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第十一話 惑星ミッシェル冒険記②

****


「なんか…様子(ようす)が変(へん)だ」


 イアル山(やま)のふもとで、タカヤは足(あし)を止(と)めました。


 この辺(あた)りはオンガイルゴンの住処(すみか)が多(おお)く集(あつ)まっている場所(ばしょ)であり、本来(ほんらい)であればたくさんのオンガイルゴンたちがウヨウヨしているはずです。


 しかし周囲(しゅうい)は静(しず)まりかえり、強(つよ)い風(かぜ)が砂(すな)を撫(な)でる音(おと)が聞(き)こえるだけです。


 一番(いちばん)近(ちか)くにあったオンガイルゴンの住処(すみか)…今(いま)は何(なん)の気配(けはい)も無(な)い洞窟(どうくつ)に入(はい)ってみて、タカヤは目(め)を見張(みは)りました。


 中(なか)には人工(じんこう)的(てき)な無数(むすう)の穴(あな)が掘(ほ)られていて、どうやら何者(なにもの)かに荒(あ)らされた様子(ようす)です。


(どういうことだろう、他(ほか)の住処(すみか)も確認(かくにん)しないと)


 タカヤは飛(と)び回(まわ)って住処(すみか)だったものをいくつも確認(かくにん)しますが、どれも同(おな)じようにひどく荒(あ)らされ穴(あな)だらけになっていました。


 調(しら)べていくうちに、タカヤはあることに気(き)がつきます。


(…この穴(あな)、もしかしてアズール石(せき)が掘(ほ)り返(かえ)されてる? 食(た)べるものが無(な)くなったから、オンガイルゴンたちは荒(あ)れていつもと違(ちが)う場所(ばしょ)に他(ほか)の食(た)べ物(もの)を探(さが)しに行(い)ってるのかもしれない。ええと、オンガイルゴンが次(つぎ)に目指(めざ)す可能性(かのうせい)が高(たか)い食(た)べ物(もの)は…)


 全身(ぜんしん)に悪寒(おかん)が走(はし)ると同時(どうじ)に、タカヤはコスモピースの力(ちから)をより強(つよ)めて体(からだ)中(じゅう)を眩(まぶ)しく輝(かがや)かせながら飛(と)び出(だ)しました。


(ショースケたちが危(あぶ)ない!)



****



「よし、これだけ採(と)ったら十分(じゅうぶん)かな!」


 エメラルド色(いろ)に光(ひか)るコール石(せき)を、両手(りょうて)で持(も)ちきれないほどエッグロケットの中(なか)にしまってショースケはご満悦(まんえつ)です。


「そうね、そろそろ戻(もど)りましょう…か…」


 スイは遠(とお)くにいる何(なに)かに気(き)がついて、ピタリと動(うご)きを止(と)めました。


「どうしたのスイさん、何(なに)かあった…」


 ショースケも同(おな)じ方向(ほうこう)を見(み)て口(くち)を開(あ)けたまま固(かた)まります。


 …何(なに)やら大(おお)きな生物(せいぶつ)が、コール石(せき)をまるでビスケットのように軽(かる)くバリバリと食(た)べています。


 濃(こ)いピンク色(いろ)でブツブツといぼのある皮膚(ひふ)、ショースケの腕(うで)より長(なが)そうな黒(くろ)くて鋭(するど)い爪(つめ)、どんな物(もの)でもすり潰(つぶ)してしまえそうな大(おお)きな顎(あご)…そしてこちらに気(き)がついてギロリと睨(にら)んだ細(ほそ)いその瞳(ひとみ)。


 図鑑(ずかん)で見(み)た姿(すがた)に間違(まちが)いありません、オンガイルゴンです!


「逃(に)げるわよ!」


 スイはショースケの腕(うで)を掴(つか)みスカイボードの元(もと)へ走(はし)ると、恐怖(きょうふ)で固(かた)まっているショースケを後(うし)ろに乗(の)せます。


「運転(うんてん)方法(ほうほう)は…私(わたし)たちのと同(おな)じね!」


 右(みぎ)のハンドルをギュルリとひねって、スカイボードは限界(げんかい)速度(そくど)で地面(じめん)を滑(すべ)り始(はじ)めました。


「どどど、どういうこと!? オンガイルゴンはここにはいないんじゃなかったの⁉」


 ショースケがちらりと後(うし)ろを振(ふ)り返(かえ)ると、大(おお)きな体(からだ)のオンガイルゴンがこれまた大(おお)きな口(くち)を開(ひら)いて、恐(おそ)ろしい速(はや)さで二人(ふたり)を追(お)いかけて来(き)ているのが見(み)えます。


「私(わたし)だってわかんないわよ! このままじゃ追(お)いつかれるわ…ショースケ、何(なん)とか足(あし)止(ど)めできないかしら!」


「ええっと!」


 振(ふ)り落(お)とされないように左手(ひだりて)でスイの腰元(こしもと)をぎゅっと握(にぎ)ったまま、ショースケは片手(かたて)でエッグロケットの中(なか)を探(さぐ)ります。


「よーし、これだ!」


 かなり近(ちか)くまで迫(せま)っているオンガイルゴンの真(ま)っ青(さお)な口(くち)の中(なか)に、ショースケは茶色(ちゃいろ)くて丸(まる)い玉(たま)を投(な)げ入(い)れました。


 オンガイルゴンはそれを大(おお)きな顎(あご)でぐちゃりと噛(か)み潰(つぶ)し飲(の)み込(こ)みます。


「やった! それはクシュウニだよ、これであまりの臭(にお)いに動(うご)けなくなるはず…なのになんでぇぇぇ!」


 一切(いっさい)スピードを緩(ゆる)めること無(な)く、オンガイルゴンはさらに近(ちか)くに迫(せま)ってきました。


「あんたクシュウニ使(つか)ったの⁉ オンガイルゴンは嗅覚(きゅうかく)がかなり鈍感(どんかん)なんだから効(き)かないわよ!」


 オンガイルゴンが再(ふたた)び口(くち)を大(おお)きく開(ひら)くと、強烈(きょうれつ)なクシュウニの残(のこ)り香(が)がショースケとスイを襲(おそ)います。


「うぇ…あんたなんてことしてくれんのよ…」


 スイの運転(うんてん)するスカイボードが少(すこ)しふらつきます。


「ご、ごめん…ってうわ追(お)いつかれる! ええいなんとかなれ!」


 ショースケはエッグロケットのダイヤルを片手(かたて)で合(あ)わせて、後(うし)ろを振(ふ)り向(む)いて構(かま)えます。


「くらえ! 捕獲(ほかく)ネット!」


 人差(ひとさ)し指(ゆび)でスイッチを握(にぎ)ると、大(おお)きな網(あみ)がエッグロケットの先(さき)から飛(と)び出(だ)してオンガイルゴンの体(からだ)を覆(おお)いました。


「やった、当(あ)たった! どうだ、そのネットの材料(ざいりょう)の糸(いと)はオンガイルゴンでも千切(ちぎ)れないってキャッチコピーで売(う)られてたんだから!」


「そんなのあるなら最初(さいしょ)から使(つか)いなさいよ!」


「だ、だって思(おも)いつかなかったんだもん!」


 オンガイルゴンは網(あみ)が足(あし)に絡(から)まってモタモタと暴(あば)れており、二人(ふたり)が乗(の)ったスカイボードからどんどん引(ひ)き離(はな)されていきます。


「やった! これでもう大丈夫(だいじょうぶ)でしょ」


 ショースケが安心(あんしん)したのもつかの間(ま)。


「ォオオオオオオォオオオオオン!!!!」


 オンガイルゴンがもがきながら、空(そら)をつんざくような声(こえ)を上(あ)げました。


「まずい! 仲間(なかま)を呼(よ)んでるわ!」


「えええ⁉ もう捕獲(ほかく)ネット無(な)いよ!」


 地面(じめん)が揺(ゆ)れて、四方(しほう)八方(はっぽう)から足音(あしおと)が近(ちか)づいて来(き)ます。


「前(まえ)からも来(く)る! 隠(かく)れるわよ!」


 スイはスカイボードを岩陰(いわかげ)に止(と)めて、右手(みぎて)人差(ひとさ)し指(ゆび)につけたポスエッグから真(ま)っ白(しろ)な布(ぬの)を引(ひ)っ張(ぱ)り出(だ)しました。


「ショースケ、スカイボードしまって、早(はや)く!」


 慌(あわ)ててエッグロケットの中(なか)にスカイボードをしまったショースケの体(からだ)をぐいっと引(ひ)き寄(よ)せて、スイは自分(じぶん)たちの上(うえ)から白(しろ)い布(ぬの)をかけました。


「これって、透明(とうめい)マント…? かぶったら相手(あいて)から見(み)えなくなる…」


 ショースケが小(ちい)さな声(こえ)で尋(たず)ねると、スイはショースケの口(くち)を右手(みぎて)で塞(ふさ)ぎます。


「静(しず)かに。オンガイルゴンは耳(みみ)がいいんだから」


 足音(あしおと)がドカドカと近(ちか)づいてきます。


 一体(いったい)何匹(なんびき)集(あつ)まっているのでしょうか…十(じゅっ)、いや二十(にじゅう)…とにかくたくさんいることは音(おと)だけでわかります。


 もし見(み)つかれば勝(か)ち目(め)は無(な)いでしょう。


 ポケットに手(て)を滑(すべ)らせる布(ぬの)の音(おと)すら聞(き)こえてしまいそうで、ショースケはエッグロケットを握(にぎ)ってタカヤにテレパシーを送(おく)ることすらできません。


 スイはカタカタ震(ふる)えるショースケの体(からだ)をぎゅっと抱(だ)きしめました。




 …そのまま五(ご)分(ふん)ほど、二人(ふたり)はマントの中(なか)で身(み)を寄(よ)せ合(あ)っていました。


 オンガイルゴンたちはなかなかにしぶとく、透明(とうめい)になっている二人(ふたり)のすぐそばをまた大(おお)きな足音(あしおと)がドカドカと通(とお)り過(す)ぎていきました。


(一体(いったい)いつまでこうしてればいいんだろう…)


(もうちょっとだから。我慢(がまん)しなさい)


 ショースケとスイはお互(たが)い目(め)だけで言(い)いたいことはなんとなくわかります。


 すると、少(すこ)し離(はな)れた場所(ばしょ)にいるであろうオンガイルゴンが大(おお)きな鳴(な)き声(ごえ)を出(だ)しました。


 足音(あしおと)が少(すこ)しずつ、二人(ふたり)から離(はな)れていきます。


(しめた、あいつら諦(あきら)めたわね)


 もう少(すこ)し我慢(がまん)すれば、安全(あんぜん)にここから逃(に)げられるでしょう。


 二人(ふたり)が少(すこ)しだけホッとした、その時(とき)。



 スイのポスエッグが、ポーポーと聞(き)いたことの無(な)い音(おと)を立(た)てました。


 この音(おと)は…


「ティナ…?」


 緊急(きんきゅう)事態(じたい)、コンビが助(たす)けを求(もと)めているときの音(おと)です。


 その音(おと)を耳(みみ)にしたオンガイルゴンの集団(しゅうだん)は、一同(いちどう)に二人(ふたり)の隠(かく)れたマントのある位置(いち)を振(ふ)り返(かえ)りました。


 一匹(いっぴき)が空気(くうき)を震(ふる)わせて大(おお)きく吠(ほ)えます。


「見(み)つかった…! ごめんショースケ、ここは責任(せきにん)取(と)るから逃(に)げなさい!」


 スイがマントの中(なか)から飛(と)び出(だ)して右手(みぎて)人差(ひとさ)し指(ゆび)につけたポスエッグに触(ふ)れると、ポスエッグは水色(みずいろ)の弓(ゆみ)へと形(かたち)を変(か)えます。


「スイさんはどうするのさ!」


「私(わたし)はここで足(あし)止(ど)めする、あんたはティナのところへ行(い)って!」


「無理(むり)だよやられちゃうよ!」


 スイは指先(ゆびさき)から鎮静剤(ちんせいざい)の塗(ぬ)られた光(ひか)る矢(や)を何(なん)本(ぼん)も取(と)り出(だ)して、オンガイルゴンに向(む)けて放(はな)ちます。


 ですが相手(あいて)は超(ちょう)強力(きょうりょく)なモンスター、少量(しょうりょう)の鎮静剤(ちんせいざい)では大人(おとな)しくなってくれません。


「何(なに)ぐずぐずしてるの早(はや)く‼」


「やだ‼」


 ショースケはダイヤルを合(あ)わせたエッグロケットを、オンガイルゴンの大群(たいぐん)に向(む)けて構(かま)えます。


「スイさんだけ置(お)いていくなんて絶対(ぜったい)やだ! 僕(ぼく)は宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)だもん、もう…誰(だれ)かを置(お)いて逃(に)げたりしない!」


 エッグロケットの先(さき)に、エネルギーが光(ひかり)を帯(お)びて集(あつ)まっていきます。


 そしてその輝(かがや)きが最高潮(さいこうちょう)に達(たっ)した時(とき)。


「くらえっ!」


 スイッチを握(にぎ)ると大(おお)きなエネルギーの塊(かたまり)がすごいスピードで射出(しゃしゅつ)され、オンガイルゴンたちの前(まえ)で激(はげ)しく弾(はじ)けました。


 あまりの衝撃(しょうげき)に、反動(はんどう)でショースケは尻(しり)もちをつきます。


「大丈夫(だいじょうぶ)⁉ ショースケ」


「えへへへ…すごいでしょ。前(まえ)に他(ほか)の隊員(たいいん)さんが使(つか)ってるのを見(み)て僕(ぼく)も買(か)ってたんだよね、エネルギー弾(だん)…」


 スイの手(て)を借(か)りてショースケは立(た)ち上(あ)がり前(まえ)を見(み)ました。


「ただ…残念(ざんねん)だけどあんまり効(き)かなかったみたいだね…。今(いま)の僕(ぼく)が出来(でき)る、精一杯(せいいっぱい)だったんだけどなぁ…」


 ショースケの攻撃(こうげき)にオンガイルゴンたちはひるみ、五(ご)秒(びょう)ほど立(た)ち止(ど)まったあと…すぐにもう一度(いちど)その細(ほそ)い目(め)を開(ひら)いてさっきまでより一段(いちだん)と鋭(するど)く二人(ふたり)を睨(にら)みました。


 深(ふか)く息(いき)を吐(つ)いた後(あと)、ショースケは天(てん)を仰(あお)いで口(くち)を開(ひら)きます。


「…ねぇスイさん、僕(ぼく)かっこよかった?」


「そうね…もう『さん』付(づ)けしなくていいわよ」


 スイがショースケに優(やさ)しく笑(わら)いかけました。


 大(おお)きな爪(つめ)で弾(はじ)かれた地面(じめん)の小石(こいし)の音(おと)が聞(き)こえるほど、オンガイルゴンがもうすぐそこまで迫(せま)ったその時(とき)。



 空(そら)から何(なに)かが降(ふ)ってきて、二人(ふたり)の目(め)の前(まえ)にぽとりと落(お)ちました。


 途端(とたん)にオンガイルゴンたちはその場(ば)でごろりと横(よこ)になって、まるで猫(ねこ)のように体(からだ)をくねくねと擦(こす)り始(はじ)めます。


「え、え、どうしたんだろう…これのせいかな?」


 ショースケは恐(おそ)る恐(おそ)る目(め)の前(まえ)のものを拾(ひろ)い上(あ)げました。


 緑色(みどりいろ)のリボンが付(つ)いた白(しろ)い小(こ)袋(ぶくろ)は、どう考(かんが)えても自然(しぜん)に降(ふ)ってきたものでは無(な)いでしょう。


 二人(ふたり)は空(そら)を見上(みあ)げますが、怪(あや)しいものは何(なに)も見当(みあ)たりません。


「なんだかよくわからないけど…私(わたし)たち助(たす)かったみたいね…。は! そうよティナ!」


 一息(ひといき)つく間(ま)も無(な)く、スイは焦(あせ)りながらティナにテレパシーを送(おく)りますが返事(へんじ)はありません。


「そうだったティナさん! とにかくここから離(はな)れてタカヤと連絡(れんらく)を取(と)ってみなきゃ! 乗(の)ってスイ!」


 落(お)ちてきた小(こ)袋(ぶくろ)をポケットに突(つ)っ込(こ)んだショースケが急(いそ)いでスカイボードを取(と)り出(だ)すと、二人(ふたり)はそれに飛(と)び乗(の)って限界(げんかい)速度(そくど)でティナの元(もと)へ向(む)かうのでした。



****



「ギリギリ間(ま)に合(あ)って良(よ)かった…!」


 ショースケとスイが走(はし)り去(さ)った後(あと)の地面(じめん)に降(お)り立(た)って、タカヤはかぶっていた透明(とうめい)マントを脱(ぬ)ぎます。


 すると周囲(しゅうい)にいたオンガイルゴンたちは小(こ)袋(ぶくろ)の効果(こうか)が切(き)れたのか、目(め)が覚(さ)めたように立(た)ち上(あ)がりタカヤの方(ほう)をギロリと睨(にら)みました。


「…こんにちは、オンガイルゴンさんたち。少(すこ)し大人(おとな)しくしててもらえませんか」


 先(さき)ほど二人(ふたり)を仕留(しと)められなかった苛立(いらだ)ちも募(つの)っているのでしょう、言葉(ことば)が通(つう)じるわけも無(な)くオンガイルゴンの大群(たいぐん)は大(おお)きな鳴(な)き声(ごえ)を上(あ)げて地面(じめん)を震(ふる)わせます。


「…もう一回(いっかい)言(い)いますね」


 タカヤが目(め)を大(おお)きく見開(みひら)くと、周囲(しゅうい)の空気(くうき)が共鳴(きょうめい)するようにギラギラと輝(かがや)き始(はじ)めます。


 瞳(ひとみ)の中(なか)で赤(あか)と青(あお)の星々(ほしぼし)が流(なが)れて消(き)えてまた輝(かがや)きながら、体(からだ)の周(まわ)りに発生(はっせい)した強(つよ)い上昇(じょうしょう)気流(きりゅう)がタカヤの髪(かみ)や服(ふく)を大(おお)きく揺(ゆ)らしました。


「大人(おとな)しくしててください」


 確実(かくじつ)に自分(じぶん)たちより強(つよ)い生(い)き物(もの)を前(まえ)にしてオンガイルゴンたちはたじろぎ、その場(ば)から一歩(いっぽ)も動(うご)けません。


「…ありがとうございます」


 タカヤが瞳(ひとみ)の深(ふか)い黒(くろ)を歪(ゆが)ませてにっこりと笑(わら)ったのと同時(どうじ)に、タカヤのエッグロケットがブルブルと振動(しんどう)しました。


 ポケットから取(と)り出(だ)して左(ひだり)手(て)で握(にぎ)ると、ショースケからのテレパシーが届(とど)きます。


(タカヤ⁉ よかったタカヤは無事(ぶじ)なんだね! ねぇティナさんはどうしたの⁉)


(ティナさん…? いや、ちょっと離(はな)れたところで作業(さぎょう)してたから。何(なに)かあったのか?)


(どうしたもこうしたも、ティナさんが助(たす)けを求(もと)めてるんだよ! あ、僕(ぼく)らもすぐ行(い)くから危(あぶ)ないからタカヤも一緒(いっしょ)に)


 ここまで聞(き)いて、タカヤはすぐにポケットにエッグロケットをしまって手(て)を離(はな)しました。


 …嫌(いや)な予感(よかん)がします。


 コスモピースの力(ちから)をより強(つよ)めて、タカヤはショースケたちよりも早(はや)くティナと別(わか)れた場所(ばしょ)へ向(む)かうのでした。



****



 タカヤはティナと別(わか)れた、ヤワクの実(み)が採(と)れる花畑(はなばたけ)に到着(とうちゃく)しました。


 まだショースケたちは到着(とうちゃく)していないようです。


 真(ま)っ白(しろ)な花畑(はなばたけ)に降(お)り立(た)って、タカヤはすぐに異変(いへん)に気(き)がつきました。


 何(なに)百(びゃく)とある白(しろ)い花(はな)の中心(ちゅうしん)に実(みの)っていたヤワクの実(み)が、すべてもぎ取(と)られているのです。


(ティナさんがこんなに採(と)るはず無(な)い…)


 その時(とき)。



 後(うし)ろでガサリと音(おと)がしました。


 …全(まった)く気配(けはい)がありませんでした、タカヤが驚(おどろ)いて振(ふ)り向(む)くと…



「キ」


 真(ま)っ黒(くろ)で毛(け)むくじゃらの猿(さる)のような体(からだ)のET(いーてぃー)が、六(ろっ)本(ぽん)の腕(うで)をぶら下(さ)げてタカヤをじっと見(み)ていました。


 ET(いーてぃー)の胸(むね)には虹色(にじいろ)の玉(たま)のようなものが埋(う)め込(こ)まれていて、まるで心臓(しんぞう)のようにドクドクと脈(みゃく)を打(う)っています。


 …カメラのレンズのような、赤(あか)くて吸(す)い込(こ)まれそうな一(ひと)つしかない瞳(ひとみ)と目(め)が合(あ)って、タカヤは全身(ぜんしん)に鳥肌(とりはだ)が立(た)つのを感(かん)じました。


 こ(・)れ(・)はヤバい。


 以前(いぜん)に時(とき)目(め)木(き)池(いけ)で見(み)た、あの首(くび)の長(なが)いET(いーてぃー)と同(おな)じ…いやそれ以上(いじょう)の何(なに)かです。


 ショースケたちが入(はい)って来(こ)られないように、そしてET(いーてぃー)から外(そと)の様子(ようす)が見(み)えないように、タカヤは急(いそ)いで頑丈(がんじょう)なシールドを周囲(しゅうい)に張(は)ります。


 ET(いーてぃー)はそれに特(とく)に動(どう)じること無(な)く、近(ちか)くに何(なん)十(じゅっ)個(こ)も転(ころ)がっている赤(あか)いゼリービーンズのような大(おお)きな袋(ふくろ)をまずは一(ひと)つ握(にぎ)りました。


 そして信(しん)じられないほど口(くち)を大(おお)きく縦(たて)に開(ひら)くと、その袋(ふくろ)を順番(じゅんばん)に丸呑(まるの)みしていきます。


 ET(いーてぃー)の喉(のど)の奥(おく)には小(ちい)さなブラックホールのような渦(うず)が巻(ま)いており、袋(ふくろ)はどんどん渦(うず)の中(なか)に吸(す)い込(こ)まれているようです。


 袋(ふくろ)は半透明(はんとうめい)で中身(なかみ)はよく見(み)えませんが…今(いま)飲(の)み込(こ)んだのはどうやら石(いし)がたくさん入(はい)った袋(ふくろ)で、手(て)に持(も)っている袋(ふくろ)には…黒(くろ)くて小(ちい)さい何(なに)かがぎっしり入(はい)っていて。


 そして奥(おく)に転(ころ)がっている袋(ふくろ)の中(なか)には…


「ティナさん‼」


 タカヤは背中(せなか)から無数(むすう)の触手(しょくしゅ)を伸(の)ばしてティナの入(はい)った袋(ふくろ)を掴(つか)むと、自分(じぶん)の方(ほう)へ引(ひ)き寄(よ)せました。


 ET(いーてぃー)はそれに気(き)がついて声(こえ)を発(はっ)します。


「キ、キ、キ」


 一切(いっさい)感情(かんじょう)のこもっていない目(め)をタカヤに向(む)けて、ET(いーてぃー)は大(おお)きな口(くち)の端(はし)を引(ひ)き上(あ)げてグニャリと笑(わら)います。


 そして六(ろっ)本(ぽん)の腕(うで)をぐるぐる回(まわ)して、ぐっと体(からだ)を逸(そ)らしたかと思(おも)うと…


 次(つぎ)の瞬間(しゅんかん)、ET(いーてぃー)はものすごい速(はや)さでタカヤに迫(せま)り拳(こぶし)を振(ふ)るってきました。


 タカヤはティナの入(はい)った袋(ふくろ)を抱(だ)き上(あ)げて、止(や)まない拳(こぶし)の雨(あめ)を次々(つぎつぎ)と避(よ)けていきます。


(どうする⁉ 強制(きょうせい)転送(てんそう)を使(つか)うか…だめだ余裕(よゆう)が無(な)い!)


 何度(なんど)も攻撃(こうげき)を避(よ)けられて猛(たけ)り狂(くる)ったET(いーてぃー)は、より速(はや)く、そしてより強(つよ)く拳(こぶし)を振(ふ)るいながら、タカヤの体(からだ)が吹(ふ)き飛(と)ぶほどの衝撃波(しょうげきは)を何(なん)発(はつ)も放(ほう)ってきます。



 外(そと)から声(こえ)が聞(き)こえてきました。


「ねぇ、スイこれなんだろう?」


「なにかしらね…ガラスのドームみたいだけど中(なか)は見(み)えないわ」



(…勝(か)たなきゃ、ここで)


 タカヤは触手(しょくしゅ)を使(つか)って周囲(しゅうい)に張(は)ったシールドに小(ちい)さな隙間(すきま)を空(あ)けて、ティナの入(はい)った袋(ふくろ)を外(そと)へと逃(に)がしました。



 辺(あた)りを見(み)て回(まわ)っていた二人(ふたり)はすぐに赤(あか)い袋(ふくろ)を発見(はっけん)します。


「ティナ⁉ 大丈夫(だいじょうぶ)⁉ すぐ出(だ)してあげるから!」


「眠(ねむ)ってるだけみたいだよ、よかった…」



 …どうやらティナは無事(ぶじ)なようです。


 タカヤは安堵(あんど)して、そして両腕(りょううで)の袖(そで)をぎゅっと上(うえ)までまくりました。


 このET(いーてぃー)には生半可(なまはんか)は力(ちから)では勝(か)てないでしょう…今(いま)までで一番(いちばん)、いやそれ以上(いじょう)の力(ちから)が必要(ひつよう)になります。


 コスモピースの力(ちから)を出(だ)せる限界(げんかい)まで発動(はつどう)させると、タカヤの体(からだ)を目(め)も開(ひら)けていられないほどの眩(まぶ)しい光(ひかり)が包(つつ)みます。


 全身(ぜんしん)がひどく痛(いた)み、呼吸(こきゅう)が乱(みだ)れて、耳(みみ)がキーンとして、目(め)がチカチカと霞(かす)みます。


 体中(からだじゅう)が自分(じぶん)のものではないように黒(くろ)く染(そ)まって、さらに波打(なみう)つようにじわじわと変形(へんけい)していくのがわかります。


 …この黒(くろ)くドロドロしたものは自分(じぶん)の腕(うで)でしょうか? それとも足(あし)、いや背中(せなか)から出(だ)した触手(しょくしゅ)でしょうか。


 もうそれすら、今(いま)のタカヤには判断(はんだん)できません。


 途切(とぎ)れそうな意識(いしき)の中(なか)で、タカヤは大(おお)きな口(くち)を開(ひら)いて向(む)かってくるET(いーてぃー)の胸(むね)の辺(あた)りに手(て)を伸(の)ばしました。






 …どれぐらい時間(じかん)が経(た)ったのでしょうか。


 目(め)の前(まえ)には液状(えきじょう)に溶(と)けたET(いーてぃー)が、地面(じめん)に黒(くろ)い染(し)みを作(つく)っていました。


 体中(からだじゅう)が心臓(しんぞう)になったように、バクンバクンと全身(ぜんしん)が震(ふる)えます。


 霞(かす)んだ視界(しかい)から見(み)える黒(くろ)い何(なん)かは、一体(いったい)自分(じぶん)のどの部分(ぶぶん)なのか見当(けんとう)もつきません。


(苦(くる)しい…)


 そのまま目(め)を閉(と)じてしまいそうになった時(とき)。


 タカヤのズボンの左(ひだり)ポケットの中(なか)で、エッグロケットがブルブルと震(ふる)えました。


 ショースケからの通信(つうしん)です。


 その音(おと)で、タカヤはハッと再(ふたた)び目(め)を開(ひら)きます。


(だめだ…まだ…俺(おれ)にはやらなきゃならないことがある…!)


 幸(さいわ)いタカヤが周囲(しゅうい)に張(は)ったシールドはまだ機能(きのう)しているようです、外(そと)からは中(なか)の様子(ようす)はわからないでしょう。


 大(おお)きく息(いき)を吸(す)って吐(は)いてを繰(く)り返(かえ)して、タカヤは崩(くず)れた体(からだ)の再生(さいせい)を図(はか)ります。


 体(からだ)の一部(いちぶ)が溶(と)けてしまい形(かたち)が変(か)わっているようなので、無限(むげん)に湧(わ)いてくるコスモピースのエネルギーを使(つか)って新(あら)たにパーツを作(つく)ります。


 左腕(ひだりうで)を作(つく)って、右足(みぎあし)を作(つく)って…すでに原型(げんけい)を留(と)めていない元(もと)のパーツは体(からだ)に取(と)り込(こ)んで。


 真(ま)っ黒(くろ)だった体(からだ)は、少(すこ)しずつ人間(にんげん)の形(かたち)を取(と)り戻(もど)していきます。


 …ふと、自分(じぶん)の右腕(みぎうで)が何(なに)かを握(にぎ)っていることに気(き)がつきました。


 虹色(にじいろ)でドクドクと脈打(みゃくう)つその球体(きゅうたい)は、ET(いーてぃー)の胸元(むなもと)についていたものです。


 よく覚(おぼ)えていませんが…おそらく消(き)えそうな意識(いしき)の中(なか)でET(いーてぃー)から捻(ねじ)り取(と)ったのでしょう。


 タカヤはその球体(きゅうたい)を右(みぎ)のポケットに突(つ)っ込(こ)みました。




 そしてやっと息(いき)が整(ととの)って、二(に)本(ほん)の足(あし)で地面(じめん)に立(た)って、ET(いーてぃー)の残(のこ)した地面(じめん)の黒(くろ)い染(し)みもずるりと体(からだ)に取(と)り込(こ)んで、タカヤは周囲(しゅうい)に張(は)っていたシールドを解除(かいじょ)しました。


「…あれ、ショースケたちがいない。もうUFO(ゆーふぉー)に帰(かえ)ったかな」


 おそらくティナの治療(ちりょう)をするため、一足(ひとあし)先(さき)にここを離(はな)れたのでしょう。


 ちょうどいいです、こんな弱(よわ)った姿(すがた)は見(み)せられません。


 少(すこ)しふらふらとした足取(あしど)りのまま、タカヤはまだ周囲(しゅうい)にいくつも転(ころ)がっている、ET(いーてぃー)が飲(の)み込(こ)もうとしていた赤(あか)いゼリービーンズのような袋(ふくろ)の中身(なかみ)を確認(かくにん)しに行(い)きます。


「これ、アズール石(せき)だ。それもこんなにいっぱい…あのET(いーてぃー)がオンガイルゴンの住処(すみか)を荒(あ)らしたんだな。こっちにはヤワクの実(み)がぎっしり入(はい)ってる…」


 残(のこ)っていた袋(ふくろ)をエッグロケットの中(なか)に全(すべ)て詰(つ)め込(こ)んで、タカヤはまず白(しろ)い花畑(はなばたけ)に飛(と)んで行(い)きました。


 そこで袋(ふくろ)に入(はい)っていたヤワクの実(み)を、全(すべ)て元(もと)あった場所(ばしょ)の近(ちか)くに返(かえ)します。


 さて…次(つぎ)は大量(たいりょう)のアズール石(せき)を、イアル山(やま)にあるオンガイルゴンたちの住処(すみか)に返(かえ)さなければなりません。


 タカヤは少(すこ)し朦朧(もうろう)としながらよろめいて、地面(じめん)に倒(たお)れそうになりましたが…そのまま両足(りょうあし)にぐっと力(ちから)を入(い)れて強引(ごういん)に体制(たいせい)を立(た)て直(なお)しました。


「…行(い)かなきゃ」


 そして再(ふたた)びコスモピースの力(ちから)を使(つか)って目(め)を黒々(くろぐろ)と輝(かがや)かせると、すごいスピードで飛(と)んでいくのでした。



****



「あ! タカヤやっと帰(かえ)ってきた! どこ行(い)ってたの、テレパシー送(おく)っても返(かえ)してくれないし」


 ショースケはUFO(ゆーふぉー)の中(なか)で、横(よこ)になっているティナのそばに座(すわ)っていました。


「ごめんごめん、ちょっとバタバタしてて…テレパシー気(き)が付(つ)かなかったよ」


「…あ、タカヤくんだ。おかえりなさい」


 ティナは首(くび)だけをタカヤの方(ほう)に向(む)けてへにょりと笑(わら)います。


「ティナさん大丈夫(だいじょうぶ)ですか? ごめんなさい、大変(たいへん)なときに側(そば)にいられなくて…」


 辛(つら)そうにうつむくタカヤの頭(あたま)に、ティナはそっと温(あたた)かい手(て)をのせました。


「んーん。…ありがとう、タカヤくん」


 そこまで声(こえ)にのせて、その先(さき)は声(こえ)を出(だ)さずにティナは口(くち)を動(うご)かしました。


『たすけてくれて』


 そのまま、ティナは目(め)を閉(と)じて眠(ねむ)ってしまいました。


 運転席(うんてんせき)に座(すわ)るスイが声(こえ)をかけます。


「話(はなし)は済(す)んだ? さっさとポスリコモスに帰(かえ)るわよ、この星(ほし)なんか様子(ようす)がおかしいし」


 スイがピピピとパネルを操作(そうさ)すると青(あお)いUFO(ゆーふぉー)の機体(きたい)はふわりと宙(ちゅう)に浮(う)いて、まっすぐ空(そら)へと吸(す)い込(こ)まれていきました。



****



「うぇえええええええん! じーちゃん怖(こわ)かったよぉおおおおお」


 肖(しょう)造(ぞう)に会(あ)って早々(そうそう)、ショースケは泣(な)き出(だ)して肖(しょう)造(ぞう)にべったりくっついたまま離(はな)れません。


 ティナをすみやかに医務室(いむしつ)へ運(はこ)んだあと、肖(しょう)造(ぞう)の研究室(けんきゅうしつ)でスイは惑星(わくせい)ミッシェルで起(お)こったことを事細(ことこま)かに説明(せつめい)しました。


「そうか…危険(きけん)な目(め)に遭(あ)わせてしまったな、ワシの調査(ちょうさ)不足(ぶそく)じゃ。みんな、ほんっとーにすまんかった!!!」


 肖(しょう)造(ぞう)はスイとショースケとタカヤを同時(どうじ)にむぎゅーっと抱(だ)きしめます。


「かわいいお前(まえ)らに何(なに)かあったら…ワシは悔(く)やんでも悔(く)やみきれんわい…」


 声(こえ)を震(ふる)わせて、肖(しょう)造(ぞう)は一人(ひとり)一人(ひとり)にずりずりと頬(ほお)ずりしました。


「疲(つか)れたじゃろう? 今日(きょう)はもう休(やす)め、後(あと)のことは本部(ほんぶ)でなんとかするからの」





 スイとショースケがベッドの中(なか)で泥(どろ)のように眠(ねむ)っている頃(ころ)。


 タカヤは肖(しょう)造(ぞう)と研究室(けんきゅうしつ)の奥(おく)の扉(とびら)をくぐって、資料室(しりょうしつ)に入(はい)ります。


 肖(しょう)造(ぞう)が一(いっ)階(かい)のカフェで二(ふた)つ買(か)ってきた青(あお)いジュースを飲(の)みながら、タカヤはスイとショースケの知(し)らない、惑星(わくせい)ミッシェルで起(お)こったことを話(はな)しました。


「そうか…何者(なにもの)かがアズール石(せき)を掘(ほ)り尽(つ)くしてしまったから、オンガイルゴンたちは暴(あば)れておったんじゃな。山(やま)のアズール石(せき)の生成(せいせい)を促進(そくしん)する薬(くすり)を早々(そうそう)に開発(かいはつ)せんとな…」


「…黒(くろ)くて、毛(け)むくじゃらで…見(み)たことが無(な)いET(いーてぃー)でした。雰囲気(ふんいき)が…以前(いぜん)時(とき)目(め)木(き)池(いけ)から強制(きょうせい)転送(てんそう)したあと、本部(ほんぶ)で溶(と)けてしまったらしいET(いーてぃー)とよく似(に)ていました」


 タカヤはエッグロケットを探(さぐ)りながら続(つづ)けます。


「これ、そのET(いーてぃー)が使(つか)っていた赤(あか)い袋(ふくろ)の切(き)れ端(はし)です…それと」


 今度(こんど)は右(みぎ)のポケットに手(て)を突(つ)っ込(こ)んで、虹色(にじいろ)のドクドク脈打(みゃくう)つ球体(きゅうたい)を取(と)り出(だ)しました。


「…ET(いーてぃー)の胸(むね)に付(つ)いていたパーツです。何(なん)かはわからないんですけれど…」


 肖(しょう)造(ぞう)はそのパーツを見(み)て、少(すこ)しの間(あいだ)息(いき)をするのを忘(わす)れてしまいました。


「これが…ついておったのか」


「?…はい」


「そうか…」


 肖(しょう)造(ぞう)は虹色(にじいろ)の球体(きゅうたい)を受(う)け取(と)って、頑丈(がんじょう)そうな透明(とうめい)のケースの中(なか)に入(い)れました。


「タカヤも相当(そうとう)無理(むり)したじゃろう。ライトに診(み)てもらわんといかんな」


「い、いえ! 大丈夫(だいじょうぶ)です、なんともありませんでしたよ。だから、ライトさんには言(い)わないでください…困(こま)らせたくないんです」


「そうはいかん。…困(こま)るくらいさせてやってくれんか、あいつもいろいろ悩(なや)んでおるんじゃ。さて、タカヤ」


 優(やさ)しい笑顔(えがお)を向(む)けて、肖(しょう)造(ぞう)は資料室(しりょうしつ)の扉(とびら)を開(ひら)きます。


「お前(まえ)ももう休(やす)め。…みんなを守(まも)ってくれて、本当(ほんとう)にありがとうな」


「あはは、全部(ぜんぶ)コスモピースの力(ちから)のおかげですよ。この力(ちから)のおかげでみんなを助(たす)けられたんだから。…肖(しょう)造(ぞう)さん」


 タカヤは肖(しょう)造(ぞう)の目(め)をまっすぐに見(み)つめます。


「あの日(ひ)、俺(おれ)にコスモピースの力(ちから)をくれて、ありがとうございます」


 そう言(い)って笑(わら)うと、タカヤは肖(しょう)造(ぞう)の横(よこ)を通(とお)って資料室(しりょうしつ)の扉(とびら)をくぐりました。


「肖(しょう)造(ぞう)さんは休(やす)めって言(い)ってくださいましたけど…この力(ちから)があれば休(やす)む必要(ひつよう)なんてありません。次(つぎ)の仕事(しごと)を頼(たの)まれてるんです、行(い)ってきますね」


 タカヤは一度(いちど)だけ振(ふ)り返(かえ)ってぺこりとお辞儀(じぎ)をします。


「ジュース、ごちそうさまでした」





 肖(しょう)造(ぞう)は一人(ひとり)きりになった資料室(しりょうしつ)で、パイプ椅子(いす)に座(すわ)り直(なお)しました。


 小(ちい)さなテーブルの上(うえ)には、タカヤが飲(の)み干(ほ)した青(あお)いジュースの入(はい)っていたグラスが置(お)いてあります。


 肖(しょう)造(ぞう)はそれをぼんやり見(み)つめながら、自分(じぶん)のグラスに残(のこ)るジュースを飲(の)み干(ほ)して、中(なか)に入(はい)っていたピンク色(いろ)の氷(こおり)をガリガリと噛(か)み潰(つぶ)しました。


 …タカヤのグラスに残(のこ)った積(つ)み重(かさ)なったピンク色(いろ)の氷(こおり)が溶(と)けて崩(くず)れて、静(しず)かになった部屋(へや)にカランと音(おと)が響(ひび)きます。


「ワシは…そんな力(ちから)お前(まえ)にやりたくなかったよ。タカヤ」


 小(ちい)さな呟(つぶや)きは、誰(だれ)にも聞(き)こえることなく消(き)えていきました。



****



「…春子(はるこ)と諄弌(じゅんいち)か。繋(つな)がってよかった、今(いま)はどこにいる? …そうか、そんな遠(とお)くか」


 肖(しょう)造(ぞう)は薄暗(うすぐら)い研究室(けんきゅうしつ)で、光(ひか)る画面(がめん)に向(む)かって話(はな)しかけます。


「一度(いちど)ここに戻(もど)ってきてくれんか。二人(ふたり)に…向(む)かって欲(ほ)しい場所(ばしょ)がある。手(て)がかりが見(み)つかったんじゃ」




 少(すこ)しだけ言葉(ことば)を交(か)わして画面(がめん)が真(ま)っ暗(くら)になると、肖(しょう)造(ぞう)はタカヤが渡(わた)してきた虹色(にじいろ)の球体(きゅうたい)の入(はい)ったケースを手(て)に取(と)り、独(ひと)り言(ごと)を呟(つぶや)きます。


「…エネルギーの塊(かたまり)じゃろうな。コスモピースには遠(とお)く及(およ)ばんが…ワシの作(つく)り出(だ)せるものよりも数(すう)倍(ばい)…いや、数百(すうひゃく)倍(ばい)は優(すぐ)れている」


 球体(きゅうたい)が放(はな)つ虹色(にじいろ)の光(ひかり)が、暗闇(くらやみ)の中(なか)で肖(しょう)造(ぞう)の真剣(しんけん)な顔(かお)を照(て)らしました。


「…こんなものを作(つく)れる種族(しゅぞく)は…ワシは一(ひと)つしか知(し)らんなあ…!」



****



 遠(とお)い遠(とお)い星(ほし)の、とある一室(いっしつ)。


 一人(ひとり)の生物(せいぶつ)がぼんやりと考(かんが)え事(ごと)をしています。


「おかしいですねー、惑星(わくせい)ミッシェルに送(おく)った子(こ)が帰(かえ)って来(き)ませんー。前(まえ)に地球(ちきゅう)に送(おく)った子(こ)も帰(かえ)ってこなかったのに、困(こま)りますねー…仕方(しかた)ない、また作(つく)りますかー」



「でも妙(みょう)ですねー、あの子(こ)に敵(かな)うモノなんてあの星(ほし)に…いいえ、この宇宙(うちゅう)にほとんどないはずですのにー。もしあるとすればそれは…」



「…やっと、近(ちか)づけたかもしれませんー。コスモピース」


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