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第十話 惑星ミッシェル冒険記①

****


 月(つき)が眩(まぶ)しいほど明(あか)るく光(ひか)って、辺(あた)り一面(いちめん)を照(て)らしていた金曜日(きんようび)…いえ、地球(ちきゅう)はもう土曜日(どようび)でしょうか。


 タカヤとショースケは特急(とっきゅう)こすもに乗(の)って、ポスリコモスにある宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)へやってきました。


 今回(こんかい)やってきた目的(もくてき)は…


「ウヒョー ホンブ ヒサシブリ!」


 そう言(い)ってはしゃぎながら、タカヤの腕(うで)の中(なか)でパタパタと足(あし)と触覚(しょっかく)を動(うご)かしているロボット、ツバサを肖(しょう)造(ぞう)にメンテナンスしてもらうためです。


「ツバサー、あんまり暴(あば)れたら落(お)ちるよー」


 肖(しょう)造(ぞう)の研究室(けんきゅうしつ)がある最上階(さいじょうかい)へ繋(つな)がる透明(とうめい)なチューブのようなエレベーターに乗(の)り込(こ)んで、ショースケはツバサの足(あし)を触(さわ)りながら一言(ひとこと)注意(ちゅうい)しました。


「ところでショースケ、今回(こんかい)はポスリコモスに何(なに)か用事(ようじ)があったのか? 俺(おれ)がツバサをメンテナンスに連(つ)れて行(い)くって言(い)ったら一緒(いっしょ)に来(く)るって言(い)うから」


「んー? 別(べつ)に無(な)いよ。僕(ぼく)はポスリコモスが大好(だいす)きだからね、来(こ)られるなら毎週(まいしゅう)来(き)たいくらいさ。あ、見(み)て見(み)て今日(きょう)の空(そら)は虹色(にじいろ)だよ!」


 タカヤの質問(しつもん)に答(こた)えながら、ショースケは嬉(うれ)しそうに外(そと)を指(ゆび)さしました。 


 地球(ちきゅう)では到底(とうてい)見(み)られない極彩色(ごくさいしき)にカラフルな空(そら)を、エレベーターは切(き)るようなスピードでどんどん上(うえ)へと進(すす)んでいきます。


「…まぁ、行(ゆ)きの特急(とっきゅう)こすもは僕(ぼく)ら宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)はタダで乗(の)れるけど、帰(かえ)りのUFO(ゆーふぉー)タクシーやワープ装置(そうち)なんかは結構(けっこう)お金(かね)がかかるから毎週(まいしゅう)は来(こ)られないけどね」


 ショースケは小(ちい)さくため息(いき)をつきました。


 特急(とっきゅう)こすもは週(しゅう)に一本(いっぽん)しか時(とき)目(め)木(き)町(ちょう)へやって来(こ)ないため、一(いち)週間(しゅうかん)以内(いない)に帰(かえ)りたければ他(ほか)の交通(こうつう)手段(しゅだん)を使(つか)わなければならないのです。


「早(はや)く大(おお)きくなってポスリコモスに住(す)みたいなー、そしたら毎日(まいにち)じーちゃんと発明(はつめい)三昧(ざんまい)するんだ。あ、もちろんタカヤともお仕事(しごと)するから安心(あんしん)してね?」


「ショースケはすごいな、立派(りっぱ)な将来(しょうらい)の夢(ゆめ)があるんだな」


「タカヤは無(な)いの? 将来(しょうらい)の夢(ゆめ)」


「俺(おれ)は…」


 エレベーターの中(なか)に、到着(とうちゃく)を知(し)らせるリーンという音(おと)が響(ひび)きました。


「あ、着(つ)いたよ!」


 ショースケは一番(いちばん)に外(そと)へ飛(と)び出(だ)して、肖(しょう)造(ぞう)の研究室(けんきゅうしつ)に向(む)かって走(はし)って行(い)きます。


「…俺(おれ)は…」


「タカヤー ドシタノー ダイジョウブ?」


 ツバサは袖無(そでな)しの服(ふく)から出(で)たタカヤの二(に)の腕(うで)をプニプニつつきます。


「あ、ごめんごめん。大丈夫(だいじょうぶ)だよ」


 腕(うで)の中(なか)のツバサを優(やさ)しい笑顔(えがお)でぎゅっと抱(だ)きしめて、タカヤはエレベーターを降(お)りてショースケの後(あと)をゆっくり歩(ある)いて追(お)いかけました。



****



「ワオワオ ハカセ ゲンキ ダッター?」


「おおツバサ、久(ひさ)しぶりじゃのう。むむ…この極上(ごくじょう)の抱(だ)き心地(ごこち)…さすがワシの作(つく)った発明品(はつめいひん)じゃな!」


 ツバサの真(ま)っ白(しろ)なお腹(なか)に顔(かお)をうずめて、肖(しょう)造(ぞう)は何度(なんど)も息(いき)を吸(す)いながら頬(ほお)ずりしました。


「ショースケとタカヤもよく来(き)たな。まあそこの椅子(いす)に座(すわ)って、机(つくえ)の上(うえ)に置(お)いてあるワシが作(つく)った茶(ちゃ)でも飲(の)んでくれ」


「え、茶(ちゃ)ってこれ…?」


 ショースケは目(め)を疑(うたが)います。


 紫色(むらさきいろ)でとろみのある液体(えきたい)からは炭酸(たんさん)のような泡(あわ)が立(た)ち、さらに細長(ほそなが)い棒状(ぼうじょう)の何(なに)かが中(なか)でくねくねと動(うご)いています。


 きっと百(ひゃく)人(にん)に聞(き)いたら百(ひゃく)人(にん)が茶(ちゃ)では無(な)いと言(い)うでしょう。


「ぼ、僕(ぼく)…喉(のど)渇(かわ)いてないからいらないかな。ねぇタカヤもそうだよね…ってタカヤ⁉」


 出(だ)されたものは断(ことわ)れない性分(しょうぶん)のタカヤはすでに茶(ちゃ)では無(な)い茶(ちゃ)を口(くち)に含(ふく)んでいます。


「えっと…独特(どくとく)な味(あじ)がして…その、おいしい、ですね…」


 タカヤの顔(かお)はみるみる青(あお)くなっていきます。


「タカヤ何(なに)してんの! そんな顔(かお)して美味(おい)しいわけないでしょ、ほら早(はや)くぺーして!」


 ショースケはタカヤの背中(せなか)を叩(たた)いてなんとか液体(えきたい)を吐(は)き出(だ)させました。


「どうじゃったワシの作(つく)った茶(ちゃ)。さっきここを手伝(てつだ)ってくれている二人(ふたり)にも飲(の)ませたんじゃが、すぐに吐(は)き出(だ)して一(ひと)階(かい)のカフェに口直(くちなお)しに行(い)ってしまったわい」


「そんなもの僕(ぼく)らに飲(の)ませようとしないでよ…」


「えー、人(ひと)によって味覚(みかく)は違(ちが)うんじゃから美味(おい)しいかも知(し)れんじゃろー」


 肖(しょう)造(ぞう)は口(くち)を尖(とが)らせてブツブツ言(い)いながら、ツバサのメンテナンスを始(はじ)めました。


「ヨロシク ハカセー。ア、トコロデ コノアイダ オモシロイ コト アッテ アノサ」


 …いつまでも喋(しゃべ)られてはやりにくくて堪(たま)らないので、肖(しょう)造(ぞう)はツバサのスイッチを切(き)ります。


「ふむふむ…ここは良(よ)しここは良(よ)し…む、このパーツは交換(こうかん)が必要(ひつよう)じゃな」


 肖(しょう)造(ぞう)は机(つくえ)の下(した)に置(お)いてある箱(はこ)を開(あ)けて、新(あたら)しいパーツの材料(ざいりょう)を取(と)りだそうとしましたが…


「およ? もう無(な)かったかのう…。そうじゃ! 惑星(わくせい)ミッシェルで採(と)ってきてもらう予定(よてい)じゃったんじゃが、隊員(たいいん)が急遽(きゅうきょ)体調(たいちょう)不良(ふりょう)で行(い)けなくなってそのままじゃったわい」


「え、じゃあメンテナンス出来(でき)ないってこと?」


 ショースケが首(くび)を傾(かし)げて尋(たず)ねると、肖(しょう)造(ぞう)はむむむと少(すこ)し頭(あたま)をひねって…突然(とつぜん)大(おお)きな声(こえ)を出(だ)しました。


「そうじゃ! ショースケ、タカヤ。ちゃちゃっと行(い)って採(と)ってきてくれんかの!」


「採(と)ってくる…って、まさか! わ、惑星(わくせい)ミッシェルで⁉」


 ショースケはプルプル体(からだ)を震(ふる)わせながら、目(め)をこれでもかと輝(かがや)かせます。


「そうじゃ。惑星(わくせい)ミッシェルに行(い)って、そこにしかない『コール石(せき)』と『ヤワクの実(み)』を採(と)ってきてもらいたい」


「行(い)く‼ いくいくいく絶対(ぜったい)行(い)く! ねえタカヤ行(い)くよね⁉」


 ショースケのあまりの迫力(はくりょく)に、タカヤはうんともすんとも言(い)えずにただ何度(なんど)かうなずきました。


「十(じゅっ)級(きゅう)の間(あいだ)はさすがにどこの星(ほし)にも行(い)かせてもらえないと思(おも)ってたのに! まさかこんなチャンスが巡(めぐ)って来(く)るなんてじーちゃん様々(さまさま)だよ!」


 ショースケは喜(よろこ)びのあまり肖(しょう)造(ぞう)に抱(だ)きつきます。


「おーおーワシの孫(まご)は可愛(かわい)いのお! じゃが二人(ふたり)で、ではないぞ?」


「二人(ふたり)じゃない?」


「十(じゅっ)級(きゅう)だけ…で行(い)かせたらさすがに本部(ほんぶ)から何(なん)て言(い)われるかわからんからな。じゃからワシの研究(けんきゅう)の手伝(てつだ)いをしてくれておる二人(ふたり)と一緒(いっしょ)に行(い)ってもらう、よいか? スイ、ティナ」


 肖(しょう)造(ぞう)が扉(とびら)の方(ほう)を向(む)くと、ちょうど開(ひら)いた扉(とびら)から十(じゅう)六(ろく)、七(なな)歳(さい)くらいの褐色(かっしょく)の肌(はだ)の女(おんな)の子(こ)二人(ふたり)組(ぐみ)が入(はい)ってきました。


 二人(ふたり)とも、手(て)には一(いっ)階(かい)のカフェで買(か)ってきたであろうお菓子(かし)をいっぱいに持(も)っています。


 そのうちの一人(ひとり)が短(みじか)いツヤツヤの黒髪(くろかみ)をパサリとなびかせ、切(き)れ長(なが)の瞳(ひとみ)で肖(しょう)造(ぞう)をにらみました。


「まったく博士(はかせ)はいつも急(きゅう)ですね…この後(あと)はポポミル星(せい)の環境(かんきょう)汚染(おせん)をさらに改善(かいぜん)する薬品(やくひん)の実験(じっけん)をするんじゃなかったんですか?」


「それはもうさっきワシ一人(ひとり)で済(す)ませたんじゃよ、スイ。で、どうじゃ行(い)ってくれるか?」


 顔(かお)をしかめているスイに、もう一人(ひとり)の女(おんな)の子(こ)がウェーブのかかった長(なが)い茶色(ちゃいろ)のツインテールを揺(ゆ)らしながら笑(わら)いかけます。


「行(い)こうよお姉(ねえ)ちゃん! なんだか楽(たの)しそう!」


「楽(たの)しそうって…ティナはいつも楽観(らっかん)的(てき)過(す)ぎるわよ。いい? 惑星(わくせい)ミッシェルには危険(きけん)な生物(せいぶつ)がいて、そいつは縄張(なわば)り意識(いしき)が強(つよ)いから…」


 くどくどと説明(せつめい)を始(はじ)めるスイの横(よこ)をスタスタ通(とお)り過(す)ぎて、ティナはショースケとタカヤの前(まえ)で歩(あゆ)みを止(と)めました。


「わたしはティナだよ! はじめまして、タカヤくん、ショースケくん!」


「え、僕(ぼく)らの名前(なまえ)知(し)ってるの?」


「もちろんだよ。特(とく)にショースケくんは博士(はかせ)がいつも孫(まご)自慢(じまん)してるからいろいろ聞(き)いてるよー。それに、二人(ふたり)は地球(ちきゅう)人(じん)で史上(しじょう)最年少(さいねんしょう)の宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)試験(しけん)合格者(ごうかくしゃ)でしょ? 有名人(ゆうめいじん)なんだから!」


「え、えへへー僕(ぼく)たち有名人(ゆうめいじん)だってタカヤー」


 ショースケはへらへら笑(わら)いながらタカヤの腕(うで)をツンツンつつきます。


「ちょっとティナ! まだ話(はなし)は終(お)わってないでしょ!」


 スイはぷりぷり怒(おこ)りながらティナの隣(となり)に立(た)ちました。


「えーだってお姉(ねえ)ちゃんのお話(はなし)長(なが)いんだもん、聞(き)いてたらいつまでも惑星(わくせい)ミッシェルに行(い)けないよー。それに、危険(きけん)な生物(せいぶつ)…オンガイルゴンは奥地(おくち)にしかいないじゃない。ねぇ行(い)こうよお姉(ねえ)ちゃんお願(ねが)い!」


「ワシもワシも! スイお願(ねが)い! 『コール石(せき)』も『ヤワクの実(み)』も安全(あんぜん)な場所(ばしょ)で採(と)れるものじゃからいいじゃろ?」


 ぶりっ子(こ)ポーズをする肖(しょう)造(ぞう)を薄(うす)めでちらりと見(み)た後(あと)、スイはおねだりするティナに目線(めせん)を移(うつ)して大(おお)きなため息(いき)をつきます。


「しょうがないわね。今回(こんかい)だけよ?」


「やったー! お姉(ねえ)ちゃんだいすきー!」


 左腕(ひだりうで)に抱(だ)きついてきたティナをまんざらでもなさそうに見(み)た後(あと)、改(あらた)めてスイはタカヤとショースケの方(ほう)へに向(む)き直(なお)ります。


「私(わたし)はスイ。足手(あしで)まといにならないでね、あなたたちの子守(こも)りはごめんなんだから」


 腕(うで)を組(く)んで冷(つめ)たく見下(みお)ろしてくるスイに、ショースケはふんと鼻(はな)を鳴(な)らしてニヤリと笑(わら)って見(み)せました。


「僕(ぼく)は霧(きり)谷(たに)ショースケ。そっちこそ、僕(ぼく)はお姉(ねえ)さん守(も)りはごめんだよ?」


「お、おいショースケ! すみません…はじめまして、石越(いしごえ)タカヤです。よろしくお願(ねが)いします」


 ショースケの前(まえ)に立(た)って、タカヤは礼儀(れいぎ)正(ただ)しく挨拶(あいさつ)をします。


「こちらこそごめんねー。お姉(ねえ)ちゃん本当(ほんとう)は優(やさ)しいんだけど素直(すなお)じゃないの」


「ティナ、勝手(かって)なこと言(い)わないの」


「えー本当(ほんとう)のことでしょ? 今日(きょう)だってお菓子(かし)分(わ)けてくれたり荷物(にもつ)持(も)ってくれたり…昨日(きのう)だって」


「もうティナ! 後(あと)で聞(き)いてあげるからから今(いま)は言(い)わないで!」


 スイは耳(みみ)まで真(ま)っ赤(か)にしながら右手(みぎて)でティナの口(くち)を塞(ふさ)ぎました。


「とにかく! そうと決(き)まれば早(はや)く行(い)くわよ! 博士(はかせ)、博士(はかせ)のUFO(ゆーふぉー)借(か)りていいですよね?」


「おう好(す)きに使(つか)っとくれ。そうじゃスイ。物置(ものおき)に余(あま)っとる制服(せいふく)あるじゃろ、二人(ふたり)に一番(いちばん)小(ちい)さいサイズを貸(か)してやってくれ」


「制服(せいふく)って、宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)職員(しょくいん)の! 宇宙服(うちゅうふく)の代(か)わりになるやつだよね、やったー僕(ぼく)あれ欲(ほ)しかったんだー!」


「貸(か)すだけよ、後(あと)で返(かえ)してよね」


 スイははしゃぐショースケに綺麗(きれい)に畳(たた)まれた制服(せいふく)を二人(ふたり)分(ぶん)手渡(てわた)しました。


 タカヤとショースケは物陰(ものかげ)でそれに着替(きが)えます。




「そうじゃタカヤ、ちょっとこっち来(き)てくれるか」


 ショースケより少(すこ)し早(はや)く着替(きが)え終(お)わったタカヤは、肖(しょう)造(ぞう)に呼(よ)ばれて研究室(けんきゅうしつ)の奥(おく)にある資料室(しりょうしつ)に入(はい)りました。


 資料室(しりょうしつ)の扉(とびら)を内側(うちがわ)からしっかり閉(し)めると、肖(しょう)造(ぞう)はタカヤの姿(すがた)をまじまじと見(み)つめます。


「ほう、制服(せいふく)もなかなか似合(にあ)っとるじゃないか。どうした? やっぱり腕(うで)のあたりが落(お)ち着(つ)かんか」


「はい…普段(ふだん)袖(そで)無(な)しばかり着(き)てるから、長袖(ながそで)着(き)るとなんだかそわそわして。でも学校(がっこう)の制服(せいふく)でも着(き)てたので大丈夫(だいじょうぶ)です」


 タカヤは腕(うで)を触(さわ)りながらへにゃりと笑(わら)いました。


「コスモピースの力(ちから)も難儀(なんぎ)じゃのお。まあタカヤなら宇宙(うちゅう)に行(い)くのに本当(ほんとう)はその服(ふく)も必要(ひつよう)ないじゃろうが…他(ほか)の三(さん)人(にん)が驚(おどろ)いてしまうからな、今回(こんかい)はちと我慢(がまん)してくれ」


 ちらりと扉(とびら)の方(ほう)をに目(め)をやり、人(ひと)がいないことを確認(かくにん)して肖(しょう)造(ぞう)は続(つづ)けます。


「本題(ほんだい)に入(はい)らんとな。タカヤ、オンガイルゴンは知(し)っておるよな」


「はい、惑星(わくせい)ミッシェルの奥地(おくち)に生息(せいそく)しているかなり強(つよ)いET(いーてぃー)ですよね」


「そうじゃ。そいつらが最近(さいきん)何故(なぜ)か荒(あ)れておるらしくてな…近隣(きんりん)の村(むら)にも被害(ひがい)がでておる。そこで、ワシの作(つく)ったこの袋(ふくろ)をオンガイルゴンの住処(すみか)の近(ちか)くに置(お)いてきてもらいたい」


 肖(しょう)造(ぞう)は緑色(みどりいろ)のリボンがついた白(しろ)い小(こ)袋(ぶくろ)をタカヤに渡(わた)しました。


「袋(ふくろ)、ですか?」


「この小(こ)袋(ぶくろ)の中身(なかみ)はオンガイルゴンを落(お)ち着(つ)かせる効果(こうか)がある成分(せいぶん)を放(はな)っておる、それも超(ちょう)強力(きょうりょく)じゃ。頼(たの)んだぞタカヤ…おっとそうじゃ」


 扉(とびら)を開(あ)けようとした肖(しょう)造(ぞう)はくるりとタカヤの方(ほう)を振(ふ)り返(かえ)ります。


「もちろんこの仕事(しごと)は特級(とっきゅう)のお前(まえ)に頼(たの)んでおる。オンガイルゴンは超(ちょう)危険(きけん)なモンスターじゃからな…くれぐれも他(ほか)の三(さん)人(にん)は近(ちか)づかせないように、内密(ないみつ)に行(おこな)ってくれ」


「もちろんわかってます」


 タカヤは小(こ)袋(ぶくろ)を大事(だいじ)にエッグロケットの奥(おく)にしまいました。


「…すまんな。本当(ほんとう)はタカヤに頼(たの)みたいわけじゃないんじゃが…お前(まえ)の両親(りょうしん)もここを離(はな)れておるし、難(むずか)しい依頼(いらい)がこなせる級(きゅう)の高(たか)い宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)は多(おお)くない…ワシ自身(じしん)も戦闘(せんとう)向(む)きでは無(な)いからのぉ…」


 珍(めずら)しく謝(あやま)る肖(しょう)造(ぞう)に、タカヤは首(くび)を横(よこ)に振(ふ)ります。


「いえ、お仕事(しごと)任(まか)せていただけて嬉(うれ)しいです。是非(ぜひ)やらせてください、この力(ちから)で出来(でき)るだけ役(やく)に立(た)ちたいですから」



 …研究室(けんきゅうしつ)で出発(しゅっぱつ)の準備(じゅんび)をしているティナは、資料室(しりょうしつ)の閉(と)じた扉(とびら)をじっと見(み)つめていました。



****



「うひゃー! これがじーちゃんのUFO(ゆーふぉー)?」


 鮮(あざ)やかな青色(あおいろ)の円盤(えんばん)形(がた)の機体(きたい)に丸(まる)いドームのような窓(まど)が一(ひと)つ付(つ)いた、絵(え)に描(か)いたようなUFO(ゆーふぉー)にショースケは興味津々(きょうみしんしん)です。


 肖(しょう)造(ぞう)は一番(いちばん)の年長者(ねんちょうしゃ)であるスイに運転(うんてん)の方法(ほうほう)を教(おし)えました。


「ここのパネルのスイッチを押(お)したら自動(じどう)的(てき)に惑星(わくせい)ミッシェルに向(む)かうように設定(せってい)しておいた。それでは四(よ)人(にん)とも気(き)をつけて行(い)って来(こ)い、頼(たの)んだぞ」



 UFO(ゆーふぉー)に乗(の)り込(こ)んだ四(よん)人(にん)は肖(しょう)造(ぞう)に見送(みおく)られながら、広(ひろ)い広(ひろ)い宇宙(うちゅう)へ旅立(たびだ)ちました。


「ここから惑星(わくせい)ミッシェルまではどれくらいかかるの?」


「そうかからないわよ、ワープ機能(きのう)を使(つか)って三(さん)十分(じゅっぷん)くらいかしら」


 ショースケの質問(しつもん)に、スイは運転席(うんてんせき)に座(すわ)ってパネルを操作(そうさ)しながら答(こた)えます。


「へー案外(あんがい)と近(ちか)いんだね。そういえばタカヤ、さっきじーちゃんと何(なに)話(はな)してたの?」


「ああ、ツバサの新(あたら)しい機能(きのう)について話(はな)してたんだよ。こっそり増(ふ)やしてショースケを驚(おどろ)かせたいんだってさ」


 タカヤは流(なが)れるように嘘(うそ)を吐(つ)きました。


「えー、何(なに)それ。じーちゃんも変(へん)なこと考(かんが)えるんだから」


「ねぇねぇところでタカヤくんショースケくん。わたしたち実(じつ)は二人(ふたり)と同(おな)じ試験(しけん)で合格(ごうかく)した同期(どうき)なんだよー覚(おぼ)えてる?」


 二人(ふたり)の話(はなし)に割(わ)って入(はい)るように、ティナはニカリと笑(わら)って自分(じぶん)の顔(かお)を指(ゆび)さします。


「はい、覚(おぼ)えてますよ。試験(しけん)会場(かいじょう)にいる地球(ちきゅう)人(じん)ってだけで目立(めだ)ちますから」


「え、タカヤ覚(おぼ)えてんの。…僕(ぼく)試験(しけん)の記憶(きおく)あんまり残(のこ)ってないや、必死(ひっし)だったから」


「あはは、俺(おれ)はショースケのことも覚(おぼ)えてるよ。肖(しょう)造(ぞう)さんから話(はなし)も聞(き)いてたし」


「うーん…タカヤ余裕(よゆう)だったんだね。あれ? でも同期(どうき)ってことは…」


 ショースケはスイとティナの方(ほう)を向(む)きました。


「スイとティナも十(じゅっ)級(きゅう)だよね? でもじーちゃんは十(じゅっ)級(きゅう)だけでは行かせられないからって…あれれ?」


「ちょっと。さりげなく呼(よ)び捨(す)てするんじゃないわよ一応(いちおう)年上(としうえ)なんだから」


 スイはじろりとショースケをにらみます。


「わたしは呼(よ)び捨(す)てで全然(ぜんぜん)いいよー! ふふふ…実(じつ)はわたしたち十(じゅっ)級(きゅう)じゃないんだなー」


 ティナは胸(むね)につけていたバッジを外(はず)して、裏面(うらめん)を二人(ふたり)に見(み)せました。


 そこにはしっかり『九(きゅう)級(きゅう)』と書(か)かれています。


「えええええ⁉ なんでなんで同期(どうき)なのに!」


 ショースケは急(いそ)いで自分(じぶん)もバッジを外(はず)して裏(うら)を向(む)けてみますが、悲(かな)しいかなそこには『十(じゅっ)級(きゅう)』の文字(もじ)が光(ひか)っています。


 ティナは人差(ひとさ)し指(ゆび)を頬(ほお)に添(そ)えてうーんと考(かんが)えてから口(くち)を開(ひら)きます。


「やっぱりわたしたち本部(ほんぶ)に住(す)んでるから、お仕事(しごと)の量(りょう)が違(ちが)うんじゃないかな。あんまり暇(ひま)なときって無(な)いもの」


 ショースケがやっている時(とき)目(め)木(き)町(ちょう)の仕事(しごと)は一(いっ)週間(しゅうかん)呼(よ)び出(だ)しが無(な)いこともざらにありますので、当然(とうぜん)と言(い)えば当然(とうぜん)でしょう。


「ううん…なんか不公平(ふこうへい)だ…」


 座席(ざせき)の上(うえ)で膝(ひざ)を抱(かか)え込(こ)んで頬(ほお)を膨(ふく)らませているショースケの背中(せなか)を、隣(となり)に座(すわ)っているタカヤがぽんぽんと叩(たた)きます。


「で、でもでも! 僕(ぼく)らにはタカヤのコスモピースだってあるもの。きっとすぐに追(お)い抜(ぬ)いて特級(とっきゅう)になっちゃうんだから!」


 何(なに)か言(い)い返(かえ)さないとどうにも気(き)が済(す)まないのでしょう、ショースケは少(すこ)し大(おお)きな声(こえ)を出(だ)しました。


「コスモピース?」


 スイとティナが声(こえ)を揃(そろ)えて尋(たず)ねます。


「すっごいんだよ! 空(そら)を飛(と)んだり物(もの)を探(さが)したり…とにかく何(なに)だって出来(でき)ちゃうの!」


 自慢(じまん)げに語(かた)るショースケの横(よこ)で、タカヤは顔(かお)を赤(あか)くして困(こま)っています。


「ショースケ、あんまりその話(はなし)は…」


「えーなんで。あんなにすごいのに! タカヤはもっと自慢(じまん)したらいいんだよ」


 ショースケの話(はなし)を半信半疑(はんしんはんぎ)で聞(き)きながら、スイは持(も)ち込(こ)んでいた細長(ほそなが)いクッキーのような携帯(けいたい)食料(しょくりょう)を二(ふた)つ手(て)に取(と)り、一(ひと)つをティナに差(さ)し出(だ)しました。


「へー…そんな力(ちから)本当(ほんとう)にあるのかしら。後(あと)で是非(ぜひ)見(み)せてもらいたいものだわ、ねぇティナ…ティナ?」


 ティナはうつむいて考(かんが)え事(ごと)をしているようです。


「ティナったら。これいらないの?」


「…あ! いるいる。ごめんお姉(ねえ)ちゃん」


「え! 何(なに)か食(た)べてる! いいなー僕(ぼく)にもちょうだいよ」


 ショースケが後(うし)ろの席(せき)からぐぐっと身(み)を乗(の)り出(だ)しました。


「あなたたちのなんて持(も)ってきてるわけないじゃない。二(ふた)つしかないわよ」


「お姉(ねえ)ちゃんいじわる言(い)わないの。ほら、わたしたちが半分(はんぶん)こしたら四(よっ)つになるじゃない」


「えぇ…もう、仕方(しかた)ないわね」


 スイとティナは携帯(けいたい)食料(しょくりょう)を二(ふた)つに割(わ)って、ショースケとタカヤに渡(わた)します。


「えへへーありがとう!」


「あ、ありがとうございます!」


 四(よ)人(にん)が一(ひと)欠片(かけら)のずつの携帯(けいたい)食料(しょくりょう)を大事(だいじ)に味(あじ)わっていると、機体(きたい)の壁(かべ)に取(と)り付(つ)けられた緑色(みどりいろ)のランプがピカピカと光(ひか)りました。


「どうやら到着(とうちゃく)したみたいね。着陸(ちゃくりく)するわよ、みんな準備(じゅんび)して」



****



 どこまでも続(つづ)くエメラルドグリーンの草原(そうげん)の上(うえ)に、UFO(ゆーふぉー)はふわりと着陸(ちゃくりく)しました。


「うわー…! ここが惑星(わくせい)ミッシェル…本(ほん)で読(よ)んだとおり綺麗(きれい)なところだね!」


 ショースケが嬉(うれ)しそうにぴょんぴょんジャンプすると、地面(じめん)に足(あし)をつく度(たび)にでピンク色(いろ)のけむりがもわもわと立(た)ち上(のぼ)ります。


「ちょっとやめてよ。この辺(あた)りの土(つち)はとても軽(かる)いんだから、周(まわ)りが見(み)えにくくなるじゃない」


「えーこれぐらいいいじゃない、スイ…さんは厳(きび)しいなあ」


 口(くち)を尖(とが)らせるショースケに背(せ)を向(む)けて、スイは右手(みぎて)の人差(ひとさ)し指(ゆび)にはめた指輪(ゆびわ)に手(て)を触(ふ)れました。


 指輪(ゆびわ)にはどうやら小(ちい)さくしたポスエッグが装着(そうちゃく)されているようで、スイはその水色(みずいろ)のポスエッグの中(なか)から地図(ちず)のような紙(かみ)を取(と)り出(だ)します。


「コール石(せき)が取(と)れるのはここから右手(みぎて)に行(い)ったところで…ヤワクの実(み)が採(と)れるのは逆(ぎゃく)の方向(ほうこう)みたいね」


「それなら、二手(ふたて)に分(わ)かれて採(と)りに行(い)こうよ!」


 ティナがにこりと笑(わら)って提案(ていあん)します。


「そうね、それが一番(いちばん)効率(こうりつ)的(てき)かも。じゃあティナ、私(わたし)たちはコール石(せき)の方(ほう)に…」


 スイが話(はな)し終(お)わるよりも先(さき)に、ティナはタカヤの腕(うで)を両手(りょうて)でぎゅっと掴(つか)みました。


「それじゃあタカヤくん、一緒(いっしょ)に行(い)こうか!」


「え、え?」


 ティナはスイと同(おな)じ右手(みぎて)の人差(ひとさ)し指(ゆび)にはめられた指輪(ゆびわ)についたピンクのポスエッグから、スカイボードによく似(に)た二人(ふたり)乗(の)りの乗(の)り物(もの)を出(だ)しました。


 困惑(こんわく)しているタカヤの腕(うで)を無理(むり)やり引(ひ)っ張(ぱ)って、ティナはタカヤを乗(の)り物(もの)の後(うし)ろに乗(の)せます。


「ちょっとティナ! コンビなんだから私(わたし)と一緒(いっしょ)でしょ⁉」


「十(じゅっ)級(きゅう)と九(きゅう)級(きゅう)一人(ひとり)ずつの方(ほう)がバランスがいいじゃない! お姉(ねえ)ちゃん、ショースケくんは頼(たの)んだよー!」


 そう言(い)い残(のこ)して、ティナとタカヤを乗(の)せた乗(の)り物(もの)はヤワクの実(み)が採(と)れる方角(ほうがく)へと消(き)えて行(い)きました。



****



「ねえ待(ま)って置(お)いていかないでー!」


 ショースケは叫(さけ)びますが、すでに遠(とお)く離(はな)れてしまった二人(ふたり)には届(とど)きません。


「全(まった)くティナは…仕方(しかた)ないわね。ほら、ショースケ行(い)くわよ」


「…僕(ぼく)には呼(よ)び捨(す)てするなって言(い)ったくせに、僕(ぼく)のことは呼(よ)び捨(す)てにするんだー」


 ぶつくさ言(い)いながら、ショースケはスイの隣(となり)に並(なら)びます。


「私(わたし)の方(ほう)が七(なな)つくらい年上(としうえ)なんだからいいでしょ。…しまった、乗(の)り物(もの)はティナが乗(の)って行(い)っちゃったんだっけ。ねぇショースケ何(なに)か持(も)ってない?」


「あるにはあるけどー…」


 ショースケがエッグロケットの中(なか)からスカイボードを引(ひ)っ張(ぱ)り出(だ)してスイッチを押(お)すと、スカイボードはぼんやり光(ひか)りながら空中(くうちゅう)に少(すこ)し浮(う)かびます。


「へえ、私(わたし)たちが持(も)ってる乗(の)り物(もの)に似(に)てるわね」


「ティナさんが乗(の)っていた乗(の)り物(もの)、多分(たぶん)じーちゃんが作(つく)ったんでしょ? 僕(ぼく)のこれもじーちゃんが作(つく)ったんだから似(に)てて当然(とうぜん)だよ。さ、燃料(ねんりょう)がもったいないから早(はや)く乗(の)って」


 スイを後(うし)ろに乗(の)せて、ショースケが右手(みぎて)のハンドルをひねるとスカイボードは空中(くうちゅう)を滑(すべ)るように進(すす)み始(はじ)めました。


 目(め)の前(まえ)にはオレンジ色(いろ)の水(みず)たまりやガラスのように照(て)り照(て)りした木々(きぎ)など、初(はじ)めて見(み)る摩訶不思議(まかふしぎ)な光景(こうけい)が広(ひろ)がっています。


「ちょっと。ぐらぐらしてるわよ、運転(うんてん)しながらよそ見(み)しないの」


「ごめんごめん、だってどこを見(み)ても珍(めずら)しいものばかりなんだもの。それにしても本当(ほんとう)に綺麗(きれい)なところだよね」


「そうね、この辺(へん)は美(うつく)しい場所(ばしょ)として有名(ゆうめい)よね」


「この辺(へん)は?」


 ショースケは前(まえ)を見(み)たまま尋(たず)ねました。


「ここよりずーっと先(さき)に、イアル山(やま)っていう山(やま)があるの。そこはこの辺(へん)の景観(けいかん)とは全然(ぜんぜん)違(ちが)って、凄(すご)く物々(ものもの)しい雰囲気(ふんいき)よ」


「あ、僕(ぼく)知(し)ってるよ。超(ちょう)強(つよ)いって有名(ゆうめい)なオンガイルゴンが住(す)んでるところだよね…うぅ、そう言(い)われると怖(こわ)くなってきた。この辺(へん)に居(い)たりしないかな」


 ショースケが辺(あた)りをキョロキョロ見渡(みわた)したので、スカイボードはまた大(おお)きくグラグラと揺(ゆ)れました。


「大丈夫(だいじょうぶ)よ。イアル山(やま)にはそこでしか採(と)れない赤(あか)い鉱物(こうぶつ)『アズール石(せき)』があって、それがオンガイルゴンの主食(しゅしょく)なの。オンガイルゴンはアズール石(せき)が採(と)れるところの近(ちか)くに巣(す)を作(つく)って、その近(ちか)くしか行動(こうどう)しない習性(しゅうせい)があるからこの辺(へん)にはまず居(い)ないわよ。…あ、見(み)えたわね」


 スイが指(ゆび)を差(さ)した先(さき)にはエメラルドグリーンに輝(かがや)く岩場(いわば)が広(ひろ)がっています。


「あそこで採(と)れるのがコール石(せき)よ。さ、ぱぱっと採(と)ってティナたちと合流(ごうりゅう)しましょ」



****



「あの、ティナさん?」


「んー? なぁに、ティナでいいよー!」


 運転(うんてん)しているティナは、タカヤの方(ほう)を振(ふ)り返(かえ)らずに答(こた)えます。


「いえ、それは申(もう)し訳(わけ)ないので…。ええと、なんで俺(おれ)をこっちに連(つ)れてきたんですか?」


「それはねー、タカヤくんに聞(き)きたいことがあったから!」


「聞(き)きたいこと…?」


「うん! 直球(ちょっきゅう)で聞(き)くね、タカヤくんって…特級(とっきゅう)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)でしょ?」


 …タカヤはゴクリと唾(つば)を飲(の)んだあと、いつも通(どお)りにこりと笑(わら)います。


「あはは、そんなわけないじゃないですか、一体(いったい)どうしたんです?」


「隠(かく)さなくて大丈夫(だいじょうぶ)だよー。ここ惑星(わくせい)ミッシェルでの特級(とっきゅう)としての依頼(いらい)も、博士(はかせ)から受(う)けてるんでしょ? そうだなーおそらく…最近(さいきん)荒(あ)れてるオンガイルゴンを落(お)ち着(つ)かせて欲(ほ)しい! どう、正解(せいかい)?」


 ティナは周囲(しゅうい)を白(しろ)い花(はな)のつぼみで囲(かこ)まれた丘(おか)の上(うえ)に乗(の)り物(もの)を止(と)めて降(お)りると、真(ま)っ青(さお)なタカヤの顔(かお)を覗(のぞ)き込(こ)んで申(もう)し訳(わけ)なさそうに笑(わら)いました。


「ごめんね、驚(おどろ)かせちゃったね。お姉(ねえ)ちゃんやショースケくんと一緒(いっしょ)のままじゃタカヤくんが特級(とっきゅう)の仕事(しごと)に行(い)けないと思(おも)って連(つ)れ出(だ)したの。安心(あんしん)して、お姉(ねえ)ちゃんはこのこと知(し)らないから」


「…どうして知(し)ってるんですか」


「うーん、本当(ほんとう)に偶然(ぐうぜん)なの。まずはお仕事(しごと)として宇宙警察(うちゅうけいさつ)の隊員情報(たいいんじょうほう)を整理(せいり)をしていたときに、今年(ことし)の試験(しけん)の合格者(ごうかくしゃ)の数(かず)と新(あたら)しく十級(じゅっきゅう)になった人(ひと)の数(かず)が合(あ)わなかったの。さらに去年(きょねん)一人(ひとり)いたはずの特別(とくべつ)宇宙警察(うちゅうけいさつ)…試験(しけん)を受(う)けずに宇宙警察(うちゅうけいさつ)の仕事(しごと)を任(まか)されている人(ひと)がいなくなっていることに気(き)がついて。担当(たんとう)の人(ひと)に聞(き)いたら、その人(ひと)は今年(ことし)の試験(しけん)に受(う)かって正式(せいしき)に宇宙警察(うちゅうけいさつ)になったって、そしてそのすごい能力(のうりょく)によって特級(とっきゅう)に選(えら)ばれたらしいって教(おし)えてもらったの。誰(だれ)とは教(おし)えてくれなかったけどね」


 ティナは乗(の)り物(もの)をポスエッグの中(なか)にしまいながら続(つづ)けます。


「その少(すこ)し後(あと)だったかな。博士(はかせ)のコンビの…若(わか)い地球(ちきゅう)人(じん)のお兄(にい)さんが研究室(けんきゅうしつ)を訪(たず)ねてきて。博士(はかせ)と話(はな)しているところにお茶(ちゃ)とお菓子(かし)を持(も)って行(い)ったら…ちょうど特別(とくべつ)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)だった人(ひと)の話(はなし)をしてたの」


 …タカヤは何(なに)も言(い)いません。


「そのお兄(にい)さんがね、すごく真剣(しんけん)に話(はな)してたから。きっと特別(とくべつ)宇宙警察(うちゅうけいさつ)だったのはお兄(にい)さんの大切(たいせつ)な人(ひと)で、そしておそらく…地球人(ちきゅうじん)なんだと思(おも)ったの。地球人(ちきゅうじん)の今年(ことし)の試験(しけん)の合格者(ごうかくしゃ)はわたしたち姉妹(しまい)とタカヤくんとショースケくんだけ」


 ティナがその場(ば)に屈(かが)んで近(ちか)くに生(は)えていた一(ひと)つだけ黒(くろ)い花(はな)のつぼみをつつくと、花(はな)が咲(さ)くと同時(どうじ)にポロンとピアノのような音(おと)が鳴(な)りました。


 すると周囲(しゅうい)の白(しろ)いつぼみが連鎖(れんさ)するように開(ひら)いていき、美(うつく)しいメロディーを奏(かな)でながら辺(あた)り一面(いちめん)は真(ま)っ白(しろ)な花畑(はなばたけ)になっていきます。


「それで今日(きょう)博士(はかせ)に一人(ひとり)で資料室(しりょうしつ)に呼(よ)ばれたタカヤくんを見(み)て、さらにショースケくんからコスモピースの話(はなし)を聞(き)いて確信(かくしん)したの。あ! 依頼(いらい)のことは博士(はかせ)の研究室(けんきゅうしつ)にオンガイルゴンが荒(あ)れて困(こま)ってるって書(か)かれた紙(かみ)が転(ころ)がってたからそれかなって」


 …小(ちい)さく一(ひと)つ息(いき)を吐(つ)いて、タカヤは数(すう)歩(ほ)進(すす)んでティナの隣(となり)に屈(かが)みました。


「すごいですね、全部(ぜんぶ)正解(せいかい)ですよ」


「やっぱりそっか。ごめんね、タカヤくんには話(はな)さずにこっそりサポートすることも考(かんが)えたんだけど…それはそれでタカヤくんがやりにくいかなって。安心(あんしん)して、誰(だれ)にも言(い)わないから」


「そうですね…話(はな)していただけなかったら、バレてるんじゃないかってずっと警戒(けいかい)していたと思(おも)います。…俺(おれ)のこと、考(かんが)えてくださってありがとうございます」


 タカヤがぎゅっと口角(こうかく)を上(あ)げて、年(とし)に似合(にあ)わない、貼(は)り付(つ)けたような笑顔(えがお)を浮(う)かべて見(み)せるのをティナはじーっと見(み)つめていました。


「ねえ、特級(とっきゅう)だってショースケくんにも言(い)ってないのは博士(はかせ)に止(と)められてるから?」


「はい。すごいですね、なんでもお見通(みとお)しだ」


「ふふ、今(いま)のタカヤくん見(み)てたらわかるよ。博士(はかせ)が止(と)めてる理由(りゆう)」


 検討(けんとう)もつかないタカヤは、きょとんとした顔(かお)を向(む)けます。


「博士(はかせ)はねー、タカヤくんに子(こ)どもでいて欲(ほ)しいんだよ。だってショースケくんといるときのタカヤくんはとってもかわいいもの!」


 ティナはにこーっと笑(わら)ってタカヤをぎゅっと抱(だ)きしめました。


「か、かわいい…ですか⁉」


「うん! あ、もちろん今(いま)もとってもかわいいけどね?」


「ええと…ありがとうございます…?」


 恥(は)ずかしそうに腕(うで)の中(なか)で固(かた)まっているタカヤを数回(すうかい)よしよしと撫(な)でた後(あと)パッと離(はな)して、ティナはシャキッと立(た)ち上(あ)がりました。


「さて、お仕事(しごと)再開(さいかい)しようか! 実(じつ)はヤワクの実(み)はここで採(と)れるんだよ」


 先(さき)ほどたくさん咲(さ)いた白(しろ)い花(はな)の真(ま)ん中(なか)には、よく見(み)ると黒(くろ)いとげとげの実(み)が実(みの)っています。


「これがヤワクの実(み)…ですか?」


「そう。少(すこ)し採(と)り方(かた)が特殊(とくしゅ)でね、最初(さいしょ)に一(ひと)つだけある黒(くろ)いつぼみを触(さわ)らないと全部(ぜんぶ)の花(はな)が開(ひら)かない仕組(しく)みなの。ちゃんと事前(じぜん)に調(しら)べて来(き)たんだから」


 得意(とくい)げにティナは笑(わら)いました。


「確(たし)かに、これは知(し)らなかったら採(と)れないですね。ティナさん、ありがとうございます」


 屈(かが)んだまま花(はな)を見(み)ているタカヤの背中(せなか)を、ティナは押(お)し出(だ)すようにポンと叩(たた)きます。


「ほら! ここはわたしに任(まか)せて、タカヤくんは特級(とっきゅう)のお仕事(しごと)に行(い)っておいで! くれぐれも気(き)をつけてねー」


「いいんですか?」


「うん。ヤワクの実(み)も十(じゅっ)個(こ)くらい採(と)れば十分(じゅうぶん)だから、わたし一人(ひとり)で大丈夫(だいじょうぶ)だよ! ほら、急(いそ)がないとお姉(ねえ)ちゃんたちがコール石(せき)を採(と)って戻(もど)ってきちゃうよ! 行(い)った行(い)った!」


「は、はい! ありがとうございます!」


 タカヤはコスモピースの力(ちから)を解放(かいほう)して両目(りょうめ)を禍々(まがまが)しく輝(かがや)かせると、目(め)にも止(と)まらぬスピードで飛(と)んでいきました。



「ひゃー…あんなにすごいんだ! わたしたち本当(ほんとう)に抜(ぬ)かされちゃうかもだから頑張(がんば)らないとなぁ」


 タカヤが見(み)えなくなった後(あと)もしばらく大(おお)きく手(て)を振(ふ)ってから、ティナはもう一度(いちど)屈(かが)んでヤワクの実(み)を一(ひと)つずつ採取(さいしゅ)し始(はじ)めました。




 …その様子(ようす)を遠(とお)くの草(くさ)むらから眺(なが)める、大(おお)きな赤(あか)い瞳(ひとみ)が一(ひと)つありました。


挿絵(By みてみん)

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