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第八話 不思議なタマゴと大事な思い出

****


「うん、美味(おい)しい」


 ショースケの家(いえ)のリビングで、ライトは青(あお)紫色(むらさきいろ)のやわらかそうなものを飲(の)み込(こ)んで口(くち)を開(ひら)きました。


「ニッカルコピ星(せい)のお菓子(かし)だったよね、何(なん)だかガムとチョコとグミとマシュマロの中間(ちゅうかん)みたいな味(あじ)がするよ。どこかで食(た)べたことがあるような、んー…忘(わす)れちゃったな」


 首(くび)をひねるライトを見(み)ながら、タカヤはくすっと笑(わら)います。


「ポスリコモスで買(か)ってきたお菓子(かし)、ライトさんのお口(くち)に合(あ)ってよかったです。皆(みな)さんの分(ぶん)も買(か)ってきたのでたくさん食(た)べてくださいね」


 持(も)ってきた大(おお)きな袋(ふくろ)から全(まった)く同(おな)じお菓子(かし)をもう二(に)箱(はこ)取(と)り出(だ)して、タカヤはテーブルの上(うえ)に嬉(うれ)しそうに置(お)きました。


 ライトは一瞬(いっしゅん)固(かた)まり、わかりやすく苦笑(にがわら)いをします。


「あ、こんなに…? えっと、ありがとう…あはは」


「ねぇねぇライトさん、ところで…」


 ショースケが話(はなし)を切(き)り出(だ)します。


「ずっと気(き)になってたんだけどそれは何(なに)?」


 ライトの座(すわ)っている長椅子(ながいす)の右(みぎ)隣(どな)りには、何(なに)やら分厚(ぶあつ)い瓶(びん)に入(い)れられた、ド派手(はで)なショッキングピンクの丸(まる)い玉(たま)があります。


「ああこれ? ちょっと開(あ)けてみようか」


 ライトは玉(たま)を瓶(びん)から取(と)り出(だ)すと、テーブルの上(うえ)に置(お)きました。


 玉(たま)はもの凄(すご)くやわらかいようで、テーブルに吸(す)い付(つ)くようにぺちょりと垂(た)れて楕円(だえん)型(がた)に変形(へんけい)します。


「本当(ほんとう)に何(なに)これ…でっかいゼリー?」


 ショースケがおそるおそる玉(たま)をつつこうとすると、それはショースケの指(ゆび)が触(ふ)れる前(まえ)にプルプルとひとりでに動(うご)き始(はじ)めました。


「うぇぇぇ! 動(うご)いてる!」


「あはは、これはタマゴだよ。孵化(ふか)直前(ちょくぜん)のね」


「タマゴ、ですか?」


 タカヤも興味深(きょうみぶか)そうに覗(のぞ)き込(こ)みます。


「昨日(きのう)の真夜中(まよなか)に突然(とつぜん)肖(しょう)造(ぞう)おじさんから宇宙(うちゅう)宅配便(たくはいびん)が届(とど)いてね。その中(なか)にこのタマゴと…この手紙(てがみ)がっ、入(はい)ってたんだよ!」


 ライトはポケットの中(なか)から手紙(てがみ)を引(ひ)っ張(ぱ)り出(だ)すと、ぶっきらぼうにテーブルの上(うえ)に叩(たた)き付(つ)けました。


 ショースケはそれをおずおずと手(て)に取(と)りタカヤと目(め)を通(とお)してみます。


『ライトへ このピグモスのタマゴ、もうすぐ産(う)まれそうなんじゃがワシ忙(いそが)しいから代(か)わりにしばらく面倒(めんどう)見(み)てちょんまげ!


 あとお茶漬(ちゃづ)けの素(もと)無(な)くなったから送(おく)って♡ じゃあよろぴくブイブイ ✌』


「…なんていうか、じーちゃんらしい手紙(てがみ)だね」


 ショースケは手紙(てがみ)をそっと元(もと)の場所(ばしょ)に戻(もど)しました。


「本当(ほんとう)に肖(しょう)造(ぞう)おじさんは自分(じぶん)勝手(かって)に…僕(ぼく)だってやることいっぱいあるっつーの! なにがお茶漬(ちゃづ)けじゃい‼」


 タカヤは目(め)を丸(まる)くして、声(こえ)を荒(あら)げながら手紙(てがみ)を引(ひ)きちぎってゴミ箱(ばこ)に突(つ)っ込(こ)んでいるライトを見(み)ています。


「久(ひさ)しぶりに見(み)た…こんなライトさん…」


「そう? いつもこんな感(かん)じだよ」


 ショースケは見慣(みな)れているのか、平然(へいぜん)とニッカルコピ星(せい)のお菓子(かし)を口(くち)に運(はこ)びました。


「はぁはぁ…失礼(しつれい)、見苦(みぐる)しいところを見(み)せたね」


 肩(かた)で息(いき)をしながら、ライトは長椅子(ながいす)に座(すわ)り直(なお)します。


「なんですカ、ライトさん騒々(そうぞう)しいですヨ」


 パタパタと足音(あしおと)が近(ちか)づいてきて、奥(おく)の部屋(へや)からリクルートスーツに身(み)を包(つつ)んだメグとルルがやってきました。


「あれ、メグさんルルさんどこかへ行(い)かれるんですか?」


 見慣(みな)れない服装(ふくそう)をしている二人(ふたり)にタカヤが問(と)いかけると、その答(こた)えはショースケの口(くち)から返(かえ)ってきました。


「違(ちが)うよタカヤ、あれはメグさんが昨日(きのう)見(み)たお仕事(しごと)アニメに影響(えいきょう)されてルルさんも巻(ま)き込(こ)んでコスプレしてるだけ。いつものメイド服(ふく)だってメイドさんのアニメが好(す)きすぎて着(き)てるだけなんだから」


 ショースケは呆(あき)れたような口調(くちょう)で続(つづ)けます。


「しかもメグさんもルルさんもメイドさんコスプレのまま外(そと)に出(で)かけるし。じーちゃんが貸(か)してくれてるこの家(いえ)だって妙(みょう)に大(おお)きくて、僕(ぼく)学校(がっこう)で超(ちょう)お金(かね)持(も)ちなんじゃないかっていうウワサが立(た)ってるんだから勘弁(かんべん)して欲(ほ)しいよ」


「いいじゃないですカ、お金持(かねも)ち! アニメでもクラスに一人(ひとり)はいる重要(じゅうよう)なキャラですヨ。あ、これ美味(おい)しいですネ」


 メグは悪(わる)びれる様子(ようす)もなく、タカヤのお土産(みやげ)のお菓子(かし)を一(ひと)つ頬張(ほおば)りました。


 その間(あいだ)にルルはライトの左隣(ひだりどなり)にこれでもかと密着(みっちゃく)して座(すわ)ります。


「博士(はかせ)が送(おく)ってきたピグモスのタマゴの様子(ようす)はどうですか? ライトさん」


「ええ、かなり動(うご)いていますからもうすぐだと思(おも)います…ところでルルさんちょっと近(ちか)くないですか?」


「ごめんなさい、私(わたし)アンドロイドですからそういうこと疎(うと)くて…。あら? ここ、ちょっと色(いろ)が変(か)わってきてません?」


 ライトの肩(かた)に頭(あたま)を寄(よ)せながら、ルルはタマゴを指差(ゆびさ)しました。


 確(たし)かに先(さき)ほどまでショッキングピンク一色(いっしょく)だったタマゴには、所々(ところどころ)に青(あお)い点(てん)が出(で)てきています。


 そして青(あお)い点(てん)同士(どうし)がくっつきながら次第(しだい)に大(おお)きくなっているようです。


「青(あお)…? 変(へん)だな。ピグモスは黄色(きいろ)い体(からだ)をしているはずなんだけど」


 ライトは眉(まゆ)をひそめました。


「わわわ、これってもう産(う)まれるってこと⁉」


 ショースケはテーブルから身(み)を乗(の)り出(だ)してその様子(ようす)を見(み)つめます。


 全員(ぜんいん)の視線(しせん)が注(そそ)がれる中(なか)、タマゴはどんどん青(あお)く染(そ)まっていき、むにょんむにょんと波打(なみう)つように変形(へんけい)したかと思(おも)うと…


 つぶらな黒(くろ)い瞳(ひとみ)のETが生(う)まれました。


 丸(まる)い体(からだ)はタマゴに浮(う)き出(で)た点(てん)と同(おな)じ青色(あおいろ)で、鳥(とり)のようなクチバシがついています。


 背中(せなか)についた蝶(ちょう)みたいな翅(はね)を揺(ゆ)らし、まん丸(まる)の四(よん)本(ほん)の足(あし)を動(うご)かしながら、ET(いーてぃー)はよたよたとショースケに近(ちか)づいてきました。


「ムィムィ…?」


 小(ちい)さな声(こえ)で鳴(な)きながら首(くび)を傾(かし)げるその姿(すがた)は、まるでマスコットキャラクターのようです。


「かっ! かわいい!」


 ショースケが手(て)を伸(の)ばしてET(いーてぃー)を抱(だ)きしめようとすると…


「危(あぶ)ないショースケ君(くん)!」


 ライトが大(おお)きな声(こえ)を出(だ)すよりも先(さき)に、ルルが生(う)まれたばかりのET(いーてぃー)を両手(りょうて)で掴(つか)んで持(も)ち上(あ)げます。


 するとET(いーてぃー)は小(ちい)さなクチバシの奥(おく)から、鋭(するど)く生(は)えそろった牙(きば)のある大(おお)きな口(くち)をずるりと出(だ)してルルの右腕(みぎうで)に噛(か)みつきました。


「ひっ⁉」


 ショースケは思(おも)わず隣(となり)のタカヤに抱(だ)きつきます。


「ルルさん大丈夫(だいじょうぶ)ですか⁉」


「大丈夫(だいじょうぶ)ですよライトさん。私(わたし)、博士(はかせ)の最高(さいこう)傑作(けっさく)ですもの。こんなやわな牙(きば)に負(ま)けるような作(つく)りじゃありません」


 ルルは涼(すず)しい顔(かお)で笑(わら)いながらET(いーてぃー)を腕(うで)から引(ひ)き剥(は)がすと、元々(もともと)タマゴが入(はい)っていた瓶(びん)の中(なか)に入(い)れて蓋(ふた)をしました。


「ごめんなさいメグ。貸(か)してくれたスーツに穴(あな)が空(あ)いてしまいました…」


「いやいヤそんなこといいですヨ! それよりライトさん! その生(い)き物(もの)…あの憎(にっく)きニュムニュムじゃありませんカ!」


 メグは怯(おび)えながらルルの後(うし)ろに隠(かく)れました。


 瓶(びん)の中(なか)で青(あお)いET(いーてぃー)はムィムイと鳴(な)きながら暴(あば)れています。


「ニュムニュム…って僕(ぼく)聞(き)いたことあるよ」


 ショースケはタブレットを操作(そうさ)して急(いそ)いで調(しら)べます。


「えーっと、ニュムニュム。タマゴは草食(そうしょく)でおとなしいピグモスのものによく似(に)ているため要注意(ようちゅうい)。性格(せいかく)は凶暴(きょうぼう)。とにかく雑食(ざっしょく)で何(なん)でも恐(おそ)ろしいほど食(た)べながら、地球時間(ちきゅうじかん)の半年(はんとし)ほどかけて成体(せいたい)になる。同(おな)じ星(ほし)に住(す)むプニプヨ星人(せいじん)が大好物(だいこうぶつ)…プニプヨ星人(せいじん)って!」


 みんなは一斉(いっせい)にメグの方(ほう)を見(み)ました


「…ソイツは恐(おそ)ろしい生(い)き物(もの)でス。茂(しげ)みなんかに潜(ひそ)んでいテ、油断(ゆだん)しているところを襲(おそ)ってきまス。ワタシも星(ほし)にいたころ食(た)べられそうになったことが何度(なんど)カ…」


 ガタガタと震(ふる)えるメグの背中(せなか)を、ルルがやさしくさすります。


「肖(しょう)造(ぞう)おじさん…本当(ほんとう)にとんでもないものを送(おく)ってくれたなぁ…!」


 ライトが怒(いか)りを抑(おさ)えながら頭(あたま)を抱(かか)える横(よこ)で、なにやらバリバリと嫌(いや)な音(おと)がします。


 …目(め)をやると、ニュムニュムというらしいET(いーてぃー)が中(なか)から瓶(びん)をかじって食(た)べていました。


「ひぃぃぃい! どうしよう出(で)てきちゃう!」


 ショースケは先程(さきほど)噛(か)まれそうになったことを思(おも)い出(だ)してパニックです。


 ライトは瓶(びん)に空(あ)いた小(ちい)さな穴(あな)を、近(ちか)くにあったクッションで塞(ふさ)ぎながら言(い)いました。


「このET(いーてぃー)はお腹(なか)が満(み)たされるまで止(と)まらないんだ! ショースケ君(くん)、タカヤ君(くん)! ゴミでも土(つち)でもなんでもいいから食(た)べられそうなものを探(さが)してきてくれないか!」


「わ、わかりました!」



****



 タカヤとショースケは靴(くつ)を履(は)いて広(ひろ)い庭(にわ)へ出(で)ると、三(みっ)つ建(た)っている倉庫(そうこ)のうちの一(ひと)つ、赤(あか)い屋根(やね)の倉庫(そうこ)の扉(とびら)を開(あ)けました。


 中(なか)にはほこりがごっそり積(つ)もった段(だん)ボール箱(ばこ)やすっかり古(ふる)びてボロボロになった得体(えたい)の知(し)れない道具(どうぐ)がいっぱいです。


「ここにはじーちゃんが昔(むかし)使(つか)ってたものが置(お)いてあって、僕(ぼく)もここからいろいろ掘(ほ)り出(だ)して発明(はつめい)の材料(ざいりょう)に使(つか)ったりしてるんだ」


 ショースケは手慣(てな)れた様子(ようす)でズンズン奥(おく)へと進(すす)んでいきます。


「そういえばスカイボードも倉庫(そうこ)から見(み)つけたって言(い)ってたな。でもいいのか? ここの中(なか)の物(もの)ET(いーてぃー)に食(た)べさせて」


 人(ひと)の家(いえ)の倉庫(そうこ)ですから、タカヤはどこから手(て)をつけていいのかわかりません。


「いいのいいの、じーちゃんが全部(ぜんぶ)いらないって僕(ぼく)にくれたんだから。それに僕(ぼく)もこの赤(あか)い屋根(やね)の倉庫(そうこ)の中(なか)のめぼしい物(もの)は全部(ぜんぶ)回収(かいしゅう)しちゃったし」


 そう言(い)いながら、ショースケはその辺(へん)の物(もの)を手当(てあ)たり次第(しだい)自分(じぶん)のエッグロケットの中(なか)に放(ほう)り込(こ)み始(はじ)めました。


 タカヤも見(み)よう見(み)まねで放(ほう)り込(こ)んでいると、古(ふる)い棚(たな)の奥(おく)に他(ほか)よりも少(すこ)し新(あたら)しそうなダンボール箱(ばこ)を見(み)つけました。 


 黒(くろ)い油性(ゆせい)マジックで雑(ざつ)に『ポスリコモス 大掃除(おおそうじ)』と宇宙(うちゅう)公用語(こうようご)で書(か)かれたそれを開(ひら)いて、タカヤはびっくりして息(いき)を呑(の)みました。


「な、なあショースケ! この中(なか)のものって俺(おれ)がもらってもいいか?」


「んー?別(べつ)にいいけど。タカヤが欲(ほ)しがりそうなものなんてあったっけ?」


 ショースケは作業(さぎょう)を続(つづ)けながら適当(てきとう)に返事(へんじ)します。


 タカヤはダンボールの中(なか)から取(と)り出(だ)した一(いち)枚(まい)の紙(かみ)を折(お)り目(め)の通(とお)りに優(やさ)しく折(お)って、他(ほか)のものと混(ま)ざらないようにズボンのポケットの奥(おく)に大事(だいじ)にしまいました。




 さて、そのままポイポイとエッグロケットに倉庫(そうこ)の中(なか)の物(もの)をいっぱい詰(つ)めて、二人(ふたり)は家(いえ)の中(なか)に戻(もど)りました。


「あ! 二人(ふたり)ともやっと戻(もど)ってきましたネ! もう食(た)べさせるものが無(な)くて困(こま)ってたところでス」


 柱(はしら)の陰(かげ)に隠(かく)れているメグの視線(しせん)の先(さき)のニュムニュムは、リビングテーブルをボリボリかじっています。


「冷蔵庫(れいぞうこ)の中(なか)の物(もの)から明日(あした)出(だ)す予定(よてい)だったゴミ袋(ぶくろ)まで食(た)べさせましたガ全然(ぜんぜん)止(と)まりませン。壁(かべ)や床(ゆか)を食(た)べられるよりマシですかラ、仕方(しかた)なくテーブルを食(た)べさせていたところでス」


 テーブルもすごい勢(いきお)いで口(くち)の中(なか)に吸(す)い込(こ)まれて、今(いま)にも無(な)くなってしまいそうです。


 タカヤとショースケは慌(あわ)ててエッグロケットの中(なか)から、先(さき)ほど集(あつ)めてきた物(もの)たちを引(ひ)っ張(ぱ)り出(だ)しました。


 部屋(へや)の中(なか)には倉庫(そうこ)から一緒(いっしょ)に連(つ)れてきた大量(たいりょう)のほこりがブワッと舞(ま)い上(あ)がって、ライトはゴホゴホと咳(せ)き込(こ)みます。


「…すごいほこりだね。でもこれだけあればしばらくは大丈夫(だいじょうぶ)そうだ、ありがとう二人(ふたり)とも。さあニュムニュム、次(つぎ)はこれを食(た)べなさい」


「ム…ムイィ…」


 ニュムニュムは目(め)を細(ほそ)めながら背中(せなか)の翅(はね)を広(ひろ)げて一瞬(いっしゅん)ためらいましたが、しぶしぶ錆(さ)びたスコップからかじり始(はじ)めました。


 どうやら何(なん)でも食(た)べられるニュムニュムの目(め)から見(み)ても、倉庫(そうこ)からやってきたほこりまみれの物(もの)たちは食欲(しょくよく)をそそられる物(もの)ではないようです。


 ショースケはまた噛(か)まれたりすることがないように、遠(とお)くからじーっとその様子(ようす)を観察(かんさつ)しています。


「ふーん、意外(いがい)とグルメなんだね…って、なんかさっきより大(おお)きくなってない?」


 確(たし)かに隣(となり)に置(お)いてあったティッシュ箱(ばこ)より小(ちい)さかったニュムニュムの体(からだ)は、ショースケが両手(りょうて)でやっと持(も)てそうなほどの大(おお)きさになっています。


「ニュムニュムは食(た)べれば食(た)べるほど体(からだ)が大(おお)きくなるらしいからね。この食欲(しょくよく)のまま半年(はんとし)過(す)ごすんだから恐(おそ)ろしいよ、落(お)ち着(つ)いたら早(はや)く本部(ほんぶ)に送(おく)り返(かえ)さないと」


 ライトがET(いーてぃー)図鑑(ずかん)を読(よ)みながら解説(かいせつ)している声(こえ)を聞(き)きながら、タカヤはもっと食(た)べやすいようにと、倉庫(そうこ)から持(も)ってきた物(もの)をニュムニュムに近(ちか)づけてあげようとしました。


 その時(とき)。


 ぽろっとタカヤのポケットから四(よっ)つ折(お)りされた紙(かみ)が落(お)ちて、ニュムニュムの方(ほう)へつるりと滑(すべ)っていきました。


 タカヤは急(いそ)いでそれを拾(ひろ)おうと手(て)を伸(の)ばして…


「危(あぶ)ないタカヤ君(くん)!」



 …ライトの声(こえ)が届(とど)く前(まえ)にニュムニュムはタカヤの右腕(みぎうで)に噛(か)みつき、そのまま腕(うで)の先(さき)を引(ひ)きちぎって飲(の)み込(こ)んでしまいました。


「あ」


 血(ち)の一滴(いってき)も出(で)ない真(ま)っ黒(くろ)な宇宙(うちゅう)が渦巻(うずま)いたようなちぎれた腕(うで)の断面(だんめん)を見(み)ながら、タカヤは一(いち)音(おん)だけ声(こえ)を出(だ)しました。


 周(まわ)りはもう大(だい)混乱(こんらん)です。


「たたたたたたたた…たかやうでが…!」


 ショースケは今(いま)にも泡(あわ)を吹(ふ)いて失神(しっしん)しそうです。


「タカヤ君(くん)大丈夫(だいじょうぶ)か⁉ ルルさん、向(む)こうから治療(ちりょう)道具(どうぐ)を! メグさんは本部(ほんぶ)へ連絡(れんらく)…」


「ご! ごめんなさい失敗(しっぱい)しました! 俺(おれ)なら全然(ぜんぜん)大丈夫(だいじょうぶ)です、ほら!」


 タカヤは腕(うで)の断面(だんめん)からじわりと真(ま)っ黒(くろ)な霧(きり)のようなものをにじませて腕(うで)の先(さき)を成形(せいけい)すると、そのまま無(な)くなった部分(ぶぶん)をすっかり再生(さいせい)させてしまいました。


 そしていつものように眉(まゆ)を下(さ)げて申(もう)し訳(わけ)なさそうに笑(わら)ってみせます。


「ね? 指(ゆび)もちゃんと動(うご)くから大丈夫(だいじょうぶ)です。それより…」


 タカヤはニュムニュムに視線(しせん)を向(む)けました。


「俺(おれ)の体(からだ)を飲(の)み込(こ)んでしまったってことは、コスモピースのエネルギーの一部(いちぶ)を体(からだ)に入(い)れてしまったってことだから…」


 ニュムニュムは苦(くる)しそうに体(からだ)をよじらせて、大(おお)きく目(め)を見開(みひら)いたかと思(おも)うと


「ムィムィムムムム!!!!」


 聞(き)いたことのない声量(せいりょう)で鳴(な)きながら、その体(からだ)は突然(とつぜん)数十(すうじゅう)倍(ばい)に大(おお)きく膨(ふく)れ上(あ)がりました。


 手足(てあし)には鋭(するど)い爪(つめ)が生(は)え、いままで無(な)かった尻尾(しっぽ)がにゅるりと長(なが)く伸(の)びて、背中(せなか)の翅(はね)がバサッと大(おお)きく開(ひら)いて…。


「これは…成体(せいたい)へと変化(へんか)してる! コスモピースのエネルギーが膨大(ぼうだい)過(す)ぎたんだ! みんな、危(あぶ)ないから僕(ぼく)の近(ちか)くへ!」


 ライトが自分(じぶん)の首(くび)から下(さ)げていた紺色(こんいろ)のポスエッグに触(ふ)れると、ポスエッグは大(おお)きな盾(たて)のように形(かたち)を変(か)えました。


 ライトの身長(しんちょう)と同(おな)じくらいあるその盾(たて)の後(うし)ろへみんなが隠(かく)れたのと同時(どうじ)に、ニュムニュムはその大(おお)きくなった体(からだ)から強力(きょうりょく)な衝撃波(しょうげきは)を放(はな)ちました。


 リビングの窓(まど)ガラスが弾(はじ)けて割(わ)れて、机(つくえ)や扉(とびら)がガタガタと音(おと)を立(た)てて今(いま)にも飛(と)ばされそうです。


 ニュムニュムは顔(かお)をギュッとしかめて、息(いき)を荒(あら)くして暴(あば)れています。


「わわわわごめんなさい! 俺(おれ)のせいで!」


「謝(あやま)るのは後(あと)だタカヤ君(くん)! どうやらエネルギーの暴走(ぼうそう)を抑(おさ)えることができないみたいだ…早(はや)くコスモピースを吐(は)かせないとニュムニュムの命(いのち)も危(あぶ)ない! みんな、協力(きょうりょく)してくれ!」


「協力(きょうりょく)って…何(なに)すればいいの! これだけ暴(あば)れてたら何(なに)もできないよ!」


 ライトの背中(せなか)にがっしりしがみつきながらショースケが声(こえ)を上(あ)げました。


 ニュムニュムは体(からだ)を大(おお)きく震(ふる)わせながら、二(に)回目(かいめ)の衝撃波(しょうげきは)を放(はな)つ準備(じゅんび)をしています。


「ここでもう一度(いちど)やられたら家(いえ)が保(たも)たない! とりあえず始(はじ)めるよ!」


 ライトが盾(たて)の裏(うら)についたパネルを慣(な)れた手(て)つきで操作(そうさ)すると、盾(たて)は模様(もよう)の白(しろ)い線(せん)に沿(そ)ってピカピカと輝(かがや)き始(はじ)めました。


「ルルさん、催吐薬(さいとやく)の準備(じゅんび)をしていただけますか!」


「そう言(い)うと思(おも)ってもう持(も)って来(き)てますよ、ライトさん」


 ルルはふわりと笑(わら)います。


「さいとやク…? 何(なん)ですかそレ」


「説明(せつめい)は後(あと)で外(そと)からします! メグさん、タカヤ君(くん)ショースケ君(くん)、ルルさんのサポートを頼(たの)んだよ!」


 ライトがそう言(い)うと、大(おお)きな盾(たて)がビカッと目(め)も開(あ)けられないほど眩(まぶ)しく光(ひか)りました。



****



 …ショースケたちが目(め)を開(あ)けると、そこは見(み)たことがないだだっ広(ぴろ)い真(ま)っ白(しろ)な空間(くうかん)でした。


 目(め)の前(まえ)ではニュムニュムが大(おお)きな体(からだ)をくねらせながら今(いま)にも衝撃波(しょうげきは)を放(はな)とうとしています。


「ルルさんお願(ねが)いします!」


「かしこまりました、ライトさん」


 どこからともなく聞(き)こえたライトの声(こえ)に反応(はんのう)したルルは、両腕(りょううで)を合(あ)わせて四角(しかく)い盾(たて)のようにガチャガチャと変形(へんけい)させると、タカヤたちの前(まえ)に立(た)って飛(と)んできた衝撃波(しょうげきは)を弾(はじ)き返(かえ)しました。


 腕(うで)も元(もと)の形(かたち)に戻(もど)しながら、ルルは三(さん)人(にん)に笑(わら)いかけます。


「それでは皆(みな)さん、行(い)きますよ?」


「いやいやいや行(い)きますよって何(なに)⁉ そもそもここどこ僕(ぼく)わかんない!」


「ワタシも何(なに)にもわかりませン! さいとやくって何(なん)ですカ説明(せつめい)してくださイ!」


 ショースケとメグがギャーギャー騒(さわ)ぎ立(た)てます。


 ライトは誰(だれ)もいなくなったボロボロのリビングにキラキラ粉(こ)を撒(ま)きながら口(くち)を開(ひら)きました。


「そこは僕(ぼく)のポスエッグの中(なか)だよ、ポスエッグにある収納機能(しゅうのうきのう)を応用(おうよう)して作ったシェルターだ。今(いま)から君(きみ)たちには、ルルさんがニュムニュムに催吐薬(さいとやく)…つまり飲(の)み込んでしまったコスモピースの一部(いちぶ)を吐(は)かせる薬(くすり)を飲(の)ませるための手助(てだす)けをしてもらいたい」


「それならライトさんがやってよ! 僕(ぼく)ニュムニュム相手(あいて)にしたくない怖(こわ)いもん!」


「ワタシだって! 食(た)べられたらどうするんですカ!」


 二人(ふたり)は余計(よけい)にギャイギャイ叫(さけ)びます。


「僕(ぼく)がポスエッグの中(なか)に入(はい)ったら君(きみ)たちを外(そと)に出(だ)してあげられなくなるんだ! 頼(たの)むよ協力(きょうりょく)してくれ!」


「ショースケさん、メグ…?」


 ルルが聞(き)いたことが無(な)い低(ひく)い声(こえ)を出(だ)しました。


「ライトさんに…協力(きょうりょく)していただけますよね…?」


 左腕(ひだりうで)をマシンガンに変形(へんけい)させながら、ルルは真(ま)っ黒(くろ)な瞳(ひとみ)を大(おお)きく見開(みひら)いています。


「あ、はい…協力(きょうりょく)します…」


「すみませンごめんなさイ…」


 タカヤはその様子(ようす)を、戦慄(せんりつ)しながら少(すこ)し離(はな)れて見(み)ていました。




「それでは改(あらた)めて、皆(みな)さん行(い)きますよ? タカヤさんとショースケさんはニュムニュムを保定(ほてい)する係(かかり)をお願(ねが)いします。メグは…私(わたし)と一緒(いっしょ)に来(き)ていただけますか?」


 ルルはふわりと笑(わら)ってメグの二(に)の腕(うで)をもの凄(すご)い力(ちから)で掴(つか)みました。


「ヒッ! いやでスたすけテー!」


 メグはそのままルルにずるずると引(ひ)きずられていきました。


 ニュムニュムは必死(ひっし)にエネルギーの暴走(ぼうそう)を押(お)さえようとしているのか、その場(ば)で大(おお)きな鳴(な)き声(ごえ)を上(あ)げながらのたうち回(まわ)っています。


「ねぇタカヤ、ほてーって何(なに)?」


「保定(ほてい)っていうのは、薬(くすり)を飲(の)ませたりするときに暴(あば)れないようにしっかり押(お)さえておくことだよ。さて、どうするかな…」


 タカヤの頭(あたま)には、先日(せんじつ)やったように背中(せなか)から大量(たいりょう)の触手(しょくしゅ)を出(だ)してニュムニュムに巻(ま)き付(つ)けて押(お)さえ込(こ)む…という方法(ほうほう)が一番(いちばん)に浮(う)かびましたが、化(ば)け物(もの)じみたその様子(ようす)をショースケにはあまり見(み)られたくありません。


「ふふふ…ここは僕(ぼく)の発明品(はつめいひん)の出番(でばん)みたいだね」


 ショースケはにやりと笑(わら)うと、エッグロケットを取(と)り出(だ)しました。


「エッグロケットに搭載(とうさい)した新(あたら)しい機能(きのう)…捕獲(ほかく)ネットを使(つか)おう!」


「捕獲(ほかく)ネットっていうと…虫取(むしと)り網(あみ)みたいなものか?」


「そう、前(まえ)に釣(つ)りしたときに使(つか)った頑丈(がんじょう)な糸(いと)を細(こま)かく組(く)み合(あ)わせて作(つく)ったんだよ! すっごく時間(じかん)かかったんだから褒(ほ)めて!」


 突(つ)き出(だ)してきたショースケの頭(あたま)を、タカヤはとりあえずよしよしと撫(な)でます。


「えへへ…よし! じゃあさっそく…」


 ショースケはエッグロケットの後(うし)ろ側(がわ)のダイヤルを回(まわ)して、ニュムニュムに銃口(じゅうこう)を向(む)けてビシッと構(かま)えました。


「捕獲(ほかく)ネット…発射(はっしゃ)!」


 ドーンと大(おお)きな音(おと)がして放(はな)たれた捕獲(ほかく)ネットは空中(くうちゅう)でバッと広(ひろ)がって…



 ニュムニュムから遠(とお)く離(はな)れた場所(ばしょ)にそのままぽとりと落(お)ちました。


「ショ、ショースケ…?」


「…うーん、僕(ぼく)に射的(しゃてき)の才能(さいのう)は無(な)いみたいだね。お祭(まつ)りで挑戦(ちょうせん)するのはやめておくことにするよ」


 ショースケは外国(がいこく)の映画(えいが)のように、両手(りょうて)を広(ひろ)げて肩(かた)をすくめて見(み)せます。


 捕獲(ほかく)ネットを発射(はっしゃ)したときの音(おと)を警戒(けいかい)したニュムニュムは、鋭(するど)い牙(きば)が生(は)えた口(くち)をガバッと開(ひら)いて二人(ふたり)の方(ほう)へ向(む)かってきました。


「おびゃびゃびゃこっち来(く)る‼」


 タカヤはすぐにコスモピースの力(ちから)を発動(はつどう)させると、ショースケのお腹(なか)周(まわ)りを抱(だ)きかかえて空中(くうちゅう)に浮(う)かび上(あ)がりました。


「はぁ…助(たす)かったタカヤありがと…」


「ショースケ…悪(わる)いけどちょっと我慢(がまん)してくれ」


「へ?」


 タカヤは自分(じぶん)のエッグロケットから黒(くろ)いペラペラのシールのようなものを取(と)り出(だ)すと、それをショースケの目元(めもと)にベタッと貼(は)り付(つ)けました。


「んぇ⁉ 何(なに)これ取(と)れないし何(なん)にも見(み)えない! ねぇタカヤ⁉」


 ショースケが何(なん)とか剥(は)がそうと踏(ふ)ん張(ば)っている間(あいだ)に、タカヤは背中(せなか)から無数(むすう)の触手(しょくしゅ)を出(だ)すとニュムニュムの体(からだ)に巻(ま)き付(つ)け始(はじ)めました。


 今度(こんど)こそかじりとられないようにまずは長(なが)い首(くび)にぐるぐる巻(ま)き付(つ)けて固定(こてい)してから口(くち)、体(からだ)、腕(うで)、足(あし)…


 全身(ぜんしん)をぐるぐる巻(ま)きにされたニュムニュムは身動(みうご)きがとれません。


「ルルさん、保定(ほてい)完了(かんりょう)しました!」


「え、したの⁉ わかんない見(み)せて!」



「さすがタカヤさん、素晴(すば)らしいです」


 ルルはメグの腕(うで)を掴(つか)んだまま、ニュムニュムの口元(くちもと)に近(ちか)づきました。


 ですがニュムニュムは口(くち)を開(ひら)いておらず、このままでは薬(くすり)を飲(の)ませられません。


「さあメグ、あなたの出番(でばん)です」


「ま、まさカ…」


「プ二プヨ星人(せいじん)の姿(すがた)に戻(もど)ってください」


 ルルはいつも通(どお)りふわりと笑(わら)いました。


「い! いやですいやでス怖(こわ)いでス‼」


「大丈夫(だいじょうぶ)ですよ、タカヤさんが保定(ほてい)してくれていますから」


「そういう問題(もんだい)じゃないでス! ルルは捕食者(ほしょくしゃ)の恐(おそ)ろしい目(め)を向(む)けられたことがないからわからないんでス‼」


「メグ」


 ルルは食(く)い込(こ)むほど力強(ちからづよ)くメグの腕(うで)を握(にぎ)りました。


「やってくれますよね???」


 前門(ぜんもん)の虎(とら)、後門(こうもん)の狼(おおかみ)。


 メグにもはや選択肢(せんたくし)は残(のこ)されておりません。


 おそるおそる、メグはピンク色(いろ)のくらげのようなプニプヨ星人(せいじん)の姿(すがた)に戻(もど)りました。


 それを見(み)たニュムニュムは目(め)をギラリと輝(かがや)かせて、口(くち)をこれでもかとガバッと開(ひら)きました。


「オビャラフキジュニュメルモニョポ⁉」


 メグが恐怖(きょうふ)のあまり言葉(ことば)にならない悲鳴(ひめい)を上(あ)げている間(あいだ)に、ルルはすかさず催吐薬(さいとやく)をニュムニュムの喉(のど)の奥(おく)に放(ほう)り込(こ)みました。


「メグ、お疲(つか)れ様(さま)でした。この薬(くすり)は超(ちょう)即効(そっこう)性(せい)です、もう効(き)き始(はじ)めると思(おも)うのですが…」


 弱(よわ)り切(き)って呆然(ぼうぜん)としているメグを抱(だ)いて、ルルはニュムニュムと距離(きょり)をとります。


 するとニュムニュムは目(め)を見開(みひら)いてブルブルと震(ふる)え始(はじ)めたかと思(おも)うと、大(おお)きな口(くち)から今(いま)まで食(た)べたものたちを一気(いっき)に吐(は)き出(だ)しました。


 その中(なか)にはおそらくコスモピースの一部(いちぶ)であろう、真(ま)っ黒(くろ)な固(かた)まりが混(ま)ざっています。


 タカヤは背中(せなか)から生(は)えた触手(しょくしゅ)の一本(いっぽん)で、すかさずそれを回収(かいしゅう)して自分(じぶん)の体(からだ)に収(おさ)めました。


 食(た)べたものをほとんど吐(は)き出(だ)してしまったニュムニュムはどんどん体(からだ)が小(ちい)さくなり、生(う)まれてすぐくらいの大(おお)きさの幼生(ようせい)に戻(もど)って、疲(つか)れたのかその場(ば)でぐったりと眠(ねむ)り始(はじ)めました。


 タカヤはコスモピースの力(ちから)を解(と)いて、ショースケの目元(めもと)に貼(は)り付(つ)けていたシールを剥(は)がします。


「わ、やっと剥(は)がれた! ってなんか全部(ぜんぶ)終(お)わってるし…なんでタカヤいじわるしたの僕(ぼく)も見(み)たかったのに」


 ショースケのじとりとした目線(めせん)にタカヤがなんて言(い)い訳(わけ)しようか困(こま)っていると、ルルが助(たす)け舟(ぶね)を出(だ)します。


「あら、ショースケさんニュムニュムの牙(きば)がお顔(かお)の三(さん)センチ前(まえ)くらいまで迫(せま)っていましたけど…見(み)たかったですか?」


 それを聞(き)いたショースケは全身(ぜんしん)にぶわっと鳥肌(とりはだ)が立(た)ちました。


「い、いや…それは見(み)なくてよかったかな…」


「それなら目隠(めかく)ししておいてよかったじゃありませんか。さ、みんなで戻(もど)っておやつの時間(じかん)にしましょう? 今日(きょう)はショートケーキを買(か)ってあるんです、ショースケさんの好物(こうぶつ)ですからニュムニュムに食(た)べさせず取(と)っておいたんですよ」


 ショースケは複雑(ふくざつ)そうな表情(ひょうじょう)を浮(う)かべていますが、気持(きも)ちはだんだんケーキのほうに引(ひ)っ張(ぱ)られているようです。


 タカヤがルルの方(ほう)を向(む)いて小(ちい)さく会釈(えしゃく)をすると、ルルはパチンとウインクをして見(み)せました。



****



 ショースケの家(いえ)のリビングに戻(もど)ると、ライトが掃除(そうじ)をしたのか部屋(へや)はある程度(ていど)元(もと)の様子(ようす)に戻(もど)っていました。


「窓(まど)は仮(かり)の素材(そざい)を入(い)れてるだけだし、食(た)べられたテーブルなんかは戻(もど)ってこないけどね」


 ライトはあははと苦笑(にがわら)いをしながら本部(ほんぶ)と連絡(れんらく)を取(と)っていました。


「ニュムニュムも弱(よわ)ってるみたいだし、このまま本部(ほんぶ)に送(おく)って治療(ちりょう)してもらうことにするよ。みんな苦労(くろう)かけたね」


「苦労(くろう)なんてもんじゃないでス…ワタシ二(に)回(かい)ほど命(いのち)の危機(きき)を感(かん)じましタ」


 メグはまだ気力(きりょく)が戻(もど)っていないのか、ET(いーてぃー)の姿(すがた)のまま隅(すみ)の方(ほう)でうずくまっています。


「みなさん本当(ほんとう)にすみませんでした! その、いろいろ弁償(べんしょう)させてください!」


 タカヤが深(ふか)く頭(あたま)を下(さ)げると、ライトが近(ちか)づいてきてにーっこり笑(わら)いながらタカヤの肩(かた)をポンと叩(たた)きました。


「タカヤ君(くん)は何(なに)も気(き)にしなくていいよ、こんなタマゴ勝手(かって)に送(おく)り付(つ)けてきたのが悪(わる)いんだ。弁償(べんしょう)も修理(しゅうり)も全部(ぜんぶ)肖(しょう)造(ぞう)おじさんにやらせるから、ね?」


 有無(うむ)を言(い)わせない圧(あつ)を感(かん)じるライトに、タカヤは何(なに)も言(い)い返(かえ)せません。


「うぅ…肖(しょう)造(ぞう)さんごめんなさい…」


「それにしてもタカヤも不用心(ぶようじん)な時(とき)があるんだね。凶暴(きょうぼう)なET(いーてぃー)の前(まえ)に腕(うで)を出(だ)すなんて」


 ショースケは呆(あき)れながらも不思議(ふしぎ)そうです。


「うん…ちょっと大事(だいじ)なものを落(お)としちゃって。でもこの騒(さわ)ぎでどこかに行(い)っちゃったみたいだ」


 タカヤが残念(ざんねん)そうに目(め)を伏(ふ)せると…


「…えーっと…」


 ライトが恥(は)ずかしそうに頬(ほお)を掻(か)きながら口(くち)を開(ひら)きました。


「タカヤ君(くん)が探(さが)してるのはもしかしてこれ? さっき掃除(そうじ)してたら見(み)つけたんだけど…」


 四(よ)つ折(お)りにされた古(ふる)いその紙(かみ)を見(み)て、タカヤは目(め)を輝(かがや)かせました。


「は、はい! それです…よかった、あった!」


「何(なに)それ何(なに)それ。僕(ぼく)にも見(み)せてよ」


 ショースケが近寄(ちかよ)って覗(のぞ)き込(こ)もうとすると、ライトは誤魔化(ごまか)すように二(ふた)つ大(おお)きな咳(せき)払(ばら)いをしました。


 タカヤはその様子(ようす)を見(み)てくすっと笑(わら)うと、紙(かみ)をもう一度(いちど)、大事(だいじ)にポケットの奥(おく)にしまいました。


「悪(わる)いショースケ。これは秘密(ひみつ)」


「えー! 見(み)せてくれたっていいじゃん、今日(きょう)のタカヤは秘密(ひみつ)が多(おお)いなー」


 ショースケはむすっと頬(ほお)をいっぱいに膨(ふく)らませましたが、ルルが運(はこ)んできたケーキの甘(あま)い匂(にお)いで瞬時(しゅんじ)に顔(かお)をほころばせると、キッチンの方(ほう)へパタパタ走(はし)っていきました。



****



「ねぇタカヤ君(くん)、もう謝(あやま)らなくていいから泣(な)かないで」


 まだ新(あたら)しい宇宙(うちゅう)警察(けいさつ)本部(ほんぶ)職員(しょくいん)の制服(せいふく)に身(み)を包(つつ)んだライトは、タカヤの小(ちい)さな体(からだ)を抱(だ)き上(あ)げてあやします。


「だってぇ…らいとおにーちゃんがおれのことかいてくれたのにぃ…」


 タカヤは目(め)を真(ま)っ赤(か)に腫(は)らしながら、ライトの制服(せいふく)の肩(かた)のあたりでぷくぷくの頬(ほお)をこすって涙(なみだ)で濡(ぬ)らしました。


「あはは、そんなに上手(じょうず)に描(か)けたわけじゃなかったんだけどなぁ」


 少(すこ)し照(て)れくさそうに、ライトはタカヤの背中(せなか)をポンポンと叩(たた)きます。


「本当(ほんとう)にどこで落(お)としちゃったんだろうね、いっぱい探(さが)したのに見(み)つからないや。さっき大掃除(おおそうじ)をしてる肖造(しょうぞう)おじさんの研究室(けんきゅうしつ)に行(い)ったから…もしかしたらそこの紙(かみ)と混(ま)ざっちゃったのかな。とにかくまた描(か)いてあげるから、ね?」


 ライトは優(やさ)しく笑(わら)いながら、タカヤの目(め)にいっぱい溜(た)まった涙(なみだ)を片手(かたて)で拭(ぬぐ)ってあげました。


「ん…ごめんなさぁい…」


「あはは、だからもう謝(あやま)らなくていいったら。そうだタカヤ君(くん)、お部屋(へや)でお菓子(かし)食(た)べようか。ヒカル君(くん)がね、肖(しょう)造(ぞう)おじさんに珍(めずら)しいお菓子(かし)をもらったんだって。確(たし)かニッカルコピ星(せい)のね…」


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