↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/34

第九話 1人の仕事は絶好のチャンス?

****


 じめじめとした暑(あつ)さを感(かん)じるようになってきた月曜日(げつようび)の昼休(ひるやす)み。


「こっちこっち! ここだよ!」


 はしゃぐカズに連(つ)れられて、四(よ)人(にん)は二(に)階(かい)図書室(としょしつ)前(まえ)のトイレにやってきました。


 トイレの外(そと)にはガヤガヤと人(ひと)だかりが出来(でき)ていて、どう見(み)ても異様(いよう)な雰囲気(ふんいき)です。


「…で、今度(こんど)はここのトイレがどうしたんだっけ」


 そう言(い)いながらミオは顎(あご)が外(はず)れそうなほど大(おお)きなあくびをしました。


「ミオいつにも増(ま)して眠(ねむ)そうじゃん、どしたの」


 ショースケの問(と)いかけにミオはもう一度(いちど)あくびをして、目元(めもと)をごしごし擦(こす)ります。


「んー…今度(こんど)おれがいつもやってるゲームのオンライン大会(たいかい)があるから、ここのところそれの対策(たいさく)考(かんが)えててねー」


「だめだよーちゃんと寝(ね)ないと! 健全(けんぜん)な魂(たましい)は健全(けんぜん)な肉体(にくたい)に宿(やど)るんだから!」


 ショースケは偉(えら)そうに人差(ひとさ)し指(ゆび)をピッと立(た)てて、得意(とくい)げに振舞(ふるま)って見(み)せます。


そこへ、図書室(としょしつ)へ向(む)かっていた同(おな)じクラスの洋平(ようへい)が通(とお)りかかりました。


 洋平(ようへい)はショースケたちを気(き)が付(つ)くと、楽(たの)しそうにくすりと笑(わら)います。


「皆(みな)さんいつも元気(げんき)だね。あれ、今日(きょう)はタカヤさんはいないの?」


「うん、タカヤは学級(がっきゅう)委員(いいん)の会(かい)に出席(しゅっせき)してるんだよ!」


 ショースケは妙(みょう)にニコニコしながら答(こた)えました。


 そう、もしここにタカヤがいたなら…きっとショースケの先(さき)ほどの発言(はつげん)にほとほと呆(あき)れていたことでしょう。


 だってショースケは昨日(きのう)も思(おも)い切(き)り夜更(よふ)かしして、四(よ)時間(じかん)目(め)の授業(じゅぎょう)中(ちゅう)うとうと舟(ふね)を漕(こ)いでいたところを後(うし)ろの席(せき)のタカヤに起(お)こされたのですから。


 しかしそんなタカヤは今(いま)はいません、ショースケは自由(じゆう)にのびのびと振(ふ)る舞(ま)えるってわけです。


「な、なあ…やっぱり入(はい)るのやめねー…?」


 人(ひと)だかりから少(すこ)し離(はな)れたところから、レンが小(ちい)さく声(こえ)を漏(も)らしました。


「何(なに)言(い)ってるのレン! 例(れい)の話(はなし)、これは絶対(ぜったい)調査(ちょうさ)するべきでしょ!」


 カズはもうお目々(めめ)キラッキラです。


「例(れい)の話(はなし)…? 何(なん)の事(こと)かな」


 ピンと来(き)ていない洋平(ようへい)に、カズはずずいと迫(せま)って嬉(うれ)しそうに早口(はやくち)で説明(せつめい)します。


 そう、この時(とき)目(め)木(き)小学校(しょうがっこう)は今日(きょう)はあるウワサで持(も)ちきりなのです。


『二(に)階(かい)図書室(としょしつ)前(まえ)の男子(だんし)トイレ、その一番(いちばん)奥(おく)の個室(こしつ)である掃除(そうじ)道具(どうぐ)置(お)き場(ば)から、何(なに)もいないのにガタガタ音(おと)がするらしい』


 大体(だいたい)の生徒(せいと)はこのウワサを聞(き)いてここのトイレに近(ちか)づかないようにしているのですが…一部(いちぶ)の物好(ものず)きな生徒(せいと)たちがこのトイレに集(あつ)まってしまっている、というわけです。


 そしてその中(なか)の最(さい)たる一人(ひとり)であるカズは、朝(あさ)からこのウワサが気(き)になって仕方(しかた)がありません。


 それこそ昼休(ひるやす)みになるまで何(なに)を言(い)っても上(うわ)の空(そら)で、次(つぎ)の授業(じゅぎょう)について尋(たず)ねた質問(しつもん)の答(こた)えが好(す)きな食(た)べ物(もの)だったくらいです。


「なるほど…和彦(かずひこ)さんが好(す)きそうな話(はなし)だね。そういうことならショースケさん」


 洋平(ようへい)はショースケの目(め)をまっすぐ見据(みす)えました。


「くれぐれも気(き)を付(つ)けてね」


「え、ええと…何(なん)でそれを僕(ぼく)に言(い)うの?」


「うーん、何(なん)となく、かな」


 ショースケは思(おも)わずゴクリと唾(つば)を飲(の)みました。


 洋平(ようへい)は妙(みょう)に勘(かん)が鋭(するど)いのです、天気(てんき)予報(よほう)がどれだけ今日(きょう)は晴(は)れると言(い)っても、洋平(ようへい)が雨(あめ)が降(ふ)ると言(い)えば雨(あめ)が降(ふ)るほどです。


 そんな洋平(ようへい)にそう言(い)われてしまったら…ショースケはとてつもなく不安(ふあん)になってきました。


「それじゃあ私(わたし)は図書(としょ)の本(ほん)を借(か)りてくるよ」


 洋平(ようへい)は廊下(ろうか)の先(さき)にある図書室(としょしつ)へと入(はい)って行(い)きました。



****



 さてトイレの外(そと)に集(あつ)まっていた物好(ものず)きな生徒(せいと)たちはウキウキと順番(じゅんばん)に中(なか)に入(はい)っていきますが、どうも期待(きたい)していたことは何(なに)も起(お)こらなかったのか…残念(ざんねん)そうに出(で)てきては帰(かえ)っていきます。


 そしてついにトイレの周(まわ)りにいるのはショースケたちだけになりました。


「ねぇねぇ早(はや)く入(はい)ろう! 早(はや)く早(はや)く!」


 あくせくと手招(てまね)くカズに、レンは心底(しんそこ)嫌(いや)そうです。


「レン、タカヤがいなくて残念(ざんねん)だったねー。チャンスだったのに」


 ミオはこそこそと小(ちい)さな声(こえ)でレンに耳打(みみう)ちします。


「チャンス…? 何(なに)がだよ」


「例(たと)えば本当(ほんとう)にガタガタ音(おと)がしたとするでしょ? そしたら『きゃー怖(こわ)ーい』ってタカヤに抱(だ)きつけたじゃん」


「はぁ⁉ 誰(だれ)がそんなことするか!」


 レンは顔(かお)を真(ま)っ赤(か)にしながらミオの背中(せなか)を一発(いっぱつ)ペチンと叩(たた)きました。


「ねー二人(ふたり)ともいつまでやってんの! もう入(はい)っちゃうからね!」


 カズはしびれを切(き)らしたのか、一人(ひとり)でトイレに入(はい)っていきました。


 すると…


 トイレの奥(おく)からガタガタと音(おと)がして、カズが大(おお)きな叫(さけ)び声(ごえ)を上(あ)げました。


「カズ⁉ 大丈夫(だいじょうぶ)⁉」


 ショースケは急(いそ)いでトイレの中(なか)に駆(か)け込(こ)んで…目(め)を大(おお)きく見開(みひら)き、口(くち)をぽっかり開(あ)けたまま固(かた)まってしまいました。


 だってトイレの一番(いちばん)奥(おく)の個室(こしつ)である掃除(そうじ)用具(ようぐ)入(い)れからは、二(に)メートルはありそうな長(なが)ーいET(いーてぃー)が顔(かお)を出(だ)していたからです。


 赤(あか)い体(からだ)に長(なが)い象(ぞう)のような鼻(はな)、小(ちい)さな点(てん)のようないくつもの目(め)、三本(さんぼん)生(は)えた角(つの)なのか耳(みみ)なのかわからない突起(とっき)…。 


 残念(ざんねん)ながら間違(まちが)いありません、つい三日前(みっかまえ)の金曜日(きんようび)、特急(とっきゅう)こすもに乗(の)って時(とき)目(め)木(き)町(ちょう)にやってきたローナグ星人(せいじん)です。


 そんなローナグ星人(せいじん)は、ショースケを見(み)た途端(とたん)に小(ちい)さな目(め)をギョロリと大(おお)きくして、嬉(うれ)しそうに体(からだ)をぶんぶん揺(ゆ)らしました。


「わあ、ショースケ隊員(たいいん)だ! やっと会(あ)えましたー!」


 その大(おお)きな体(からだ)が掃除(そうじ)用具(ようぐ)入(い)れに置(お)いてあるデッキブラシに当(あ)たり、そのデッキブラシが倒(たお)れて壁(かべ)に当(あ)たってまたガタリと音(おと)が立(た)ちます。 


「ひゃあ、また鳴(な)ってる! 誰(だれ)もいないのに!」


 カズは瞳(ひとみ)をこれでもかと輝(かがや)かせています。


 どうやらローナグ星人(せいじん)はきちんとキラキラ粉(こ)を使用(しよう)しているようで、カズには姿(すがた)が見(み)えていないようなのでショースケはひとまず安堵(あんど)しました。


 しかしキラキラ粉(こ)はET(いーてぃー)が物(もの)に当(あ)たった音(おと)はほとんどの地球(ちきゅう)人(じん)に認識(にんしき)できないようにしてくれますが、物(もの)同士(どうし)が当(あ)たった音(おと)はその対象(たいしょう)ではありません。


 なので個室(こしつ)の中(なか)にギチギチに詰(つ)め込(こ)まれた掃除(そうじ)用具(ようぐ)がローナグ星人(せいじん)が動(うご)くことによってぶつかりあって音(おと)を立(た)て、それがカズたちに聞(き)こえてしまっているのです。


「すみませんご迷惑(めいわく)おかけします! ところでタカヤ隊員(たいいん)はいないんですか⁉ 是非(ぜひ)ご挨拶(あいさつ)したいんですけど!」


 ローナグ星人(せいじん)はまだ体(からだ)をゆらゆら揺(ゆ)らしています。


 …ショースケが何故(なぜ)しっかりローナグ星人(せいじん)のことを覚(おぼ)えていたかというと…実(じつ)はこのET(いーてぃー)、超(ちょう)がつくほどの「宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)マニア」なのです。


 三日前(みっかまえ)に特急(とっきゅう)こすもから降(お)り立(た)ったその瞬間(しゅんかん)から、ショースケやタカヤと写真(しゃしん)を撮(と)りたがったりサインを欲(ほ)しがったり…そして二日前(ふつかまえ)にはライトとショースケに会(あ)いたくて、ショースケの家(いえ)の庭(にわ)に侵入(しんにゅう)して出待(でま)ちをしていたりとなかなか問題行動(もんだいこうどう)の目立(めだ)つET(いーてぃー)なのです。


 ショースケがどうしたものかと頭(あたま)を悩(なや)ませていると…


「ちょっとレンー、おれに抱(だ)きついても意味(いみ)ないじゃーん」


 ガタガタ震(ふる)えるレンを腰(こし)にひっつけたまま、ミオがトイレの中(なか)に入(はい)ってきました。


「いいいいいい今(いま)音(おと)してたよな⁉ 無理(むり)無理(むり)やっぱりお化(ば)けだって‼」


「もー歩(ある)きにくいなあ、おれも見(み)に行(い)きたいのに。ショースケちょっと代(か)わってー」


 そう言(い)うとミオはレンの腕(うで)を自分(じぶん)の腰(こし)から引(ひ)き剥(は)がして、ショースケの腰(こし)に巻(ま)き付(つ)けようとしました。


 するとレンは、急(きゅう)に平然(へいぜん)を装(よそお)ってまっすぐ立(た)ち上(あ)がります。


「べ…別(べつ)に怖(こわ)くねーし?」


「なに。僕(ぼく)に抱(だ)きつくのはそんなに嫌(いや)なの」


 ショースケが顔(かお)をしかめてそう言(い)うと、またローナグ星人(せいじん)が奥(おく)の個室(こしつ)で何(なに)かを倒(たお)してしまったのでしょう、ガタリと大(おお)きな音(おと)が鳴(な)りました。


「ぎゃぁあああああああっ!!!!」


 レンは叫(さけ)びながらショースケの腰(こし)にビトッと貼(は)り付(つ)きます。


「うわぁ別(べつ)に抱(だ)きつかれたいわけじゃない! 邪魔(じゃま)だよ、怖(こわ)いなら教室(きょうしつ)帰(かえ)ったらいいじゃん!」


「オレだけ帰(かえ)ってお化(ば)けに呪(のろ)われたらどうするんだよぉ…」


 レンはべそをかいて、目(め)をしっかり瞑(つむ)ったまま腕(うで)の力(ちから)を強(つよ)めます。


 ショースケは腰(こし)をぶんぶん揺(ゆ)すりましたが、ぎゅっとしがみついたレンは振(ふ)り落(お)とせそうにありませんので、仕方(しかた)なくそのまま放(ほう)っておくことにしました。


 さてどうしましょう。


 三(さん)人(にん)がいる手前(てまえ)、宇宙(うちゅう)公用語(こうようご)で話(はな)しかけるわけにもいきませんし…


 ショースケは腰(こし)にレンをくっつけたまま、ローナグ星人(せいじん)をじーっと穴(あな)が開(あ)くほど見(み)つめました。


 視線(しせん)に気(き)がついたローナグ星人(せいじん)は嬉(うれ)しそうに声(こえ)を出(だ)します。


「実(じつ)はボク、お二人(ふたり)の日常(にちじょう)の様子(ようす)が見(み)たくてここに侵入(しんにゅう)したんです! でも迷(まよ)っちゃって隠(かく)れてたら、なにやらウワサが立(た)ってしまったみたいで…引(ひ)っ切(き)り無(な)しに地球人(ちきゅうじん)が覗(のぞ)きに来(く)るから抜(ぬ)け出(だ)せなくなってしまいました!」


 なんて困(こま)った観光客(かんこうきゃく)なんでしょう、早急(そうきゅう)に宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)に対策(たいさく)してもらわなければ。


 しかしさすがは宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)マニア、宇宙(うちゅう)公用語(こうようご)で話(はな)してくれたので翻訳機(ほんやくき)をつけていないショースケにも聞(き)き取(と)ることが出来(でき)ました。


 とりあえずショースケはズボンのポケットの中(なか)のエッグロケットを握(にぎ)って、タカヤにテレパシーを送(おく)ってみようとして…ふと、こんなことを考(かんが)えました。


(待(ま)てよ、これは僕(ぼく)の評価(ひょうか)を上(あ)げる良(よ)い機会(きかい)なのでは?)


 先日(せんじつ)ポスリコモスで見(み)たところによると、タカヤはショースケより多(おお)くお給料(きゅうりょう)をもらっているようです。


 それは言(い)い換(か)えればタカヤの方(ほう)が高(たか)く評価(ひょうか)されているということで…ショースケにとってこれは一大事(いちだいじ)です。


(ここは僕(ぼく)だってすごいんだぞってことを、タカヤにも本部(ほんぶ)にもわかってもらうチャンスなんじゃない⁉)


 そうと決(き)まれば善(ぜん)は急(いそ)げです。


 ポケットの中(なか)のエッグロケットをパッと手放(てばな)して、ショースケは一人(ひとり)きりで仕事(しごと)に臨(のぞ)むことにしました。


 さてさて、まずはカズたち三(さん)人(にん)にこのトイレから離(はな)れてもらわなくては。


「ねぇカズーミオー? とりあえず一回(いっかい)帰(かえ)らない?」


 ショースケは声(こえ)をかけますが、二人(ふたり)は目(め)の前(まえ)で起(お)こっている不思議(ふしぎ)な事象(じしょう)にもう夢中(むちゅう)で返事(へんじ)はありません。


 ショースケはむむむと頭(あたま)をひねります。


(そうだ、この間(あいだ)ポスリコモスで買(か)ったアルコンヌ花(はな)を使(つか)って、みんなを眠(ねむ)らせてその間(あいだ)にローナグ星人(せいじん)さんを脱出(だっしゅつ)させるのはどうかな?)


 いいアイデアが浮(う)かんだと、ショースケは嬉(うれ)しそうにアルコンヌ花(はな)をエッグロケットから取(と)り出(だ)そうとして…はたと気付(きづ)きました。


 そういえば昔(むかし)読(よ)んだ本(ほん)によるとアルコンヌ花(はな)の眠(ねむ)らせる効果(こうか)はかなり強力(きょうりょく)で、一度(いちど)眠(ねむ)った生物(せいぶつ)は三日(みっか)は目(め)を覚(さ)まさないとか…。


(いやいや! それじゃだめだ、この後(あと)の授業(じゅぎょう)も出(で)れないじゃん怪(あや)しすぎる!)


 ショースケがもたもたと次(つぎ)の案(あん)を考(かんが)えている間(あいだ)にも、カズとミオはローナグ星人(せいじん)が入(はい)っている掃除(そうじ)用具(ようぐ)入(い)れを全開(ぜんかい)にしてまじまじと観察(かんさつ)しています。


「わあ、ほんとに何(なに)もいないよ! すごいすごーい!」


「いやーこのバケツの下(した)かも。めくってみよー」


 本当(ほんとう)にお化(ば)けだったらどうするんでしょう、怖(こわ)いもの知(し)らずな二人(ふたり)にはほとほと困(こま)ってしまいます。


 ローナグ星人(せいじん)は触(さわ)られないよう短(みじか)い六(ろっ)本(ぽん)の足(あし)で必死(ひっし)に壁(かべ)を登(のぼ)って、天井(てんじょう)と個室(こしつ)の壁(かべ)の間(あいだ)で固(かた)まっています。


「ショースケ隊員(たいいん)この体勢(たいせい)すごくキツいです…助(たす)けてくださーい…」


 こうなったのはどう考(かんが)えてもローナグ星人(せいじん)の自業自得(じごうじとく)ですが…ショースケも宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)です、何(なに)もしないわけにはいきません。


(そうだ! みんなにここを離(はな)れたいと思(おも)わせればいいんだ!)


 ショースケはまたポケットの中(なか)のエッグロケットを探(さぐ)って、今度(こんど)は丸(まる)くて茶色(ちゃいろ)い玉(たま)を取(と)り出(だ)しました。


(じゃじゃーん、クシュウニ! これが割(わ)れると、確(たし)か中(なか)からくさい臭(にお)いがぶわっと出(で)てくるんだよね。そしたらきっと三(さん)人(にん)もここを離(はな)れたくなるだろうし…僕(ぼく)ってやっぱり天才(てんさい)だな)


 ショースケが意気揚々(いきようよう)と、クシュウニを床(ゆか)に向(む)かって投(な)げつけようと振(ふ)りかぶると…


「あわわわわやめてくださーーーい‼」


 突然(とつぜん)ローナグ星人(せいじん)が大(おお)きな声(こえ)で叫(さけ)びました。


「そ、それクシュウニですよね⁉ そんなのここで破裂(はれつ)させたら大変(たいへん)なことになりますよ! ボクの長(なが)い鼻(はな)がひんまがるどころでは済(す)みませんからね⁉」


 ショースケが昔(むかし)読(よ)んだ本(ほん)にはくさい臭(にお)いが出(で)るとしか書(か)いていなかったのですが…よく見(み)るとクシュウニの裏(うら)には、宇宙(うちゅう)公用語(こうようご)で書(か)かれた小(ちい)さな注意書(ちゅういが)きがあります。


『注意(ちゅうい) この製品(せいひん)の臭(にお)いは十万(じゅうまん)サイオンです。取(と)り扱(あつか)いには十分(じゅうぶん)気(き)を付(つ)けましょう』


 サイオンとは宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)で決(き)められた臭(にお)いの強(つよ)さの単位(たんい)で、確(たし)か地球(ちきゅう)のカメムシが…七(なな)サイオンだった気(き)がします。


 …ショースケは黙(だま)って、クシュウニをエッグロケットの奥(おく)の奥(おく)にしまいました。


(あぶないあぶない、大(だい)事件(じけん)を引(ひ)き起(お)こすところだった…)


 ショースケは冷(ひ)や汗(あせ)を拭(ぬぐ)います。


「ショースケ隊員(たいいん)危(あぶ)なっかしいですねー…でもまたそこも新人(しんじん)宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)って感(かん)じがしていいですね…!」


 ローナグ星人(せいじん)はなんだか嬉(うれ)しそうですが体力(たいりょく)はもう限界(げんかい)のようで、ゼーゼーと息(いき)をしながら壁(かべ)と天井(てんじょう)の隙間(すきま)から今(いま)にも落(お)ちそうです。


「ね、ねえ二人(ふたり)とも! もう帰(かえ)ろうよ、ほら何(なに)もいないんだし!」


 ショースケは慌(あわ)てて呼(よ)びかけます。


「んーそうだねぇ、音(おと)もしなくなったし。カズ帰(かえ)ろうかー」


「えーもうちょっと見(み)たかったなー」


 カズは不満(ふまん)そうに口(くち)を尖(とが)らせます。


「ほらレンも! いつまで僕(ぼく)の腰(こし)に貼(は)り付(つ)いてるの、帰(かえ)るから立(た)って!」


 まだべそをかいているレンも引(ひ)っ張(ぱ)って、ショースケは三(さん)人(にん)を連(つ)れてトイレから出(で)てきました。


 幸(さいわ)いトイレ周辺(しゅうへん)には他(ほか)に誰(だれ)もいないようです。


(よし! このまま教室(きょうしつ)に戻(もど)って、また僕(ぼく)だけこっそりここに戻(もど)って来(き)てなんとかしよう!)


 ショースケが教室(きょうしつ)への道(みち)を一歩(いっぽ)踏(ふ)み出(だ)すと…


 先(さき)ほどのトイレからドンガラガッシャーン!と大(おお)きな音(おと)がしました!


「わ! また音(おと)がした!」


 目(め)をもう一度(いちど)爛々(らんらん)と輝(かがや)かせて戻(もど)ろうとするカズよりも先(さき)に、ショースケは急(いそ)いでトイレの様子(ようす)を確認(かくにん)して驚(おどろ)きました。


 どうやら天井(てんじょう)付近(ふきん)で耐(た)えていたローナグ星人(せいじん)が足(あし)を滑(すべ)らせて、掃除(そうじ)用具(ようぐ)入(い)れの個室(こしつ)の中(なか)に落下(らっか)してしまったようです。


 個室(こしつ)の扉(とびら)は大(おお)きく開(ひら)いて、中(なか)に入(はい)っていたデッキブラシやバケツなんかが辺(あた)り一面(いちめん)に散乱(さんらん)しており、落(お)ちたローナグ星人(せいじん)は体(からだ)を打(う)ってしまったのか動(うご)けないようで、長(なが)い体(からだ)を伸(の)ばして床(ゆか)に横(よこ)たわっています。


 今(いま)トイレの中(なか)に入(はい)られたら…確実(かくじつ)にカズたちの体(からだ)にローナグ星人(せいじん)の一部(いちぶ)が触(ふ)れて、透明(とうめい)な何(なに)かがいることがバレてしまいます。


 キラキラ粉(こ)を使(つか)っていても触(ふ)れた感触(かんしょく)を無(な)かったことにはできません、それだけは何(なん)としても避(さ)けなければ!


 ショースケはトイレの入(い)り口(ぐち)を塞(ふさ)ぐように立(た)って、必死(ひっし)にカズとミオが入(はい)るのを阻(はば)みます。


「ねーショースケなんでそこに立(た)ってるの! 僕(ぼく)も入(はい)らせて!」


「すごい音(おと)だったねー。今(いま)なら何(なに)かいるかもー」


 二人(ふたり)はどうにかして中(なか)に入(はい)ろうとショースケの体(からだ)をぐいぐい押(お)してきて、状況(じょうきょう)はまさしく絶体絶命(ぜったいぜつめい)です。


(どうしよ! 本部(ほんぶ)に大規模(だいきぼ)な記憶(きおく)操作(そうさ)を頼(たの)まなきゃいけなくなったりしたら…僕(ぼく)の評価(ひょうか)に大(だい)打撃(だげき)だ!)


 ショースケが非常(ひじょう)に自己(じこ)中心(ちゅうしん)的(てき)な心配事(しんぱいごと)をしている間(あいだ)にも、カズとミオはショースケの腕(うで)の隙間(すきま)からトイレの中(なか)を覗(のぞ)き込(こ)もうとします。


 もうダメだと、ショースケが目(め)をぎゅっと瞑(つむ)ると…


「あれ、皆(みな)さんまだここにいたんだね」


 借(か)りてきた図書(としょ)の本(ほん)を持(も)った洋平(ようへい)が、廊下(ろうか)から声(こえ)をかけてきました。


「蓮(れん)さんはあそこで丸(まる)まってるし…ひょっとして何(なに)かあった?」


「あ! 聞(き)いてよ洋平(ようへい)、ショースケがひどいんだよ! ぼくらをトイレの中(なか)に入(い)れてくれないの、すごい音(おと)がしたから見(み)に行(い)きたいのに!」


 カズはぷんぷんとしながら訴(うった)えます。


 洋平(ようへい)はカズとショースケを交互(こうご)に見(み)て…


 ショースケの必死(ひっし)にすがるような視線(しせん)を察(さっ)したのか、くすりと微笑(ほほえ)んで口(くち)を開(ひら)きました。


「ねぇ和彦(かずひこ)さん。ここで何(なに)があったのか私(わたし)すごく気(き)になるな。よかったらこっちに来(き)てお話(はなし)してくれない?」


「え! やっぱり洋平(ようへい)も興味(きょうみ)ある⁉ もちろんいいよ聞(き)いて聞(き)いて!」


 カズは嬉(うれ)しそうに廊下(ろうか)にいる洋平(ようへい)の方(ほう)へ飛(と)び出(だ)していきます。


「それと未央斗(みおと)さん」


 洋平(ようへい)は今度(こんど)はミオに視線(しせん)を向(む)けました。


「向(む)こうの廊下(ろうか)で丸(まる)まってる蓮(れん)さんを助(たす)けてあげてくれないかな? ほら、蓮(れん)さんも私(わたし)より気心(きごころ)の知(し)れた未央(みお)斗(と)さんに助(たす)けてもらいたいだろうし」


「えー、まったくもうレンはしょうがないなー」


 ミオはめんどくさそうに言(い)いながらも、少(すこ)し嬉(うれ)しそうにニヤニヤしながらレンの元(もと)へ歩(ある)いていきました。


 そして洋平(ようへい)はもう一度(いちど)ショースケと目(め)を合(あわ)せると、「どうぞ」と声(こえ)を出(だ)さずに口(くち)を動(うご)かしました。


 この隙(すき)を逃(のが)す手(て)はありません。


(ありがとう洋平(ようへい)! 後(あと)でお礼(れい)を言(い)わないと!)


 ショースケはトイレの中(なか)に入(はい)りポケットからエッグロケットを取(と)り出(だ)して大(おお)きくすると、すごい速(はや)さでダイヤルを合(あ)わせて引(ひ)き金(がね)のようなスイッチを握(にぎ)り、トイレの入(い)り口(ぐち)に何(なに)か液体(えきたい)を吹(ふ)きかけました。


 すると液体(えきたい)は薄(うす)いガラスのようにピンと張(は)って固(かた)まり、入(い)り口(ぐち)に透明(とうめい)な膜(まく)ができます。


(この間(あいだ)買(か)ったテワスヨンの骨(ほね)を使(つか)って作(つく)った幻覚(げんかく)ガラス! このガラスを通(とお)して外(そと)から見(み)たこのトイレは、いつもの何事(なにごと)もない普通(ふつう)のトイレに見(み)える…はず!)


 しかしうすーい幻覚(げんかく)ガラスはショースケが動(うご)いた振動(しんどう)だけで揺(ゆ)れるほどもろいです。


(問題(もんだい)は二(に)分(ふん)くらいしか保(も)たないし、人(ひと)が通(とお)ったらすぐ壊(こわ)れるところ! とにかく急(いそ)がないと!)


 ショースケは横(よこ)たわったまま動(うご)かないローナグ星人(せいじん)の体(からだ)をバシバシ叩(たた)きます。


「い、痛(いた)い! わ、でもショースケ隊員(たいいん)に叩(たた)かれた嬉(うれ)しい!」


 ちょっと気持(きも)ち悪(わる)い反応(はんのう)ですが、ショースケは聞(き)かなかったことにして続(つづ)けます。


「よかった意識(いしき)あるね! 動(うご)ける?」


「それが、落(お)ちたときに怪我(けが)をしたのか体(からだ)が痛(いた)くて…」


「わかった! ちょっと我慢(がまん)してね!」


 ショースケはエッグロケットから太(ふと)い針(はり)のついた筒(つつ)を取(と)り出(だ)しました。


 そしてそれをローナグ星人(せいじん)の赤(あか)くて長(なが)い体(からだ)にぶっ刺(さ)します。


「痛(いた)っ!!!!!!」


 ローナグ星人(せいじん)はあまりの痛(いた)みで跳(は)ね上(あ)がりました。


「これ超(ちょう)速効(そっこう)の痛(いた)み止(ど)め! もう動(うご)けるでしょう? まあ後(あと)から痛(いた)いの戻(もど)ってくるけどね」


「あ、本当(ほんとう)だ…動(うご)けます! わーいこのままタカヤ隊員(たいいん)にも会(あ)いにいけるかも!」


 嬉(うれ)しそうに床(ゆか)をにゅるにゅる這(は)うローナグ星人(せいじん)に、ショースケはトイレの小(ちい)さな窓(まど)を開(ひら)いて外(そと)を見下(みお)ろしながら言(い)います。


「そんな余裕(よゆう)無(な)いよ、今(いま)すぐこの窓(まど)から飛(と)び降(お)りて! 幸(さいわ)い裏庭(うらにわ)には誰(だれ)もいないし」


「えぇ!? 飛(と)び降(お)りるって…無理(むり)無理(むり)ボクこの見(み)た目(め)で骨(ほね)とかすごいもろいんですから! 大怪我(おおけが)しちゃいます!」


「いーいーかーらー飛(と)び降(お)りて! 僕(ぼく)がなんとかする!」


「いくらショースケ隊員(たいいん)のお願(ねが)いでも無理(むり)があります!」


「後(あと)でスペシャルなサイン書(か)いてあげるから! ほら、タカヤにもライトさんにも書(か)いてって頼(たの)んであげる!」


「それはめちゃくちゃ欲(ほ)しいですけど! あぁっ、やめて落(お)ちるー!」


 ショースケがぐいぐいローナグ星人(せいじん)の体(からだ)を押(お)してなんとか窓(まど)から落(お)とそうとしていると、トイレの外(そと)から声(こえ)が聞(き)こえました。


「ねぇ洋平(ようへい)も一緒(いっしょ)に見(み)に行(い)こうよ! ガタガタ聞(き)こえてすごいんだから!」


「私(わたし)はそういうのはあまり見(み)に行(い)かない方(ほう)がいいと思(おも)うけれど…」


「いいから! ほら入(はい)ろう!」


 もう一刻(いっこく)の猶予(ゆうよ)もありません。


「ごめん!」


 ショースケは暴(あば)れるローナグ星人(せいじん)を窓(まど)から突(つ)き落(お)としました!


「いやぁああああああ!!!」


 叫(さけ)び声(ごえ)を上(あ)げながら落(お)ちてゆくローナグ星人(せいじん)に向(む)かって、ショースケはエッグロケットのダイヤルを合(あ)わせて急(いそ)いでスイッチを押(お)します。


 するとローナグ星人(せいじん)の体(からだ)を大(おお)きなシャボン玉(だま)のようなものが覆(おお)って、そのまま地面(じめん)に落(お)ちた衝撃(しょうげき)を吸収(きゅうしゅう)してぽよんと音(おと)を立(た)てました。


「いい⁉ もう学校(がっこう)来(き)ちゃダメだからね!」


 ショースケは無事(ぶじ)ローナグ星人(せいじん)が着地(ちゃくち)したのを見届(みとど)けると、急(いそ)いで窓(まど)を閉(し)めました。


 そしてうすーい幻覚(げんかく)ガラスの膜(まく)が崩(くず)れて溶(と)けたのと同時(どうじ)に、ウキウキのカズ、無理矢理(むりやり)連(つ)れて来(こ)られた洋平(ようへい)、そしてまだ震(ふる)えているレンを腰(こし)に貼(は)り付(つ)けたミオがトイレの中(なか)に入(はい)ってきました。


「わ、掃除(そうじ)用具(ようぐ)が散(ち)らばってる! さっきまでこんなことなかったのに!」


 もうカズたちにどれだけ捜索(そうさく)されてもET(いーてぃー)が見(み)つかることはありません。


 ショースケはどっと体中(からだじゅう)の力(ちから)が抜(ぬ)けて、トイレの壁(かべ)にベタリともたれかかりました。


「ショースケさん大丈夫(だいじょうぶ)?」


「あ、だいじょぶ…それより洋平(ようへい)ありがとね…」


「んー? 何(なに)が?」


 洋平(ようへい)は首(くび)を傾(かし)げてとぼけて見(み)せます。


「それよりショースケさん、今度(こんど)はちゃんとタカヤさんと一緒(いっしょ)に来(く)るんだよ?」


「え⁉ ええええと…何(なん)でタカヤと…?」


「何(なん)となく、かなぁ」


 ショースケはもう冷(ひ)や汗(あせ)が止(と)まりません。


 一体(いったい)どこまで勘(かん)が鋭(するど)いんでしょう…ショースケは怖(こわ)くてそれ以上(いじょう)は何(なに)も聞(き)けませんでした。



****



 教室(きょうしつ)に入(はい)ると、すでに学級(がっきゅう)委員(いいん)の会(かい)から戻(もど)って来(き)ていたタカヤが自分(じぶん)の席(せき)で次(つぎ)の授業(じゅぎょう)の予習(よしゅう)をしていました。


「あ、もう会(かい)終(お)わってたんだー。タカヤがいないから大変(たいへん)だったよー」


 そう言(い)うミオの隣(となり)で、レンはすっかりぐったりしています。


「レン大丈夫(だいじょうぶ)か?」


 タカヤは心配(しんぱい)そうに顔(かお)を覗(のぞ)き込(こ)みます。


「べ、別(べつ)にこれぐらいなんともねーよ…!」


「えー怖(こわ)かったからなぐさめてーって言(い)えばいいのにー」


 そう小声(こごえ)で耳打(みみう)ちしてくるミオの背中(せなか)をタカヤから見(み)えないように一発(いっぱつ)ペチンと叩(たた)いて、レンはなんとかしゃっきり立(た)って見(み)せました。


「さっきまであんなにお世話(せわ)してあげたのにひどいなーもー」


 ミオはブツブツ文句(もんく)を言(い)いながら自分(じぶん)の背中(せなか)をさすります。


「ねぇねぇタカヤ聞(き)いて! あのウワサ本当(ほんとう)だったんだよ!」


 カズはあのトイレでいかに凄(すご)いことがあったかをそれはそれは嬉(うれ)しそうにベラベラ喋(しゃべ)りました。


 それを聞(き)いていたタカヤはみるみる顔色(かおいろ)が変(か)わり、すぐにポケットの中(なか)のエッグロケットを握(にぎ)ってショースケにテレパシーを送(おく)ります。


(ショースケ! もしかしてET(いーてぃー)の仕業(しわざ)だったんじゃないか?)


(うん、まあね…この間(あいだ)のローナグ星人(せいじん)さんだったんだよ、僕(ぼく)らに会(あ)いたくて学校(がっこう)に忍(しの)び込(こ)んで来(き)たんだってさ。あ、タカヤのスペシャルサインあげる約束(やくそく)しちゃったから考(かんが)えといて…)


 疲(つか)れ切(き)ってすでに自分(じぶん)の席(せき)に座(すわ)っていたショースケはぐったりと応答(おうとう)します。


(え、スペシャルサイン…? よくわかんないけど大変(たいへん)だっただろ、怪我(けが)はないか? 何(なん)で俺(おれ)を呼(よ)んでくれなかったんだ)


(えーと…だってさあ、タカヤは会(かい)に参加(さんか)してたでしょ。途中(とちゅう)で抜(ぬ)けたら、その…大変(たいへん)じゃん…)


 自分(じぶん)だけ評価(ひょうか)を上(あ)げたかったという本当(ほんとう)の理由(りゆう)は言(い)えず、ショースケは言葉(ことば)に詰(つ)まりながらしどろもどろに答(こた)えました。


(そっか。俺(おれ)に気(き)を遣(つか)ってくれたんだな、ありがとう。でも…)


 タカヤはポケットの中(なか)のエッグロケットを強(つよ)く握(にぎ)って続(つづ)けます。


(今度(こんど)は俺(おれ)も呼(よ)んでくれると嬉(うれ)しいよ)


 ショースケはうつむきながら、エッグロケットを指先(ゆびさき)ですりすりといじりました。


(…それは、僕(ぼく)が一人(ひとり)じゃ頼(たよ)りないから?)


 今回(こんかい)は何(なん)とか一人(ひとり)で乗(の)り切(き)れたものの、決(けっ)して手際(てぎわ)のいい仕事(しごと)とは言(い)えませんでした。


 本当(ほんとう)にギリギリで凄(すご)く危(あぶ)なかったことも自分(じぶん)で嫌(いや)と言(い)うほどわかっているショースケは、すっかり自信(じしん)を無(な)くしているようです。


 タカヤはそれに気(き)がついたのか、前(まえ)の席(せき)に座(すわ)っているショースケの背中(せなか)を優(やさ)しい目(め)で見(み)つめました。


(ちがうよ、俺(おれ)がショースケと一緒(いっしょ)に仕事(しごと)がしたいからだよ)


 …そんな綺麗(きれい)事(ごと)を言(い)いながら、自分(じぶん)は何度(なんど)もショースケを置(お)いて特級(とっきゅう)としての仕事(しごと)をしています。


 その事実(じじつ)を思(おも)うたびにタカヤの胸(むね)はじくりと激(はげ)しく痛(いた)みますが…小(ちい)さく一(ひと)つ息(いき)を吐(は)いて、いつものように何(なん)でも無(な)い風(ふう)を装(よそお)い笑(わら)って見(み)せました。


(…ごめん、今度(こんど)はちゃんとタカヤのこと呼(よ)ぶよ。だって僕(ぼく)たちコンビだもんね)


 ショースケはポケットの中(なか)のエッグロケットを手放(てばな)すと珍(めずら)しく教科書(きょうかしょ)を開(ひら)いて、顔(かお)の前(まえ)で広(ひろ)げて机(つくえ)に突(つ)っ伏(ぷ)しました。


「…そうだ! レン、カズ、ミオ。みんなに見(み)てもらいたいものがあって…」


 タカヤは後(うし)ろの席(せき)から小刻(こきざ)みに揺(ゆ)れるショースケの肩(かた)に気(き)が付(つ)くと、わざと大(おお)きめに声(こえ)を出(だ)して三(さん)人(にん)を呼(よ)び、自分(じぶん)の机(つくえ)の上(うえ)に視線(しせん)を集(あつ)めるのでした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。