、タカヤは困(こま)ったように笑(わら)います。


 話(はなし)を聞(き)いていたショースケは、呆(あき)れて深(ふか)いため息(いき)を吐(つ)きました。


「じーちゃん、いつも使(つか)いどころに困(こま)る機能(きのう)付(つ)けたがるよね…」


「だってぇー! 変(へん)な機能(きのう)付(つ)けないと面白(おもしろ)くないんじゃもん! 仕事(しごと)で頼(たの)まれる発明(はつめい)は全部(ぜんぶ)真面目(まじめ)でつまらんしー」


 たっぷり溜(た)まった書類(しょるい)の山(やま)の前(まえ)で、肖(しょう)造(ぞう)は子(こ)どものようにジタバタ駄々(だだ)をこねました。


「全(まった)くもう、じーちゃんって天才(てんさい)だけど本当(ほんとう)に困(こま)ったさんだよね。そんなんじゃ僕(ぼく)がさっさと特級(とっきゅう)になって、じーちゃんのお仕事(しごと)取(と)っちゃうよ?」


 自信(じしん)満々(まんまん)に人差(ひとさ)し指(ゆび)を立(た)てながらショースケは続(つづ)けます。


「ふふん、僕(ぼく)めきめきと発明(はつめい)の腕(うで)を上(あ)げてるんだから、すぐに追(お)いついちゃうんだからね!」


「ワシ仕事(しごと)したくないもーん。さっさと追(お)いついて、ワシの仕事(しごと)を代(か)わりにやっとくれショースケ」


 肖(しょう)造(ぞう)は現実(げんじつ)から目(め)を背(そむ)けるように、書類(しょるい)の山(やま)と反対(はんたい)方向(ほうこう)に置(お)いてある椅子(いす)にどっかりと座(すわ)って大(おお)きなあくびを一(ひと)つしました。


「ふわぁ…。ところで、二人(ふたり)はこれからどっかへ出(で)かけるんか?」


「あ、はい! 兄(にい)ちゃんとエイギスさんの仕事(しごと)場(ば)の見学(けんがく)に行(い)こうと思(おも)います」


 ツバサにまたもやほっぺたを揉(も)まれているタカヤが答(こた)えると、ショースケは待(ま)ってましたと言(い)わんばかりにキラキラと目(め)を輝(かがや)かせます。


「そうなの! 前(まえ)に見学(けんがく)できなかったから今度(こんど)こそ是非(ぜひ)って声(こえ)をかけてくれたんだー!」


 待(ま)ちに待(ま)った宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)のお仕事(しごと)見学(けんがく)に、ショースケはウキウキとその場(ば)で小躍(こおど)りを始(はじ)めました。


「やっぱり憧(あこが)れるよねー本部(ほんぶ)でのお仕事(しごと)! もしかして僕(ぼく)、『君(きみ)はとっても優秀(ゆうしゅう)だから是非(ぜひ)うちに来(き)てくれ』なーんてスカウトされちゃったりして! うひゃー、そのときはごめんねタカヤ!」


 ハッピーな妄想(もうそう)が止(と)まらないショースケをタカヤと肖(しょう)造(ぞう)は温(あたた)かく見守(みまも)りますが、反対(はんたい)にツバサの視線(しせん)はとっても冷(ひ)ややかです。


「ショースケ アタマ オハナバタケ」


「こらツバサ、そういうこと言(い)わない」


「オット。クチガ スベッタ」


 タカヤに強(つよ)めに抱(だ)きしめられて、ツバサは触覚(しょっかく)で自分(じぶん)の口(くち)を塞(ふさ)ぎました。


 しかしいつもは聞(き)き捨(す)てならないそんな言葉(ことば)も流(なが)せるほど、今(いま)のショースケは上機嫌(じょうきげん)です。


「えへへー。そろそろ約束(やくそく)の時間(じかん)じゃない? ほらタカヤもツバサも行(い)くよ! あ、じーちゃん、スイとティナによろしく伝(つた)えといて!」


 タカヤの背中(せなか)をぐいぐい押(お)しながら、ショースケは出口(でぐち)に向(む)かいます。


「お、押(お)さなくてもちゃんと行(い)くよ。じゃあ肖(しょう)造(ぞう)さん、行(い)ってきますね。俺(おれ)からもよろしくお伝(つた)えください」


「おー、行(い)ってこい行(い)ってこい。さて、ワシはちょっくら昼寝(ひるね)でもするかのぉ…」



****



 透明(とうめい)なチューブ状(じょう)のエレベーターに乗(の)って、ショースケとタカヤとツバサは宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)の二(に)階(かい)へやってきました。


 いつもながら廊下(ろうか)も扉(とびら)もどこもかしこも真(ま)っ白(しろ)で、少(すこ)し目(め)がチカチカするほどです。


「あ! いたいた。タカヤ、ショースケくん!」


 二人(ふたり)を見(み)つけて遠(とお)くから手(て)を振(ふ)って走(はし)ってくるのは、この宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)では珍(めずら)しい地球(ちきゅう)人(じん)、タカヤの兄(あに)のヒカルです。


「兄(にい)ちゃん! 迎(むか)えに来(き)てくれたん…だっ⁉」


 何(なに)も無(な)い廊下(ろうか)のど真(ま)ん中(なか)でヒカルが見事(みごと)にすっ転(ころ)んだので、タカヤは急(いそ)いで駆(か)け寄(よ)りました。


「兄(にい)ちゃん大丈夫(だいじょうぶ)⁉」


「あはは…大丈夫(だいじょうぶ)…。うぅ、俺(おれ)っていつもこんなだなぁ…」


 へにょりと眉(まゆ)を下(さ)げて、ヒカルはその場(ば)に座(すわ)ったままガクリとうなだれます。


「マッタクー ヒカル カワッテナイネ」


 タカヤの腕(うで)の中(なか)から、ツバサがぴょんっと飛(と)び出(だ)してヒカルの膝(ひざ)の上(うえ)に体(からだ)をのせました。


「え…わ、ツバサだ! 久(ひさ)しぶり!」


「ヒサシブリ ジャ ナイヨ。 ヒカル ゼンゼン カエッテ コナイ カラ タカヤ ガ サビシイ ジャン」


 ツバサは三本(さんぼん)の触覚(しょっかく)をぶんぶん振(ふ)り回(まわ)して、ヒカルの胸(むね)をペチペチ叩(たた)きます。


「あたたた…ごめん、俺(おれ)要領(ようりょう)悪(わる)くて仕事(しごと)遅(おそ)いから全然(ぜんぜん)帰(かえ)れなくて。時間(じかん)の流(なが)れも地球(ちきゅう)とは違(ちが)うから難(むずか)しいし…。で、でも! 今度(こんど)こそ絶対(ぜったい)帰(かえ)るからさ!」


「ソウイウノ モウ ナンカイメ?」


「う…ごめんなさい…」


「ま、まあまあ! ツバサもいるし、俺(おれ)は一人(ひとり)で大丈夫(だいじょうぶ)だから! それに…」


 タカヤは屈(かが)んで、しょんぼりうつむくヒカルの顔(かお)を覗(のぞ)き込(こ)みました。


「俺(おれ)はお仕事(しごと)頑張(がんば)ってる兄(にい)ちゃんのこと、すごくかっこいいと思(おも)ってるよ」


「タ、タカヤぁ…ありがとう!」


 ヒカルはぐずぐず涙(なみだ)ぐみながらタカヤに抱(だ)きつきます。


「うぅ…あんなに甘(あま)えん坊(ぼう)だったのにいつのまにかこんなに立派(りっぱ)になって…兄(にい)ちゃんは嬉(うれ)しいよぉ…!」


 その様子(ようす)を、廊下(ろうか)を通(とお)る本部(ほんぶ)職員(しょくいん)のET(いーてぃー)たちは何事(なにごと)かとチラチラ見(み)ながら通(とお)り過(す)ぎて行(い)きます。


「ちょっとヒカルさん、見(み)られてるから! 全(まった)く、これじゃどっちがお兄(にい)さんかわかんないよ」


 ショースケがヒカルの腕(うで)を引(ひ)っ張(ぱ)って立(た)たせていると…


「うふふ…もう、こんなところで何(なに)してるの?」


「あ、エイギスさん! 見(み)ての通(とお)りだよ、ヒカルさんがまた泣(な)いてるの」


 金属(きんぞく)がコツコツ当(あ)たるような足音(あしおと)を鳴(な)らして現(あらわ)れたエイギスは、二(に)メートル以上(いじょう)ある長(なが)い体(からだ)ぐっと曲(ま)げて、自分(じぶん)の紐(ひも)のように細(ほそ)い腕(うで)でヒカルの涙(なみだ)を拭(ぬぐ)ってあげました。


「もう、泣(な)かないの。二人(ふたり)が来(く)るから良(い)いところ見(み)せるんだーって、あんなに準備(じゅんび)して張(は)り切(き)ってたじゃない。ほら、ワタシたちの仕事(しごと)を見学(けんがく)してもらうんでしょ?」


「あ…そうだ、そうだった!」


 ヒカルは目元(めもと)をぐいっと拭(ぬぐ)って立(た)ち上(あ)がり、膝(ひざ)についていた汚(よご)れを払(はら)います。


「ごめんごめん…改(あらた)めて、俺(おれ)たちの仕事(しごと)場(ば)へようこそ! どこから案内(あんない)しようかな。傷(きず)ついたET(いーてぃー)たちを保護(ほご)してるあの部屋(へや)がいいかな。それとも貴重(きちょう)な資料(しりょう)がたくさん集(あつ)まってるあの部屋(へや)が…」


 ポケットからびっしり書(か)かれたメモを取(と)り出(だ)して、ヒカルがウキウキと考(かんが)えを巡(めぐ)らせていると…



 廊下(ろうか)中(じゅう)に大(だい)音量(おんりょう)でアナウンスが響(ひび)きました。


「至急(しきゅう)至急(しきゅう)。手(て)の空(あ)いている隊員(たいいん)は強制(きょうせい)転送室(てんそうしつ)に集(あつ)まってください。繰(く)り返(かえ)します…」


 近(ちか)くを歩(ある)いていた宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)たちは皆(みんな)、慌(あわ)てた様子(ようす)で一(ひと)つの方向(ほうこう)へと向(む)かっていきます。


「えぇ⁉ うう、これからって時(とき)に…」


 ヒカルはしょんぼりと、メモをポケットに戻(もど)しました。


「強制(きょうせい)転送(てんそう)室(しつ)ってことは…何(なに)か危険(きけん)なものが送(おく)られてくるのかも。仕方(しかた)がないわ、二人(ふたり)を案内(あんない)するのは後回(あとまわ)しね。ワタシたちも急(いそ)ぎましょう、ヒカル」


「わかったよエイギス…。そうだ、タカヤとショースケくんも一緒(いっしょ)に来(き)てくれないかな? 隊員(たいいん)って言(い)ったから多分(たぶん)本部(ほんぶ)職員(しょくいん)じゃなくても大丈夫(だいじょうぶ)だし、おそらく人数(にんずう)がいる仕事(しごと)だと思(おも)うから!」


 そう言(い)い残(のこ)して二人(ふたり)は走(はし)り出(だ)します。



「俺(おれ)たちも急(いそ)いで行(い)くぞ、ショースケ」


 タカヤはツバサを抱(だ)き上(あ)げながら声(こえ)をかけました。


「えーっと…僕(ぼく)たちここで待(ま)ってない?」


「どうしたんだ? いつもはすぐに行(い)きたがるのに」


「…だって危険(きけん)なものかもって、エイギスさんが言(い)ってたし…」


 先日(せんじつ)危(あぶ)ない目(め)にあった経験(けいけん)が、ショースケは結構(けっこう)なトラウマになっているようです。


「大丈夫(だいじょうぶ)、何(なに)かあったら俺(おれ)がショースケを守(まも)るから」


「でもでもでもぉ…」


 踏(ふ)ん切(ぎ)りがつかないショースケは、なかなかその場(ば)を動(うご)こうとしません。


 見(み)かねたツバサがタカヤの腕(うで)の中(なか)からぐぐっと身(み)を乗(の)り出(だ)して、触覚(しょっかく)でペチペチとショースケの頭(あたま)を叩(たた)きます。


「ショースケ! シッカリ シナサイ! トッキュウ ウチュウケイサツ ニ ナルンデショ! ボク モ イッショ ニ イッテアゲル カラ」


「わ、わかった行(い)くよ…うう、出来(でき)るだけ怖(こわ)いのじゃありませんように…」



****



 広(ひろ)い広(ひろ)い強制(きょうせい)転送(てんそう)室(しつ)には、数(かぞ)え切(き)れないほどの宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)たちが集(あつ)まっていました。


 部屋(へや)の真(ま)ん中(なか)には大(おお)きなワープ装置(そうち)が取(と)り付(つ)けられていて、その中心(ちゅうしん)では虹色(にじいろ)のブラックホールのような渦(うず)が次第(しだい)に大(おお)きくなっていきます。


「いたいた。ショースケくん、タカヤ、ツバサ」


 先(さき)に到着(とうちゃく)していたヒカルとエイギスが、手招(てまね)きしてショースケたちを部屋(へや)の奥(おく)に呼(よ)びました。


「ここにあるこ(・)れ(・)を、とにかくいっぱい持(も)っておいて。ポスエッグにも入(はい)るだけ収納(しゅうのう)しておくといいよ」


「何(なに)これ…入(い)れ物(もの)?」


 ヒカルが指(ゆび)さした先(さき)で天井(てんじょう)に届(とど)くほど山積(やまづ)みになっているのは、片手(かたて)で収(おさ)まるくらいの大(おお)きさで円柱(えんちゅう)型(がた)の、しっかり蓋(ふた)が閉(し)まる透明(とうめい)なケースでした。


 一体(いったい)何(なに)に使(つか)うのかよくわからないまま、ショースケはそれをエッグロケットの中(なか)へたくさん放(ほう)り込(こ)んでいきます。


「これが渡(わた)されるってことは、強制(きょうせい)転送(てんそう)で送(おく)られてくるのはもしかして…」


「え、タカヤわかったの? 僕(ぼく)にも教(おし)え」


 ショースケがそこまで喋(しゃべ)ったところで、ワープ装置(そうち)の虹色(にじいろ)の渦(うず)がバチバチと音(おと)を立(た)てて光(ひか)り始(はじ)めました。


「ニッカルコピ星(せい)からの強制(きょうせい)転送(てんそう)開始(かいし)。放出(ほうしゅつ)します」


 アナウンスが聞(き)こえて、驚(おどろ)いたショースケが一度(いちど)だけまばたきをして目(め)を開(ひら)いた時(とき)には…


 視界(しかい)一面(いちめん)に何(なん)十(じゅう)、いや何百(なんびゃく)? それすらわからないほど無数(むすう)のクリーム色(いろ)のおまんじゅうのようなET(いーてぃー)が現(あらわ)れていました。


「わわわ⁉ こ、これってもしかして…」


「チュマウンよ! ショースケ、渡(わた)したケースに一体(いったい)ずつチュマウンを入(い)れていって!」


 エイギスに言(い)われたとおり、ショースケは周囲(しゅうい)にいるチュマウンをむにゅりと片手(かたて)で掴(つか)んで、ケースに入(い)れて蓋(ふた)をします。


 チュマウンは惑星(わくせい)ヌマンアに生息(せいそく)しているET(いーてぃー)で、その最大(さいだい)の特徴(とくちょう)は…チュマウン同士(どうし)が二(ふた)つくっつくと増殖(ぞうしょく)して倍(ばい)の四(よっ)つになるところです。


 そしてその四(よっ)つがまたくっついて八(やっ)つに、そして八(やっ)つが…と、とにかく放(ほう)っておくと恐(おそ)ろしいほど数(かず)が増(ふ)えてしまう生物(せいぶつ)なのです。


「惑星(わくせい)ヌマンアには天敵(てんてき)もいるし生態系(せいたいけい)のバランスが取(と)れているから、そこまで数(かず)が増(ふ)えたりしないんだけど…今回(こんかい)みたいに他(ほか)の星(ほし)に連(つ)れて行(い)ってしまうと収集(しゅうしゅう)がつかなくなるんだ!」


 ヒカルがまた一(ひと)つチュマウンを掴(つか)んでいる間(あいだ)にも、目(め)の前(まえ)で二(に)体(たい)のチュマウンがくっついて倍(ばい)へと増殖(ぞうしょく)していきます。


 捕(つか)まえても捕(つか)まえても、数(かず)は減(へ)るどころか変(か)わっていないようにしか見(み)えません。


「マッタク コレジャ ラチガ アカナイヨ」


「うーん、どうしたらいいんだろう…」


 頭(あたま)の触覚(しょっかく)三(さん)本(ぼん)を器用(きよう)に動(うご)かしながらチュマウンを捕(つか)まえているツバサの横(よこ)で、タカヤは手(て)を動(うご)かしながら考(かんが)えます。


 コスモピースの力(ちから)を使(つか)って背中(せなか)から無数(むすう)の触手(しょくしゅ)を出(だ)したら、一体(いったい)ずつチュマウンを捕(つか)まえることができるでしょう。


 しかし、コスモピースの力(ちから)のことを知(し)っているのはごく少数(しょうすう)の宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)だけなのです、こんな大人数(おおにんずう)が集(あつ)まる場所(ばしょ)で使(つか)ったらパニックになってしまいます。


「うう、疲(つか)れた…。こんなんだったらチュマウン吸引機(きゅういんき)とか発明(はつめい)しとくんだったよ…」


 ゼーゼー息(いき)を吐(つ)きながら、ショースケはまた一(ひと)つケースの蓋(ふた)を閉(と)じました。


 他(ほか)の宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)たちにも疲(つか)れの色(いろ)が見(み)え始(はじ)め、捕(つか)まえる速度(そくど)が追(お)いつかなくなり、部屋(へや)の中(なか)のチュマウンの数(かず)は少(すこ)しずつ増(ふ)えていきます。


「何(なん)だかおかしいわ。チュマウンの増殖(ぞうしょく)スピードはこんなに速(はや)かったかしら? もっとゆっくりだったと思(おも)うんだけど…」


 あまり器用(きよう)では無(な)い細(ほそ)い腕(うで)を必死(ひっし)に動(うご)かしながら、エイギスは長(なが)い首(くび)をひねりました。


「そうなの?」


 ショースケは汗(あせ)を拭(ぬぐ)いながら尋(たず)ねます。


「ええ、ワタシ前(まえ)にも一度(いちど)、こんな風(ふう)にチュマウンを捕(つか)まえてケースに入(い)れる仕事(しごと)をしたことがあるんだけど…そのときは今(いま)よりも少(すく)ない人数(にんずう)で全(すべ)て捕(つか)まえることができたのよ」


「え、それじゃおかしいじゃんか! 一体(いったい)どういうこと?」


「そうね、あくまでワタシの考(かんが)えなんだけど…このチュマウンたちは進化(しんか)してしまったのかもしれないわ」


「進化(しんか)⁉」


 大(おお)きな声(こえ)を出(だ)したショースケの目(め)の前(まえ)で、また二(ふた)つのチュマウンが四(よっ)つにポンッと増殖(ぞうしょく)しました。


「ニッカルコピ星(せい)は、チュマウンたちの故郷(こきょう)の惑星(わくせい)ヌマンアより大型(おおがた)の肉食(にくしょく)生物(せいぶつ)が多(おお)いの。気温(きおん)だってかなり低(ひく)いし…。そんな過酷(かこく)な環境(かんきょう)で繁栄(はんえい)するために、増殖(ぞうしょく)のスピードが上(あ)がってしまったんじゃないかしら」


 エイギスが話(はな)している間(あいだ)にも、どんどんどんどん部屋(へや)の中(なか)は増殖(ぞうしょく)したチュマウンで埋(う)まっていきます。


「アー ウマルー タスケテ タカヤー」


「ツバサ⁉ 大丈夫(だいじょうぶ)か!」


 体(からだ)の小(ちい)さなツバサを、タカヤはチュマウンの海(うみ)から引(ひ)っ張(ぱ)り出(だ)しました。


 チュマウンはもうタカヤとショースケの腰元(こしもと)まで埋(う)まるほどたっぷり増(ふ)えてしまい、しかもまだ増殖(ぞうしょく)を続(つづ)けています。


「まずい! このままじゃ俺(おれ)たち埋(う)まっちゃうぞ!」


 ヒカルがそう声(こえ)を上(あ)げたとほぼ同時(どうじ)に、どうやら危険(きけん)を感(かん)じた隊員(たいいん)の一人(ひとり)がこの強制(きょうせい)転送(てんそう)室(しつ)の扉(とびら)を開(ひら)いたようです。


 大量(たいりょう)のチュマウンがこの時(とき)を待(ま)っていたと言(い)わんばかりに、出口(でぐち)に向(む)かって一気(いっき)に流(なが)れ込(こ)んでいきます。


「どわわわ! 流(なが)される!」


「ショースケくん!」


 チュマウンの流(なが)れに足(あし)を取(と)られて転(ころ)びそうになったショースケを、ヒカルがなんとか抱(だ)き上(あ)げました。


「緊急(きんきゅう)事態(じたい) 転送(てんそう)されたチュマウンが本部(ほんぶ)内(ない)に大量(たいりょう)に放出(ほうしゅつ)されました。隊員(たいいん)たちはすぐさま捕獲(ほかく)に向(む)かってください」


 アナウンスが大(だい)音量(おんりょう)で本部(ほんぶ)内(ない)に何度(なんど)も繰(く)り返(かえ)されます。


 大勢(おおぜい)の隊員(たいいん)たちがバタバタと大慌(おおあわ)てで、この強制(きょうせい)転送(てんそう)室(しつ)からチュマウンが逃(に)げた廊下(ろうか)へと飛(と)び出(だ)していきました。


「ワタシたちはとりあえずこの部屋(へや)に残(のこ)っているチュマウンを捕獲(ほかく)しましょう!」


「わかったよエイギス!」


 ショースケを優(やさ)しく地面(じめん)に降(お)ろしてから、ヒカルはまた一(ひと)つ透明(とうめい)なケースの蓋(ふた)を閉(と)じました。



****



「うぁああ…疲(つか)れたぁ…」


 チュマウンが一体(いったい)ずつ入(い)れられた透明(とうめい)なケースが山積(やまづ)みになっている強制(きょうせい)転送(てんそう)室(しつ)で、ショースケは大(だい)の字(じ)になって寝転(ねころ)びました。


「もう腕(うで)がビキビキだよ…僕(ぼく)何回(なんかい)蓋(ふた)を閉(し)めたんだろう」


「お疲(つか)れ様(さま)、ショースケ」


 そう言(い)って隣(となり)に屈(かが)んだタカヤは、わかっていたことですがとてもピンピンしています。


「…ほんと、コスモピースの力(ちから)ってすごいよね。全然(ぜんぜん)疲(つか)れてないじゃんか」


 妬(ねた)ましそうな目(め)を向(む)けるショースケに、タカヤは眉(まゆ)を下(さ)げて笑(わら)って見(み)せました。


「フタリトモ オハナシ シテル バアイ ジャ ナイヨ。マダ オワッテ ナインダカラ」


 ツバサが近(ちか)づいてきて、頭(あたま)の触覚(しょっかく)で二人(ふたり)をペチペチ叩(たた)きます。


「ツバサの言(い)う通(とお)り、ここにいたチュマウンが全部(ぜんぶ)捕(つか)まえられたのは、ほとんどがこの部屋(へや)の外(そと)に出(で)て行(い)っちゃったからだもんなぁ」


 ため息(いき)をつきながら口(くち)を開(ひら)いたヒカルは、疲(つか)れ切(き)った腕(うで)をぐーっと伸(の)ばして扉(とびら)の方(ほう)をちらりと見(み)ます。


「俺(おれ)たちも早(はや)く追(お)いかけなきゃだけど…疲(つか)れたし休(やす)んでからじゃダメかな? エイギス」


「ダメよヒカル。ほら行(い)きましょう?」


 エイギスは紐(ひも)のような黒(くろ)い腕(うで)を、ヒカルの右腕(みぎうで)にぐるりと巻(ま)き付(つ)けてぐいぐい引(ひ)っ張(ぱ)りました。


「わかったわかったよ…うぅ、エイギス体力(たいりょく)底(そこ)なしだもんなぁ」


 ヒカルはしぶしぶ重(おも)い足(あし)を動(うご)かします。


「ショースケ、俺(おれ)たちも行(い)くぞ」


「えーもう行(い)くの⁉ 僕(ぼく)腕(うで)が限界(げんかい)だよ…」


 タカヤはツバサを片手(かたて)で抱(だ)っこすると、空(あ)いている方(ほう)の手(て)でショースケの手首(てくび)を掴(つか)んで扉(とびら)の外(そと)へと引(ひ)っ張(ぱ)って行(い)きました。



****



「うわぁ⁉ 何(なに)あれ!」


 真(ま)っ白(しろ)な廊下(ろうか)を少(すこ)し進(すす)んだ先(さき)に見(み)えた異様(いよう)な光景(こうけい)に、ショースケは驚(おどろ)いて声(こえ)を上(あ)げました。


 何(なん)十(じゅっ)体(たい)というチュマウンが、廊下(ろうか)のど真(ま)ん中(なか)で一カ所(いっかしょ)にぎゅっと集(あつ)まり、こんもりと高(たか)い山(やま)を作(つく)っています。


 そしてその山(やま)の内側(うちがわ)から…風(かぜ)の音(おと)と聞(き)き間違(まちが)えるほど小(ちい)さな声(こえ)が聞(き)こえました。


「誰(だれ)かが中(なか)にいるみたい、急(いそ)いで対処(たいしょ)しましょう!」


 エイギスが左足(ひだりあし)につけたポスエッグの中(なか)から透明(とうめい)なケースを大量(たいりょう)に取(と)り出(だ)します。


 そのケースを手(て)に取(と)って…みんなは先(さき)ほど嫌(いや)と言(い)うほど繰(く)り返(かえ)した、チュマウンを一体(いったい)ずつケースにしまって蓋(ふた)をする作業(さぎょう)を再(ふたた)び始(はじ)めました。


「うぅ、腕(うで)がもうヘトヘトなのに…」


 ショースケは文句(もんく)を垂(た)れながらチュマウンを一体(いったい)掴(つか)んで…びっくりして目(め)を見開(みひら)きました。


「あれ⁉ なんでこのチュマウンこんなに冷(つめ)たいの⁉ 氷(こおり)みたい!」


 先(さき)ほどまでのチュマウンはお風呂(ふろ)のお湯(ゆ)くらい温(あたた)かかったのに…まるで同(おな)じ生(い)き物(もの)では無(な)いみたいです。


「しかも…今度(こんど)はくっついて四(よっ)つに増(ふ)えたりしないね?」


 不思議(ふしぎ)に思(おも)いながら、ショースケが冷(ひ)えた手(て)でどんどんケースを閉(と)じていくと…


 チュマウンの山(やま)の中心(ちゅうしん)から、ぐったりとした黒(くろ)いET(いーてぃー)の宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)が出(で)てきました。


「大丈夫(だいじょうぶ)ですか! バルエン星人(せいじん)さん!」


 タカヤはすぐさま黒(くろ)いET(いーてぃー)を山(やま)の中(なか)から引(ひ)っ張(ぱ)り出(だ)します。


「バルエン星人(せいじん)さん…え、この人(ひと)が?」


 ショースケの知(し)っているバルエン星人(せいじん)は、赤(あか)くて火(ひ)が燃(も)えているような見(み)た目(め)をしているはずなのですが…この宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)はまるで炭(すみ)ように真(ま)っ黒(くろ)です。


「チュマウンたちに熱(ねつ)を吸(す)われてしまったのね」


 残(のこ)りのチュマウンをケースにしまいながらエイギスは続(つづ)けます。


「チュマウンは増殖(ぞうしょく)するときのエネルギーとして体(からだ)の熱(ねつ)を使(つか)うの。そして体温(たいおん)が低(ひく)くなって増殖(ぞうしょく)が出来(でき)なくなると、他(ほか)のところから熱(ねつ)を奪(うば)って体(からだ)を温(あたた)めようとするのよ。バルエン星人(せいじん)の体(からだ)は表面温度(ひょうめんおんど)がとても高(たか)いから狙(ねら)われてしまったみたいね」


「でも…どうやらたくさん集(あつ)まりすぎて、チュマウンたちが増殖(ぞうしょく)できるほど温(あたた)まることはできなかったみたいですね」


 タカヤがふぅっと息(いき)を吐(は)きながら、ここにいる最後(さいご)の一体(いったい)のチュマウンをケースに入(い)れて蓋(ふた)を閉(し)めました。 


「よし! これでここにいたチュマウンたちは全部(ぜんぶ)捕(つか)まえられたね。あとは…」


 ヒカルは廊下(ろうか)の端(はし)でぐったりと横(よこ)たわっているバルエン星人(せいじん)をよいしょとおんぶします。


「とりあえずこの人(ひと)を休(やす)めるところに連(つ)れて行(い)かないと。ええっと…確(たし)かこの部屋(へや)にはベッドがあったはず!」


 ヒカルが手(て)をかざして扉(とびら)を開(ひら)くと…



「わー! 開(あ)けるなー‼」


 部屋(へや)の中(なか)から大(おお)きな叫(さけ)び声(ごえ)と共(とも)に、これまたドバドバと大量(たいりょう)のチュマウンたちが飛(と)び出(だ)してきました!


 チュマウンたちはヒカルたちの横(よこ)をどんどんすり抜(ぬ)けて、廊下(ろうか)の先(さき)へと逃(に)げていきます。


「なんで開(あ)けるんだよヒカル! もう少(すこ)しだったのに!」


 透明(とうめい)なスライムのような宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)が、ふよふよと浮(う)かびながらヒカルに怒(いか)りをぶつけます。


「ご、ごめん…この人(ひと)を寝(ね)かせてあげたくて。ここで何(なに)してたの?」


 部屋(へや)の中(なか)にあるベッドにバルエン星人(せいじん)を寝(ね)かせて、ヒカルは申(もう)し訳(わけ)なさそうに尋(たず)ねました。


「チュマウンたちは今(いま)、体(からだ)の熱(ねつ)が足(た)りなくて増殖(ぞうしょく)できないだろ? だから温度(おんど)が高(たか)いところへ寄(よ)って来(く)るんだ。そこで!」


 透明(とうめい)な宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)は丸(まる)くて赤(あか)い玉(たま)を取(と)り出(だ)して見(み)せます。


「このやけどするほどアツアツのファヤイ玉(たま)を使(つか)って、チュマウンたちをおびき寄(よ)せて、部屋(へや)の扉(とびら)を閉(し)めて一気(いっき)に捕(つか)まえる!…って作戦(さくせん)だったんだよ! たった今(いま)失敗(しっぱい)したけど!」


 やわらかそうな体(からだ)をプクーッと膨(ふく)らませたまま、宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)はしょんぼりと波打(なみう)ちました。


 傍(そば)にいたエイギスが長(なが)い体(からだ)を腰(こし)から折(お)り曲(ま)げて頭(あたま)を下(さ)げます。


「本当(ほんとう)にごめんなさい…でもすごく良(い)い作戦(さくせん)ね。ねぇヒカル、ワタシたちもやってみない?」


「やるのはいいけど…そのためにはチュマウンを引(ひ)き寄(よ)せられるくらいの熱(ねつ)が必要(ひつよう)だ。うーん、何(なに)かいいものあったけ」


 ヒカルがポスエッグの中(なか)を探(さぐ)ろうとすると、エイギスは長(なが)いまつげを揺(ゆ)らしながら首(くび)を振(ふ)りました。


「道具(どうぐ)を使(つか)うよりもっと高温(こうおん)を出(だ)せるものがあるわ。…ワタシがその熱(ねつ)の発生源(はっせいげん)になるの」


「え。まさかエイギス、あの機能(きのう)を…⁉」


 ヒカルは目(め)を丸(まる)くします。


「んー…エイギスさん、そんなに熱(あつ)そうには見(み)えないけど?」


 ショースケは上(うえ)から下(した)まで、まじまじとエイギスを見(み)つめました。


 先(さき)ほどのバルエン星人(せいじん)のように体(からだ)が燃(も)えているわけでもありませんし、どちらかと言(い)えば見(み)た目(め)は冷(つめ)たそうです。


「ふふ。ワタシ、ちょっと珍(めずら)しい生物(せいぶつ)なのよ。そしてそこの貴方(あなた)…ツバサだったわよね」


 エイギスは首(くび)をぐっと曲(ま)げて、タカヤに抱(かか)えられているツバサに目線(めせん)を合(あ)わせました。


「ネェネェ モシカシテ エイギス、ボク ト オソロイ?」


「そうよ。だからツバサ、貴方(あなた)にも協力(きょうりょく)して欲(ほ)しいの」


「ワーオ。ソウイウ コトナラ ガッテン ショウチ!」


 ツバサは嬉(うれ)しそうに触覚(しょっかく)をゆらゆら揺(ゆ)らします。


「決(き)まりね。じゃあ早速(さっそく)、チュマウンたちがたくさん集(あつ)められそうなところへ行(い)きましょう?」


 エイギスは真(ま)っ白(しろ)な廊下(ろうか)を早足(はやあし)に進(すす)み始(はじ)めました。



****



 一(いっ)階(かい)の広(ひろ)いエントランスはいつもなら本部(ほんぶ)職員(しょくいん)たちで溢(あふ)れているのですが、今日(きょう)はみんなチュマウンの捕獲(ほかく)に向(む)かっているのかとても静(しず)かです。


「ここならたくさん集(あつ)められそうね。それじゃあ始(はじ)めましょうか、危(あぶ)ないから離(はな)れていてね」


 エイギスはしなやかな両腕(りょううで)を、胸元(むなもと)についた大(おお)きなひし形(がた)の宝石(ほうせき)にかざしました。


 すると宝石(ほうせき)は鮮(あざ)やかな水色(みずいろ)に輝(かがや)き始(はじ)め、明(あか)るいはずの本部(ほんぶ)内(ない)が薄暗(うすぐら)く感(かん)じるほど、眩(まぶ)しい光(ひかり)を放(はな)ちます。


「わぁ…綺麗(きれい)…ってうわぁ⁉ 熱(あつ)い!」


 ショースケはエイギスから急(いそ)いでもう三(さん)歩(ぽ)ほど距離(きょり)を取(と)りました。


「ワタシの体(からだ)は、この胸(むね)に付(つ)いたエネルギーの塊(かたまり)のおかげで動(うご)いているの。これは肖(しょう)造(ぞう)が発明(はつめい)した最新式(さいしんしき)で、激(はげ)しく発熱(はつねつ)できる機能(きのう)がついているのよ。そして…」


 エイギスはツバサと目(め)を合(あわ)せながら、にっこりと笑(わら)います。


「ツバサ、貴方(あなた)にも同(おな)じものが使(つか)われているのよね」


「ソウトモ!」


 ツバサはタカヤの腕(うで)の中(なか)から飛(と)び出(だ)すと、エイギスと同(おな)じように体(からだ)を水色(みずいろ)に光(ひか)らせながら体温(たいおん)を上(あ)げていきます。


「うーん…肖(しょう)造(ぞう)さんからエイギスのエネルギーの塊(かたまり)に発熱(はつねつ)機能(きのう)を付(つ)けた、って聞(き)いたときは一体(いったい)どこで使(つか)うんだと思(おも)ったけど…まさか役(やく)に立(た)つ日(ひ)が来(く)るとはなぁ」


 少(すこ)し離(はな)れたところから、ヒカルは熱(ねつ)を増(ま)していく二人(ふたり)を心配(しんぱい)そうに見(み)つめました。


 その隣(となり)で、ショースケは眩(まぶ)しそうに手(て)で目元(めもと)を覆(おお)いながら尋(たず)ねます。


「それにしても、動(うご)くためにエネルギーの塊(かたまり)が必要(ひつよう)なんて、エイギスさんって不思議(ふしぎ)な生物(せいぶつ)だよね…僕(ぼく)が見(み)たどの図鑑(ずかん)にも載(の)って無(な)いし。一体(いったい)どこの星(ほし)から来(き)たの?」


「…ワタシは見(み)つけてもらった時(とき)、自分(じぶん)の名前(なまえ)しか覚(おぼ)えていなくて。だからワタシ自身(じしん)、何者(なにもの)なのかよくわからないの」


 少(すこ)し悲(かな)しそうに、エイギスは目(め)を伏(ふ)せて笑(わら)いました。


 エイギスの水晶(すいしょう)を散(ち)りばめたような模様(もよう)の角(つの)が水色(みずいろ)の光(ひかり)を反射(はんしゃ)してキラキラ光(ひか)って、リボンのような髪(かみ)がふわりと舞(ま)って。


 その姿(すがた)はやっぱりとても、この世(よ)のものとは思(おも)ないほど美(うつく)しいのでした。


「…記憶(きおく)が無(な)くたって、エイギスはエイギスだよ。俺(おれ)の大事(だいじ)な…その、コンビ! だよ」


「ふふ、ありがとうヒカル。さぁ、足音(あしおと)が近(ちか)づいて来(き)たわ。みんな、捕獲(ほかく)をよろしくね」


 エイギスとツバサがさらに体(からだ)の温度(おんど)を上昇(じょうしょう)させると…


 前(まえ)から後(うし)ろから横(よこ)から斜(なな)めから、そして上(うえ)からも次々(つぎつぎ)と本部(ほんぶ)中(じゅう)のチュマウンたちが押(お)し寄(よ)せて来(く)るではありませんか!


 そしてそれを追(お)いかけてきた大勢(おおぜい)の宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)たちもこのエントランスに集結(しゅうけつ)して、全員(ぜんいん)で大量(たいりょう)のチュマウンを次々(つぎつぎ)と捕(つか)まえてケースに入(い)れていきます。


「すごい、さっきよりずっと人数(にんずう)が増(ふ)えてる…これなら全部(ぜんぶ)捕(つか)まえられるかも!」


 ショースケは喜(よろこ)びましたが…残念(ざんねん)ながらそう甘(あま)くはありません。


 どこかで熱(ねつ)を奪(うば)ったチュマウンがまた増殖(ぞうしょく)を繰(く)り返(かえ)したのでしょう。取(と)っても取(と)っても取(と)り切(き)れないほどの恐(おそ)ろしい量(りょう)が押(お)し寄(よ)せて、まるで終(お)わりが見(み)えません。


 そして掴(つか)み損(そこ)ねたチュマウンたちが、高温(こうおん)を発(はっ)しているエイギスとツバサの体(からだ)にまとわりついてその熱(ねつ)を奪(うば)おうとします。


「オワー スワレルー」


「ツバサ、エイギスさん! 一度(いちど)温度(おんど)を下(さ)げよう、このままじゃまた熱(ねつ)を吸(す)われて増殖(ぞうしょく)する!」


「ワカッタ タカヤー!」


 ツバサはすぐに体(からだ)の温度(おんど)を下(さ)げて、タカヤの胸(むね)に飛(と)び込(こ)みました。


 しかし…


「うぅっ…!」


 エイギスが突然(とつぜん)、苦(くる)しそうに声(こえ)を上(あ)げました。


「エイギス⁉ 一度(いちど)温度(おんど)を下(さ)げるんだ! エイギス!」


 ヒカルが何度(なんど)も叫(さけ)びますが、エイギスにその声(こえ)は届(とど)きません。


 エイギスは頭(あたま)を抱(かか)えて、うめき声(ごえ)をあげながら体温(たいおん)をさらに激(はげ)しく上昇(じょうしょう)させていきます。


 エイギスの胸(むね)の宝石(ほうせき)から放(はな)たれる水色(みずいろ)の光(ひかり)は目(め)も開(あ)けていられないほど眩(まぶ)しく強(つよ)まり、熱(ねつ)を奪(うば)おうと近(ちか)づいてきたチュマウンたちが慌(あわ)てて離(はな)れていくほどの高温(こうおん)になっていきます。


「エイギス!」


「兄(にい)ちゃん近(ちか)づいたらダメだ! 危(あぶ)ないから下(さ)がって!」


 タカヤはヒカルの腕(うで)を必死(ひっし)に掴(つか)みます。


「ど、どういうこと? 何(なに)が起(お)こってるの…うう、熱(あつ)い…!」


「エネルギーが暴走(ぼうそう)してるんだ! ショースケも急(いそ)いでここを離(はな)れるぞ!」


 もうエイギスにはとても近(ちか)づけないほど、エントランスには熱風(ねっぷう)が吹(ふ)き荒(あ)れています。


 タカヤは急(いそ)いでみんなを連(つ)れて出口(でぐち)へ向(む)かいましたが…増殖(ぞうしょく)したチュマウンたちが本部(ほんぶ)の外(そと)へ逃(に)げるのを防(ふせ)ぐため、出口(でぐち)は封鎖(ふうさ)されていました。


 大量(たいりょう)に押(お)し寄(よ)せて来(き)た他(ほか)の宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)たちも、開(ひら)かない出口(でぐち)の前(まえ)で熱風(ねっぷう)に襲(おそ)われながら苦(くる)しそうに助(たす)けを求(もと)めます。


「コノママジャ ミンナ ヤラレチャウヨ」


「…大丈夫(だいじょうぶ)、俺(おれ)が守(まも)るよ」


 迷(まよ)っている暇(ひま)はありません。


 カタカタ震(ふる)えるツバサを抱(だ)きしめて、タカヤはコスモピースの力(ちから)を解放(かいほう)するため、瞳(ひとみ)を輝(かがや)かせようとしました。



****



 眩(まぶ)しい水色(みずいろ)の光(ひかり)の中(なか)で、エイギスは夢(ゆめ)を見(み)ていました。 


 ひどく痛(いた)む頭(あたま)の中(なか)に、霞(かすみ)がかったような景色(けしき)がが浮(う)かびます。


(ワタシは…以前(いぜん)にもこれくらい…ううん、これとは比(くら)べものにならないくらい強(つよ)いエネルギーを発(はっ)したことがある…ような…)


(ワタシの名前(なまえ)を呼(よ)んでる…貴方(あなた)たちは、誰(だれ)? ワタシに似(に)た見(み)た目(め)…)


(貴方(あなた)は…あぁ、そうだ。ワタシに名前(なまえ)をくれた貴方(あなた)の名前(なまえ)は…)


「アィーシャ…」



****



「何(なに)をしとるんじゃエイギス」


 エレベーターを降(お)りてきた肖(しょう)造(ぞう)は、ズカズカと高温(こうおん)の熱(ねつ)を発(はっ)するエイギスに近(ちか)づいていきます。


「え、じーちゃん⁉ 近(ちか)づいたら危(あぶ)ないよ!」


「平気(へいき)じゃよショースケ。ワシこれでも特級(とっきゅう)なんじゃから」


 肖(しょう)造(ぞう)は大(おお)きなあくびをしながら、ズボンのポケットからグレーのポスエッグを取(と)り出(だ)して握(にぎ)りました。


 そしてそのポスエッグは、肖(しょう)造(ぞう)の身長(しんちょう)よりも長(なが)い杖(つえ)へと姿(すがた)を変(か)えます。


 そしてエイギスの隣(となり)まで近(ちか)づくと…


「ほれ、ちょっと寝(ね)ておれ」


 そう言(い)って杖(つえ)の頭(あたま)を、エイギスの胸(むね)の宝石(ほうせき)にポンッと当(あ)てました。


 その途端(とたん)…エイギスから出(で)ていた光(ひかり)と熱(ねつ)はまるで電池(でんち)が切(き)れたようにピタリと収(おさ)まり、エイギスはその場(ば)にふわりと倒(たお)れ込(こ)みました。


「エイギス!」


 ヒカルが急(いそ)いで駆(か)け寄(よ)って、エイギスの長(なが)い首(くび)を抱(だ)き上(あ)げます。


「心配(しんぱい)はいらん、ちょっとエネルギー源(げん)を取(と)り除(のぞ)いただけじゃ。後(あと)で返(かえ)しちゃる…さて」


 肖(しょう)造(ぞう)は長(なが)い杖(つえ)の先(さき)に付(つ)いたポスエッグから、それはそれは大(おお)きな掃除機(そうじき)のような機械(きかい)を取(と)り出(だ)しました。


「あとは、あいつらじゃな。一気(いっき)に行(い)くぞい!」


 機械(きかい)のスイッチをポチッと入(い)れると、周囲(しゅうい)に溢(あふ)れかえっていたチュマウンたちが一気(いっき)に浮(う)かび上(あ)がり、次々(つぎつぎ)と機械(きかい)の吸引(きゅういん)口(ぐち)に吸(す)い込(こ)まれていくではありませんか!


 そして機械(きかい)の後(うし)ろから、吸(す)い込(こ)まれたチュマウンが一(ひと)つ一(ひと)つケースに入(い)れられた状態(じょうたい)でぽんぽん飛(と)び出(だ)してきます。


「よし、これで大丈夫(だいじょうぶ)じゃろ」


 肖(しょう)造(ぞう)は今度(こんど)は小(ちい)さなあくびをして体(からだ)を伸(の)ばしました。


「いやいやいや! じーちゃん!」


 そのまま研究室(けんきゅうしつ)へ帰(かえ)ろうとする肖(しょう)造(ぞう)を、ショースケは後(うし)ろからガッシリ捕(つか)まえます。


「こんな便利(べんり)な機械(きかい)持(も)ってるならもっと早(はや)く貸(か)してよ! 僕(ぼく)らチュマウンをちまちま一(ひと)つずつ捕(つか)まえててめちゃんこ大変(たいへん)だったんだから!」


「別(べつ)に持(も)っておったわけじゃないぞ? さっきチュマウンが増(ふ)えて大変(たいへん)ーっていうアナウンスがあったじゃろ。じゃから作(つく)ったんじゃ。寝(ね)ぼけとったから三(さん)十分(じゅっぷん)くらいかかったがの」


「ワーオ サスガ ボクノ ハカセ。テンサーイ」


 タカヤの腕(うで)の中(なか)で、ツバサは嬉(うれ)しそうに触覚(しょっかく)を揺(ゆ)らしました。


「さ、三(さん)十分(じゅっぷん)…⁉ 三(さん)十分(じゅっぷん)でこれ作(つく)ったの…⁉」


 ショースケは機械(きかい)と肖(しょう)造(ぞう)の顔(かお)を交互(こうご)に何度(なんど)も見(み)ます。


「おっとそうじゃ。エイギスにエネルギーを返(かえ)してやらんとな」


 肖(しょう)造(ぞう)はもう一度(いちど)、杖(つえ)の頭(あたま)でエイギスの胸(むね)の宝石(ほうせき)をポンッとつつきました。


 エイギスが長(なが)いまつげを揺(ゆ)らして目(め)を覚(さ)まします。


「エイギス‼」


「…ヒカル…? ふふ、今度(こんど)はどうして泣(な)いてるの?」


「だってエイギスが暴走(ぼうそう)しちゃって…! 呼(よ)びかけても全然(ぜんぜん)治(おさ)まらなくて…お、俺(おれ)…何(なに)も出来(でき)なくて…!」


 ぼろぼろ止(と)まらないヒカルの涙(なみだ)を、エイギスは細(ほそ)い腕(うで)で拭(ぬぐ)ってあげました。


「ごめんなさい、迷惑(めいわく)をかけて…。そうよワタシ…何(なに)かを思(おも)い出(だ)しそうになって…、それで頭(あたま)が痛(いた)くなって…エネルギーが制御(せいぎょ)できなくなったの」


 それを聞(き)いた肖(しょう)造(ぞう)は、急(きゅう)に真剣(しんけん)な目(め)つきに変(か)わります。


「何(なに)か思(おも)い出(だ)したんか、エイギス」


「そうなんだけど…ごめんなさい、また忘(わす)れてしまったみたい」


「そうか…それがええわい」


 肖(しょう)造(ぞう)は長(なが)い杖(つえ)を今度(こんど)は小(ちい)さなポスエッグへと変(か)えると、ズボンのポケットの奥(おく)にしまいました。


「ほんじゃ、ワシは研究室(けんきゅうしつ)に戻(もど)って昼寝(ひるね)のやり直(なお)しするから後(あと)よろぴくー」


 頭(あたま)を片手(かたて)で乱暴(らんぼう)にガシガシ掻(か)きながら、肖(しょう)造(ぞう)はエレベーターの方(ほう)へと消(き)えていきました。




「エイギス、もう立(た)って大丈夫(だいじょうぶ)なの?」


「ええ、どこも痛(いた)くないわ。心配(しんぱい)しないでヒカル」


「そっか…それならよかった」


 ヒカルが安心(あんしん)してへにょりと笑(わら)ったのを、タカヤは隣(となり)でそっくりな笑顔(えがお)を浮(う)かべて嬉(うれ)しそうに見(み)つめました。


「肖(しょう)造(ぞう)さんの機械(きかい)のおかげでチュマウンも全(すべ)て捕(つか)まえられたみたいだし、無事(ぶじ)に済(す)んで良(よ)かったなショースケ。…ショースケ?」


「ううん…じーちゃんとお仕事(しごと)するにはあれが三(さん)十分(じゅっぷん)で作(つく)れなきゃいけないのか…。僕(ぼく)いつまでもじーちゃんに追(お)いつけないような気(き)がしてきたよ…」


 ショースケはうずくまり、地面(じめん)にのの字(じ)を書(か)いて凹(へこ)んでいます。


「だ、大丈夫(だいじょうぶ)だってショースケ!」


 タカヤが一生懸命(いっしょうけんめい)励(はげ)ましますが、今(いま)のショースケにはいまいち届(とど)きません。


「ショースケ メンタル ヒンジャク」


「ツバサ! そういうこと言(い)わない!」


「オット。クチガ スベッタ」


 ツバサはわざとらしく、触覚(しょっかく)で自分(じぶん)の口(くち)を塞(ふさ)ぎました。


「むぅ…しかももうこんな時間(じかん)なんだ。またバタバタしてたら帰(かえ)る時間(じかん)になっちゃったよ」


 ショースケは立(た)ち上(あ)がって、タブレットを確認(かくにん)しながらため息(いき)を吐(つ)きます。


「え⁉ 二人(ふたり)とももう帰(かえ)るの⁉」


 ヒカルがガッカリとうなだれたのを見(み)たエイギスは、タカヤとショースケに顔(かお)を近(ちか)づけてこっそりと耳打(みみう)ちしました。


「ねぇみんな? まだ時間(じかん)はあるかしら」


「ええっと…帰(かえ)りを少(すこ)し遅(おく)らせればなんとか」


 タカヤが小声(こごえ)で返(かえ)します。


「今(いま)からでもよかったら、ワタシたちの仕事(しごと)場(ば)を見学(けんがく)してもらいたいんだけれど。ほら、ヒカルがね? すごく一生懸命(いっしょうけんめい)二人(ふたり)のために準備(じゅんび)していたからどうしてもやらせてあげたくて」


 エイギスは小(ちい)さな両手(りょうて)を胸(むね)の前(まえ)で合(あ)わせました。


「ワタシのお願(ねが)い、聞(き)いてもらえないかしら」


「ショースケどうする?」


「そりゃー僕(ぼく)は見学(けんがく)させてもらいたいよ。地球(ちきゅう)に遅(おそ)く到着(とうちゃく)する問題(もんだい)は…まだ宿題(しゅくだい)が終(お)わってないことくらいだよ」


「え⁉ 本部(ほんぶ)に来(く)る前(まえ)にやっておく約束(やくそく)だっただろ!」


「世(よ)の中(なか)、そう思(おも)ったようにはいかないものだよタカヤ。お昼寝(ひるね)したくなっちゃったんだから仕方(しかた)ないじゃん」


 いつも通(どお)りの言(い)い合(あ)いをしている二人(ふたり)の横(よこ)をすり抜(ぬ)けて、ツバサが触覚(しょっかく)でうつむくヒカルの膝(ひざ)をツンツンつつきます。


「アー ボクタチ スッゴク ヒカル ノ シゴト ケンガク シタイナー」


「え! 本当(ほんとう)⁉」


 ヒカルは顔(かお)を上(あ)げて、瞳(ひとみ)をぱぁっと輝(かがや)かせました。


「じゃ、じゃあ! やっぱりまずは貴重(きちょう)な資源(しげん)がたくさん置(お)いてあるあの部屋(へや)から…!」


「ヒカル、あんまり走(はし)ったらまた転(ころ)ぶわよ?」


「大丈夫(だいじょうぶ)だよエイギス! 今度(こんど)は気(き)を付(つ)けるから!」


 ぱたぱたと嬉(うれ)しそうに駆(か)けだして行(い)ったヒカルの背中(せなか)を、みんなは微笑(ほほえ)ましそうに後(うし)ろから追(お)いかけるのでした。


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